「……」
泣きつかれた。
香苗の現状としては、ただそれだけ。
自分が精霊力制御疾患だと知ったのは、四歳のころ。
その頃は、精霊力だとか、そんなことを言われてもわからなかった。
ただ分かったのは、自分が薬を飲み続けなければ、日常生活すら不可能だということ。
副作用が強く、まだ小さいころは体調不良ばかりで、病院で生活することも多かった。
薬は高価であり、物心ついた時から父親がいない香苗は、母親に負担をかけてばかり。
自分で薬代を稼ごうという気持ちになるのも、そう時間はかからなかった。
だが、精霊力制御疾患というものがどういうものか。と言うものを調べる人間はいても、そもそも『病気』というだけで避けるものがほとんどだった。
病院生活が長かったせいで、同世代との関係は薄い。
そんな中、無理が積み重なったのか、母親が亡くなった。
悲嘆にくれる暇もなく、実力があれば様々なものが免除されるアムネシアを目指した。
中学生になり、アムネシアに入学した後、疾患を抱えていることを隠しながらバイトを始めた。
だが、どこかから漏れてしまうその情報は広まり、うつるはずがない疾患を抱えているせいで、すぐにバイトも辞めさせられる。
そんな日々が続いた。
そしてそんな中で、DGCの募集ポスターを見つけた。
デュエルで強くなれば、給金も上がる。
そして、病気を抱えているものに対するそれ相応の援助も中には含まれていた。
何を言われるかはわからない。
だが、追いだされるということは表面上はまずない。
諦めていた香苗は、強くなることを決めた。
必死だった。貪欲だった。そして、無謀だった。
だが、それでも強くなりたかった。
『不幸』であると呼ばれるのは構わない。
だが、『弱い』のだと、『守られる側』であると言われるのが嫌だったのだろう。
努力が実を結んだ。と言うよりは、運がよかったのだろう。
給金はそれ相応に増えて、薬を自分の金で買うことはできるようになった。
辛くない日はない。
どこに行っても、この疾患を抱えているだけで、避けられ、蔑んだような目を向けられる。
頼ることを諦めていた。
そんな時、綾羽に出会った。
巡回の休憩中に会って、ちょっと話したくらい。
しかし、母親だけが味方だった彼女に取ってはとても大きいもの。
いつからか、よくあって話すようになった。
門限が厳しい綾羽だが、誰かと会話するのは良いものなのだと、そう思った。
でも、心のどこかで、自分が『守られる側』なのだと思うような言葉を使う綾羽に対して、少しだけ苦手意識があったかもしれない。
だから……助けてくれた遊月に会って、次に何か困ったことになった時、綾羽ではなく遊月を頼った。
なぜ、遊月を頼ろうと思ったのか。それは香苗にはわからなかったが。
様々なことを考えて、体験させられ、そして乗り越えてきた人生だった。
だがしかし、もう、外に出ることすらも許されない身になってしまった。
「私は、弱くなんかない。私は……」
弱かったら、評価されない。
守られる側じゃなくて、守る側に立ちたい。
だが、彼女が背負っている借金は、そんな彼女を踏みにじるように、嘲笑うように、彼女の否定する。
「私は……」
その時、モニターのランプがついた。
そして、伊賀和志が映る。
「伊賀和志さん……」
「香苗さん。重要な話があります」
そう言う伊賀和志の声は、今までとは少しだけ違った。
まるで、選択を迫るような、そんな顔。
「まず、『精霊力制御疾患』と、『付着型空気感染』のウイルスが、『精霊力』を変質させたものである。ということを前提に聞いてください」
「あ、はい。聞いたことがあります」
「分かりました……現段階で、香苗さんの体から、ウイルスを取り除くことはできません。しかし、そのウイルスすらも、体の中に抑え込んでしまう。そんな、強力なウイルスを入手することが出来ました」
「……え?」
思わず、とぼけたような声が出る香苗。
まだ、解決策がないと聞いて、一日も経過していない。
こんなに速く、こんな話が出てくるとは思っていなかった。
「……ど、どういうことですか?」
「簡単に言います。現段階で、漏れ出てしまうウイルスを取り除く、もしくは死滅させる手段はない。ならば、漏れ出てしまいそうになっているウイルスが出てこれないほど、体内で集めようとするものを強化するウイルスを使う。ということです」
『精霊力制御疾患』のウイルスは確かに有害で、体外に出ることも当然あるが、感染するほど強くはない。
だが、『付着型空気感染ウイルス』は、その感染する可能性を引き上げるだけ。
「それは……『精霊力制御疾患』のウイルスを強化する。ということですか?」
「はい。精霊力制御疾患の影響で、本来備わっている『排出機能』が『収集機能』に変わっています。その収集機能を強化することで、ウイルスが出てこれないように、体の中に抑える。ということになります」
壁を作ることはできないのなら、吸収機能を強くして逃げられないようにする。ということだ。
「このウイルスを使えば、体内に存在するウイルスは、まず体の外に排出されることはなくなります。それほど強力なものです」
「あの……そのウイルスを使えば、この部屋から出ることはできますか?」
「もちろんです」
即答する伊賀和志。
香苗は唾をのんだ。
「さらに言えば体外にウイルスが放出されることはないでしょう。さらに言えば、ウイルスの収集能力が強すぎるので、血液にすら含まれなくなります」
