「あの、お兄ちゃん」
「どーした」
朝、学校に向かって歩いている時、香苗は気になることがあったようだ。
「私、あれから一回も薬を飲んでないんですけど、どうして……」
「ああ、それだが、答えは簡単だ。香苗が持っている精霊のカードたちでラインを作って送りこんでるんだ」
「え?」
「高水準で精霊に認められないと発生しない現象で、なおかつ、その精霊に関係するリンク2以上のモンスターが必要なんだがな」
そう前置きして、遊月は説明する。
「香苗がとりこみまくっている精霊力を、アンガー・ナックルが接続役になって精霊たちに送りこんでいる。もともとランクが高い精霊だからな。香苗がとりこんでいる精霊力を注ぎこまれたとしてもびくともしないくらい強固な存在だ。多くなったとしても、精霊は自分で排出できるから問題ない」
「そ……そんな方法があったんですね」
いろいろ条件はある。
そして、やらなければならないこともそれなりにある。
「ただ、このラインを作る時、本人は圧倒的な解放感に支配されて、一時的に暴走するんだ。その時、周りが抑えないと本人が壊れる」
「ということは……」
「リーベまで出てきたのは、その暴走状態が原因の一端だ。まあ、リーベも君を認めているみたいだから、言うことを聞かなくなるようなことはないだろう」
「そっちじゃなくて……昨日、お兄ちゃんが私を焚きつけたのは、その暴走状態を引き起こすためですか?」
「それ以外に何がある。あの段階まで持って行くのってすごく面倒なんだ。失敗すれば何が起こるのか知らないからな。遊びじゃできない」
万全の用意を整えてからとりかかれば、誰だって成功する。
遊月はそれを有言実行するわけだが、失敗したときのデータが極端に少なくなる。
結果的に、最善に近い部分は分かっても、最悪に近い部分はさっぱりわからないのだ。
だからこそ、不真面目に取りかかれるものではない。
「まあ要するに、もう薬を飲む必要がなくなったってことだ。医者に連絡入れたけど実は一番面倒だったよ」
事後処理と言うのは大体やることが多いうえに書類ばかりになるので面倒だ。
「ありがとうございます」
「構わんさ。責任を取るといったのは私だ」
そう言いながら、遊月は角を曲がった。
すると、英明が見えた。
「おっ!遊月……と、香苗ちゃん?なんでこんなところに」
「あの……夜はお兄ちゃんの家に泊まったので……」
「……お兄ちゃん?ああ、そういう意味か」
香苗が抱えている事情と、それにかかわったであろう遊月という男の関係をいろいろごちゃごちゃと考えて、英明は納得したようだ。
「……ていうか遊月の場合、愛称ならお兄ちゃんじゃなくてお爺ちゃんじゃね?」
「それは私が年寄り臭いといいたいのか?」
「もちろんだぜ!……で、家に泊まったってどういうことだ?」
遊月は英明に経緯を説明。
「……なるほど、うつるかもしれないからって追いだされたわけか。まあでも、精霊力制御疾患の方は問題ねえんだろ?」
「全くないな」
「……なんていうか、溜息しか出てこねえな。ていうか、薬代に金が消えないんなら、その分いろいろ金もたまるわけか。どうせこれからも遊月の家に住むんだろうし」
「え……あ、あの……」
すっかりばれていることに対して驚く香苗。
「まあ、英明は分かるだろうな」
「……一時期、遊月んちに住んでたしな」
「え。そうなんですか?」
「……まあ、俺にもいろいろあったんだよ」
「要するに、英明は私の家を駆け込み寺だと思っているうちの一人だということだ」
一体どういうことなのやら。
「お、ついたな」
学校の校舎についた。
中等部と高等部は校舎が違うので、ここでいったん離れる。
「それじゃあ後でな」
「はい!」
いろいろな意味で解放されたといったところだろう。
いい笑顔だ。
「……守りたい笑顔だよなぁ。ていうか、なんか遊月は慣れてるよな」
「こういうのは初めてじゃないからな」
遊月は高等部の校舎に向かって歩いて行った。
★
「遊月君!香苗ちゃんから精霊力制御疾患が治ったって聞いたけど。本当なの!?」
教室につくと、今度は大束が来た。
「治ったわけじゃない。問題にならなくなっただけだ」
あえて言い換えれば利用としたともいえるだろう。
要は関わり方である。
「そうなんだ……」
