Sacredwar 装者並行世界大戦   作:我楽娯兵

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崩れ始めた理想、本来のスガタ

 画面に映し出される監視カメラ映像。

 それはロンドン地下鉄構内で昨日発生した戦闘の推移を映し出していた。

 無数のアルカノイズが一方向へと走る。しかしそのアルカノイズたちは画面外から押し寄せた黄金の光線にすりつぶされ霧散する。

 画面の切れ端より現れたのは黄金の剣を携えたシンフォギア装者、J・S(ジル・スミス)だった。

 今まで手にしていた白盾が見当たらず、腰に帯びた鞘もひび割れている。

 監視カメラの映像視点が変わる。

 正面よりジルを映し出したその映像は、ジルがある人物を追う映像だった。

 灰色のローブを纏い、表情は窺えないが、ジルに反撃するように掌より光弾を撃つ姿から錬金術師であることが見て取れた。

 光線を僅かな体勢移動で躱さる、ノイズクリスタルをありったけ撒くがエクスカリバーの黄金の光線の熱量で地面に触れるより以前に消滅させられていた。

 背を向け逃げようとした瞬間に、ジルが刃を振り足首を薙ぎ切飛ばす。

 倒れ臥す錬金術師の背からエクスカリバーを心臓へと向かい突きたて息の根を止めたジル。

 その表情は冷たい仮面が貼り付けられており、目に精気は宿っておらず最早事務的作業のように錬金術師の命を摘み取ったのだ。

 

「ロンドン市内で連日発生している錬金術師と身元不明シンフォギア装者の戦闘記録です。錬金術師の方はパヴァリア光明結社の残党と思われます」

 

 カフェテリアにて響と未来はカイン・ビーグリーからある依頼の概要を聴かされていた。

 

「身元不明シンフォギア装者……J・S(ジル・スミス)は夜間、一週間にも亘り錬金術師の無差別な殺害行為を繰り返しており、このことにイギリス政府は少々警戒をしております」

 

「あの……質問、いいですか」

 

 未来は小さく手を上げてカインに質問をする。

 カインの目が僅かに動き、侮蔑するような視線が一瞬だけ浮かんだ。

 

「ええ、構いませんよ」

 

「どうして、イギリスはJ・S(ジル・スミス)の錬金術師狩りに警戒をしているのでしょうか……銀行の件から考えても、寧ろ野放しにしているほうが都合がいい気がするんですが……」

 

「ご尤もな意見です。しかし『無差別』というのが今回は問題なのですよ」

 

 カインは隣に座る少女に目を向けた。

 その少女は三人の会話に興味を示していないようで手に装着したカエルと牛のパペットで遊んでいた。

 

「この方には特に」

 

 タブレットを操作し彼女の経歴を出した。

 それは極秘文章で、イギリスが世界に隠し続けていたジョーカーだった。

 

「イギリスにはパヴァリア光明結社以外に秘密結社がいくつか存在していることは周知の事実、しかしそれらは政治的意図により淘汰され唯一その存在が維持でき、その錬金技術の執行を公的に認可されている組織があるのです」

 

「それって……」

 

「お察しの通りその組織の存在は国連にも報告していません。イギリスの技術として今まで秘匿していましたが、魔法少女事変や神器顕現で世界に『錬金術』という異端技術(ブラックアート)の存在が公になってしまい秘匿する意味が薄まり、近々その組織を国連決議で公開する予定でした」

 

「その組織ってどういった目的であるんですか」

 

 響は力強い声で訊いた。

 パヴァリアとの攻防で錬金術の組織と聴くと少々身構えてしまうのだ。

 その目的がパヴァリアと同様に、『神の力』の顕現ならばこの依頼を受けない。

 しかしカインの言う組織の目的は響が警戒するモノとは違っていた。

 

「人々を守るためです。武力的な意味ではなく、医療的な意味で」

 

「医療的?」

 

