遊戯王Incarnation   作:レルクス

19 / 42
第十九話

 アムネシアはデュエルスクールであり、様々な研究会がある。

 そのための、そんな研究会からのアンケートがあったりするのだ。

 研究会がいずれかの教師とつながりを持っていれば、授業を終わりのほうで出してもらえたりするので、意外と教師との関係は大切である。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 アンケートの内容である。

 

 『デュエルモンスターズ格言研究会』というサークルからのアンケートだ。

 ちなみに、英明が『隊長……いったい何やってんだ』とつぶやいているので、ファンクラブの表の集まりはこの格言研究会なのだろう。基本的には悪霊を討伐し、部活錬を使うために研究会を作って、何人かが教室で活動しているといったところか。

 で、その内容だが。

 

【デュエルモンスターズにかかわるうえで、最も『理不尽だ!』と思うセリフ・状態を書いてください】

 

 というものである。

 センスが出るアンケートである。

 

 仮澤英明の回答

 

【効果耐性があるモンスターを出しやすいデッキのくせに初手『激流葬』の確率が高い相手】

 

 多分ぶちかまされたことがあるんだろうな。というのがよくわかる。

 効果破壊耐性があって守備力が2800もある『聖霊獣騎 ペトルフィン』を出しやすい【霊獣】とか、そんなの使うやつに限って『激流葬』を初手で握っている奴が多かったりするのだ。

 【霊獣】は回すのが難しいが、融合カンナホークを使いまわすことで、連契だとか騎襲だとかそういったものをサーチしながら相手の場を壊滅させることができるのだ。そこに『激流葬』が加わると単なる悪夢である。

 

 大束綾羽の回答

 

【『スターダスト・ドラゴン/バスター』三体】

 

 リリースすることでなんでも無効にできるといっていいモンスター。

 それが三体である。確かに嫌だ。三体だったらラー玉で食えるけど。

 

 江藤香苗の回答

 

【自分の初手に手札誘発が来ない時に周りの手札誘発の確保力がすごい時に感じるアレ】

 

 手札誘発時代といっても過言ではない環境。

 そんな中で、大型モンスターを最大限投入するタイプのデッキでは、誘発はきつい。

 それなら自分も握っておけばいいのだが、大体来ないのだ。これがマゾイのである。

 

 御堂月詠の回答

 

【調整中】

 

 公式なルールが存在しない。という状況。

 正直、これほど全世界に広まっているカードゲームだというのに、正式な裁定が存在しないというのはどうなのか。という話である。

 結構根本的な話だが、解決されることはないだろう。

 

 不死原遊月の回答

 

【658008分の1だと?真のデュエリストは100%なのだ!】

 

 もはや語るまでもないが、これが現実になると正直やっていられない。

 何かと経験している遊月だが、そんな彼でも、これだけはどうにも納得がいかない。ということなのだろう。

 

 思い思いのアンケートだが、どれもこれも納得できるもの。

 隊長は喜んだようである。

 

 ★

 

「そりゃ!」

「ふああ……まだまだ甘いぞ」

 

 地下に存在するトレーニングエリア。

 ランニングコースが存在し、広々とした空間が存在する。

 そこで、『ロード・オブ・ザ・レッド』姿で『真紅眼の黒竜剣』を構えた遊月と、『破滅の女神ルイン』姿の綾羽が、剣と槍をぶつけて戦っていた。

 正直、頑張っているのは綾羽のほうだけで、遊月はそれを軽くあしらっているような感じである。

 

 体に発生する傷の発生を精霊力の減少に変更できる技術が存在する。

 大掛かりな設備が必要なので、デュエルディスクなどに携帯することはまだできない。

 場所に影響を与える『フィールド魔法』の『化身カード』のデータを集めて作ったものであり、使用料金は高い。

 が、例のごとく、遊月同伴なら無料である。

 

「まだまだ!」

 

 突き、薙ぎ払い、振りおろし。

 ルインが使う様々な槍術を使っているが、その全てを遊月は最小限の動きでよけるか弾く。

 

