遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第一話

「zzz……」

 

 人は基本、寝る時は屋内で寝るものだが、本当に気持ちいいと考えた場合、まあ虫が出ることを無視すれば(ギャグではないが)外でも寝ることはできる。

 ならば、大きな木の下で、草原を布団にして寝ているというのも、あまり見ない話ではあるが不思議なこととは言いきれない。

 

 もちろん、それができるのは時間が来るまで、と言う制限付きだが。

 とにかく、今木の下の草原で寝ている、黒髪でドクロのネックレスを付けた少年はそう思っているわけである。

 

「おーい。遊月。そろそろ午後の授業が始まるぞ」

 

 草原ですやすやと寝ている少年、不死原遊月(ふしはらゆうげつ)は、腐ったような瞳で自分を呼んだ生徒を見る。

 『オレンジ色の髪でやんちゃそうな顔立ちのイケメン』がいた。

 

「……なんだ英明か」

「俺で悪かったな」

 

 なんだと言われた生徒、仮澤英明(かりさわひであき)は溜息を吐いた。

 そして、チラッと校舎の方の時計を見る。

 

「あと十分で授業だ。そろそろ行かないと時間がヤバいぞ」

「あー……そうだな。んじゃ行くとしよう」

 

 もそもそと起き上がる遊月。

 

「ていうか、なんでこんなところで寝てたんだ?」

「気持ちがよかったからだが」

「まあ、今日は久しぶりに雲一つない日だからな」

「お前毎日毎日雲があるかどうか確かめてるのか?」

「別にそんなことを突っ込んでほしかったわけじゃねえっつーの。行くぞ」

「おう」

 

 走って行く英明についていく形で、遊月もついていった。

 

 ★

 

 デュエルモンスターズ。

 もうもはや語るまでもないカードゲームである。

 

 もう何千種類という種類のカードの中で、禁止・制限をまもりながら、同名カードを三枚までとして、メインデッキは四十枚から六十枚、エクストラデッキはゼロ枚から十五枚の間でデッキを作り、ルールを守って勝利条件をもぎ取るゲームだ。

 

 デュエルディスクと言う、誰が考えたのか、ソリッドビジョンシステムという立体映像を用いることでエンターテインメント業界のトップに君臨。

 今では政界、財界とならぶデュエル界となっている。

 

 要するに、デュエルが強いということは、コネを作る力とか、金がたくさんあるとか、それに匹敵する何かを生み出せるということだ。さっぱり意味が分からない。

 

 しかし、人間と言うのは納得できるかどうかはともかく慣れるのは早いもので、ルールは変更しなくても、今ではバイクに乗ってデュエルしても何も疑問に思わなくなった。

 

「英明。私は一つ思うことがある」

 

 六時間目が終わって放課後、遊月は早速、英明に話しかけていた。

 

「なんだ急に」

「デュエルモンスターズのデッキというのは、私は大きく分けて二種類だと考えている。『手札にあるカードでどうにかするデッキ』と『デッキに触りまくって盤面を整えるデッキ』だ」

「前者は『スタンダード』で、後者は『ソリティア』だな」

「ああ。強いカードをブン投げるか、着地点をしっかり定めるか。ということだ」

「なるほど」

「はっきり言ってソリティアする奴の頭っておかしくないか?」

「どういうこっちゃ」

「いや、例えば『銀河(ギャラクシー)』だが、あれは手札がそれなりにそろっていれば、初手から『銀河眼の煌星竜(ソルフレア)』と『No.90 銀河眼の光子卿(フォトン・ロード)』と『サイバー・ドラゴン・インフィニティ』が並ぶだろ」

「まあ、ある種の着地点だな。俺も見たことがある」

「デッキ交換デュエルと言うものを知っているか?あれを急にやった時に、私は一度、『銀河(ギャラクシー)』を使ったことがある」

「ほう」

「頑張っても『銀河眼の煌星竜(ソルフレア)』と『サイバー・ドラゴン・インフィニティ』しか並ばなかった」

「もうちっと踏ん張れよ。ていうかソルフレアはサンクチュアリ一枚で出せるだろうが」

「いや、すごく難しい。『銀河(ギャラクシー)』が制圧力の高いデッキであることは認めよう。定石もある。だが、あれは記憶能力が高いデュエリスト向けの構築だ」

「なあ遊月」

「なんだ?」

「お前『インフェルニティ』って知ってるか?」

「私はあれも嫌いだ」

「単純にお前がサボってるだけじゃねえか!」

「本当に難しいんだぞ!急に手に取った時のあの絶望感だ。自分が持ってても全然わからないのに、相手が使ってて自分が誘発握ってなかったらその三体が普通に並ぶんだぞ!」

「俺が知るか!」

 

