「……」
「……」
夜、真夜中というほどではないが、夜といっていい時間。
学校からそこそこ離れた位置にある遊月の自宅。
その玄関で、学校の制服姿で、百枚を超えない程度のカードと学生鞄を持った綾羽が、寝間着であきれ顔になっている遊月と向かい合っている。
「……(チラッ)」
遊月は玄関から目を離して、後ろを向いた。
そこには、廊下の角から、びくびくしながらこちらを見ている寝間着姿の香苗がいた。
まあなんというか。あれだ。『怒られる五秒前』みたいな雰囲気である。
遊月は再び綾羽のほうを向く。
「……まああがれよ」
「うん」
とりあえず中に入れた遊月。
「晩飯食べてるのか?」
「え、うん。食べてる」
「わかった。とりあえずリビングに入れ」
そういいながらリビングに入る。
そこそこ広い部屋だ。
ゲーム機が置いてあって、格ゲーの真っ最中だったようだ。
男性キャラのHPがすべて消失し、女性キャラのHPが満タンなのだが……。
「えっと……その……」
「月詠からいろいろ聞いてるし、私もISDについては知っている。事情は説明しなくていいから、何をしたいのかまず考えろ」
「あ……うん」
言いにくいことはすべて察する遊月。
だからこそ、悩んでいるほうは余計なことを考えなくてもいい状況が生まれるのだ。
それくらいのフォローができるくらいは生きている。
「それと……」
遊月はカードを一つ渡した。
「……なにこれ」
「部屋のカードキーだ。どうせここに住むつもりなんだろう。香苗から話を聞いて、そんな荷物を持ってきたみたいだからな」
「そ、それはそうなんだけど……その……」
「言いにくいことを言えと言っているわけじゃない。まさか自分に黙秘権がないと思っているわけじゃあるまいし、まずはゆっくりしろよ」
「あ、ありがとう」
言葉の数が少ない綾羽。
その代わり、慣れている遊月がすべて言う。
まあ、こんな男だから頼られるわけなのだが、こればかりは遊月の経験値の問題である。
「で、スマホか何か持ってきてるのか?」
「も、持ってきてない。私が使うスマホも、デュエルディスクも、全部GPSがついてるから……」
「電子機器を持たずに家から飛び出すなんてな。まあいいか……なら、代わりにこれつかえ」
遊月は近くの引き出しのカギを開けると、そこからスマホとデュエルディスクを取り出して、綾羽に渡した。
どちらも黒い塗装のものである。
「え、これ……」
「見ての通りだ。パスワードを何も設定してないし、アプリはほとんど入れてないから、自由に使え」
「でも……」
「でももくそもない。スマホはとにかく、ナノマシンのせいで普通のデュエルディスクが使えないはずだ」
「な、何で知って――」
「言ったはずだ、私はISDについて知っていると」
綾羽は黙った。
「当然。それを研究している機関についても知っている。ナノマシンを無効化するディスクを使うことになるとは思ってなかったが……まあ問題はない。スマホには電子マネーがそれなりに入ってるから、何か買うときはそれをつかえ」
「あ、あの……」
「なんだ?」
「なんで、ここまでしてくれるの?」
純粋な疑問だ。
何をどう考えても、綾羽は迷惑をかけに来た側だ。
さすがに何かを手伝うつもりではいたが、だからと言って、何も言わないうちからここまでしてくれるとは思っていなかった。
「ここまでしておけば、とりあえず当面の問題はなくなるからだ。そうしないとスタートラインに立てない」
「でも、私、迷惑をかけに来ただけで……」
「まあ、とりあえず……」
遊月はあくびをした後、呑気な口調で続ける。
「私は、私に惚れた女の前でダサいことはしない。いろいろ準備することがあるから、香苗と適当にしゃべっていろ」
そういうと、遊月は部屋を出て行った。
綾羽は言われたことを頭の中で反芻して……。
「う……うううううううぅぅぅぅぅ!」
どこに気持ちを持っていけばいいのかわからない感じになった。
とりあえずソファのクッションを殴りまくる。
だからこそ、気が付かないのだ。
「……」
こちらをじーっと見ている香苗がいることに。
数秒殴りまくった後で、綾羽は香苗がいることに気が付いた。
「いや、あの、香苗ちゃん。これは……」
「クッションがどうかしたのですか?」
香苗がアホな子でよかったと綾羽は十割くらい本気で思った。
たまに天然が入って救われた気分である。
「いや、まあ、あの、何でもないんだけどね。うん……ここに住むことになっちゃった」
