私はこれからもこの啓蒙を使い、己が糧とし、更なる力(投稿)が出来るようになるだろう。
私はこの豆腐主人公を更なる高みへと押し上げるのだ。
快晴。
雲など一つとしてない、青々とした空が広がる晴天。
ニコニコとひたすらに笑顔を振りまく太陽に、草原をなぞる様に吹くそよ風は、正に人の心を穏やかにするには絶好の天候であった。
「いぃいいぃやぁぁあぁあぁああぁぁっ!!!」
風を裂き、耳を穿つ甲高い悲鳴が当たりへと響き渡り、その発信源と思わしき少女の顎からは、大きな汗水が滴っていた。
「イヤっ、イヤっ、イヤぁっ! もうヤダあぁぁあ!!」
その水の象徴する様な青髪を一心になびかせているのは、水の女神、アクア。
大きく腕を振り、ダダダダっ!と草原を踏みしめ駆けて行く姿は、とても鬼気迫る勢いだ。
その凄んだ表情からは、今までに無い必死さを感じ取れる。
───ダンっ ダンっ ダンっ
その少女の後から、一歩遅れてくる振動。
巨大な体格に付く滑らかな脂肪がブルンと震え、跳んでは着地するという移動法をしている緑の巨体。
その名も────ジャイアントトード。
「し、死すべし…っ」
イズは軽く後退りながら、離れた場所でその様子をカズマたちと共に見ていた。
何度も何度も転びそうになりながら、必死に逃げるアクアの姿に、何度も助けなくていいのかと視線をカズマ達に送るが────
「………」
「ぼー」
めぐみんは暇そうに雲を眺めており、リーダーのカズマは腕を組み、余裕にも仁王立ちでアクアの様子を眺めている。
そして、ダクネスは────
「おい!私はここだぞ!! 早くその舌で私を─── あっ、おいどこへ行く!? 待ってくれぇえぇええ!!」
何をしているのか、何が目的なのか、ジャイアントトードの前で両腕を広げて挑発しているが、当のジャイアントトードはダクネスに目もむけることなくダクネスの前から去って行き、ダクネス自身も追いかけて行く。
これが既に当たり前となっているのか、たいして何も言わないメンバーの様子に、イズはドン引きだった。色々ツッコミどころは満載だが、とにかく全てを混ぜ合わせた上でのドン引きだった。
「はひっ…! し、ぬっ…! そろ、そろっ…むりぃいぃ!!」
息を切らせながら、ぜひっ、ぜひっ、と逃げるアクアの背後には、先程では1匹だったジャイアントトードが4匹に増えており、踏み潰されんと必死で逃げるアクアがとても不憫で仕方がない。
「よーしめぐみん。そろそろ準備よろしく」
「来ました!! ではとくと見よ!!特にイズは目を見開いて、その脳に焼き付けてくださいね!!我が奥義を!我が爆裂を!」
嬉嬉として目を輝かせるめぐみんの姿は、先程の空を眺めていた時とは真逆のテンションへと変わっており、今度はどんな鬼畜を指示するのか、イズはカズマへ冷たい視線を送る。
アクアに囮役をさせた時の表情は、正しく鬼畜と表現するほか無かった。初めは嫌がっていたアクアだったが、カズマに色々言われた後に私をチラリと見ると、ふんすっ!とやる気をみなぎらせ、「イズ、見ていなさい!これがアナタが信仰する女神の力よぉおぉおお!!」と駆け出して行ったのだ。
走っていったアクアを眺めながら、小さく「ちょっろ」と呟いたカズマは正しく鬼畜であると理解した。
思ったよりも腹の黒かったリーダーの姿に、驚きのあまり二度見してしまったのは言うまでもない。
後にカエルへと繰り出された『ゴッドブロー』と言う技はカエルに全く効かず、睡眠を阻害され怒ったジャイアントトードにこうして追い回されているのだ。
そしてめぐみんもめぐみんで私がどうとかそんな事いいから早く助けてあげて欲しい。
アクアが今にもジャイアントトードに下敷きにされそうである。
