一つのことを何度も思い返すことがあったとしても、常に時間は過ぎていく。
とある『話題』が時間の経過とともに噂することすらなくなるのは、そういう時間の経過が原因だ。
いつまでも誰かが話す話題の方が珍しい。
そう言うわけで、遊月は思ったことがあれば、いつも通り英明に話しかけるのだ。
「英明。時々思うことがある」
「おう、なんだ?」
「モンスターカードは二種類で分類できると私は思う」
「ほう」
「『あくまでも効果が優先されるモンスター』と『場に残って頑張るモンスター』だ」
「ソリティアで言う『展開補助』と『着地点』だな」
「そうだ。はっきり言って『着地点』の方は言うまでもないだろう。強いから立てておくんだからな」
「そりゃそうだ。で、『展開補助』の話か」
「ああ。たまに思うのだが、妨害札を使った時、酷い時は、そのままモンスターが残るものだ。で、自分のターンになって戦闘で破壊しようとした時、思ったよりステータスが高くてびっくりするときがある」
「あー……分かるな」
「英明。お前が普段使わないだろうから聞くが、デストルドの守備力を知っているか?」
「……あの『ライフ半分使ってレベル7シンクロしようぜ』って言いたそうなモンスターか」
「ああ。どれくらいだと思う?」
「攻撃力は確か1000だったと思うんだよな。ソリティアが好きな連中が攻撃表示で出してきたとき、そんなステータスだったような気がする」
「合っているぞ」
「守備力か……2000から2500くらいか?」
「3000ある」
「高っか!え、アイツそんなにあるの!?」
「ある。あと『ドットスケーパー』の守備力を知ってるか?」
「ええと……サイバース族で、墓地に送られた時と除外された時、それぞれでデュエル中に一回ずつ特殊召喚できるんだったな」
「そうだ」
「レベル1だよな」
「そうだ」
「……わからん」
「2100ある」
「うわー……500強化するだけで2600のレベル1モンスターになるわけか」
「そうなる」
「……高くね?」
「まあそういう話をしているわけだからな」
こんなふうに、モンスターのステータスと言うものは侮れないものなのだ。
召喚した時にいくら表示されるからと言って、意識していなければならないことはいろいろあるのだ。
月の書で裏側になったデストルドをドーハスーラで殴って返り討ちになったのは遊月に取って記憶に新しい。
「ま、そんな風に、覚えておくことも必要ってことだな」
「そうだな……そう言えば、午後は実技授業か」
「っていっても、デュエルするだけだけどな」
デュエルスクールと言うものはどこもそう言うものである。
「クラス内でくじ引きみたいなもんだろ?どうなるんだろうな」
「私が知るか」
「まあ、遊月は誰が相手でも関係ないからな」
一定の評価をもらえる程度にデュエルをする。
それだけであり、それ以上でもそれ以下でもない。
「む、デュエルディスクに通信が来た……タッグデュエルだと?」
「へえ、初めてだぜ……ん?この番号は……遊月。ひょっとしてペアはお前か?」
「……みたいだな」
遊月は英明のデュエルディスクをチラ見してそういった。
「ぐぬぬ。何でタッグデュエルでお前とペアなんだよ。綾羽ちゃんがよかったぜ」
「私に言うんじゃない」
いずれにせよすべて偶然なのだ。遊月に言われても困る。
★
敷地の地下。
そこには、膨大なほどの実習室が存在し、一つの部屋で四人までが混ざってデュエルするような感じだ。
一つの部屋に対して入り口が対照的になるように二つ存在し、東側から入るか西側から入るか、という入り方になっている。
「ええと、お前と組むんだからこれを無理だな。ええとこっちに……」
英明が遊月の『アンデットワールド』に合わせていろいろ調節しているようだ。
遊月よりも綾羽の方がいいとかいろいろ言っているが、結局は遊月に合わせる。
なんだかんだ言っていいやつなのだ。若干性欲が強いが。
遊月とは真反対である。
