遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第十八話

 遊月の中、そして遊月邸には様々な精霊がいる。

 そして基本的に、アンデット族の精霊に関してはドーハスーラが代表で、アンデット族以外はレッドアイズが代表である。

 基本的に遊月の精霊が出て来るときにこの二体がよく出てくるのはそれが理由だ。

 

 チキングと煩悩植物がよく出しゃばっている気がするので、自己主張が激しいのはアンデット寄りなのかもしれない。『死んだけど動いている』設定にしては元気だ。

 脳味噌が機能しなくなって理性など吹っ飛んだのだから、怨霊が元気ではないわけがないのだが。

 

『ふむ、それで、元のマスターの傍に一度戻りたいんだな』

『グルル……』

 

 アンデットワールドの中でも比較的死霊的な要素の少ない場所。

 そこで、レッドアイズがとある対応をしていた。

 レッドアイズが対応しているのは、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンだ。

 

 レイエスに一時的に奪われたヴァルハラを取り戻すために一役買った精霊だ。

 とはいえ、ここにずっといる存在ではない。

 

『すでにお前の元マスターは墓の下でゆっくり寝ているが……マスターの近くにいたいと言う気持ちはよくわかる。ただ、またここに来たいと思ったら何時でも言え。ここにはバカが多いからな』

『グルル』

 

 頷くスカーレッド・ノヴァ・ドラゴン。

 あまりためらいがない様子だ。

 とはいえ、悲観している様子もないし、それはレッドアイズも同様。

 『いつでもいるから。いつでも来ていい』

 まるでそう言っているようにも見えるが、実際にそうだ。

 

 現在進行形で綾羽と香苗を抱えている遊月だが、抱えているのは人だけではない。

 遊月を慕う精霊は多く、馬鹿なものが多いので、その雰囲気を求めてやってくる精霊たちはいる。

 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンがここを離れるのは初めてではないし、そしてまた来たとしても、それはそれで『おひさー』と言ってまた混ざるのだろう。

 

 ただ、ちょっと長い間いる場合もある。そんな程度である。

 そして、遊月たちの中で長期滞在する場合は、アンデット族ならドーハスーラ、それ以外ならレッドアイズに報告しておいた方がいいという暗黙の了解があるというだけの話だ(ただし義務ではない。実際守らなくても怒られない)。

 

『ん、何?地縛神たちと話をしておきたいって?別に構わんよ』

 

 地縛神たちは全員がアンデット族ではない。

 思いっきり死者にかかわっていそうだが、アンデットではないのでレッドアイズの管轄だ。

 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンが飛んでいく。

 あいさつした後で出て行くということだろう。

 

『……巣立つのを見るのもいいが、出たり入ったりするのも悪くないな』

『なんかそう聞くと田舎の近所付き合いだな』

『レイジングか』

 

 レッドアイズが振りむくと、そこにはオッドアイズ・レイジング・ドラゴンがいた。

 

『で、何かあったのか?』

『うーん……俺はシェリダンよりもオッPがいいなって思うけど、それは置いておくか。なんかブルームがパソコンの調子が悪いって愚痴ってたぞ』

『なんでブルームが?』

『アイツとドーハスーラくらいしかネット使わねえし……』

 

 どっちもアンデット族であり、出しゃばり組である。

 

『ていうか、ブルームって何調べてるんだ?』

『それについてアイツに聞いたら盗撮に関して五時間は語って来るぞ』

 

 ブルームの性癖が確定した瞬間である。

 

『まあ、他人の性癖にとやかく言う必要はないか』

『……』

 

 レイジングは呆れた。

 

『で、他に何かあるか?』

『まあ、周りからの報告は特にねえけど……スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンは離れていいのか?』

『どういうことだ』

『いや、最近物騒じゃねえか。アイツの奪い尽くす力、必要になる時が来ると思うぜ』

『最近ドラゴネクロがアイツから教えてもらってたから大丈夫だろう』

『へぇ。ドラゴネクロがねぇ』

 

