Bloodborne×このすば!   作:メスザウルス

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1ヶ月投稿とか言ってたけど、目標だからなんの問題もないよね☆

※今回は気分が乗っただけですので、今後ともこのペースで投稿するとは限りません。


ロケット

「冒険者じゃ、ない?」

 

 ダクネスから漏れたつぶやきが、この場にいる全員の心境を語っていた。

 

「ちょっと待ってください。 それだと、イズのあの身体能力の説明がつきません」

 

 しかし、いくらパーティーメンバー仲間だからと言って、それを理解し納得するなどできない。

 めぐみんはイズの力の矛盾について疑問符を上げ、その身体能力の格差について語る。

 

 冒険者とは、レベルという概念によりその肉体を変質、強化させ、通常よりも何倍もの身体能力、魔力、特殊な力を得ることが出来る。

 ほとんど────いや、全ての冒険者はその恩恵を受けて、ようやくモンスターと戦い、日々重労働であるクエストをこなすことが出来るのだ。

 

 しかしアクアの口で、イズはそれを否定した。「冒険者ではない」と。

 それはつまり、スキルやステータスの恩恵無しで、あれだけの動きをしたということ。

 ジャイアントトードの眼前へ、目視で捉える事のできない速度で移動し、その腹をかっさばく。

 到底一般人にはできない芸当であるし、自分達でもそんな事はできない。

 もっと上の冒険者ならば可能だろうが、新米冒険者が集まるこの街に留まるような物好きはそうそういる物ではない。

 

「イズ、前から思っていた事なんだが、お前の一族は、何か特別な存在ではないか?」

「ダクネス、どういう事だ?」

「この世には、冒険者登録などせずとも、その生まれ持った血によって、圧倒的な力を持つ者がいる」

 

 例をあげるなら、めぐみんの一族である紅魔族。

 彼らは冒険者登録などする前から、その生まれ持った才能によって、高い魔力を備える一族だ。

 何も強い力を持っているからと言って、そのものが冒険者とは限らない。

 種族が違えば必然と身体能力にも差が出るし、それが特別とも言える一族であるならば、冒険者でなくともあの身体能力に説明がつくのだ。

 

 へぇ…とカズマは感心した表情でダクネスの話を聞いていた。

 今までの彼女から想像も出来ないような、筋の通った説明とその分かりやすさ。

 根拠としてもなにも引っ掛かるところはなく、推測としては最上と言えるものだろう。

 不覚にも納得してしまったカズマは、「おまえは?」という表情でめぐみんを見た。

 

「……」

 

 カズマと目が合っためぐみんは、静かに首をふる。

 どうやらこいつも納得しているようで、追加で何か口を出そうとは思っていないらしい。

 

 初めからイズの出身に注目し、貴族ではないかと疑問を抱いていたダクネス。

 そんな彼女だからこそ行き着いた答えは、一番可能性が高かった。

 ダクネス自身も「それ以外に考えられない」と確信めいており、かつてない程キリリッとした表情は、とても自信にあふれている。

 その自信は、カズマやめぐみんの表情でさらに助長させているのもあるのだろう。

 

「イズ、お前は、いや貴方は────特別な血族の末裔かその加護を受けた者。または貴族ではないか!」

 

 ズビシィッ!!

 

 そんな効果音が聞こえてきそうな勢いと迫力で、イズに指をさすダクネス。

 ダクネスが指差す事によって、自然とカズマ達もつられて視線が動き、メンバー全員がイズに注目した。

 イズは、何か覚悟を決めたようにゆっくりと吐息を漏らすと、ダクネスへ向き合った。

 

「死すべし」

「『全然違う』ですって」

 

 

 

……

……

 

 固まる空気。

 刹那に冷えた背筋と、顔下から徐々に駆け上がる上気した熱。

 噴水のように湧き上がる焦燥感に、ミキサーでかき混ぜられるように心を乱され、自然と額から汗が滲んだ。

 己の今の状況を少しずつ理解してきたダクネスは、頭から蒸気を発し、目をぐるぐるとさせる。

 

「……」

 

 ガッチリと固まった首を、錆び付いた機械のようにギギギと動かし、右へ向くと、カズマと目が合った。

 

