Sacredwar 装者並行世界大戦   作:我楽娯兵

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王剣エクスカリバー-脈動-

 エリザベス塔の頂でロンドン市街を俯瞰する。

 煌めく人の息づく街の光はどのような人間でも魅了されよう。

 J・S(ジル・スミス)のような理想も朽ち果て、粉と消えた存在であっても。

 失われた故郷に似たまったく別の世界。私とは一切関係のない世界。

 関わり合いを持たねば、折り合いを付けて諦めてしまえばきっとこちらの世界でも静かなる終わりを迎えれる。

 しかし、だがそうであったとしても。どうしても心の奥底で考えてしまうのだ。

 瓦礫に変わった無人の街に変わったジルの故郷と似たこの街を見ていると。

 

 ――私からの提案ですが、祖国イギリスの膿を廃すなんてのはどうでしょうか? 悔いのない人生を捧げた生き方(ライフワーク)のために――

 

 憎き相手の言葉が蘇る。

 どれだけ憎く、縊り殺してやりたいことか。

 そんな相手であるが、そんな相手だからこそ私の心の底を覗き見ることに長けていたのだろう。

 この街から、私の故郷に似たこの街から邪悪を一掃出来れば、理想とされる(アヴァロン)となるだろう。

 この国のためにも、あの子の為にも。

 無数の機械の目より逃げた先のエリザベス塔の頂であったが、余計な考えばかりが頭に過ぎる。

 美しかった私たちの世界。

 いったいどこから道を踏み外したのか。いったいどこから崩れ始めたのか。

 今となっては詮無きことだった。しかし思わずにはおれない。

 

 ――あなたとは戦いたくないんです――

 

 頭に思い浮かんだのは自分の家族ではなく、共に戦場を駆けた戦友たちの顔であった。

 彼女たちはこんな結末を望んでいたのだろうか。

 自分たちの持ち得る力ではどうしようもなくなったから、他の世界も巻き込んで生き延びようとするいじましさをさらす私たちを、どう思うだろうか。

 

「私は、どうすれば良かったのだ。――未来」

 

 頬より伝う涙がロンドンの夜景へと舞い散った。

 涙と共に流れ捨てられる記憶たち。

 私たちの世界の記憶たち――

 

 

 

 紫の光線を盾で弾きながら、私は一か八かで突撃を始める。

 

「はあああああああああッ!!」

 

 ここ最近のエクスカリバーとの適合係数の上昇率から調子は好調で私は訓練であろうと実入りが違った。

 

「そうはさせません!!」

 

 無数の子機のミラーパネルが放出され、さまざまな方向より光線が飛来する。

 良い訓練だ。数しれない無数のノイズとの混戦状況を忠実に再現された訓練。

 切り払うノイズの感触はなかったが、十分すぎるほどその状況は似通っており私は満足していた。

 エクスカリバーに適合しシンフォギア装者となって以降、私の人生は激変した。

 戦場に立つ身になかった女が、若かりし頃の肉体に返り咲き、人々を護るために戦うなんてなんてお伽話だ。

 さらに伝説の剣と盾、鞘を持ち、意思疎通不可能な敵と戦う。よく出来た内容だ、ハリウッドで映画でも出来よう。

 しかしながらこれは事実であり、私はこうしてその伝説を纏っている。

 伝説を纏い、伝説を纏うものたちと、お伽話の戦場へと向かう。

 

「詰みだ!! この一手にて終わらせる!!」

 

 地面を蹴り上げて、彼女へと飛翔した。

 降り注ぐ無数の光線を白盾で遮る。盾は白く輝き、エネルギーフィールドを形成し、その面積を拡大し続けた。

 訓練室を埋め尽くさんばかりの勢いで広がり、大小さまざまの残骸を押しのけて行く。

 押し広げられた護りの領域、その境目は誰もを選別する。

 彼女を押し潰し、地面へと叩き落とす。

 体勢を立て直し起き上がろうとするが、先んじて手を封じる。

 二本の帯を踏み押さえ、喉元へ切っ先を突き立てた。

 

「まだまだ。この老いぼれを超えるのは早いぞ。未来」

 

「白盾との適合率が高いと手が出しにくいですよ」

 