「あの……それって……」
「はい。血液感染も性行為の感染もなくなります」
そこまでを聞くと、素晴らしいものだ。
しかし、それだけでは無論ない。
「ですが、デメリットはあります」
解決はしない。といった。
ならば、デメリットがあるに決まっている。
「圧倒的なほど収集能力が強化されることで、本来ならわずかに体外に放出していたウイルスすらも体内で抱えることになり、今まで以上に精霊力の収集能力が急上昇します。これまで以上に強い薬を飲む必要があります。これはあくまでも私たちの試算ですが、三時間に一回。これまで以上に強い薬を飲む必要があるでしょう」
「……」
ただでさえ、今はひどいことになっているのだ。
これからは、それ以上にひどいことになる。
「悪霊に自ら接触する必要があるDGCに所属することはお勧めできません。最悪、強制的に除隊されることも考えられます」
「……」
この部屋から出て、誰かと触れ合うことはできる。
今までできなかったことだって、いくらでもできるようになる。
だがしかし、どれほど収集能力が高かったとしても、今まで通り、香苗が『病気』なのだという目線を向け続けるだろう。
ありもしないうつる可能性を見て、それだけに囚われて、ただ非難され、みんなが離れていく。
今まで以上にひどくなるだけ。
だが……心に残るこの希望は、いったいなんなのだろうか。
「最後に一つ。『このウイルスを使うことを選択した場合、選択肢を与えた責任はとる』……これが、不死原遊月君からの伝言です」
「ゆ、遊月さんが……」
「このウイルスを持ってきたのも、遊月君です。私からは以上で――」
伊賀和志が会話を終えようとした時。
「お、お願いします!そのウイルスを、私に使ってください!」
香苗の中にある何かが、それを叫んだ。
伊賀和志は驚いたような表情になる。
「……先ほども言いましたが、デメリットは大きいですよ」
「それでもいいんです。お願いします!」
「……わかりました。準備に取り掛かりましょう」
伊賀和志は、半ばあきらめたように、香苗の依頼を引き受けた。
★
「……」
辛い。
ウイルスが投与された香苗が考えたのは、まずそれだった。
すでに今までよりも強い薬を飲んでいるが、それでも、試算よりも吸収能力が激しいのか、気持ち悪さがなくならない。
「これが……ずっと……」
強くなるためには、挑まなければならない。
それは分かっている。
だが、ここまで辛いとは思わなかった。
「選んでしまったか」
「!」
病院のロビーまで歩いた時、そこには遊月が立っていた。
いつも通りの腐ったような目で、香苗を見ている。
「遊月さん」
「言ったことに嘘はない。選択肢を与えた責任はとる。が、とりあえずDGCに行くぞ。いろいろ説明する必要があるが、君は自分が今どうなっているかなんてわからないだろうからな」
「……はい」
ロビーを出て、お互いに制服姿で歩いていく。
「あの、遊月さん」
「なんだ?」
「遊月さんは、どうやってこのウイルスを手に入れたんですか?」
「君を襲った悪霊の力を利用しただけだ」
「……そうですか」
ただ倒して、そして負けたら挽回する手段はない。
そんな無責任なものにとらわれていた自分が恥ずかしくなった。
「ところで、君はこれからどうするんだ?」
「え?」
「DGCの給金システムはある程度知っているが、今のままだと、君は確実に金が足りなくなるぞ」
「そ、そんな……」
急に宣告されたそれは、香苗にとっては死活問題だった。
薬を買う金がなければ、日常生活すら不可能なのだ。
「責任をとるを言った以上、金は私が工面すればいい。それくらいの資金は私にはある」
「え……」
「こう見えてそれ相応に金があるということだ。で……君はどうする?言い換えれば、DGCで何がしたい」
「どういうことですか?」
「君にとって本当に必要なのかということだ。DGCに所属せずに強くなって、プロの大舞台で活躍するデュエリストが一体どれほどいると思っている。薬代に関しては私が工面するとなれば、稼ぐ必要はなくなるだろう。これからどうするんだ?」
「そ……それは……」
香苗は迷う。
続けたほうがいいような気はする。
だが、それがなぜなのか。
決めたはずなのに、いつの間にか、それは薬代を稼ぐことに目的が変わっていた気がする。
「さて、DGCについた。いろいろ話をしに行くぞ。ちなみに、上層部は君の状態をある程度把握している。医者とも話し合っているから、入ったからといって追い出されることはないはずだ」
「はい」
香苗は遊月について行った。
自分が中に入ると、周りから驚愕の視線を向けられる。
隔離施設に入れられるほどの状態だったのに、なぜいるのかと考えている者もいるだろう。
「……」
居心地が悪いことに変わりはない。
だが、遊月がいたからだろうか。話し合いの場になれば、伝えることはしっかり決まっていて、香苗の主張を押し通すための材料をすべてそろえて発言しているため、結局は相手のほうが折れて話が通る。という感じになっている。
だがそれは言い換えるなら、香苗が戻ってくることを歓迎する者がいないということだ。
「さてと……宿舎のほうにも行くか」
「はい」
DGCに所属すると、好成績であれば、部屋を借りれる。
三階にある自分の部屋まで上がった。
そして……。
