Bloodborne×このすば!   作:メスザウルス

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アクセルの街1

 ここはアクセルの街。

 世にも多くの冒険者の卵が生まれる場所であり、その街にはクエストで外門を行き来する多くの冒険者で賑わっていた

 吐気がしそうなくらい、と言うわけではないが、しかし多くいることには変わりはない。

 

 始まりの街であるこの街のギルドは多くの新人が募る場所であり、そこで張り出されるクエスト難易度もそれほど高いものは一部を除いて余りない。

 故に、まだレベルも低い新人がここで経験を積み、一流の冒険者となって、世界へと羽ばたいていくのだ。

 

 

ーーそんなギルドの一角。

 

 

 クエストの受理受諾、食事や酒を楽しむこともできるそのエリアの隅っこに、一つの影がポツリとあった。

 両の手を胸前で組み、片膝を薄汚れた床につけ、静かに祈りを捧げる者。

 聖堂でも礼拝堂でも教会でも無い、荒くれ者が多く居るギルドで祈りを捧げるなど何処の大馬鹿者かは分からないが、異端であることはすぐに分かる。

 

 

 見た目は騎士のような、顔全てを包む兜で覆われており、緑のブローチが光る貴族服を身につけ、足には甲冑、腕には焦げ茶色の皮のような手袋に、紐が歪に巻かれており、その姿は些かどころではないほど不気味に見える。

 だが幸いにもそんな偏屈な格好でもこういったギルドではあまり珍しくはない。

職業というシステムがあり、その中には聖職者が存在する。

 ゆえに熱心な神の信者などはよくこうして祈っている者もたびたび確認されているのだ。

だが、それでもこの者は異端であった。———それはなぜか?

 それは騎士の前に置かれた一個の器が原因であった。

 

器の中を覗き見てみると中には数百エリスが入っているのだ。

 

 

 一体なんのためにそんな物を置き、そんな事をしているのか。

 

 

───ひとつ、こちらに向かう気配を感じ取った。

 

 

1人の冒険者が騎士の前に立ち止まると、その皿の中に10エリスの硬貨が投げ込まれ、そんな金に貪食な器は一瞬でその腹へと硬貨を飲み込んだ。

チャリンと、コインがぶつかる特有の音がなり、その皿の中をまた少し満たす。

 

————彼は物乞いであった。

 

 人に金を恵んで貰わなければ生きていくことも出来ない、意地汚い物乞いであった。

 しかし、騎士は己に慈悲を贈った礼をすること無く、ただただ無愛想に祈り続け、その様子を見た冒険者はどう思ったのか、特に何かを言うことなくその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

「なぁ、アクア。 ずっと気になってたんだが、アイツって何してんの?」

「むぐ?」

 

 

 その様子を遠目に、席に座りながら眺めていたカズマは、頬いっぱいにカエルの唐揚げを頬張っているアクアに尋ねた。

 カズマはこの席に着いて1時間程経つが、それには既にあの場所で祈りを捧げており、そのままピクリとも動かず、ずっと静止しているのだ。気になって仕方がない。

 アクアはカズマの視線をなぞる様に見ると、コクンと首を傾げる。

 

「んぐっんぐっ、ぷっはぁー。 さぁ、知らないわね。と言うか誰よあの変な兜。だっさ」

 

 口にある物を咀嚼し、手元にあるジョッキに入ったシュワシュワと共に一気に胃へと流したアクアは、祈りを捧げる騎士を不機嫌に睨みつけながら、トゲの含んだ言葉を返す。

 いつにも無く機嫌の悪いアクアの様子に、原因が分からないカズマは小首をかしげた。

 

「なんでそんなイライラしてんだよ?もしかしたらお前に祈ってんのかもしれないぞ?」

「アレはアクシズの祈りじゃないわ。また別の祈りよ。 私の前でほかの神に祈るなんて、いい度胸してるじゃない」

「それくらい良いだろ。 誰が誰に祈っても関係ないし、せめて心の中くらい好きにさせてやれよ。 少なくともオレはお前にぜってー祈らないけどな」

「ーーー滅するわよあんた。 とにかく、あんなの祈りでもなんでもないわ。ただの冒涜よ。 どんな神に祈ってるかは知らないけど、神聖な祈りで物乞いなんて不敬にもほどがあるわ! それにあんなのでお金貰えるとかずるい!! 私がどれだけ働いてるかも知らずにっ!」