「私もそんな感じです」
香苗も同じだ。
自分から押しかけたはずなのに、遊月が強引過ぎて、まるで遊月のほうから抱え込みに来たような感じになる。
おそらくそれは、遊月が慣れていて、ちょっとめんどくさがり屋だからだろう。
話を早く進めようとすれば、押しかけて来た側の意見なんて聞いてられない。
だから、それがちょっと強引に見えるのだ。
「なんていうか……時間をかけなくていいとわかっていることは、本当にすぐにやるんだよね。遊月君」
「そうですね。お兄ちゃんは頼りになりますから」
「うん……ん?お兄ちゃん?」
「はい、お兄ちゃんって呼んでもいいですかって聞いたら、良いって言ってくれました!」
『パァ……』といったひまわりのような表情でそういう香苗。
曇っている部分が何一つない、いい笑顔である。
綾羽は顔が赤くなった。
「んな……ぐぬぬ……!」
なんというかこう……うらやましいことがすべて先取りされているような感じがして、すごく悔しい綾羽。
「綾羽さんはどうなんですか?」
「わ、私はその……ゆ、遊月君のことがす――」
「おーい綾羽ー。風呂入れたぞー」
遠くから遊月のだらしない声が聞こえた。
「んーーーーーもおおおおおおお!」
狙ってんのか!狙ってんだろ!?
そんなことを叫びたいが、なんだかいうのは負けた気がするので恥ずかしい。
しかも……。
「あははははは!」
香苗は腹を抱えて爆笑している。
「わらうなーーー!」
「い、いひゃいへふよー」
我慢できなくなって両手で香苗の頬をつねる綾羽。
なんだかこう。怒りを遊月本人に向けることができなくて、代わりに香苗にぶつけているような、言ってしまえばものすごく惨めな感じである。
「むぐぐぐぐ」
数秒で香苗を開放し、何を言えばいいのかわからず風呂に向かう綾羽。
不安だったこととか、悩んでいたこととか、そういう部分は、かなり薄れているようだ。
★
『フフフ。さすがにあの銀髪の嬢ちゃんは無理だが、あの女の裸は覗いてやるぜ』
まだ煩悩が爆発しているグローアップ・ブルーム。
そーっと脱衣所に進んでいく。
だがしかし、この家には、遊月でも香苗でもなく、そして列車たちでもなく、まだ存在がいるのだ。
『あー!ゾンビはな!』
『なんだその名前!』
灰流うららである。
デッキに投入できないため普段は別の場所で保管しているが、ちゃんと持ってきた。
で、綾羽と香苗が話しているときの空気に入り込めなかったのでこうして精霊たちがたくさんいる場所で戯れようとしている。
『ハッハッハ!ゾンビはな!ゾンビはなだって!我の腹筋がやばい!』
『チキングよりましだ』
『うるせえ!え、ちょっと待って、それって定着してるの!?』
超デフォルメモードのドーハスーラと、『真紅眼の幼竜』姿のレッドアイズが来た。
『あ、精霊連れてたんだね~』
『なかなか活発そうなお嬢さんだなぁ……』
『幼い子が増えました』
『まあ、若いもんが元気そうなのは年寄りには目の保養じゃよ』
陽気なライナー、グータラ系のグスタフ、インテリ風のドーラ、おじいちゃんみたいなリーベ。
子供のおもちゃみたいなサイズになっている。
香苗のそばにいる精霊だ。
『……騒がしいのが来た』
遠くからそれをジト目で見つめる『儚無みずき』
もとは『幽鬼うさぎ』だったのだが、『なんだかサイキック族だとつかわれなさそう』ということで、思いっ切ってアンデットワールドに飛び込んでアンデット化したようだ。
なお、『幽鬼うさぎ』と『儚無みずき』は手札誘発同士だが、元ネタとしてあまり関連性はない。
ちなみに一番驚いたのは遊月である。
そもそも、うさぎだったときは精霊ですらなかったのだから。
『あっ!おもちゃ!』
うららが列車たちを見てそんなことを言った。
そしておいかける。
『あ、追ってきましたね』
『ほっほっほ、元気じゃのう』
『よーし、迎撃してやる!グスタフ!』
『えー。めんどくさいなぁ。でもまあ僕の必殺技、『スーパースペシャルブランクショット』をお見舞いしてやるか』
『我よりだらしなさすぎるぞ!『ブランクショット』って『空砲』だろ!?』
『え、チキングって英語できたのか?』
『文法は即座にジエンドだがオタクだからかっこいい単語には強いぞ』
『それって単なる勉強不足。あと、チキングを訂正させてない』
というより騒がしい。
『とにかく、僕はあの女の裸が見たい!胸大きいしい良い形のおしりなんだもん!』
『ダメ!』