めぐみんは何かしらのポーズをとった後、杖を構え、天へとその杖を掲げた。
「赤より紅く、黒より暗い深淵の紅蓮よ。我が願いに答えその破壊を地に放ちたまえ。汝が前に群れゆるあらゆる愚者に、その鉄槌を下したまえ。求めるは破壊、淘汰、侵略。零より来たれし天魔は世界を喰らう────」
詠唱が紡がれる。
それが結び、繋がり、列を為して、その意を世界へと現すように、続く言葉に答える様に魔法陣が空へと浮かんだ。
紅く発光し、突風がマントを揺らし、文字通り魔力の奔流がめぐみんを中心に吹き荒れた。
「───轟け! エクスプロージョン!!」
────最後の一節が、告げられる。
いや、それは正しく破壊の宣告であった。
辺りに渦巻く可視化された魔力が杖の先へと一点に集まり、収縮し、天に描かれた魔法陣へと放たれる。
魔法陣へとそれが届くと、その魔力に紅蓮が纏い、ゴウッ!!と爆音をあげて地へと放出された。
「ぎゃわぁああぁあぁ!!!?」
空気を焼き、中に漂う水分が蒸発し、巨大な爆炎を持ってジャイアントトードへと殺到する。
地面へと爆裂魔法が当たった瞬間、激しい大地の揺れと共に爆炎が広がり、地面を抉った。
身体が吹き飛びそうな程の暴風が波のように広がり、砂煙とアクアが此方へと飛ばされて来る。
「ッッ!」
その余りにもの衝撃波に、思わず腕で顔を守ってしまう。
荒れ狂う突風に、己も身体が持っていかれそうになり、手に持っていた落葉を地面に刺し、踏ん張る事で何とか吹き飛ばされずに済んだ。
吹き荒れる風がおさまり、上げていた左腕を下ろして見えた先には────
────無惨にも抉れ砕けたクレーターが、綺麗な野原の中心に出来上がっていた。
その中心には焼け焦げた土以外には何も無く、先程まで元気に活動していたジャイアントトードの欠片すら見当たらない。
ゾワッ…と、イズの背に悪寒が走る。
なんという威力であろうか。
私がモロにくらった砲弾、それ以上の威力だ。
あの威力の一撃を、武器も無しにその身一つで成せるとは。
コレならば、あの聖職者の獣も一溜りもないだろうし、体内に紅蓮を宿していたローレンスだって、あの豪炎の前には膝をつくかもしれない。
絶大な威力を誇った爆裂魔法に舌を巻き、放った本人へと称賛の言葉を送ろうとめぐみんに振り向くが。
「ズザー───」
振り向いた先では、当の本人までもが地面に倒れ伏し、なんなら地面の傾斜で身体を滑らせていた。
「────!? 死すべし!?」
イズは突然倒れ伏しためぐみんへと駆け寄る。
一体、何があったというのか!?
ジャイアントトードは先程の一撃で粉浮塵へと変わった。最早この地における外敵は居ないはずである。
それにあの魔物からも十分距離があったし、何かの攻撃を受けた可能性は低いはずだ。
しかし、現にこうしてめぐみんはピクリとも動こうとせず、その地に体を倒れ伏している。
まさか────呪いの類か!?
ありえないとも限らない。
己の命が尽きた瞬間、対象者を衰弱させる物があるのかもしれない。
ここは私の知らない世界だ。
私の常識が通ずる事は無いと、そう心に言い聞かせた方が良い。
イズは直ぐに治療をと首を回し、アクアを探すが────
「おーいめぐみん。肩はいるか?」
「あ、おねがいしまーす」
────何と、気の抜けた声であろう事か。
再びめぐみんへと視線を向けると、いつの間にか近寄って来ていたカズマが、呑気にめぐみんと会話をしながら、めぐみんを背負おうと肩に手を回していた。
「────???」
これにはイズさんもひたすらにクエスチョンマークであった。
一体何をしているのだろうか?
呪いではないのか?
不足の事態ではないのか?