 何とも救いようのない話をしているが、一部のものに取っては頷きたくなるかもしれないものである。

 まあ要するに、『銀河(ギャラクシー)』はソリティア勢にとって絶好のオモチャだと言いたいのだ。

 

「あー……何か疲れた。遊月。今日はどうするんだ?」

「何も予定はない。帰って寝る」

「ならちょっと一緒に行きたいところがある」

「連れションか?」

「鼻で笑うわ。これだ」

 

 英明がとりだしたのは、大量の福引券だ。

 三十枚ある。

 

「十五枚で一回引けるんだが、一人一回なんだよ」

「なるほど、私は数合わせか」

「悪いか?」

「いや、別に何も」

 

 というわけで、移動することになった。

 

 デュエルスクール・アムネシアという学校に通っている遊月と英明だが、敷地が広く、系列店もそれなりに多い。

 大型のショッピングモールもあるし、少し歩けばライディングデュエル用のコースもあるくらいだ。

 今回用事があるのはショッピングモールの方である。

 

「よーし、一等はシークレットレアの『灰流うらら』だ。絶対に当ててやる!」

「英明。物欲センサーって言葉知ってるか?」

「こう言う時にそう言うことを言うんじゃない!」

「だったら結果的に当たらなさそうなフラグを立てるな」

 

 そんなことを言いながらも歩いているので見えてくるショッピングモール。

 

「このショッピングモールの三階だぜ」

 

 ものすごくワクワクしながら店に入って行く英明。

 遊月は黙ってついていくことにした。

 三階では、既に長蛇の列になっていた。

 

「うわ、すげえ人数だな」

「そりゃそうだろ」

 

 正直、『デッキに触るな!』と言わんばかりの効果を持つ『灰流うらら』は、手札誘発のカードとしては強い。

 最近は炎属性モンスターを手札に戻す手段と言うものはそれなりに存在するので、なおさら価値が高くなっている。

 しかもそれのシークレットレアなのだ。とりあえずチャンスがあればやっておきたいと思うのが人間である。

 だが、確率と言うのは人の希望を打ち砕くものなのだ。

 

「大当たりー!!!!!」

 

 先頭からそんな声が響いた。

 次の瞬間、英明が滝のような汗を流している。

 

「一等!一等です!『灰流うらら』のシークレットレアが当たりました!」

 

 ざわついた後、何とも言えない……なんというか『うああああああ!!!!!』とでも言う感じになった店内。

 

「……英明。大丈夫か。私より目が腐っているぞ」

「……うるへー」

 

 どうやらまともに返事をすることすらできなくなっているようだ。

 

「もうおうちかえる」

「そうか。なら私はもう帰るぞ」

「……」

 

 英明は何も言わないが、遊月としては大して興味はない。

 長い付き合いなので、別に放っておいても次の日には復活していることは分かるのだ。

 

「さて、小便済ませて帰ろう」

 

 まっすぐトイレに向かった遊月。

 どうやら、友人を慰めるよりもトイレの方が優先順位は上のようだ。

 いくらお互いのことをわかっているからと言ってやりすぎ感がある。

 とはいえ、本人がそれを気にしないのだった。

 

 ★

 

 次の日。

 

「遊月!パックでレアカードが当たったぜ!」

「お前立ち直り早いな」

 

 遊月はとても元気な様子で『クリッター』のレアカードを見せてくる英明に対して溜息を吐いた。

 何を言ったとしても無駄なのは大体わかっているが、それでもいろいろ言いたいことはある。

 

「まあ、お前のデッキだとクリッターはそれなりに使えるからな」

「おう!その通りだ!」

 

