遊戯王Incarnation   作:レルクス

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お待たせしました。
作者はテンションは高くありませんが健康という意味では元気です。ご安心を。


第三十五話

 遊月は疲れていた。

 原因はもちろん、仕掛けられている数々の罠……ではなく、時雨である。

 

 もはや超速再生と言っても過言ではない回復能力により、体力が実質無限の時雨の速度は落ちない。

 そのため、しっかりついてくるのだが……。

 

「うふふ、結構えぐい罠が多くていいわね」

「……疲れるわぁ。こいつ」

『ドMなのは相変わらずか』

『我が主をこういう意味で困らせることができるものは少ないからな……』

 

 罠を受けるたびに破れるドレスを精霊力を使って修復しながら、次々と罠を正面から受ける時雨。

 そのたびに喘ぎ声を出すので、正直気が散るのだ。

 

「ウフフ。最近はスタンガンがないと夜も眠れないから――」

「ちょっと待て!それ以上言うとなんかいろいろまずいと私は思うんだが!?」

 

 なんだかいろいろと問題が発生しそうなことを言う時雨。

 さすがの遊月も驚きである。

 

『……正直、ここまでくると末期症状だな』

『我もここまでくるとコメントに困る』

 

 さて、阿呆なことを言っているうちに、扉が見えた。

 

「さてと、これはぶち破るか」

『思うのだが、我が主が作った通りにセキュリティを組んでいるはずなのに、扉を簡単にぶち破れるのだな』

「私が設計した扉をぶち破るのにはちょっとしたコツが必要になるというだけのことだ」

『嫌な設計だな……』

 

 というわけで。

 

「おら!」

 

 溜まった鬱憤をすべてぶちまけるかのように扉に蹴りを入れる。

 コツがある。といった通り、遊月が蹴りを入れると扉は簡単にぶち抜くことができた。

 

 扉の奥では、征二と意岐部が待っていた。

 

「なるほど、さすが、自分で組んだセキュリティというわけか」

「まあ、そういうことだ。観念してもらうぞ」

「そういうわけにもいかないな」

 

 白衣を翻して、征二がデュエルディスクを構える。

 だが、意岐部のほうはデュエルディスクを構える様子はなかった。

 

「意岐部、お前は退路の確保だ。デュエルは僕がやる」

「承知した」

 

 意岐部が側面のドアに向かって走って行った。

 

「フフフ。ちょっと暴れたりないから行ってくるわね」

「好きにしろ」

 

 時雨が意岐部を追いかけて行った。

 それを確認した意岐部は、『超重武者』を出し始めている。

 モンスターを盾にして、その間に退路を確保しようということだろうか。

 

「……君は追いかけないのか?」

 

 征二が遊月に聞いてきた。

 

「ん?ああ、そうだな。どうせ結果は見えている」

 

 遊月はデュエルディスクを構える。

 

「なら、まずは君を始末してからだ」

「やれるものならやってみろ。死後の世界の広さを教えてやる」

「「デュエル!」」

 

 遊月 LP8000

 征二 LP8000

 

「僕の先攻だ。僕は手札から、『イービル・ソーン』を召喚」

 

 イービル・ソーン ATK100 ☆1

 

「イービルソーンをリリースして効果発動。300ポイントのダメージを与えて、デッキから同名モンスターを二体まで特殊召喚する」

「!」

 

 遊月 LP8000→7700

 

 イービル・ソーン ATK100 ☆1

 イービル・ソーン ATK100 ☆1

 

(……ジャスミンにつなげる植物族デッキか?)

 

 一瞬、そう考えた遊月。

 

「何を考えている当てたうえで言おうか。そもそも僕のエクストラデッキに、リンクモンスターは入っていない」

「……そうか」

 

 となれば……。

 

「僕はレベル1のイービル・ソーン二体で、オーバーレイ。世界を綴った淡き図書館。本は今そのページをめくり、伝説を紡げ。エクシーズ召喚」

 

 出現したのは、巨大な図書館。

 

「これが、ナンバーズの世界。ランク1『No78 ナンバーズ・アーカイブ』」

 

 No78 ナンバーズ・アーカイブ ATK0 ★1

 

「なるほど、【ナンバーズ】ってわけか」

「そうだ。そして、僕はナンバーズ・アーカイブの効果発動。エクシーズ素材を一つ使い、相手は僕のエクストラデッキを一枚ランダムに選ぶ。それが1から99のナンバーズならば、アーカイブを素材にしてエクシーズ召喚できる」

