遊戯王Incarnation   作:レルクス

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第三十一話

『アッハッハ!』

「ブルーム。何見て笑ってるんだ?」

 

 朝。

 高校生ならば学校の用意をしているわけだが、ブルームが何かを見て笑っていた。

 遊月としてもかなり気になる。

 

『あ、マスターって翻訳サイトってどんなものを使ってる?』

「グー○ル」

『まあ、打ち込んだら即座に翻訳してくれるもんね。で、英語版のカードってあるでしょ?もしくは、英語のテキストが存在するカードとか』

「アムネシアにいる外国人も大体日本語版のカードを使ってるが、まあ、あるな」

『で、グー○ル翻訳に英語版のテキストを打ち込んだら面白いのなんのって』

「たとえば?」

『これ』

 

 ブルームが見せてきたタブレットに乗っていたのは……『邪神イレイザー』だった。

 英語版というより、英語のテキストが存在するカードである。

 

A god who erases another god.

When Eraser is sent to the graveyard,

all cards on the field go with it.

Attack and defense points are 1000 times

the cards on the opponent's field.

 

 これが英語のテキスト。

 で、これをグー○ル翻訳に突っ込んで日本語訳すると……。

 

他の神を消す神。

消しゴムが墓地に送られると、

フィールド上のすべてのカードはそれと一緒に行きます。

攻撃と防御のポイントは1000倍

相手のフィールド上のカード。

 

 となる。

 

「消しゴムが墓地に送られるとフィールドのすべてのカードは道連れか……」

 

 なるほど、ブルームが笑いたい気持ちは分かった。

 消しゴム……消しゴムって……。

 

『ね、面白いでしょ?』

「まあ、そうだな」

 

 というわけで。

 

「なあブルーム。昨日、私の部屋からタブレットが消えていたんだが」

『……撤収!』

「逃がさん」

 

 ブルーム。タブレット没収。

 

 ★

 

「……どうした。英明」

 

 通学路にて。

 珍しく綾羽と香苗を連れず、さらにハイヤーにも乗らずに通学路を歩いている遊月だが、遭遇した英明が嫌なほどげっそりしていた。

 

「いや……時雨さんに会ったんだよ」

「……絞られたのか?」

「いやそういうわけじゃねえけど、あの人スキンシップ激しいからな……」

「皐月もすごかっただろ」

「いや、皐月の場合、スキンシップは激しかったけど、密着してきたりっていうのは本当にあの日だけだったからな」

「それもそうか」

 

 皐月の体内には、悪霊瘴気を発生させる核があった。

 あまりにも密着していたりすると、英明にそれがうつる可能性がある。

 そう考えていた皐月は、英明を振り回してはいたが、実際の身体接触は抱きつくにとどまっていた。

 ブルームが取り除いたので解禁されていたわけだが、当時は中学二年生なので、本人の中では困惑が大きかった部分もあるだろう。

 結果的に、皐月はそこで止まっていたわけだ。

 だが、時雨はそんなことはない。

 止まってはくれない。

 

「加減されたな」

「だな。正直やばいわあの人……」

 

 そもそもの話をすれば、身体能力は英明よりも時雨のほうが高い。

 というか、遊月と比べても高いといえるだろう。

 お互いに全力ならば遊月のほうが上だが、普段出せるレベルは時雨のほうが高い。

 時雨が本気になれば英明など瞬殺だろう。

 ……実際、腹上死一歩手前になった男が昔いたので笑えない。

 

「ただ、こっちが一瞬でも攻めの意思を見えたらあの人は一秒くらい止まるからな。その隙に逃げてきた」

「美女の扱いに慣れたな。英明」

「そういうこと言うのはやめてくれませんかね!?」

 

 時雨はドSとドMを併せ持ち、性別関係なくどっちもいける性欲お化けである。

 そのため、相手がひ弱の場合はSが起きているが、逆に攻めの意思を見せるとMが覚醒するのだ。

 ちなみに、制御できない彼女の本能の話なのでこの方法は何度も通用する。

 英明のそれは慣れである。

 

「遊月の相棒になったことで発生する数少ないデメリットだな……」

 

 時雨の価値観の一つとして、『遊月についていけるような人間なら強いだろう』という考えである。

 というわけで狙われるのだ。これは歴代の相棒全員がそうである。

 全員うまく逃げていた。別に逃げることができそうな人間を選んでいたわけではないのだが。

 

「がんばれ。性欲が失われた私に対して、時雨はそういう意味では興味ないからな」

「……うらやましいようなかなしいような」

「やかましい。行くぞ」

「ああ」

 

 というわけで、登校である。

 

 ……で。

 

「今日からみんなと一緒に学ぶことになった周防時雨よ。よろしくね」

((いや、なんでお前も高校生になってんねん!))

