遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第二十六話

「英明くーーーーん!」

「うおああああああ!」

 

 全速力で英明に抱きつく皐月。

 なんと、それに耐えきる英明。

 どうにかして受け止めたのはいいが、急なことで驚いた。

 

「ぎゅうううう!」

 

 そして放そうとしない皐月。

 周りから嫉妬に満ちた視線が向けられている。

 中学二年生にはつらい。

 年の割に。皐月の胸はでかいのだ。

 

「い、いったいどうしたんだ皐月」

 

 今まで、自分を引っ張りまわしていた。 

 パーソナルスペースは狭かったが、だからと言って密着することはなかった。

 急激な変化に戸惑うばかりである。

 

「ウフフ……」

 

 とてもうれしそうな表情で頬ずりする皐月。

 本人にとって、どこか『解禁された』という雰囲気があった。

 

「英明君。私ね」

「うん」

「今までよりもっと元気になったよ!」

「……」

 

 英明は死んだような目になった。

 そのまま砂になって消えていきそうなくらい絶望していた。

 皐月は気にしないが。

 

 ★

 

 実際、スキンシップは激しい。

 教室に入ってもなんだかそれが続く。

 もちろん、皐月が英明と一緒にいるのはクラスメイトなら知っていることだし、『あの元気に振り回されたらヤバいことになるんだろうな』ということはわかりきっている。

 

 アムネシアには体育の授業があり、そこでは運動量の多いスポーツが優先される。

 運動不足解消のために体を動かさせるのが目的なのだ。デュエリストの体は頑丈だが。

 で、皐月はバスケットボールで全力でメテオジャムを叩き込みまくった。あきれ果てるほどのセンスと持久力である。

 ……目の端から何やら光の線のようなものを幻視した生徒も中にはいたが、当然ながらそんなものは実際には出ていない。

 

「英明君。今日は午後から大規模なイベントがあるということを知っているかな!」

「朝礼で先生が言ってた」

「私は聞いていなかったよ!」

 

 グラウンドで叫ぶようなことではない。

 ちなみにそのグラウンドでは、さまざまな機材が外部から持ち込まれて設備が出来上がっている。

 

「あれってなんだろうね」

「さあ?」

 

 イベントがあるという話だけを聞いていたのだ。

 当然、そんなことがわかるはずもない。

 

「……あ、これから説明があるみたいだね」

 

 ステージのようなものが出来上がっており、その上に司会進行の男性が上がった。

 

「みなさん。お待たせしました。これよりイベント『スピリット・パーク』を開催いたします!」

 

 拍手はない。

 事前告知で何も言っていなかったのだから当然だ。

 そのため、ざわついている。

 

「ご説明しましょう。スピリット・パークは、デュエルモンスターズの精霊の『実体化』を発生させる波動を使うことで、精霊と触れ合うイベントになります!」

 

 英明が皐月のほうをちらっと見ると、皐月は目を輝かせていた。

 

「英明君!聞いたよね!精霊たちをおもいっきりハグできるって言ってたよ!」

「いやまあ、抱きしめることはできると思うけど、そうはいってないよ?」

 

 独自解釈が激しすぎる。

 

 で、そこから司会者の説明が続き研究チームだとかどれほど困難だったとか云々を言って、やっと怪しげなスイッチを取り出した。

 

「それではさっそくはじめましょう。本日は、精霊との触れ合いをお楽しみください!」

 

 そういって、司会進行の男性がスイッチを押した。

 波動のようなよくわからないものが広がったと思ったら、いたるところからデュエルモンスターズの精霊が出現した。

 精霊カードはもとからプロジェクトに使われていたものや、イベント用にそろえたものだろう。

 見栄えのいいモンスターも多数出現している。

 

「うひょおおおおお!モフモフだああああああ!」

 

 皐月は獣族が密集しているエリアに全速力で突撃していった。

 そのままの勢いで飛び込んで抱きしめている。

 

「……元気だなぁ。ん?」

 

 英明が振り向くと……。

 

『もう少し、もう少しでレイたんのパンツがぐほあああああ!』

 

 カメラを構えて『閃刀姫-レイ』をローアングルから撮影しようとして制裁されているグローアップ・ブルームの姿が。

 制裁しているのは『死霊王 ドーハスーラ』だ。

 そのままずるずると引きずられてブルームは焼却炉の中にぶち込まれた。

 