「よし、デッキの調節は出来た。行くぜ。遊月」
「ああ」
扉を開けて中に入る。
シングルでもそうだが、タッグデュエルに加えて、多少の観戦スペースが存在する。
ちなみに、このレベルの広さの部屋が何百個もあるというのだから工事費用と電気代の無駄遣いと言うものだ。
とはいえ、現代においてデュエルは政界や財界と並ぶ要素であり、このデュエルスクールは『施設重視』である。
はっきり言って最新式のデュエルコートだとか言われても、野外でやるのと大して変わらないので、それならばと部屋を作りまくったということだ。
……予算の使い方を確実に間違えている気がする。
「あれ、まだ対戦相手は来てないみたいだな」
「だな」
英明は誰が相手なのか楽しみにしていたようだが、まだ相手は来ていなかった。
「まあ、それならそれでかまわないか。まだちょっと時間あるし」
「確かにな。普通なら、タッグデュエルをするとなればそれ相応にデッキの調節は必要だ」
「汎用パーツが多いお前のデッキとは違うからな」
「お前が言うか?」
そこまで行ったとき、反対側のドアが開いた。
二人ともクラスメイトだ。
永石圭吾と、大束綾羽。
永石が大束をグループに誘われているという話を聞いたことがある。
というか英明が言っていた。
「フフフ、綾羽ちゃん。このデュエルで君に見せてあげるよ。俺がこの学校で最も優れたデュエリストだということをね」
「あ、う、うん」
明らかに大束の方がおびえたような雰囲気を持っているのだが、それはそれでどうなのだろうか。
「おいお前!俺と遊月は噛ませ犬じゃねえんだ。あんまり舐めてると後悔するぜ」
「はっ?お前馬鹿か。お前程度の雑魚が俺に勝てるわけねえだろ」
「ふっざけんな!雑魚って言った方が雑魚なんだよ!」
「まあいいさ。どうせ俺が勝つのは決まってるんだ。バカの熱血漢に、目の腐った不気味男だろ?こんな底辺コンビに負けるわけねえだろうが」
永石がデュエルディスクを構える。
「くっそおおおお、絶対にぎゃふんって言わせてやる。行くぞ遊月」
「英明。余計なことをペラペラしゃべるな。見ていて滑稽だ」
「ぐふっ」
デュエルディスクを構えながら英明にとどめを刺す遊月。
正直なところ、どうでもいいことだとしか思えないのだ。
「あ、あはは……私も頑張ろう」
バカとかアホが部屋の中に三人もいて何を言えばいいのかわからなくなっている大束。
仕方のないことである。
とは言うものの、デュエルをすることに変わりはない。
全員がカードを五枚引く。
「「「「デュエル!」」」」
遊月&英明 LP8000
圭吾&綾羽 LP8000
ターンランプが付いたのは英明。
「よっしゃあ!俺の先攻!俺は手札から、『E・HERO ソリッドマン』を召喚!」
E・HERO ソリッドマン ATK1300 ☆4
「ソリッドマンの効果発動。手札のHEROを特殊召喚だ。現れろ。『E・HERO シャドー・ミスト』!」
E・HERO シャドー・ミスト ATK1000 ☆4
「シャドー・ミストの効果で、デッキから『マスク・チェンジ』を手札に加えるぜ。そして、ソリッドマンとシャドーミストの二体をリンクマーカーにセット!」
二体のHEROがマーカーに飛び込んだ。
「条件はHERO二体。英雄は今混じりて、驚異の爆走者となる。リンク召喚!リンク2『X・HERO ワンダー・ドライバー』!」
X・HERO ワンダー・ドライバー ATK1900 LINK2
「俺はカードを二枚セットして、ターンエンドだぜ!」
「ハッ!HEROなんてカードを使ってるなんてな。俺が叩き潰してやる。ドロー!」
圭吾が勢いよくドローした。
そして楽しそうな笑みを浮かべる。
「行くぜ。俺はスケール1の『クリフォート・アセンブラ』と、スケール9の『クリフォート・ツール』で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
出現する二体の機械。