大束には解決策はないとしか言ってないので、そういう反応になるのは当たり前だ。
「でも、遊月君が言うならそうなんだよね」
その謎の信頼はなんなのだろうか。
そして、大束の中でも、香苗の話は終わりのようだ。
「そういえば、生徒会長が久しぶりに登校するって言ってたね」
「あまり学校に来ないよな」
「学生兼プロデュエリストだからね。高等部一年生だけど、すでに卒業単位はすべてとってて、あとは在籍年数だけだから、学校に来る必要がないって聞いたことがあるよ」
「めちゃくちゃ濃い奴だな……」
学校に在籍している必要すら感じられないのだが、そのあたりはどうなのだろう。
「とはいえ、私には関係ない話か」
あまりこない生徒会長が来る。
だから何だ。と言う話である。遊月からすれば。
確かに副会長と接点は出来たが、だからと言って生徒会に興味があるわけではない。
「興味ないんだな」
「まあぶっちゃけ」
遊月はそう言う。
だが、それと同時に、思うこともある。
こちらが興味ないからと言って、向こうもそうとは限らない。と言うことである。
★
遊月は基本的に予定は決まっていない。
フラッと呼ばれるときはあるのだが、基本的には暇な方だ。
「今日は晩飯何にするかな……」
作る量が一人分増えた遊月。
慣れている人からすれば別に苦ではないものだが、自分一人ならそれ相応に適当で良かったのだが、一人増えるとそれ相応に考える必要がある。
しかし、その日の献立など、別にたいしたものではない。
店に入って『今日のオススメ』見たいなコーナーからパッパと選んでカートに突っ込むだけである。
どうせケチるような資産状況ではない。
「……今日は鶏肉か。家に卵とケチャップってあったかなぁ」
既にオムライスを作る気になっている遊月。
そう言いながらも歩く。
鶏肉の場所に言って、賞味期限を確認し始めた。
「これだな」
「あっ」
遊月が取ろうとして手を上げた時、隣にいた客がそれを手に取ってかごに放り込む。
遊月は顔を上げた。
向こうも顔を上げてこちらを見る。
見知った顔だった。
金色のコートは着ていないが、切りそろえた金髪に獰猛な瞳の少年。
「不死原遊月。何故お前がここに……」
「いや、来た理由はお前と変わらんだろ」
驚いている様子の少年に遊月は呆れる。
少年も『それもそうか』と思ったようだ。
「……名乗ってはいなかったな。俺はレイエス・アドベントだ」
「不死原遊月だ……で、ギルのことは知ってるよな」
「ああ。俺の相棒だ」
レイエスとギルは年代が違う気がするが、相棒に年齢差など関係ない。
「……で、何か俺に言いたいことはないのか?」
「私からはないよ。君が大束にしたことを私は許さないし、香苗がかかわっていたあの一件で襲撃したことは悪いことだ。だが、私はそれを、不必要だとは思っていない」
「……てことは、分かってるわけか」
「ああ。『ISD』……『IncaNation Shift Duelist』と言うものに付いて、私は君以上に知っている」
ISDは略号であり、正式名称は『IncaNation Shift Duelist』
正式名称は『化身移行決闘者』
モンスターカードには『精霊』と言う概念がある。
だが昔から、魔法・罠カードには、そのような精霊カードと言う概念は存在しない。
罠モンスターすら精霊カードは確認されていなかった。
単なる『現象・物質』である魔法・罠に『意思』はない。と言う理由で精霊カードが存在しない。というのが学者の言い分だが、それでも、魔法・罠カードに特別な何かを求める者は一定数いた。
そして、研究がすすめられた中で生まれたのが、『ISD』という概念である。
デュエリストを媒介として、『精霊力』を用いて極度の親和性を生み出すことで、特別なカードを生み出す。
遊月なら『アンデットワールド』
英明なら『マスク・チェンジ』
大束なら『神の居城-ヴァルハラ』
永石圭吾が持つ『機殻の要塞』も該当する。
そしておそらく、ギルの場合は『オーバーロード・フュージョン』なのだろう。
そしてそう言う以上、レイエスも持っているのだ。
遊月たちと同じ、『化身カード』を。
「いろいろ問題を抱えているからな。そして、遠くない未来で、ヤバいことが起きる。だから、未来に起こるそれを解決するために、俺は、『正しくない正義を貫く覚悟』を決めた」
