沢山の評価と感想とお気に入りありがとうございます。バーが赤くなった時は一人で悶えてました
俺は女性不信である。その為に人通りの少ない早めの時間帯にひまりと一緒に登校するのが俺達の日課だ。
そして、俺が通うのは近所の男子校、ひまりは少し遠くの女子校に通っている。方向が同じとは言え毎日付き添ってくれるひまりには悪いと思っている。 それでも、まだ一人で出歩くのには抵抗がある。それに、こうしてひまりと一緒に登校することを楽しみにしている自分もいるのだ。
「あー!今日英単語の小テストがあるんだった!どうしよう…」
何故今なのかは分からないが急にひまりが慌てだした。
「範囲は分からないのか?」
「えへへ…単語帳を学校に置きっ放しにしちゃってるんだよね」
可愛らしく舌をペロリとだすひまりに呆れてしまった。
「それじゃあどうしようもないか、学校に着いてから頑張れよ?」
「うー…昨日のうちに気づいてたら友達に教えてもらう事もできたのにー」
「もしもの話をしてもしょうがないだろ?実際に気づかなかったんだから」
「現実を突きつけないでー!」
(そう、もしもの話なんてなんの意味も無いんだ。もしもの話に意味があるなら俺はきっとあんな間に合わなかったはずだ。なんて、これこそもしもの話だな…)
おきながら呆れてしまう。そんな時だった。
「あ、ごめんなさい」
見ず知らずの女性とぶつかってしまっていた。謝らなければ、俺はそう思ったがそれ以上の速度で頭の中はあの忌々しい記憶で埋め尽くされていった。
気が付くと俺はどこかの路地でひまりに抱きしめられながらあやすように頭を撫でられていた。
「ひまり…?」
「落ち着いた?」
ひまりは俺を撫でる手を止めずに微笑んでいた。
どうやら運悪く女性と遭遇して呆然として立ち尽くしていた俺の手を引いて近くの路地で落ち着かせてくれていたらしい。
普段は女性と出会っただけでここまで取り乱してしまうようなことはない。ここしばらく出会わずにいたおかげですっかり気が抜けていたり、その為にぶつかってしまった事と謝罪という会話を求められた事などが重なって俺の思考は飛んでしまっていたようだ。
「今朝自立してみせるって豪語したばっかりなのにこの様か。情けなさすぎるな」
「気にしなくていいって言ったでしょ?それに私は好きだよ?お兄ちゃんのお世話」
違うという事は分かっているのに好きという言葉に思わず動揺してしまった。
「そうだ、時間は?」
動揺を隠す為少し大袈裟に携帯を取り出し時間を確認する。思っていたより時間が過ぎてしまっていたようだ。
「もうこんな時間か。大丈夫なのか?」
「平気だよ。それに今のお兄ちゃんを一人になんてできないよ」
平気とは言ったが遅刻しないとは言っていない。おそらく俺に気を使っているのだろう。
「それでもテストがあるって」
「何度も言わせないで。学校なんかより私はお兄ちゃんの方が心配なの!それともお兄ちゃんは私が邪魔なの?」
そんな訳がない。そう答えようとしたが言葉にはならなかった。
ひまりの目に怪しい光が灯っていたように見えたからだ。
「大丈夫?まだ辛いの?」
俺の顔を心配そうに覗き込んでくるひまりの目には先程の光は消え失せていた。
「あ…ああ、俺は大丈夫だ。」
(気のせいか…?)