「……」

 

 英明はあえて無視することにした。

 気にしても無駄な気がするのだ。実際無駄である。

 

「英明君!モフモフだよ!モフモフ!」

「あ、ああ。そうだな」

 

 獣族モンスターを次々と抱きしめながら笑顔でこちらに来る皐月。

 楽しそうでなによりだ。

 

「こんなに素晴らしい装置があったなんて、感激だよ!」

 

 満面の笑みで再びモフモフの中に飛び込む皐月。

 

(……まあ、しばらくはあんな感じか)

 

 英明の選択は放置であった。

 

 ★

 

 とあるチャットでのやり取りである。

 

大賢者ローリコーン:で、今回はどうしたのだ?

 

制裁覚悟の盗撮班長:同僚から制裁されました。

 

大賢者ローリコーン:何をしたのだ?

 

制裁覚悟の盗撮班長:レイたんの絶対領域の奥が知りたかったのさ!

 

大賢者ローリコーン:僕も気になるぞ!

 

制裁覚悟の盗撮班長:レイたんをロリ扱いすると物議を醸すような気がしなくもないけど。

 

大賢者ローリコーン:班長はロリコンの定義など知らないだろう。

 

制裁覚悟の盗撮班長:小五から中学生で童顔の人が好きだったような。

 

大賢者ローリコーン:そうなのか?

 

制裁覚悟の盗撮班長:小一から四が好きだとアリスコンプレックスだったような気がする。

 

大賢者ローリコーン:なるほど、ならば僕はロリコンだな。あぶねぇ。

 

制裁覚悟の盗撮班長:はたしていいのか悪いのか……。

 

大賢者ローリコーン:そういえば、精霊が現実化するイベントについてだが。

 

制裁覚悟の盗撮班長:行われてるね。

 

大賢者ローリコーン:セームベルたんかわいい。

 

制裁覚悟の盗撮班長:お前アムネシアの学生だったのかよ!

 

大賢者ローリコーン:いや、隣の学校だよ。

 

制裁覚悟の盗撮班長:あ、さようですか。

 

大賢者ローリコーン:ガガガシスターと戯れてるんだFOOOOO!

 

制裁覚悟の盗撮班長:落ち着け。

 

大賢者ローリコーン:まあどっちも僕の精霊だけどね!

 

制裁覚悟の盗撮班長:死ね。あ、二人ともデュエル中しか出てこられないのか。

 

大賢者ローリコーン:精霊としての格が足りないからな。僕の愛が足りないからだろうか。

 

制裁覚悟の盗撮班長:あまりうざいと『お兄ちゃんなんて大っ嫌い!』って言われるぞ。

 

大賢者ローリコーン:イヤアアアアアアア!

 

制裁覚悟の盗撮班長:さて、まじめな話するけど、どう思う?

 

大賢者ローリコーン:ふむ。精霊の実体化か。すごいとは思うが、制御による。

 

制裁覚悟の盗撮班長:だよなぁ。デメリットのほうが多そう。

 

大賢者ローリコーン:実際、精霊としての格が足りないゆえに問題がないシステムだろう。

 

制裁覚悟の盗撮班長:そうだね。たまに小さい悪霊もいるけど。

 

大賢者ローリコーン:だが基本、大型の精霊しか悪霊にならないと聞いた。

 

制裁覚悟の盗撮班長:そのおかげで、出る杭を打つだけでいいんだけど……。

 

大賢者ローリコーン:じゃあこのままだと……。

 

制裁覚悟の盗撮班長:とてもやばいことになるかもしれません!

 

大賢者ローリコーン:どうするのだ班長!

 

制裁覚悟の盗撮班長:君は即座に撤退しなさい!

 

大賢者ローリコーン:……。

 

制裁覚悟の盗撮班長:どうしたロリコン。

 

大賢者ローリコーン:僕は、まだ目に焼き付けておきたい。

 

制裁覚悟の盗撮班長:警告はした。後は君の自由だ。

 

大賢者ローリコーン:うむ。

 

制裁覚悟の盗撮班長:お、どうやら用事ができたようだ。というわけでさいなら!

