遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第二十八話

「ククク。このカードさえあればいい」

 

 いたるところで悪霊が発生している中、中年の男性、高頭宗助はSPが運転する装甲車によって逃走していた。

 そこには一枚のカードが握られている。

 高頭の目は貪欲に濁っており、これから自分がする数々の功績にしか見えていないようだ。

 

「高頭様。そのカードは……」

「これか?これはね。『圧倒的な力』だよ。作るためにはそれ相応の犠牲が必要なのだが、この辺りはなかなか入り込めなかったからな。それに、あの男がいる地域だ。多少犠牲が出ようと問題はない」

 

 アムネシアは不死原遊月が裏でトップとして君臨している地域だ。

 ただ、遊月はあくまでも裏にいる存在なので、表での市長などは別にいる。

 だが、本当に大きな案件となると、遊月か、その遊月の『判断基準』をすべて把握している日夏に確認を取らなければならない。

 

「私をあの男は軽く見ている。こんなことがあっていいものか!私はいずれこの国のトップに立つ男だ。今回の件で、この町にもそれ相応の被害があったはず。この経験を踏まえて、しっかりと上下関係というものを学んでほしいものだな」

「……」

 

 後部座席でふんぞり返りながら、高頭はそうつぶやく。

 それと、運転するSPの男は冷めた目で見ていた。

 そもそも、運転している彼は高頭とは無関係の人間だ。

 政府関係のものを装って入るものの、実際は『アムネシアでどんな事件が起こっても高頭を泳がせておけ』と遊月から直々に命令された、列記としたアムネシア側の人間である。

 

 それから、高頭は『犠牲』と言っているが、このアムネシアにおいて、単純な災害で犠牲は出ない。

 現在、悪霊たちが暴れて建造物が損壊していたりするが、圧倒的な力を持っている悪霊が少なすぎて、遊月が抱えている一部の強者たちにより、駆除が間に合っている。

 さらに、アイディアル・タワーは世界最大の『精霊保護施設』であり、災害救助の現場では彼らが大きく活躍する。

 

 人的被害はほぼゼロ。

 物的被害はあるものの、いずれ修復は可能である。

 『犠牲が出ている』と思っている人間はいつも、本当に『犠牲が出ているかどうか』など、確認しないものだ。

 

「ククク……む?あれはなんだ?」

 

 高頭がそんなことを呟いた。

 運転手のSPは『なんだ?』と思う。

 車が大きく揺れたのは、その時だった。

 

「ぐおおお!なっ、なんだ!?」

 

 シートベルトを締めていなかった高頭が頭を思いっきり天井にぶつけたが、運転手のSPは冷静だ。

 自分よりあわてている人間を見ると、人間は冷静になれるものである。

 

「ぐ……な、そんなのアリか!」

 

 高頭は窓から外を見て驚いた。

 そこでは、『時械神メタイオン』が右手を広げて、そこで月詠が微笑みながら座っていた。

 右手を上品に手に当てており、なんだか見ていてとてもイライラする感じである。

 さすがに月詠の登場はSPの男も驚いた。

 のだが、インカムに通信が来る。

 

『私、ちょっとやっておきたいことがあるので、あなたはフェードアウトしておいてください』

「……」

 

 だそうだ。

 右手の手首にマイクがあるのだろう。それを使ってしゃべっているのはわかるが、正直、性格が悪すぎてどうともいえない。

 というか今は運転中である。

 

「おい!さっさとスピードを上げんか!このままでは焼き尽くされてしまうぞ!あの悪魔め!」

 

 正直、わめいているおっさんもうるさいが、月詠が悪魔であることには同意するSPの男。

 

『あ、運転手の方。演出のためにそれなりに攻撃しますので、指定ポイントまで頑張ってくださいね♪』

 

 SPの男は『アムネシアの生徒会長って、俺みたいなSPよりも階級が上なんだよなぁ。なんでだろ』と思いながらも、スピードを上げた。

 実際、アムネシアの生徒会長というのはある程度の裁量権が与えられているので、アムネシアの中ならば無茶が通るのである。

 そして、その『ある程度』の範囲内ならば遊月が自動でもみ消してくれるのだ。

 何ともいい身分である。

 

