遊戯王Incarnation   作:レルクス

25 / 42
第二十五話

「英明君!私はHEROデッキの新しい可能性に気が付いた!」

「へぇ」

 

 相変わらず動きが大きく活発な様子の皐月と、なんだかおどおどしている様子の英明。

 

「レベル4が多いでしょ?」

「確かに多いな」

 

 英明は『そういえばランク4って汎用性高いからなぁ』と考えた。

 

「『同胞の絆』が無理なく投入できるんだよ!」

「……」

 

 今更か。と英明は思ったのだが、なんだかとてもすごいものを発見したように言う皐月に何も言えない。

 

「ライフコストは重いけど、まあそこは『魔力倹約術』とかを使えば問題ないんだよ!で、ライフコストを踏み倒せるんだから『ヒーローアライブ』を入れられるでしょ?だったら『超越融合』とかも入るって思ったんだよ!」

 

 話だけを聞けば『アライブHERO』の『ロマン特化』である。

 そしてロマン特化ゆえに、『魔力倹約術』がなかったら悲惨である。

 

「それでね。デッキを組んできたよ!」

「あ、作ったんだ……」

 

 行動力があるというか、エネルギーの塊というか。

 その活力をいったいどこから捻出しているのだろうか。

 

「今日の実技ではこれを使ってあんなことやこんなことをしてやるぜ!」

「……そうか」

「もう、元気ないね。幸せ逃げるよ!」

「……」

 

 英明はぐったりした。

 自分の分の元気をなぜか皐月が使っているような気さえしてくる。

 

「まあいっか。それじゃあ学校にGO!」

「うああああ!」

 

 また襟首つかんで暴走する皐月。

 そしてそれに巻き込まれる英明。

 ここしばらく続く日常だ。

 

 ★

 

「フフフ……負けました!」

「だろうね」

 

 アライブHEROが軸。しかも『魔力倹約術』が投入されており、しかもこの性格である。

 おそらく魔法・罠が軸なのだ。

 

「いろいろ考えたんだよ。ライフ回復カードを入れて、『魔力倹約術』と『エンシェント・リーフ』による疑似『強欲な壺』コンボとか」

「……それ、『魔力倹約術』がなかったら悲惨だよね」

「大惨事だったよ。自分でライフをゴリゴリ削っていくスタイルだからね!」

 

 『呪眼』かよ。と思った英明は間違いではないはずだ。

 

「そういえば、イベントがあるみたいだね」

「あ、うん。なんか国が主導になってるって聞いたけど……」

「ということは……すごいことになるんだね!」

 

 何もわかっていない人でもこんなこと言わない。

 

「そういえば英明君。悪霊が出たみたいだね。DGCの情報があったよ!」

「え、そうだったの?」

「せっかくだから調べないといけないんだよ!これは義務だよ!」

 

 そんな義務はありません。

 

「というわけで行くよ!」

「うわああああああ!」

 

 またまた英明の襟首をつかんで走り出す皐月。

 いったいどこからそのエネルギーが捻出されているのだろうか。

 

 ちなみに、授業であってもあまり変わらない。

 ただし、ちょっと授業がつまらなくなると爆睡しだすし、いい授業をしているときは目を爛々を輝かせて参加するので、『皐月が起きている場合、先生が優秀』という変な習慣が出来上がっている。

 とはいえ、ほとんどの場合は起きているので、遊月が主導して集めた教師が優秀なのだということがわかる。

 

 ちなみに、悪霊瘴気の収集装置があるため、アムネシアは悪霊が出現しやすい。

 なので、明確に安全対策をする必要がある。

 遊月がDGCの制服を着てまで贔屓するのはそういう理由である。

 

 まあ、中には組織的にではなく、民間の中にも悪霊を討伐するチームは存在するわけだが。

 英明たちも、その民間の討伐員ということになるのだ。

 

 すでに現場では、『バハムート・シャーク』が暴れていた。

 

「到着!さあ英明君。頑張ってね!」

「殺す気かよ……」

 