「シオン修道会はもともとは『とある人物の血』を守護する為に20世紀に創られた組織でした。しかしその血が枯渇していることが分かり存在意味を失い、その技術を貴方達の知る錬金術とは違い、医療方面へと特化させた錬金術集団になったのです。ただ、その秘密主義的教義によって歴史の表舞台にはあまり現れませんでした。イギリス政府もその技術を秘匿することで政治的アドバンテージを保有することに同意し、政府直轄の異端技術部として活動していましたが、パヴァリアの影響でそのアドバンテージが失われた」

 

「だから世界に公開することにした?」

 

「ええ、然しながらあのJ・S(ジル・スミス)なる装者の無差別錬金術師殺害で、幾人かのシオン修道会の会員が犠牲になっている。公開した後、その組織が潰えたなどこれほどの損失はイギリス政府は認可出来ない」

 

 だからS.O.N.G.へと要請したのだ。

 イギリス国内に巣食うパヴァリアの禍根によって、国連の席次が危ぶまれている国勢。

 国連に傅く事は避けたかったはずだが、国そのものが潰える可能性が出てきて形振り構ってられないのだ。

 銀行襲撃の一件で未来の命令不服従によってS.O.N.G.要請に難色を示す事は分かりきっていたが、そうも言っていられないのが今のイギリスの立場だった。

 

J・S(ジル・スミス)の脅威が排除されない限り、英国の立場が危ぶまれる。私としては()()()()()()()祖国の命運を預けるのは避けたいのですが、命令ですので」

 

 カインの言葉には棘があった。

 当然と言えば当然で、銀行の要請で未来が命令を反故にした事で『要注意人物たち』と警戒されていたのだ。

 その立場と責任に無自覚な少女たち。イギリス政府要人たちは響達にそう言ったレッテルをすでに貼り付けていた。

 成人にもなっていない少女たちに責任を持てと言うこと事態が可笑しい事なのだが、シンフォギアを纏ってしまった大いなる代償が圧し掛かっていた。

 

「こちらとしてもJ・S(ジル・スミス)の脅威は早期に解決を図りたい。こちらもJ・S(ジル・スミス)も捜索を行いますが、もし万が一にもそちらと接触があった場合、《殺害》を願います。捕縛や対話ではありません《殺害》です」

 

「…………」

 

 二人は黙るしかなかった。

 ジルの世界をよく知り、そしてその意味を理解しているからこそ黙るしかなかった。

 こんな要請は受けたくはない。しかし、現時点でジルのやっている事は間違っていた。

 止めさせたい。だが、もし、ジルと接触を果たしてしまった時は――殺さなければいけない。

 

「当面はこの方と、ミス・モルガナと行動を共にしてもらいます。いいですか、この要請は警護であり降り掛かる脅威の《排除》でもあるのです。そこを履き違えないよう重々承知願います」

 

 

 

 

 

 護衛対象の少女。ロンドンの街を我が物顔で堂々と歩くモルガナの後に続く響達。

 その後姿に響はある少女の姿を照らし合わせていた。

 父を愛し、その愛に報いる為に世界を分解する寸前までいたった少女の姿に。

 ただ外見年齢と錬金術師と言うカテゴリーに入るだけで。響は首を振って前を向いた。

 

「ジルさんは本当にこんな子まで襲うはずがない」

 

「うん。私もそう思う、ただ錬金術師だからって」

 

 どういった経緯で錬金技術を得たのか、外見年齢だけで予測するなら、キャロルやパヴァリアの錬金術師に及びもしないことは明白だった。

 何せ錬金術師の力の源、エネルギーソースは思い出、脳に蓄積された濃密な電気信号であるのだから。

 キャロルは自分自身と寸分違わないホムンクルスの肉体に意識を転写し何百年と延命していた。

 パヴァリアの幹部三人は不老の術で永遠にも近い時を生きていた。

 その過程で膨大な思い出を得ているから十分すぎる力を行使できた。

 このモルガナは果たして外見と同じだけの実年齢なのだろうか。

 もしかしたらうん万歳の超精神老婆なんてこともありえる。

 そんな事を考えていた最中に、モルガナの左腕にはめられた牛のパペットが響の方へと向いた。

 