 遊月が所有する序列五位の精霊。ドラゴネクロ。

 『魂を奪う』という力を元々有しており、制御がいまいちだったので使用が禁じられていた元悪霊。

 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンと特訓して、そのあたりの制御ができるようになった。

 これからは、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンが立つべき場所はドラゴネクロが代わりになって動くことになるだろう。

 

『あと……またマスターの口座の金が増えてたけど……』

『ゴブリンゾンビ頑張ってるな』

『……アイツ前世なんだろうな』

『知らん』

 

 序列が与えられていない精霊だが、なんだか金を預けると、一週間くらいで倍くらいになっている。

 そして、それを全てマスターである遊月に振りこむのだ。

 結果的に遊月の所持金がすごいことになっている。

 

『まあ、悪いことじゃないからいいか』

『マスターに似て楽観的だな。レッドアイズ』

『レイジングももっと簡単に考えてみな。選択肢が多すぎると世の中損するぞ』

『覚えておく……あ、忘れてた。家の管理をしてるスケープ・ゴーストが、オール電化にしたらどうだって言ってたぞ』

『どういうことだ?』

『たまにマスターがコンロの火を消し忘れるからだ。その都度あいつが消してるみたいだけど』

『……年を取ったな。マスター』

『とりあえず報告したぞ。それじゃあまたな』

 

 そういうと、レイジングは戻っていった。

 

『さて、休暇のために学校生活を謳歌するマスターの日常のためだ。そろそろ頑張るとしよう』

 

 レッドアイズはそんなことを呟くと、翼を広げて飛んだ。

 

 ★

 

「なんか黒服多くなったよな」

「綾羽様を探しているのでしょうね。とは言え、大束家も、ISDの研究関連者も、この地下空間については知らないはずですから、見つけることはできないでしょう」

 

 放課後に集まった遊月、綾羽、香苗、創輝の四人。

 DGCにおいて、香苗が悪霊退治によくかり出されるようで、今日もそれに乗っかっている感じだ。

 英明は友人に会っているようで、今日はいない。

 

「しっかりと情報が隠されているんですね」

「私はこのあたりに長い間住んでるけど、こんな場所があるなんて知らなかったよ」

「少人数のみがこの地下空間の建設にかかわっていますからね。それも当然です」

 

 地下空間は広いので、ある程度のエリアまでなら行くことが出来る。

 さらに言えば、高額オプションだが、列車を使って車ごと乗りこむことも可能だ。

 因みに単行列車である。

 遊月が車に乗っている場合は金を払う必要がないようだが。

 

 そのため、ハイヤーの外から見える景色は電車の中である。

 何故か冷蔵庫やDホイールの整備器具をはじめとして、様々なものがあるのだが。

 車両の中ではさすがに車の中にいる意味はないので、出ている四人。

 

「それにしても、遊月君って何者?」

「お兄ちゃんは家も大きいですし、アムネシアの理事長さんとも知り合いなんですよね。とても気になります」

「……まあ、簡単に言えばフィクサーみたいなもんだよ」

「え……裏でいろいろと言えるってことだよね」

「簡単に言えばな」

「でも、こんな簡単になれるんですか?」

「誰にも真似できないくらい『特殊な意味』で強くなって、後はでかい恩を売ればいいんだ」

「「?」」

 

 よく分かっていない二人。

 

「大人の汚い世界の話だが、でかい恩を一つ売っておくと、後は利子を踏んだくって一生搾り取れるんだ」

 

 それを聞いた二人は『うっわ。悪っ!』と思ったが、その恩恵を今受けている真っ最中なので何も言えない。

 

「なるほど、勉強になりますね」

 

 そしてそれを脳内のメモに残す創輝。

 なんだか黒すぎて何も言えない。

 そんな話をするのが嫌になったのか、綾羽は遊月の方を見る。

 