 英明は肩で息をしながら、デュエルディスクに『マスク・チェンジ』と『フォーム・チェンジ』のカードを入れてベルトに接続する。

 そして、『M・HERO ブラスト』のカードを入れた。

 『マスク・チェンジ』を意味する『MC』と表示されたボタンを押す。

 

『マスク・チェンジ・ブラスト』

 

 英明を風がまとって、ブラストの姿になった。

 

「うひょおおおおお!かっこいい!」

「そりゃどうも」

「どうせなら『変身!』くらい言おうよ」

「……無理」

「英明君は相変わらずヘタレだねぇ」

 

 思ったことを全部言う皐月。

 おどおどしている英明にはよく刺さるようだ。

 

「まあとにかく、悪霊討伐だよ!」

「わかった。行ってくる」

 

 いたたまれなくなったのだろうか。英明はブラストの姿でバハムート・シャークに突撃する。

 バハムート・シャークは英明に気が付いたようで、その口から水流を放出する。

 英明はそれを回避して、そのまま突撃を再開。

 拳に風を乗せて、それをバハムート・シャークにたたきつけた。

 

『ギャオオオ!』

 

 それ相応に効いているようだ。

 しかし……。

 

「後ろ!」

 

 皐月が叫んだので後ろを見ると、破滅のアシッド・ゴーレムが英明に向かって拳を振り上げていた。

 あわてて回避しようとすると、足元に何かが巻き付いている。

 見ると、餅カエルの舌が巻き付いていた。

 

(やばっ)

 

 英明の背中に嫌な汗が流れる。

 

「んーもう!仕方ないなあ!」

 

 皐月のそんな声が聞こえたと思ったら、アシッド・ゴーレムが吹っ飛んでいた。

 見ると、皐月が背中に『オネスト』の翼を出現させて、アシッド・ゴーレムを蹴り飛ばしていた。

 ミニスカートをはいたままそんなことをすればどうなるのかは一目瞭然であり……。

 

(((あ、白)))

 

 ()が三つあるが、一人は英明、一人はバハムート・シャーク、一人はブルームである。

 パシャっという音が小さく聞こえた気がした。

 

「おりゃ!」

 

 そして近くにいた餅カエルを踏みつぶす。

 餅カエルは大きめのカエルの上に小さなカエルが乗っかっているが、大きい方のカエルの視線は真上だった。

 みんなの心は同じである。これが男のSAGAである。子供の中でもたまにマセた奴いるけど。

 アシッド・ゴーレムと餅カエルはそのまま消滅している。

 おそらくあの世でアシッド・ゴーレムだけ血涙を流すのだろう。

 パンツ見たかった。と。閻魔が怒りそうだが。

 

「英明君もさっさと距離をとる!」

 

 なんと仮面を鷲つかみして、オネストのような翼をきらめかせて距離をとった。

 英明からすれば拷問である。

 正直、首が取れそう。

 

「ちょ、イダダダダ!」

 

 もちろん悲鳴が出た。

 一応、バハムート・シャークから距離は取れたが、一人だけもうすぐ死にそうである。

 

「もう、だらしないなぁ」

 

 いったい誰のせいだと思っているのか。

 

「さて、バハシャ君。ここからは私が相手になるよ!」

 

 こぶしを構える皐月。

 とはいえバハムート・シャークも、オネストの翼を展開しているやつを相手に正面から殴りかかることはしない。

 

(ぱ、パンツウウウウゥゥゥゥ)

 

 どんだけ衝撃的だったんだお前は。

 だが、冷静に(?)カードを五枚出現させる。

 

「む、こうなるとデュエルで片づけるしかないね」

 

 皐月はオネストの翼を収めると、デュエルディスクを構える。

 シャッフルされたデッキから、カードを五枚引いた。

 

「『デュエル!」』

 

 皐月 LP8000

 BS LP8000

 

『俺の先攻。手札から『レスキューラビット』を召喚!』

 

 レスキューラビット ATK100 ☆4

 

 出てきたウサギ。

 

『そして効果発動。現れろ『レインボー・フィッシュ』二体!』

 