「うーん……なんか、若干大振りだな」

「大振り?」

「若干周りに見せるための動きが入ってるな。もうちょっと、ルールなしのチャンバラでもやってるみたいに考えたほうがいいぞ」

「そうかな……そうかも……っとと」

 

 少しつまずいた綾羽。

 遊月は綾羽の体に腕を回して転倒を回避。

 

「あ……ありがとう」

「精霊力の使い過ぎだな。ルインの力を解いたほうがいい」

 

 表情が変わらない遊月。

 

「わかった」

 

 綾羽はなんだか損した気分になりながらルインの力を解いた。

 元の姿に戻った綾羽。

 その格好だが、スポーツブラとホットパンツを着て、室内用のスポーツシューズを履いているというものである。

 出るところは出て引っ込むところはひっこんでいる綾羽の体。

 スポーツブラをつけていることもあって健康美を感じられる上になかなかエロい。

 ……遊月の表情は変わらないが。

 

 ちなみに、このやり取りはすでに本日で五回目。

 

「ふう……」

 

 ベンチに座ってスポーツドリンクを飲みはじめる。

 

「ふーむ……綾羽は槍とか振ったことあるのか?」

「私はそういう武術的なことをやったことはないよ」

「……ということは、ルインのほうが研鑽をつんでるってことか」

「それはそれとして……遊月君はそのままでいいの?」

 

 ルインの力を解いた綾羽に対して、遊月のほうは『ロード・オブ・ザ・レッド』姿のままだ。

 というより、この部屋に入ってからそれなりに長いが、遊月は一度も解いていない。

 

「まあ、私にとっては普段着の一部みたいなものだ」

「え?」

「要するに、『力を使っている』というより、普段とは気分の入れ方をちょっと変えただけの言うか……まあ、強引に言えば『自然体の範囲内』みたいな感じだ」

「それだけ長く使ってるってこと?」

「そうだ」

 

 すると、ドーハスーラが出現。

 

「どうした?」

『うむ、微調整は必要だが、基本的な部分はできているからな。どうせ調節するのなら、悪霊を討伐することを想定した動きのほうがいいだろう。我をはじめとした精霊を相手にするほうがいいのではないか?』

「一理あるが……」

 

 するとレイジングも出現。

 

『マスターが所有している精霊は多いからな。それに、ちょっと呼んだら来てくれそうな精霊も多いぜ』

「……遊月君の影響って精霊たちにも大きいんだ」

「はっちゃけた結果っていうのが何とも言えないけどな」

 

 さて、どうするか。

 

「休憩時間はまだとっておいたほうがいいんだよなぁ」

『なら、マスターと俺たちでやろうぜ』

 

 レイジングがかなり乗り気だ。

 ドーハスーラと顔を見合わせる。

 そして頷き合っている。

 

「構わんよ」

 

 遊月は黒竜剣を構えなおして、部屋の中央まで移動する。

 ドーハスーラとレイジングも移動して、二対一で構える。

 

「……遊月君。大丈夫なのかな」

『大丈夫。遊びでも本気でも、マスターはあの二人くらいなら負けない』

「うわっ!びっくりした」

 

 いつの間にか、綾羽が座っているベンチの隣にみずきが座っていた。

 

『興味深いですね』

「ルイン……」

『マスターはあまり体を動かさないほうですからね。私の力を使っているときの身体能力にイメージがあっていません』

「それはそうだけど……」

 

 とまぁ、そんなことを話しているが……。

 

(そういえば……)

 

 みずきは綾羽を頭から足まで見て、思う。

 

(ブルームが静か。どこに行ったのかな)

 

 スタイルのいい綾羽がこんな恰好をしていたら、必ず元気になって出てくるはず。

 なぜいないのだろう。

 

(まあいっか)

 

 どうでもいいと思うことにした。

 そしてそのころのブルームだが……。

 

『む……無念……ガクッ』

 

 破壊されたカメラと、まだバチバチと痺れている貫かれた体。

 どうやらすでに討伐されていたようだ。

 ルインに。

 

「さて、ドーハスーラ、レイジング、どこからでもかかってこい」

『さあ、行くぞ。我が主よ!』

『オラァ!行くぜ!』

 