 

 学校に行って、HRになってみて驚いた。

 なんと、時雨がアムネシアの夏服を着ていたのである。

 普段は黒い扇情的なドレスを着ている時雨だが、今は夏服である。

 すなわち、半袖で薄着である。

 醸し出されるその大人の雰囲気にクラス全体が飲まれている中(実年齢を考えるとおばあちゃんというより化石だが)、時雨は教室の中を歩いて、教室の一番後ろの空いていた席に座った。

 

 で、そのHR中、ほぼ全員が気になってみているのだが、時雨は当然そんなことは気にしない。

 そもそも、Mなのでみられることを許容し、そもそも『みられる女は美しい』とかいう座右の銘を掲げているので、見られることを望むのだ。

 

 というわけで、今日からアムネシアの高等部の一年一組では、めっちゃきれいな人が一緒に授業をすることになった。

 

 ★

 

 時雨に限らず、転校生というものはそもそも目立つ。

 そして、何かコミュニケーション能力に問題があるというのならともかく、時雨は基本的にだれとでも話せる人間だ。

 ……誰かを虜にしようとしている部分は確かに認める必要があるかもしれないが、それでも、きれいで話しやすく、賢いこともばかなことを話せる人間というのは人を集めるものだ。

 

 そのため、行こうと思えばすでに誰かがいるので、遊月や英明がコミュニケーションを取れるタイミングがない。

 

 なんとも完成されすぎていてかなりあれだが、そもそも経験があるのは本当のことなので今さらいっても仕方がない。

 そして彼女が虜にするのは生徒たちだけではなく、虜にできるのは休み時間だけではない。

 新任の先生方ももれなく虜にされていっている。

 

 のだが、時雨は遊月の近くに存在する人間である。

 新任の先生ならともかく、高齢の先生であればギリギリ耐性があるのだ。

 まあ、あってないような耐性だが。

 とはいえ、少なくとも初日はまだ大丈夫である。

 

 そして放課後、時雨はふらっと教室からいなくなった。

 

「で、遊月。どうする?時雨はどこかに行ったようだが」

「とりあえず……生徒会室に行ってみるか」

「え、何かわかるのか?」

「アムネシアに入ってくる転校生は生徒会が主にかかわる設定になっている」

「なーるほど」

 

 というわけで、生徒会室に向かうことにした。

 自分から進んで生徒会室にいく生徒はほとんどいないと思うが、遊月の場合はそう珍しい感覚というわけではないし、その遊月に影響される英明も同様である。

 そして、生徒会室に到着、コンコンとノックした。

 ……が、反応がない。

 

「留守じゃないよな」

「ああ」

 

 遊月はちょっとドアを開けてみた。

 するとそこには……。

 

「えへへ。お姉さま~」

「あらあら、月詠ちゃん。すっかりかわいい子になっちゃって」

 

 余裕のある雰囲気だったはずの御堂月詠が、彷彿とした表情で時雨を抱きしめていた。

 時雨は月詠をあやすように頭を撫でていて、時々月詠の大きな胸をもんだりしているが、そのたびに月詠から気持ちよさそうな声が漏れている。

 

(調教されとる!)

(手遅れだったか……)

 

 そして耳を澄ませると、ビデオカメラの駆動音が聞こえてくる。

 遊月と英明がちらっと横を見ると、ビデオカメラでその様子を見守るブルームが。

 

『あ。マスターも来たの?』

「ああ、時雨が転校してくることを知らなかったからな」

『あー。なるほどね』

「で、いったい何があったんだ?」

『月詠さんは調教されました』

「……そういや生徒会長って、時雨さんのことをデータでは知ってるけど、実際に会ったことはなかったな」

「私の監視下で一度会わせておくべきだったか?」

『いやー……あの様子だと結果は変わらなさそうだけどね。月詠さんって頑丈さのあるSって感じだけど、それだと時雨さんには勝てないでしょ。相性的に』

「……そんなものか?」

『いや、僕だって詳しくは知らんよ……』

 

 ただ変わらないのは、生徒会長である月詠が調教されてしまった以上、時雨の転校云々に対して、抵抗はおろか時間稼ぎすら不可能ということだ。

 

『僕、月詠さんの自室に行ったんだけどね』

「……どうだったんだ?」

『月詠さんは多分、これからは時雨さんなしでは生きられない体になってるかも』

「みりゃわかるわ」

「え、遊月って見ればわかるのか?」

「時雨の被害者はなにも月詠が最初じゃないからな」

 

 ひどいのである。

 

「フフッ。遊月。来たのね」

「ああ。時雨が転校すること知らなかったもん」

「そういえばそうね。まあ、私にとってはどうでもいいことよ」

 

 そうなの?