 他人の大吉よりも自分の吉を喜ぶ。

 ほかでもない英明からそのようなことを聞いたことがあるような気がする遊月。

 

「……そう言えば、綾羽(あやは)ちゃんが若干元気なさそうだよな。何かあったのかね?」

 

 英明が振り向いた先にいるのは、一人の女子生徒だ。

 名前は大束綾羽(おおつかあやは)

 黄色のメッシュが入った黒髪をハーフアップにしていて、お淑やかな生徒だ。

 あまり声も大きくなく、自己主張も少ないが、だいたい微笑んでいて聞き上手だと聞いている。

 胸もそれなりに大きく、デュエルの腕もあると聞いている。教師からの評価も良いだろう。

 単純に活発なだけで頭の回転がよろしくない英明しか友人のいない遊月と比べれば、その差は歴然である。

 

「……私からはあまり変わらないように見えるが」

「お前親衛隊(ファンクラブ)から殺されるぞ」

「そんなものがあるのか?」

「ああ。綾羽ちゃんは誰にでも優しいしな。二次元から出てきたんじゃないかって思うほどいい人なんだ」

「……」

 

 話が変な方向に進みだしていると思った遊月。

 

「で、お前から見て、大束さんがいつもよりちょっと暗い感じになっていると思ったんだな?」

「そうだ。俺は毎日毎日、目を開けている時の四分の一は綾羽ちゃんのことを見ている」

「……」

 

 遊月は軌道修正が面倒になってきた。

 

「だが、自己主張ができない性格だからな」

「私たちとは大違いだな」

「ああ。その通りだ」

 

 お互いに自覚があったことを確認しあう遊月と英明。

 ここまで切ない友人関係と言う者もなかなか珍しいだろう。

 

「で、英明。お前はそれを解決してやりたいと思っている訳か」

「そういうことだ。そしてお近づきになりたい」

「私なら断固拒否するがな。そんな人気者、一緒にいるだけで神経が磨り減る」

「お前めんどくさがり屋だもんな」

「ああ。と言うわけで頑張れ。お前ならたとえ手柄を誰かに取られてもまた立ち上がれるだろうからな」

「俺が二番手になることは前提なのか?」

「…………………そんなことはない」

「その間はなんだ」

 

 遊月はかたくなに返答を拒否した。

 しかし、クラスメイトが沈んでいる理由。

 成績も良いらしいし、そもそも特定のグループに属していないし、普段話している友達と何か問題があったという話はない。というかあったら英明が勝手にしゃべりだすだろう。

 そして、実質次の日である今になってまだ頭から離れないこと。

 

(……)

 

 遊月は頭の中で候補があった。

 

(ま、頭の片隅に置いておくか)

 

 結局、その程度にしておく遊月だった。

 ただ、一つだけ。

 あの『灰流うらら』の精霊がどこにいるのか、それを探るくらいはしておこうと思った。

 

 ★

 

 デュエルモンスターズのカードはあくまでも紙で作られたカードである。

 手裏剣になったり爆弾になったりするが、紙のカードである。神のカードもあるが、それは今は置いておこう。

 

 デュエルモンスターズの精霊。と呼ばれる存在がいる。

 カードに宿ることで自我を持つことが出来る知的生命体だ。

 特定の感知能力があれば見ることも声を聞くこともできるのだが、もっと感知能力が高いと、遠くにいてもわかるようになる。

 

 ただ、精霊が宿ったカードと言うのは大変貴重なモノ。

 純粋にレアであるカードよりも、精霊が宿ったカードの方が高額になることがある。

 と言うより、精霊カードを集めているコレクターに高額で売れると言った方がいいかもしれない。

 だからこそ、『精霊ハンター』のようなものがデュエル界の裏には存在する。

 

 シークレットレアかつ精霊が宿っていて、オマケにカードの性能として実用性があり、しかも女の子カードとなれば、億クラスの金を出すものもいるのだ。

 当然のことだが、カードとしての効果は同じである。手札に来る確率に若干影響するかもしれないが、いずれにせよ、『灰流うらら』なら『墓穴の指名者』には無力である。

 まあ、真のデュエリストの場合、その『墓穴の指名者』を『イージー・チューニング』で回避してくるわけだが。

 