 

 

 プンスカプンと怒るアクアは、後半がほぼ本音だろうが、その意見は全く正当であった。 祈りとは神へ捧げる物であり、決して金銭を貰うためなどに使われるものでは無い。

 その行為は神を金稼ぎの道具に使っているのと同等であり、神の存在その物の冒涜である。故に、多くのエリス教の信者は祈る騎士に金ではなく侮蔑の視線を投げつけている。

 

「落ち着け。 あんまり余計なことは言わない方がいい。 ───見ろ」

 

 怒るアクアを宥め、ダクネスは騎士へと視線を向けさせた。

 

「兜などは見覚えはないが、あの服装は貴族の者だろう」

「貴族ぅ? あっはは! 考えすぎよダクネス。 貴族なら物乞いなんて必要ないじゃない」

 

 あのポーズからピクリとも動いていない騎士に人形のような印象を受けながらも、小綺麗なその姿からその正体を模索し、貴族ではないかとあたりをつける。その理由は、服装だけじゃない。その佇まいが一番の理由であった。

 そこいらの貧相な物乞いに、あのような完璧に洗練された祈りなどできるとは到底思えないのだ。

聖職者ならば、あんなところで物乞いなどする必要はない。なぜなら、数多のパーティーで回復役というのはとても貴重な存在であり、引く手あまたにされている。あぶれることなど、そうありはしない。

では、その正体は一体なんであるか。

もしもそれが、自分と似た境遇であるのならばーー

 

故に、ダクネスは貴族ではないかと言ったが、そんな言葉をアクアがケラケラと笑った。

ジョッキに入った残り少ないシュワシュワを傾け、一気に飲み干す。

 

確かに、アクアの意見も最もだ。

貴族とは国に仕え、社会の上流にあり、社会的に特権を持つ階級に属する人であり、家柄の高い人物を指す。 かの騎士が本当に貴族であるならば金に困ることなどなく、物乞いなどという小汚い真似をすることは無い。

そもそも、貴族がそんな真似をしようものなら一族の恥と勘当されてしまうだろう。

 

だが、と、ダクネスは横目で騎士を見る。

 

アクアはダサいと言っていたが、あの巧妙に刻まれた兜の模様といい、上質な服装と言い、どれもダクネスから見て相当地位の高い者が身に付けるものだと分かる。

値段など、ヘタをすればそこいらの家よりも高いかもしれない。

そんな者をただの物乞いと片付けるには、些か早計な気がするのだ。

 

 

 

「────っっ……。 あー! もーガマンできない!ちょっと文句言ってくる!!あんなのが近くに居たんじゃ楽しくご飯も出来ないわ!」

 

 

ダクネスが思考に浸っていると、前方に座っていたアクアがテーブルをバンッ!と叩き、騎士の元へ早足で歩き出した。

相当キているのか、その足取りはズンズンとしており、アクアのイライラボルテージが限界突破したのだと分かる。

咄嗟に面倒な気配を悟ったカズマとダクネスは声をかけるが、当の本人は全く聞こえていないのか、その足取りは止まることも萎えさせることもなく騎士の元へと突き進んでいった。

 

1度決めたら止まることの知らない暴走機関車の様なアクアにゲンナリとした表情を浮かべるカズマは、もう諦めたのか自分の皿に残っている唐揚げを食べ始めた。

 

「お、おいカズマ。 いいのか?」

「良くないに決まってんだろ。 でもアイツって言っても止まんねぇし、それに今回は向こうも悪いからなぁ」

 

はぁ…。と疲れた吐息を漏らすカズマは、知らない人だから関係ありませーん作戦を取ったようだ。

アクアはもう既にカズマのパーティーと言うのは知れ渡っており、他人のフリなど通じないだろうと思ったが、そこはあえて言わない。

 