─────カズマが目をそらす。

 

 今度はギギギと左へ向くと、めぐみんと目が合った。

 

─────めぐみんが目をそらす。

 

「頼むから何か言ってくれぇ!!」

 

 うわぁああ!!と目に涙を溜め、縋り付くようにカズマとめぐみんの肩を揺らすダクネス。

 しかし、そんな姿を見ても、彼らにはどうする事もできない。

 

 むしろオレ達にどうして欲しいのか教えてくれ。その通りに動いてやるから。優しく囁いてやるから。

 

 いくら揺すっても叫んでも、一向に目を合わせないメンバーに、ダクネスはとうとう唸りながら両手で顔を覆ってしまった。

 どうやら本当に堪えているらしい。

 こんな手の付けられない変態でも羞恥心があるんだなー、と結構失礼な事を考えながら他人事に眺めるカズマ。

 

 あまりこうされるのも面倒なので、そろそろフォローでもして慰めてやるかと頭を掻くが、それを許さない者がいた。

 

「死すべし、死すべし」

「『なぜ貴公がそんな的外れな推測をしていたのかは知らないが』」

 

「ひぐぅっ!? ま、まとはずれ…っ」

 

 予想外からの追撃に、ダクネスは堪らず悲鳴をあげる。

 

「死すべし、死すべーし。死すべし死すべし」

「『私は貴族でもなんでもなく、ただのよそ者だ。確かに少し貴族のような格好をしているが、私自身まったくもって関係ない。ついでに加護なんかも受けた試しはない』ですって……ブフゥっ!!」

 

 翻訳係のアクアも、ついに内に留めていた物が爆発し、口から噴き出た。

 先ほどからダクネスに気を使って耐えていたが、もう我慢の限界だ。これ以上堪えていられない。

 腹を抱えて苦しそうに笑い転げる姿は、もはや女神の威厳などみじんも感じさせないが、それでも今のダクネスにとっては有効打になりえるらしい。

 ダクネスは「笑うなぁっ!!」と、赤くなった顔でアクアに怒鳴りつけるも、腹を抱えて笑うのに忙しいアクアの耳には届くことはなかった。カズマはその様子を第三者のように達観した目で眺めるのだった。

 

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□

 

 

「えぐっ……ぐ、ぅ…ヒックっ…ぅっ…ぐずっ…うぅ…」

 

「じゃあ、場も落ち着いたところで、イズのあの身体能力と、突然死んだことについて聞かせてくれ」

 

 一旦場も落ち着いて、改めてそう尋ねるカズマ。

 先ほどまで笑い転げていたアクアも今では落ち着きを取り戻して通訳係に戻っており、ダクネスはテーブルに顔を伏せ泣きじゃくっていた。

「まったく落ち着いていませんが…」という声が隣で聞こえたが気にしない。

 仕方ないだろ、このままじゃ話が全然進まないんだから。泣く変態なんか気にするな。どうせすぐ復活するから。

 

「とりあえず、また場が荒れる前に早く話してくれ。特にあの突然死については深く聞かせてもらおうか」

 

 ズイっと前に身体を傾け、凄むカズマ。それはそうだ。時と場所を選ばず突然死なれては堪ったものじゃない。 今度はマジで捕まる。

 しかし、アクアはそんなカズマを流すように手をひらひらとさせ、余裕のある表情で言った。

 

「まぁまぁ落ち着きなさいヒキニート。それも含めて、今から私が説明してあげるから」

 

 若干、と言うかこちらをバカにするような態度にイラッとしながらも、自分までキレたら話が進まないと言い聞かせ、堪えるように席に座り直した。

 この駄女神に偉そうにされるのは癪であるが、コイツがいなければ話にすらならないのは事実。と言うか会話が成立しない。

 だから、耐えろオレ。コイツへの仕返しはまたいつかやればいい。

 

 耐えるカズマをよそに、心地良さそうにイズの言葉を翻訳を開始するアクア。すごい、久々に女神らしい事をしている。既に自分が女神である事など忘れているものだと思っていた。だってほら、寝床が馬小屋だし、借金してるし、何より残念だし。

