Sacredwar 装者並行世界大戦   作:我楽娯兵

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J・S―救われぬ王の未来―
死への欲望


 バルベルデライブの一件以降S.O.N.G.職員は不眠不休で働いていた。

 皆の顔は焦りと恨めしさと、そして疲れで彩られていた。

 司令室にて行われていたブリーフィング。そこに集まっていた全装者たちの表情は暗く落ち込んでいた。

 

「皆、よく集まってくれた。負傷はすれど死傷しなかったことは喜ばしいことだ」

 

 弦十朗は皆の顔を見回すが、覇気を抜かれた表情は消える事はなかった。

 敗北に近い防衛戦。装者同士の戦闘で半数以上負傷をしていた。

 翼、マリアは体に幾つかの打撲。切歌、調は敵の雷撃により鼓膜破裂と手足の痺れが残っており補聴器と松葉杖のリハビリ生活。

 もっとも酷かったのはクリスで、全身に火傷を負っていた。

 医療班の技術とエルフナインの錬金術で痕は残らなかったが精神負傷としてカウンセリングを受けている。

 唯一無傷に近かったのは響と未来だけであり、それ以外は敗北に近い生還を果たしていた。

 皆一様に暗い表を浮かべ続けていた。弦十朗は一喝する。

 

「何を落ち込んでいる、まだ初戦だ。それに今回は奇襲だった、生き残っただけでも立派な勤めを果たしているのだぞ!!」

 

 その言葉に皆の表情に僅かに精気が戻り、そして各々その胸に宿った覚悟を体に行き渉らした。

 

「皆さん、初めての事態に的確な行動を取っていたと思われます。敵対勢力の持ちえたシンフォギアにも周辺の人員被害を出さずに収拾できたのは皆さんの正確な判断だと、ぼくは思います」

 

 エルフナインは一歩でてそう言った。

 

「今回の件で確認された未確認のシンフォギアの対処に関しても致し方ない事象もありますし。今後の対処しだいで対策も練れます」

 

「エルフナイン、その事で気になっていたんだが。彼奴らはなぜシンフォギアを持っていたんだ」

 

 翼はエルフナインに聞いた。その事に関しては皆気になっていた。

 この世にはすでにシンフォギアを作る事の出来る技術も、製作者も存在していない。

 櫻井了子はすでに死んだ。フィーネの意思でさえ調の遺伝子の中で永久の眠りを決め込んでいる。

 となれば残された道筋は櫻井了子の遺産。

 適合者のいなかったギアに今の頃になって適合者が発見され、ギアを纏ったという事になる。

 しかしながらそうおいそれと適合者が見当たる事があるのだろうか。

 エルフナインは大胆な仮説を言った。

 

「恐らく彼女たちは、『無名の装者たち(ネームレス)』と名乗った彼女たちはこちらの世界の人間ではありません。――ギャラルホルンを通してきた並行世界の装者たちの可能性が高いとぼくは考えます」

 

「並行世界の装者たちですって? てことはこの艦からあれは溢れ出たの?」

 

 マリアは聞いた。

 

「いえ、聖遺物保管庫のギャラルホルンの監視映像からはネームレス員の出現は確認されてません。ただ今までにない微細なエネルギー波は確認されてます」

 

「エネルギー波?」

 

「ギャラルホルンは今までこちらから別の世界に一方的に世界間を抉じ開けて来ましたが、別の世界からこちら側にゲートが開くと言う事象はありませんでした。今回はその別の世界からこちら側にゲートが開通、『こちら側のギャラルホルン』それに反応したと思われます」

 

 並行世界に道を開くギャラルホルン。

 無数の枝分かれを見せる世界。ガングニール、天羽々斬、アガートラーム、神獣鏡、は並行世界上で存在していることは確認されている。

 ギャラルホルンだけが存在していないなんて誰が証明出来ようか。

 

「世界の運がなかったって事か」

 

 クリスは吐いて捨てるように言う。

 その表情からも見て取れるほど腹の虫の居所が悪い事が分かる。

 肌は綺麗に復元されているが、腕に未だ巻かれた包帯が痛々しかった。

 