「おい、誰にもばれてないだろうな」

「勿論だ。こんなカードを手に入れたんだ。万全を期すに決まっている」

 

 裏路地という誰も近づかないであろう場所。

 しかも、夜という誰もが寝静まる便利な時間。

 そんな中で、わざわざそのような場所を利用するとなれば、当然、表にはできない取引が行われているに決まっている。

 

「で、実物は?」

「これだ」

 

 話しあっている二人の男。

 そのうちの一人が、『灰流うらら』のカードをとりだす。

 もちろん、シークレットレア。

 もう片方の男が頷いて、ポケットからレンズをとりだすと、それを通して見る。

 

「……確かに、偽物ではないようだな」

「プロだからな。そんなチャチなことするかよ」

「フン。精霊ハンター『京吾(きょうご)』の名は伊達ではないか。こんなカード。良く手に入れることが出来たものだ」

「こんな価値が高すぎるカードだっていうのに、危機感ゼロのバカがいたってだけの話だ」

「そいつ。精霊のことを知らない可能性もあるな。まあ俺達にとっては好都合。これが約束の金だ」

 

 そう言って男がジュラルミンケースを開けると、一億円が入っていた。

 

「よし、交渉成立」

 

 京吾が『灰流うらら』のカードを渡そうとした瞬間だった。

 あたりにシャッター音が鳴り響く。

 しかもフラッシュが焚かれており、一瞬、あたりが明るくなった。

 

「誰だ!」

 

 京吾が振り向いた。

 フラッシュは上からだった。

 見ると、ドクロのネックレスを付けた少年が見えた。

 

「糞が!」

 

 京吾たちがデュエルディスクを振り上げると、アンカーが射出される。

 先端にはフックが付いており、少年がいる建物の屋上の鉄柵に絡まった。

 二人はワイヤーを巻き上げると、一気に建物の屋上まで上がってくる。

 二人がここまで焦っているのは、裏路地とは言え、ここに来るまでには監視カメラもそれなりにあるのでフードなどを使えなかったゆえに、少年のカメラにしっかり映っている可能性があったからだ。

 というより、京吾たちが上を見て少年を確認した際、やたら高性能のデジカメを見せびらかしてきたので追わざるを得ない。

 

「ずいぶんと舐めたことしてくれるじゃねえか」

「それはお互いのセリフだろ」

 

 少年、不死原遊月はデュエルディスクを構える。

 それを見た京吾は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「へぇ。俺とデュエルをやろうってのか」

「そうだ、私は君たちが奪ったカードを無視できないし、君たちは私のコレが無視できないはずだ」

 

 遊月はデジカメを見せる。

 どちらかと言えば、遠くを撮る際にいろいろ補正がつきやすい機能が備わっているタイプだと男たちも察した。

 

「このカードを持ってた女から頼まれたのか?ここを突き止めたことは褒めてやるが、過ぎた正義感は身を滅ぼすぜ」

「心配は無用。既に滅んだ後(・・・・・・)だ」

「……どういうことだ?」

「説明する義務はない」

「ああ。そうだな」

 

 京吾もデュエルディスクを構える。

 当然、ソリッドビジョンに影響を与えて、相手のライフを0にした時にかなりの衝撃を発生させることが出来るように違法改造されている。

 

「ソリッドビジョンの違法改造か。それ、自分が負けた時もそれなりの衝撃だってことは分かってるよな」

「当然だ。ようは勝てばいいんだよ!」

 

 京吾はカードを五枚引いた。

 それに対して、遊月もカードを五枚引いた。

 

「さて、生意気なガキにお灸をすえてやるぜ」

「死後の世界の広さを教えてやる」

「「デュエル!」」

 

 遊月 LP8000

 京吾 LP8000

 

「俺の先攻!」

 

 京吾のターンから始まる。

 

「俺は手札のモンスター一枚を捨てることで、『ワン・フォー・ワン』を発動。デッキから『ホルスのしもべ』を特殊召喚!」

 

 ホルスのしもべ DFE 100 ☆1

 

「ホルス……しもべとかいたのか、初めて知った」

「クックック。コイツがいれば、俺のフィールドの『ホルスの黒炎竜』は、相手のモンスター、魔法、罠の対象にならねえんだよ」

「なるほど……だが、『ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-』が来ないことを警戒しないということは、『DNA改造手術』でも恐れてるのか?」