 レインボー・フィッシュ ATK1800 ☆4

 レインボー・フィッシュ ATK1800 ☆4

 

『そしてレベル4のこの二体でオーバーレイ!』

「あれ、もうバハシャだすの?」

『違うわ!現れろ、ランク4『No.37 希望織竜スパイダー・シャーク』!』

 

 No.37 希望織竜スパイダー・シャーク ATK2600 ★4

 

「むむむ……ムム?」

 

 わかっていないのは分かった。

 

『さらに手札から、『ジェネレーション・フォース』を発動。エクシーズモンスターがいるため、デッキから『エクシーズ』と名のついたカードを手札に加える』

「この状況で使えるカードってあったっけ?」

『貴様。このカードを知らんのか?俺は『エクシーズ・リモーラ』を手札に加える』

「……あれってなんだっけ?」

 

 水属性エクシーズデッキを相手にする場合、このカードを警戒しないのは少々まずい。

 

『そしてエクシーズ・リモーラを特殊召喚。このカードは、自分フィールドのエクシーズ素材二つを使うことで特殊召喚できる!』

 

 エクシーズ・リモーラ ATK800 ☆4

 

『さらに、この効果で特殊召喚した場合、墓地の魚族・レベル4を守備表示で特殊召喚できる。現れろレインボー・フィッシュ!』

 

 レインボー・フィッシュ DFE800 ☆4

 レインボー・フィッシュ DFE800 ☆4

 

「ギョギョ!」

 

 何言ってんだお前。

 

『そして、スパイダーシャークとリモーラをリンクマーカーにセット、リンク召喚『マスター・ボーイ』!』

 

 マスター・ボーイ ATK1400→1900 RINK2

 

『さらに、レインボー・フィッシュ二体で再度オーバーレイ!現れろ俺の分身『バハムート・シャーク』!』

 

 バハムート・シャーク ATK2600→3100 ★4

 

「こ、このためか!」

『バハムート・シャークを見ればこれくらいの想定はしてほしいものだ。効果発動。現れろ『餅カエル』!』

 

 餅カエル ATK2200→2700 ★2

 

 再度出現するカエル。

 その視線がなんだか妙なのだが、まあ彼も男なのだということで。

 

「ムムム……確か無効効果があったね」

 

 無効にしてセットできるぞ!

 

『俺はこれでターンエンドだ』

「私のターン。ドロー!よし、まずは『粘糸壊獣クモグス』をプレゼント・フォー・ユー!」

 

 カエルは消えて蜘蛛になった。

 

 粘糸壊獣クモグス ATK2400 ☆7

 

「さーて行くよ!私は『魔力倹約術』を発動!」

「……え?」

 

 英明がいつの間にか復活し、そして発動したカードに目を丸くした。

 ちなみに、英明の変身は解除されている。

 解除に追い込まれたわけではないと信じたい。

 

「そして発動。『ヒーローアライブ』!出てきて、『E・HERO エアーマン』!」

 

 E・HERO エアーマン ATK1800 ☆4

 

「これによって、デッキから『E・HERO ソリッドマン』をサーチ。そして召喚!手札から『V・HERO ヴァイオン』を特殊召喚だよ!」

 

 E・HERO ソリッドマン ATK1300 ☆4

 V・HERO ヴァイオン  ATK1000 ☆4

 

「これによって、デッキから『E・HERO シャドー・ミスト』を墓地に送って、その効果で『E・HERO バブルマン』をサーチ!ヴァイオンの効果でシャドミスを除外して『置換融合』をサーチ。カードを三枚セット、手札一枚になったバブルマンを特殊召喚!」

 

 E・HERO バブルマン ATK800 ☆4

 

「ここから全速前進だああああ!まずはエアーマンとヴァイオンをリンクマーカーにセット、『X・HERO ワンダー・ドライバー』!」

 

 X・HERO ワンダー・ドライバー ATK1900 RINK2

 

「そしてセットしておいた『置換融合』を発動。ソリッドマンとバブルマンで融合召喚!『E・HERO ガイア』!」

 