 ★

 

 指定のポイントまでくれば、月詠もそれなりに自重……してくれないもので、SPの男はアクション俳優も真っ青な運転センスを発揮して、どうにか高頭を後部座席に置いて逃走した。

 ちなみにキーは抜いている。

 

 爆発シーンというものをうまく利用したすごく怖いアクションシーンだったため、高頭は目をつぶっていた。

 だが、車が動く様子すらないとなれば、高頭も不審に思う。

 

「お、終わったのか?……お、おい!どういうことだ。あいつはどこに行った!」

 

 さすがに目を開けて運転手がいなくなっていたら驚く。

 車の窓から外を見るが、月詠もメタイオンもいなくなっている。

 

「た、助かったのか?」

 

 高頭は車から出て、そのままキョロキョロと見渡した。

 

「残念ながら、助かったわけではない」

「っ誰だ!」

 

 声がするほうを向くと、金髪の少年がこちらに向かって歩いてきた。

 年齢はまだあどけなさがあり、月詠と変わらず十四歳ほどだろう。

 だが、身にまとっている強者としてのオーラが漏れ出ている。

 

「俺か?おれはレイエス・アドベントだ」

「私に何の用だ」

「簡単に言うならば……お前が手に入れたカードをもらう」

「!?」

 

 高頭は胸ポケットに入れたカードに手がいった。

 

「なるほど、お前の狙いはこれか。渡すものか!これは私のものだ」

 

 高頭はそのカードをデッキに入れて、デュエルディスクを構える。

 

「ほう、さっさと逃げると思っていたが、どうやらそうではないらしい」

「フン!適正量の精霊力を注入して作った特注品だ。これを使えば、貴様をひねりつぶす程度はたやすい!」

「そうか。なら、どれほどのものか見せてもらうぜ」

 

 レイエスもデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 レイエス LP8000

 高頭   LP8000

 

 ターンランプがついたのは高頭。

 

「私の先攻!手札から『V・HERO ヴァイオン』を召喚!」

 

 V・HERO ヴァイオン ATK1000 ☆4

 

 出現するヒーローの一角。

 某優秀な戦士族御用達と言えるリンクモンスターの影響で、ポンポン出てくるようになったともいえるモンスターだ。実際便利。

 

「モンスター効果により、デッキから『D-HERO ディアボリックガイ』を墓地に落とす。そして、こいつを除外することでディアボリックガイを特殊召喚!」

 

 D-HERO ディアボリックガイ ATK800 ☆6

 

「二体のモンスターでリンク召喚だ。現れろ『聖騎士の追想 イゾルデ』!」

 

 聖騎士の追想 イゾルデ ATK1600 LINK2

 

 そして現れる『便利な戦士族リンクモンスター』であるイゾルデ。

 大体、今のデュエルモンスターズと言うものはやろうと思ったことが全部できるものだが、その原因の一つはこんなところにあったりする。

 

「イゾルデのリンク召喚成功時の効果により、デッキから『終末の騎士』を手札に加える。そして、イゾルデのもうひとつの効果!デッキから『執念の剣』と『リビング・フォッシル』を墓地に送ることで、デッキからレベル2の戦士族である『天帝従騎イデア』を特殊召喚!『執念の剣』をデッキに戻し、イデアの効果により、デッキから『冥帝従騎エイドス』を特殊召喚だ!」

 

 天帝従騎イデア  ATK800 ☆2

 冥帝従騎エイドス ATK800 ☆2

 

 デュエルディスクのデッキゾーンからカードを一枚だけ抜き取る形でサーチやリクルートをしたとしても、デッキはシャッフルされる。

 執念の剣はデッキトップに戻ったはずだが、即座にシャッフルされたようだ。

 

「エイドスの効果により、通常の召喚に加えて、アドバンス召喚を行うことが出来る」

「アドバンス召喚の権利を得て、モンスターを三体か」

「そうだ。私はこの三体のモンスターをリリース!」

 

 イゾルデ、イデア、エイドスの三体が消えて行く。

 