「面白い効果だ。なら、今エクストラデッキの一番上のカードだ」

「わかった」

 

 征二はカードを確認。

 

「当たりだ。僕はナンバーズ・アーカイブでオーバーレイ。エクシーズ召喚。ランク6『No.24 竜血鬼ドラギュラス』」

 

 No.24 竜血鬼ドラギュラス ATK2400 ★6

 

「そして、ドラギュラスの効果発動。エクシーズ素材を一つ取り除くことで、ドラギュラスをセット状態に変更する」

 

 出てきたばかりだが、すぐに裏になった。

 

「本来、ナンバーズ・アーカイブで出したモンスターはエンドフェイズに除外されるけど、これなら問題はない。僕はカードを二枚セットして、ターンエンド」

「私のターンだ。ドロー」

 

 ドローした後で、遊月は思った。

 ……ドラギュラスの守備力、どれくらいだったっけ?と。

 

「……まあいいか。私は魔法カード『手札抹殺』を発動。お互いに手札交換だ」

「僕は二枚捨てて二枚ドロー」

「私は五枚捨てて五枚ドローだ。そして私は、墓地に落ちた『グローアップ・ブルーム』の効果を発動。さらにチェーンして、『屍界のバンシー』を除外して効果発動。デッキから『アンデットワールド』を発動する」

 

 広がり始める屍界。

 世界最強の化身カードゆえに、その影響力は大きいが、征二は特に気にしている様子はない。

 

「そして、ブルームの効果だ。終わりも始まりもない蛇の王(ウロボロス)よ。怨霊渦巻く大地に降り立ち、死の魔眼を開け!『死霊王 ドーハスーラ』!」

 

 死霊王 ドーハスーラ ATK2800 ☆8

 

『フハハハハハ!我、降臨!』

「相当な精霊格のドーハスーラだな……」

「私のドーハスーラは強いぞ。手札から『不知火の隠者』を通常召喚」

 

 不知火の隠者 ATK500 ☆1

 

「隠者をリリースして効果発動。それにチェーンして、ドーハスーラの効果を発動だ」

『フハハハハ!消え去るがいい!』

 

 ドラギュラスが波動を受けて消滅する。

 

「そして、隠者の効果で『ユニゾンビ』を特殊召喚、デッキから『馬頭鬼』を墓地に落として、自身のレベルを上げる。さらに、馬頭鬼を除外することで、隠者を特殊召喚」

 

 ユニゾンビ  ATK1300 ☆3→4

 不知火の隠者 ATK 500 ☆4

 

「そして現れろ。屍界を満たす未来回路。召喚条件はアンデット二体。ユニゾンビと隠者をリンクマーカーにセット。夜を統べる血族よ、月の光が惑わす屍界に降り立て。リンク召喚!リンク2『ヴァンパイア・サッカー』!」

 

 ヴァンパイア・サッカー ATK1600 LINK2

 

「そしてバトルフェイズ。まずはヴァンパイア・サッカーで、ダイレクトアタック!」

「無駄だ。僕は『エクシーズ・リボーン』と『ナンバーズ・ウォール』を発動する。これで、ナンバーズ・アーカイブを守備表示で特殊召喚。さらに、ナンバーズ・ウォールの効果で、ナンバーズはナンバーズ同士でしか戦闘破壊されなくなる」

 

 No78 ナンバーズ・アーカイブ DFE0 ★1

 

「……ナンバーズデッキっていうんだから、まあそれくらいは入ってるか」

「そうだ」

「だが、ナンバーズ・アーカイブは、アンデットワールドの効果でアンデット族になっている。ヴァンパイア・サッカーの効果で、墓地からアンデット族が特殊召喚されたことで一枚ドロー。カードを二枚セットして、ターンエンドだ」

「僕のターン。ドロー」

 

 さて、どう来るか。

 

「僕はまず、手札から『禁じられた聖杯』を使って、ドーハスーラの効果を無効にする」

『む……え、これ、我が飲むの?』

 

 ポンッ!とドーハスーラの手に聖杯が出現。

 

「……そうした方がいいと思うのなら飲めばいいだろ」

『……杖にでもかけておこう』

 

 地味だが効果は適用されるので問題はない。

 

 死霊王 ドーハスーラ ATK2800→3200

 