 E・HERO ガイア ATK2200 ☆6

 

「チェーン1にワンダー・ドライバー、チェーン2でソリッドマン。チェーン3でガイア。対象はクモグスだよ!」

 

 糸壊獣クモグス   ATK2400→1200

 E・HEROガイア ATK2200→3400

 

「ソリッドマンの効果でヴァイオンを特殊召喚。そして、『置換融合』をセット!」

 

 V・HERO ヴァイオン DFE1200 ☆4

 

「さらに、ヴァイオンの効果、墓地のソリッドマンを除外して二枚目の『置換融合』を手札に加えるよ!」

『何!?』

「知らないの?ヴァイオンは墓地落としは名称ターン1があるけど、融合サーチの方にはついてないんだぜ!」

 

 その語尾が『ぜ!』になるのはいったいなんだ。

 

「まだまだ!伏せていた『融合識別』を使って、エクストラデッキのガイアを見せてヴァイオンをガイア化!さらに『超越融合』を発動!」

「……」

 

 英明絶句。

 

「ヴァイオンとガイアで、二体目のガイアを融合召喚!効果対象はバハムート・シャーク!」

 

 E・HEROガイア  ATK2200→3750 ☆6

 バハムート・シャーク ATK3100→1550

 

「さらに、墓地の『超越融合』の効果で、墓地のガイアとヴァイオンを効果無効、攻守0で特殊召喚!」

 

 E・HERO ガイア   ATK0 ☆6

 V・HERO ヴァイオン ATK0 ☆4

 

「蘇生したガイアとワンダー・ドライバーでリンク召喚。『X・HERO ドレッド・バスター』!」

 

 X・HERO ドレッドバスター ATK2500 RINK3

 

「攻撃力アップだよ!」

 

 X・HERO ドレッドバスター ATK2500→2900

 E・HERO ガイア      ATK3750→4150

 

「いくぞおおおお!伏せておいた『ミラクル・フュージョン』を発動だあああ!」

 

 発動されるミラクル・フュージョン。

 それを遠くから見ていたブルームは、感じた。

 

(あのミラクル・フュージョン、化身カードだ!)

 

 驚いている間にも、デュエルは進む。

 

「フィールドのヴァイオンと、墓地のワンダー・ドライバーで融合召喚!『E・HERO The シャイニング』!」

 

 E・HERO The シャイニング ATK2600 ☆8

 

「さらに、墓地の『置換融合』の効果でガイアを戻して一枚ドロー、墓地のHEROが減ったから、200ずつ減るけど、そのかわり、シャイニングは除外されているE・HERO一体につき300上がるよ!」

 

 X・HEROドレッドバスター  ATK2900→2700

 E・HEROガイア       ATK4150→3950

 E・HEROTheシャイニング ATK2600→2800→3400

 

『な……こ、これは……』

「バトルフェイズ!まずはガイアで、クモグスを攻撃!」

 

 BS LP8000→5250

 

「そしてドレッド・バスターで、バハムート・シャークを攻撃!」

 

 BS LP5250→4100

 

「シャイニングで、マスター・ボーイを攻撃!そして発動『E・HERO オネスティ・ネオス』!」

 

 種類が増えたことでドレッド・バスターの効果が適用されて100あがり、さらにオネスティ・ネオスの効果で2500上昇。

 

 E・HEROTheシャイニング ATK3400→3500→6000

 

『馬鹿な……この状況で……ジャストキルだと……』

 

 BS LP4100→0

 

 消滅していくバハムート・シャーク。

 とはいえまあ、最後にいいものが見れた悪霊は多くないので、彼は幸運である。たぶん。

 

「よし、英明君。帰るぞおおおお!」

「うおあああああ!」

 

 ほっとするまもなく、英明の襟首をつかんで走り出す皐月。

 やはり彼女は、エネルギーの塊である。

 

 ★

 

「……まだまだ運動したりないね!」

 

 で、なんだかんだ言って英明を学生寮に放り込んだ皐月。

 自分一人でここから出歩くようだ。

 ただどうでもいいが、芝生の公園で叫ばないほうがいい。マナー的な話で。

 

