遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第二十一話

「……ムフフ。香苗ちゃん。今日もデュエルだよ!」

「お兄ちゃんの添い寝は譲りません!」

 

 バチバチとしている様子の綾羽と香苗。

 二人とも制服姿である。

 遊月の家の地下にはデュエルコートがあり、それぞれが使用しているカードキーを使って開けて使用することが出来るので、もうこうなると容赦はない。

 援助金が膨大でそれなりに金持ち生活だった綾羽に、スケールの違いがでかすぎて感覚がマヒした香苗。

 使うのが自由?なら使おうぜ!と言う思考だ。

 

 とはいえ、こんなのが二人家にいるくらいなら何も問題がないのが遊月である。

 

『……毎日毎日飽きないよね。二人でマスターを挟み込むように寝ればいいのに』

 

 部屋の隅の方でそんなことを呟くブルーム。

 

『我が主もそれくらいなら問題がないだろうな』

『枯れてるもんな』

『童貞のまま枯れるなんて……マスターも不憫だぜ……』

『……反対側でいつも添い寝している私が一番!』

 

 ドーハスーラがため息交じりにいって、ドラゴネクロが何かを思い出すように言って、レイジングが呆れて、みずきは自慢する。

 

『マスターたちにはまだ早いでしょうね』

『え、何が速いの?』

『ハッハッハ!まあ無理だよね~』

『正直、デュエルだるいから二人で添い寝すればいいのにって思うけど……』

『無理でしょう。マスターも綾羽さんもまだ度胸が足りませんから、正面から抱き付くなど不可能。賭けているのは背中から抱き付く権利ですからね』

『若いのう……』

 

 ルインは全てわかっているようだが、うららにはまだ理解できない領域のようだ。

 ライナーもケラケラ笑いながらそんなことを言う横で、グスタフはだらけ切っている。

 ドーラは二人の内心を余すことなく説明し、リーベはそんな二人を眩しいものを見るように呟いた。

 

 まあなんともすさまじい数の精霊である。

 綾羽には二人、香苗には四人いて、それでもかなり多い方だ。

 そして、遊月の精霊がとんでもなく多い。

 

 狭い部屋でわちゃわちゃしていたら正直ヤバいことになる。

 そのため、ドーハスーラやドラゴネクロ、レイジングはデフォルメモードであり、列車たちはオモチャに擬態している。

 

『そう言えばレッドアイズは?』

 

 ブルームがきょろきょろと見渡す。

 

『我と違って高速移動手段がないからな。我が主のそばにいるぞ。いざとなれば力を使う必要があるからな』

『あ、そうだったね』

『ずいぶん前に説明したことがあるような……ブルームもぼけてきたか?』

『なにおう!?ドラゴネクロ。ちょーっと前話でピックアップされてたからって調子に乗るな!』

 

 メタいことを言うんじゃない。

 

『さて、今日はどっちが勝つんだろうな』

 

 レイジングがそう言った時だった。

 

「お前たち、何をやってるんだ?」

 

 デュエルコートがある部屋に遊月が入って来た。

 

「え、遊月君!?」

「な、何かあったんですか?」

 

 驚く綾羽と香苗。

 それを見ながら、ドーハスーラが『あっ』と声を漏らした。

 

『今日は『調節日』だったか?』

「そうだ。準備しておけよ」

 

 そう言うと、遊月は部屋を出ていった。

 綾羽と香苗は顔を見合わせて、ドーハスーラの方を向いた。

 

「あの……どういうことなの?」

『地下空間が作られていることは知っているな?その奥深くに、悪霊瘴気を吸収する機能を持った部屋がある。そこにいって、形成された悪霊たちを討伐するのが目的だ』

「え、集めることが出来るんですか?」

『ドーハスーラは体の外の悪霊瘴気を操作できるからね。それを応用したものだよ』

『たまに変な形の空気洗浄機みたいなのがあるだろ。それを使って集めてるんだ』

 

 ということらしい。

 

『ちなみに、我が主は調節日は家で寝ないぞ』

「え、そうなの!?」

『いろいろ電話しなくちゃいけないところが多いみたいだよ。近くのオフィスのベッドで寝るから、自室は使わないんだ』

 

 そういうことらしい。

 

「あの、それって、私たちはついていって大丈夫なんですか?」

『むしろ普通に連れていく気だと思うよ』

「え、大丈夫なの?」

『大丈夫だ。それに、ついていった方がいいだろうな。我が主の『全力』が見れるぞ』

「「!!?」」

 