「あの、冷蔵庫とか、整備器具とかいろいろありますけど、この単行列車ってレンタル品なんですか?」

「いや、私専用の特注品だ。走っている線路は確かに他の列車も走るが、機能性重視で作られた私専用のものだよ」

「「えぇ!?」」

 

 一人の人間のために列車がある。

 その現実に驚く二人。

 

「まあ、そんなに長い列車じゃないからな」

「でも、どうしてそんなものまで……」

 

 遊月は少し、遠くを見るような目になった。

 

「まあ、私にも、はっちゃけていた時代はあるということだ」

「……」

 

 空気に耐えられなくなったのか、綾羽は話題を変更し始める。

 

「ねえ、遊月君」

「なんだ?」

「遊月君は、なんでそんなに強いの?」

「経験」

 

 即答する遊月。

 絶句する綾羽。

 吹きだす香苗と創輝。

 

「笑うな!」

 

 綾羽は叫んだ。

 

「プクク……すみません」

「ハハハ!遊月様の即答は腹に刺さりますね」

 

 なんて失礼な人たちなのか。

 

「しかし、なぜ強くなったか……強くなれる方法に攻略本はないぞ。失敗は成功の母。失敗と成功が『夢』の母だ」

「それは……わかってるけど……」

「なら、綾羽はどんなデュエリストになりたい?」

「え?」

「人は、デッキを持っていれば誰でもデュエリストだ。なるのは簡単だよ。だけど、どんなデュエリストになりたいかっていうのは、みんな違うはずだ」

「遊月君は決めてるの?」

「もちろん。それをちゃんときめておけば、『一匹狼』と『独りよがり』を勘違いせずに済むからな」

 

 遊月はうなずく。

 

「私はね。クサいことを言った時に、場がしらけるんじゃなくて、かっこいいって思われるようなデュエリストになりたいんだ」

(というかまずこのセリフがクサい)

 

 遊月の言葉に綾羽はそう思ったが、しかし、悪い気はしない。

 自信があって、でも誰かにそれを押し付けることはなくて、ただ、周りにいる人間は遊月という男に頼れる。

 そんな感じがするからだ。

 

「夢を追いかけてる人を見るのは好きだよ。そんな人間の手助けができればいいと考えることもある。頼られる側でいたいと思ってる。だが、一番大きいのはそこかな。だから、長い時間を使って、周りに頼られるために自分を高める。私がいれば大丈夫だって思ってほしいんだ。英明や月詠、そして創輝、私の家に泊まったことがある人間は、大体それぞれの答えを持ってるよ。変わっているかもしれないがな」

「え、そうなんですか?」

 

 香苗が創輝を見る。

 創輝はうなずく。

 

「もちろんです」

「なんていうか……すごいですね」

「スケールが違うね」

 

 創輝が苦笑している。

 

「一度、遊月様に『いい男になる条件は何ですか?』と聞いたことがありますが、『クサいことは言うけど、一番重要な部分は背中で語る。なんで惚れてるのか言葉にしたら、理解してしまってその価値が下がるからな』と聞いたときは、大笑いしましたけどね」

「あの時と同じようにボディーブローを入れてやろうか?」

「遠慮しましょう」

 

 その時、ブザーが鳴った。

 

「さて、そろそろついたな。悪霊退治に行くぞ」

「そうですね」

 

 創輝と遊月はハイヤーに乗り込んだ。

 それを見て、綾羽と香苗も、あわてたようにハイヤーに乗り込んだ。

 

 ★

 

 今回相手にするのは……。

 

「……『ウォーター・ドラゴン』みたいですね」

 

 香苗にとってなかなか久しぶりに見るモンスターのようだ。

 

「まあ、悪霊なら倒すだけか」

「シンプルですね」

「だって下手に気にしても仕方がないからな」

 

 創輝がハイヤーを止めると、遊月はハイヤーから降りた。

 

「さてと……うわ、周りにいる『ハイドロゲドン』の群れがやばい……」

「私が片付けます!グスタフ!」

 