 

大賢者ローリコーン:ああ、また話そう。

 

 チャットが終了した。

 

 ★

 

「ククク。うまくいっているようだな」

 

 もうほとんど髪が残っていない中年男性がモニターを見ながらうなずく。

 

「そうですね。精霊というものを知っている者はいても、触れ合うことができる人は少ないですから」

 

 そう答えるのは、生徒会長の御堂月詠(みどうつくよみ)である。

 中等部二年だが生徒会長を務めている。

 芯のある雰囲気を出す彼女が、中年男性……副総理である高頭宗助(たかとうそうすけ)と話していた。

 月詠の顔には若干のイライラがあるようにも見えるが、高頭のほうは気が付いていないようである。

 

(精霊を現実化する技術……確か、アイディアル・タワーでは『制御力不足で実用的と判断不可』としてまた発表すらしていない技術のハズ。パッと見た限り、設備がそれに似ているような……)

 

 月詠としては、あまり乗り気ではない。

 そもそも、生徒会長である彼女にすら、今回のイベントの詳しい内容は知らされていなかった。

 アムネシアは外部からの干渉が困難だが、イベントの際はその限りではない。

 黒いうわさのある人物を実際に呼ぶとなれば、遊月本人がいるはずだ。

 月詠ですら断固拒否したい内容だというのに既に決まっていたとなれば、そこには大体遊月がかかわっている。

 

「どうかね?私たちが完成させた『スピリット・リアリゼーション・システム』の性能。これがあれば、精霊に対する研究が大幅に進むだろう。それに、アムネシアの中心といっていい生徒たちからの人気も高いようだ。アムネシアにも、このシステムの開発を指揮した私のような人材が必要だとは思わんかね?」

「え、ええ、まあ、そうですね……(プロジェクトの名前がアイディアル・タワーの時のまま……正気なのでしょうか。この男)」

 

 遊月に直通の電話番号を思い出しながら、月詠は内心溜息を吐いていた。

 

「これで、あとは『あの計画』を進めることができれば……」

「?」

 

 高頭が言った『あの計画』の意味。

 そこが月詠にはわからなかったが、実のところ月詠は忙しい。

 そのため、いつまでも高頭にかまっているわけにはいかなかった。

 

 彼女にできるのは、『高頭がこのシステムを使って何かをしようとしている』ということを報告するくらいである。

 まあそもそも、ほとんど事情を知らされていない。

 前提の情報が少ない以上、彼女の役目は、『遊月が抱いているかもしれない疑念の一つを確信に変える材料を提出する』くらいである。

 

 ★

 

「英明君!写真を六百枚くらい撮れたよ!」

「撮りすぎだろ……」

 

 とっても元気な皐月に振り回されている英明。

 

「すでに現像も終わってるよ!」

 

 そしてそのすべてがファイル化されたものを見せてくる。

 英明は『こんなに早くできるものなのかね?』と思いながらもファイルを開いた。

 かなり楽しんだようだ。

 モフモフ目当てで獣族(特におジャマ以外のレベル2)の場所に突撃していたが、いろいろな写真がある。

 ガガガシスターやセームベルが紛れ込んでいたしている。まあそれはいいとしよう。

 なぜか給仕をしているようすの『スケープ・ゴースト』だったり、売店を開いている『ゴブリンゾンビ』など、なんだかアンデット族モンスターが活発である。

 

(……)

 

 アンデット族というところで記憶に引っかかった英明だが、とりあえず思考の隅に追いやった。

 

「思ったけど、かなりカメラの取り方がうまいな」

「うん。最近知り合った精霊がカメラを持ってて、撮ってもらったんだ!実際にカメラを回している人にも見せたらすごいって言ってたよ」

「へぇ……」

 

 英明の頭には、焼却炉に放り込まれたとある花の姿が思い浮かんだが、きっと偶然ではないのだろうと思いながら写真を見ていった。

 写真の皐月はとても笑顔だ。

 どうやら、今までよりも元気だといったのは間違いないらしい。

 たまに英明も写真に入り込んでいたが、あまり記憶がない。

 

「……あ、後半はカメラマンの要望だぜ!」

 

 見てみることにした。

 

「……なんだこれは」

 

 言ってしまえば『擬人化』だろうか。

 実際にモンスターの精霊の隣でコスプレをしている。

 『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』や『銀河眼の光子竜』

 『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』をはじめとした各種ドラグニティたち。

 『ガンドラX』『レダメ』『ダークマター』『アガーペイン』などのソリティアの友達。

 おまけに各種ブルーアイズまで。

 そしてとどめに、すべての『覇王眷竜』に加えて『覇王龍ズァーク』!