 私は笑った。

 小日向未来、日本より研修という名目で派兵されたシンフォギア装者。

 まだまだ、戦闘面においてはまだ詰が甘い部分が目立つが、ギアの『神獣鏡』との適合係数は《Requiem(レクイエム)指揮者(コンダクター)クラス最強の天羽奏に届く勢いだ。

 だがそれは戦況が優位にあるときのモノで、戦況が傾き不利になったとき、心象の不安定化によって適合係数の低下は上昇値以上の速度だ。

 やはり年齢的に精神面では不安定なのだろう。

 そして何よりその適合係数の上昇理由は彼女の大切な友を失った事からだと聞く。

 

「未来。少し休憩だ」

 

「はい」

 

 私は彼女の手を取り立ち上がらせた。

 華奢な腕だ。日本人は実年齢に比べ外見は幼く見えるというが、私が未来を初めて見て推定した歳はジュニアハイスクールに入り立ての位だった。

 あまりにも幼く見えたために、憤りを感じるほどだった。

 戦場に立つのは大人の責務であり、その庇護にあるべきだ。押し付けがましい願望かもしれないが、子を生んだ親としてはそう思えたのだ。

 

「今日は、この後どういたしましょうか?」

 

「もう上がってもらっても大丈夫だ。私も非番だ、どこにでも連れてくぞ?」

 

「え、でも。ノイズの発生頻度が上がってますし、基地待機のはずじゃあ――」

 

「イギリスの装者を舐めてもらっては困る。私のエクスカリバーだけではないのだぞ。今はロンゴミニアドが警戒中だ」

 

 イギリス次世代装者、シンフォギア・ロンゴミニアドによってこの島の安全は磐石であった。

 他にもアロンダイトやガラティーン、クラレントが警備に当たっている。

 二人ぐらい今後抜けたところで穴を埋めることは出来るだろう。

 

「何より私たちは英気を養う必要があるだろう。明日の反攻作戦、バビロニア作戦のためにも」

 

「そう、ですね」

 

 私たちは訓練で流した汗を濯ぎ落とし、調律軍支部を出た。

 異国の地で未来は健気に頑張っていた。こちらに着た当初は、言葉は全くといっていいほど通じておらず右往左往していた。今はまだ拙くも日常会話程度なら難なく出来るほど成長している。

 戦闘面にいたっても成長著しい。

 イギリス組と違ってアームドギアが鏡という癖の強い武装にも拘らず、その特性をよりよく使い我々のサポートを果たしている。

 彼女自身が保有している適合係数とその潜在能力を見れば、我々など足元にも及ばないが、彼女の気性なのか一歩を踏み切れていない様子であった。

 基地車を借りてロンドンの街へと私と未来は走り始めた。

 大通りを走り、その街並みを望んでいた未来はどこか寂しげな様子であった。

 ホームシックに暮れているのか、それとも――この街並みのせいか。

 店のガラスというガラスは割れていた。倒壊した建物もある。

 道路の舗装は所々ひび割れて悪路といって良い。未だ燻ぶる火種が、そこかしこから黒煙を上げている。

 走る車を見てか、行き場を失った子供たちが追走するように走り施しを望んでいた。

 

「この間の大規模ノイズ災害……まだ落ち着きませんね」

 

「気に病む事はない。私たちはノイズを退けたのだ……復興は我々の領分を越えている……」

 

「はい……」

 

 崩れたロンドンの街。

 テムズ川に面した道に出て走るが、川には無数の瓦礫と沈没した軍艦の艦首が聳え立っていた。

 

「バビロニア作戦を成功させれば、この壊れた世界を復興できる。ノイズの脅威より人類は解放されるのだ」

 

「人間の、脅威です。フィーネ博士の言う、バラルの呪詛が本当にあるのならこの被害は私たちが作った事になる」

 

「先祖の過ちは我々で拭わねばな。只人にはそれが出来ないのなら、それを出来る者がやればいいのだ。私たちは選ばれた。高貴なる者の責務(ノブレス・オブリージュ)だ」

 

「そうですよね。イギリスの方々は強いですね」

 

「家族のためだ。娘夫婦のためにも、少しでも綺麗な世界で生きていてほしいからな」

 