 

「さて、そろそろ行きましょうか」

 

 月詠から手を放す時雨。

 

「あ……」

 

 そしてそれに対して名残惜しそうな声を出す月詠。

 

「フフフ。心配しなくても、あとでかわいがってあげるわ」

 

 時雨がドアの近くに来ると、指をパチンと鳴らした。

 すると、月詠の瞳に光が宿る。

 

「あ、あれ?……私はいったい……」

 

 困惑している様子の月詠。

 その次の瞬間、時雨が生徒会室のドアを閉めたので、遊月側からは月詠が見えなくなった。

 

(……指パチンで戻せるのか!?)

 

 英明はそれを見て愕然。

 さすがに意味不明!

 

「さあ、遊月、英明。行くわよ」

「「……」」

 

 正直、嫌である。

 

 ★

 

『さてと、また本でも書こっと。あと動画の編集もあるしね』

 

 ブルームは自分のパソコンを開いた。

 ……飛行中のドーハスーラの上で。

 

『ブルーム、どうかしたのか?』

『んにゃ。ちょっと書いておきたいことがあったんだよ』

『どんな内容だ?』

『モンスターが出せる最高の攻撃力に関してのやつだよ』

『ああ……あのエンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力には我もビビった』

『僕も驚いたけど……コンセプト的に、多分もう攻撃力だけを考えていけば、ワイバーンはもう出てこられないと思うよ』

『どういう意味だ?』

『あのデュエルでの攻撃力アップは、分解するといくつかのコンセプトに分かれる。まずはこれ』

 

 ブルームはいろいろ入力した後、ドーハスーラにも見せた。

 

 

【最初に膨大な回復を行い、資本を作る】

 

 

『まあ、確かにその通りだな。あのターン数であの回復を可能とするのはあのコンボくらいだろう』

『僕もそう思うよ。『女神の加護』って、そういう意味じゃ分かりやすいカードだからね。で、次はこれ』

 

 

【ラベノス三体。それをコピーしたモンスター二体、エンシェント・ホーリー・ワイバーンを並べて、

エンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力が『ライフ差の六倍+2100』という状態を作る】

 

 

『回収手段として用いたチャーチサンダイオンの流れから、『アンデットワールド』『馬頭鬼』のアンデット蘇生パーツによって、『ライコウ』と『地獄の暴走召喚』で並べたのち、『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』でレベル10にして、ラベノスを並べたあれか』

『そう。これによって、この状態が完成した。まあ、リンク先の問題とかいろいろあって面倒だったと思うけどね。で、次はこれ』

 

 

【『神秘の中華なべ』と『馬頭鬼』によるライフアップ。

 『異次元からの埋葬』と『一撃必殺!居合いドロー』による再利用

 これにより、膨大なライフと攻撃力をワイバーンに付与する】

 

 

『書かれている通りだな。それ以外に何かがあるようにも思えない』

『そうだね。で、次がこれ』

 

 

【攻撃を行い。『レインボー・ライフ』状態で構えて『魔法の筒』を受ける】

 

 

『これによってまたすごいことになっていたな』

『だね。次はこれ』

 

 

【コンセントレイト リミッター解除 ダブル・アップ・チャンスを使い、爆アゲして相手を原子分解する】

 

 

『……思うのだが、あの後、トゥルースは具体的にどうなったのだ?』

『僕もしらない。けど、ここで僕はとある問題を発見した』

『問題?』

『問題なのは。攻撃力を上げまくるとき、『コンセントレイト』の存在だよ』

『守備力分、攻撃力を上げるカードだったか?』

『それ』

『いったい何の問題がある』

『ラベノスの効果がワイバーン以外の五体にあったから、守備力がライフ差の五倍上がっていた。でも、ワイバーンは攻撃力しか上げることができない』

『そうなのか?』

『そうだよ。もしもワイバーンを出すのではなく、ラベノス三体と、コピーモンスター三体なら、攻撃力も守備力もライフ差の六倍になっていたんだ』

『なんだと!?』

 

 ドーハスーラは驚いた。

 そもそも彼は、あの盤面よりも強い盤面を予想できなかったからである。

 

