遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第十一話

 何か訴えてくるような視線を向けてくる江藤だったが、途中でそれをやめた。

 まだ言うべきではないと思ったのか、別の理由なのか。

 いずれにせよ、そこからは普通に帰宅。

 連絡先はもともとお互いに知っているので、何もすることもなく終わった。

 

 ★

 

「……協力してほしいって?」

「はい」

 

 次の日の放課後。

 教室から出ようとして、出入り口から助けてほしそうな目で江藤が自分を見つめていることに気が付いた遊月は、とりあえず江藤を連れて移動することにした。

 そして聞いた話だが……。

 

「そう言えば、セキュリティって悪霊ハンターみたいなこともするんだったな」

「正確には『精霊課』が担当しています」

 

 デュエルモンスターズの精霊と言うものは普通に存在するものだ。

 だがしかし、中には悪霊と呼ばれる存在もいる。

 負の感情が溜まったとか心が闇の染まったとかいろいろ説はあるのだが、実は悪性となる条件は決まっていない。

 ただし、悪霊はいずれも『瘴気』を発する。とだけ分かっている。

 

 この瘴気は、精霊なら誰しも発する可能性があるということでもあり、そして感染する。

 単純に『悪霊瘴気』と名付けられたこれを発している悪霊を発見した場合、セキュリティの『精霊課』に報告することが推奨されている。義務ではない。

 そして、セキュリティの中に管轄部署があるということは、状況によってはDGCからの増援が求められるということでもある。

 

 おそらく、強い悪霊が出現したことで、重要任務の最悪な状況を回避した江藤に白羽の矢が立った。というのが建前だろう。

 

「なるほど、まあそう言うことならいいぞ」

「ありがとうございます!」

 

 ほっとした表情で頭を下げる江藤。

 初々しい様子で何よりである。

 

 ★

 

 移動手段と言うものはいろいろあるが、結局のところ、途中で燃料補給する必要のないエンジンが存在するDホイールがいいと言うのはひとつの真理である。

 

「あの、遊月さんは、悪霊を退治したことってあるんですか?」

 

 遊月がDホイールを運転して、それに後ろから抱き付く江藤。

 もちろん二人ともヘルメットを着用だ。どこぞの漫画のようにノーヘルでDホイールに乗ったりはしない。

 なお、それ相応に大きい江藤の胸が押し付けられているが、それに対して遊月は反応しなかった。

 

「何回もあるよ」

 

 いろいろ思いだすことはある。

 

『もとより、我は悪霊として生まれたのだがな』

 

 遊月に並走するようにドーハスーラが出現する。

 もちろん、江藤には見えないようにだ。

 

(……そうだったな。傲慢なお前を従えるのは骨が折れた)

『だろうな。だが、我を精霊として従えたからこそ、圧倒的な力を持つアンデットワールドを使いこなすことができているといっても過言ではないがな』

 

 そういって高らかに笑うドーハスーラ。

 当然のことだが、『今この世に生きている存在』の数と、『長い時間の中で死んで行った者』の数を比べれば、誰が何と言おうと後者の方が多い。

 そんな概念の『世界そのもの』である『アンデットワールド』を制御するのは、並大抵の難易度ではなかった。

 ドーハスーラを従えて、アンデットワールドを制御したことで、大切な『真紅眼の黒竜』を、手放すことなくそばに置いておくことが出来た。

 

(さて、近いか?)

『ああ。もうそろそろ悪霊の場所が近い』

 

 ドーハスーラはもともと悪霊。

 ありとあらゆる事情に関係なく、『悪霊』と言う存在を感知できる。

 

『我はそろそろ引っ込んでおこう』

 

 そういって、ドーハスーラは姿を消した。

 

「遊月さんは苦労したことってありますか?」

「『白闘気双頭神龍』の悪霊が出てきたときは発狂するかと思った」

「……」

 