 道順選択の間違い(ロード・チョイス・ミス)だっただろうか。

 どんどん未来の表情は暗いモノになって行く。この反攻作戦は人類にとって今後を左右する大きなモノなのだ。

 少しでも彼女には背負うモノを、守る者がいる事を知っておいて欲しかった。

 だが、逆効果だったようだ。

 私は少々軽率だったと反省してしまう。

 この光景は未来にとって大切な人を失った光景とをタブらせてしまう。

 

「未来、私の家に来ないか?」

 

「え? でも……」

 

「構わんさ、家長は私だ。娘夫婦も来ている。はね馬どもの相手にあの子も疲れているかもしれないからな。相手になってくれ」

 

 私はニッと笑った。

 未来は少々驚いたような表情をしたが諦めたように笑い返してきた。

 その表情を合意のサインと取り、私はハンドルを我が家へと取った。

 ロンドンの街より離れた郊外へと向かう。

 一時間ほど走った先、私の家に着いた。

 

「わぁ……すごい」

 

 未来は邸宅を見て驚いたように呟いた。

 確かに私の家は他よりも大分大きな部類だ。正直な事を言ってしまえば豪邸といってよい。

 《Requiem(レクイエム)》が発足される以前に、歌声だけで為した私の財を投じた結果だ。

 まだまだノイズの被害もなかった時代の、古き者たちの夢の残骸だ。

 その残骸でもこうして家族をノイズの被害より護れているのだから、建てた甲斐があったと言うものだ。

 

「さあ、入ってくれ。使用人などはいないが歓迎しよう」

 

「お、お邪魔します」

 

 玄関を開けた。

 足を踏み入れた私に飛びついてきた小さな二つの影。それを抱きかかえた。

 

「おお、はね馬どもめ!! 大きくなったではないか!!」

 

「お姉ちゃんだ!!」

 

「ネーネー!!」

 

 両腕に抱えた子供たち。

 その温もりと香り、そして重さを感じて私の心は温かな充足感を覚える。

 未来は眼を白黒させて、私を見ていた。

 

「未来、紹介しよう。孫どもだ、長男のアベル、次女のアリアだ」

 

 私は孫たちを未来に紹介する。

 アベルは不思議そうに未来を見ていた。アリアは私の髪の毛を掴み、親指をしゃぶっていた。

 

「お姉ちゃんこの人だれ?」

 

「ん~? 私と同じだ。お前たちを護るお伽話の戦士だ」

 

「戦士!!」

 

「センシー」

 

 慎ましい未来はそんなことないといった風に表情で否定していたが、どこか嬉しげだった。

 私は未来を近くに呼び寄せ、アリアを彼女に渡した。

 

「この先、有名人になるかもしれないぞ彼女は。抱っこして貰っておけアリア」

 

「オー、だっこー」

 

「ちょ、ちょっとッ! そんな急に」

 

 未来は戸惑っていた。そんな様子に私は微笑んだ。

 

「お母さん?」

 

 矢庭に呼ばれた。

 二階の階段から覗いた愛娘の姿。ドタドタと駆け下りてくる。

 両手を広げて私とアベルごと強くタイトに抱きしめてきた。その腕は僅かに震えていた。

 

「まったく、親離れできない子だ。ただいま」

 

「お母さん……」

 

 その声は震えていた。泣いていたのだ。

 この子も辛い思いをした。そんな辛い時を共に過せてやれなかった私が憎かった。

 子供の悲しみを受け止め切れなんだ親など。

 

「あれの事は残念だった。だがもう大丈夫だ、作戦が成功すればもう怯えずにすむ」

 

 私は慰めるしかなかった。

 

 

 

 

「ごめんなさい、小日向さん。変なところ見せちゃって」

 

「いえ、急に押しかけのは私ですから気にしないでください」

 

 娘のアリスと未来は笑いあっていた。

 歳も二桁も離れていない二人なら良い話し相手になるだろう。

 大規模ノイズ出現でイギリスの娘の家は倒壊し、こちらに非難さしてそろそろ一ヶ月になるか、誰も住んでいなかった家には私が一人で住んでいた頃より生活感が出ていた。

 

「その歳で《Requiem(レクイエム)》に従軍するなんて、すごいわね。私は適正が無かったから」

 

「いえ、そんな。……いいことなんてそんなに……ありませんよ」

 

 翳りがちな彼女の表情にアリスは対応に困ったようであった。

 孫二人とじゃれ合いながら私は助け舟を出した。

 