 ドーハスーラは右手の杖に波動を集約させ、レイジングは口の中にエネルギーをためる。

 そして、二人ともそれを一気に放出した。

 

「それがどうした」

 

 遊月は黒竜剣を真横に一閃。

 波動は叩き壊され、レーザーのようなエネルギーは切り裂かれる。

 

『しょっぱなから同時でもダメかい!』

『ならこれだ!』

 

 ドーハスーラが、波動を小さく何個もまとめて出現させる。

 そして、それを弾丸の雨を降らせるように遊月に向けて射出。

 

「まあそれも無駄だな」

 

 当たらないものは無視して、よけれそうにないものは弾く。あとは全部よける。

 それだけで大量の弾丸を対処した。

 

『ならこれだ!』

 

 レイジングの翼から灼熱の羽が出現する。

 そして、それを一気に薙ぎ払った。

 遊月はひょいっとさける。

 大振りの攻撃はほぼ通じないようだ。

 というか、遊月には無駄な動きがなさすぎる。

 

『そりゃ!』

 

 ドーハスーラが波動でレーザーをぶちかます。

 だが、遊月は剣を振ってそのまま消滅させる。

 

「そろそろ私も行くぞ」

 

 遊月は剣を横に一閃。

 そのまま青い炎のようなもので出来た斬撃が飛んでいき、ドーハスーラとレイジングに直撃した。

 そして、そのまま吹き飛んでいく。

 どうやら圧倒的な出力があるようだ。ちなみに黒竜剣を使っているからだろうか、レイジングの方が若干ダメージが大きい。

 

『『グホアアアアアア!』』

 

 まとめて壁まで飛んでいって……。

 

「おーい遊月!放課後にこんなところに呼んでどうし――」

 

 ガラッと扉を英明が開けた。

 

「ん?」

 

 英明は自らに向かって飛んでくるレイジングとドーハスーラを見る。

 

「うおあああああ!」

 

 そのまま巻き添えになって廊下で倒れた。

 

 ……数分後。

 

「何しやがんだオラァ!いくら傷が全て精霊力の減少になるからって、痛いもんは痛いんだぞ!」

「あー。うん。すまんな英明。まさかこんなジャストタイミングでやってくるとは思ってなくて……」

 

 ムキャー!と騒いでいる英明に対して、明後日の方をを向きながら謝罪する遊月。

 さすがに悪いとは思っているようだが、昔こんなことがあったのだろうか、『まあよくある事故だから許してくれ』と考えているのが丸わかりである。

 

「ひ、英明君。呼ばれてたんだ」

「そうだぜ綾羽ちゃ……うひょう!何て格好に!」

 

 英明が綾羽の格好を見て変な声を出した。

 16歳の童貞にはちょっと刺激が強いようである。

 じゃあ遊月は何歳の何なのかと言う話になるのだが。

 

「遊月。まさか、ずっと綾羽ちゃんはこの姿なのか!?」

「何回かルインだったぞ」

「……なあ遊月。明日の放課後体育館裏に来いよ」

「返り討ちにしてほしいのか?」

「ごめんなさい撤回します」

 

 何のコントだろうか。

 

『とにかく、特訓の続き』

 

 みずきが話の路線を戻そうとする。

 

「……そうか。で、俺は何をすればいいんだ?」

「ルイン姿の綾羽と組み手だ」

「なるほどな。遊月だとレベルが高すぎるから俺でやるって訳ね」

「そういうことだ」

 

 頷く遊月。

 正直、経験豊富な遊月が相手だと、教えてもらうだけならいいのだが、あまりいろいろなものを実感できない。

 ということで、英明を呼んだのだ。

 

「そういうことならつきあってやるぜ」

 

 英明はデュエルディスクを取り出して、『マスク・チェンジ』と『フォーム・チェンジ』を入れた。

 綾羽も休み終わったのか、立ち上がって『エンド・オブ・ザ・ワールド』をとりだす。

 部屋の中央までいどうして、離れて立った。

 

「変身!」『マスク・チェンジ ダーク・ロウ』

「行くよ。ルイン」『わかった』

 