香苗の尻はそうでもないといいたいのだろうか。
それはともかく、うららがブルームを持ち上げて、花のところを持って振り回し始める。
『おええええええ。ちょっとストップストップ!』
なんだか一方的だが、そもそもブルームは効果は優秀だがステータスは貧弱であり、何より効果ではうららとは相性最悪である。
『よし、今のうちに逃げろ~!』
ライナーが逃げ始める。
それに続いて他の列車たちも逃走。
『あ、まって!』
うららはブルームを振り回しながらライナーたちを追った。
『ちょっ。待って!まずおろしてくれええ!』
『まてえええ!列車なら線路を走りなさーい!』
確かに。
『ハッハッハ!線路なんて関係ないよ~』
列車なのにそれでいいのか?ライナー。
……で、角を曲がって消えて行った精霊たちを見て、ドーハスーラ、レッドアイズ、みずきは顔を見合わせる。
『……平和だな』
『平和なの?』
『みんなで騒げるということは、余裕があるということだ。平和であろうな』
『ふーん』
みずきはぞんざいに返答すると、そのまま遊月の私室に入っていった。
『さて、我らも追いかけるか、我は騒がしいほうが好きだぞ』
『俺も嫌いじゃないな』
というわけで、ドーハスーラとレッドアイズもうららたちを追うのだった。
★
そして真夜中。
ピンクの寝間着を着た綾羽は、遊月の私室の前に忍び足で来た。
そして少しだけ扉を開く。
中では、ベッドで遊月が寝息を立てていた。
(……よしっ!)
何がだ。という疑問など通じるわけもなく。
綾羽がもう少し扉を開けようとしたとき……。
気配を感じて振り向くと、枕を抱いてこちらに来ている香苗がいた。
「!!??」
「!?!?」
お互いに『なぜここに!?』と言いたそうな雰囲気だが、とりあえず綾羽は扉を閉じる。
そして、香苗の方を向いた。
「香苗ちゃん。この家って、地下にデュエルできるスペースがあったよね」
「望むところです」
というわけで、お互いに自分の部屋に戻って、ものすごく真剣な顔でデッキを見て、デュエルディスクを持って地下に行く。
綾羽がいったとおり、地下にはデュエルコートが存在する。
高さは最低限だが、そんなことはこの際関係ない。
お互いにデュエルディスクにデッキをセット。
デッキがシャッフルされる。
「フフフ。香苗ちゃん。手加減なしだからね」
「わかっています。一発勝負です!」
「「デュエル!」」
綾羽 LP8000
香苗 LP8000
お互いに何をかけているのかすら言わず、始まったデュエル。
しかもお互い寝間着である。パジャマ姿でデュエルしているというレアケースだ。
当然のようにこそっとブルームがビデオカメラを持ちだして記録中である。
先攻は香苗。
「私の先攻。まずは『転回操車』を発動です!」
即座に発動されるフィールド魔法。
香苗のデッキの潤滑油である。
「そして私は、『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を妥協召喚!」
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト ATK0 ☆10
そして出て来る深夜急行。
もしかしてバレット・ライナーじゃなくてこちらが精霊なのではないかと思うほどの召喚回数である。
「そしてこの瞬間、転回操車の効果発動です!」
「甘い!手札から『灰流うらら』の効果発動。『転回操車』の効果を無効にするよ!」
うらら登場。
『えいっ!』
出てきたうららは綾羽から離れて、転回操車のブレーカーを落とした。
((あ、そう言う感じなんだ))
『お姉ちゃん!頑張ってね!』
そういうとうららは消えていった。
「むむ、転回操車は止められましたが、手札から『弾丸特急バレット・ライナー』を特殊召喚です!」
『よーし。行くよ~!』
弾丸特急バレット・ライナー ATK3000 ☆10
楽しそうに登場するバレット・ライナー。
「さらに、『アイアンドロー』を発動して二枚ドローです」
カードを二枚引く香苗。
あと一回しかモンスターを特殊召喚できなくなった。
「私はレベル10のナイト・エクスプレス・ナイトと、バレット・ライナーで、オーバーレイ!全てを守る盾を手に、いざ、出陣!エクシーズ召喚!ランク10『No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ』!」