「それで、奴らのシンフォギアは何をベースにしてるんだよ。火を吹き散らしたり、雷落としたり無茶苦茶しやがって」

 

「僅かに分かっている断片的情報から予測しました」

 

 エルフナインは司令室の画面いっぱいに六個の画像、そして動画を再生した。

 

「響さんの対敵したシンフォギア装者。この方が持っているギアのベースは恐らく、イギリスで残る伝説の剣《エクスカリバー》だと思われます。選定の剣とも湖の乙女の剣とも言われ、それらが同じモノとされることもありますが別のモノとされる事もあります」

 

 響はそれに熱心に聞き入っていた。

 

「エクスカリバーには魔法の鞘があったとされ、それを持っている限り破滅の運命より回避されたとも語られています。打開策は検討中ですが響さんのガングニールには《神殺し》、必勝の概念がありますので軍配はそれに掛かっていると思われます」

 

 響は何も言わずに、ギアのペンダントを見ていた。

 翼が聞いた。

 

「私が相手をした装者のギアは何なのだ。天羽々斬を毀れさせる剣など、この世に存在するのか」

 

「翼さんが相手になさった方は、聖詠を唄われたので判別はすぐに着きました。ベースは恐らく《天叢雲剣》だと思われます」

 

 エルフナインは画像と関連資料を画面に表示し説明する。

 

「こちらでも天叢雲剣は発見されてますが、破損が酷く、シンフォギアにも加工出来ない状況だったので深淵の竜宮にて保管されていたと記録には残っています。それがあちらの世界ではギアの加工に成功したと考えるべきでしょう」

 

「――うむ」

 

「これはもし翼さんが対処なさるのなら避けるべきだと思われます」

 

「なぜだッ! 一度向けられた刃、収める鞘は持ち合わせてなどいない!」

 

「天叢雲剣と天羽々斬の相性的問題です。日本神話にてスサノオが天羽々斬にてヤマタノオロチを退治ししたとき天叢雲剣が発見されたとされてます。ヤマタノオロチの尾を天羽々斬で切り裂いたとき天叢雲剣で天羽々斬の切っ先は刃毀れを起こしたと明確に記載されてます。この事から物理的、概念的に天羽々斬と天叢雲剣の相性は最悪と思われます。もし対処なさるのであるなら一人で対処なさらず誰かとペアを組む事を推奨します」

 

 エルフナインの忠告に翼は黙るしかなかった。

 クリスを見たエルフナインは別のギアの画像を表示する。

 

「クリスさんの対処なさったギアは、恐らく中国神話の后羿が使ったとされる弓。《落日弓》だと思われます」

 

 クリスはもたげた首を僅かに上げ、髪の隙間より覗く。

 

「神より遣わされた弓。太陽を九度撃ち落した弓矢。ただそれだけの伝承しか残っておらず、詳しい性能までは分かりませんが、クリスさんとの戦闘で太陽と言う概念との結びつきが強いと考えられます」

 

 クリスは小さな、耳を澄まさなければ聞き取れないような小さな溜息をついた。

 松葉を振り回しながら切歌はエルフナインに聞いた。

 

「私たちが相手したあのちっちゃいのは何のギアなんデス?」

 

「すいません。現在分かっている範囲ではこの三つだけなんです。切歌さん調さんマリアさん、そして本部に現れた《ブラックシルエット》のギアはあまりにも情報が少なく特定は現状難航しています」

 

 黄金の鎧の女性、雷を纏う童女、そして真っ黒なシルエット。

 並行世界のシンフォギア装者。今までに見た事のないギア。

 全員が感じた敵の感触、それは――単純に強い。それ以外言葉が出なかった。

 

「ネームレスはこちらの世界を頂くと言っているが、各国政府にそれらを伝えるような声明も武力行使も認められない。単なるこけおどしでない事は確かだが、未だ目的が見えない」

 

「恐らく実が熟すのを待ってるのよ。その実が何なのかが一番の問題点よ」

 

 弦十朗の言葉にマリアは言った。

 マリアたちFIS組もネフィルリムの成長や神獣鏡の適合者捜索などの要因で計画が頓挫していた。

 それに近い、敵方の計画に置いて最も必要な鍵が未だ彼女らの手にはないのだろう。

 