 何時にもなく女神らしい女神様は、とても違和感があったのだった。

 

 

 

 

 

────私がここにたどり着いたのは、ひとえに偶然であった。

 

「……」

 

 上位者となり、人で無くなった私は、今日も今日で街に蔓延っていた獣共を斬り刻み、皆殺しにした。

 獣の病は、たとえ夜が明けたとしても、その体が人へと戻ることはない。

 変質した肉体は変わることなく、腐った精神が戻る事はないのだ。

 まさに不治の病。もっとも忌むべき風土病は、その脅威も、理不尽さも、留めることをしない。

 

 獣となった彼らは変わらず街を闊歩し、麗しい血肉を求めさまよっている。

 意思のあった彼等は、既に人を殺すだけの機械と慣れ果ててしまった。

 故に、私は今日も今日で狩りをしていた。狩りをしていたのだが。デブの内蔵を引きちぎった時、突然にこの行為に対する虚無感に襲われた。少し分かりずらく言っているが、簡単に言えば飽きてしまったのだ。

 それはなんでもない、ただ己の行動に疑問を持ってしまったがゆえだ。

 

 毎日毎日、切って切って切って切って。

 バカみたいに血を浴びて。

 その微弱な遺志を取り込んで。

 時折彼らが持っていた水銀弾や輸血液を懐に入れる。

 

 もうウンザリだった。

 

 こんな汚れた仕事は、もうしたくなかった。

 

 一体何の意味がある?

 殺して、殺して。

 他に何が残るというんだ。

 

 この街にいるものは獣だけで、人など何処にもいない。

 家の中に避難していた者達も、全ての住人が死んだか、彼らとなった。

 守る者無き今、彼らを狩る理由が何処にある。

 

 

 精神的に軽く病んでいたイズは、もう禁忌の森で大根でも育ててやろうかと思うくらいには疲れていた。

 唐突に何か農作業をしたくなったのだ。花でもなんでも、何か有益な物を育てたい。何かをぶっ殺して(壊して)きた分、何かを収穫し(作り)たい。

 

 言葉を話せるのが人形とアンナリーゼしかいなくなった今、とにかく話し相手に飢えていた彼女は、ついにはそこいらに蔓延る獣にも気軽に挨拶を交わすようになるくらい人に飢えていた。

 「やあ、おはよう!」「今日はいい天気だな!」と声をかけながら慈悲の刃で切りかかるのは、さすがに狂気が過ぎる。笑顔で短剣を振り下ろす姿は、傍から見たら快楽殺人鬼に見えるだろう。冷静に考えて自分でもヤバいと思った。けれども彼らも彼らで「I'll mess up your brain!(お前の脳みそをグチャグチャにしてやる!)」や「Die!!(死ねぇ!!)」と返事をしてくれるから可能性はあると思ったのだ。

 遂にはルーン文字「獣」で仲間に加わろうと試行錯誤するのだが、なぜか全て感づかれ、襲われ、仲良くしようとした獣を細切れにするという負のスパイラルに陥った。

 仲良くしようとした獣を切り刻む。発狂しそうだった。頭が爆発するマジェスティックだった。

 

 それ以降はもう『敵じゃないよ?味方だよ作戦(アイ アム ビースト)』を決起することもなくなったのだが、やはりそれでも割り切ることはできず、寂しさにより更に心が病んでいったのだ。

 

 なので、今日も今日でアンナリーゼのところへ行って、求婚して来ようと思うのだが、何だか灯火で移動するのも気が乗らない。

 たまには違う方法で向かってもいいのでないだろうか。

 そうだそれがいい。ぜひともそうしよう。気分転換に寄り道をしながら、風景を楽しみ、そして城へと向かおう。たまには戦闘以外での感情に酔いしれるのも一興だろう。

 

 そうしてイズはスキップをしながらヤーナム街を歩き、聖堂街へ行き、森を通って、ある柱へと向かった。勿論そこに着く過程で多くの獣共に襲われたが、そんなものはちょちょいのちょいで腸をブチ抜いてやった。