 ほぼ無尽蔵と言っていいほど、高い攻撃力のトークンを生成するモンスター。

 遊月もこれには参った。

 どこにいるのかわからなければどうすることもできない。

 高い攻撃力のトークンが出て来るのだが、出現ルートを巧妙に隠し、そしていくつも用意することで、破壊をまき散らした。

 最終的には遊月が『スケープ・ゴースト』を使ったローラー作戦で発見し、あたりをアンデットワールドで支配したうえで、ドーハスーラでトークン生成を無効にしながら、打点を上昇させた『真紅眼の不屍竜』で焼き尽くすという、なんとも総決算な感じになったのは記憶に新しい。

 

「まあでも、今回はそんなことはないんだろ?」

「はい。そこまで単体で強くないみたいです」

「ならいいんだがな……ん?」

 

 遊月は何か不穏なものを感じた。

 見上げると、戦闘機のようなものがいくつも飛んでいる。

 

「あの色は……バトル・イーグル・トークンですか?」

「って、ヤバい!」

 

 一体が爆撃をかましてきた。

 勢いよく方向変換してそれを回避する。

 

「うひゃああああ!」

 

 背中で悲鳴を上げる江藤。

 

「しっかり捕まっていろ」

「もう捕まっています!」

 

 当たり前だ。

 と思ったら二体目が突撃してきた。

 最後回避してやり過ごす。

 

「あーくそ、面倒だな」

 

 どうしたものかと思った時、遠くからDホイールが走って来る音が聞こえる。

 あのDホイールは……。

 

「英明か!」

「遊月!?なんでこんなところに」

「背中の子に協力してる感じだ」

「あーなるほどね。確かに制服がDGCだな」

 

 英明はカードを一枚とりだして、遊月に投げ渡してくる。

 遊月は受け取った。

 

「俺が情報屋から受け取った、こいつらの本体がいる場所のデータだ。ここは俺に任せろ!」

「え!?英明さん。この数を相手にどうするつもりなのですか!?」

「問題ない。良いからさっさと行け」

「ああ。ここは任せるぞ」

 

 遊月はDホイールのスピードを上げた。

 

「あの、遊月さん。英明さんに任せて大丈夫なのですか?」

「問題ない。見てみろ」

「え?」

 

 江藤が英明を見ると、英明は左腕に付けていたデュエルディスクに『マスク・チェンジ』と『フォーム・チェンジ』のカードを入れる。

 ディスクに『MT』と『FT』というアイコンが出現。

 そのままデュエルディスクをベルトの金具に当てる。

 すると、ディスクから金具が出てきて固定された。

 

「え!?」

 

 江藤が驚いている間に、英明は、『M・HERO 光牙』のカードをとりだした。

 そして……。

 

「変身!」

 

 英明はディスクに『M・HERO 光牙』のカードを入れて、ディスクの『MT』のアイコンを押す。

 

『マスク・チェンジ 光牙』

 

 すると、光が溢れて、英明は『M・HERO 光牙』になった。

 

「ええええええ!?何ですかアレ!?」

 

 普段おどおどしている江藤もこれにはびっくり。

 

「いやー……なんていうか、あの年で『変身!』とか思いっきり叫ぶとか恥ずかしくないんだろうか……」

「着眼点そこですか!?」

「冷静になって考えてみろ。高校一年生にもなって、家の中じゃなくて公共の場で『変身!』なんて叫ぶんだぞ。私なら絶対にやりたくない」

「……冷静になって考えてみたら変身できることがおかしいと考えるのが普通だと思いますけど……」

「英明にそんな常識は通用しない」

 

 彼が持っている『マスク・チェンジ』は特別なのだ。

 

「とにかく急ぐぞ。変な空気を察した本体が逃げるかもしれない」

「変な空気って……」

 

 何を言えばいいのかわからなくなる江藤。

 とはいえ、そう言っている間に英明は見えなくなっている。

 ちなみに、光牙の力を使っていると考えれば、相手が多ければ多いほど強くなるので大丈夫だろう。

 

「そんなことより、さっさと行くぞ。あまり遠くはないからな」

「あ……はい!」

 

 モニターをチラッと見て実際に近いことを把握した江藤。

 遊月はDホイールを走らせた。

 