多くの疑問点が浮かび上がり、しかしそれは目の前に映るのほほんとした雰囲気に「異議あり!」と否定され、最早何が何だか分からなくなってくるイズさん。
今すぐにカズマかめぐみんに状況説明を請いたい所だが、一体どうやって伝えればいいのか分からない。
イズに出来ることは、ただひたすらに悶々と状況を見て独自に判断し、理解することでしか状況把握は不可能であり────
「ぺっ! ぶぅえっ! ぺぺっ! もうっ、なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ!! カエルの粘液に晒されなかったはいいけど、今度は土まみれじゃない!」
飛ばされて来たついでに口の中に土でも入ったのだろうか、アクアは何度か口の中の異物を吐き出すと、今自分の状況が気に入らないのか悪態をつく。
「死すべし」
だが、そんな事はどうでもいいという勢いでアクアに説明を乞うた。
なんでもいい、早くこの意味不明なモヤモヤから解き放たれたかった。
「えっ、なに? どうかしたのイズちゃん」
「死すべし、死すべし?」
「ああ、めぐみんの事? 確かに最初は驚くわよねー。 わたしも初めて見た時は固まっちゃったもん」
あははは!と、土で汚れた顔で笑うアクアの様子に、どうやら本当に異常ではなかったらしい。
安心したように息を吐いたイズは、アクアに説明の続きを即す。
アクアはイズの要求に頷くが、直ぐに話すのではなく右手を頭に置き、んむむむーと唸っていた。どうやら説明する言葉を選んでいるらしい。
「ほら、めぐみんの爆裂魔法ってすごい威力じゃない? でもその威力と比例してアレを出すのにはすっごく魔力が要るんだけど、めぐみんにはまだ魔力量が足りなくてね。限界を超えて撃っちゃうから立てなくなるほど衰弱しちゃうのよ」
「死すべし…」
なるほどと、イズが頷く。
ここに来てようやく状況を把握することが出来た。
つまり、めぐみんのアレは一種のスタミナ切れであり、自分が回避行動の取れない時と似ているのだ。
故に周りは騒がず、こうして落ち着いて居られるということか。
自分にはまだ魔力という概念が分からないのでいまいち理解したかといえば怪しいところであるが、近いところまで来れているのならまあいいだろう。
イズは一言「死すべし(ありがとう)」とアクアに告げると、アクアは「いいのよ!」と、若干胸を張って言った。
そしてふと、イズは気になった。
この世界では、所謂役職というものがあり、その中でもめぐみんはウィザードの中でも上位職のアークウィザードであると聞く。
ならば、あの威力の魔法を撃てるのも頷ける話であり、さぞかし多くの技能を修めているのであろうと、期待した気持ちでアクアに聞いた。
一体、他にどんな魔法が使えるのかと。
「え?めぐみん? めぐみんは爆裂魔法以外使えないのよ?」
「…………死すべし?」
イズの言ったことは分からないが、それでもその纏う雰囲気が、とても分かりやすかった。
いま、イズは、とっっっても困惑している。
爆裂魔法しか使えない。つまりそれはあの高火力の一撃以外使えないと言う事であり、それは傍から観れば、とてもお世辞も言えないほどの死に急ぎ野郎である。
例えるなら、あの燃費の悪い大砲のみで上位者を倒しにかかると同じくらいの…いやそれ以上の無謀さだろう。更に一度撃てば暫く動くこともままならないと言う。
確かに、一撃がデカいというのはいい事だ。
私とは毛色が違うが、他の狩人達は力のみで獣達を蹂躙し、叩き潰したと言う。威力反面、隙はでかいが決まればとてつもない力を発揮するのだ。メリットとしては十分だろう。
しかしそれは、歴然とした継続戦闘能力の高さと、何度でも放てるその利便性にあったのだ。
莫大なダメージを与えられるからと言って、一度はずしてしまえば終わりという分の悪い賭けを嬉嬉として行うめぐみんに、永く獣を狩ってきたイズですら言葉を失ったのだった。
めぐみんへとヘルプに入ったカズマは、アクアと会話をしているイズを横目で見ていた。
昨日、パーティーメンバーとして仲間になり、その実力を見せてもらう事とパーティーに慣れてもらうために今日クエストを受けて来たのであったが、如何せん
初めはこうして俺達のやり方を見てもらい、慣れていこうと考えていたのだが、やはりこんなゲテモノパーティーの戦法は見る者を戸惑わせるのか、言葉が通じるアクアに何度も何かを聞いている。
まぁ、順調に事が運んでいるのはとてもいいこと何だけどなあ、何だがイヤーな予感がするのは何故だろ「ゲコッ」うか。────ん?