 香苗がグスタフ・マックスのカードを掲げる。

 

『やれやれ、面倒だけど、まあ頼まれたからにはやりますか』

 

 渦が出現して、グスタフ・マックスが出現。

 

『むうう。もう見つかるとはな。だが、即座に叩き潰してやる!』

 

 ウォーター・ドラゴンは乗り気のようだ。

 

「ほう、叩き潰してやるって?大した悪霊でもないくせにでかい口叩くじゃないか」

 

 遊月はデュエルディスクを構える。

 

『フン!この数のハイドロゲドンを処理しきれるわけがなかろう。やれ!』

『だから、僕がいるってことわすれてない?』

 

 グスタフ・マックスが大砲を一発ぶちかました。

 すると、ハイドロゲドンが爆散する。

 

『む……だが、まだまだあふれてくるぞ!』

 

 そう。あふれてくる。

 ……下水道から。

 

「だが、倒せばいいだけの話だ」

 

 遊月はデュエルディスクからカードを五枚引いた。

 ウォーター・ドラゴンのそばにも、デジタルカードが五枚出現する。

 

『いいだろう。ならば、デュエルでも叩き潰してくれる』

「さてと、死後の世界の広さを教えてやるか」

「『デュエル!」』

 

 遊月 LP8000

 WD LP8000

 

『フン。先攻はくれてやる』

「なら、私のターンだ。このドローフェイズ。速攻魔法『手札断殺』を発動。お互いにカードを二枚墓地に送って二枚ドローだ」

 

 お互いに手札を交換する。

 

「そして、墓地の『屍界のバンシー』の効果発動。このカードを除外することで、デッキから『アンデットワールド』を発動!」

 

 発動されるアンデットワールド。

 いつも通りの重苦しい雰囲気だ。

 遊月の『化身カード』の力である。

 

「そしてスタンバイフェイズだ」

 

 遊月の墓地から闇は溢れ出す。

 

「終わりも始まりもない蛇の王(ウロボロス)よ。怨霊渦巻く大地に降り立ち、死の魔眼を開け!『死霊王 ドーハスーラ』!」

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

『フハハハハ!我、降臨!』

 

 上機嫌な様子のドーハスーラ。

 

『い、一ターン目からその効果を使うとは……』

「こういうこともできるのさ」

 

 ちなみに圧倒的ディスアドコンボとして、ドローフェイズで『光神化』を使って『時械神』を出した場合、そのドローフェイズの後のスタンバイフェイスでデッキに戻る。

 【時械神】使いである月詠が言い出したことだが、遊月としては絶句したいい思い出だ。

 

「そして、『不知火の隠者』を召喚。リリースして『ユニゾンビ』を特殊召喚して、デッキから『馬頭鬼』を落とすことで自身のレベルを一つ上げる。そして、馬頭鬼を除外して隠者を特殊召喚」

 

 ユニゾンビ  ATK1300 ☆3→4

 不知火の隠者 ATK 500 ☆4

 

「レベル4の隠者に、レベル4のユニゾンビをチューニング。増幅器を駆り、突き進むべく疾走せよ。シンクロ召喚!レベル8『PSYフレームロード・Ω』!」

 

 PSYフレームロード・Ω ATK2800 ☆8

 

「ふーむ、『アドバンスドロー』を使う。ドーハスーラ、ちょっと退散しろ」

『え、ちょ……いやあああああぁぁぁぁ!』

 

 情けない声を出しながらドーハスーラが消えていく。

 そんなに嫌か。

 

「カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

『なら、オレのターン。ドロー!』

「スタンバイフェイズ。Ωとドーハスーラの効果発動。『馬頭鬼』を墓地に戻し、ドーハスーラを特殊召喚する」

 

 死霊王ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

『あー……なんかこう、便利なんだけどこういうことばっかりされるから嫌だぞ。我』

 

 ドーハスーラが愚痴を言いながら出現する。

 