「んな……クリフォートだと!?」
「その通りだ。ツールのペンデュラム効果で、デッキから『アポクリフォート・キラー』をサーチ」
圭吾&綾羽 LP8000→7200
「しかもキラーって……」
「それに特化してるってことだ。さあお出ましだぜ」
手札のカードを二枚もった永石。
「邪悪の樹を宿す砦よ。振り子が描く設計図に従い、殲滅すべく起動せよ!ペンデュラム召喚!『クリフォート・ゲノム』『クリフォート・アーカイブ』!ま、ステータスは変化するけどな」
クリフォート・ゲノム ATK1800 ☆4
クリフォート・アーカイブ ATK1800 ☆4
「そして、この二体をリリース。『クリフォート・ディスク』をアドバンス召喚!」
クリフォート・ディスク ATK2700 ☆7
「ディスクの効果発動。クリフォートをリリースしてアドバンス召喚したことで、デッキから二体のクリフォートを特殊召喚する。そして、ゲノムとアーカイブの効果。こいつらはリリースされた時に発動できる固有の効果がある。ゲノムの効果で、俺から見て右側のセットカードを破壊。アーカイブの効果で、ワンダー・ドライバーを手札に戻す!」
「こりゃマズい!指定された『マスク・チェンジ』を使って、ワンダー・ドライバーを変身召喚!『M・HERO 光牙』!」
M・HERO 光牙 ATK2500 ☆8
「対象不在でゲノムとアーカイブは不発だ。だが、ディスクの効果で、それぞれ二体目のこいつらを特殊召喚!」
クリフォート・ゲノム ATK1800 ☆4
クリフォート・アーカイブ ATK1800 ☆4
「これで、クリフォートが三体……」
「俺はフィールド魔法『機殻の要塞』を発動し、それにより、追加のクリフォート召喚権を得る。俺はディスク、ゲノム、アーカイブをリリース。『アポクリフォート・キラー』をアドバンス召喚!」
アポクリフォート・キラー ATK3000 ☆10
「きやがったか」
「そしてこの瞬間、ゲノムとアーカイブの効果発動!」
「はっ!?」
「ターン一なんてついてねえんだよ!」
ゲノムの効果によってセットカードが破壊され、アーカイブの効果で光牙がエクストラデッキに戻る。
「セットカードは……『ヒーロー・シグナル』か。悪くはねえが、通用しねえよ」
「クソ……」
「やれ!アポクリフォート・キラー!」
アポクリフォート・キラーから放出されたレーザーが、英明に直撃する。
「うごはっ!」
遊月&英明 LP8000→5000
「俺はこれでターンエンドだ。俺の手札は今はゼロ枚だが、アセンブラのペンデュラム効果により、このターンアドバンス召喚のためにリリースしたクリフォートの数、よって五枚。デッキからドローする」
あれだけぶっ壊したというのに手札が五枚。
「どうだ。俺のクリフォートデッキの力は。お前らなんぞ相手にならねえんだよ!」
「……」
「どうした。驚きすぎて声も出ねえか?このドクロ野郎!」
「ドクロ野郎なんて言われたのは初めてだが、まあそれは置いておくとして……理想的な動きをすると思っただけだ」
「何?」
「私のターン。ドロー」
とにもかくにも、次は遊月のターンだ。
「さて、どうするかな」
「アポクリフォート・キラーに、下手な手段は通用しないぜ」
「私が気になっているのは、キラーの方ではないが……」
遊月は『機殻の要塞』をチラッと見て、それに加えて、英明が使った『マスク・チェンジ』にも一瞬意識が向いたのだが、それ以上は注意しないことにした。
「要するに、レベル10以上のモンスター効果なら受け付ける訳で、攻撃力と守備力を下げる以外は邪魔してこないというわけか。なら私は『ユニゾンビ』を召喚」
ユニゾンビ ATK1300 ☆3
「ユニゾンビ……なるほど、典型的なアンデットってわけか。なら、俺のアポクリフォート・キラーを倒す手段は……」
「第一の効果発動。ユニゾンビを対象にして、手札の『死霊王 ドーハスーラ』を捨ててレベルを一つ上げる」
ユニゾンビ ☆3→4