「ゲコッて…」
響いた声帯音に、カズマは振り向く。
そこには、とっても純粋そうな瞳でこちらを映すジャイアントトードの姿が────
「よしめぐみん。ここは二手に分かれよう。オレが走るからお前は────」
「何をふざけた事を言っているのですかこの男は!? まさか動けない私を置いて自分だけ逃げようと!? させませんよ、せめて私を背負ってカエルから逃げて下さい!!」
「ばっ、おま、離ろっ。マジで離れろロリっ子こら。 ぐぇえ…っ何これ強!? お前限界超えて魔力使ったくせにやけに力強っ!?」
「私も連れていけぇぇー!!」
すぐさま見捨てて逃げようとしたカズマの首をホールドし、腕と脚を絡めてガッチリと離れないように固定するめぐみんの表情は、とっても必死であった。それもそうである。このまま振り落とされればカエルの粘液まみれになるのは当然、生臭い香りもおまけで付いてくる。ここから風呂場まで粘ついた身体で居るなど最悪の未来でしかないのだ。
カズマはカズマでその腕を引き剥がそうと藻掻くが、思いの外強くホールドされているが故に全く離れる気配がない。
「うぉおぉおおお!!!」
こうなりゃヤケだとめぐみんを背負ったまま前方へと走り出したカズマであったが、なんと間の悪いタイミングであろうか、前方にジャイアントトードが土を盛り上げ這い出てきた。
「マジか!?」
これにはカズマも悪態をついた。
普段とは違う運の悪さに、カズマ自身も動揺しているらしい。
前方に居るでかいカエルが、それに比例してデカいピュアな瞳を此方に向けた。
「か、かかカズマカズマ! 立ち止まっている場合ではありません。右に行くなり左に行くなり何でもいいから早く逃げ────ップゥ!?」
背負っていたはずのめぐみんの言葉が途絶え、少女の体重が背から消える代わりに、ムシャムシャとした咀嚼音が聞こえてくる。
やけに粘りがある液体がべシャリと肩に落ち、振り返った先にはカエルの口からはみ出る少女の足が────
「め、めぐみーーん!!」
急いで喰われた少女を引っ張り出そうと、その足を引っ張るも、足へと垂れた粘液が滑り、上手く力を入れることが出来ない。
しかも背後から迫る巨大な気配に振り返ってみれば、先程のカエルが大口を開けて此方に迫った来ていた。
────あ、終わった
「ゴッド───レクイエムゥゥウゥ!!!」
しかし、それは横からの援護により防がれる。
甲高い叫び声と共に告げられた技名にカズマは目を見開く。
それはゴッドブローに対となるもうひとつの技。ゴッドレクイエム。
女神の愛と悲しみの鎮魂歌を込めた浄化の一撃は、くらった相手は死ぬと言う"設定"の技である。
「ここは私に任せて、カズマさんはめぐみんを助けてあげて!」
「わっ、バカお前、よそ見している場合か!前見ろ前────あ」
しかし言うより早く、アクアもカエルの餌食となり、悲鳴すらあげることの出来なかった女神はあっさりとムシャムシャされる。
何とも颯爽と駆けつけた割に一瞬でやられた女神は、一欠片もカッコイイと思えなかった。
────しかし、助けてくれたのは事実である。
「待ってろ!めぐみん助けたら直ぐに出してやるからな!!」
アクアが呑み込まれる前にめぐみんを救い出し、すぐさまアクアも助ける。
少しハードワークであるが、やれない事はない。カズマは片手剣を抜き、めぐみんをムシャムシャしているカエルをしばこうと振り返るも────
当のカエルは、全身から血を流し、その巨体を地面へと投げ出していた。
「はい?」
一気に緊張していた神経が霧散し、代わりに間の抜けた声と呆然とした雰囲気が感情を支配した。
一体何があったのかと思考を回すよりも先に、ボヨンとカエルの上に降り立った一人の人物に釘付けとなる。
それは銀の美しい兜に血飛沫を浴びた、イズであった。
右手には、長刀に短刀を合わせたような不思議な形をした刀を持っており、血を滴らせたその刃は光を反射し、鈍く輝いている。
「あわわ…あわわわ……っ」
血塗れの左腕の先にはめぐみんが猫のように掴まれており、当のめぐみんは何があったのか、呂律も回らずただただ青い表情でガタガタと震えていた。
イズは、めぐみんをカズマの隣に下ろし、カズマに向けて視線を配ると、今度はアクアがムシャムシャされているジャイアントトードを見定めた。
「────死すべし」
声を置き去りに、その身体は霧のように掻き消える。
さっきまでの位置にいたイズは一瞬でカエルの前まで移動し、先程の上下に刃の付いた刀を振りかぶり、大きく白い腹に槍のように突き刺した。