 英明がダーク・ロウの姿になり、綾羽はルインの姿になる。

 そして、綾羽は槍を構えた。

 英明は……というより、M・HEROはすべて徒手空拳が武器なので何も手に持っていないが、それはともかく、拳を構える。

 

「……」

 

 ただ、相対した英明が無言である。

 なんだか、仮面の下がオロオロしているのが分かる。

 それを見た遊月は『人選ミスったな』とおもった。

 

 ルインのイラストをじっくり見たことがある人はいるだろうか。

 

 その真っ白な肌はもちろん綺麗で、膝まで届く銀髪はきれいなものだ。

 綾羽もまた肌は白く、黒い髪に黄色いメッシュを入れた髪も、ルインほどではないがかなり長い。

 デタッチド・ショルダーと言うのだろうか、服と分離した袖は黒く、縁が金色の装飾がある。

 二の腕は半分見せており、肩は露出し、脇は見えている。

 胸の中央の少し下からへその下に至るまで、ひし形にくりぬかれておりかなり見えている。透明な素材で覆われているが、まああってないようなものだろう。

 下半身はガードが硬そうだが、普段女性が見せないであろう太股の外側が大胆に露出している。

 色に関しては、上が濃い目の赤、というより紅色。下が黒だ。

 

 昔はBMGと並ぶイラストアドのトップクラスに君臨し、今では圧倒的イラストアドの新規も登場した。

 それが、綾羽本人が持つ子供っぽさと交わってギャップが感じられるのだ。

 

 神秘的なエロ差のある衣装を身に纏うあどけない美少女。

 

 英明はもともと、『綾羽ちゃん親衛隊』などという、無駄にエネルギーを使いそうなものに所属している。

 で、その崇拝対象である綾羽がこんな格好になっているので、脳味噌がオーバーヒートしているのだ。

 ぶっちゃけ、先ほどのスポーツブラとハーフパンツの姿の方が露出度は高いのだが、こちらの方がダメージは大きいらしい。

 

 結果。

 

「えいっ!」

「ぐほあっ!」

 

 相手にならなかった。

 

(こればかりは悲しい男のSAGAだな)

 

 枯れ果てた心で、遊月はそんなことを考えた。

 

 ★

 

 とりあえず英明に戦力外通告を一方的に叩きつけておいて、再度遊月や精霊たちとごちゃごちゃすることになった。

 しかし、このままではどうにもならないので、とりあえず、創輝を連れて移動することに。

 

「遊月君。これ、何処に向かってるの?」

「『アイディアル・タワー』だ」

「え……アイディアル・タワーに?」

 

 アムネシアの敷地から見える百二十階建ての超巨大なタワーがある。

 アムネシア周辺におけるデュエル複合施設だ。

 主にデュエルモンスターズの精霊に関して研究している。

 

 が、それだけでは正直儲からないので、『開催団体』としての一面がある。

 催し物と言うのは大体金がかかったり、細部に目が行かず失敗することも多い。

 そのため、圧倒的な資金と人脈を駆使して、そう言ったものを開催する場を提供するのが仕事だ。もちろんアイディアル・タワーが主催する催し物もある。

 タワー内部にも様々なアトラクションが存在し、一般開放されている部分は多い他、様々な関連施設がアムネシア周辺地域を超えて存在するほどだ。

 

 そしてもちろん、フィクサーである不死原遊月が顔を出すということは『そう言う場所』ということでもある。

 階層が上に行けば行くほど、機密さは増していく。

 

 圧倒的な『資金』と『人脈』と『情報』と『技術』を有しているゆえに圧倒的な発言力があり、デュエルスクール・アムネシアは『若干融通が効く不可侵』と言ったレベルだが、それを保障しているのはアイディアル・タワーだ。

 その中でも高い階層にはVIPのみが入れるエリアもあり、その中には、セキュリティの最高責任者や、DGCの本部長くらいのレベルのものが入れる。

 言いかえれば、セキュリティやDGCは、アイディアル・タワーの傘下組織なのだ。

 ……結成当時の状況が影響するが、それはいいとしよう。

 