『あのデッキを渡したのは僕だよ。コンセントレイトを本当に使うというのであれば、さっき言った盤面にするべきだったね』

『ふーむ……』

『ラベノスの驚異的なところは、全体にその効果を付与するところじゃなくて、『ステータス』を強化するところだ。だからこそ、『守備力』というアドバンテージを丸ごと攻撃力に変換する『コンセントレイト』に大きな意味があったわけだけど、それなら、ワイバーンに出番はない。まあ、最後の晴れ舞台とか言っちゃったから怒られたけどね』

『当然だ』

『ただ、ワイバーンはこれから、自分にしかないところを見つけていくしかないね。ラベノスとは大きく異なる部分が多いから差別化できるけど、あのコンセプトで攻撃力を求めた場合、ワイバーンは絶対に勝てないからね』

 

 そういいながらも、ブルームはタイピングしていた。

 

『ふーむ……思うのだが、単に攻撃力を求めるのならば、無限ループでいいのではないか?』

 

 ドーハスーラが言っているのは、モンスターの攻撃力を調節したうえで、『レインボー・ライフ』と『ギガンテック・ファイター』を合わせてライフを回復し、そしてそれを『ラーの翼神竜』で攻撃力に変換する。といったコンボのことだろう。

 

『ドーハスーラ。何当たり前のこと言ってるの?』

『む?』

『無限ループを使って攻撃力をただあげる。確かにそれでも攻撃力は上がるよ?でも、それだと満足できない人っていうのはいるのさ。だから、そういうことは言っちゃだめだよ』

『そういうものか』

『そういうものだよ。まあ、求めてしまったがゆえに抜け出せなくなる熱みたいなものだから、そのうち覚めるんだけどね』

『まあ、確かに珍しいことではないか』

 

 ドーハスーラはそういって納得した。

 そして……。

 

『『!』』

 

 二人とも、悪霊の存在を感知した。

 

『さて、行くか』

『そーだね。結構大きい悪霊みたいだし』

 

 ブルームとドーハスーラはその悪霊のもとに向かった。

 そこにいたのは……。

 

『フフフ。フハハハハ!ハカイ。ハカイシテヤル!』

 

 盛大に暴れまわっている『混沌幻魔アーミタイル』だった。

 出現したばかりなのか、周りの者はほとんど壊れていない。

 だが、あまりにもあふれ出る悪霊瘴気が、周辺にあるものを侵食し始めている。

 

『なんじゃありゃ!』

『アーミタイル!?』

 

 これには高位の精霊であるブルームとドーハスーラも驚いた。

 

『で、ブルーム、どうする?』

『どうするって、まずは戦うしかないでしょ。だってデュエルをいきなり受けてくれるようには見えないよ僕』

『そうだな。我も見えん。というわけでブルーム。防御は任せるぞ!』

 

 ドーハスーラは右手の杖に波動を集約させていく。

 

 だが、アーミタイルはその力に早々に気が付いた。

 

『コザカシイ!』

 

 アーミタイルは口からエネルギー弾を放出してくる。

 

『ドーハスーラ。君がやろうとしている攻撃を比べて、即座に向こうがやってきた攻撃のほうが強くない?』

『うるさいわ!』

『まあ防ぐとしますか』

 

 ブルームは根っこを触手のように伸ばして、そのエネルギー弾を受け流した。

 空に向けて流したので何も壊れていないが、なにかに被害が出るのも時間の問題だろう。

 

『うへぇ、こりゃ相当エネルギーを使うなぁ』

『エネルギーがたまったぞ!』

『さっさとやれや!』

 

 ドーハスーラが波動を固めた弾丸を杖から放出する。

 それに対して……。

 

『キカンワ!……グホアアアアアア!』

 

 効きました。

 

『あ、効いとるやん。なんか『あたっても意味がない』みたいな展開を予想してたのに』

『我の攻撃でまったく効果がないとか、向こうの格が高すぎるわ!だが、あまり効いたようには見えないな』

『そうなんだよねぇ』

 

 アーミタイルはすぐに起き上ってくる。

 三幻魔の合体。

 デュエルモンスターズにおける格の高いモンスターであることに間違いはない。

 そのため、頑丈さもけた違いだ。

 

『ムシケラドモガアアアア!』

『蛇と花だけどね。おーい。お前の母ちゃんデーベソ!』

『フザケルナ!オレノカアチャンハデベソジャネエ!』

『あの巨体で『カアチャン』って言ってるとなかなかシュールだ』

『同意しよう。おーい!お前の母ちゃん有機物!』

『フザケルナ!オレノカアチャンハユウキブツジャネエ!』

『『じゃあ一体何で出来てるんだ……』』

 