『何失礼なこと考えてやがんだ、このヒヨコ女!!』

 

「うわッ!!」

 

 甲高い声でパペットがパタパタと腕を振り、口を開いたり閉じたりを繰り返した。

 実に巧みな腹話術だった。モルガナの口も動いた気配はなく、首も一切動いていない。

 カジュアルフェミニン風の錬金礼装姿のモルガナは右腕を左脇の下に潜らせカエルのパペットを突き出した。

 

『スプンタ、そんな失礼な口を訊いちゃダメだよ~』

 

『うるせぇアンラ! おれにそんな口訊けんのか!』

 

 パペット同士の可愛らしい喧嘩が始まった。

 ちっちゃな手でパタパタと叩き合う可愛らしいものだった。

 響達はその小さな喧嘩をモルガナが人見知りがどうにかして他者と接点を持とうとしている努力に見えた。

 子供なら人見知りを起こし時期もある。モルガナは今その時期にある、そう思った。

 

「大丈夫だよ、モルガナちゃん! お姉ちゃんが絶対に守ってあげるからね!」

 

「そうよ。私たちがモルガナちゃんを守るんだから」

 

 響は笑顔でモルガナの頭を撫でた。

 未来は笑顔を浮かべて屈み、モルガナの顔を覗き込んだがその表情は無表情であった。

 モルガナは二十分ほど歩き目的とする場所に着いた。

 そこは養老院でイギリス政府関係者の医療施設でもあった。

 入り口は医療施設と言うよりは響が宿泊した高級ホテルのような様相であった。

 ふかふかのカーペットに綺麗な調度品の数々、本当に医療施設なのかと疑うほどだった。

 しかしここは純然な医療施設でありここにいる人間は――金を掛け豪勢な《死》を迎えようとしている利用者たちの場所であった。

 使い切れぬ金の最後の使い方は、豪勢な場所で、最高峰の医療機器で延命し、決して延びない寿命に資金を浪費しならが死ぬ。そう言った贅沢が出来るほどの財力を持った人々の最後の場所であった。

 すれ違う利用者の一人。

 虚ろな表情で車椅子に座り、鼻から伸びたチューブがシューシュート音を立ていた。

 別の場所ではその場に根を張ったように座り続け、灰皿には山と刺さったタバコの吸殻に更にタバコを刺す老人がいた。

 更に別の場所には狂ったように絵を壁や床に掻き殴る老婆がいた。

 まさにここは誰にも迷惑を掛けても誰からも許される最後の安息地だった。

 モルガナはある一室に入る。

 そこには無数の医療機器、無数の薬品が吊るされ、無理やり()()()()()()()いると言った表現が当て嵌まってる老人がベットの上に寝ていた。

 もう寝返りも打てず、人の手で転がされ、腕に繋がったチューブからは成人男性が必要とする一日分の栄養素を注入して、口から食物を得る事が出来なくなった、まさしく動くことも、声を発する事のない《生きた屍》の状態の老人がいた。

 

「ミス・モルガナ。よくぞ来てくれました」

 

 部屋の隅で機器の表示を見ていた白衣の男性。

 バインダーを机の上に置き右手を差し出すが、モルガナの左手のパペット『スプンタ』が手を遮り喋った。

 

『この爺まだお迎え来てなかったのか! しぶといやつだ!』

 

「そういう発言はお控えください。動く事も喋ることも無いにしろ、意識は確りとあるのですよ」

 

『生き汚いとはこの事だ、わざわざ延命に錬金術まで使うなんて!』

 

 白衣の男性の表情が曇り、私たちへと近づいてくる。

 

「困ります。発言に問題がある方とは訊いていましたが、親族の方々に訊かれなくて良かった……」

 

 男性はモルガナを非難するように私たちに言うが、実際こんなモルガナがする事なんて知る由も無い。

 

「す、すいません。私たち今日初めて彼女を警護してるんで」

 

「――そうでしたか、失礼」

 