「……え?」
自分の部屋の前に、自分の荷物がすべて運び出されていた。
ダンボール箱にいれられて積み上げられている。
「こ、これって……」
「ああ。君はこれからこの宿舎は使えなくなったよ」
振り向くと、こちらを軽蔑する目で見る中年男性がいた。
確か、この宿舎の管理人だったはず。
「あの、どういうことですか?」
「当たり前だろう。隔離施設に送られたんだ。君の事情を考えれば、なぜ送られたのかは一目瞭然。君が抱えてる病気がひどくなったんだろう。またいつそんなことが起きるかわからないのに、おいておけるわけがないだろうに」
「そんな……」
「ちゃんと業務をこなしていれば給料もいいんだ。どうせ貯めこんでるんだろ。だったらそれを使ってほかに住めばいい。ともかく、ここにはもう君は住めない。壁も床も張り替えて、次に住む人が決まってるからね。この宿舎にもう空きはないから、君はどのみち住めないよ。まあ、どこに住むにしても追い出されると思うがね」
「……」
「江藤。行くぞ」
「……はい」
中年男性は遊月を見て鼻で笑った。
「君も君だ。そんな病気を抱えた子をかばって、自分の時間を無駄にしてどうする」
「……」
遊月はあきれたように何も言わず、江藤を引っ張って宿舎を出た。
「……」
宿舎を出てからも、香苗は黙ったままだった。
「もう一度聞くが、どうするんだ?こんな場所に、君がいる価値があると思うのか?」
「私は……」
「一応言っておく。君はまだ弱いよ」
「……っ!」
「DGCにきてからの君の対応を見れば一目瞭然だ。歓迎されないし、そもそも拒否されることばかりだ。何をつかめるんだ?私なら、こんな場所はすぐに離れる」
「私は……」
「それともう一つ」
遊月は間をおいて言った。
「ここは確かに何かを守るための場所だ。だが、君は弱い。守られる側の君がいる場所ではない」
それを聞いた香苗は……。
「勝手に……勝手に決めないでください」
煮えたぎり始める。
「私にも、言いたいことはあります。やりたいことはあります。全部知ったようなことを、言わないでください!」
今までずっと我慢して、蓋をして、栓を閉めて、鍵をかけて、奥深くに沈めてきたもの。
それが、弱弱しい瞳の中で。
ずっと泣いていた心の奥で。
それは、少しずつ、燃えていく。
「私は、ここにいれば、誰かを守れると思ったから!誰かを守れる方法が知りたかったから!」
本当に守りたかったのは自分かもしれない。
だが、此処は、誰かを守るための場所だ。
誰かを守るために生まれたモノだ。
なら、自分も他人も、守れるはずじゃないか。
「逃げていたことは認めます。ずっと下を向いていたことは認めます。でもそれだって、何も考えずにただ選んだわけじゃないんです!」
一歩を踏み出すため?違う。
前を向くため?違う。
ならば、この怒りは何なのだろう。
「私は、自分の意思で、考えて選んで、ここに来たんです!」
ああ、そんなものは考えるまでもない。
怒りの理由が、分からないわけがない。
望まない言葉を避けていただけ。
情けない、惨めだ。そんな陳腐な言葉で、自分の不幸を表現されてたまるか。
どうしようもない未熟な意地だ。
避けていたそれに向き合わなければならない。
それに向き合う勇気がない自分に、腹が立たないわけがない。
「遊月さんには、感謝していることはたくさんあります」
恩を仇で返す。なんてことは絶対にしたくない。
そんなことをしたら、もう二度と戻れない。
優しい彼がそんなことをしないと頭で分かっている。
だけど、軽蔑されるのだと思ってほしい自分の心が、そう断言してしまうから。
「でも……私だって、ただ守られるだけの子供じゃないんです!」
信念がある。
弱くても、正しくなくても、無駄なものでも、バカにされてしまうようなものでも。
嘘で塗り固められ、自分の意見なんてほとんど残っていないようなものでも。
それでも、今まで生きてきた。
学んだものがないなんて、誰にも言わせない。
「誰かを頼りにするだけじゃない。誰かに頼られる人になりたいんです!」
不幸であることが定められていると、証拠まで見せられた。
不幸の中で、自分が選ばなければならなかった。
だがそんな中でも、自分のような人間でも頑張れることを証明したいと考えて、何が悪い。
「だから……」
ようやく手にした。自分が行きたい場所に行く権利。
それを放棄すれば、もう二度と、自分の信念など通せない。
不幸だと言われようと、知ったことか。
手にすることが出来たのだ。
ようやくつかんだのだ。
進まないことを軽蔑するのなら、進むしかないに決まっている。
「だから私は、ここに来たんだ!」
吐きだされた少女の気持ち。
はっきり言って、支離滅裂だ。
言いたいことが多すぎて、でも難しい言葉も深い言葉も見つからなくて、ただ思いついたことが口に出ただけ。
「はぁ、はぁ……」
肩で息をする江藤。
だが、その瞳の奥の炎は、まだ燃えている。
「……それだけなのか?」
「え?」
「言いたいことはそれだけなのかと聞いている。言っておくが……君がさっき言った程度の言葉なんて、世の中に溢れている。君がしゃべったからと言って、その言葉が重くなるわけじゃない」
「~~!」
「言い足りないようだが、もう言葉なんて思いつかないだろう。だから……デュエルをしよう」
「デュエルを……」