 しばらくすると、全く人気のない場所に来た。

 

「……廃棄された倉庫街か」

「全く人気がないですね」

「最近は効率よく下に掘り進めることが出来るからな。高性能の大容量エレベーターが同時に開発されて、管理しやすくなっている。こんな倉庫は壊すのにもコストがかかるから、そのまま残ってるんだ」

 

 土地には価値があるものだが、建物の方は必要ないとなれば壊すしかない。

 しかし、壊すのにもコストが必要。

 さらに言えば、もともと倉庫街として成り立っているということは、居住区画として都市設計の段階から外れている。

 再利用にも困る場所と言うことだ。

 

「あれだ!」

 

 遊月の目線の先に、発進し始めているバトル・イーグル・トークンが見えた。

 

「既に生成し終わってる個体があるのか」

「どうしますか?」

「倉庫の中なら簡単に暴れられないだろう。江藤は倉庫の中に乗りこんでくれ。私はあのトークンたちを破壊してくる」

「え?」

「良いからいけ」

「あ。はい!」

 

 江藤はDホイールから降りて、ヘルメットを外すと荷台に置いた。

 

「それじゃあ。また後でな」

 

 遊月は『レッドアイズ・トランスマイグレーション』のカードをとりだす。

 

「え?」

「行くぞ。レッドアイズ」

 

 遊月が言うと、『真紅眼の不死竜』が出現し、そして遊月に纏うように移動すると、『レッドアイズ・トランスマイグレーション』のカードが光って、遊月が『ロード・オブ・ザ・レッド』になった。

 

「うそ!?」

「残念ながら嘘じゃない」

「でもレベルが足りませんよね」

「まあ、なんとかなるんだよ」

 

 ルール無視じゃねえか。

 

「それじゃあいってくる。本体の方は頼んだぞ」

 

 遊月はそう言って、『ヘルモスの爪』のカードを使って『真紅眼の黒竜剣』を背に担いでDホイールを発進させた。

 

「……私が変なのでしょうか」

 

 安心しろ。そんなことはない。変態なのはあの二人だ。

 

「とにかく、私は本体を叩きます」

 

 江藤は倉庫の中に入って行った。

 倉庫の中は、広々とした空間だったが、逆に何もなかった。

 そして、バトル・イーグル・トークンは発進し終わった後なのだろう。

 倉庫の中には、『No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』だけがいた。

 瘴気が溢れている。

 確実に悪霊だ。

 

『ふむ、ようやくきたか』

「私はDGCの江藤香苗です。悪霊であるあなたを、討伐します」

『やってみろ』

 

 香苗がデュエルディスクを展開し、カードを五枚引く。

 すると、SGT(スターシップ・ギャラクシー・トマホーク)の方も、デジタルデータのカード五枚を出現させた。

 

「『デュエル!」』

 

 香苗  LP8000

 STG LP8000

 

「私の先攻です!」

 

 香苗は手札のカードを迷いなく使う。

 

「私は手札から、『転回操車』を発動。そのあと、『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を妥協召喚します」

 

 深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト ATK0 ☆10

 

「この瞬間、『転回操車』の効果発動。デッキから『無頼特急バトレイン』を、レベル10にして特殊召喚します」

 

 無頼特急バトレイン ATK1800 ☆10

 

「ここは……」

 

 江藤は考える。

 

 手札は思ったより良くはない。

 そして、スターシップ・ギャラクシー・トマホークと言えば、大量のモンスター数からつながるリンク召喚が鍵。

 ここで出すべきなのは、防御性能に長けたモンスターだ。

 

「私はレベル10のナイト・エクスプレス・ナイトとバトレインで、オーバーレイ!」

 

 二体のモンスターが、光となって金色の渦に飛び込んで行く。

 

 空中に、『81』の刻印が出現。

 

 しかし……。

 

「!」

 

 空中に浮かぶ『81』の数字にノイズが走る。

 次の瞬間、81はバラバラになって砕け散った。

 