「アドバンス召喚!『ラーの翼神竜-球体形』!そして、その力を解放し、現れるのだ!『ラーの翼神竜』!」

 

 ラーの翼神竜 ATK4000 ☆10

 

 現れる最強の三幻神。

 バトルモードに移行したことで、圧倒的な力を解放している。

 さらに……。

 

「しかも、それ……精霊カードだな」

「そうだ!これが、『スピリット・リアリゼーション・システム』を活用することにより完成した精霊カードだ!本来、このカードには精霊としての存在を保てるほどの力がなかったが、空気中に存在する精霊力すらも操作可能なものに変換できるこのシステムを応用することで、疑似的な精霊とすることが出来る!」

 

 一体後ろにどんなスポンサーがついているのか気になるところだが……。

 

「だが、三幻神ともなれば、相当な『資格』が必要になるぞ」

 

 これは『神をそもそも操れるか』という『器としての資格』と、『圧倒的な存在感を持つ三幻神をコントロールする』ための『公的な資格』の話だ。

 もちろん前者は精霊が決めることだが、後者は実際に『とある団体』が定めていることだ。

 

 強いモンスターカードだからと言って必ずしも強い精霊と言うわけではない。

 例えるなら、不死原遊月は『死霊王 ドーハスーラ』という、『王』の称号を持っており、実際に『精霊格』も高いモンスターを従えているが、全てのドーハスーラの精霊が遊月のドーハスーラほど強いというわけではない。

 のだが、三幻神を代表とする『そもそもデュエルモンスターズとして格式が高いモンスター』というのは、精霊化するだけでその『精霊格』も高いものとなる。

 

 要するに、『三幻神のカードなら、精霊というだけで届け出をする必要がある』ということだ。

 

 因みに、遊月の場合はその『とある団体』から『コンビニエント・パス』をもらっている。

 この場合の『コンビニエント』は『便利』ではなく『都合の良い』という意味で、このパスを持っていると、自分だけでなく、自分にかかわる人間に対する精霊格の高い精霊の所持を認めてくれる。というものだ。

 人付き合いをそれ相応に選ぶ遊月だが、その理由はこんなところにあったりする。

 

 話がそれたので戻すが、そもそも高頭はその二つの資格を満たしているのか。ということだ。

 

「ククク。神であろうとなんだろうと、このカードがあればいいのだ!フィールド魔法『神縛りの塚』を発動!」

 

 大地から鎖が出現し、ラーの翼神竜をとらえていく。

 

「……そんなカードを使わなければ操れないか」

「うるさい!どう操るかなど関係ないのだ!操ったのちに、どう活用するかを考える。これが成功する者の秘訣なのだよ」

「なるほど、お前の言い分は分かった」

「フン!そうして余裕ぶっていられるのも今の内だ!私はターンエンド!」

 

 セットカードはないようだ。

 神縛りの塚によって耐性を得ているラーの翼神竜をそこまで信用しているのか。

 だが、それは過信と言うものである。

 

「俺のターンだ。ドロー!」

「さあ、私のラーの翼神竜を超えられるものなら、超えてみるがいい!」

「超えさせてもらおう。俺は手札から『百獣のパラディオン』を通常召喚!」

 

 百獣のパラディオン ATK1200 ☆3

 

「現れろ。神罰を刻むサーキット!百獣のパラディオン一体でリンク召喚!リンク1『マギアス・パラディオン』!」

 

 マギアス・パラディオン ATK100 LINK1

 

「さらに、手札から『星辰のパラディオン』を、マギアス・パラディオンのリンク先に特殊召喚!」

 

 星辰のパラディオン DFE2000 ☆4

 マギアス・パラディオン ATK100→700

 

「この瞬間、星辰のパラディオンとマギアス・パラディオンの効果発動。マギアス・パラディオンの効果でデッキから『神樹のパラディオン』をサーチ。星辰のパラディオンの効果により、墓地の『百獣のパラディオン』を回収する」

「回るな……だが、私の神には及ばない!」

「まだまだ序盤だ。おとなしく待っていろ」

 

 そう、パラディオンは、まだまだ止まらない。

 止まってはくれない。

 