「言いたいことが思いつかないのなら、自分の魂で組んだデッキで示してみろ。それが一番、手っ取り早い」
遊月は距離をとって、デュエルディスクをつける。
「それなら……」
香苗もデュエルディスクを構える。
お互いにカードを五枚引いた。
「私は、私のデュエルで、強さを証明します」
「やってみろ。死後の世界の広さを教えてやる」
「「デュエル!」」
香苗 LP8000
遊月 LP8000
「私の先行!私は手札からフィールド魔法、『転回操車』を発動します!」
香苗の背後に車両ドッグが出現する。
「そして、手札から『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を妥協召喚します!」
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト ATK0 ☆10
「転回操車の効果で、デッキから『無頼特急バトレイン』を、レベルを10にして特殊召喚です!」
無頼特急バトレイン ATK1800 ☆10
「さらに、手札から『弾丸特急バレット・ライナー』を特殊召喚!」
弾丸特急バレット・ライナー ATK3000 ☆10
「出てきてください。重機を呼び起こすサーキット!召喚条件は、機械族二体。私はバトレインとバレット・ライナーを、リンクマーカーにセット!新たな設計図で、いざ連結!リンク召喚!リンク2『機関重連アンガー・ナックル』!」
機関重連アンガー・ナックル ATK1500 LINK2
「特殊召喚成功時、手札から『重機貨列車デリックレーン』を特殊召喚します!」
重機貨列車デリックレーン ATK1400 ☆10
「私は……レベル10のナイト・エクスプレス・ナイトとデリックレーンで、オーバーレイ!」
二体のモンスターが渦の中に飛び込んで行く。
そして、不思議な形の『81』の数字が出現。
しかし、ひび割れたと思ったら、すぐに砕け散った。
「っ!……エクシーズ召喚!ランク10『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』!」
超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000 ★10
「……なるほどな。まだ認められたわけじゃないわけか」
「私は……グスタフ・マックスの効果を発動!遊月さんに2000ポイントのダメージを与えます!」
グスタフ・マックスの主砲が展開され、遊月を狙い打つ。
遊月 LP8000→6000
「私は魔法カード『アイアンドロー』を発動して、カードを二枚ドロー。このまま二枚セットしてターンエンドです。バトレインの効果でデッキから二枚目の『ナイト・エクスプレス・ナイト』を、バレット・ライナーの効果で、墓地のデリックレーンを手札に加えます」
「なるほど。私のターンだ。ドロー」
遊月はドローしたカードをチラッと見ると、そのまま発動する。
「私はドローフェイズ中、速攻魔法『手札断殺』を発動。お互いに二枚墓地に送って、二枚ドローする」
「ということは……」
「まあ君が想定している通りだと言っておこう。スタンバイフェイズ。『転回操車』が存在することで、効果発動だ」
遊月の墓地から闇が溢れてくる。
「終わりも始まりもない
死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8
『ククク。さて、腹芸真っ最中の我が主のもとに、我、降臨!』
(ふざけたことぬかしてるとアドバンスドローのコストにするぞ)
『ごめんなさい!』
謝るのは速い死霊たちの王。
というか、アドバンスドローがそんなに嫌か。
「メインフェイズだ。私は『儀式の下準備』を発動。デッキから『レッドアイズ・トランスマイグレーション』と『ロード・オブ・ザ・レッド』を手札に加える」
「え……」
「そして私は、『レッドアイズ・トランスマイグレーション』を発動。レベル8のドーハスーラをリリース」
『さて、行くとしよう!』
ドーハスーラが消えて、遊月を炎が包んで行く。
「儀式召喚。レベル8『ロード・オブ・ザ・レッド』」
ロード・オブ・ザ・レッド ATK2400
まるで変身したかのように出現するロード・オブ・ザ・レッド。
いつ使ったとしても、どうやらこうなるようだ。
既にそれを見ているので、もう香苗も驚いたりしない。
「私は手札から『不知火の隠者』を召喚」
不知火の隠者 ATK500 ☆4
「隠者をリリースして効果発動。それにチェーン。ロード・オブ・ザ・レッドの効果を発動。私は、グスタフ・マックスを破壊する」
遊月の右手から蒼い炎の玉が出現して射出。
グスタフ・マックスは木っ端微塵に。
「そして、デッキから『ユニゾンビ』を特殊召喚する」
ユニゾンビ ATK1300 ☆3
「さらに、ユニゾンビの第二の効果を、私を対象に発動。それにチェーンして、私の効果を発動。セットカードを破壊させてもらおうか」
「させません!私は速攻魔法『緊急ダイヤ』を発動します!」
若干慌てたような雰囲気ではあるが、香苗はカードを使う。
「緊急ダイヤの効果で、『無頼特急バトレイン』と、『弾丸特急バレット・ライナー』を、効果を無効にして特殊召喚します!」
無頼特急バトレイン DFE1000 ☆ 4
弾丸特急バレット・ライナー DFE 0 ☆10
「チェーン処理だ。緊急ダイヤを破壊。そしてデッキから『馬頭鬼』を墓地に送る」