 遊月の全力。

 それを聞いて、綾羽と香苗は顔を見合わせる。

 

 とても興味がある反面。そんな全力を出さなければならないような場所というのは、一体どういうことなのだろうか。

 

「あの、悪霊瘴気が集中しているんですよね……私は大丈夫ですか?」

 

 香苗がオロオロしながら聞く。

 『精霊力制御疾患』である香苗は、悪霊瘴気であっても体内に取り込んでしまう。

 さらに、ウイルスの影響でそれが強くなった。

 列車たちに送りつけているため問題がないのだが、そもそも悪霊瘴気をとりこんでしまうことは避けられない。

 不安になるのは当然だ。

 

 だが、不安になっている香苗に対して、アンデットモンスターたちは軽い表情だ。

 

『列車たちのスケールはすごいし、最近は悪霊瘴気を制御出来る精霊に特訓してもらってるから大丈夫だよ』

「え、そうなんですか?」

 

 香苗が列車たちに聞く。

 全員が頷いた。

 

『問題ないよ。ドンと任せて置け!』

 

 ライナーが代表としてそういった。

 ……ちなみに、その制御の師匠はレッドアイズなのだが。それは今は置いておくことにする。

 

 いろいろ確認事項はあるかもしれないし、気になる部分はある。

 だが結果的には、『まあ、遊月が全力出すし問題ないだろ』と言うものである。

 

 ★

 

 そして移動中。

 

「あの、遊月君。地下深くに行くって聞いたけど、どれくらいのデュエリストが集まるの?」

「私たちを除けば四人だ」

「少なくないですか?」

「……もともと私一人でも問題ないからな」

 

 なんだか少し間があったような気がするが、問題ないと言うセリフに嘘はないと分かった二人。

 地下にエレベーターで移動すると、そこにはハイヤーのそばで腕時計を見る創輝がいた。

 

「創輝。時間通りだな」

「遊月様……そうですね。こればかりは遅れると少々マズいので」

「あと三人は?」

「既に別口から向かっていますよ。合流地点で時間通り会う予定です」

「わかった」

 

 そのまま自然にハイヤーの助手席に乗る遊月。

 綾羽と香苗は慌てたようにハイヤーの後部座席に乗りこんだ。

 それを見て、創輝は運転席に乗りこむ。

 そのまま発進させた。

 

「お二人は初めてでしたね」

 

 創輝が綾羽と香苗に話しかける。

 

「あ、はい」

「悪霊の討伐と聞きましたけど……」

 

 オロオロしている様子だが、遊月と居ると急展開は普通にあるので若干耐性ができているようだ。

 創輝がフフッと笑う。

 

「まあ、基本的に厄介な部分は遊月様がするので問題はありませんがね。とりあえず、できることをすれば問題ありませんよ。頑張ってください」

「「はいっ!」」

 

 頷く二人。

 そして、ふと綾羽は気になった。

 

「あの……創輝さんも悪霊討伐をするんですか?」

「はい。私もしますよ……そういえば、私のデッキを見せたことはありませんでしたね。まあ、楽しみにしておいてください」

 

 微笑みながらそういう創輝。

 その隣で遊月は……。

 

「zzz……」

 

 熟睡していた。

 

「お兄ちゃんってどこでも寝れるんですね」

「それに加えて『いつでも』ですね。誰もが緊張しているような空間でも普通に寝ている時も多々ありますよ」

 

 そう聞くと単にデリカシーがないような気がしなくもないが……。

 

「そろそろ着きますよ」

「あれ、結構速いですね」

「というより、遊月様の家の近くに作られた。という感じなので……」

「あ、納得です」

 

 綾羽が遊月の頭をポンポンと叩く。

 

「……ん?もうそろそろか」

「はい。もうそろそろですよ」

 

 そう言うと同時に、ハイヤーは角を曲がる。

 そこには、かなり厳重な扉があった。

 まるで厳重な金庫のような雰囲気がある。

 

「さてと、そろそろ来る頃か」

 

 遊月がハイヤーから降りてデュエルディスクを見た時、Dホイールの音が聞こえてくる。

 遊月が振り向くと、英明が来た。

 

「英明。時間通りだな」

「おう!調節日だからな。気合ばっちり入れてきたぜ!」

 

 相変わらず元気な様子だ。

 

「で、あと二人だよな」

「ああ」

 