「なんなんだこいつら……僕はナンバーズ・アーカイブの効果発動。さあ、選んでもらおうか」

「またさっきと同じだ」

「そうか……当たりだ。僕はナンバーズ・アーカイブでオーバーレイ。エクシーズ召喚。ランク9『CNo.15 ギミック・パペット-シリアルキラー』」

 

 CNo.15 ギミック・パペット-シリアルキラー ATK2500 ☆9

 

「んなっ。カオスナンバーズまで入ってるのか!」

「エクシーズ素材を一つ使い、シリアルキラーの効果発動。僕はドーハスーラを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える」

『む……むおおおおおお!聖杯さえなければあああああ!』

 

 遊月 LP7700→4500

 

「バトルフェイズだ。シリアルキラーで、ヴァンパイア・サッカーを攻撃」

 

 遊月 LP4500→3600

 

「伏せカードを発動しないか……僕はカードを一枚セット、ターン終了とともに、セブン・シンズは除外される」

 

 セブン・シンズが消え去った。

 

「私のターンだ。ドロー。スタンバイフェイズ。ドーハスーラ、戻って来い」

『フハハハハハ!フィールド魔法を破壊しなければ、我は何度でもよみがえるぞ!』

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

「そしてメインフェイズだ。『アドバンスドロー』を発動だ」

『……』

「なんだその目は」

『我は骨だから目はないぞ』

「いや、そういうネタはいいから……」

『せめてもうちょっと活躍させてくれ』

「登場回数はレッドアイズより多いんだから我慢しろ」

『それは作者が墓地のカードの枚数を数えるの面倒だから――』

「「ストップ」」

 

 征二からも止められた。

 

『冗談だ。まあ、ここは我慢しよう』

 

 ドーハスーラが消えた。

 

「ふむ……ならば、二枚目の『エクシーズ・リボーン』を発動。墓地から『No78 ナンバーズ・アーカイブ』を特殊召喚だ。そして、そのまま効果を発動する」

「……エクストラデッキの一番下だ」

「そうか。当たりだ。僕はナンバーズ・アーカイブでオーバーレイ。エクシーズ召喚、『No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ』」

 

 No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ DFE4000 ★10

 

「スペリオル・ドーラまで入ってるのか!」

「ああ、僕も驚いた」

「……どういうことだ?」

「僕はエクストラデッキを構築する際、ナンバーズ・アーカイブ以外をすべてのナンバーズを中から、ランダムに十二枚を無作為に抜き取ってデッキを構築している。残りのカードが白衣の裏にいつもあるくらいだからな」

「……そんな風にデッキを組むデュエリストがいるとは……」

 

 アムネシアは精霊カードや化身カードが存在する。

 存在枚数は精霊カードの方が圧倒的だが、何か『特別なカード』を軸にしてデッキを組むものが多い。

 そしておそらく、征二の場合、それはナンバーズ・アーカイブなのだろう。

 だから、そんな意味不明のデッキになっているのだ。

 

「まあ、そういうやり方でいいっていうのなら文句はない。私は手札から、『冥界騎士トリスタン』を通常召喚し、墓地から『冥界の麗人イゾルデ』を手札に加え、特殊召喚する。そして効果を発動し、二体のレベルを8に変更」

 

 冥界騎士トリスタン ATK1800 ☆4→8

 冥界の麗人イゾルデ ATK1000 ☆4→8

 

「まさか……」

「そちらがナンバーズ合戦をしたいというのなら付き合ってやろう。私はレベル8のトリスタンとイゾルデの二体でオーバーレイ、エクシーズ召喚。ランク8『No.22 不乱健』!」

 

 No.22 不乱健 ATK4500 ★8

 

「攻撃力、4500……」

「バトルフェイズ。不乱健で、スペリオル・ドーラを攻撃!」

 

 振り下ろされた拳で、スペリオル・ドーラが粉砕する。

 

「スペリオル・ドーラが一撃で粉砕とはな……」

「そして、スペリオル・ドーラが破壊されたことで、『ナンバーズ・ウォール』は破壊される。私はこれでターンエンドだ」

「僕のターン。ドロー」

「戻って来い。ドーハスーラ」

『我、復活!』

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

 さて、征二はそろそろ何かするだろう。

 ただし、遊月のフィールドのモンスターは、どちらも相手の効果を止める効果を持っている。

 

「まずは墓地から『ブレイクスルー・スキル』を除外して効果発動。ドーハスーラの効果を無効にする」

『何かの宿命を抱えてないか?我』

「知るか」

 