「おや、もう会わせるのですか?」

 

 運転中の創輝が反応する。

 綾羽は首をかしげる。

 

「どういうこと?」

「これから会うのは……まあ、私が今持っている最大の切り札だよ」

「切り札?」

「私の代理人と務めることができる。ということだ。私ほど強くはないけど」

 

 次善策というものはあったほうがいいし、自分しか動けないという状況は回避したほうがいい。

 要するにそういうことだ。

 数十分後、ハイヤーは超巨大ビルの裏口から入る。

 

「……遊月君って、アイディアル・タワーにも影響力があるの?」

「……フフフ」

 

 遊月は不敵に笑うだけ。

 そして、ハイヤーを運転する創輝は内心苦笑していた。

 

(まあ笑うしかないですよねぇ。遊月様が作った(・・・)場所ですし。そんなことを言ったら絶対に混乱しますけど)

 

 そんないろいろな思考があるなか、ハイヤーは進んで、エレベーターに乗りこむ。

 そして、そのまま上に上がっていった。

 

「……え、車のまま上に上がって行けるの?」

「タワーの中心にはそれを可能にするエレベーターが存在するからな」

「ちなみにこちらは現在、超VIPの方しか使えませんね。お父様がめちゃくちゃ便利なのに申請が面倒だと愚痴っていましたよ」

「……アムネシアの理事長でも簡単には使えないんですか?」

「少なくとも顔パスなのは遊月様くらいですよ」

 

 そう言っていると、エレベーターが着いた。

 

「……ねえ、いつエレベーターの操作盤を押したの?」

「私のデュエルディスクで操作できる」

「……えぇ!?」

 

 綾羽は『なんじゃそりゃ!?』という表情だが、遊月は無視。

 そのまま三人でハイヤーを降りて、廊下を歩いていく。

 

「……ねえ、音が全く聞こえないんだけど」

「元から防音室が多いし、地上百二十階だ。地上の喧騒なんて遠い世界だよ」

「え、最上階なの!?」

「綾羽様。申し訳ございませんがあまり大きい声は……」

「あ、すみません」

「遊月様が同伴でなければ問答無用で叩きだされてますよ」

「……マジですか?」

「マジです」

 

 ちょっとビビる綾羽。

 そう言っていると、広い空間にたどり着いた。

 上質なソファーセットに加えて、視界の端の方にはカウンターが存在し、事務員がパソコンのキーボードを拘束連打している。

 一応、ロビーと言える場所で、カウンターにいる事務員はフロントだろうか。

 

「……」

 

 もはや何も言わなくなった綾羽。

 ISDといういろいろと機密にかかわる状況に立っていた綾羽だが、ここまで来るとレベルが違いすぎる。

 

「時間通りだな。日夏」

 

 遊月は、ソファに座って、紅茶を飲みながら本を呼んでいる少女に話しかける。

 少女は本にしおりを挟んで、立ち上がってこちらを見る。

 

 その雰囲気に、綾羽は息を吐いた。

 簡単に言えば、儚い印象の少女だ。

 銀髪をショートカットにしており、格好はアムネシアの制服姿である。

 黒い瞳も落ち着いた雰囲気が出ていて、感情があまり感じられない。

 胸は慎ましいが、そのかわり、びっくりするほど肌がきれいだ。

 

「遊月様。お久しぶり。それから、大束綾羽さんだったかな?話は聞いている。私は沢本日夏(さわもとひなつ)。よろしく」

 

 そういってお辞儀をする日夏。

 育ちがいいというか、溢れんばかりの優雅さがある。

 声にも感情がこもってないが。

 

「は、初めまして、大束綾羽だよ。綾羽って呼んでね」

「私のことは好きに呼んでくれていい」

 

 さて、自己紹介は終了。

 

「これからどうするかってことなんだが、ちょっと綾羽をいろんなところに引っ張ってほしいんだ。日夏が普段やってることについていかせるだけでいい」

「え!?」

 

 何も聞かされていなかった綾羽が驚く。

 だが、日夏は頷くだけ。

 