ズンッ! と言う鈍い音が響き、それだけでどれ程の勢いで突き刺さったのか分かる。
『ひぃいっ!?』
カエルの腹の中からくぐもった悲鳴が漏れる。どうやら先程の刀は中にいたアクアの真横を通ったらしい。ひたすらに怯えた悲鳴を上げた。
イズは身体を回転させると、回し蹴りの要領で刀の持ち手部分を蹴り、カエルの腹を大きくかっ捌く。
アクアを呑み込んだジャイアントトードは苦悶に鳴き、己を仕留めんと動いた小さき者を撃退せんと、長い伸縮性のある舌をイズへと振るった。
どうやらアクアのように体内に取り込むのではなく、長い舌を活かし鞭のように攻撃しようと考えたらしい。
しかし、イズはカエルの舌を腰を折り身体を下げる事で躱し、そのまま腰を落とした体制で右腕を振り上げ構える。
コキキッと指を鳴らせると、先程かっ捌いたカエルの腹から勢いよく腕を突き刺した
「ゲェ"エ"ェ"エ"エ"エ"!!!」
ジャイアントトードの悲鳴が辺りに撒き散らされ、吹き出た血がイズの身体を汚す。しかし大して気にした様子もなく問答無用で更に奥へと腕を突き入れる。
そして、何かを掴んだのか、左腕でカエルを押さえつけ、勢いに任せてソレを引きずり出した。
「ぶっはぁぁあ!!?」
カエルの中から引きずり出されたのはアクアであった。
カエルの粘液と血でデロデロになっているアクアの姿は、まるで出産したばかりの牛のようであったが、当の本人は救出された後、とても凄い勢いでカズマの背へと隠れた。生まれたばかりの小牛はとても元気なようで何よりである。
アクアがカズマの背に隠れるその間わずか2.3秒。
どうやらカエルに食われたことよりも、体外から刀を突き刺され、空いた穴から腕が伸びてきた事の方が怖かったようだ。
「───?」
突然のアクアの疾走に、イズは首を傾げながらも、のんびりした様子でカズマ達に歩み寄る。
なるほど、きっとめぐみんもあのようにして救出したのだろう。
カエルに飲み込まれたと思えば、突如として空いた穴から腕が伸びて来たんだ、それはそれは怖かった事だろう。
突如として見せられたイズの力に呆然とし、驚きで凝り固まった脳みその断片でそんな事を考える。
そして、たとえ動かない脳みそであっても、外からの情報は絶えずその瞳で送り続けていた。
カズマの目に映る、イズの背後で跳び上がろうとしている、未だに息絶えていないジャイアントトードの姿────
「イズ! あぶなーい!!」
カズマは咄嗟に叫んだ。叫んだだけだった。
だが、それだけでも彼の働きは上々だっただろう。
カズマは転生者とはいえ戦いなどとは縁のない日本生まれの引きこもりだ。
何も考えず、身体を動かすなど出来るわけがなかった。
完全にこちらに意識を向けていたイズは背後からのカエルに気が付いていないのだろう。
後を振り返る素振りも見えない。
ただただ兜にある目穴から、此方を見ているのみだった。
────間に合わない
そう思い、カエルにプレスされあの巨大な肉塊と地面に挟まれるイズの姿を幻視し、ご冥福を祈ろうとしたその時────
イズの背後を襲うジャイアントトードが────爆散した
「はぁっ!?」
突然訪れた予想外の死に、カズマは素っ頓狂な声を上げる。
飛び散った肉片が地面にばら撒かれ、その中には若干黒い煙を上げる物もあった。
────時限爆発瓶
イズがアクアを救う際、カエルの体内に置いてきた狩道具の名前である。
複雑な機構を使った、一定時間で爆発するその瓶は、特殊な作りゆえ非効率な狩り道具であるが、ごく一部、搦め手の狩人達に好んで使われていたと言う。
イズもまた搦め手を使う技術特化の狩人であり、この瓶を愛用するのは当然だった。
予想外の連続で開いた口が塞がらないカズマは、不思議そうにこちらを見下ろすイズを、歓喜の瞳で眺めるのだった。
主人公武器
落葉(らくよう)
時計塔の女狩人、マリアの狩武器
カインハーストの「千景」と同邦となる仕込み刀であるが、血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀である。
マリアもまた、「落葉」のそうした性質を好み、女王の傍系でありながら、血刃を厭ったという。
だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた。
暗い井戸に、ただ心弱きが故に。
作者はカイン勢ではありません。マリアとアイリーン勢です!
そして私の初期武器は、杖でした。
時系列:キャベツ前