「レメゲトンを探すと言ってました……。エクスカリバーの装者、ジルさんと黒色の人が」

 

 響は言う。その事にエルフナインは首を捻った。

 

「レメゲトン――魔術書(グリモワール)ですか。しかしレメゲトンにも種類がありますし、一概にどれを示す言葉なのか」

 

「ジルさんはイギリスで探すように指示されてました! 私に行かせてくださいッ!」

 

 響は立ち上がり乞う。

 響の頭にこびり付いたジルの背中。

 戦いたくない――でも戦わないといけない。焦げ付きに更に火を浴びせ続ける生き方。

 誰かのために己を殺し、誰かのために己が死ぬ。

 人生に絶望し、戦う意味ももう見出せなくなり何のために戦っているのか分からないような。

 

S.O.N.G.(おれたち)としてもそうしたいが、一人で対応するには荷が重過ぎる。せめて他の皆が動ける状況にならなければ出動は容認できない」

 

「私に行かせてください」

 

 名乗りを上げたの未来。その目には響と同じように覚悟が見える。

 弦十朗は考えあぐねる。

 確かに未来は装者であり、ギアも並行世界に存在し借り受ける事は可能だが如何せん訓練が足りていない。

 平常時から訓練と戦闘を重ねている他のモノたちとは違い、彼女は民間協力者と言う立場で、ギアの神獣鏡を纏ったのも事故に近い形だ。ただ纏うことは出来るというだけではあまりにも酷と言うものだろう。

 しかし神獣鏡の《聖遺物殺し》の力を持ってすればエクスカリバーだけを破壊し装者の身柄を拘束できるかもしれない。

 現状で軽症なのは翼とマリアだが、翼は御上、厳密に言えば風鳴訃堂の圧力で国外に出る事を邪魔される。

 マリアは国連所属のエージェントと言う肩書き、S.O.N.G.への転属でその柵からは解放されているが国外活動となれば各国の偉い方々はいい顔をしないだろう。

 適任ではある。あるが……。

 

「分かった。許可する」

 

 許可を得た未来は響と歓喜しそうになるが、弦十朗がそれを制止した。

 

「しかし、未来くん響くんにはより厳しい訓練を受けてもらう!! 未来くんは現段階の装者たちの力量に、響くんは神獣鏡とのユニゾンを組めるように特訓だ!!」

 

 《はいッ!》

 

 

 

 

 

 二週間の特訓及びアクション映画耐久観賞会を終えた響と未来は現在ヨーロッパの空にいた。

 国連所有の輸送機でユーラシア大陸を横断し、フランスパリの街並みを俯瞰する。

 

「ああ、愛しのヨーロッパ。花の都……ベルギーワッフルにマカロン、クレープシュゼット……」

 

「もう響ったら食べ物の事ばっかり、今回は食事旅じゃないのよ」

 

 窓にべったりと張り付いた響を宥めすかす未来。

 食事の事になれば目の色を変える響。赤の他人が見れば本来の目的も忘れているのではないかと思ってしまう。

 しかし未来から見れば、それはそれは気を紛らわせているとしか見て取れなかった。

 哀しんでいる人を見捨てることが出来ないから、助けられなかった人を全力で助けようと。

 助けに行くまで逸る気持ちを暴走させないようにと落ち着かせているようにしているのだ。

 

「……未来」

 

「ん?」

 

「私、ジルさんを助けられるかな?」

 

 不安なのは分かっている。

 突き放されるのではないか。既に助かろうとしていないのではないか。

 希望を捨て、絶望に抱擁する殉教者へと変わろうとしていないだろうか。

 きっとそんな不安で押し潰されそうなのだ。

 私は見てきた。響が絶望の淵で爪先立ちで落ちる寸前まで立っていたあの頃を。

 ライブの後の強烈な迫害を受けた時を、聖遺物で侵された体で苦悩した時を、人を殺したくないと苦しんだ時を。

 正義を掲げる重さに痛み苦しんだ時を。

 すべて、護る為に背負い込んだ苦しみだ。響だけが背負い込むべき苦しみではない筈だ。

 でも彼女は、響はきっと背負い込んでしまう。他人にその苦しみを押し付けないために、その小さな体で意識も精神もズタズタになろうとしている。

 きっとこの言葉は気休め程度なんだろう。けれども気休めになるのならいくらでも言おう。

 