No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ DFE4000 ★10
『まずは私からですね』
先攻一ターン目。
そう考えれば悪くはない性能を誇るドーラ。
壊獣にはさすがに無力だが……。
「私はカードを一枚セットして、ターンエンドです!」
残した手札は二枚。
「私のターン。ドロー!」
元気よくドローする綾羽。
うららを使ったので五枚スタートである。
「私は『トレードイン』を使って、『The splendid VENUS』を捨てて二枚ドロー。『天空の宝札』を使って、『大天使クリスティア』を除外して二枚ドロー」
手札を入れ替えていく綾羽。
(ヴァルハラスタートじゃないですね。珍しいです)
香苗はそんなことを思ったが、デュエルに集中する。
「私はモンスターをセット、カードを三枚セットして、ターンエンドだよ」
「それなら、ドーラの効果を使って、自身が効果を受けなくなります。そして、墓地に送ったバレット・ライナーの効果で、デッキから『重機貨列車デリックレーン』を手札に加えます」
準備完了。といった表情の香苗。
「私のターン。ドロー!」
「スタンバイフェイズ。『戦線復帰』を発動。墓地の『The splendid VENUS』を守備表示で特殊召喚するよ」
The splendid VENUS DFE2400 ☆8
「VENUSの効果で、天使族モンスター以外のモンスターの攻守は500下がるよ」
No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ DFE4000→3500
「ですが、まだまだ大丈夫です!私は『爆走軌道フライング・ペガサス』を通常召喚!」
爆走軌道フライング・ペガサス ATK1800→1300 ☆4
「そして、フライング・ペガサスの効果を発動!墓地からバレット・ライナーを――」
「無駄だよ。チェーンして『奇跡の光臨』を発動。『大天使クリスティア』を特殊召喚!」
大天使クリスティア ATK2800 ☆8
「む……なら、ドーラを攻撃表示に変更します!」
No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ DFE3500→ATK2900
「バトルフェイズ。ドーラでクリスティアを攻撃!」
「罠カード『和睦の死者』を発動」
これで守られる。
「メインフェイズ2です。私はカードをニ枚セットして、ターンエンドです」
「私のターン。ドロー!」
カードを勢いよくドローする綾羽。
伏せカードは使いきったが、これで手札は二枚。
「私はVENUSを攻撃表示に変更するよ」
The splendid VENUS DFE2400→ATK2800
「そして、セットしたモンスターを反転召喚。『勝利の導き手フレイヤ』!フレイヤが場にいる限り、私のフィールドの天使族モンスターの攻守は400アップするよ」
勝利の導き手フレイヤ ATK 100→ 500
The splendid VENUS ATK2800→3200
大天使クリスティア ATK2800→3200
「ドーラの攻撃力を超えてきましたね……でも……」
「フフッ。バトルフェイズ!VENUSで、フライング・ペガサスを攻撃!」
香苗 LP8000→6100
「そして、クリスティアでスペリオル・ドーラを攻撃!この瞬間、手札から『オネスト』の効果を発動!」
大天使クリスティア ATK3200→6100
「やはり握っていましたか……『ガード・ブロック』で、ダメージを0にします!そして一枚ドロー!」
……強い。
香苗は普通にそう思った。
爆発力がある列車デッキに対して、奇襲性、制圧力のある天使族。
先にガチガチに固めたほうが強いのは分かっていたが、ヴァルハラを使わず、本来のデュエルをする綾羽が強い。
「そして、フレイヤでダイレクトアタックだよ」
フレイヤがポンポンを使って香苗の頭をたたく。
当然、大したダメージではない。
香苗 LP6100→5600
「私はカードを一枚セット、これでターンエンド」
大天使クリスティア ATK6100→3200
「私のターン。ドロー!」
香苗はカードを見る。
正直『おっ!』と思った。
「私は『皆既日蝕の書』を発動します!」
綾羽のモンスターがすべてセット状態になる。
しかし……【列車】デッキで皆既日蝕とは……デメリットを考えれば、場を壊滅させる気満々である。