「ぐっ……エクシーズ召喚!ランク10『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』!」

 

 超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000 ★10

 

 出現するグスタフ・マックス。

 だが、先ほど砕け散った数字。

 少し【列車】について調べれば、何を出そうとしたのかは一目瞭然。

 だが、出て来ることはなく、それとは関係ないモンスターが出現した。

 

『……なるほど、どうやらまだ認められていないようだな』

「……あなたには関係ありません。私はグスタフ・マックスの効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、相手に2000ポイントのダメージを与えます!」

 

 SGT LP8000→6000

 

 出したいモンスターは出せなかったようだが、だからと言ってグスタフ・マックスが弱いというわけではない。

 ライフポイントは、途中で回復しない限り8000。

 一気に2000を削るグスタフ・マックスは、常に引導火力といっていいステータスなのだ。

 

「私はカードを二枚セットして、ターンエンドです。バトレインの効果で、デッキから『弾丸特急バレット・ライナー』を手札に加えます」

『私のターン。ドロー』

 

 SGTのそばにカードが一枚出現して、そして消える。

 

『私は『混沌の場』を発動』

 

 フィールド魔法が発動される。

 

『発動時の処理として、デッキから『暗黒騎士ガイアロード』を手札に加え、特殊召喚する』

 

 暗黒騎士ガイアロード ATK2300 ☆7

 

『さらに、『スターシップ・スパイ・プレーン』は、相手フィールドにエクシーズモンスターが存在する時、手札から特殊召喚できる』

 

 スターシップ・スパイ・プレーン ATK1100 ☆4

 

『そして、このモンスターが手札からの特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠一枚を選択し、手札に戻す。私が選択するのはセットカード一枚だ』

「チェーンして罠カード『マグネット・フォース』を発動!これで、グスタフ・マックスは、相手モンスターの効果を受けなくなります!」

『構わない。私は魔法カード『ギャラクシー・クイーンズ・ライト』を発動し、スパイ・プレーンのレベルを7に変更』

 

 スターシップ・スパイ・プレーン ☆4→7

 

『私はレベル7のガイアロードとスパイ・プレーンで、オーバーレイ。最強母艦よ。艦隊を編成し、敵を殲滅せよ。エクシーズ召喚!ランク7『No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』!』

 

 No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク DFE3000 ★7

 

 小型のスターシップ・ギャラクシー・トマホークが出現。

 

「あ、悪霊本体が……」

『効果発動。バトル・イーグル・トークンを、五体特殊召喚』

 

 バトル・イーグル・トークン ATK2000 ☆6 ×5

 

『そして、私自身とイーグル・トークン三体でリンク召喚。リンク4『トポロジック・ボマー・ドラゴン』』

 

 トポロジック・ボマー・ドラゴン ATK3000 LINK4

 混沌の場 魔力カウンター 0→1

 

「と、トポロジック・ボマー・ドラゴン……」

『魔法カード『精神操作』を発動。グスタフ・マックスのコントロールを得る』

「そんな……」

 

 グスタフ・マックスが移動する。

 

『精神操作で奪ったモンスターはリリースと攻撃ができないが、効果を使うことはできる。2000ポイントのダメージを与えよう』

「い、いやあああ!」

 

 江藤 LP8000→6000

 

 悪霊が絡むデュエルでは、ダメージが実体化する。

 ライフが0になる時のダメージを受けて、殉職する人間もいるほどだ。

 

『このままでは、ターン終了時にコントロールが戻る。私はイーグル・トークン二体とグスタフ・マックスをリンクマーカーにセット。リンク召喚。リンク3『電影の騎士ガイアセイバー』』

 

 電影の騎士ガイアセイバー ATK2600 LINK3

 混沌の場 魔力カウンター 1→2

 

 トポロジック・ボマー・ドラゴンのリンク先に出て来るガイアセイバー。

 

『この瞬間、トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果が発動。リンクモンスターのリンク先にモンスターが出現したことで、お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。だが、君が発動した『マグネット・フォース』の効果により、私のモンスターであるトポロジック・ボマー・ドラゴンの効果を、機械族であるガイアセイバーは受けない』