いつものカズマなら直ぐにとっ捕まえる勢いでアクアを止めていただろうが。しかし、今の自分達はクエスト帰りで疲れており、あとは帰って寝るだけの間に『新たな面倒事』などという予定は入れたくなかった。

幸い、相手は物乞いをする様な身分の低い騎士風の者。 アクアが少し注意する位でどうということも無いだろうと考えたのもあり、あまり強く止めなかったのだ。

 

「ただ今戻りましたー」

 

すると、今まで席を外していた最後のパーティーメンバー、めぐみんが戻ってきた。

 

「おー……めぐみん」

 

おかえり。と言う意味を込めて名前を呼ぶが、呼ばれた本人はカズマを見ると少し呆れた表情になって、自分の席に腰を落ち着かせながら口を開く。

 

「カズマ、何をくたびれているのですか? たかだかジャイアントトードを狩ったぐらいで」

 

どうやら先程のクエストで相当のびていると思われたらしい。

確かにそれも疲れの一つであるが、カズマは精神的にも疲れているのだ。

何も知らないめぐみんに事の経緯をダクネスが話すと、めぐみんは騎士の方へ視線を移した。

 

多くの冒険者の声で掻き消されているのかアクアの声は聞こえないが、しかし遠目で見る限り祈りを捧げる騎士に怒鳴り散らしているのだと分かる。

しかし、全く相手にされていないため、酒により赤くなっていた頬を更に赤らめ、プルプルと震えていた。

 

めぐみんは既に呆れている表情を更に呆れさせ、右手に持ったフォークでトマトを刺し、口に運ぶ。

 

トマトのツルツルする表面を舌で舐め、口の中でコロコロと飴玉のように転がし、最後に奥歯で潰すように噛む。

甘酸っぱい味が口に広がり、少し酸っぱすぎる気がするが、それでもフレッシュな味わいで前菜には丁度いい。

 

 もぐもぐと、自身の料理に手を付け出しためぐみんを見て、ダクネスは頭を抱える。

どうやらめぐみんもカズマと同じで、他人のフリを取ったようだ。

 なんとも薄情なパーティーメンバーなのかとも思うが、アクアが持ってきた厄介ごとは一つ二つでは収まらない。それも軽い物から重い物までなんでもございますよと言わんばかりの数々。もう腹いっぱいと達観した姿勢で見ているつもりかもしれないが、めぐみんも持ってきた面倒ごとはかなりあると思う。

 

 モゴモゴごっくんと料理を胃に収めながら、ダラーと眠そうにしているカズマにめぐみんは続けた。

 

「だいたい、そんなに疲れるくらいなら私の爆裂魔法を使えばすぐに終わるのに。わざわざ一匹ずつ倒さなくとも良かったではないですか」

「そんな事してたらいつまで経ってもオレの経験値がうまくならないんだよ。 いっつも雑魚処理はお前がやるからお前ばっかりレベルが上がって行くし」

 

 カズマはこのパーティーのリーダーであるが、その役目は主にブレイン。つまり司令塔である。故に、いつも指示ばかりを飛ばしてアクアやめぐみんにトドメをさせていたせいで、自身は全くレベルが上がらず、リーダーである彼が1番レベルが低くなってしまったのだ。

 故に、今回はめぐみんの爆裂魔法を使わず、手間をかけ一体ずつ相手取っていたのだ。

 

 そんなこと気にする必要など無いのに。と思うめぐみんであるが、そこはやはりカズマも男の子。多少の意地を張っても仕方がないだろう。

 

 やはり異世界に来た以上は魔王を倒すために強くなりたいし、金持ちになりたいし、何よりも女の子にモテモテうはうはハーレムを作りたい。

 こんなゲテモノパーティーでなく、もっと理想の女の子達と一緒に過ごしたいのだ。

 

「はぁーあ…」

「「────?」」

 

 多大なガッカリ感を含めた溜息を吐き出し、2人はそんなカズマの様子に首を傾げる。

カズマのゲス思考などつゆも知らない2人を差し置き、もう耐えられないとボソリと呟いた。

 