レイエスはそうつぶやく。
「俺達がやっていることは、俺たちが望む平和に取って必要なことだと俺は思ってる。だが、正しいことじゃない。だから、人が傷つくことだって当然ある」
「そうやって正しくないことをしているお前たちを踏み台にして、本当の成功を掴むヒーローの出現。お前たちはそれを待っているわけか」
「そういうことだ」
遊月はレイエスが言いたいことが分かった。
「正義と悪なら、絶対に悪の方が早く、悪が動いたからと言って、正義がすぐに動きだすことはない。必ず、悪に近い正義が動かなければ、正義は動かない。お前たちはそう考えているわけか」
「そういうことだ。俺達『アンダーカード・ブレイブス』は、それを信念に暗躍している」
「……まあ一つ確実なのは……」
遊月は呆れながら言った。
「鶏肉売り場で話すようなことじゃないな」
「……確かに」
レイエスは頷いた。
そして、そのままかごを持ったまま歩きだした。
遊月は大きく溜息を吐いた。
『なるほど、いろいろ抱えていることがあるわけか』
ドーハスーラが遊月の傍に出現。
店内なので『超デフォルメモード』である。
具体的に言うと、ギャグ漫画に出てきそうなドクロマークみたいな体から、短い蛇の体と小さな杖がぴょこっと出ている。少なくとも人形として店に並べても売れないだろう。
なんとも訳の分からん姿だが、実は戦闘能力は本来の姿の時と変わらないのだ。初見殺しにもほどがある。
ちなみに、こういった狭い空間では、『真紅眼の不屍竜』の場合は『真紅眼の幼竜』で出現する。
(まっ。そんなもんだろ。本質的に悪である存在を除いて、人間は悪い奴がいるんじゃなくて、誰だって悪い奴になれる。レイエスたちは、自分から憎まれ役を請け負うことにした。ただそれだけのことだ)
『とはいえ、我には理解できんな。何を義務だと感じているのかが大きく異なるからだと思うが』
(世の中にはな。いろんな覚悟ができるやつと、そしてできないやつがいる。同じように見えて中身が全然違うとき、大体それらがバラバラなんだよ)
『それは分かるが、自立するというのは適切に頼れることだ。悪であることをただ請け負うだけなど、組織として未熟だと思うが?』
(ドーハスーラが言ってることも間違ってないんだろうな。『一匹狼』を『独りよがり』の違いすら分からないやつだったのに、大きくなったなお前も)
『大きなお世話だ』
ドーハスーラが引っ込んだ。
そんなドーハスーラをほほえましい目で見た後、遊月も鶏肉をカゴに突っ込んでレジに向かって歩きだした。
★
「あ、もうこんな時間か。皆。ごめんね」
大束綾羽の門限は厳しい。
午後六時ごろには家にいるくらいのタイミングで必ず迎えが来るくらいだ。
「大丈夫だって」
「そうそう。綾羽の家って厳しいもんね」
ただ、綾羽本人はこういう性格なので、周りとの関係はそれなりに良好である。
「今日も圭吾はどっかにいってるしな」
「まあでも、適当に使えって言って三万円おいていくような奴だけどな……」
精霊カードにそれなりに執着を持っていたが、最近はそのような様子もない永石圭吾。
さらに言えば、その執着は精霊カードにのみ向けられるものだったので、それがなくなれば好青年である。
言ってしまえば『横暴な印象がある程度の俺様系』と言ったところか。
そしてかなり太っ腹であり、こうして集まるようなタイミングで永石だけが来れないとなった場合。だいたいこうして現金を渡してくる。
しかもかなりの額だ。
「あ、あはは……じゃあ、これで」
そういって、正門の近くのベンチで話していた彼らの輪の中から外れる綾羽。
これから家に戻って、そのまま特訓することになるのだろう。
心配だった香苗の問題がなくなったからなのか、表情はそれなりに優れている。
だが、この日は少し違う。
正門を出た時だった。
「お久しぶりですね。綾羽さん」
「!……久しぶりだね。月詠さん」
綾羽が振り向くと、一人の女子生徒が立っていた。
大人びた印象がある。と言ったところだろう。
遊月のような年寄り臭さと言うよりは、まだ若い女性と言ったものだ。
長い金髪を伸ばしており、迷いがなくどこか達観した印象を与える瞳で、貴族の令嬢のような雰囲気だ。