「現れろ。神罰を刻むサーキット!俺はマギアス・パラディオンと星辰のパラディオンでリンク召喚!リンク2『レグレクス・パラディオン』!」

 

 レグレクス・パラディオン ATK1000 LINK2

 

「そして、リンク先に『神樹のパラディオン』を特殊召喚!この瞬間、レグレクス・パラディオンの効果発動。デッキから『テスタメント・パラディオン』を手札に加える」

 

 レグレクス・パラディオン ATK1000→1800

 

「まだまだ行くぞ。神罰を刻むサーキット!俺はレグレクス・パラディオンと神樹のパラディオンでリンク召喚!リンク3『アークロード・パラディオン』!」

 

 アークロード・パラディオン ATK2000 LINK3

 

「フン!そいつがエースモンスターのようだが、たったの攻撃力2000で、私のラーの翼神竜にどうやって勝つつもりだ?」

「さっきからリンクモンスターの攻撃力がちらほら上がっているのに気が付かないか?」

「何?」

「今のところ、リンク3以下のパラディオンモンスターは、そのリンク先にいるモンスターの元々の攻撃力分、攻撃力がアップする!」

「なんだと!?」

 

 どうやら高頭は『パラディオン』の基本性能を知らないようだ。

 ガンドラXのワンキルのお友達としてあんなに猛威を振るっていたのに……。

 

「俺は手札から、『百獣のパラディオン』と『天穹のパラディオン』を特殊召喚!」

 

 百獣のパラディオン DFE1600 ☆3

 天穹のパラディオン DFE1000 ☆4

 

「これにより、アークロード・パラディオンの攻撃力が上昇する!」

 

 アークロード・パラディオン ATK2000→4800

 

「こ、攻撃力、4800だと!?」

「バトルフェイズ!アークロード・パラディオンで、ラーの翼神竜を攻撃!」

 

 アークロード・パラディオンが剣を振り上げると、鎖に縛られているラーの翼神竜が切断され、消えて行く。

 

 高頭 LP8000→7200

 

「グッ……バカな。ラーの翼神竜が、こんな簡単に……」

「だが、この『モンスター同士の戦闘その物』は、まだ終わっていない」

「何?」

「こう言うことだ……俺の元に来るんだ。不死鳥よ!」

 

 レイエスがデュエルディスクのスイッチを押して、高く掲げる。

 すると、高頭の墓地にいるラーの翼神竜の精霊が舞い上がり、レイエスのデッキに飛び込んで行った。

 

「バカな、私の……私のラーの翼神竜が……」

「不死鳥すら墓地に用意しないお前に、ラーは力を貸さないさ。アークロード・パラディオンが相手モンスターを破壊したことで、手札から速攻魔法『テスタメント・パラディオン』を発動!アークロード・パラディオンのリンクマーカーの数は三つ。よって、カードを三枚ドローする」

 

 勢いよくカードを三枚ドローするレイエス。

 ……二年後はまだ落ち着いた風格があったのだが、この頃はまだ落ち着きがないようだ。

 とはいえ、ラーを手に入れたことで高ぶっているのは認めてあげるべきだろう。ただでさえ思春期である。

 

「チッ、だが、貴様の他のモンスターは守備表示、バトルフェイズは終了だ!私の手札には『終末の騎士』がある。これを使って再度展開すれば……」

「残念だが、まだ俺のバトルフェイズは終了していない」

「お、お前のフィールドに、攻撃出来るモンスターは……」

「だから、手札からカードを使うのさ。速攻魔法『ライバル・アライバル』を発動!バトルフェイズ中に、アドバンス召喚を行う!」

「バトルフェイズ中にアドバンス召喚を……ん?貴様のフィールドにモンスターは三体……まさか」

「そのまさかだ!俺は、三体のパラディオンモンスターをリリース!」

 

 パラディオンモンスターたちが消えて行き、レイエスの手にあるカードが輝きを増していく。

 

「『ラーの翼神竜』を、アドバンス召喚!」

 

 空中に現れる太陽。

 資格の無い不適合者に操られたそれとは違う、神々しいチカラをあふれさせ、その体を変形させていく。

 

 ラーの翼神竜 ATK0 ☆10

 