『……まあいい。メインフェイズだ。オレは手札から『化石調査』を発動。デッキから『デューテリオン』を手札に加える。そして、このまま『デューテリオン』を捨てることで、『ボンディング-D2O』を手札に加える』

「その効果処理後、Ωの効果を発動。そして、それにチェーンしてドーハスーラの効果を発動!まずはドーハスーラの効果で墓地のデューテリオンを除外し、Ωの効果で、相手の手札一枚とこのカードを除外する!」

 

 Ωが引っこ抜いたのは……『死者蘇生』だった。

 

「残念」

 

 ボンディングを除外できれば万々歳だったが、まあそれは置いておくとしよう。

 

『……フウ。とりあえず、手札から『魂喰いオヴィラプター』を通常召喚。デッキから二体目の『デューテリオン』を手札に加える』

 

 魂喰いオヴィラプター ATK1800 ☆4

 

『ここは贅沢に行こうか。オレは『ボンディング-D2O』を発動。手札の『デューテリオン』二枚と『オキシゲドン』をリリース。デッキから『ウォーター・ドラゴン-クラスター』を特殊召喚!』

 

 ウォーター・ドラゴン-クラスター ATK2800 ☆10

 

 手札の消耗が激しすぎる。

 もうすでに、手札が一枚しか残っていない。

 なお、特殊召喚した時に、相手モンスターすべての攻撃力を0にして効果の発動を不可にする能力があるが、ドーハスーラが守備表示なので意味はない。

 

『バトルフェイズ!ウォーター・ドラゴン-クラスターで、ドーハスーラを攻撃!』

「仕方がないな」

 

 渦にのみこまれて消えるドーハスーラ。

 

『魂喰いオヴィラプターでダイレクトアタック!』

「受けよう」

 

 遊月 LP8000→6200

 

『オレはこれでターンエンドだ』

「なら、私のターンだ。ドロー!」

 

 ドローしたカードを確認する遊月。

 そのとき、ウォーター・ドラゴンが笑う。

 

『ククク。ウォーター・ドラゴンが場にいる時は気を付けたほうがいいぞ?』

 

 遊月が後ろを見ると、大量のハイドロゲドンの力が増している。

 

『む、ちょっと荷が重くなってきたな……』

 

 グスタフが主砲を連射しながらつぶやく。

 

「なら、出てきてください!ドーラ!」

『攻撃のみを考えておけるようにしましょうか』

 

 さらに渦が出現して、そこからドーラが出現する。

 

「……精霊を所有している人たちはさすがですね……」

 

 ちょっと役立たずな風味が漂っている創輝である。

 

「……っ!」

 

 ギュッとこぶしを握る綾羽。

 ハイドロゲドンとはいえ、強化されていてはルインの力を使っても足りない。

 

『マスター……』

「ルイン、私は、どんなデュエリストになればいいのかな」

『そうですね……惚れている人に聞けばいいのでは?』

 

 ルインは少し、いじわるになったようだ。

 

「……そっか」

 

 綾羽はハイヤーの扉を開けて外に出る。

 そして、遊月をまっすぐ見た。

 

「遊月君。私は、どうすればいいと思う?」

「さあ?私からは、『諦めたフリをしない奴になれ』としか言えんよ」

 

 それを聞いた綾羽は苦笑する。

 

「遊月君、そこまでわかっちゃうんだ」

「捨ててないんだろ?綾羽もわかってるんだ。君はヴァルハラを捨てることはできないし、ルインだけを選ぶことはない。ただ、私がすべて正しいことを知っていると、そう漠然と考えていて、言葉をもらうまでは何も選択しないほうがいいと考えている。私は、そんな奴に『新しいこと』を教えたりしない」

 

 遊月は溜息を吐いた。

 

「本来、自分だけで気が付けるはず。変なことを吹き込んだバカがいるから君が迷っているだけだ。さっき、本人が嫌がることをわざわざやったのはそれが理由だ」

『ごめんなさい!』

 