 遊月はそういって、近くの角を見る。

 

「日夏。月詠。演出はいいからさっさと出て来い」

「……何故バレた」

「あらあら、流石ですね」

 

 遊月の秘密兵器である日夏と、アムネシアの生徒会長である月詠が角から出てきた。

 日夏がスパナを握っているところを見ると、何かしら考えていたようだが、演出前にばれると全て台無しである。

 

「さて、全員そろったわけだ。これから、この扉の奥にいる悪霊討伐に行く。小型が大量に湧いて出て来るが、デュエルは挑まず、精霊を使って叩き潰せばいい。ある程度抑えたら、最後にデュエルを挑んでくるが、それに関しては私が対応する」

 

 そういって、遊月は全員を見る。

 

「まあ、要するにいつも通りなんだが、質問はあるか?」

「はい!」

「香苗。なんだ?」

「あの、こちらの凄くきれいな人は一体……」

 

 香苗が日夏を見てオロオロしている。

 月詠はアムネシアの生徒会長なので知っているが、さすがに日夏のことは知らない。

 日夏は香苗の頭をポンポンと叩いて、そして撫でる。

 

「~~♪」

 

 とても気持ちよさそうな香苗。

 

「お兄ちゃんの撫でかたに似てますね~」

 

 そんなことを呟く香苗。

 一瞬、日夏がチラッと遊月を見た。

 遊月はわざと無視して、香苗の方を見る。

 

「私の切り札だよ」

「え、切り札……ですか?」

「私がいない時に、私くらいの実力者が必要となった時のための保険だ」

「私は沢本日夏。よろしく」

「よろしくお願いします!」

 

 とりあえず初見の二人の顔合わせは終了。

 それを見た遊月は、扉の方を見る。

 重苦しい金庫だが、横のパネルの指紋認証装置に遊月が指を押しあてると、簡単に鍵が開いた。

 

「さて、入るか」

 

 遊月を先頭に、六人が続く。

 

 中はかなり大きな黒い球体が存在し、その周辺を、悪霊瘴気が渦巻いていた。

 

「こ、ここに、悪霊瘴気が集められてるんだ……」

「そうだ。さて、早速出てきたぞ」

 

 茫然とする綾羽に対して、遊月は頷く。

 見ると、ぎょろっとした目が出現し、悪霊たちがばらまかれていく。

 

「……あれって、『方界胤ヴィジャム』か」

 

 英明が呟いたとおり、ヴィジャムだ。

 

「これはまた、アレなカテゴリですね」

「まずは、対抗できるようにする」

「それがまず最初にすることでしょうね」

 

 というわけで。

 

「行くよ。ルイン」『分かった』

「変身!」『マスク・チェンジ カミカゼ』

 

 綾羽がルインの姿になって、英明はカミカゼの姿になる。

 

「アイン・ソフ・オウル解放。来てください。メタイオン」『任務ヲ遂行スル』

「ライトルーラー。出てきて」『イエス。マイマスター』

「スケールをセッティング。カイゼル。出番ですよ」『参る!』

 

 月詠が『無限光アイン・ソフ・オウル』を解放し、メタイオンが出現。

 日夏が所有する精霊『アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER』を出現させる。

 創輝は『DD魔導賢者二コラ』と『DDケルベロス』でスケールをセッティングし、『DDD制覇王カイゼル』が出て来る。

 

「ライナー。グスタフ。ドーラ。リーベ。行きますよ!」

『よーし。行くぞ~!』

『面倒だけど、やるしかないか……』

『厄介な効果持ちが多いですね。防御は切らないようにしましょうか』

『ホッホッホ。さて、老骨に鞭打つとするかのう』

 

 香苗の傍から四体の列車が出現する。

 もともと精霊力をとりこみやすい香苗。

 大型を一気に四体出現させることも可能である。

 

 

 

 そして、各々が戦闘準備を整えていく中。

 遊月は特に変化なく、歩いていく。

 

「え、遊月君?」

 

 遊月を追いかけようと綾羽を、英明は止めた。

 

「まだ離れておいた方が良いぜ。あまり近付き過ぎると『影響力』の範囲に入っちまう」

「それってどういう――」

「あっ!お兄ちゃんのそばの床が……」

 

 香苗が床を指さす。

 悪霊瘴気をとりこぼさないため特殊な塗装がされている床が、まるで何十年も放置したかのように腐り始める。

 