「……で、何か用?」

 

 皐月は近くの木を見る。

 

「……なんでわかったの?」

 

 ブルームは正直にひょこっと顔を出した。

 当然カメラは隠している。

 

「勘だよ!」

 

 女の勘がいいのはフィクションの中だけで勘弁してほしいものだとブルームは思う。

 

「で、何か用かな?」

 

 笑顔でしゃがんでブルームに話しかける皐月。

 

(あ、黒……はき替えたのか)

 

 小さなブルームは普段からローアングルである。

 

「君が持ってる『ミラクル・フュージョン』のカードが気になってね」

「あ、これ?」

 

 デュエルディスクに入れていたカードを取り出す皐月。

 

「うん。そのカードだよ」

「あ~。これね。お母さんの形見のカードなんだ」

 

 ブルームは、皐月の母親が『インカーネイション・シフト・デュエリスト』……『ISD』なのだと判断した。

 

「あ、ごめんね。つらいこと聞いて」

「ううん。今では頼りになる人がいるから大丈夫!」

「……そうなの?」

 

 振り回していたところからしか見ていない。

 

「いつも一緒にいる男がね、頼りになるんだよ」

「そうには見えないけどなぁ……」

 

 当然、ブルームは英明が使っていた『マスク・チェンジ』が化身カードであることは推測している。

 M・HEROの精霊を味方にしていないのにあんな使い方をすることはできない。

 

「アムネシアのデュエルのレベルがちょっと高くてナイーブになってるだけだから、もうちょっと強くなればまた頼りになるから」

「そうなんだ……そういえば、あの羽、どうなってるの?」

「この羽かな?」

 

 皐月は数秒間だけオネストの翼を出した。

 

「うん」

「お父さんがオネストの精霊なんだよ」

「へぇ」

 

 要するに、皐月は人間と精霊のハーフということだ。

 珍しいと思うが、ブルームは疑ったりしない。自分のマスターがそうなのだから。

 

「でも、精霊としては短命の人だったから、お母さんの近くで寝てるよ」

「短命……ね」

 

 あっけらかんとしている様子の皐月。

 幼くして両親がいない人間を含め、何かしら事情や問題を抱えている生徒がアムネシアには一定数いる。

 そんな学校の運営にかかわる遊月の精霊をやっていると、そういう人間はよく見る。

 自分から話す人はあまりいないが。

 ただ、皐月は『隠すようなことではない』と考えているようだ。

 

「……ん?あ、マズイ!マスターがいる!」

 

 ブルームが首(?)を振ると、その視線の先には遊月が。

 公園の近くを歩くことはあまりないはずだが、どうやらいるようだ。

 

「ど、どうしたの?」

「今日はいろいろノルマがある日なんだ。でも全然やってない!」

 

 あわてるブルーム。

 周辺は芝生が広がるだけで、ベンチや木など、隠れられそうなものはない。

 

「や、ヤバ――」

 

 ブルームがそれを認識するより早く……。

 皐月が姿勢を女の子座りに変更し、なんとブルームをミニスカートの中に押し込んだ。

 

「うお、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」

「静かに!芝生なんだから大丈夫でしょ!」

 

 小声で叫ぶ皐月。

 もちろんそういう問題ではない。

 しかし、ブルームが急に静かになった。

 皐月は安心。

 

 で、遊月が通りかかった。

 

「……皐月か。何をしているんだ?芝生の上でそんな座り方をして」

「えーとね……探し物があったんだよ!」

 

 無理がある。

 が、何も状況を知らない人からすると、なんだかそんな気もしてくるのが皐月の不思議なところである。

 

「手伝おうか?」

「いいよいいよ。ダイジョーブダイジョーブ!」

 

 とても大丈夫には見えない。

 

「……まあ、そういうことならいいが、最近悪霊が多いから気を付けろよ」

「わかった!」

 

 遊月はそのまま去っていった。

 すぐに見えなくなったので、皐月はミニスカートの中からブルームを引っこ抜く。

 ブルームは……花血を出しまくっていた。

 