 土下座するドーハスーラ。

 さすがチキングの称号を持つ王は伊達ではない。

 遊月は綾羽のほうをもうむかず、ウォーター・ドラゴンのほうを見る。

 

「さて、スタンバイフェイズだ。行くぞ。ドーハスーラ」

『うむ。そうだな』

 

 土下座していたドーハスーラだが、体を起こしてフィールドに移動していく。

 

 それを見ながら、綾羽はデュエルディスクに入れていた化身カードのヴァルハラを取り出す。

 

「この力も、私が積み上げた力か……」

 

 綾羽は『エンド・オブ・ザ・ワールド』のカードを取り出す。

 

「ルイン。行くよ」

『わかった』

 

 ルインが答えると、綾羽を光がつつんだ。

 危険だと思ったのか、ハイドロゲドンが二体、綾羽のほうに向かう。

 しかし……。

 

「君たちじゃ私には勝てないよ」

 

 槍を二回振り終わった綾羽が、静かにそういった。

 もともと迷う必要などなかった力。

 もう、天使で止まったりはしない。

 

「香苗ちゃん。私も混ざるけど、いいよね」

「はい!」

 

 元気良くうなずく香苗。

 それを見て、綾羽はハイドロゲドンたちのほうに走っていく。

 

 そして、遊月の近くでもはしゃいでいる者がいた。

 

『おおっ!巨乳の女神ルインだ!マスター見て!全デュエリストの夢!巨乳の女神ルインだよ!』

 

 ブルームである。

 ちなみにバシャバシャと写真を撮りまくっている。

 

「ブルーム。その写真。一体どうするつもりだ?」

『クックック。もちろんプリントアウトして保管しておくのさ。ん?ぎゃああああああ!』

 

 綾羽の意思とは関係なく、彼女のそばに雷の槍が出現し、ブルームごとカメラを貫く。

 プスプスと煙を出しながら崩れ落ちるブルーム。

 馬鹿である。

 

 遊月は溜息を吐いて、ウォーター・ドラゴンのほうを見る。

 

「……なんかすまんな。茶番を待ってもらって」

『さっさと続けろ』

「そうしよう。スタンバイフェイズだ。行くぞ。ドーハスーラ。Ω」

 

 死霊王ドーハスーラ    DFE2000 ☆8

 PSYフレームロード・Ω ATK2800 ☆8

 

「メインフェイズ。まずは墓地から『馬頭鬼』の効果を『不知火の隠者』を対象に発動。それにチェーンして、ドーハスーラの効果を発動。さあ、どうする?」

『チッ……クラスターの効果を発動。デッキから『ウォーター・ドラゴン』を二体、特殊召喚!』

 

 ウォーター・ドラゴン DFE2600 ☆8

 ウォーター・ドラゴン DFE2600 ☆8

 

「ドーハスーラの効果処理だ。ウォーター・ドラゴンを一体除外する!そして、隠者を特殊召喚」

 

 不知火の隠者 ATK 500 ☆4

 

『ぐっ……だが、『ボンディング-D2O』を回収する』

「もう遅い。隠者をリリースしてデッキから『ユニゾンビ』を特殊召喚。効果でドーハスーラを対象にしてデッキから『馬頭鬼』を墓地に送り、馬頭鬼を除外して『不知火の隠者』を特殊召喚」

 

 ユニゾンビ  ATK1300 ☆3

 不知火の隠者 ATK 500 ☆4

 死霊王ドーハスーラ   ☆8→9

 

「レベル4の隠者に、レベル3のユニゾンビをチューニング。死した紅き眼の黒竜よ、屍界で湧き上がる怨念を宿し、君臨せよ。シンクロ召喚!レベル7。『真紅眼の不屍竜』!」

 

 真紅眼の不屍竜 ATK2400→3600 ☆7

 

(……最初の断殺を使ったときに捨てたのは魔法・罠カードだったのか)

 