ロード・オブ・ザ・レッド ☆8→9
「チェーン処理が終わった後、転回操車の効果が発動します。私はデッキから、『爆走軌道フライング・ペガサス』を、レベル10にして特殊召喚します!」
爆走軌道フライング・ペガサス DFE1000 ☆10
「そして、フライング・ペガサスの効果で、墓地から『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を特殊召喚です!」
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト DFE3000 ☆10
「さらに、機械族・地属性モンスターの特殊召喚成功により、手札から『重機貨列車デリックレーン』を特殊召喚!ステータスは半分になります」
重機貨列車デリックレーン DFE1000 ☆10
一気に並ぶ五体のモンスター。
だが、遊月の表情は変わらない。
「モンスターゾーンを埋めるほど並べたか……で、それがどうした」
「え?」
「私は手札から速攻魔法『デーモンとの駆け引き』を発動。レベル8のドーハスーラが墓地に送られたことで発動条件を満たしている。『バーサーク・デッド・ドラゴン』をデッキから特殊召喚」
バーサーク・デッド・ドラゴン ATK3500 ☆10
「ば……バーサーク・デッド・ドラゴン……」
「そして、墓地の馬頭鬼の効果発動。除外することで、不知火の隠者を特殊召喚」
不知火の隠者 ATK500 ☆4
「レベル4の隠者に、レベル3のユニゾンビをチューニング。死した紅き眼の黒竜よ、屍界で湧き上がる怨念を宿し、君臨せよ。シンクロ召喚。レベル7。『真紅眼の不屍竜』!」
真紅眼の不屍竜 ATK2400→2800 ☆7
『ふむ、俺を出すか。それ相応に本気だな。マスター』
(気を抜いたらいつの間にか焼かれてるからな)
それが列車の怖いところだ。
「バトルフェイズ。バーサーク・デッド・ドラゴンで全てのモンスターに攻撃」
バーサーク・デッド・ドラゴンがブレスを放出して、香苗のモンスターを焼き払う。
香苗 LP8000→6000
「ぐっ……」
いろいろモンスターを出していたが、攻撃表示だったのはアンガー・ナックルだけだ。
他のモンスターは守備表示である。
「そして、レッドアイズと私で直接攻撃だ」
遊月が右手を前に出すと、レッドアイズも青い炎を口の中で作りだす。
それはそのまま、香苗を襲った。
香苗 LP6000→3600→600
「ぐっ……こ、ここまで差があったなんて……」
「私はカードを二枚セットして、ターンエンドだ。バーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力が下がる」
バーサーク・デッド・ドラゴン ATK3500→3000
「私は、バトレインの効果で、デッキから三枚目の『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を、バレット・ライナーの効果で、墓地の『重機貨列車デリックレーン』を手札に加えます!」
「まあ、それくらいしかできないだろうな」
「わ、私のターンです。ドロー!」
香苗は勢いよくドローする。
「スタンバイフェイズだ。私の墓地から、ドーハスーラが帰還する」
『ククク。なかなか豪華なフィールドになってきたではないか』
死霊王ドーハスーラ DFE2000 ☆8
「……!」
ドローしたカードを見た香苗は唾を飲んだ。
「まだ……まだ行けます!私は魔法カード『ブラック・ホール』を発動。フィールドのモンスターを全て破壊します!」
「なら、それにチェーンして私の効果だ。残ったセットカードを破壊させてもらおう」
「それにチェーンです!リバースカードオープン。罠カード『ロスタイム』!相手のライフが4000以上ある時、私のライフを、相手のライフよりも1000少ない数値にします!」
遊月のライフは6000だ。
香苗 LP600→5000
「……そこまで一気に回復するとはな……」
「これで、全てのモンスターを破壊します!」
問答無用とばかりにすべてを飲み込むブラック・ホール。
遊月は二枚の伏せカードを使うことなく、全てのモンスターが破壊された。
「無理矢理突破するカードをドローしたことは褒めるが……そこからどうするつもりだ?」
サーチ、サルベージしたカードの存在を考えれば、やれることは多いだろう。
だが、香苗の表情は優れない。
「私は……」
「強くなりたい。と君は言ったが、君が求める強さは何だ?」
「私は……守れるようになりたいんです。自分も、皆も、困っている人を、助けることができるようになりたいんです!」
「無理だな」
「!」
「守ることは誰にでもできるんだ。だが、今の江藤の実力では、助けることはできない」
「私は……」
悩んでいる。
だが、それでいいと遊月は思う。
悩むだけなら誰にでもできる。
そして、答えを出そうとするフリをすることは誰にでもできる。
だからこそ……自分の意思があるのなら、それは最も尊いものになる。
「私は、それでも前を向いて進むんです。今は悪夢でも、きっと……」
香苗は、手札のカードをデュエルディスクに叩きつける。
「私は、『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を妥協召喚して、手札の『重機貨列車デリックレーン』を特殊召喚します」