 動物や植物である以上、有機物である。

 精霊力というものが有機物として考えられるという研究結果が出ている以上、当然、動物であるドーハスーラも、植物であるブルームも有機物である。

 まあ、このアーミタイルの親が有機物であろうと無機物であろうと問題は……ありそうだが、いま議論しても答えは出ないのでスルーしよう。

 

『で、ドーハスーラ。どうする?』

『この辺りは人が少ない……どちらかが全力を出すか?』

『なるほど。まあ、こいつみたいなのが相手なら、短期決戦のほうがよさそうだ。で、その場合、どっちが本気を出したほうがいいと思う?』

『……我だな』

 

 ドーハスーラは『ブルームの本気』を思い出して、自分のほうがいいと思った。

 戦闘力はドーハスーラのほうが上だが、実際に全力を出した場合、出力をちょっとでもミスするとブルームの場合はマズイ。

 

『なら任せるよ』

 

 ブルームはドーハスーラから飛び降りた。

 

『……仕方がないか』

 

 ドーハスーラは『DNA改造手術』のカードを取り出した。

 

『あのデュエルには一度貸し出していて、すぐに戻ってきたが……まあその話は置いておくか』

 

 ドーハスーラは『DNA改造手術』のカードを掲げる。

 そして、カードから力がドーハスーラに流れていく。

 アーミタイルがそれに気が付いた。

 

『ナニヲシテイル!』

 

 エネルギー弾がドーハスーラに向かって放出された。

 

『……ふああ。まあ、がんばれ』

 

 ブルームはドーハスーラを守るどころか、のんきに欠伸(あくび)していた。

 エネルギー弾がドーハスーラのそばで爆発し……突如出現した黒い球に、ドーハスーラごとすべて取り込まれた。

 そして、空間を割って、一つの存在がその姿を現す。

 

「演出ご苦労。さて、第二ラウンドと行こうか」

 

 蛇のような体は、完全に人の形をとっていた。

 黒いシャツとズボン、ブーツの上に、紫色のコートと、骨のアクセサリーを付けた隻眼のイケメンだ。

 手にはドーハスーラが持っていた杖を持ち、真っ白の髪をなびかせるその姿は、表現するならば、『王』を超えた何かにふさわしい。

 

『どう?久しぶりの本気は』

「……悪くない」

 

 ドーハスーラはあいている右目でアーミタイルを見る。

 

「……この姿になると、あいつくらいなら片手間に潰せそうで怖いな」

『そりゃそうだよ』

 

 ブルームは機械を使って、ドーハスーラの力を計測した。

 

 

 屍界(しかい)魔眼神(まがんしん)バロール・ドーハスーラ

 星10 闇属性 魔法使い族 ATK4000 DFE3000

 特殊召喚・効果モンスター

 このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。

 このカードの特殊召喚に成功したデュエル中、自分は「死霊王 ドーハスーラ」を召喚、特殊召喚、セットすることはできない。

 このカード名の③⑤の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドの、種族が魔法使い族で元々のカード名が「死霊王 ドーハスーラ」のモンスター三体を対象にして発動できる。対象にした三体のモンスターを除外し、手札のこのカードを特殊召喚する。

 ②:このカードが表側表示で存在する限り、手札・デッキに戻らず、除外されず、お互いの手札に存在するモンスターは全てアンデット族になる。この効果は無効にならない。

 ③:「屍界の魔眼神バロール・ドーハスーラ」以外のアンデット族モンスターの効果が発動した時に発動できる。その効果を無効にして、このカードにドーハスーラカウンターを1つ置く。

 ④:このカードにドーハスーラカウンターが4つ以上存在する場合に発動できる。このカードのドーハスーラカウンターを4つ取り除くことで、相手フィールド・墓地の全てのカードを除外する。この効果に対して、相手はモンスター・魔法・罠の効果を発動出来ない。

 ⑤:「アンデットワールド」が存在する場合、自分・相手のスタンバイフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

『……相変わらずの効果だね』

 

 ブルームは機械を仕舞った。

 ドーハスーラは杖を構える。

 アーミタイルはうなっているが、悲観している様子はない。

 まだ何とかなると考えているのか、それとも……。

 

『グヌヌ。ナニガドウナッテイルノカヨクワカランガ、圧倒的なパワーで叩き潰せばいい!』

「ふむ、それ相応に安定してきたようだな」

 

 ドーハスーラはアーミタイルの様子に納得した。

 