 というわけで、無効も除外もできなくなった。

 

「僕は『ZW-玄武絶対聖盾』を通常召喚」

 

 ZW-玄武絶対聖盾 ATK0 ☆4

 

「召喚成功時に効果発動。除外されているエクシーズモンスター一体を特殊召喚できる」

「……通そう」

 

 除外されているのはシリアルキラーとドラギュラス。

 いずれも、エクシーズ素材がないのであれば問題はない。

 

「なら、僕はシリアルキラーを特殊召喚だ」

 

 CNo.15 ギミック・パペット-シリアルキラー DFE1500 ☆9

 

「そしてこの瞬間、墓地の『エクシーズ・スライドルフィン』の効果発動。墓地のこのカードを、特殊召喚したエクシーズモンスターの素材にできる」

「手札抹殺の時に墓地に送ったのか」

「そういうことだ。僕はシリアルキラーの効果発動。対象は不乱健だ」

「それに対して、不乱健の効果だ。エクシーズ素材と手札一枚をコストにして無効にする。そして、不乱健は守備表示になる」

 

 No.22 不乱健 ATK4500→DFE1000

 

「なら次だ、『強欲で貪欲な壺』を使い、十枚除外して二枚ドロー。僕の墓地の『エクシーズ・リボーン』と、君の墓地の『アドバンスドロー』を除外、『カクリヨノチザクラ』を特殊召喚」

 

 カクリヨノチザクラ ATK0 ☆1

 

「そして、このモンスターをリリースし、君の墓地のヴァンパイア・サッカーを対象にして発動。リンクモンスター以外のモンスターを、僕の墓地から特殊召喚する。僕はナンバーズ・アーカイブを特殊召喚」

 

 No78 ナンバーズ・アーカイブ DFE0 ★1

 

「まだだ、僕は『希望の記憶』を発動。僕のフィールドのナンバーズの種類、二枚のカードをドローする」

「まだやってくるか」

「当然だ。続けて、『オーバーレイ・リジェネレート』を発動。このカードをナンバーズ・アーカイブのエクシーズ素材にする。そして、効果発動」

「デッキの一番上だ」

「そうか。僕は、ナンバーズ・アーカイブでオーバーレイ。エクシーズ召喚。『No.35 ラベノス・タランチュラ』」

 

 No.35 ラベノス・タランチュラ ATK4400 ★10

 

 現れたそのクモの姿に、一瞬、とある悪夢がよみがえったが、『あんなことができるやつが二人もいてたまるか』と思考の隅に追いやった。

 

「これにより、玄武絶対聖盾の攻撃力も4400となる」

 

 ZW-玄武絶対聖盾 ATK0→4400

 

「バトルフェイズだ。ラベノス・タランチュラと玄武絶対聖盾で、ドーハスーラと不乱健を攻撃」

 

 二体の大型モンスターが粉砕されたが、遊月の内心は平穏のままだ。

 ラベノス恐怖症なのかもしれない。神々しさはエンシェント・ホーリー・ワイバーン担当なので。

 

「僕はカードを一枚セット、ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー。戻って来い。ドーハスーラ」

『う、うむ』

 

 ドーハスーラも思い出したのか、若干元気がない。

 

 死霊王 ドーハスーラ DFE2000 ☆8

 

「ドーハスーラ」

『なんだ?我が主よ』

「どうすればいいと思う?この胸の奥底から湧き上がってくる変なものの処理」

『圧倒的な物量で叩き潰せばいいのだ』

「そうだな」

 

 というわけで。

 

「時雨のカードを使うか」

「何?」

「私は『呪眼の死徒 サリエル』を通常召喚」

 

 呪眼の死徒 サリエル ATK1600 ☆4

 

「な……サリエルだと!?」

「サリエルの効果。デッキから『ゴルゴネイオの呪眼』を手札に加える。そして、現れろ。屍界に満ちる未来回路。召喚条件は、呪眼一体を含むモンスター二体。私はサリエルとドーハスーラをリンクマーカーにセット。眼前の存在を石へと変わる呪われた眼は、何をもって開くのか、答えを教えよう。リンク召喚。リンク2『呪眼の女王 ゴルゴーネ』」

 

 呪眼の女王 ゴルゴーネ ATK1900 LINK2

 

「ゴルゴーネは、私の墓地の呪眼カード一種類につき、攻撃力が100アップする」

 

 呪眼の女王 ゴルゴーネ ATK1900→2000

 