 何度お前らに殺されたと思ってるんだ。どんな攻撃してくるかとかもう分かってんだよ。文字通り身に染みてな。

 それに今の私は昔の私とは違う。

 人を凌駕した目と、経験と、技術、そして血質を持っているのだ。今更負けるわけがない。それに、実際に人ではなく上位者となっているので、本気を出したらもっと強くなれる。殺される方が珍しい。

 

 そんなわけで、今日こそ求婚を受けてもらおうと、イズお手製の招待状で馬車を呼び、城へ向かうべく乗車する。

 きぃ…と音を立て、扉が開く。鉄製のそれはところどころ錆びて黒ずんでいるが、移動に全く問題はない。

 確かに見栄えは悪いかもしれないが、内側はなかなかに綺麗なのだ。このイスも凄く座り心地がいい。ふっかふかである。

 

 問題なく乗車し席に着いたのを確認した馬は、ひと鳴きするとパカラッパカラッと石道を走りだした。

 

 普段とは違う駆け抜けていく風景に、イズは目を輝かせた。

 

 おお、コレは良い。すごく早い!

 窓から見える景色の移り変わりを見て、子供のように興奮した。だがそれも仕方が無いだろう。今までの移動手段が徒歩か灯火での瞬間移動だったのだから。こうして高スピードで流れる風景を観るのは本当に久しぶりなのだ。

 一度この馬車に乗った時は、何か罠でもあるのでは?何処に向かっているんだ?と警戒しながら乗っていたため、風景を見ることなど出来なかったが、もうそうはいかない。今はこのスピード感を思いっきり楽しむのだ!

 そう思い、ルンルンと馬車に乗っていると。急に雲のような濃い霧に馬車全体が覆われ、周りを見ることが出来なくなってしまった。

 前回もそうだったが、この馬車は乗っているとこうして霧に覆われ、晴れたと思えば城前へと到着しているのだ。

 どんな神秘が使われているのかは知らないが、コレではいい迷惑だ。風景を楽しみたい自分からすれば、何故こんな仕様にしたのかと文句を言いたくなる。

 城への行き方を知らせたくないとか、特別な術式を使っているから見せたくないとか、そういうのがあるのかもしれないが私にとってそんな事どうでもいい。早くこの霧をとっぱらって景色を見せろ。ドキドキさせろ。ワクワクさせろ。絶景だと叫ばせろ。

 

 そんなことを思い、悶々とした気持ちでいること数十分。イズは腕と脚を組んで、暇そうに窓を眺めていた。

 馬車の窓には結露が張り付いており、それを使った文字や、かわいい犬の絵が描かれていた。暇になったイズが気分転換に書いたのであろう。狩人となり、上位者となって、幾千と獣を狩るスペシャリストとなっても、その子供のような性格は抜けなかった。

 

 一体いつになったら着くのだろうか。何だか凄く時間がかかっている気がする。けれど、もし何か異常があったとしても神秘が上手く扱えない自分にはどうすることも出来ない。まあ、何かあったとして、死ねば夢に帰るだけなので大した問題ではないのだが。

 

 余りにも暇となり、することも無いので、何かないかと狩装束の内ポケットをガサゴソと探りだした。とりあえず一番に手に着いたのが狩りによく使うスローイングナイフ。

 何千本と投げつけてきたそれは、例えなんども買い替えようとも、自然と手に馴染む。

 時にデカいカラスを撃ち落とし、時にうざったらしい犬をぶっ飛ばし、時に墓石にダーツの様にして投げまくったりした。投げてどこに刺さるのか試すためだったのだが、墓の持ち主に怒られるかもしれない。けど暇だったんだ。仕方ない。お陰でナイフの扱いと命中率が上がったので、とても感謝している。

 

 しかし、今は馬車の中。突然ガタンと揺れ、ナイフを落として足に突き刺さるなんてことがあるかも知れない。

 事実、何度もナイフを落としたことのあるイズは、丁度足先に突き刺さった時の痛みをよく知っているのだ。タンスに小指など笑い飛ばせるほどの苦痛である。もう味わいたくない。