「きっと助けられるよ」

 

「……うん」

 

 フランスを越えて見える海、その先の島。

 

「そろそろドーバー海峡だよ」

 

「はへー。本当に崖が白いよ」

 

 ぽかんと口を開け外を望む響。

 ふと未来はコックピットが騒がしい事に気づく。

 ざわざわと騒ぎ立てる胸の奥が足を進めていた。

 

「管制室! どういうことだ! 作戦行動を離脱した機が急速に接近している!」

 

「駄目です! このままだと、接触コースです!」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 血相を変え大慌ての操縦士たち。

 あまりの慌てぶりに未来がコックピットに入ってきた事も気づいていないようだった。

 副操縦士は気づき、言う。

 

「完全武装のタイフーンが実弾演習を放棄しこちらに接近してきている――この軌道は間違いなくこの機を狙っての動きだ。クッソッ!」

 

 口汚く吐き捨てる操縦士たち。

 それもその筈でこの輸送機には自己防衛のミサイルはおろか、フレアすら搭載されていないのだ。

 鈍重な機体に、超音速巡航飛行が可能な戦闘機との空戦など勝敗は明らかだ。

 

「タイフーンが、接触します!」

 

 瞬間、前方を真っ逆さまに急降下する戦闘機が通過した。

 その瞬間で未来ははっきりと捉えた。

 

「あれは――」

 

「未来ッ!!」

 

 コックピットに飛び込んでいた響。きっと戦闘機を見たのだろう。

 戦闘機の機体に取り付いていたエクスカリバーの装者。J・S(ジル・スミス)の姿を。

 操縦士たちが戦闘機に向かい幾度も通信を試みるが返ってくるのは耳障りなノイズ音だけだった。

 きっとジルが何かをしたのだろう。そう理解できる。

 

「後部の扉を空けてくださいッ!!」

 

 響はそう言って、回れ後ろをして走り出した。

 行く気だった。響のギアでは、ガングニールに飛行能力はないのにジルに会おうとしている。

 

「響――」

 

 止めようとしたが、響は唄いだしていた。

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 

 ギアを纏った響は後部ハッチが開き着る前に空に向かい駆け出し、跳んだ。

 足場もなく、ただ落下するだけだがそれを向かい討つように戦闘機の機首が響の体目掛けて突っ込んでいた。

 落下の風の呻きで集音マイクに雑音を混じらせ巧くギアの出力が上がらない。

 しかしもう目の前まで迫っていた。

 黄金の剣エクスカリバーを構えていたジル。響と交差する瞬間に振り下ろす。

 守るべき盾も、戦うための武器も持っていない。

 あるのただの手だけ。拳でエクスカリバーを迎撃した。

 飛び散る閃光と火花。

 すれ違うジルの顔は初めて出会った時の様に冷たい氷のような仮面を被っていた。

 慣性に流されるままジルは過ぎ去って行く。

 

『Rei shen shou jing rei zizzl』

 

 風の喧騒の中を透き通る唄。

 紫電の輝きを放ちながら未来は空中を泳ぎ、響きを受け止めた。

 

「無茶しすぎだよ。響」

 

「ごめん……でも、ジルさんと早く話したかったの」

 

 響を抱かかえたまま戦闘機に着ける。

 風圧で飛ばされそうになりながら、戦闘機の上でジルと対峙する。

 暴風でたなびく美しい金髪。それに劣らない輝きを放つエクスカリバー。

 しかしそのエクスカリバーは僅かに震えているように見えた。

 歪んだ顔でジルは未来と響を見ていた。

 この顔だ。――ひどく哀しい顔を浮かべているジルは、やるせないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

「神獣鏡――やはり、存在していたのか」

 

「ジルさん……なんで私たちと戦うんですか? 世界を頂くって、そっちの世界があるじゃないですか」

 