「うわあああ!大丈夫!?」

 

 これが大丈夫に見えるのなら皐月の目は節穴である。

 

「だ、大丈夫だよ」

「い、家に連れて行った方がいいかな?」

「大変うれしい申し出だけど、ちょっと今回しなくちゃいけないノルマは欠かせない奴なので、お先に僕は失礼するよ」

 

 フラフラになりながらブルームは去っていく。

 

「……私も早く帰った方がいいかな」

 

 初めて、皐月の顔に不穏な影が宿ったが、すぐに表情を戻すと、彼女も帰っていった。

 

 ★

 

「あー……ヤバかったね」

 

 ブルームはまだ頭の花から血を流していた。

 そしてその手には小型カメラが。

 煩悩の塊である。

 が、もうひとつ事情があるようだ。

 

「全く、ハーフなら別にいいんだけど……人間と『悪霊』のハーフなんて久しぶりに聞いたなぁ」

 

 皐月が言った『精霊として短命』だが、ブルームの経験上、精霊は例外なく長命である。

 短命なのは『悪霊』だ。

 

「性行為をすると、母親はもちろん、子供にも宿るからなぁ。体内で悪霊瘴気を作りながら、我慢して、あんな元気にはしゃいでいる子なんて始めてみたよ」

 

 基本的に、悪霊瘴気は人体と相性が悪すぎる。

 もちろん、生物はもともと様々な微生物を体内に宿して共存関係にあるわけだが、悪霊瘴気は拒絶反応しか生まない。

 嘔吐や激痛は普通である。

 周りに全くそれを悟られない人間は、ほぼいない。

 さらに言えば、生成された悪霊瘴気は通常とは質が異なるため、体内でのみ循環する。

 言い換えれば外に漏れないのだ。

 

「ま、どうにかなってよかったよ」

 

 悪霊瘴気の操作において、レッドアイズは体内、ドーハスーラは体外が得意。

 ただしどちらも、『手で通常は触れられないようなあやふやな状態』であり、レッドアイズやドーハスーラはそう言った部分が専門だ。

 ブルームの場合は、『固定・定着している実物』に触れることで操作する能力に長けている。

 レッドアイズであっても、自分の体内にある『固定・定着化』までされた悪霊瘴気を取り除くのは自力では不可能であり、体外が得意なドーハスーラであっても、固定・定着化されていたら操作できない。

 

 だが、ブルームはどれだけ侵食していようと、取り除くことができる。

 オマケに、体内を弄る必要があるのに、本人に気付かれないように操作することさえできるレベルだ。

 ただし、それは言いかえればあやふやな状態で広範囲までいくと管轄外になるということにもなるのだが。

 

 いずれにせよ、アムネシアを実質支配している遊月が所有する精霊、その『序列三位』の実力は甘くない。

 

「しかし、思ったより力を使ったね。こんなに体がボロボロになったのは久しぶりだ」

 

 それ相応に力を使って手術をしたブルーム。

 彼に取っても難易度は高かったのか、かなり体が壊れている。

 まだ血が流れているのはそういう理由だ。

 

「……元気だったし、服を掴むことはあっても抱きつくことはなかった。まあこんなものを抱えていたらそうなるだろうね」

 

 だが、それと同時に思う。

 

「これでスキンシップや性行為がノーリスクになったわけだが、普段あんなに元気なのに自重材料がなくなるとどうなるんだろうか……まあいいや」

 

 ブルームは黒いキューブをとりだす。

 そこからは悪霊瘴気が漏れ出ていた。

 キューブを握りしめると、目を光らせる。

 それだけでキューブは砕け散った。

 

「世界の権威が集まるような専門の医療機関で、成功率一割未満の手術を受けるのが普通だったか。それでもアイツら、手術費に八千万は請求して来るけど……まあ、桃源郷の駄賃くらいにはなったかな?さて、ノルマをこなさないと」

 

 ブルームは少し休憩すると、ノルマをこなすために歩き始めるのだった。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。