「……英明さんにしたようにすればいいですか?」

「そんな感じだ」

「英明君も同じ目に合ってるって……どういうこと?」

「行けば分かる。安心しろ。日夏の実力は私が保障する」

「……遊月君はどうするの?」

「私は今日はこれから用事があるからな」

 

 遊月はげんなりした様子で、黒いガラケーをとりだしながらそう言った。

 日夏がそれをチラッと見て頷く。

 

「とにかく、そうと決まれば行きます。創輝さんは運転をお願いします」

「分かりました……私、日夏様のこと苦手なんですけどねぇ……」

 

 いやそうな顔でそう言う創輝だが、元は遊月の命令。

 無下にすると逆に面倒なことになるので、諦めた様子で頷いた。

 

「というわけで、行く。遊月様は……」

「私は地下鉄で帰る。アムネシアからは通ってないが、ここからは直通で通ってるからな」

「わかりました」

 

 そういうわけで、ここからは別行動になった。

 

 ★

 

「……あの、日夏ちゃんが普段してることについていくってことだけど、普段何をしてるの?」

「午前中は学校。アムネシアの高等部一年だから、緊急の用件でない限り、午後に活動してる。大体はデュエル犯罪の対処」

「え……それって、セキュリティとかDGCとかが対応しているんじゃないの?」

「彼らには見つけるのが得意なものもあるけど、誤認や勘違いも含まれるから、情報収集能力がたかいアイディアル・タワーが対応することもある」

「誤認とかあるんだ」

「もちろん」

 

 運転している創輝は内心で頷く。

 

(そりゃまぁ、遊月様のマッチポンプに巻き込まれて動いていたウォーター・ドラゴンの情報が『正式』に登録されていたくらいですしね。他にもいろいろあるでしょう)

 

 遊月が持つドーハスーラが『悪霊瘴気の抽出・操作』に長けているのに対して、ウォーター・ドラゴンは、『体内での悪霊瘴気の制御』に長けている。

 ドーハスーラのような精霊は少ないのだが、ウォーター・ドラゴンのような精霊はそこそこいるのだ。

 そういったモンスターはマッチポンプに使われるが、あまり知られていない。

 

「まあ、今日はいうほど強敵ではない、気楽に行く」

「あ、そんな感じなんだ」

「日夏様。そろそろポイントです」

「わかった。そろそろ車から降りる」

 

 近くにハイヤーを止めて、日夏と綾羽はハイヤーから降りる。

 

「創輝さんは待っていてください」

「分かりました。お気を付けて」

「問題ない」

 

 日夏はそのまま歩く。

 身長は綾羽よりも日夏の方がやや低いのだが、堂々としているのが誰にでもわかるほどだ。

 

「……これからどうするの?」

「精霊ハンターを捕らえに行く」

「え、精霊ハンター?」

 

 一度被害にあっている綾羽としては嫌な思い出だ。

 

「知っていると思うけど、野良になっている精霊を確保して、安静にできる施設に届ける『精霊保護者』という職業があって、これに関しては公認の資格が存在する。でも、中には劣悪な目的で精霊カードを手にいれるものもいて、そんな奴らの手先になって動いているのが精霊ハンター」

「……私も一回被害にあってるからわかってる」

「なるほど、まあとにかく、そういった精霊ハンターを捕らえる仕事も私は請け負っている」

「へぇ……じゃあ――」

「シッ。そろそろ静かに」

 

 左手の人差し指で綾羽の口を押える日夏。

 

 そして、目線を路地の角に向ける。

 

 そこにいたのは……。

 

「さてと、確かこのあたりに精霊がいたはずなんだがな……」

 

 きょろきょろと見渡している男がいる。

 それを見て、綾羽が驚いた。

 

「せ、精霊ハンターの京吾」

「知ってるの?」

「私が被害にあったのはあの人が原因だから……」

「なるほど、まあ、大束家の教えの通りに生きていたのなら、あの男には勝てないから当然。ちょっと行ってくる」

「あ、ちょっ!」

 

 日夏は京吾の方に向かってまっすぐ歩いていった。

 それなりに注意力はある方なのだろうか、京吾の方も日夏に近づいた。

 