「!」

 

 表情を少し変える京吾。

 図星のようだ。

 『ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-』はドラゴン族に適用されるが、当然、永続効果によって種族が変更されると無意味だ。

 だからこそ、名称指定の『ホルスのしもべ』を採用しているのだろう。

 まあ、単純に『ホルスデッキ』なので、枠が余ったから突っ込んだだけかもしれないが。

 

「チッ。まあいい。俺は墓地の『アマリリース』を除外して、『ホルスの黒炎竜 LV6』をリリースなしで召喚!」

 

 ホルスの黒炎竜 LV6 ATK2300 ☆6

 

「カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「……『お触れホルス』か?まあいいが。私のターン。ドロー」

 

 遊月はドローしたカードを見て頷く。

 

「なるほど。私は『不知火の隠者』を通常召喚」

 

 不知火の隠者 ATK500 ☆4

 

「そして隠者をリリース。デッキから守備力0のアンデットチューナー、『ユニゾンビ』を特殊召喚」

 

 ユニゾンビ ATK1300 ☆3

 

「隠者にユニゾンビ……典型的なアンデットか」

「あまりソリティアとか好きじゃないからな。ユニゾンビの第一の効果。対象はホルスのしもべで、手札の『屍界のバンシー』を捨てて、レベルを一つ上げる」

 

 ホルスのしもべ ☆1→2

 

「墓地から『屍界のバンシー』の効果発動。このカードを除外して、デッキから『アンデットワールド』を発動」

 

 建物の屋上が、死の大地に変わっていく。

 ただし、魔法の効果を受けないホルスはそのままだった。

 

「ハッ!そんなものを使ったところで、ホルスには通用しねえんだよ」

 

 そういう京吾だが、表情は少し歪んでいる。

 この『アンデットワールド』の雰囲気が、普通に発動されたものと比べて、ずいぶんと重苦しいものに感じられるからだ。

 頭の中に『精霊カード』の可能性がよぎるが、モンスターカードならまだしも、魔法カードの精霊など聞いたことが無い。

 

「構わない。私は『おろかな埋葬』を発動。デッキから墓地に送るのは『グローアップ・ブルーム』で、効果発動だ。このカードを除外し、デッキからレベル5以上のアンデット族を手札に加えるが、フィールドに『アンデットワールド』が存在する場合、特殊召喚できる」

 

 遊月がデッキから抜き取ったカード。

 遊月が持つと同時に、闇が溢れた。

 

「そのカードはまさか」

「お察しの通り。精霊カードだ」

 

 遊月はデュエルディスクに叩きつける。

 

「終わりも始まりもない蛇の王(ウロボロス)よ。怨霊渦巻く大地に降り立ち、死の魔眼を開け!『死霊王 ドーハスーラ』!」

 

 爆発するかのように闇が溢れて、その中から一つのドクロが出現し、体を形成していった。

 まるで蛇のような胴体が出現し、右手には禍々しい杖が出現する。

 

 死霊王 ドーハスーラ ATK2800 ☆8

 

「ドーハスーラの精霊カードか。これは臨時収入としてはでかくなりそうだぜ」

 

 舌なめずりをする京吾。

 未来で手にはいるかもしれない報酬で頭がいっぱいなのだろう。

 

「油断している場合か?」

「何?」

「ユニゾンビの第二の効果。対象はホルスのしもべだ。そしてこの瞬間。アンデットが効果を発動したことでドーハスーラの効果発動。ホルスの黒炎竜を除外する」

 

 ドーハスーラが右手で持った杖に暗黒の波動を集中させていく。

 

「な……俺のフィールドにはホルスのしもべが――」

「知らないのか?ドーハスーラの除外効果は対象に取らない」

 

 非情とも言える宣告。

 ドーハスーラが放った波動は、ホルスの黒炎竜を消し去った。

 

「チェーン1のユニゾンビの効果。デッキから『馬頭鬼』を墓地に送り、ホルスのしもべのレベルを上げる」

 

 ホルスのしもべ ☆2→3

 

「そして、『馬頭鬼』を除外することで、墓地から『不知火の隠者』を特殊召喚」

 