「だ、だが!貴様如きに、三幻神を操る力など……」

「これを見てから判断するんだな。ラーの翼神竜の効果発動!召喚成功時、俺のライフを100になるように払うことで、攻撃力と守備力を、払った数値分、アップさせる!」

 

 レイエス LP8000→100

 ラーの翼神竜 ATK0→7900

 

「ば、バカな……攻撃力、7900だと!?」

 

 驚く高頭。

 ……とはいえ、最近、一万越えでも全然記録を更新できないであろう数値を普通に出してくるデュエリストがいろんなところにいたりするので、レイエスとしては感動が薄い。

 が、目の前にいるやつを葬り去るには十分な攻撃力だ。

 アホ見たいな攻撃力はみんなのロマンだが、デュエルに過剰な攻撃力など不要!

 

 結論、ワンターンキルは楽。

 

「ラーの翼神竜で、ダイレクトアタック!『ゴッド・ブレイズ・キャノン』!」

 

 ラーの翼神竜が渾身のブレスを放出。

 

「うあああああ」

 

 高頭 LP7200→0

 

 そして吹き飛ぶ高頭のライフ。

 デュエルは決着である。

 で……高頭はそのまま気絶してしまった。

 

「……おい、出てきていいぞ」

「どうやらそのようですね」

 

 ひょこっと月詠が建物の角から顔を出した。

 いつも通りの微笑を浮かべたままで。

 

「で、俺はもう用はないんだが、どうするんだ?」

「もちろん、いろいろと使いますよ。彼にもまだ使い道はあるのです」

「……まあいい。俺はもう行くぞ」

「フフフ。レイエスさん。強くなりましたね」

「それはお前もだ。一体何があった?」

「そうですねぇ……強い殿方の家に泊まったくらいですよ」

「そうか」

 

 レイエスはそれ以上は何も言わなかった。

 なんとなく察していたことではあるし、そもそもこれ以上、月詠が語るとは思え無かったからである。

 

 

 

 

 

 なお、高頭に関してだが、彼は遊月のところではなく、アイディアル・タワーで『日本政府にうまく切り込みたい』と考えている部署で身柄を一時預かることとなった。

 遊月も、高頭をいろいろ利用できることは分かっていたが、それ以上に気にすることがあったので、この時点では放置。

 二年後まで、月詠が生徒会長としてかかわっていたという事実が伝わることなく、事件そのものは終了した。

 

 ★

 

 病院のベッドで、皐月がすやすやと眠っている。

 腕には点滴がつながっており、皐月はこれから、長い休眠状態となる。

 早々に起きることはないだろう。

 

 そんな皐月を、部屋の外から英明は見ていた。

 

「ここにいたのか」

「……遊月か」

 

 英明に話しかけたのは遊月だ。

 初対面の時と同じようなスーツ姿であり、何らかの書類整理をしていたのだと英明は思った。

 

「……皐月は、大丈夫なんですよね」

「ああ。精霊力を空になるまで使う。ということは、本来なら簡単にはできない。リミッターが体の中に存在するからな。彼女は意図的にそのリミッターを外したわけだが、だからと言って、生命に異常が来るわけではない」

 

 要するに『変化に体がおいついていないだけ』である。

 

「……そっか」

「英明。今日は君に対して、一つ『提案』をしに来た」

「提案?」

 

 英明は首をかしげた。

 

「そうだ。今回の事件で、お前はいろいろ考えた部分があったはずだ。そしてその中で、一つの答えを出した」

 

 遊月はまっすぐ英明を見る。

 逆に英明は、遊月を見ることはできない。

 十四歳である英明の体は、あまり大きいとは言えないものだ。

 

「枷を破った。だがそれだけだ。しかし、お前には素質がある。結論を先に言えば、『勧誘』だ」

「勧誘?」

「私の相棒になるかどうか。ということだ。見ていて多少は分かると思うが、君よりも断然、私の方が強く、多くのことを知っていて、多くの修羅場を潜り抜けている。だが、そんな場所にいるからこそ、後ろからしっかりついてくる人間がほしいわけだ」