 

 マグネット・フォースの波紋で、トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果からガイアセイバーが守られる。

 

『そしてこのターン。このカード以外の私のモンスターは攻撃できないが、もともと、私の効果により戦闘ダメージはゼロ。これでターンを終了する』

「わ、私のターンです。ドロー!」

 

 江藤はカードを引く。

 そして頷いた。

 

「私は罠カード『エクシーズ・リボーン』を発動。墓地からグスタフ・マックスを特殊召喚して、このカードをオーバーレイユニットにします!」

 

 超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000 ★10

 

「効果発動。2000ポイントのダメージです!」

『む……強力なカードだ』

 

 SGT LP6000→4000

 

「そして私は、『RUM-アージェント・カオス・フォース』を発動します!」

『何!?RUMだと!?』

「私は、ランク10のグスタフ・マックスでオーバーレイネットワークを再構築!……ぐっ!うぅ……」

 

 少し、彼女は『この場所にいすぎた』ようだ。

 胸の中を急速に何かが侵食していくような痛みが走る。

 

 そんなことは関係なく、グスタフ・マックスが光の渦の中に飛び込んで行く。

 

「摩訶不思議な力を得て、いざ降臨!ランク11『CX 超巨大空中要塞バビロン』!」

 

 CX 超巨大空中要塞バビロン ATK3800 ★11

 

『なるほど……だが、そのモンスターだけでは、私のライフを削りきることはできない。さらに、君の手札は二枚。そのうち一枚は弾丸特急バレット・ライナーだ。今のままでは攻撃すらできないだろう』

「私は魔法カード『鬼神の連撃』を発動します。バビロンのオーバーレイユニットをすべて取り除くことで、このターン。二回の攻撃を可能にします!」

『ばかな……』

 

 香苗は手を掲げる。

 

「バトルフェイズです。私はバビロンで、トポロジック・ボマー・ドラゴンを攻撃!」

 

 SGT LP4000→3200

 

『ぐ……』

「バビロンが相手モンスターを戦闘で破壊した時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与えます!」

 

 SGT LP3200→1700

 

「二回目の攻撃!バビロンで、ガイアセイバーを攻撃します!そして、その攻撃力の半分のダメージを与えます!」

 

 SGT LP1700→500→0

 

『く、くそおおおおおお!』

 

 悪霊となった精霊は、自らの構成する『精霊力』が、『悪霊瘴気』に変わってしまう。

 そして悪霊はデュエルに敗北すると、『悪霊瘴気』が形を保てなくなる。

 結果、スターシップ・ギャラクシー・トマホークの悪霊は、まるで光の粒子になって行くように、崩れていった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 デュエルが終わると同時に肩で息をする香苗。

 苦しそうな表情で、ポケットに手を入れる。

 だが、目当てのものが入っていなかった。

 驚いて見渡すと、後ろの方に小さなケースが見える。

 コントロールを奪われたグスタフ・マックスに攻撃された時に跳んでいったようだ。

 

「はぁ……はぁ……うぅ……ゆう……げつ……さ……」

 

 そのまま、江藤は意識を失った。

 

 ★

 

「よし、悪霊の気配は全てなくなったな」

 

 バトル・イーグル・トークンを全て破壊して、倉庫に戻っていく遊月。

 既に、ロード・オブ・ザ・レッドの姿ではなく、普通の遊月の姿である。

 

「遊月!終わったみたいだな!」

 

 遊月が振り向くと、英明がDホイールを走らせてきていた。

 既に変身は解除されている。

 

「そっちも終わったか?」

「っていうより、バトル・イーグル・トークンが動かなくなったからな。本体が消えたんだと思うぜ」

 

 そう言ってニカッと笑う英明。

 

「ていうか、英明は何でいたんだ?」

「『綾羽ちゃん親衛隊』の表の業務さ」

「……?」

 

 意味が分からない遊月。

 