 不知火の隠者 ATK500 ☆4

 

「レベル4の不知火の隠者に、レベル3のユニゾンビをチューニング。死した紅き眼の黒竜よ、屍界で湧き上がる怨念を宿し、君臨せよ」

 

 出現するのは、アンデット化する前の力を取り戻しつつある、紅い眼の朽ち果てた竜。

 

「シンクロ召喚。レベル7。『真紅眼の不屍竜』!」

 

 真紅眼の不屍竜 ATK2400→3000 ☆7

 

「こ、このタイミングで……」

「『異次元からの埋葬』を使い、『ホルスの黒炎竜 LV6』、『屍界のバンシー』『馬頭鬼』を墓地に戻す」

 

 真紅眼の不屍竜 ATK3000→3300

 

「さらに、不屍竜に『メテオ・ストライク』を装備させる。これで、貫通能力を付与だ」

「マズい!」

 

 もう遅い。

 

「バトルだ。『真紅眼の不屍竜』で、『ホルスのしもべ』を攻撃」

 

 青の黒炎弾を放出し、ホルスのしもべは砕け散った。

 

「ぐあああああ!」

 

 京吾 LP8000→4800

 

「この瞬間、不屍竜の効果。アンデットモンスターが戦闘で破壊されたことで、お互いの墓地から、アンデットモンスターを一体特殊召喚できる。アンデットワールドがある時、ホルスは墓地にいる場合ならアンデット族だ。こちらに来てもらうぞ」

 

 京吾の墓地から『ホルスの黒炎竜 LV6』が溢れ出て、遊月のフィールドに出現する。

 

 ホルスの黒炎竜 LV6 ATK2300 ☆6

 真紅眼の不屍竜 ATK3300→3200

 

「ば、バカな……」

 

 ホルスを奪われたことに加えて、不屍竜の一撃によって発生した身体へのダメージが想定より大きかったことで、京吾は内心で焦っていた。

 

「ドーハスーラとホルスで、ダイレクトアタック」

 

 ドーハスーラが闇の波動を放出し、ホルスはブレスを放出した。

 二体の攻撃は、京吾もそうだが、京吾の後ろにいた男も巻きこんで吹っ飛ばす。

 

「ガハッ!」

 

 京吾 LP4800→2000→0

 

 デュエル終了と同時に、モンスターは消えて、あたりの景色が戻って行く。

 煙が晴れてくると、遊月は京吾がいる位置よりも手前の場所にあった『灰流うらら』が落ちているのを見て、手袋を自分の両手に付けてからそれを拾い上げた。

 

「さてと……」

 

 カードを拾い上げた遊月は、カードに宿る精霊を見る。

 遊月が感じた色は、昨日見たものと同じだった。

 

「珍しいな。まだ自分に自我があると分かっていない精霊か」

 

 上手く表現するのは難しいが、あえて言えば生まれたての赤ん坊のようなものだ。

 しっかりと自我を持てば流暢にしゃべるようになるだろうが、そうなるまでには少し時間が必要である。

 

「まあ問題はないな。明日の朝に誰よりも早く来て、机にでも入れておこう」

 

 遊月はカードをポケットに突っ込むと、そのまま帰るのだった。

 

 当然のことだが、そのまま借りパクはしない。

 精霊カードでシークレットレアなのでメリットは大きいが、もとは他人のカードなのだ。ぶっちゃけリスクが高すぎるだろう。

 そういった損得勘定は抜きにしても、プライドだとかまあいろいろあるのだが、もっとわかりやすい理由を言うならば……。

 

 遊月の推しは『灰流うらら』ではなく『幽鬼うさぎ』である。

 

 ★

 

「……むむむ、綾羽ちゃんの調子が戻ったようだな」

「……」

 

 次の日。

 教室に入って来た英明は、大束を見てそんなことを言った。

 そしてそんな英明を見て信じられないものを発見したような顔で英明を見る遊月。

 まあ、もとから腐ったような目をしているのでちょっと分かりにくいのだが、それはそれなりに驚いていた。

 

「ということは……遊月。お前が言った通り、俺は二番手になるってことか」

「……私に言われても困るのだが」

 