 

 露出度が若干高い時もあるのだが、それでもやっているのである。本気である。

 ちなみに、本来皐月の髪は水色なのだが、設定上ちょっと無理がある場合はカツラをかぶっている。ブルーアイズの時は白のカツラに青のカラーコンタクト。ズァークの時は基本黒で緑のメッシュが入ったものをかぶったりと、ガチである。

 

「張り切っちゃった!テヘッ♪」

 

 コテッとこぶしを頭に当てる皐月。

 ちなみにあざといのではなく素である。

 

「……ていうか、写真六百枚に加えてファイルまで……結構金かかったんじゃないか?」

「問題ないって花血を出しながら言ってたよ!」

「で、そのカメラ撮ってた精霊にも写真渡したの?」

「モッチロン!」

 

 とのことである。

 

「で、今日のイベントはもうそろそろ終わるみたいだね」

「ああ。でも、明日もやるって話だろ?」

「また明日もギュウウウってするぞおおおお!」

 

 元気だな。と思った。

 まあ、いつも通りだが。

 

「あ、英明君。私はそろそろ帰ります!」

「そうか」

「というわけで行くぞおおおおお!」

「うおああああああ!」

 

 今までは襟首をつかんでいたが、まるで盛大に密着するように抱きしめてそのまま突撃していく。

 

 

 

 これがまだ日常の延長線上であるというのなら、幸せなことである。

 

 しかし、意図のある偶然は、常に、人を脅かすものだ。

 

 ★

 

「……む?」

 

 皐月は急ブレーキをかけた。

 英明が死にそうになった。

 

「英明君!悪霊の気配がするよ!それも大量に!」

「それよりも前に放してくれ……」

 

 皐月が英明を開放すると、よろよろと立ちあがった。

 

「ふう……確かに感じるな。こんなに悪霊の気配がするなんて……」

 

 英明はあたりを見る。

 皐月が言った通りの状況だ。

 かなりの悪霊瘴気が漂っている。

 

「……!危ねえ!」

 

 英明は皐月を抱き寄せてそのまま跳躍した。

 その次の瞬間、英明たちがいた場所に、瓦礫がなだれ込んできた。

 

「うわあああ!あ、あぶなかった……」

「間一髪だな……んな!?」

 

 英明は顔を上げて驚愕した。

 なぜ、自分たちのところに瓦礫がなだれ込んで来たのか。

 その原因がそこにいたからだ。

 

 だが……。

 

「お……オベリスクの巨神兵……」

 

 三幻神の一体である『オベリスクの巨神兵』が、悪霊瘴気をまき散らしながらそこにいた。

 

「あ、あり得ないよ!オベリスクなんて、並みの精霊力じゃ現出不可能なのに……」

 

 デュエルモンスターズの精霊と言うのは、自らが抱えている精霊力が『安定』しているだけで、『生成』してるわけではない。

 格式の高い精霊の場合は、この『精霊力』を生成することが出来るので、それを用いた『現出化』を可能とする。

 しかし、あまりにも強力な『性能』――ステータス・効果・カテゴリなど総合的な強さ――が高い場合、精霊たちは並みの精霊力消費では現出できない。

 ただし、格式の高い精霊は、マスターとなるデュエリストの精霊力を使うことが出来る。

 強い精霊がしょっちゅう出てきている気がしなくもないが、これらはマスターの精霊力を消費しているに過ぎない。

 

 そして、三幻神の一体であるオベリスク。

 普通なら、考えられないのだ。

 

「いや、悪霊瘴気は『現出特化』の性質を持ってる。『精霊力』じゃ考えられない量でも、『悪霊瘴気』なら可能性がある」

「私初耳だよ!?」

「授業で言ってたぞ。ちゃんと聞いとけ」

「むううう」

 

 唸る皐月。

 だが、英明の方はオベリスクから目を放さない。

 放すことができない。

 

「英明君。どうするの?」

「オベリスクは多分、現出直後だから意識が定まっていない。逃げるなら今だが……!?」

 

 オベリスクが、突如咆哮を上げた。

 すると、周辺に存在していた悪霊たちが、オベリスクの右の拳に集まって行く。

 圧倒的なほどのエネルギーが集約する。

 

「まさか……」

 