「ほう、ドーハスーラか」
そのカードを聞いて笑みを濃くする永石。
レベル8モンスターであるドーハスーラではどうしようもないと考えているのだろう。
「私は『おろかな埋葬』を使って、『馬頭鬼』を墓地に送る。そして、これを除外」
遊月の墓地から、闇があふれ出す。
「終わりも始まりもない
死霊王 ドーハスーラ ATK2800→2300 ☆8
出現する屍の世界の王。
「この感覚、精霊カードか」
「ご名答」
「クックック。お前には過ぎたカードだ。このデュエルで俺が勝ったら、そのカードはもらうぜ」
「な、圭吾君。いくらなんでもそれは……」
「あ?俺の言うことが聞けないっていうのか!」
急に大束に対して叫びだした永石。
「……」
「なんだドクロ野郎。俺に文句があるってのか?」
「別にアンティルールが発生しようと私は気にしない。第一、私のドーハスーラが君の言うことを聞くわけがない」
「どういうことだ?」
「説明する義務はない。それと……ドーハスーラがアポクリフォート・キラーを倒せない。と言っているように聞こえるが、それは単体の話だ」
遊月は手札の速攻魔法を使う。
「私は『緊急テレポート』を発動。デッキから『幽鬼うさぎ』を特殊召喚」
「はっ?」
幽鬼うさぎ ATK0 ☆3
「ば、馬鹿な……」
「ユニゾンビの効果で、デッキから『屍界のバンシー』を墓地に送り、ドーハスーラのレベルを上昇させる」
死霊王 ドーハスーラ ☆8→9
「そして、墓地からバンシーを除外して、デッキから『アンデットワールド』を発動」
遊月のデッキから『アンデットワールド』が発動され、遊月と英明がいる側のフィールドが屍界に染まっていく。
「……なんだ。これは」
「なんだか。思ったより重いね」
「うーん。まあいつも通りなんだが、みんなもそう思うのか?」
三者三様といったところだが、遊月は気にしない。
「そして、アンデット族のユニゾンビとうさぎをリンクマーカーにセット。召喚条件はアンデット二体。失意の英雄よ、怨念渦巻く大地で、救世主となりて生まれ変われ、リンク召喚。リンク2『アドヴェンデット・セイヴァー』!」
アドヴェンデット・セイヴァー ATK1600→1100 LINK2
「バトルフェイズだ。まずはセイヴァーで攻撃。そして、デッキから『死霊王 ドーハスーラ』を墓地に送ることで、キラーの攻撃力を1600さげる。そして『アンデット・ストラグル』で、セイヴァーの打点を上昇させる」
「くそが……」
アドヴェンデット・セイヴァー ATK1100→2100
アポクリフォート・キラー ATK3000→1400
圭吾&綾羽 LP7200→6500
「さらに、ドーハスーラの攻撃力も元に戻る。ダイレクトアタックだ」
死霊王 ドーハスーラ ATK2300→2800
圭吾&綾羽 LP6500→3700
「手札から『アドバンス・ドロー』を発動。ドーハスーラをリリースして、二枚ドロー……カードを二枚セットしてターンエンドだ。セイヴァーの攻撃力はキラーが消えた時点で戻っている。そしてストラグルの効果が終了して元に戻る」
アドヴェンデット・セイヴァー ATK2100→2600→1600
伏せカードは二枚。
アンデットワールドもあるので、悪い布陣ではない。
「なら、私のターンだね。ドロー!」
次は大束のターンだ。
「スタンバイフェイズに入っていいか?」
「うん」
「なら、ドーハスーラの効果発動だ。守備表示で特殊召喚する」
死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8
「むむむ、なかなか面倒なことになったね」
クリフォートのペンデュラム効果は、当然だがペアである大束にも適用されている。
はっきり言って、クリフォートデッキではないのなら邪魔である。
遊月が英明をチラッと見ると、英明は二体のペンデュラムモンスターを見ている。