『死ね!』

 

 アーミタイルは再度エネルギー弾を放つ。

 だが、ドーハスーラは杖を構えて波動の障壁を生み出した。

 エネルギー弾が障壁に当たると、そのまま消滅する。

 ……なお、ステータスの話をするとアーミタイルはほぼ最強だが、

 

『何!?』

「圧倒的なパワーか。それが通じるのは、お互いに同じレベルで戦っている時だけだ」

『なに?貴様のほうが格上だというのか!』

「その通りだ」

 

 ドーハスーラが再度杖を振ると、『死霊王 ドーハスーラ』を小さくしたような蛇が四体出現する。

 

『なんだそれは』

「なんだと思う?」

 

 ドーハスーラは不敵に笑う。

 ブルームはそれを見ながら思った。

 

(あれってカウンターだよな。トークンじゃなくてカウンターがあんな形で出てくるのは、さすがにドーハスーラくらいだね)

 

 四匹の蛇がドーハスーラに力を与え始める。

 

「……ブルーム。今、我の視界にいるぞ」

『おっと、それは僕も危ないね』

 

 ブルームはドーハスーラの後ろに隠れた。

 

『なんだ?』

「こういうことだ。それと……何かをたくらんでいるやつを、ただ待つのはよくない」

 

 蛇たちが力を与えるのを終える。

 そして……ドーハスーラの左目が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!!!?!??』

 

 アーミタイルは一瞬、理解することができなかった。

 ただわかったのは、このままではマズイということと、『デュエルを開始すればこの状態が一時的に中断されて、そのデュエルに勝てばこの状態が解除される』という、デュエルモンスターズの精霊・悪霊に適用される絶対の法則のみ。

 

 アーミタイルは自分のそばに、カードを五枚出現させた。

 

「ほう。その判断を即時に行ったか。やはり、高位の悪霊を束ねた奴は違うな」

『い、今のはいったい……』

「安心しろ。我に勝つことができれば、それが解けることに変わりはない」

 

 ドーハスーラは指を鳴らすと、蛇を一匹出現させた。

 その蛇はドーハスーラの左腕に巻きつくと、そのままデュエルディスクになった。

 

『デュエルなら、デュエルなら俺は負けん!』

「そうして吠えていろ。死後の世界そのものを教えてやる」

「『デュエル!」』

 

 ドーハスーラ LP8000

 アーミタイル LP8000

 

『俺の先攻!俺は手札から、『おろかな埋葬』を発動。デッキから『ヘルウェイ・パトロール』を墓地に送る。そして、このヘルウェイ・パトロールを墓地から除外することで、手札から『暗黒の召喚神』を特殊召喚!』

 

 暗黒の召喚神 ATK0 ☆5

 

『さらに、暗黒の召喚神をリリース!デッキから現れろ。『降雷皇ハモン』!』

 

 降雷皇ハモン ATK4000 ☆10

 

『さらに手札から、フィールド魔法『失楽園』を発動!この効果で、カードを二枚ドローする。カードを二枚セット、ターンエンドだ』

「なるほど、我のターンだ。ドロー」

 

 ドーハスーラはカードを引いて、そのあと微笑んだ。

 

「さて、失楽園があると、効果の対象にすることと、効果による破壊が不可能だったな。まあ、あまり関係はないか」

『何?』

「我は手札から、『手札抹殺』を発動だ。まずは手札交換しようじゃないか」

『ぬぅ……』

 

 ドーハスーラは五枚交換。

 アーミタイルは二枚交換。

 

「我は墓地から、『屍界のバンシー』の効果を発動。デッキから『アンデットワールド』を発動する」

 

 広がり始める屍界。

 アーミタイルが使った失楽園と混じってなんだかとても絶望感が漂う雰囲気になっているが、ドーハスーラは気にしない。

 

「さらに、墓地から『馬頭鬼』を除外して効果発動。墓地から我が分身、『死霊王 ドーハスーラ』を特殊召喚!」

 

 死霊王 ドーハスーラ ATK2800 ☆8

 

『出たか』

「当然だ。さらに我は手札から、『封印の黄金櫃』を使い、『不知火の武部』を除外する。そして、除外された物部の効果を発動。それにチェーンして、フィールドの我が分身の効果を発動する!」

『ぐ……』

「消えてもらうぞ。『降雷皇ハモン』!」

 

 ドーハスーラが波動をぶつけると、ハモンは消えていった。

 