「その後ろからついて来る人間に、俺を選ぶってことか」

「その通りだ。もちろん強制はしないし、自分のやり方があるというのならそれでかまわない」

「……それ、巻き込むって言ってるのと同じだろ」

「大人だからな」

 

 英明の苦笑に対して即答する遊月。

 巻きこむことを当然だと考えているが、だからと言って無責任と言う印象が全く感じられないその瞳。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺は、あんたみたいになりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?」

 

 英明の呟きに、遊月は人の悪い笑みを浮かべる。

 

「なら一つ聞いておくか。私がどんな奴だと思う?」

「……バカだと思う」

「そうか」

 

 遊月は微笑んだ。

 そして、まだ小さい体で頑張る英明の頭をガシガシと撫でる。

 

「あ、そうだ」

 

 遊月がデュエルディスクを操作すると、英明のデュエルディスクにメールが受信された。

 

「いつでも私の家に来るといい。歓迎しよう」

 

 遊月はそう言うと、英明に背を向けて去っていった。

 皐月の方を一度も向いていない。

 最初から大丈夫だと思っているのだろう。

 

 自信にあふれていて、頼りにしかならない。大きな背中。

 

 英明は、そんな遊月の後姿を見送った後、皐月の方を見る。

 

「皐月。俺、強くなるからな」

 

 英明はそういって、いろんなものをこらえるように、病院を後にした。

 

 ……その日から時々遊月の寝室で、英明がその小さな体を支えてもらうように寝ている姿があったが、まあ、ブルームの『大切なアルバム』の中に残っている程度の話である。

 

 ★

 

 そして二年後。相棒として強くなった英明。

 中学二年、三年の時間を鍛錬に当てたのだが、鍛えれば鍛えるほど遊月の凄さが分かって気が遠くなることもあった。

 それでも、遊月の相棒として様々なものを使いながら鍛えてきた。

 

 だがそれでも、皐月に振り回されていた方がなんだか鍛えられそうな気がしてくるのは、英明の気のせいなのかもしれない。

 そんなことを考えているくらいには、英明の心にも余裕はあった。

 

 ただ、人は思い出だけで強くなれるかどうかとなれば、よほどの信念が必要。

 その信念を続けられるだけの『熱』がなかなか入らない……というか、遊月に似て、若干の『ヤレヤレ系』の思考が入ってしまったからか、最初のころに掲げた情熱というものはだんだん冷めていく。

 

 もちろん、高等部一年になれば遊月も入って来るため、熱が冷めてきた自分をどう奮い立たせるかというのは重要な課題だった。

 だからこそ、と言うと変かもしれないが……。

 

『初めまして、大束綾羽(おおつかあやは)といいます。アムネシアに来るのは初めてで、色々迷惑かけるかもしれませんが、これからよろしくお願いします』

 

 強さはある。

 だが、余裕がなくて、不安そうにしている。

 そんな雰囲気の綾羽を見て、少しだけ大人になった英明は『守ってやりたい』と思うようになったのだろう。

 

 ルックスもスタイルもよく、デュエルは強くて性格もいい。

 そんな綾羽のファンクラブができるのは、必然と言うと妙かもしれないが、アムネシアではできていたので英明も混ざった。

 

 遊月との関わり方も慣れてきたころなので、そういったものに参加するのも悪くないと思っていたと言うこともあるが。

 とにかく、彼は『綾羽ちゃん親衛隊』に所属することになった。

 

 ★

 

 いろいろと英明にも思うところがある二年だった。と言うとなんだか軽いが、要するにその程度の話である。

 

「しかし、私のようになりたい。か。今も言えるか?英明」

「そうやって俺を弄るのやめてくれねえか?遊月」

 

 とまぁ、こんな軽口を叩けるくらいには、関わり始めの空気のわりによくなっている。

 

「だがまぁ、強くなってるのは事実か」

「だな。俺もそう思う」

「ああ。ただ、私は一つだけ気になることがある」

「俺も、病院に行くたびに思うことがあるぜ」

 

 口には出さない。

 だが、遊月と英明はこう思っていた。

 

『皐月。二年も寝たきりなのに、肌はツヤッツヤなんだよなぁ。なんでだろう』と。

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