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト ATK 0 ☆10
重機貨列車デリックレーン ATK1400 ☆10
「私は……今は進むんです!幼いころに憧れた、素敵な夢を掴むために!」
今まで、周りを守るだとか、そんな自分を見ない言葉しか口にしなかった。
自分のことを言うとしても、行きつく先は自分ではなかった。
だが、そんな彼女から漏れた。その言葉。
響いたのだろう。
次の瞬間。
遊月は、ガチャリという音が聞こえた気がした。
何かが開いたような、何かがつながったような。そんな音。
「レベル10のナイト・エクスプレス・ナイトとデリックレーンで、オーバーレイ!」
二体のモンスターが、空中に出現した渦の中に飛び込んで行く。
遊月は香苗の目を見る。
(めちゃくちゃだ。でも……強い目になったな)
香苗は手を掲げる。
「全てを守る盾を手に、いざ、出陣!エクシーズ召喚!ランク10『No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ』!」
特殊な数字の『81』
もう、砕けたりはしない。
(認めたのか……認めようとしなかった自分がバカらしくなったのか。さて、どっちだろうなぁ)
遊月は微笑む。
No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ ATK3400 ★10
「はぁ……はぁ……やっと、やっと会えました。私は、スペリオル・ドーラの効果を発動!オーバーレイユニットを一つ使い、スペリオル・ドーラは、全ての効果を受け付けなくなります!そして、エクシーズ素材だったデリックレーンの効果発動!遊月さんのセットカードを一枚、破壊します!」
「チェーンして罠カード『死魂融合』を発動。墓地に存在するレッドアイズとドーハスーラを裏側で除外し、融合召喚を行う」
「なっ……」
遊月の二大エースが混じりあう。
「朽ち果てた紅き眼の竜よ、死霊たちを束ねる王よ、屍界の底で力を束ね、冥界より響く咆哮を示せ!融合召喚。レベル8『冥界龍 ドラゴネクロ』!」
冥界龍 ドラゴネクロ ATK3000 ☆8
「こ……このタイミングでドラゴネクロ……」
そもそも、スペリオル・ドーラよりも、攻撃力が低いモンスターだ。
なぜ攻撃表示なのかと一瞬疑問に思った香苗だが、一瞬で疑問は氷解する。
この融合召喚で出せるモンスターは限られているが、問題なのは守備力。
簡単な話、攻撃力倍化に加えて貫通能力を付与する『機関連結』のようなカードが香苗の手札にあった場合、他に簡単なモンスターが出てくるだけで、一瞬でゲームエンドである。『転回操車』を墓地に送ることでアンガー・ナックルを出すことも可能なので、十分それも視野に入るだろう。
そう考えれば、ステータスがなるべく高いモンスターを用意することは何も不思議なことではない。
(ですが……それは、私がスペリオル・ドーラで止まればの話です!)
自分の中から溢れて来る何か。
普段なら、精霊力をとりこみすぎて体調不良を起こしているだろうが、今はその感覚すらない。
すこぶる体調がいい。こんな日は、今までになかった。
今なら、もっと上に行ける。
「私は、機械族でランク10のスペリオル・ドーラで、オーバーレイネットワークを再構築!」
スペリオル・ドーラが、新たに生み出された渦に飛び込んで行く。
「全てを滅する力を得て、いざ、出動!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!ランク11『超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ』!」
超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ ATK4000 ★11
「ジャガーノート・リーベまで出て来るか……」
流石の遊月も驚いたような表情になる。
スペリオル・ドーラまでは予測できたが、これは予想以上だったようだ。
「ジャガーノート・リーベの効果を発動!オーバーレイユニットを一つ使うことで、攻撃力と守備力を2000ポイントアップします!」
超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ ATK4000→6000
「さらに手札から、『リミッター解除』を発動です!」
香苗の全力は、まだまだ止まらないようだ。
超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ ATK6000→12000
「攻撃力12000か……」
「これで、終わりです!私はジャガーノート・リーベで、ドラゴネクロを攻撃!」
リミッターが解除されて、赤く発熱するジャガーノート・リーベの主砲が、ドラゴネクロに狙いを定める。
そして、強烈なエネルギーが集約されていった。
そんな中、遊月は呆れたような表情だった。
(強くなったな……いや、枷が一つあっただけで、それに気が付かなかっただけか。レッドアイズ。ドーハスーラ。お前たちはどう思う?もう十分強くなったと思うが)
『マスターの好きにすればいい。俺はそれに反対しないだろうからな』