「まずは『揺れる眼差し』を発動。ペンデュラムゾーンのカードをすべて破壊して、その数によって効果を決定するよ」
((割るんかい))
ツールとアセンブラが粉々になった。
ちなみに、ツールの効果を使っていないところを考えると、どうやら大束のデッキの中にクリフォートは入っていないようだ。
「んなっ。俺のカードになにしやがる!」
そして叫びだす永石。
はっきり言って邪魔である。
さすがの大束も無視した。
「効果解決。500ポイントのダメージを与えて、デッキから『エキセントリック・デーモン』を手札に加えるよ」
遊月&英明 LP5000→4500
「これは……」
「このまま『エキセントリック・デーモン』をセッティングして、ペンデュラム効果発動。このカードと『アンデットワールド』を破壊するよ」
「……まあ、これは仕方がないか」
消え去っていくアンデットワールド。
とはいえ、これは必要経費だろう。
そして……本人のデッキは一体……。
「私は手札から『ヘカテリス』を捨てて、効果発動、デッキから『神の居城-ヴァルハラ』を手札に加えるよ。そして発動!」
普通なら、フィールド魔法しか風景に影響しないのだが、実際にヴァルハラが出現した。
「くうう!綾羽ちゃんが使うヴァルハラ、最高だぜ!」
そして英明が何か言っているが、大束は無視することにしたようだ。
……というより変態慣れしてきたような気がする。
ただ、遊月は、英明とは別の理由で、あのヴァルハラのカードに興味があった。
「そして、これをそのまま発動して、『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』を手札から特殊召喚!」
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト ATK2600 ☆8
「モーツァルトの効果発動。手札から、光属性、天使族モンスターを特殊召喚できるよ。私は手札から『マスター・ヒュペリオン』を特殊召喚!」
マスター・ヒュペリオン ATK2700 ☆8
「そのまま効果発動。墓地のヘカテリスを除外して、ドーハスーラを破壊!」
ドーハスーラが破壊された。
「そして、『フォトン・サンクチュアリ』を発動。フォトントークンを特殊召喚」
フォトントークン DFE0 ☆4
フォトントークン DFE0 ☆4
「そして、フォトントークン二体をリリース、アドバンス召喚『天帝アイテール』!」
天帝アイテール ATK2800 ☆8
「レベル8モンスターが三体来たか」
「まだまだ行くよ。アイテールのアドバンス召喚成功時の効果。デッキから『汎神の帝王』と『真源の帝王』を墓地に送ることで、デッキから『光帝クライス』を特殊召喚!」
光帝クライス ATK2400 ☆6
「クライスの効果、アドヴェンデット・セイヴァーと、セットカード一枚を対象にして発動するよ。この二枚を破壊!」
「指定された罠カード『針虫の巣窟』を発動。デッキの上から五枚のカードを墓地に送る」
落ちたのは、『真紅眼の不死竜』『傀儡虫』『アンデット・ネクロナイズ』『龍の鏡』『馬頭鬼』
遊月は『私は何か悪いことをしたかな』と三割くらい本気で思った。
「……『アドヴェンデット・セイヴァー』と『針虫の巣窟』が破壊されて、私は二枚ドロー」
「バトルフェイズ。天帝アイテールでダイレクトアタック!」
「『和睦の使者』を発動し、ダメージを0にする」
かなり強制的だが、これは仕方がない。
「チッ。これだけやって決めきれねえとか、甘いにもほどがあんだろ」
フリーチェーンだっていうのに何言ってんだこの男。
「む……私はターンエンド。天帝アイテールの効果で特殊召喚されたクライスは、手札に戻る」
「よっしゃ!次は俺のターンだ。ドロー!」
勢いよくカードを引く英明。
「さて、前にペア組んだ時にすっかり忘れてておもいっきり怒鳴られたから、きっちり行くぜ。ドーハスーラの効果発動!守備表示で特殊召喚する!」
次の瞬間、遊月はドーハスーラから視線を感じる。