「あ?なんだガキ。こんなところで迷子か?」

「違う。精霊ハンターであるあなたを捕らえに来た」

「なるほどなぁ。まっ、やれるもんならやってみろよ」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「俺のデュエルディスクはリアルにダメージが入るもんだ。逃げるなら今の内だぜ」

「私は私より弱い人の言いなりにはならない」

「ハッ!言うじゃねえか」

 

 お互いにカードを五枚引く。

 

「「デュエル!」」

 

 日夏 LP8000

 京吾 LP8000

 

 先攻は日夏。

 

「先攻は私。モンスターをセットして、さらにカードを二枚セット、ターンエンド」

「消極的だなぁ。俺のターン。ドロー!」

 

 京吾はドローしたカードを見てにやりと笑う。

 

「俺はまず『手札抹殺』を発動だ。お互いに手札交換だぜ」

「……」

 

 淡々と処理を進める日夏。

 

「墓地に送られた『幻獣機オライオン』の効果だ。トークンを俺のフィールドに特殊召喚するぜ」

 

 幻獣機トークン DFE0 ☆3

 

「『死者蘇生』を発動。墓地から『ホルスの黒炎竜 LV6』を特殊召喚!」

 

 ホルスの黒炎竜 LV6 ATK2400 ☆6

 

「バトルフェイズ!ホルスでセットモンスターを攻撃!」

「セットモンスターは『マシュマカロン』。破壊されたことで、デッキから二体特殊召喚」

 

 マシュマカロン DFE200 ☆1

 マシュマカロン DFE200 ☆1

 

「チッ。なら、三枚セットしてターンエンド。ホルスをレベルアップ!」

 

 ホルスの黒炎竜 LV8 ATK3000 ☆8

 

「さて、お前のターンだぜ」

「私のターン。ドロー」

 

 ドローした瞬間、京吾が動いた。

 

「俺はトークンをリリースして『暴君の威圧』を発動し、ライフを1000払って『スキルドレイン』を発動だ!」

 

 京吾 LP8000→7000

 

「スキルドレインの効果により、お互いのモンスター効果は無効。そして、暴君の威圧により、元々の持ち主が俺のモンスターは、罠の効果を受けない!」

「なるほど、これで、フィールドのモンスター、魔法の効果を封殺した。ということになる」

 

 見ている綾羽からすればたまったものではない。

 

「……余裕そうじゃねえか」

「全然余裕。墓地から『ギャラクシー・サイクロン』を発動し、『スキルドレイン』を破壊」

「チッ……」

「これでモンスターと罠は使える」

「させるか!『王宮のお触れ』を発動し、罠の効果は無効!」

「関係ない。マシュマカロン二体をリリースして『The splendid VENUS』を特殊召喚」

 

 The splendid VENUS ATK2800 ☆8

 

 綾羽も使うモンスターだ。

 

「VENUSの効果で、天使族以外の攻撃力がダウンする」

 

 ホルスの黒炎竜LV8     ATK3000→2500

 

「チッ……テメエも、あの女と同じように【天使族】使いって訳か!」

「確かに【天使族】を使うけど、私の場合はもうちょっと細かい」

「何?」

「まずは罠カード『メタバース』を発動。デッキからフィールド魔法一枚を発動する」

「ハッ!俺のお触れのおかげで……」

「通用しない。VENUSの効果で、私が発動した魔法・罠は無効にならない」

「何だと!?」

 

 驚愕する京吾。

 魔法・罠を封じるデッキに取って天罰とも言える性能。

 それがVENUSに備わっていると知らなかったのだ。

 発動そのものを不可とするサイコ・ショッカーなら封じられていたが、お触れなら何の問題もない。

 

「デッキからフィールド魔法『光の結界』を発動」

 

 発動されたのは、一つの結界。

 

「ひ……『光の結界』だと?じゃあまさか……」

「私も『死者蘇生』を発動。墓地から『アルカナフォースIV-THE EMPEROR』を特殊召喚。攻撃力が1500以下のため、セットしていた『地獄の暴走召喚』を発動」