 まあいいかと思い直す遊月。

 

「さらに、『アドバンスドロー』でもう一度ドーハスーラをコストに二枚ドロー」

『なぬ!?』

 

 また消えるドーハスーラ。

 

「そして、『デーモンとの駆け引き』を発動。あらわれろ。『バーサーク・デッド・ドラゴン』」

 

 バーサーク・デッド・ドラゴン ATK3500 ☆8

 真紅眼の不屍竜 ATK3600→3800

 

「バトルフェイズ。バーサーク・デッド・ドラゴンで、ウォーター・ドラゴンとオヴィラプターを攻撃!」

 

 WD LP8000→6300

 

『グッ……』

「レッドアイズの効果で、オヴィラプターを私のフィールドに特殊召喚」

 

 魂喰いオヴィラプター ATK1800 ☆4

 

 この瞬間、遊月のデッキにいる『カーボネドン』が『おっ!』と思ったのだが、遊月は完全に忘れている。

 

「そして、オヴィラプター、Ω、レッドアイズでダイレクトアタック!」

 

 WD LP6300→4500→2700→0

 

『ぐ、ぐおおおおおお!』

 

 WDが消えていく。

 

 遊月が振り向くと、綾羽は無傷で佇んでいた。

 

「もう問題はないか?」

「うん。後は私が、私の力で、決着をつける」

 

 綾羽はルインの力を解除しながらそう言った。

 

「そうかい……創輝。大束家に向かってくれ」

「畏まりました」

 

 四人を乗せたハイヤーは、まっすぐ大束家を目指していく。

 

 ★

 

『もごもご……ぺっ!ああ~悪霊瘴気ってクソまずいな』

『食用ではないからな』

 

 遊月たちがハイヤーで向かっているとき、路地裏でウォーター・ドラゴンとドーハスーラが話していた。

 

『しかし、お前のところのマスターは精霊づかいの荒い奴だな。手ごろな上級の悪霊がいないからって、体のほとんどが水で構成されていて悪霊瘴気をコントロールできるオレを呼ぶなんて』

『使えるものは何でも使うのが我が主だからな』

『まあ、オレ自身も、元マスも世話になったし、これくらいなら朝飯前だが……デュエルするたびに思うな。お前やっぱ効果ひでえわ』

『だろ?まあ、こんな感じだからアドバンスドローのコストにされるわけだがな』

『まあオレもデッキに『トレードイン』三積みだけどな……あまり文句言ってると拗ねられるぜ』

『それは覚えておこうか』

 

 ウォーター・ドラゴンはあきれた。

 

『まあ、オレはマスターのところで寝てることにするよ。何かあったら呼べ。まだ、借りを返せてねえからな』

『義理堅いなぁ。我が主の周りではその考え方は苦労するぞ?』

『承知の上だ。じゃあな』

 

 ウォーター・ドラゴンは体を変形させると、その辺の下水道の中に消えていった。

 

『我も戻るか』

 

 ウォーター・ドラゴンがいなくなったのを確認して、ドーハスーラも戻ることにした。

 

 ★

 

 そして、大束家では……。

 

「ぐあああああ!」

 

 これで何人目だろうか。

 別れを告げに来た。と宣告する綾羽。

 それを撤回させようとして、取り押さえようとする黒服たち。

 ただ、分が悪いとかそういうレベルの話ではない。

 

 デュエルで挑んでも、もとから『綾羽は自分たちに無条件で服従する』と考えていた者たちがその腕を磨いているわけもなく、ヴァルハラをフル活用したその戦術に叩き潰される。

 

 リアルファイトなどもってのほか。

 ルインの力を開放し、スタンロッドを構えて突撃してくる黒服たちを一網打尽。

 精霊との親和性が高いのか、ルインの槍術を使っているようだ。

 

「な……アンタ。一体いつ、そんな力を……」

 

 簡単に取り押さえることができると考えていた琴音は、自分に近づく綾羽の進撃に驚愕する。

 