『我も同意見だ。もう少し、壁になってやるべきだろう』
精霊たちの言葉を聞いて、そうだよな。と遊月は呟く。
ジャガーノート・リーベの主砲から、レーザーが射出された。
「速攻魔法。発動」
ジャガーノート・リーベのレーザーがドラゴネクロに直撃する。
しかし……ドラゴネクロには、傷ひとつ付いていない。
「え……」
「『決闘融合-バトル・フュージョン』」
ドラゴネクロは、右手に蒼い炎の玉を出現させ、左手に波動を集約し、ジャガーノート・リーベのレーザーを抑えていた。
いや、抑えている。というと語弊があるか。
「私の融合モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に発動。相手モンスターの攻撃力分、このカードの攻撃力をアップする」
冥界龍 ドラゴネクロ ATK3000→15000
「攻撃力……15000」
「もう少し、私は壁になるとしよう」
ドラゴネクロが、炎の玉と波動を合わせて、レーザーを押し返す。
そして、ジャガーノート・リーベに直撃した。
「ぐっ……」
香苗 LP5000→2000
「ドラゴネクロと戦闘を行う相手モンスターは、その戦闘では破壊されない。だが、攻撃力は0になる」
超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ ATK12000→0
本来ならトークンを特殊召喚する効果もあるが、レベルを参照する必要があり、エクシーズモンスターにレベルがないのでそちらは適用されない。
「まだです!メインフェイズ2。私は転回操車を墓地に送ることで、墓地のアンガー・ナックルを特殊召喚します!」
機関重連アンガー・ナックル ATK1500 LINK2
「私は『チキンレース』を発動します。1000ポイント払って、一枚ドロー……カードを一枚セットして、ターンエンドです」
香苗 LP2000→1000
香苗はまだあきらめない。
遊月の手札は0だ。
セットカードはない。
墓地から発動するカードはなかったはずだ。
「なら、私のターンだ。ドロー」
「私は『威嚇する咆哮』を発動します。これで、遊月さんは攻撃宣言ができなくなります」
「そうか」
これで、ドラゴネクロはほぼ何もできない。
チキンレースがあるが、ドーハスーラはドラゴネクロの融合素材として裏側で除外されている。
「まだ、まだ戦えます」
「それはいいことだ。チキンレースの効果を発動。1000のライフを払って、破壊してもらう」
「!」
遊月 LP6000→5000
チキンレースが破壊される。
要するに、このターンで決めるつもりなのだ。
遊月は微笑む。
「怒って泣いて叫んで、限界を超えて、疲れただろう。そろそろ寝る時間だ」
「え?」
「私は魔法カード『真紅眼融合』を発動。デッキの『真紅眼の不死竜』と、『真紅眼の凶星竜-メテオ・ドラゴン』を墓地に送る」
チラッと、流れ星が見えたような、そんな気がした。
「人は何かを奪い続け、摂理はそれを罪とした。
世界の負債は積み重なり、摂理は清算を強制する。
一人の少女に押し付けるのなら、私はそれを拒絶する。
押し付けて悪夢を見させることを、私は許しはしない。
拒否する。否定する。拒絶する。希望を望む。
声はいずれ、世界に響く。
優しい世界の女神に願いを、汝の未来に祝福を。
悪夢の時間は、もう終わり。
黒の流星に願いを乗せて、良い夢を見よう」
流星が、舞い降りる。
「融合召喚。『流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン』」
流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン ATK3300 ☆8
「あっ……」
終わりを悟った。
「メテオ・ブラック・ドラゴンの効果により、デッキから『真紅眼の黒竜』を墓地に送り、1200ポイントのダメージを与える」
流星から放たれる炎。
それが、香苗を覆った。
とても、暖かい火だった。
香苗 LP1000→0
★
「まあ、あがりなよ」
「はい……」
遊月の自宅に来た。
そもそも、部屋を追い出された香苗は、あの宿舎には戻れない。
というわけで遊月の自宅に来た。というわけである。
「全然、勝てなかったです……」
ソファに二人で座った。
思うところがあったのだろうか。香苗はポツリとつぶやく。
「そりゃそうだ。私もそれ相応に本気を出したんだ。簡単に超えられても困る」
「……遊月さん。なんでそんなに強いんですか?私、全力だったのに……」
「ん?答えは簡単だ」
遊月は腐った瞳で優しく微笑む。
「君という子供が全力を出しても、それを受け止めて、そしてそれに応えることができるくらい、私が大人だということだ」
「……」
悪意はなかった。
香苗は遊月に会ってから、一度も、悪意を向けられたことはなかった。
自分の母親すらも、自分に悪意を向ける。
だが、遊月は違った。
「あ、あの……遊月さん」
「なんだ?」
顔を真っ赤にして、香苗はポツリと言った。
「お……お兄ちゃんって、呼んでもいいですか?」
「好きなように呼べばいい」
顔を真っ赤にして問う香苗に対して即答する遊月。
その言葉に、香苗は耐え切れなくなった。
だが、無理矢理に耐えようとしている。
そんな香苗の頭を、遊月は撫でる。