「さらに、手札から『ゴルゴネイオの呪眼』を装備する。このカードを装備している場合、私の方がライフが低い場合、その数値分だけ、装備モンスターの攻撃力をアップする」

 

 呪眼の女王 ゴルゴーネ ATK2000→6400

 

「そ、そんな馬鹿な……」

「そして、ゴルゴーネの効果。このカードが『セレンの呪眼』を装備している場合、相手モンスター一体の効果を無効にできる。ゴルゴネイオの呪眼はセレンの呪眼としても扱うため、発動可能、ラベノス・タランチュラには沈んでもらおうか」

 

 No.35 ラベノス・タランチュラ ATK4400→0

 ZW-玄武絶対聖盾        ATK4400→0

 

「な……」

「バトルフェイズ。ゴルゴーネで、ラベノス・タランチュラを攻撃。攻撃宣言時、『アクションマジック-フルターン』を発動。モンスター同士の戦闘ダメージは、お互いに倍になる」

「な……うわあああああ!」

 

 征二 LP8000→0

 

 征二が壁まで吹っ飛んだ。

 

「くそ……意岐部!」

 

 征二が意岐部の方を向いた。

 そこでは……。

 

「アハハハハ!もっと全力を出してもらわないと、私も楽しめないわよ」

 

 時雨が大暴れしていた。

 その姿はかなり独特だ。

 着ていた黒のドレスは、オーディンの法衣とザラキエルの意匠が混じりながらも露出度が確保された改造服となっている。

 右目にはセレンの呪眼が存在し、左目はオーディンの取り出された左目のように金色に輝いている。

 両腕をザラキエルのように変貌させ、右手でオーディンが持っていたグングニルを握り、一振りで意岐部が出す超重武者たちを薙ぎ払っていた。

 

「ば……馬鹿な……頑丈さでは圧倒的なはず……」

「その程度の実力では、時雨は止められない。ついでに言うと、ああ見えて結構雑に動いてるぞ?」

「何?」

「そうじゃないと、相手がちゃんと自分を攻撃してくれないからな。時雨は攻撃はちゃんと当てるが、防御はしないぞ」

「防御をしない……だと?」

「そうだ」

 

 ドMだからな……。

 でも、ドSでもあるので、攻撃はめちゃくちゃしっかりやるのだ。

 ついでに言うと、オーディンの眼の影響で全部わかる。

 

「まあ、攻撃を受けたそばから、精霊力がフル稼働して回復するんだけどな」

 

 傷はついていない。

 だが、敵の攻撃に対して、回避も防御もしていないのは事実なのだ。

 時々、語尾が『♡』になってそうな声が聞こえてくる。

 

「……時々、喘ぎ声が聞こえてくるんだが……」

「それはドMだからだ」

「……おとなしく投降する」

「賢明な判断だ」

 

 というわけで。

 

「おーい。時雨ー。こっちは終わったぞー」

「あら。もう終わりなの?ちょっと暴れたりないから、あとで遊びたいんだけど」

「そういうことはブルームに言え。嬉々としてやってくれるぞ」

 

 ちなみにブルームがそれを聞けば、『ドM全開の時雨さんの相手って疲れるんだけど……』と嫌な顔をするだろう。

 煩悩まみれのブルームだが、それでも嫌なものはあるのだ。趣向の問題である。

 

「さてと、そろそろ敵さんの情報が欲しかったところだ……ただ、情報握ってなさそうだなぁ。時雨。どうだ?」

「そうねぇ」

 

 次の瞬間、いつもの黒いドレス姿になった時雨は、超至近距離で征二の顔を覗き込んだ。

 

「!?」

 

 いつ接近したのかわからないほどの体術だった。

 

「全然知らないわね。というより、記憶処理がされてるわ」

「だろうと思った。そもそも、実働部隊のメンバー構成と服装を揃えてくる時点で、必要以上の情報を与えたがらないのはわかっていた」

「じゃあ、二人はどうするの?」

「しばらくは軟禁だな」

 

 あくびをして、どこかに電話をかける遊月。

 正直、収穫はなさそうだが、だからと言って何もしないわけにはいかない。

 いろいろあきらめたような表情になっている征二と意岐部を見ながら、これからどうするか遊月は考えるのだった。

 

 

 

 

「それじゃあ、私はブルームのところに行ってくるわ」

「……好きにしろ」

 

 ブルームはリリースされたようだ。

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