そしてなにより……その胸は大きい。
大束とか香苗も胸は大きいのだが、それに匹敵、と言うかそれより大きいだろう。
別に大きすぎるというわけではないが。
デュエルスクール・アムネシア生徒会長。
「……私はこれから特訓があるので……」
「フフフ♪一回でかまいませんから。つきあってもらえるとうれしいです」
そういってデュエルディスクを構える月詠。
チラッと視線を動かすと、すでに迎えの車がきていた。
運転手がこちらを見ながら電話している。
すると、電話をやめて、こちらから視線を外した。
「……分かりました」
綾羽もデュエルディスクを構える。
「そうこなくては……同世代のISD、しかも同じパターンであるあなたと一度戦っておきたかったので」
「私は……逃げたあなたとは違います」
「そうでしょうか?囚われていたことに気が付いた。と言ってほしいですね」
お互いに含んだような言い方をする二人。
あとはカードで語ろうということなのだろう。
お互いにカードを五枚引く。
「「デュエル!」」
綾羽 LP8000
月詠 LP8000
「私の先攻。手札から『ヘカテリス』を捨てて、『神の居城-ヴァルハラ』を手札に、そのまま発動。手札から『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』を特殊召喚!」
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト ATK2600 ☆8
「さらに、手札から『フォトン・サンクチュアリ』を発動して、トークンを二体特殊召喚」
フォトントークン DFE0 ☆4
「そして、トークン二体をリリースして、『天帝アイテール』をアドバンス召喚!」
天帝アイテール ATK2800 ☆8
「効果発動。デッキから『汎神の帝王』と『真源の帝王』を墓地に送り、『光帝クライス』を特殊召喚!」
光帝クライス ATK2400 ☆8
「そして、モーツァルトの効果を発動。手札から『大天使クリスティア』を特殊召喚!」
大天使クリスティア ATK2800 ☆8
「墓地の『汎神の帝王』を除外して効果発動。本来は選ばせるけど、私は『連撃の帝王』三枚を見せることで、一枚を手札に加える。カードを一枚セットして、ターンエンド。クライスは手札に戻るよ」
モーツァルト。アイテール。そしてクリスティア。
手札はクライスのみだが、セットした『連撃の帝王』を使うことで出すことが可能。
悪いというものではないだろう。
ほとんどのデッキなら、大天使クリスティアを突破できないことだってある。
だが、対戦相手の月詠の表情は落ち着いたままで、逆に、綾羽の表情は優れない。
「さすがお嬢様。大型モンスターを展開し、封殺効果として最高峰の一角であるクリスティアまで並べるとは……」
運転手の男性が自分をほめるが、まるで『言った通りに出来ていること』『想定した通りの動きができていること』を褒めているようで、綾羽にしかできないことを求められている気がしない言葉だ。
そんな男性の言葉を聞いて、月詠は一瞬だけ頬を動かすが、すぐに戻す。
「ふむ……ランク8のモンスターは出さないようですね」
「……私は、渡されたデッキしか使えない」
「あら?そういえばそうでしたね。私たちは本来そうでした……まあ、あなたが
カードを引く月詠。
「私は手札から、『時械神ミチオン』をリリースなしで召喚します」
時械神ミチオン ATK0 ☆10
「なっ……」
現れた十の神の一角。
だが、綾羽の驚愕は、それそのものではない。
(よりによってミチオン……)
自分フィールドにモンスターがいない場合、リリースなしで召喚できる。
これが時械神の特徴。
一部を除いて貧弱と言っていいステータスだが、抜群の耐性を誇り、除外やバウンスなどをデッキの中で考慮しない場合は強固な壁となるモンスターだ。
「私のデッキは【時械神】……昔からの付き合いですから知っているはずですよ?こうしてデュエルするのは初めてですが」
「分かってる」
「では、ミチオンの固有効果も覚えていますね」
「当然だよ」
「フフフ♪バトルです。ミチオン。クリスティアを攻撃しなさい」
ミチオンは自らの前に球体を生み出すと、それをクリスティアに射出する。