「ガングニールの少女。人は欲しがらずにはいられない生き物なんだよ。隣の芝は蒼い、私たちの世界はもう終わっている。だから頂くのだ、君たちを退けても」

 

 未来は叫んで問いかけた。

 

「世界が終わるなんて、ある訳ないじゃないですか! 自分たちの世界で何で満足しないんですか!」

 

 ジルの顔は引きつり、そして浮かべたのは憂いではなく――怒りだった。

 

「こちらの小日向未来は高慢だな。――この世にあるものは須く終わりがあるものだ、だがその終わりが私たち人間の歩調と同じだと思わないほうがいい!!」

 

 盾を構え走り出した。

 対話を拒否された。響の心がちくりと痛みを上げる。

 しかし痛んで済むような状況ではない。すでに火蓋は落とされたのだ。

 寂寞の気持ちを押し込めて、開いた手の平を拳へと固めた。

 ハンマーパーツを押し上げて拳を盾へと押し込んだ。

 

「ッシ――!」

 

 構えた盾が拳の接触と共に振り払われ、体の軌道が大幅にずれる。

 エクスカリバーの切っ先が響の顎下に向け突き込まれる。

 

「響ッ!」

 

 扇を円形に開き放たれる紫のビームがジルへと向かい撃ち込まれる。

 目視でそれに反応し、エクスカリバーの黄金の軌跡が方向を変えて、ビームを切り払う。

 軽く飛び上がり、錐もみ回転を着けたジルは剣を振り下ろす。

 

 《Queen;Escalibor》

 

 帯状に広がる光線が未来へと目掛けて放たれる。

 未来は扇を光線へと向ける。扇は円形に広がり、二枚三枚と折り重なる。

 鏡ならではの特性、神獣鏡は祓うだけではなく敵の攻撃を歪めて撃ち返す。

 

 《屈折》

 

 一点に収束された光線はジルに向かい撃ち返された。

 一瞬の判断。ジルは腰を深く落とし込み踏ん張るように白銀の盾を構えた。

 盾とぶつかり合う。

 光線は枝分かれし打ち裂かれる。ジルの立っている戦闘機の装甲がジワリジワリと捲れ、押し出されていた。

 歯軋りを鳴らし、ジルはエクスカリバーを光線へと突いた。

 切っ先より放たれた更なる光線。激しい音と衝撃を吹き散らし、相殺しあった。

 

「はあああああああッ!!」

 

 横ばいから響は左の拳を打ち込む。鋭い眼光が響を打ち抜く。

 エクスカリバーの柄から手を離したジル。瞬間に腕を刀身へと伸ばし切っ先を握り込んだ。

 響の頭はその行動で混乱を生じさせた。

 あれではジルの指が落ちてしまう。切れる刃物を手で握るなど正気の沙汰ではなかった。

 しかし、それは日本人ならではの発想であり、このやり方は確かに存在している。

 モルトシュラークという西洋剣術の技であり、剣を逆手で持ちハンマーのように殴りつけるいう技だ。

 エクスカリバーの(キヨン)が響の腹に突き刺さる。

 全身の毛が逆立ち血の気が引いていく。腸を握り締められたような感覚に陥り、立つこともままならない。

 膝を付いて蹲ってしまう。

 息が出来ない。肺は酸素を取り込んで入るのだろうが、うまく呼吸が出来ない。

 

「お前に用はない。今の瞬間に小日向未来を打ちのめす邪魔をしてみろ――殺してやる」

 

 刺々しい言い方。しかし違和感を感じてしまう。

 未来がジルの逆鱗を逆撫でして激怒させた理由は分からないが、怒っているのは理解できた。

 しかし、殺してやる? ――それは本当は私たちを殺す気はないと言うことではないだろうか。

 

「響を傷つけるな――ッ!!」

 

 未来は扇を構えてジルと打ち合う。

 二枚の帯で牽制し距離を保ちながら隙を突いたように扇で殴打。

 力の差は一目瞭然。ジルの方が長物の扱いは長けている。いくら未来の手数が一つ多いとて盾と剣の両方が揃っているジルに徐々に押されている。

 誰も彼もが傷つけあう光景に、響の心は抉り開かれるような感覚に陥り喪失してしまいそうだった

 未来が戦っている。陽だまりが無慈悲に容赦のない旱魃のような苛烈さを露にしている姿を見るのが哀しかった。

 

「だめ……」

 

 届くことのない声で響は言った。

 未来は戦っては駄目。

 優しい未来でいて欲しい――誰かを虐げるモノになって欲しくない。

 穏やかな未来であって欲しい――誰かを傷つけるモノになって欲しくない。

 暖かな未来であって欲しい――冷たい人になって欲しくない。

 私の陽だまりであって欲しい。もう二度と身近な人に失望したくない!!