「え、どういうこと?『ロード・オブ・ザ・レッド』じゃないの?」

「そんな普段着なんて使わない」

「フフフ。そうですね。遊月さんの『全力』……とても、ヤバいものですよ」

 

 遊月は胸ポケットから一枚のカードをとりだす。

 

「お、そろそろだ」

 

 英明がつばを飲み込んだ。

 そして、遊月が静かに呟く。

 

「行くぞ。レッドアイズ。ドーハスーラ」

『二年ぶりだ。本気で行こう』

『フハハハハ!承知したぞ。我が主よ!』

 

 遊月が一枚のカード……『超融合』のカードを掲げる。

 膨大なエネルギーが発生し、ドーハスーラとレッドアイズ。そして、『浸食され始めている地面』が集まり始める。

 遊月の身に纏って、一瞬で、霧が晴れた。

 

「……っ!」

 

 その姿は、異常だ。

 

 黒い髪は青い炎を巻き上げているかのような色に変わった。

 骨の装飾品をいくつも付けたような真っ黒のロングコートを身に纏っている。

 背中には、巨大なレッドアイズの翼が二対六枚で出現し、ドーハスーラの胴体のような長い尻尾が存在する。

 右手には『真紅眼の黒竜剣』を持ち、左手にはドーハスーラが持っていたような杖を握っている。

 

「な……何あれ」

「遊月様の全力ですよ。敵だったらと思うとゾッとしますけどね」

「でも、ロード・オブ・ザ・レッドの力でどうにもならないうえに、ドーハスーラでも解決できないとなれば、あの姿になる。あの姿にさせる人間は、何人かいるけど……正直、勝ち目が浮かばない」

 

 驚く綾羽に対して、創輝と日夏が呆れたように声を漏らす。

 

「でも、あんなモンスター。私は知らないです」

「存在しませんよ。ただ、あの状態の遊月様の情報を正確に読み取ることが最近可能になりました」

「え、そうなんですか?」

「実際のデュエルには使えませんが、あくまでも能力……いえ、格の差を判断するためのカードデータなら、ありますよ」

「……見せてもらえますか?」

「こちらです」

 

 香苗は創輝のデュエルディスクを覗きこむ。

 綾羽がかなり気になっているようなので、英明もタブレットを見せる。

 

 

 

 

真紅眼(レッドアイズ)死霊龍皇(しりょうりゅうおう)ネクロ・バロール・ザ・ワールド

 

星12 闇属性 アンデット族 ATK4500 DFE3500

融合・効果モンスター

 

「死霊王 ドーハスーラ」+「真紅眼の不屍竜」+「アンデットワールド」

このカードは、上記のカードを素材にした「超融合」による融合召喚でのみ特殊召喚することができる。このカードを融合召喚する際、フィールドゾーンに表側表示で存在する「アンデットワールド」は「超融合」の効果処理中のみモンスターカードとしても扱う。

このカード名の③④⑥の効果は一ターンに一度しか発動できず、このカードの②④の効果に対して「効果を受けない」及び「無効にならない」効果は適用されない。

①:フィールド上に表側表示で存在するこのカードは他のカードの効果を受けず、相手のカードの対象にならず、リリースできない。

②:このカードが表側表示で存在する限り、フィールドの表側表示モンスター及び墓地のモンスターは全てアンデット族になる。

③:1ターンに1度、このカード以外の自分または相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。エンドフェイズまで、このカードはそのモンスターと同じ効果を得て、同じ名前のモンスターとしても扱う。

④:このカード以外のモンスターの効果が発動した時に発動できる。そのカードの効果を無効にし、お互いのフィールド・墓地から、カード一枚を選んで除外する。

⑤:相手フィールドに存在するすべてのモンスターの攻撃力・守備力は、お互いのフィールド・墓地のモンスターの数×100ダウンする。

⑥:このカード以外のモンスターが戦闘で破壊された時に発動できる。自分または相手の墓地のモンスター1体を選び、召喚条件を無視して自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

 

「「……」」

 

 綾羽と香苗の内心としては、『なんだこれは』というのが正直な感想だった。

 ラスボスの奥の手だって、こんなにひどくはない。

 

「ねえ、これって一体何?」

「創輝が言ってたけど、『格の差』だ」

 

 その時、英明と綾羽を、何かのバリアのような膜が覆った。

 

「これは……」

「ドーラの効果だな。これで、アイツらも怖くないぜ」

 