「セットしていた『緊急ダイヤ』を発動。デッキから『弾丸特急バレット・ライナー』と『爆走軌道フライング・ペガサス』を特殊召喚です!」
『またまた登場だZE!』
弾丸特急バレット・ライナー ATK3000 ☆10
爆走軌道フライング・ペガサス ATK1800 ☆ 4
「フライング・ペガサスの効果で、墓地からナイト・エクスプレス・ナイトを特殊召喚して、さらに、手札からデリックレーンを特殊召喚!」
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト DFE3000 ☆10
重機貨列車デリックレーン ATK1400 ☆10
「そろってきたね」
「はい。そして行きますよ!出てきてください。重機を呼び起こすサーキット!」
アローヘッド確認。
「召喚条件は、機械族二体。私はフライング・ペガサスとバレット・ライナーを、リンクマーカーにセット!新たな設計図で、いざ連結!リンク召喚!リンク2『機関重連アンガー・ナックル』!」
機関重連アンガー・ナックル ATK1500 LINK2
「さらに、ナイト・エクスプレス・ナイトとデリックレーンでオーバーレイ!全てを砕く大砲を装着し、いざ発進!ランク10『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』!」
超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000 ★10
『あーだるい』
全然やる気がないグスタフ。
「グスタフ・マックスの効果発動。2000ポイントのダメージです!」
「うわっ!『ダメージ・ダイエット』を発動!」
でも効果はちゃんと使う。
綾羽 LP8000→7000
「デリックレーンの効果発動。対象はクリスティアです!」
裏になっているが、どこにあったのかはさすがに覚えている。
クリスティアが撥ねられた。
「さらに、グスタフ・マックスでオーバーレイ!全てを滅する力を得て、いざ、出動!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!ランク11『超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ』!」
超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ ATK4000 ★11
『ホッホッホ。さて、老骨に鞭打つをするかのう』
お前のどこに骨があるんだ。
「リーベの効果を発動。攻守を2000ポイントアップです!」
超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ ATK4000→6000
「『エクシーズ・リボーン』を発動。戻ってきてください。ドーラ!」
『任されました』
No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ ATK3400
「そしてバトルフェイズ!リーベで二体のモンスターを攻撃!」
VENUSとフレイヤが撃ち抜かれる。
「そして、ドーラとアンガー・ナックルでダイレクトアタックです!」
「ダメージは半分だよ!」
綾羽 LP7000→5300→4550
なんだか全然削れなかった気がするのはきっと気のせいだろう。
「メインフェイズ2に入って、カードを一枚セット、このままターンエンドです」
「ふう、モンスターがいなくなったし、皆既日食のドローもできないね。だけど……私のターン。ドロー!『強欲で貪欲な壺』を発動して、十枚除外して二枚ドロー。『マジック・プランター』で、『奇跡の光臨』をコストに二枚ドロー!」
綾羽は手札を見て、そして笑顔になった。
「香苗ちゃん。このデュエルもらった!」
「!」
「私は手札から『ヘカテリス』を捨てて、『神の居城-ヴァルハラ』を手札に加える」
「来ましたね……」
「そしてヴァルハラを発動!」
発動されるヴァルハラ。
だが、香苗が感じたのは疑問だった。
香苗はISDを知らない。
しかし、遊月や綾羽、そして英明が何か特別なカードを持っていることは何となくわかる。
よくわからないが、精霊たちと接しているような感覚だ。
しかし、その感覚が、今は感じられない。
特別なものではなく、『普通のカード』を使っているような、そんな感覚。
「効果発動!手札から『マスター・ヒュペリオン』の特殊召喚!」