「謙遜は日本人の美徳だが、話を途切れさせるぞ。それにお前はギアの適正は私以上にあるではないか。救世の星紅一点だ。我の強いイギリス組にはいない人柄だからな、みなお前を可愛がっている」

 

「そんな……」

 

「まあ、奔放な方々が多いイギリス装者に」

 

「ええ、まあ。良くはして貰ってます」

 

 くすくすと笑ったアリスは腕を組んで、羨ましげに云う。

 

「お母さん以外、こっちの装者は性格に難があるか相手にしてもらってるだけ認めてもらってるのよ。自信を持って」

 

 そう、イギリス組は基本的に性格難が集まった組織だ。

 その知名度が大きいギアの適正を勝ち取ったが為に、弱者を護るが、弱者は弱者と切り捨てる唯我独尊者たちが揃った。

 私とて最初は爪弾きに合いそうになったほどだ。

 そうだとしても、あいつらを超える力を見せてやればいいだけの話なのだが。

 

「お母さんは歳だから、急に戦えって言われて戸惑ってもがいてたわ。初めての実戦なんて腰が抜けてたそうなのよ」

 

「まだアロンダイトがコンダクターを務めていた頃ですよね」

 

「お母さんは我尊が過ぎるって毎日愚痴ってたんだから」

 

「やめぬか。私の秘部を抉って楽しいのかアリス」

 

 人に愚痴を言っているなんて知られたくはない。

 常に規範たる姿を示すのに、人間らしい姿など不要なのだ。

 先陣を切る指揮者(コンダクター)に迷いも、徒労も見せてはならい。

 そんな私の小さなプライドにアリスは笑った。

 

「小日向さん。お母さんをお願いね。お母さんったらあの歳でも子供っぽいから」

 

「は、はいッ!」

 

 面と向かって私の身を任すなど、未来には重責過ぎるだろう。

 私はそう思ってしまった。

 彼女には彼女の戦いがあり、私が入り込む余地はない。

 人の心は常に孤独にあるべきだ。

 己の心を晒し共感を獲るのは尊ぶべきだが、それは他人の意思も入り込む事になる。

 他人の意思が入り込んだ心に、自分自身たる「個」を維持できるものなのか。

 ノーだ。

「個」を表層化させ、配慮も、躊躇も無くなった瞬間が戦いなのであって「個」を失ったモノの戦いは鈍だ。

 私は私の為に戦っている。未来も未来の為に戦っている。

 護る守られるではない。真に自分のために戦うために私たちは矛をとったのだ。

 なによりその戦いという行為に自ら飛び込むために身を休めるためここに来ている。

 他を介入させてはならない。「個」を保ち、「自己肯定意識(プライド)」で敵を打ち倒すのだ。

 

「ネーネー」

 

「なんだアリア。……そのよだれ塗れのクッキーを私の口元に持って来てなんとする気だ」

 

「あじぇるー」

 

「ぬあああッ!! 止めぬかアリアぁああああ!!」

 

 馬乗りのアリアに涎塗れのクッキーを分け与えられる私の姿に二人は笑っていた。

 ふと未来が聴いていた。

 

「息子さんたちって隊長の事お姉さんって呼んでましたけど、お祖母さんじゃないんですか」

 

 アリスは少しだけ苦笑いを浮かべて言う。

 

「お母さんってその、外見の年齢と実年齢がまったく違うでしょ? アベルがまだ赤ん坊だった頃はまだ従軍してなかったから釣り合いのとれだ外見だったけど。シンフォギアで若返りましたって言われても子供は分からないから、お母さんが適当な家族関係でいいって。それで親戚のお姉さん」

 

「ああ、なるほど」

 

「不思議よね。ほんの少し前までヨボヨボの人が、一時間と掛からない適正実験で一瞬で若い姿に戻っちゃうんだから」

 

 私の外見の話になり、僅かに未来の表情が曇った。

 別段気に掛ける必要はない。歳不相応の体力を取り戻しただけの話だ。

 そのお蔭で私はこの子たちを護れている。

 人類の未来の為に、老い先短いこの命を使えている。

 なんと幸福なことか。

 

「アリス、未来。夕餉にしよう、腹が減ったッ!」

 

 私は笑って告げた。

 

 

 

 

 