 英明が香苗を見ると、香苗はグッドサインを出してきた。

 英明もグッドサインを返すと、ヴィジャムの方を見る。

 

「あとは暴れるだけだ」

「うん」

「まあ、ヤバいのは遊月が引き受けるだろ。大量にいる雑魚は俺達で倒そうぜ」

 

 そういうと、拳を構えて英明はヴィジャム達の方に向かって走っていった。

 綾羽も何かが納得できないような雰囲気になったが、とりあえず追及は後にするとして、槍を構えなおしてヴィジャム達を倒しに行く。

 

 

 いずれにせよ、効果が通用しないというのなら、ヴィジャム達は単なる攻守ゼロのモンスターである。

 一撃を叩きこめばそれで終わる話であり、決して苦労することはない。

 もちろん、ドーラが気にする必要はあるのだが、いずれもしっかりとステータスを確保しているので問題はない。

 

「他は任せても問題なさそうだな……まあ、未経験が二人しかいないし、経験者がその倍いるんだから気にしていなかったが、それはいいとしよう」

 

 剣を杖を構えて、翼を広げて球体に接近する遊月。

 すると、球体の中からクリムゾン・ノヴァが大量に出現する。

 だが、その目はおびえている。

 自らを抹殺するために向かって来ている絶対的な存在。

 しかも、これが『デュエル中にデュエリストが使用するモンスター』だというのならまだ救いはあるが、デュエリスト本人であるため、どうしようもないのだ。

 

「……怖いか?それとも恨めしいのか?まあどっちでもいいさ。ただ、見苦しいのは嫌いだから決断は早くしろよ」

 

 剣を真横に一閃する。

 それだけで、大量にいたクリムゾン・ノヴァの半分以上が消滅する。

 ならばと、遠距離から遊月以外を光線で狙う。

 しかし、それを遊月は杖を振るうことで波動を生み出し、簡単に消滅させてしまう。

 

『……』

 

 あまりにも簡単に対処される。

 だが、この瞬間、とある言葉を思いだす。

 

『デュエルでは使用できませんが』

 

 そう言っていた創輝。

 それが真実であるならば――。

 

「……ほう」

 

 遊月は、集まって行くクリムゾン・ノヴァを見て息を漏らす。

 悪霊たちが集合決闘形態『デモンズ・キューブ』に変化していく。

 

「なるほど、リアルファイトで勝てないと判断して、そっちを選んだか」

 

 リアルファイトよりもデュエルの方が、格式は上だ。

 なぜなら、双方の力はあくまでもデュエルモンスターズの力の一端でしかないからである。

 デュエルモンスターズが存在しなければ、彼らが今行使している力は存在しない。

 だからこそ、デュエルと言うものを無視できないのだ。

 

 あくまでも、リアルファイトで決着がつくというのなら、そちらの方が手っ取り早いという話でしかない。

 

「いいだろう。そっちがその気なら、こっちもそれで相手をする」

 

 デモンズ・キューブを一度形成すると、それを分解するのは困難だ。

 デュエルをすることを選んだのだから、いきなりリアルファイトに切り替えるのは不可能である。

 デモンズ・キューブが完全に形成されたのを見て、遊月も融合を解除し、デュエルディスクを構える。

 

『お前みたいな奴がいるだなんて想定外だ。だが、デュエルなら負けない!』

「やってみろ。死後の世界の広さを教えてやる」

「『デュエル!』」

 

 遊月 LP8000

 DC LP8000

 

『僕たちの先攻。僕たちは永続魔法『方界法』を発動。その効果で、手札の『方界胤ヴィジャム』を捨てて、一枚ドローする』

 

 やはりと言うか【方界】である。

 

『さらに、僕たちは『流星方界器デューザ』を召喚!』

 

 流星方界器デューザ ATK1600 ☆4

 

『効果発動。デッキから『方界合神』を墓地に送る。カードを一枚セットして、ターンエンドだ!』

「私のターン。ドロー」

 

 遊月はカードをドローして、手札を見る。

 

「珍しいな……私は手札から、『アンデットワールド』を発動する」

 

 広がり始める屍界。

 フィールドと墓地のモンスターを全てアンデットに変更するカード。

 そして、遊月の化身カードである。

 

「私は手札から『不知火の隠者』を通常召喚し、リリースすることで『ユニゾンビ』を特殊召喚。手札の『馬頭鬼』とデッキの『グローアップ・ブルーム』を墓地に送ることでレベルを二つ上げる」

 