攻撃力0のミチオンが、攻撃力2800のクリスティアを破壊することなど当然不可能。
しかし、時械神はその貧弱なステータスとは裏腹に、攻撃しまくるデッキだ。
「バトルフェイズは終了。ミチオンの効果を発動。相手のライフを半分にします」
「ぐっ……ああああ!」
綾羽 LP8000→4000
一気にライフを半分にしてくるミチオン。
時械神にも序盤型、中盤型、フェニッシャーなどいろいろいるが、ミチオンはその序盤の中でも筆頭だ。
相手のライフを半分にする。
単純にして明快なカードである。
「ば、バカな……我々が作ったデッキが、こんな簡単に……」
男性も驚いているが、リリースなしで召喚可能で、しかも戦闘でも効果でも破壊できない時械神に対して、単なる『ヴァルハラビートダウン』では相性最悪である。
「私はカードを二枚セットしてターンエンド。さて、綾羽さんのターンですよ」
「わ、私のターン。ドロー!」
勢いよくカードを引く綾羽。
だが、まだ表情は優れない。
一体どうすればいいのかわからない。
そもそも……時械神など、レベル8を並べられるのなら『神竜騎士フェルグラント』でもぶっさしておけば十分だ。
だが、それはできない。
あらかじめ決められたデッキでなければ、綾羽が持つデュエルディスクは作動しない。
しかも、幼いころに体の中に入れられたナノマシンの影響で、今綾羽が使っているディスク以外、使うことができないのだ。
何度も何度も使ってきたデッキ。と言えば聞こえはいいが、こう言った場合の手段はあまりにも少ない。
ドローしたカードを見る。
「……まだいける。私は『帝王の烈旋』を発動。相手モンスター一体を、アドバンス召喚のリリースのかわりにできる」
「やはり運命力は上がりましたね」
ミチオンが消滅していく。
「私はミチオンをリリースして、『光帝クライス』をアドバンス召喚!」
光帝クライス ATK2400 ☆6
「なるほど、ここでクライスをアドバンス召喚ですか……それで、私のセットカード二枚を破壊しますか?」
「しないよ」
即答する綾羽。
そもそも【時械神】であれば、あの永続罠カードを伏せている可能性がある。
そうなれば単なる無駄打ちだろう。
だが、後ろにいる男性は違った。
「何を言っている。クライスは攻撃できないが、ここは破壊するべきだ!」
「私は――」
「分かっていないようだな。君に、我々の意見を拒否する権利はない」
「!」
綾羽はギリッと歯ぎしりした後、宣言する。
「私は……光帝クライスの効果で、セットカード二枚を破壊する!」
「……残念です。罠カードを二枚オープン。『虚無械アイン』『威嚇する咆哮』です。威嚇する咆哮の効果で高貴宣言を封じます。アインは一ターンに一度、効果では破壊されません」
「ば、バカな……」
男性が驚いている中、ミチオンは復活する。
クライスは光球を二つ生み出すと、それを飛ばした。
だが、アインは破壊されず。既に効果処理の済んだ『威嚇する咆哮』だけが破壊される。
時械神ミチオン DFE0 ☆10
「威嚇する咆哮が破壊されたことで、私は一枚ドロー」
そして……。
「私はターンエンド」
「エンドフェイズ。私はアインの効果を発動。墓地のミチオンをデッキに戻すことで、『無限械アイン・ソフ』をセットします」
無慈悲と言えば無慈悲なものだが、これが普通である。
「そして私のターンです。ドロー」
月詠は静かにカードを引く。
「まだ、クリスティアがフィールドにいるのだ。うまく動くことは……」
「先ほどから、後ろからうるさいですよ」
「なっ……御堂月詠。我々のプロジェクトから脱走した貴様が言うのか!」
「私は施設から出ただけで、そこからは逃げも隠れもしませんでしたよ?いえ、一夜ほど、殿方の家に一宿しましたが、それだけです。逃げる私を捕まえることすらできなかったあなた達が、一体何を語るというのです」
「ぐっ……」
「今はデュエルの途中です。続けましょう。手札から『時械神カミオン』を召喚です」
時械神カミオン ATK0 ☆10
出現する第二の時械神。
「!」
「バトルフェイズ。カミオン。クリスティアを攻撃しなさい」
当然、戦闘破壊もダメージもない。