「隊長は強いです。私よりも」

 

 搭乗する輸送機で私たちは作戦の支度をしていた。

 そんな中、未来はそう言い出した。

 

「前にも言ったであろう。未来、お前は強い。適性もそうだが、ギアの特性を熟知した――」

 

「戦闘の話ではないんです。心根がです」

 

「――――急にどうしたんだ」

 

 未来は暗い顔で言う。

 

「隊長は家族の為に、顔も知らない人たちの為に戦ってる。なのに、私は――ただノイズが憎いだけで戦ってる」

 

 何も言わずに聞いた。

 

「派兵される時に私の資料を見てますよね。私の戦う理由は、大切な友達の復讐がしたいんです。私があの時ライブに誘わなかったら。私が別の場所に誘ってれば、いつもそう考えてしまうんです。過去に囚われてばかりの私、でも隊長は違った。今いる人たちの為に戦ってた。綺麗で、美しくて仕方ない。それに比べて――」

 

 私はその言葉を遮るように両手で未来の顔を掴んで私の眼を見させた。

 しっかりとした眼だ。なのにその奥は迷いでくすんでいる。

 迷っているのだろう、その迷いは正しい。だが今はその迷いを払拭して欲しかった。

 私は言った。

 

「復讐で何がいけない。怒りは絶望に勝る。その怒りをぶつける相手は間違っていない!! 迷いを捨てろ、私の戦う理由など、お前の心を支えている理由に勝るのか!! 己を他人と比べるな。お前はお前という至宝の存在なのだぞ!!」

 

「でも――」

 

「でもは無しだ。理由がどうあれ私は未来の、お前の理由を肯定する。復讐は虚しいのだろう、分かるさ」

 

 そう、虚しい。

 それを理解するのに嘘も何も必要がない。

 それをすでに私は体験している。

 

「私も、初めの理由は復讐だ」

 

「……え?」

 

「夫をノイズに殺された。炭となって他の者たちと一緒くたになってもうどれがあの人なのかも分からない。あの人の温もりがもう感じられない。もうあの人の笑顔が見られない。そう思うと胸の奥が引き裂かれそうなのだろう――私は復讐を否定しない。復讐の先を見つめろ、その先に輝かしい未来を勝ち取るために」

 

 未来を胸に抱き寄せ強く抱いた。

 か細く華奢な身体を、強く、強く抱いた。

 震える彼女の身体は徐々に収まる。

 

「ありがとうございます。隊長」

 

「ああ、私たちの世界を取り戻すんだ」

 

 輸送機は高度を下げ、そして到着した。

 果ての地に。

 終りが溢れ出た地に。

 輸送機を降りた私たちは作戦開始地点に現着する。

 未来は少々驚いたように周囲を見渡していた。

 

「すごい人数ですね。こんなに装者がいたなんて……」

 

「世界中の装者がここバミューダ諸島に集っているんだからな。総勢108名、オーケストラの5管編成級だ。人類最大のノイズ反攻作戦だろうな」

 

 イギリス、ロシア、中国、ドイツ、アメリカ、インド、日本。

 その他各国の厳選された装者たちがこの地に集まっていた。

 精強な顔つきの女戦士たちが、その闘気を可視化させんばかりに放っていた。

 装者の中でも有名な部類の者もいる。

 フィーネ博士の従者、《遠距離主体装者部隊(ワルツ)》の主席クラス(トップ)の魔弓・イチイバル、雪音クリス。

 アメリカ装者最強、《総合支援装者部隊(ポルカ)》の指揮者クラス(コンダクター)、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 左方にはシュルシャガナやイガリマ。右方にはシュヘラザードや火之迦具土などその功績輝かしい者たちが数多く揃っていた。

 戦力に不足なし。

 そしてこの軍列の最前にいる少女。

 天羽々斬装者、《Requiem(レクイエム)》の最高司令(コンサートミストレス)――風鳴翼の姿があった。

 古代人類の残した遺物、「ノイズ」と別れを告げるときだった。

 各国から接収、改修を施したフローティングキャリア三隻と宝物庫の扉を開く鍵『ソロモンの杖(レメゲトン)』。

 そしてこのバミューダーの特異な重力場を利用し、あちら側へ往くのだ。

 

「――訣別のときだ。憎きノイズたちとの」




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