 不知火の隠者 ATK 500 ☆4

 ユニゾンビ  ATK1300 ☆3→4→5

 

「そして、墓地に送ったブルームの効果発動。除外することで、デッキからレベル5以上のアンデットを特殊召喚だ」

 

 デッキから闇が溢れだす。

 

「終わりも始まりもない蛇の王(ウロボロス)よ。怨霊渦巻く大地に降り立ち、死の魔眼を開け!『死霊王 ドーハスーラ』!」 

 

 死霊王 ドーハスーラ ATK2800 ☆8

 

 出現するドーハスーラ。

 しかし、少し疲弊している。

 

「大丈夫か?」

『……あの形態は少し疲れるからな』

 

 ドーハスーラとしても、あの形態はかなりエネルギーを使うようだ。

 とはいえ、である。

 

「ま、だからと言ってデュエルでは出て来てもらうぞ」

『分かっている』

 

 遊月は手を掲げる。

 

「現れろ。死界に満ちる未来回路」

 

 サーキットが出現。

 

「召喚条件は、アンデット族二体。私は隠者とユニゾンビをリンクマーカーにセット。夜を統べる血族よ、月の光が惑わす屍界に降り立て。リンク召喚!リンク2『ヴァンパイア・サッカー』!」

 

 ヴァンパイア・サッカー ATK1600 LINK2

 

『サッカーが出てきたか……』

「バトルフェイズだ。ドーハスーラで、デューザを攻撃」

 

 波動により一撃で消し飛ぶデューザ。

 ただし、『方界法』の効果によってダメージはない。

 

『デューザがフィールドを離れたことで、墓地の『方界合神』の効果を発動。デッキから、『方界超獣バスター・ガンダイル』を特殊召喚!』

 

 方界超獣バスター・ガンダイル ATK0 ☆4

 

 超獣が出てきた。

 が、合神の効果により特殊召喚されたことで、このターン破壊はできない。

 そして、法によりダメージはない。

 

「メイン2だ。手札から『アドバンスドロー』を使い、ドーハスーラをリリースして二枚ドロー」

『ぬああああああ!』

 

 悲鳴とともに消えるドーハスーラ。

 ……相当嫌がっているが、そもそも『アドバンスドロー』をデッキから抜かない遊月も遊月である。

 

「カードを二枚セット、ターンエンドだ」

『ぐっ……僕たちのターン。ドロー!』

「スタンバイフェイズだ。帰って来い。ドーハスーラ」

『……我が主の伏せカードは二枚か……いやな予感がするな』

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

「さらに、ヴァンパイア・サッカーの効果で一枚ドロー」

『僕たちは『方界法』の効果で、『流星方界器デューザ』を捨てて一枚ドロー。さらに、『おろかな埋葬』を使って、三枚目のデューザを墓地に!』

 

 何を狙っているのか一瞬わからなかった遊月。

 

『バトルフェイズだ。バスター・ガンダイルで、ヴァンパイア・サッカーを攻撃!』

 

 自爆。特攻してきた。

 

『方界法の効果でダメージはない。そして、バスター・ガンダイルが相手によって破壊されて墓地に送られたことで効果発動。墓地のデューザ三体を特殊召喚し、さらに、デッキ・墓地から『方界』カードを一枚手札に加える』

「そういうことか。ドーハスーラの効果発動。バスター・ガンダイルの効果を無効にする」

『無駄だ!『無限泡影』を発動し、効果を無効にする!』

「チッ……」

 

 デューザが出て来る。

 

 流星方界器デューザ ATK1600 ☆4

 流星方界器デューザ ATK1600 ☆4

 流星方界器デューザ ATK1600 ☆4

 

『さらに、デューザ三体の効果発動。デッキから『方界合神』『方界業』『方界降世』を墓地に送り、デッキから『方界超帝インディオラ・デス・ボルト』を手札に加える。さらに、墓地の『方界業』を除外し、デッキから『暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ』を手札に加える』

 

 インディオラ・デス・ボルトとクリムゾン・ノヴァが手札に加わり、合計手札は四枚。

 

『僕たちは手札から『方界超帝インディオラ・デス・ボルト』『方界波動』『方界法』を見せることで、特殊召喚!現れろ、『暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ』!』

 

 暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000 ☆10

 

「出てきたか……」

『さらに、フィールドの三体のデューザを墓地に送ることで、インディオラ・デス・ボルトを特殊召喚する。800ポイントのダメージを受けろ!』

 