(……このデュエルでは英明の言うことにも従え)
遊月がそう念じると、ドーハスーラが墓地から出現した。
死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8
「……ワンテンポ遅くね?」
やかましい。
「そうだった。『アンデットワールド』がなくても、『機殻の要塞』があるから……」
「そう言うこった!」
「何!?俺のカードの何が悪いってんだ!」
悪いとかどうとか言っても仕方がないのだが、さすが大束も放置を覚えた。
「そして、墓地の『馬頭鬼』を墓地から除外し、墓地の『真紅眼の不死竜』を対象にして効果発動。そして、アンデットモンスターの効果発動により、ドーハスーラの効果発動。天帝アイテールを除外する!」
遊月が先ほど念じたことを思い出したのか、ドーハスーラは右手の杖に波動を集約し、アイテールを消滅させた。
「さらに、『真紅眼の不死竜』を特殊召喚!」
真紅眼の不死竜 ATK2400 ☆7
「手札から魔法カード『マスク・チャージ』を発動。墓地から『マスク・チェンジ』と『E・HERO ソリッドマン』を手札に加える。そして、ソリッドマンを召喚!」
E・HERO ソリッドマン ATK1300 ☆4
「効果発動。手札から『E・HERO エアーマン』を特殊召喚!」
E・HERO エアーマン ATK1800 ☆4
「効果発動。デッキから『E・HERO オネスティ・ネオス』を手札に加えるぜ」
準備完了。と言わんばかりに英明が笑みを深くした。
「俺は『マスク・チェンジ』を発動。ソリッドマンを変身召喚『M・HERO ダイアン』!」
M・HERO ダイアン ATK2800 ☆8
ちなみに、攻撃力も高いが、守備が3000もあるちょっと頭がおかしいモンスターだ。
M・HEROでは屈指の防御力だが、単純な防御性能でいえばカミカゼのほうが上で、制圧力はダーク・ロウの方が上というちょっと悲しいモンスターである。
とはいえ、効果は強力だが。
「手札のオネスティ・ネオスの効果を発動!ダイアンの攻撃力を2500アップさせる!」
M・HERO ダイアン ATK2800→5300
ダイアンが拳を握る。
「バトルフェイズ!ダイアンでマスター・ヒュペリオンを攻撃!」
ダイアンがマスター・ヒュペリオンを殴り飛ばした。
ちなみに吹っ飛んだヒュペリオンは使用者である大束ではなく永石に直撃した。
「ぐはああああ!」
圭吾&綾羽 LP3700→1100
「そして、『真紅眼の不死竜』でダイレクトアタック!」
圭吾&綾羽 LP1100→0
「よっしゃ!遊月。俺たちの勝利だぜ!」
「ああ。うん。よかったな」
遊月は若干雑に答えた。
「く、くそ、この俺が負けるはずがねえ!こんなのは何かの間違いだ!」
「……」
正直、オネスティ・ネオスという決戦兵器を持つHEROをバカにしている時点であまりいい判断ではない。
展開力に物を言わせた手段で攻めて、リカバリーを考えなかった大束にも敗因はある。
だがしかし、キラーの力が想像より役に立っていなかったゆえに吠えている部分もあるはずだ。
それともう一つ。
「単にお前は傲慢なだけだろ。欲しいカードがあればそれを奪おうとするだけで、何も考えてないのは明白だ」
「んだと?」
「なら、聞いておこう」
遊月はデッキから『死霊王 ドーハスーラ』のカードを取り出して見せた。
「お前はこのカードが欲しいと言っていたが、【クリフォート】に入るわけがないだろ」
「ぐ……」
そう、そこが問題である。
クリフォート以外の特殊召喚ができなくなるペンデュラム効果であふれているのに、どうするというのだ。
「糞が……」
永石は起き上がると、遊月に背を向ける。
「今回は運が良かっただけだ。次は負けねえ」
「そうかもしれないな。お前が言うとおり、どんなに考えたデッキでも運が悪いと負けるからな」
「~~~~~~っ!」