「我慢なんてしなくていいから、泣きたいときは泣け。私は逃げたりしない」
「う、ぐす……うあああああああああああああん!」
壁を超えた少女は、一人の男の胸で涙を流す。
遊月はあやすように、小さな少女を抱きしめる。
やっと見つけた、少女が泣ける場所。
いつもは見つける前に泣き疲れていたが、もうそのようなことはない。
★
さて、シリアスシーンは終わりだ。
ここからは欲望の混じったアレな感じである。
晩御飯に関しては、作るのが面倒で適当にカップめんで済ませた遊月と香苗。
宿舎が使えない香苗だが、これからどこの風呂を使うのか。という話である。
そう。遊月の家の風呂である。
『で、ドーハスーラ。すごく複雑そうな顔をしてどうした?』
『ん?ああ、『据え膳くわぬは男の恥』という名言があるだろう』
『名言だったか?』
『忘れた。が、我はあれにちょっと挑戦しようと思いかけていた』
『さすがチキング。世間体をまず気にするその姿勢。俺は好きだぞ』
『誰がチキングだ!』
『チキンでキングなんだからチキングでいいだろう』
『言い訳あるか!検索ワードで『チキング』って検索して我の名前が出てきたらさすがに泣くぞ!』
『俺が知るか』
先ほどまであんなにバトってたのにこの有様である。
『あ、そういえばブルームは見に行ってるみたいだぞ』
『あんの植物があああああ!羨ましいいいいいいい!』
本音がダダ漏れである。
だが見に行くことはない。ドーハスーラの意地(謎)である。
『あ、ブルームが出てきた。風呂から上がったみたいだな』
『ムムム……バスタオル姿を見るくらいはセーフか?』
『なんで俺に聞くんだ?』
『というかお前は興味ないのか?』
『俺はマスターに似て性欲が極端に少ないんだ』
『単に枯れただけだろ』
『やかましい。まあ、小説でもバスタオル姿ならまだ挿絵に乗るからセーフだろ』
ドーハスーラを誘惑するレッドアイズ。
なかなか性格が悪い。一体誰に似たのやら。
『あ、ブルームが脱衣所から出てきた。着替えも終わったか』
『早くね!?』
『俺に突っ込んでどうするんだ』
先ほどからかなり暴走しているドーハスーラ。
『ただ、そろそろ欲望を抑えておいたほうがいいぞ』
『そうか?』
『お前このままだとロリコンチキングになるぞ』
『それは不味いな』
さすがにそれはやばい。
下手すればアンデット族全体の評価につながるかもしれない。
まあ、一番罪深いのはグローアップ・ブルームだが。
★
夜も遅くなった。
どこから買ってきたのか、ピンク色の寝間着を着ている香苗。
枕を抱いて、トコトコ歩いている。
目指しているのは、遊月の部屋だ。
部屋の前まで来ると、扉を少しだけあける。
中を見ると、遊月は寝息を立てていた。
(……よしっ!)
何がだ。
まあそれはそれとして、香苗は遊月が寝ているベッドにあがって、布団の中にもぞもぞともぐりこむ。
そして、ぎゅっと抱きしめた。
(……暖かいです)
久しぶりに、ぬくもりを感じたような気がする。
精霊力制御疾患である自分が、誰かに抱き着いたことなどなかった。
最後に抱きしめてもらったのは母親だっただろう。
だがそれも、いつのことだったか。
(……♪)
あれから、薬を飲んでいないのに、体調が良いままだ。
今日は、いい夢が見られそうである。
……ちなみに、どんなに鈍いやつでも、抱き着かれたら起きるものだ。
しかし、それをあえて放置するくらいには、遊月は大人である。
遊月は朝起きるのが早い。
なので、次の日の朝になって香苗が起きた時、ベッドに遊月がいないことに気が付いて顔が赤くなるのは、ほぼ必然であった。
★
「……ん?ここはどこだ?」
グローアップ・ブルーム。
遊月のデッキの中では、デッキの中からエースの一角を場に引きずり出すことができる中核カードだ。
しかし、彼は今、疑問に思っていた。
「なぜ僕は吊り上げられているんだ?そして、この線路はいったい……」
いったいいつこんな場所に来たのだろうか。
というか、そもそもなぜつられているのだろうか。
「ん?何か嫌な音が聞こえているような……!」
ブルームは驚愕する。
自分は今、線路の上で吊られているのだ。
そして遠くのほうから、『弾丸特急バレット・ライナー』が突撃してきた。
しかもご丁寧に『ウィリアムテル』がスピーカーから大音量で流れている。
そんな『爆走します!』みたいな空気を出されても困る。
「う、うわあああああああ!やめろ!やめてくれえええええええ!」
絶叫するブルーム。
しかし、バレット・ライナーはそんなことを気にすることなく、突撃してくる。
「いやあああああ!わかった!もうのぞいたりなんかしないから!許してくれえええええええ!」
時速二百キロなど軽く超える鋼鉄の物体。
身動きできない今、そんなものが突撃してきたら自分は木端微塵だ。
必死になるブルーム!
「いやだあああああ!や、やめてええええええええ!」
聞き届けられることなく眼前までバレット・ライナーが迫り――
「……はっ!」
ブルームはハッとした。
きょろきょろと周りを見る。
普段自分がいるアンデットワールドの景色だった。
「……ゆ、夢?今のは夢だったのか?」
心臓に悪すぎる夢だった。
そして、彼は誓う。
「……覗きはやめよう。うん。絶対にやめよう」
まだ夜遅い時間である。
ブルームはまた、目を閉じるのだった。
全身から滝のような汗を流しながら。