 方界超帝インディオラ・デス・ボルト ATK0→2400 ☆4

 遊月 LP8000→7200

 

『僕たちはこれでターンエンド。クリムゾン・ノヴァの効果により、お互いに3000のダメージを受ける』

 

 DC LP8000→5000

 遊月 LP7200→4200

 

「チッ……さすがにバーンダメージはかなり入るな……だが、私は永続罠『闇の増産工場』を発動」

『……ん?』

 

 ドーハスーラが遊月を見る。

 

「ドーハスーラを墓地に送り、一枚ドロー!」

『ほらやっぱりいやな予感が当たったあああああ!』

 

 消えて行くドーハスーラ。

 

「そして私のターンだ。ドロー。そして戻ってこい。ドーハスーラ!」

『……我、泣いていい?』

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

「ヴァンパイア・サッカーの効果で一枚ドロー。そして、『闇の増産工場』の効果を使い、手札の『冥界の麗人イゾルデ』を墓地に送って一枚ドロー。そして、『冥界騎士トリスタン』を召喚してイゾルデを回収し、このまま特殊召喚」

 

 冥界騎士トリスタン ATK1800→2100 ☆4

 冥界の麗人イゾルデ ATK1000    ☆4

 

「イゾルデの効果を使い、トリスタンとイゾルデのレベルを8に変更。そしてオーバーレイ!現れろランク8『No.22 不乱健』!」

 

 No.22 不乱健 ATK4500 ★8

 

『こ……攻撃力4500!?』

 

 いきなり現れる超大型モンスターに、DCはびっくり。

 

『だ、だが、『方界法』がある限り、方界モンスターの戦闘で僕にダメージはない!』

「そんな小手先の技が通用するか。永続罠『最終突撃命令』を発動。フィールドのすべての表側表示モンスターの表示形式は攻撃表示となる」

 

 唯一守備表示だったドーハスーラが起き上がる。

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000→ATK2800

 

「さらに、不乱健の効果発動。エクシーズ素材一つと手札一枚を使い、相手フィールドの表側表示のカード一枚の効果を無効にする!」

『なんだって!?』

「ただし、この効果を使った後守備表示になる。だが、最終突撃命令の効果により、すぐに攻撃表示に戻る。それにチェーンしてドーハスーラの効果を発動。インディオラ・デス・ボルトを除外!」

 

 破壊されて墓地に送られた際に効果を発動するが、除外すれば意味はない。

 

「そして、不乱健の効果を処理、『方界法』の効果を無効にし、守備表示になった後攻撃表示に戻る」

 

 不乱健は屈伸した。

 

『グッ……』

 

 方界合神の効果を使うことはできる。

 だが、方界合神による特殊召喚は手札・デッキからであり、デューザを全て墓地に送ったことでリクルートはできない。

 そして……守備表示で出しても、即座に攻撃表示になる。

 出せるのは全て攻撃力0の方界のみ。

 さらに言えば、方界胤ヴィジャムを並べたとしても、数で攻めてきた場合は無力だ。

 

「バトルフェイズ。不乱健でクリムゾン・ノヴァを粉砕!」

 

 不乱健が拳を振りおろしてクリムゾン・ノヴァに拳を振りおろす。

 

 DC LP5000→3500

 

『く、クソオオオオ!』

「ヴァンパイア・サッカーとドーハスーラで、ダイレクトアタックだ!」

 

 ヴァンパイア・サッカーが出したコウモリがキューブにかみついた後、ドーハスーラが波動を叩きこむ。

 

 DC LP3500→1900→0

 

 DCのライフがゼロになったことで、たまっていた悪霊瘴気が全て霧散する。

 英明たちが倒していたヴィジャムも、それに反応して消えていった。

 

「さてと……私たちの勝ちだ。帰るぞ。お前たち」

 

 振り向いてそう言う遊月。

 どうやら、レッドアイズの力を使っていないところを見ると、デュエルとしては全力を出したものではないらしい。

 何とも言えないコンボをいくつか披露しているが。

 

 それはともかく、遊月たちの勝ちである。

 

 ★

 

 人間、『会う』ことはあっても『集まる』ことはほとんどない。

 というわけなので、実際に集まるのなら、そのままオフ会である。

 

 アムネシアにおける最強のVIP存在である遊月が案内する場所となればすごいものだ。

 今回来たのは旅館である。

 

「でっか……なにこれ、本当に旅館なの?」

 