「そして、物部の効果によって手札交換だ。一枚ドローして一枚捨てる。そして、今捨てた『グローアップ・ブルーム』を除外して効果発動!」

『お、僕だ』

「『アンデットワールド』が存在することにより、デッキから二体目の我が分身を特殊召喚!」

 

 死霊王 ドーハスーラ ATK2800 ☆8

 

「バトルフェイズ。二体のドーハスーラで、ダイレクトアタック!」

『ぐおおお!』

 

 アーミタイル LP8000→5200→2400

 

「メインフェイズ2だ。我は『アドバンスドロー』を使い、ドーハスーラをリリースして二枚ドロー」

『お前もするんかい!』

「あれだけコストにされてたら諦めの境地くらい達するわ!我はカードを二枚セットして、ターンエンド!」

『ごちゃごちゃと……俺のターン。ドロー!』

「スタンバイフェイズ。墓地から戻ってこい。我が分身!」

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

『ぬう……俺は手札から『おろかな副葬』を発動。デッキから『方界降世』を墓地に送る。そして効果を発動。デッキから『方界胤ヴィジャム』を三体、特殊召喚!』

 

 方界胤ヴィジャム ATK0 ☆1

 方界胤ヴィジャム ATK0 ☆1

 方界胤ヴィジャム ATK0 ☆1

 

『そして、『融合準備』を使い、『混沌幻魔アーミタイル』をみせることで、デッキから『幻魔王ラビエル』を手札に加える。悪魔族モンスターであるヴィジャムを三体リリースすることで、降臨せよ!『幻魔王ラビエル』!』

 

 幻魔王ラビエル ATK4000 ☆10

 

「二体目の幻魔か」

『そして、失楽園の効果で二枚ドロー。バトルだ!幻魔王ラビエルで、攻撃表示のドーハスーラを攻撃!』

「受けよう」

 

 ドーハスーラ LP8000→6800

 

『カードを一枚セット、ターンエンドだ』

「我のターンだ。スタンバイフェイズ。墓地から戻って来い」

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

 この蘇生効果。やっぱりエグイ。

 

「そして、もう一方のドーハスーラを攻撃表示に変更」

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000→ATK2800

 

「さて、また除外してもらおうか。我は『不知火の隠者』を通称召喚!」

『ラビエルの効果により、俺のフィールドにトークンを特殊召喚!』

 

 不知火の隠者 ATK 500 ☆4

 幻魔トークン DFE1000 ☆1

 

「構わん。我は隠者をリリースして効果を発動。それにチェーンして、ドーハスーラの効果を発動。ラビエルを除外し、『ユニゾンビ』をデッキから特殊召喚。ドーハスーラを対象にし、デッキから『妖刀-不知火』を墓地に送る!」

 

 ユニゾンビ     ATK1300 ☆3

 死霊王 ドーハスーラ ☆8→9

 

「レベル8のドーハスーラに、レベル3のユニゾンビをチューニング。現世をさまよう怨霊よ、弔われず嘆く骸に宿りて、屍界の底より顕現せよ!シンクロ召喚!レベル11『骸の魔妖-餓者髑髏』!」 

 

 骸の魔妖-餓者髑髏 ATK3300 ☆11

 

『な……』

「バトルフェイズ!まずは、ドーハスーラで幻魔トークンを攻撃!」

『ぐっ!』

「続けて、餓者髑髏でダイレクトアタック!」

『させるか!『ガード・ブロック』を使い、ダメージを無効にして一枚ドロー!』

「ふむ……カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

『俺のターン。ドロー!……よし』

「何を引いたのかは知らんが、スタンバイフェイズ。我が分身は戻って来る」

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

『構うものか!俺は手札から、『ブラック・ホール』を発動!全て消え去るがいい!』

「雑……」

 

 ドーハスーラの全てのモンスターが破壊される。

 アーミタイルの手札は四枚。

 

『さらに、手札から『大欲な壺』を発動し、除外されている『ヘルウェイ・パトロール』『幻魔王ラビエル』『降雷皇ハモン』をデッキに戻して一枚ドロー。そして、魔法カード『HEROアライブ』を発動!『E・HERO プリズマー』!」

 

 アーミタイル LP2400→1200

 E・HERO プリズマー ATK1700 ☆4

 

『プリズマーの効果に寄り、エクストラデッキの『混沌幻魔アーミタイル』を見せることで、『神炎皇ウリア』の名を得る!『失楽園』で二枚ドローし、『HERO’S ボンド』を発動。さらにプリズマーを特殊召喚!』

 

 E・HERO プリズマー ATK1700 ☆4

 E・HERO プリズマー ATK1700 ☆4

 