「まともな美少女と冒険したい…」

「おい、それは私たちがまともでも美少女でもないと言っているのか? いったい私たちのどこがまともじゃないのか聞こうじゃないか!」

 

 容姿も中身もバカにされたと感じためぐみんはカズマにつっかかる。人としても女としても侮辱されたのだ。怒らないわけがない。

 しかし当の本人は「へいへい」と聞き流しているため、こうなったら腹いせにカズマの恥ずかしエピソードをこの公衆の中、大声で言ってやろうと思い、大きく息を吸い込む。

 

「プキュッ!?」

 

しかし、それは叶わなかった。

突如として自身の危機を察したカズマは、めぐみんの口を手で鷲掴み、その口から放たれる音波を塞いだのだ。

 

「ふんっ、甘かったなめぐみん。 お前がそうするだろう事は読んでいた! あれだけお前らと一緒にいたんだ。何を考えてるのかくらいすぐに分かる!」

 

ドヤ顔でそう語るカズマに、めぐみんはキッ、と睨みつける。

 

「もごご、モゴモゴ、モゴゴモゴ?(では、私が何を考えているのか、わかりますか?)」

「ふっ…それくらい分かるさ」

 

酒が入っているのもあるのだろう。カズマは髪を掻き揚げイケ顔(カズマ個人の感想です)を作りながら、めぐみんの心を言葉に表す。

 

「爆裂魔法を撃ちたい、だろ?」

「もごごご(違います)──んん!?」

 

 無抵抗な少女の口を押さえつけるという犯罪臭漂う絵図らを、羨ましそうに眺める女騎士。

 このパーティーの周りには幾つも席が空いており、しかし誰も近くに座ろうとしないのは、この者達が変人の集まりと察しているからかもしれない。

 

「んー!んーん!」

「なんだよめぐみん。 急に慌てだして」

 

ーーしかし、世の言葉には類は共を呼ぶという言葉がある。

 こんな変人パーティーに近付こうという輩は、よほどの物好きか、それとも類に当たる者か。

 

「カズマさーん! カズマさーん!」

「ああ? なんだよアクア。 さっきの騎士とはもういいの、か……」

 

ーーガシャン、と鎧が鳴った。

 カズマの目に映るのは、先ほど祈りを捧げていたあの物乞い騎士と、その騎士の後ろで笑顔でいるアクア。

いつの間に仲良くなったのか。そして一体いつからいたのか、騎士はカズマの僅か数センチ程度の距離しかなく、座っているこちらを見下ろす様に、騎士はその兜の奥からカズマ達を見ていた。

 

 その身に纏う歴戦の兵士の圧に、めぐみんと共に顔を青くさせるカズマ。

しかし、やはり神は意地悪なのか、今にも恐怖で漏らしながら倒れそうなカズマに追い打ちをかける様に、アクアは言った。

 

「今から私たちのパーティーに入る事になった、狩人のイズちゃんよ! ほら、イズちゃん挨拶して」

 

ーーこの者、血の匂いを漂わせ、他者を狂わせる臓物に塗れた狩人。

その手に滴る血の一滴は、決して一滴ではなく、濃密な鮮血を凝縮したものである。

死に呪われ、死を愛し、夢に生き、夢に死んだ、小さくも哀れな上位者。

 

 

 騎士はアクアの言う通りに手を胸に置き、ゆったりとした動きでカズマ達に頭を下げた。

 

 

「───死すべし」

 

 

それが、この騎士の第一声であった。

 




主人公の装備

カインの兜
マリアの狩装束
鴉羽の腕帯
カインの足甲

ステータス

過去{生まれるべきではなかった} 

レベル100
体力  10
持久力 30
筋力  10
技術  50
血質  40
神秘  9


血質技術系主人公。
攻撃なんか、すべて躱せばいいよね理論を胸に刻み、躱す前提のステ振り。
どんな攻撃でも一撃必殺になってしまう豆腐(物理)主人公。

顔を隠せる装備は大体好き。

*女の子です。

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