何かを言いたそうにしている永石だったが、何も言わずに実習室を出て行った。
……というわけで、永石という最大の邪魔者はいなくなった。
そして英明が動く。
「綾羽ちゃん。あいつに何か弱みを握られているなら俺が助けてやっから、いつでも頼ってくれ。じゃあな!」
カッコよく決めたような表情の英明。
ただ、遊月は英明の顔が非常に赤くなっていることに気が付いた。
ついでに言えば若干前傾姿勢である。
(正義感が根本にあって表面に出てくるのが性欲かよ……しかも若干ヘタレとか……)
英明はなんかかっこいいことを言ったままの表情で実習室を出て行った。
「……まあ、深く気にするな」
遊月はそれだけ言って、実習室を後にした。
★
「あんな。作業みたいなタクティクスに負けちまうとはな……」
永石は校舎裏にいた。
グループの生徒も今はそばにいない。
『単にお前は傲慢なだけだろ。欲しいカードがあればそれを奪おうとするだけで、何も考えてないのは明白だ』
先ほどの遊月の言葉が頭に浮かぶ。
「……チッ。それの何が悪いってんだ。俺のすべてを知ってるような口ききやがって、それこそ傲慢だろうが」
永石はデッキから『アポクリフォート・キラー』のカードを取り出す。
「絶対だと思っていた力が、絶対じゃなかった。か」
感情が認めないだけで、理性の方ではわかっていることなどいくらでもある。
「いえ、あなたの『絶対の力』とは、そのカードではありませんよ」
「っ。誰だ!」
振り向いた先にいたのは、サングラスをかけた紫の長髪の男性。
スーツ姿できっちりしている印象はあるものの、不穏なものが含まれていた。
「そう警戒するな。私は確かに怪しいものだが、何も害する存在ではない。私は君
「……
複数形なのが気になった。
だが、男性はそこは無視した。
「あなたには絶対の力がある。だが、あなたは気が付いていないようだ」
「それではないって言ったな。なら、いったいどれだ」
永石はすぐに、『自分が絶対の力をすでに持っている』と判断した。
そう言い聞かせているように聞こえたからである。
「あなたは思ったより賢いですね……それが知りたければ、私と契約をしましょう」
そう言って男性が取り出したのは、一つのカプセルだ。
飲み干すことができるくらいの大きさのものである。
「私は確かに、あなたが持つ絶対の力がなんなのかを知っている。契約するのであれば、それを教えたうえで、さらなる力を手に入れるこのカプセルを差し上げましょう」
「その契約の内容は?」
「あなたが賛成してから話しますよ」
「ハッ!いまどき小学生でもそんな話には乗らねえよ。第一……」
永石は男性をにらみつけて、言葉を続ける。
「他人に与えられた力なんぞ知るか。それと、『さらなる力を手に入れるカプセル』っていったな。言い換えれば、カプセルを使うだけで手に入る程度ではあるが、まだ俺には上があるってことだ。なら、俺がそれに乗る必要はねえんだよ。俺が、俺だけの力で、それすらも越えてやる!」
永石は『アポクリフォート・キラー』のカードを掲げると、自分の後ろに出現させる。
そして、そのままレーザーを放出させた。
「む……」
男性は回避した。
レーザーが地面に直撃し、土煙が舞う。
そうして晴れたころには、すでにいなくなっていた。
「……俺も離れた方がいいか」
傲慢である永石もさすがにそう思った。
★
そのころ、永石に接触していた男性は電話していた。
「申し訳ございません。『被験者』との契約に失敗しました……え、はい。かしこまりました。任務を続けます」
通話を終了させた。
「フフフ。『他人に与えられた力なんぞ知るか』ですか……バカなものですね。今使っている力が、他人に与えられたものだと知らずに」
笑いを必死にこらえているようだ。
「まあいいでしょう。まだ交渉相手は残っていますからね」
そういいながら、男は闇の中に溶けていった。
致命的なミスがあったのでデュエルの内容を一部修正しています。
キラーって強い……。