『それぞれの効果を使い、ラビエルとハモンの名を得る。俺は三体を除外し、『混沌幻魔アーミタイル』……俺自身を降臨させる!』

 

 混沌幻魔アーミタイル ATK0→10000 ☆12

 

『フハハハハハ!俺の力により、俺のターンの間。攻撃力が10000ポイントアップする!どうだ。この圧倒的な攻撃力!』

「……ブルーム。大きな数値に見えないのは私の気のせいだろうか」

『知らんよ……僕らが毒されただけじゃない?』

「それもそうか」

『何をごちゃごちゃと言っている。これで終わりだ!俺自身で、貴様にダイレクトアタック!』

 

 アーミタイルがエネルギーを集約させていく。

 そしてそれを、まっすぐドーハスーラに向けてはなった。

 

「……残念だ」

 

 ドーハスーラは指をパチンと鳴らした。

 すると、ドーハスーラのすぐそばで、空間が裂けた。

 

「せめて、魔法や罠を破壊できるカードを握っていれば、可能性を増やすことはできていたのに」

『ディ……『ディメンション・ウォール』だと……』

「対象をとる『魔法の筒』は『失楽園』があるお前には通じないが、こちらは対象には取らない。貴様程度の攻撃が、我に届くはずもなかろう。先ほどは、あえて華を持たせただけだ」

 

 エネルギー弾が裂けた空間に入っていき、アーミタイルの近くで炸裂する。

 

『グアアアアアアア!』

 

 アーミタイル LP1200→0

 

 アーミタイルが消滅していく。

 

「ま、こんなものか」

『だいぶ余裕あったね。次のターンには除外してた物部が戻ってくる上に、『妖刀-不知火』まで準備してたし』

「そうだな」

 

 ドーハスーラは指を鳴らして、もともとの蛇の状態に戻った。

 

『ふう、こうして戻ってみると疲れるな』

『あの状態じゃないとかなわない相手ってなかなかいないもんなぁ。しかも、ドーハスーラってあの状態じゃないとデュエルできないし』

 

 基本的にデュエルモンスターズの精霊は、デュエルで使われる存在であって、デュエルをする存在ではない。

 悪霊たちはバンバンデュエルしているが、あれは生き残るための最終手段として振り絞っているからである。

 ブルームのように自分でデュエルできる精霊は少ないのだ。

 

 ちなみに、野良の精霊でデュエルできるものはほとんどいない。

 ブルームだってそれは同じだ。

 これに関しては、マスターである遊月がすごいというだけの話である。

 

『そうだな。まあ、それに関しては我がこれから鍛えていくしかないか』

『だって普通は切らないほうがいい切り札だもんね』

 

 やらないほうがいい。

 ただし、出し渋っていても仕方がないときはある。

 

 このようになっているのは、切らないほうがいい切り札を持っているものはそれ相応にいて、自分の判断でやっていいと認められているのがドーハスーラたちを含めて数体しかいない。ということである。

 

『……ふう、あの姿になるのはかなりのエネルギーを消費するからな。我はもう戻って休むとしよう』

『さよなら~。僕はまだノルマが残ってるから。お先に帰りな』

 

 基本的に、精霊であるブルームたちの悪霊退治を含めた業務は『ポイント制』である。

 決まった業務があるのではなく、それぞれの項目にポイントが割り振られており、それを一定以上にすることでノルマをこなす。

 もちろん、遊月が直接使っている精霊たちのみである。

 序列ごとにノルマのポイント量が決まっており、序列二位のドーハスーラと序列三位のブルームでは大きく異なる。

 

 直接大物を倒したか、それとも協力しただけかでポイントが大きく異なるが、今回のアーミタイルのような大きな精霊を直接倒せばそのポイントは大きい。

 ちなみに、このポイントの計測方法だが、遊月が『フィールド魔法の化身カード』の使い手なので、それを研究して作られた結界によって計測されているため、遊月が決めたルールでこなさないとポイントは増えない。

 

 なお、ノルマは月単位で決まっているため、月末は阿鼻叫喚である。

 これに関しては、夏休みの終わりに地獄を見る学生と変わらない。

 ちなみに、序列一位はレッドアイズであり、『ノルマ免除』である。

 

『ふう、どこかいい温泉はあったかな……』

 

 なんともジジ臭いことを言いながら、ドーハスーラはふらふらと帰って行った。

 それを見ながら、ブルームは思った。

 

『ジジ臭いなぁ。僕より年下なのに』

 

 そんなことを言いながらも、片手間に写真や動画の編集を行いながら歩くブルームであった。

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