 イズはそっとナイフをしまうと、今度は器を取り出した。

 チャプンと中に入っているのは、真っ赤な血液。

 それは聖杯生成に使われる、儀式の血と呼ばれるものであり、イズが取り出したこれはその中でも最上に当たる物であった。

────儀式の血5

 それがこの血の名前である。

 

 器に入っていた血は、その中央をぐじゅぐじゅと盛り上げると、そこに人面の様な形をとった。

 儀式の血は、そのランクが上がれば上がるほど、そのなかに循環する呪詛が人面となって現れるのだ。

 

「…コォォ…シス…ベ、ジ…」

 

 なんと不気味な声か。血は模った人面から吐息を吐き、なんとも気味の悪い憎悪の声で何かを囁いているではないか。

 

「…コォォ…コォォ…こ、ろ…す…」

「やあ、貴公。久しいな。元気だったか?」

 

 イズはこんな気色の悪い血液に、不快感を感じさせない挨拶をする。

 

「今まであまり出せずにすまなかったな。しかし、こうして落ち着ける場所が無かったんだ。許してくれ。狩人の夢でこうしてお前に話しかけると、人形が哀しい目をするんだ」

「…コォォ…コォォ…」

「ああ、そうだな。悪かった。わたしももう少しお前との時間を作れるように頑張るよ」

「…死ネぇー…」

 

 おぞましい。おぞまし過ぎる。

 もはや狂気の所業であった。

 一体何があってこの狩人をここまで狂わせてしまったのか。

 人形や植物に話しかける以上のイカれ具合だ。

 人の顔に模ったナニカに、こうして普通に話しかけ、普通に会話をすると言う常軌を逸した行動をとるイズは、もう後戻り出来ないの所にまで行っているのかも知れない。

 

 イズは儀式の血5との会話を楽しんでいると、突然、ガタンッと馬車が揺れた。

 今までの移動での揺れではなく、何かそれとは違うものだった。

 

「……?」

 

 イズは突然の異常に首を傾げ、窓を見るが、やはり霧が濃く何も見えない。

 気のせいかと思ったが────いきなり馬車が急停止した。

 

「───っ!?」

 

 いままでの速度が重力となり、反射的に足を前に出し壁を蹴ることによって重圧に耐えた。しかし、停止した反動によって反転した力の向きに対応することができず、椅子の背にたたきつけられてしまった。

 それと同時に、力の影響をきちんと受けていた儀式の血5は、器から中身が飛び出し、イズの顔面へと降り注ぐ。

 

 何とか横転することなく停車した馬車であったが、その中身は大変なことになっている。

 車内は思わず噎せてしまうほどの血生臭いツンとした悪臭が漂うなか、車内の狩人は、まるで石像になったかのように固まっていた。

 

 あまりに急すぎる出来事にイズは困惑し、呆然としたが、それでも一つの事は理解した。

 

────友が、死んだ。

 

「ミカコォォ!!?」

 

 イズは顔面に降り注いだ儀式の血5の名を叫ぶ。

 まさか儀式の血5に名前を付けていたとは。どうやらイズはここまで壊れていたようだ。孤独というのはここまで人を狂気に染めるのか。

 そしてまさかのミカコである。ネーミングセンスのかけらもない。

 あまりにも唐突過ぎる友の別れに、イズは発狂した。

 

 せっかく丹精込めて名前を考え、本人も「……ァァ…ィャダァ…」と喜んでいたのに、こんなことってあるのだろうか。あって許されるのだろうか。

 

 つらい時も寂しい時も、なんだかムラムラした時も、言葉を交わし、共に生きてきたミカコが、こんなにもあっさりとぶちまけられた(殺された)と言う事実が認められなかった。

 この理不尽すぎる現実が許せなかった。

 

「───っ…! うっ…ぅ…っ」

 

 イズは涙を流す。失われた(ミカコ)を思って。

 馬車の乗席で蹲りながら、手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。

 

 しかし、世界はイズに涙を流す時間を与えてはくれなかった。

 

 ウィィン……ウィィン……ガシャッ……ガシャン

 

 止まった馬車から、急に鳴り響く機械的な音。

 音がするとともに揺れる馬車の様子に、今度は何が起こるんだとイズは顔を上げると、

 