 モルガナは老人の寝るベットに近寄り、二匹のパペットをかざして術を使い始めた。

 まるで踊るようにパペットたちを動かし、赤青黄緑と四種の粒子が分子図的絵柄を構築してゆく。

 

「あの、すいません」

 

 未来が男性に訊いた。

 

「モルガナちゃんは、どういった治療を」

 

「ええ、私もつい先日聴いたのですがね。忘却治療と」

 

「忘却治療?」

 

「思い込み治療とも訊いてます。錬金術の技で肉体から病魔の記憶を抹消する。もちろん、病魔は消えることはありませんが、今まで病魔に負けていた免疫が、負けていた原因を忘れ、反撃を強めるという治療だそうです」

 

 そう、体から病巣に負けていた記憶を消し去り、免疫が反撃していた頃を思い出させる治療。

 要は思い込みを利用した治療なのだ。

 とある統計で『自分は肺に重い病気を抱えている』と思い込んでいる人の死亡率は、そう信じていない人の四倍に上るのだという。そして肺の治療によく効く薬を処方、その薬は肺治療にはまったく効力の無い薬にも拘らず飲んだり注射したら効果が増すというのだ。

 まさしく思い込みで、人の免疫が活性化したのだ。

 その逆も然りだが、モルガナはその思い込みの治療を用いてこの老人を延命させている。

 しかしながら、この老人は特にという病気には罹っていない。

 強いて病気と言うのなら、いや、病気というよりは呪いだが――老衰を罹っていた。

 いつ死んでもおかしくない状況に、僅かに活力を与える対症療法に過ぎなかった。

 

『治療完了だぜ。さっさとあの世にいって楽になっちまえよ爺』

 

『もう駄目だよ~、そんな言い方しちゃあ。ねえスプンタ』

 

 

 

 

 

 

 老人の治療を終えて、別の病室へと向かう。

 モルガナは男の説明をまるで聴く気が無いようで、その代りにその説明を訊いていた。

 

「次の方は、少々特殊な事例です」

 

「特殊、ですか」

 

 響は訊き返す様にそう訊いた。

 

「ええ、一ヶ月前まで末期の癌で先ほどの方と似た状態だったんですが。数週間前からその癌が理由もなく死滅し始めたんです」

 

「そんなこと有り得るんですか」

 

「有り得ません、絶対に。こればかりは私の目から見ても『奇跡』ですよ」

 

 男は少々興奮したように言葉を続けた。

 

「私も、そんな奇跡を目の前にしては調べずには要られません。血液検査から何から何まで試したんですが、がん細胞は何一つ見当たらなかった。唯一見つかった変化は、彼女には無かったはずの特殊なテロメアだった」

 

「テロメア?」

 

 未来は訊いた。

 

「染色体の端末部の事です。分かりにくいのなら遺伝子と思ってもらって構いません。――そのテロメアなんですが、なんと彼女が今までもち得ていたものとまったく別種のモノと取り変っていたんです。テロメアは細胞の老化に深く関ってくる。彼女のテロメアはまさしく老いから解放されている」

 

「言っている意味がぜんぜん分かりません」

 

 響は真顔で訊き返す。

 致し方ない、響の脳みそを8ビットのゲームとしたら男の話した内容は64ビットも必要。

 もっと簡単に言えば知能指数が決定的に足りていないのだ。

 苦笑いを浮かべる未来は首を捻りうんうんと唸る響を眺めながらモルガナに続いた。

 荒々しく扉をあけるモルガナ。

 響を宥めすかす時に不意に視界の端にどこかに記憶の琴線に引っかかる顔があった。

 

「なんだ、そんなに激しく扉を開けるでない。驚くではないか」

 

 それは美しい金髪であった。

 背筋はピンと伸び、ゆったりとした衣服を着ていた。

 病室の窓際に座り手にもった本を閉じた。

 

「――――」

 

 言葉が出なかった。

 

「うん? 見ない顔が二人もいるな。よろしく頼む私は――」

 

 彼女は――

 

「アイリス・スタンフィールドだ。よろしく頼む」

 

 J・S(ジル・スミス)その人であった。




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