「その地獄の暴走召喚も……」

「VENUSの効果で無効にならない。出てきた二体も、元からいた一体も、光の結界の効果で効果を選ぶことが出来る。どちらも表を宣言」

 

 これにより、アルカナフォースは攻撃力が500あがる。

 それが三体。

 

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR ATK1400→2900 ☆4

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR ATK1400→2900 ☆4

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR ATK1400→2900 ☆4

 

「な……ば、バカな……」

「バトルフェイズ。光の結界があることで、アルカナフォースがモンスターを戦闘破壊した時にライフ回復もできるけど……もう関係ない。一斉攻撃」

「ぐ……がああああああ!」

 

 京吾 LP7000→6700→3800→900→0

 

 一気に削られていくライフ。

 それを見て頷いた日夏は、京吾を拘束して電話をかけた。

 すぐにセキュリティの隊員が来て、京吾を連行していく。

 

「まあ、こんなもの。今日はもう帰る」

「遊月君の家まで一緒に行くの?」

「私は私でやることがあるから無理、途中で降りる」

「あ、そう言う感じなんだ」

 

 そんなわけで、日夏を乗せたハイヤーは来た道を戻って、タワー付近で日夏は降りた。

 そして、ハイヤーは遊月の家に向かった。

 

「どうでしたか?日夏様は」

「なんか。最初はきれいな子だなぁって思ったよ。あんな綺麗な肌の人見たことないもん」

「まあ、そこに関しては私も同意ですよ。デュエルはどうでしたか?」

「その……無駄がないっていうより、鮮やかって言うか……なんだか、簡単そうな感じだった」

 

 そう、日夏の戦術は言うならば『簡単』であった。

 ロックデッキを使って来るのであれば、それを大きく封殺できるモンスターを用意し、そして、それを通すためのお膳立てをして、あとは好きに動いで高火力で殴る。

 教科書にかかれているような『抽象的な理想形』をそのまま体現したような感じだ。

 

 良い教えを受けてきた。と言うことなのだろう。

 

「なんか、会うときもパッとあって、分かれるときもパッと離れて……なんか、いろいろやってたけど全部簡単そうにしてた」

「まあ、デュエルを一回見て、一日接するだけでそれに気が付けるのなら十分ですよ。私は何か難しいことをしているのでは?と頭を捻り続けていた時もあるくらいですし」

「……まあ、普通はそうですよね」

「ええ……さて、着きましたよ」

「ありがとうございます」

「綾羽様も、こうして私のハイヤーを利用するのが普通になってきましたね」

「え……そうですか?」

「最初はぎこちない感じでしたが、遊月様に毒されたようですね」

「あ……そうかもですね」

 

 苦笑いになる綾羽。

 礼をいって中に入る。

 遊月はリビングにいるようだ。

 覗きこむと、遊月は新聞を見ながら黒いガラケーを耳に当てて話している。

 

「だから、副総理には来年の国家予算削減の阻止をしてほしいんだって、まだ経費浮揚策は必要だろ。え、何?これ以上国が借金を重ねるのはマズいって?今更だろ。それに、国債は私が買い支えるから問題ないって……え?……ふんふん……ほーん……私を脅迫する気かい?なら副総理、二年前の二月のアレだけど……そうそう、良い判断をしてもらってこっちも助かるよ。それじゃあまた後で」

 

 通話終了のようだ。

 そして遊月が綾羽に気が付いたようだ。

 

「帰ってたのか」

「え……あ、うん。あの遊月君。さっき『副総理』って聞こえたんだけど」

「まあ私くらいになればこれくらいのつながりはね」

「思いっきり脅してたよね」

「政治だからね」

 

 そうなのだろうか……。

 綾羽は突っ込まない方がいいような気がした。

 

「で、日夏と会って、いろいろ思っただろうが、私と肩を並べるならあれくらいはできないと付いてこれないよ。それを教えるために合わせたんだ」

「……わかった。いろいろ、考えてみる」

「それでいい。そろそろ香苗も帰って来るだろうし、飯の準備だな」

 

 そう言いながら立ち上がる遊月。

 その背中を見ながら、綾羽は日夏のことを思いだすのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。