 そもそも英明に解決できるかどうかは分からないのだ。

 なので、遊月にとっては二番手もクソもない。

 

「ていうか、誰が助けたんだろうな……ハッ!もしかして、既にそいつをつきあってるのか!美少女を助けたんだ。絶対につきあってるに決まってる。じゃなかったらそんな男は糞だろ」

 

 遊月は二割くらい本気でイラッとしたが、すぐに抑えた。

 

「……私が知るか」

 

 遊月はそう言うと、もう何も言わなくなった。

 こうして英明が時々うるさいのはいつものことだ。

 すぐに戻るだろう。そう考えれば日常の範囲内である。

 

 ★

 

 一方、綾羽の方もいろいろ思うことはあった。

 当然のことだが、シークレットレアの『灰流うらら』となれば、一度でも取られたらもう二度と戻ってこないと思うのが普通である。

 それほどのレアカードだ。

 裏と言うものはデュエルにもあるもので、そこに流れてしまえば出所など二の次。

 

 それが、朝来たら机の中に入っていたのだ。

 驚くのは当然のことである。

 

「一体誰が……あっ」

 

 驚きすぎてうっかりしていた。

 鞄の中を探ってみると、ノートを一冊、教室に忘れている。

 

「どうしたんだ?綾羽」

 

 たまたま近くを通りかかっていた、クラスの中のトップカーストグループで一番イケメンの男子が話しかけてくる。

 別に綾羽自身はそういったグループに属してはいないが、たまに誘われるときがある。

 そして、もっとも自分を誘ってくるのが、この銀髪のイケメン、永石圭吾(ながいしけいご)という生徒である。

 

「ごめん、ちょっとノート忘れちゃって、先に喫茶店に行ってて、私も後で行くから」

「どうせなら俺が取りに行くけど」

「大丈夫、先に行っててね」

 

 そういって、綾羽は背を向けて校舎に向かって走って行く。

 教室は二階にある。

 一番近い階段を上って、三つ目の教室だ。

 そして、その階段を上がって、顔を曲がった時だった。

 

「うおっ」

「きゃっ」

 

 男子生徒とぶつかった。

 普段は誰もいない時間なので油断していたようだ。

 クラスメイトの男子生徒だ。

 身長は百八十に届くくらい高いが、首からドクロのネックレスを付けて、さらに腐ったような目をした生徒である。確か、名前は不死原遊月だ。

 その名字も若干縁起が悪いような気がすることと、腐ったような目をして不気味な印象があるので、永石圭吾のグループでは良い印象はなく、逆に悪くいうときが多い生徒だ。

 

「大丈夫か?」

「あ、うん。不死原君は?」

「問題ない」

 

 体を起こした時、綾羽は自分のそばにカードが落ちていることに気が付いた。

 『アンデットワールド』のカードだった。

 綾羽はそのカードが遊月のものだと察して、そのカードを手に取った。

 その時綾羽は、スカートのポケットに入れたデッキが疼いたような気がした。

 いや、ポケットの中だけではない。

 自分の胸も、すこし、疼きがあった。

 

(何?今の……)

 

 今までこんなことはなかったので戸惑う綾羽。

 

「どうかしたのか?」

 

 遊月が聞いて来る。

 綾羽は慌ててカードを渡した。

 

「ううん。何でもないよ。これ……」

「ああ。どうも」

 

 遊月はカードを受け取ると、それ以上、綾羽に対して興味がないかのように歩いていった。

 

(……不思議な人だなぁ)

 

 綾羽にとってはあまりない反応だった。

 自己主張することはほとんどないが、普段近くにいるカーストを考えれば、自分のルックスがすぐれていることは認識しているし、色々な人が自分を見るが、無反応と言うことはなかった。

 

「あ、そうだ。ノートをとっておかないと」

 

 珍しいことだ。

 だが、遊月のような反応をする人は始めてではない。

 そのため、すぐに自分が忘れたノートの存在に興味が移った。

 

 ただ一点。

 『アンデットワールド』のカードを手に取った時のあの感覚。

 そして、ポケットの中のデッキだけではなく、胸の疼き。

 

 なぜあの一瞬だけ、自分が『感謝』を考えたのかが分からなかった。

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