「ま、こんな悪霊が出た時は、俺達が何とかしてる時もあるってことさ」

「『精霊課』が予算の無駄遣いみたいな感じなのに、アムネシア周辺がどうにかなってるのはそういう理由か」

 

 話していると倉庫についた。

 

「江藤、デュエルは終わったのか……江藤!どうした!」

 

 倉庫の中に入ると、江藤が倒れている。

 熱も出ているのだろうか。顔が赤い。

 

「悪霊はすでに消えてるぜ。デュエルは勝ってるんだ。一体どういうことなんだよ!」

「静かにしろ。これは……」

 

 その時、ドーハスーラが出現。

 

『うむ。どうやらこの少女は【精霊力制御疾患】のようだな』

「あ、それか」

「は?なんだそれ」

 

 遊月は知っていたが、英明は初耳のようだ。

 

『基本的に、精霊力はこの世界にいる生物なら誰もが生成している。そして、自らが許容できる範囲で体内に保持するために、体外に排出している訳だ。だが、制御疾患の場合、この排出器官が収集器官に丸ごと変わって、過剰な精霊力が体内にたまることで悪影響を及ぼす』

「だが、それだけじゃないように見えるぜ」

『薬を使えば、収集は止められないが排出は行える。そして……『精霊力』と『悪霊瘴気』は表裏一体で、この疾患を抱えていると収集してしまう』

 

 要するに、悪霊とのデュエル中に薬の効果が切れて、悪霊がまき散らしている悪霊瘴気を体の中に取り込んでしまったことで、悪影響が出ているということだ。

 

「ドーハスーラ」

『分かっている』

 

 ドーハスーラが右手の杖を振った。

 すると、江藤の体から悪霊瘴気だけが出て来る。

 それが倉庫の上の方に集められた。

 

「レッドアイズ。頼むぞ」

『了解した』

 

 真紅眼の不屍竜が出現して、黒炎弾を放って悪霊瘴気を消滅させた。

 

「これで、悪霊瘴気はなくなったのか?」

「ああ。だが、病院に連れていった方がいい。保管が簡単な薬だと限界があるからな」

 

 病院に連絡する遊月。

 事情を説明して、そのまま救急車に来てもらうことにした。

 

「しっかし……支部で江藤が毛嫌いされていることは察していたが、たぶん理由はこれだろうな」

「この疾患って感染するのか?」

「感染経路はHIVと変わらない。と言えばわかるか?」

「要するに、セックスか血液感染くらいしかないってことか?」

「お前がHIVの感染経路について正しい知識があることの方が驚いたがな……」

「それくらい知ってて当然だろ……ん?HIVと変わらないってことは……」

 

 遊月は頷く。

 

「それを知っているもの達は、HIVと同じ勘違いをしてるってことさ」

「なるほどな」

 

 HIVだろうと制御疾患ウイルスだろうと、これは先ほど言った二つの経路でしか感染しない。

 唾液にも含まれているが微量であること、空気に弱いことも共通している。

 

「なんていうか、あれか。日本って性教育に関して否定的だから、『体液感染』なんてぼかした言い方してんだろ」

「ああ。それと同じだ。一体どんだけディープキスするつもりなんだろうな。やっても感染しないだろうけど」

「それで実力関係なしに差別されてるってわけか。バカな話だぜ」

「世の中そんなもんだ」

 

 すると、救急車が来る音が聞こえた。

 

「来るの速いな」

「悪霊瘴気、抜いてるけど、本来は抜けないのが常識だからな」

「あ……どうするんだ?」

「抜く手段があることを知ってる奴がいないわけじゃないから大丈夫だろ」

 

 遊月は江藤の頭を撫でながらそう言った。

 

(面倒なことになるとは思っていたが、こんな形だとは思っていなかったな)

 

 副作用の強い薬しか存在しない疾患だ。

 しかも、先天性までありえるもの。

 闘病生活を長い間続けていたことは間違いない。

 

(頼ろうとしていたあの目……さて、どうしたもんか)

 

 いろいろと解決しなければならないことが一気に増えたと思う遊月であった。

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