「手に入れたんじゃない。元からあった。私が手に入れたのは、『使ってもいい』という選択肢と、頼れる背中だけ。もう私は、檻の中でおとなしくなんてしない。あなたが知っている『大束綾羽』から、変わったんだよ。琴音さん(・・・・)

 

 母親に向かって名前呼びをする綾羽。

 

「ぐっ……アンタがいないと、補助金が……」

「そんな物知らない。私は、もう、檻の中には戻らない」

「あ、アタシたちへの恩を忘れたってのかい!ここまで育ててきたってのに、恩知らずにもほどがあるよ!」

 

 綾羽はその叫びを聞いて、失望した。

『自分を縛り付けている恐怖は、自分が思ってるほど恐ろしいもんじゃない』

 遊月が言っていたような気がする。

 それが、その通りのものだと思った。

 ただ、それだけ。

 

「私はあなたから何ももらっていない。名前も、命すら、あなたからもらったものじゃない。私はもう、あなたの言いなりにはならない」

 

 自分と両親の間に、血のつながりはない。

 その事実を、幼いころから知っている。

 いや、そもそも、それを両親から聞いたのだ。

 選択肢を与えられ、力を使っていいと考えた綾羽は、もう止められない。

 

「後悔するよ。どうやってデュエルディスクを使っているのか知らないけど、アンタを守ってくれるところがどこにあるっていうんだい!」

「後悔してもいい。頼れる背中に、全部ぶつけるだけ。ビクともしないと思うから、私は別れを告げに来た」

「は、話し合おう。綾羽、話し合えば……」

 

 それを聞いた綾羽は、琴音を睨みつける。

 

「もういい」

 

 綾羽は琴音に背を向ける。

 

「あ、アンタ……」

「さよなら」

 

 綾羽のそばで、雷の槍が出現。

 それはまっすぐ、琴音の肩を貫いた。

 

「ぎゃああああああ!」

 

 貫通属性はほとんどなく、単に感電させることを目的としたものだ。

 そのため、そのまま倒れて動かなくなる。

 

 死屍累々とした大束家の敷地を、綾羽はゆっくり歩く。

 

 その目に、迷いはない。

 不安はあるだろう。だが、もう迷ったりはしない。

 

 ハイヤーまで戻ってくる。

 いつの間に移動したのか、助手席にいた遊月が後部座席に移動して、後部座席にいた香苗が助手席に移動している。

 綾羽は後部座席に乗り込んだ。

 

「……もういいのか?」

「うん。あとはもう、勝手に落ちるところまで落ちるだろうし、這い上がれたら、その時にまた評価するだけ、でも、もうお母さんとは呼ばないかな」

「そうか」

 

 下を向いて、膝の上で手をぎゅっと握る綾羽。

 

「それでいいのなら私は構わない。創輝。出してくれ」

「かしこまりました」

 

 創輝がハイヤーを発進させた。

 

 

 そしてその夜。

 デュエルで香苗を完膚なきまでに叩きのめした綾羽は、寝間着姿で遊月の私室に向かう。

 

(……遊月君って寝るの早いんだね)

 

 都合がいいとばかりに、部屋に忍び込む綾羽。

 ベッドの上にあがりこむと、遊月に後ろから抱きついた。

 

(……また上り込んできたのか)

 

 遊月は寝るのは速いが浅いほうだ。

 当然抱きつかれればわかるのだが、ここで口に出すのは野暮というものである。

 

(……いったい私のことをなんだと思っているんだか、月詠や英明もそうだが……まあいいか)

 

 正直、枯れたような遊月は抱きつかれたとしても欲情しない。

 というより、そういうことをしてくる者は多かったので、もう慣れた。

 

(遊月君……)

 

 綾羽は暖かさを感じながら、そのまま落ちた。

 

 しかしまぁ……朝に遊月よりも早く起きようとして、これがなかなかうまくいかないので結局あわてるまでがお約束である。

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