────いつの間にか、周りの霧は晴れていた。

 

 窓からは綺麗なヤーナム街が見え、街の明かりは灯っていないが、それでも人の技術力を結集した、美しい町であると思った。

 街には相変わらず獣どもが蔓延っているが、それでも綺麗だと、思った。

 

 イズが街の風景に心を浸らせていると、馬車を引いていた馬がヒヒンと鳴いた。

 いったいどうしたのかと前方を見ると、なんと、馬は何かから避難するように、この馬車から離れていくではないか。

 

「!? ───? ───っ!?」

 

 慌てて引き留めようと声を上げるイズであったが、なぜか己の口は声を発することができず、カインの兜からは荒い息が漏れるだけだった。

 意味が分からない。

 意味が分からなかった。

 上位者となり、啓蒙がカンスト(上限突破)しているのにもかかわらず、今の状況が理解できなかった。

 

 シュゴォォォ!!

 

 しかし、意味の分からない状況というものは続くもので、イズが乗っている馬車の下から、急に何かを噴出する振動と音が鳴り響いたのだ。

 今度は一体何だと見ると、馬車の下から大量の煙と火花が出ているではないか。それも量が尋常じゃない。

 

「!?!?!?」

 

 途端にゆっくりと浮く馬車に、イズの啓蒙からかつてないほどの警告音が鳴り響く。

 これはマズイ。

 なんだかよく分からないが、とにかくヤバい。

 

 イズは慌てて逃げようと扉を押すが、何故か全く動かない。まるで何かに固定されているかのようだ。

 良く見てみると、馬車の周りが青白い何かに囲まれて、出られないようにされていた。

 ガンガンと蹴ったり、タックルを試みるも、貧弱なイズでは破ることは出来ない。

 

 イズの足掻きは結局意味をなさず、ついに馬車はその重量を浮かせ、空へと打ちあがった。

 

「~~~っ!!」

 

 全身にかかる莫大なGが、イズの身体を軋ませ、殺しにかかる。

 イズは堪らず呻き声を上げ、かかるGに必死に耐えた。

 時間が経つにつれ体温は急激に下がり、兜や服には氷結が付く。

 呼吸も苦しくなり、急激な酸欠により意識が朦朧としてきた。

 

 体感で数時間。

 

 無限にも思われた苦しみに、イズが意識を落としかけている中。唐突に、殺しに来ていた身体にかかるGが無くなった。

 フワリと浮く体に、暗くなる視界の先には、数多に輝く星々があった。

 暗い夜に反抗するように光る星は、いつにもなく、美しかった。

 イズは、目の前に広がる神秘的な風景に、やっとあの言葉の意味を理解した。

 

────ああ、本当に、宇宙は空に、あった…ん……だ…………

 

 それを最後に、イズは意識を手放した。

 

 

 




〈今日のBloodborne!〉

儀式の血5(ミカコ)

イズの友達。
手に入れたその日から辛いことも楽しい事も話し、共に理解してきた相棒。と、イズは勝手に思っている。
儀式の血5からしてみれば、そんな事は微塵も思っていないかもしれない。そもそもこちらの言葉を理解していたのかも不明。発する言葉は要領を得ない物ばかりである。
人形は、気味の悪いアイテムに一方的に話しかけるイズを見て何を思ったのか。ただ、哀しそうな表情をしていたと言うのは確かだろう。


馬車

アンナリーゼの居る城へ行く為に必要な、貴族乗車用の馬車。貴族が使う物であるため、なかなか使い心地がいい。
普段は灯火で移動するため今まで使うことは無かったが、今回は気分が乗ったため使用した。
何故かジェットエンジン搭載の物となっており、困惑するイズを(無理やり)宇宙旅行へと誘った。
誰かの悪戯なのか、思惑なのか、なんの意図があってこんな事をしたのかは不明。
エンジンや燃料が何処にあったのかも一切不明である。
結局、何をとっても謎仕様な馬車であるが、体内の空気の膨張によりイズが破裂していないことから、何らかの神秘が備わっていた可能性がある。しかし、上位者となったイズのガッツの可能性も否定出来ない。
結局のところ、何も分からない。
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