 集約したエネルギーが安定し……オベリスクは、英明と皐月の方を向いた。

 

「ヤバい!」

 

 オベリスクがエネルギー溢れる拳を振りおろしてきた。

 

『マスク・チェンジ ヴェイパー』

 

 英明を水が包んで、ヴェイパーの姿になる。

 皐月よりも前に出て、オベリスクの拳を受けた。

 

「ぐ……うああああああ!」

 

 しかし、その程度でオベリスクの攻撃を受け切れるはずもない。

 そのまま英明は飛んでいき、建物を五つ貫いた。

 

「英明君!」

 

 もうどこにいるのかも見えない。

 だが、皐月にも叫ぶ余裕はない。

 

「な……」

 

 オベリスクのもう一方の拳。

 そこには、すでにエネルギーが集約していた。

 

 ちなみに、オベリスクのカードテキストを見れば分かることだが、そもそもオベリスクの『自分フィールドのモンスターを二体リリースして、相手モンスター全てを破壊する効果』は、回数制限が存在しない。

 リリースを確保することが出来るのなら、連発すら可能である。

 

「させるか」

 

 静かな声が聞こえた。

 それと同時に、皐月を波動のようなもので出来た障壁が守る。

 オベリスクはあざ笑うかのように拳を振りおろしてきたが、その障壁を貫通することはなかった。

 

「んな……」

 

 圧倒的な質量と圧力。

 それをもろともしない障壁は、オベリスクが攻撃を終えた後も健在だった。

 

「全く、何をしでかすかと思えば……『悪霊瘴気』が『精霊力の一つの形態』であることを知らなかったのかあのクソガキ。制御を誤れば悪霊瘴気すら簡単に現出化するから凍結しておいたんだがな」

 

 皐月が振り返る。

 そこにいたのは……。

 

「ゆ……遊月君?」

「お、この姿でも初見で私だと分かるのか、そして君付けとは恐れ入る……」

 

 『真紅眼の死霊竜王ネクロ・バロール・ザ・ワールド』の姿の不死原遊月である。

 髪は青い炎のようになびいており、怪しげな赤い眼を光らせて、骨のアクセサリーがふんだんにつけられたロングコートを身に纏っている。

 背中には三対六枚の翼に、ドーハスーラのような長い尻尾がある。

 右手には『真紅眼の黒竜剣』。左手にはドーハスーラの杖だ。

 

 正直、遊月のころの面影はあまりない。

 

「まあ、今は私に構っている暇はないだろう。ギリギリ受け身をとっていたが、あまりいい状態ではなかったぞ」

「わ、わかった!」

 

 皐月はオネストの翼を広げて、英明が飛んでいった方に向かって飛翔していった。

 

『グ……ヌゥゥゥ』

「ん?ようやく自我が出てきたか」

『キサマ。ナニモノダ』

「お前より格上の一般人だ」

 

 めちゃくちゃな言い分である。

 

「で、どうするんだ?私はまだお前と暴れてもいいんだが」

『ククク。キサマガ、我ヨリモ格上ダト?愚弄スルデナイ!』

 

 オベリスクは拳を振り上げる。

 遊月は溜息を吐いて、黒竜剣を構えた。

 

「全く、古今東西、悪霊は言葉は通じても話は通じないな」

 

 黒竜剣を一閃。

 それだけで、オベリスクの拳は弾かれる。

 

『グ……ナゼ、コンナコトガ……』

「井の中の蛙大海を知らず。視野が狭いぞ。だから『神』は嫌いなんだ」

『ナヌ?』

「私の中では、『神』は『人を超えた存在』ではなく『人の限界』だからだ。人は『神より上の言葉』を作れないだろ?作ってみろといえば『超越神』だとか『神を超えしもの』だとか、もとから神が頂点に立ってるような言い方するのがその証拠だ」

『……ナニガイイタイ』

「お前に、私に勝つ手段などない。せめて、私が『神』を評価できる程度の実力は見せてくれ。『人の限界』の産物であるお前にできるのは、その程度のことだ」

『ホ、ホザクナアアアアアア!』

 

 オベリスクが拳を振り上げる。

 

「そろそろ結界ができる頃か。多少暴れても問題ないな」

 

 遊月は剣と杖を構えなおす。

 

 皐月が飛んでいった方向に、雷雲が出現しているのを尻目に。

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