 

「駄目―――ッ!!」

 

 二人の争いに割って入り、未来に飛びつき止めた。

 その瞬間に、エクスカリバーの切っ先が響の背中を右肩から左脇腹に向かいなぞる。

 焼けた鉄の棒を押し当てられたような感覚。と思った途端に寒気が襲う。

 未来の頬に伝う一筋の涙。神獣鏡に反射したジルの顔は響の血がべったり付いていたが驚いた表情をしていた。

 

「響……響、響、響ィいいいいいいッ!!」

 

 冷たい。冷たすぎる。

 体の芯から冷たくなっていく。

 ネフィルムに腕を食われた時の比ではない。間違いなく死んでしまう、そう思える冷たさだ。

 

「未来、ジルさんと戦わないで。話し合おうよ」

 

「響、響……お願い喋らないで、死んじゃうよ……」

 

 意識が暗いどこかに落ちてしまいそうだ。

 緩やかにそして優しげに包み込んでくる。絶対に人間なら逃げられることが出来ない『死』。

 今は少し、ほんの少し駆け足で響に近づいて来ている。

 未来が泣いている。泣き顔なんて見たくない、だから――

 

「へいき、へっちゃら――」

 

 未来の中で何かが千切れ弾ける。ブチリと音を立てて弾け跳んで衝動が体を支配した。

 黒々とした衝動。――暴走。

 響を抱かかえた暴走した未来。慟哭の咆哮を上げる。

 脚部装甲よりミラーパネルが展開し、円を描く。腕より伸びた帯がミラーパネルに接続し間髪容れずに特大のビームを放射した。

 

「ッ!?」

 

 あまりの予備動作の無さにジルは焦り盾を構える。

 直撃し、ビームを防いでいるが――

 ー

「神獣鏡――《聖遺物殺し》も健在ときたか。その上、正常な判断を失った死への欲望(デストルドー)状態での併用がここまで凶悪とは」

 

 神獣鏡のビームを防いでいる白銀の盾は端々より徐々に粒子へと還元されていた。

 長くは持たない。ジルも――そして暴走状態の未来に抱えられた響も。

 暴走へと陥った未来の放ったビームは、その出力を最大で撃ちだしている。

 あの状態では手加減も何も出来ない。ただ100パーセントの力で振り下ろされた拳と同じだ。

 だから危険なのだ。その中でも特に危険な神獣鏡だから。

 神獣鏡の放っているビームが周囲に漂わせている凶祓いで、ジルほどではないにしろ響も影響を受けている。

 現状の響はギリギリ生きている状態だ。そのギリギリを保たせているのは何を隠そう『ガングニール』のギアだ。今のまま神獣鏡の光を浴びせ続ければ。響は――死ぬ。

 

「ッ――。栄光を示せ聖血十字架の白盾よ、あの愚かしい少女を助けるぞ!!」

 

 それに応じるように白銀の盾は光を放ち――爆ぜる。

 その輝きはあまりに強烈で、神獣鏡のビームを掻き消し未来を戦闘機より引き剥がした。

 海へと落下する未来。バタバタと手を振り回し、手よりこぼれ落ちた響を掴もうとする。

 

「頭を冷やせ。小日向未来、今のお前の死への欲望(デストルドー)は――他人も巻き込む」

 

 ジルは落下する響を抱かかえる。

 砕けた白銀の盾が微かにだがジルの周辺を舞い落下の衝撃を封殺しようと働いていた。

 

「少しこの娘を預からしてもらうぞ」

 

 遠ざかる響と未来。

 墜ち続ける最中でも未来は慟哭の声を上げ続けた。




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