 遊月がかかわっていると言えど、旅館ならそうでもないと一瞬考えた綾羽。

 そんなことはなかった。

 確かに、ホテルではないので縦はそうでもない。

 だが、横は呆れるほど広かった。

 

「旅館だぞ」

 

 即答して中に入る遊月。

 高級感あふれるVIPルームに直行して、そのまま宴会である。

 

 

 

 楽しいものである。

 七人いて、女子は四名。

 半分は落ち着いているが、半分は初心。

 男子三人としてもほほえましい感じだ。

 

 まあそれ以上に……。

 

「どおりゃああああ!」

「えいやあああああ!」

「そりゃ!負けませんよ。マスター!」

「お姉ちゃんくらえ!」

「はっはっは!うわ、危ない!」

「枕投げを主砲にのせてと、発射」

「バリアがあれば大丈夫ですね」

「ホッホッホ。たまにはこういう運動もいいものじゃな」

 

 何故か枕投げ大会になった寝室では、浴衣姿の綾羽と香苗とルインとうららが枕を投げ合い、ライナーは回避して、グスタフが主砲で枕を射出し、部屋の隅でドーラとリーベがほほえましい目でそれを見ていた。

 

「今日は月が綺麗ですね」

『私か?』

「ムーン。張りあっても仕方ないよ」

『ジットミテイロ。ソレガコノバショノ『作法』トイウモノダ』

 

 落ち着いた雰囲気でバルコニーでほっとしている浴衣姿の月詠と日夏。

 満月が綺麗であり、ムーンがなぜか張りあっており、メタイオンは静かにたたずんでいる。

 

「ふんぬううううう!」

「負けるかああああ!」

 

 そして宴会場。

 状況に合わせたのか、青い炎の髪で赤い瞳を煌めかせる青年……レッドアイズと、赤々とした逆立てた髪が特徴の少年……レイジングが、腕相撲で張りあっていた。

 

「頑張れー」

「みずきはどっちを応援しているのだ。我はレイジングだが」

「……いや、ちょっと言ってみただけ」

「何ぃ!?」

「隙あり!」

「ぐはぁ!」

 

 シスター姿から一点、浴衣姿のみずきが応援している様子だったので、デフォルメ状態のドーハスーラ(こちらも浴衣を着ている)が聞いてみたところ、みずきのあんまりな発言にレイジングの緊張が解けて、レッドアイズに負けた。

 

「……まっ、賑やかにならないわけないよな」

「精霊たちの頭のネジが飛んでるもんな。完全防音の『別の建物』を使っておいてよかったと思うぜ」

「私も、ここではあまりまったりできませんね。なかなかうるさくて……」

 

 遊月と英明と創輝。

 三人とも浴衣姿で、廊下を歩いていた。

 することが無いのでプラプラしているだけである。

 

「ま、たまにはこんなふうに集まるのもいいよな」

「そうですね。私も楽しいですよ。まだあの二人が初々しいですから」

「逞しくなる前に何回か集まるか」

 

 そんなことを話していた。

 

 ★

 

 そして、全員が大部屋で雑魚寝し始めたころ……。

 

「ふむふむ……たまにはエロ路線じゃなくて、わいわい騒いでいるっていうのもいいもんだね」

 

 ブルームが持つカメラには、様々な写真が写っている。

 

『精霊も含めて、全員でテーブルを囲んで料理を食べている写真』

『初々しい女子たちとその精霊たちが、枕投げをしている写真』

『腕相撲でレッドアイズがレイジングにとどめをさした写真』

『落ち着いた雰囲気で肌が驚くほど綺麗な二人とその精霊が、満月を見上げている写真』

『廊下を歩いていた男子三名が、綾羽たちに混ざってUNOり始めた写真』

『全員が大部屋で雑魚寝している写真(時間ごとに遊月に抱きついている女子が違う)』

 

 他にも様々な写真があったり、同じ部屋のものでも時間の違う写真があったりするが、彼にしては珍しく、『明確な煩悩目的の写真』がない。

 

 

 

 楽しそうで、団欒としていて、なんだか家族のような、そんな騒がしくて暖かいモノ。

 

 

 

「良い思い出だね」

 

 元マスを失ったマブダチからもらったカメラ。

 何度か壊れているが、それでも直し続けて使っているものだ。

 

「これからも、いい思い出が写りますようにっと」

 

 カメラのメンテナンスをして、ブルームも布団の中に潜りこんだ。

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