マスター・ヒュペリオン ATK2700 ☆8
「効果発動。へカテリスを除外して、ジャガーノート・リーベを破壊する!」
「それなら、ドーラの効果を発動です。リーベを守ります!」
「……助かったよ」
「え?」
「だって……ドーラの効果を私のモンスターに使われたら、私が使う効果も受け付けないからね」
「え……あっ!」
気が付いたようだ。
「なら、私は『収縮』を発動です。マスター・ヒュペリオンの攻撃力を半分にします!」
マスター・ヒュペリオン ATK2700→1350
攻撃力が下がるマスター・ヒュペリオン。
だが、綾羽の表情は曇らない。
「香苗ちゃん。それはバトルフェイズに入ってからするべきだったね。私の切り札を見せてあげるよ!手札から『儀式の下準備』を発動。デッキから『エンドレス・オブ・ザ・ワールド』と『破滅の女神ルイン』を手札に加える」
「る……ルイン!?」
「そして『エンドレス・オブ・ザ・ワールド』を発動。マスター・ヒュペリオンをリリース」
マスター・ヒュペリオンが消滅する。
「破滅した世界より、希望を手に、自壊する魂を導くべく降臨せよ!儀式召喚!『破滅の女神ルイン』!」
破滅の女神ルイン ATK2300 ☆8
光臨するルイン。
それに対する香苗の表情は、まぎれもなく驚愕だった。
そもそも、香苗は綾羽のデッキで、特殊召喚モンスターを見たことがなかったのだ。
「バトルフェイズ。ルインでジャガーノート・リーベを攻撃。そして手札の『オネスト』の効果を発動。攻撃力分アップさせるよ」
破滅の女神ルイン ATK2300→8300
「攻撃力……8300!?」
この前12000をたたき出したのはどこのどいつだ。
「ルイン。行くよ!」
ルインの槍がリーベを貫通する。
香苗 LP5600→3300
「そして、追加攻撃でドーラを攻撃。これで、私の勝ち!」
香苗 LP3300→0
デュエル終了。
★
「つ……強かったです」
「まあね。これが私のデッキなんだよ」
デュエル後。
綾羽と香苗はそのまま話していた。
「今まで、決められたデッキしか使えなかったから、ルインを入れることができなかったんだよ」
「それで、お兄ちゃんからデュエルディスクをもらって、使えるようになったということですね」
「うん」
そして、二人ともわかっていた。
なかなか話しださないが、ルインが精霊だということに。
とはいえ、まだ時期ではないのか、いくら呼びかけても返事がない。
嫌われているわけではなさそうなのだが、それでも、思うところはある。
と思ったら、うらら登場。
『え、あのひんにゅーのおねえちゃんがどうしたの?』
((あっ……))
次の瞬間。
『だれが貧乳ですって?』
『いたたたたたた!』
ルイン降臨。
そして、そのままうららの頭をがっちりつかんで持ち上げていた。
『も、もういいませんから許してください』
『よろしい』
そういうと、ルインがうららを下ろした。
うららはふらーっと部屋を出て行った。
「……ルイン」
『初めまして、ですね。私はルイン。マスターが所有する精霊です』
「うん。私は大束綾羽。よろしくね」
『まだ見せないつもりだったのですが、少々コンプレックスでして、ええ、全然、まったく、これっぽっちも気にしていないのですが……』
そういいながらも、綾羽と香苗の胸をチラチラ睨んでいるところをみると、いろいろ黒いものを抱えているようだ。
『いつでも私はマスターの力になります。それではまた』
「うん。これからよろしくね」
ルインがうなずくと、そのまま消えて行った。
「さて、ひと段落ついたことだし、香苗ちゃん。また明日ね」
「はい。明日は負けませんよ!」
明日もやるつもりのようだ。
綾羽は少し勝ち誇ったような笑みを浮かべて、デュエルコートを出ると遊月の私室に行く。
ドアを少し開けて寝ていることを確認。
内心ガッツポーズをして、中に入る。
そして……。
うららとみずきがパジャマ姿で遊月に抱き着いて寝ているところが目に焼き付いた。
(……ま、負けた)
何にだろうか。
(で、でも、まだ頑張れば……)
綾羽はベッドの上に上がる。
シングルベッドの上は大変狭い。
が、何かこう抑えられないので、綾羽はどうにかして遊月に抱き着いた。
うららを挟んでいるが、そんなことはどうでもいい。
とにかく抱き着いた。
(……暖かい)
頼れる背中である。
そしてまあ……あれだ。
香苗の二の舞になるのであった。