「そしてバトルフェイズ終了時、カミオンの効果で、クリスティアにはデッキに戻ってもらいますよ」
「クリスティア!」
綾羽の言葉は届くはずもなく、クリスティアは消滅した。
綾羽 LP4000→3500
「メインフェイズ2。私は手札から『ワン・フォー・ワン』を使い、手札の『時械神ラツィオン』をコストに、『時械巫女』を特殊召喚」
時械巫女 DFE0 ☆1
「そして、『無限械アイン・ソフ』を、アインを墓地に送ることで発動。その効果により、ラツィオンをデッキに戻すことで、デッキから『無限光アイン・ソフ・オウル』をセットします」
「これは……」
「私は『時械巫女』をリリースして効果発動。デッキから『時械神サンダイオン』を手札に加えます。そして、カードを一枚セット、ターンエンドです」
「私のターン。ドロー!」
綾羽は祈るようにカードを引く。
「私はアドバンス召喚したモンスターであるアイテールをリリースして、二体目の『天帝アイテール』をアドバンス召喚!」
天帝アイテール ATK2800 ☆8
「効果を発動。デッキから――」
「無駄です。私は『帝王の轟毅』を発動。通常召喚したレベル5以上のモンスターであるカミオンをリリースすることで、その効果を無効にします。そして一枚ドロー」
「なっ……」
無効にされた。
いや、それだけならまだいい。
月詠のフィールドががら空きになったが、こうなってしまっては止められない。
「私はアイン・ソフを墓地に送り……『無限光アイン・ソフ・オウル』を発動」
発動される三つの輪。
その神々しさは、通常のカードを超える。
「化身カード……」
「アイン・ソフ・オウルの効果発動。私は墓地のカミオン。手札のサンダイオン。デッキのラフィオンを特殊召喚します」
時械神カミオン ATK 0 ☆10
時械神サンダイオン ATK4000 ☆10
時械神ラフィオン ATK 0 ☆10
「そ……そんな……」
「デュエリストはデッキの魂。与えられただけのデッキの中に、あなたはいません。することがないのであれば、何をしても無駄だと思っているのであれば、ターンを終了しなさい」
「た……ターンエンド」
「私のターン。ドロー。バトルフェイズです。ラフィオンとサンダイオンでアイテールを攻撃」
お互いにダメージはない。
サンダイオンは攻撃力4000だが、お互いに戦闘ダメージを受けない効果がある。
「バトルフェイズは終了。ラフィオンとサンダイオンの効果により、2800と2000のバーンダメージを受けてもらいます」
「うああああああ!」
綾羽 LP3500→700→0
簡単にライフが消し飛ぶ。
「ば、馬鹿な。我々の計画通りに作り上げてきた筈……それを、こんな裏切り者に……」
「あなたに言うことはありませんよ」
そういうと、月詠は綾羽に背を向ける。
だが、まだ言いたいことがあったのか、顔だけ振り向いた。
「私が、そしてレイエス・アドベントが、逃げたと思っていますか?別にそれは構いませんよ。ただし、そうすることでしか心を保てないというのなら、予測された強さしか身に着けることはできません」
「!」
「それから……これは個人的なアドバイスですが、滅私奉公よりも、恋を優先するべきです」
「えっ……ええ!」
なぜ知っているのか。
「最近暇になりましたので、自宅で私は寝泊まりしますからね。また会いましょう」
そういうと、月詠は校舎のほうに戻っていった。
「……」
「お嬢さま。わかっていますね」
「……っ!はい」
返事をする綾羽の声は、後悔しか含まれていない。
いや、それは今までのことだったか。
今は何か……こう……違う何かがあるような。そんな気がする。
(ちょっと、迷惑かけてもいいかな……遊月君)
少なくとも、そんなやんちゃなことを考えることができるくらい、このデュエルで成長できたといえば、あの生徒会長の思惑通りだろう。
もっとも、その程度であれば、遊月からすればかわいいものに違いない。
……ちなみにその夜。香苗に相談して、『うにゅうううううああああああああああ!』という訳の分からないと言うより有り得ない奇声がでたのは黒歴史であり秘密である。
すでに居候してるってどういうこっちゃ。ということなのだが……いずれにせよ香苗に罪はない。綾羽の中で、開いてはいけない鍵が開いただけである。