あのひまりがあんな目をするなんて俺は自分の目を信じられなかった。
「ねえ、今日はお休みしない?どうせ遅刻しちゃうなら1日くらい平気だよ」
「これ以上迷惑はかけたくないんだ。今からでも行くよ」
「お兄ちゃんがそう言うなら良いけど」
そういうひまりはいつも通りの目をしていた。
(いつも通りのひまりだ。やっぱり気のせいだったみたいだな)
そうして俺たちは登校を再開した。先程までと違って時間が過ぎてしまっているから人通りも増えている。だが、これ以上ひまりに無様な姿を見せたくない一心で覚悟を決めていたからか再び意識が飛ぶような事はなかった。
「じゃあ気をつけてね!」
「ひまりも気をつけろよ」
何とか学校に辿りついた俺達は校門の前でひまりに別れを告げていた。
授業はもう始まっている時間で、教師の姿がないことが幸いだった。ひまりが登校しに戻って行くのを見届けると俺は急いで教室へと向かって行った。教師から小言は頂いたが、何とか許してもらえた。
休み時間に入ると俺はクラスメイトの友人に詰め寄られていた。
「授業をサボってデートとは良い御身分だなあ!」
「は?」
「しらばっくれてんじゃねーよ、校門前でピンク髪で巨乳の子とイチャついてるのを確かに見たぞ!どこであんな可愛い彼女作りやがった!というか女性不信じゃなかったのかよ!」
いつも朝早くに出てきているから見られたことはなかったのだろう。ここは男子校だから女子に飢えているのだろう。興奮気味に捲し立てられるように飛んでくる質問に対して
「妹だよ。不甲斐ない俺に付き添ってくれてるんだ」
とだけ答えると。
「騙されねえぞ!あの距離感は絶対家族のものじゃねえよ!」
その言葉を聞いて少し嬉しく思ってしまったのは何故だろうか。
「2人で暮らすようになって長いから普通の家族とは色々違うのかもな」
その言葉はどちらかと言うと自分に言い聞かせる為のものだったのかもしれない。
「そ、それは悪いこと聞いたな」
俺の両親が他界しているのは知っているはずだが、蒸し返してしまったと思ったのか反省した様子だったが
「ああ、気にすんな」
「だったらお義兄さん!妹さんを俺に紹介していただけないでしょうか!」
気にすんなと言った途端にコロッと態度を変えてきやがった。こいつなりに話題の転換を図ってくれたのだと思う。こいつとの付き合いはそこそこ長い。馬鹿なところもあるがきっと根も良いやつなんだと思う。だがひまりとこいつが付き合っているところを想像するというどうしようもなく胸が苦しくなる。いや、こいつに限った話ではない、例えどんなに相手がいい男で、どんなに俺よりひまりを幸せにできる男であったとしても、ひまりを渡したくはないと思ってしまった。
「お前にひまりは渡さん」
「てめーシスコン野郎か!」
こんな風にじゃれあいながらも、すでにひまりは俺にとってただの妹には収まらない存在となっていることを自覚させられてしまったのだった。
放課後、いつものように学校近くの無人の神社でひまりを待ちながらも悩んでいた。
今日の学校でおれはひまりを一人の女の子として見てしまっていることを自覚させられた。最早自分に対する言い訳も浮かばない。
ふと見ると携帯にひまりからもう少しで着くと通知が来ていた。
(やっぱり、この想いを伝える事なんて出来ない)
あくまでひまりは妹なのだ。近親婚は法律により禁じられている。何より、こんな馬鹿げた想いをひまりに押し付けて捨てられてしまう事をどうしようもなく恐れていた。
(この想いは誰にも悟られちゃならない)
そうして、俺が決意を固めたところでひまりの姿が見えた。
「待たせてごめんね」
その言葉に対して返事をすることができずに固めた決意があっけなく瓦解していくのを感じた。
「どうしたのお兄ちゃん?」
呆けたように動かない俺を不審に思ったのかひまりの顔が近づいてくる。
「い、いや、何でもない。ちょっと立ち眩んだだけだ」
俺は目を背け照れ隠しをするように呟いた。その瞬間に己の失策を悟った。
「立ち眩み⁉︎お兄ちゃん大丈夫⁉︎」
案の定ひまりは心配そうにして顔を覗き込んできた。
(俺は何をやってるんだ。立ち眩みなんて言ったらひまりが心配するなんて分かりきっていたじゃないか)
「一瞬だけだよ、気にしないでくれ」
「駄目だよ。しっかり休んでもらうからね!」
「分かったよ。休むから落ち着いてくれ」
有無を言わせぬひまりに押されてしばらく休むことになってしまった。
まあどうせ早く帰ってもひまりと二人きりなのは変わらない。そう思い直して一旦落ち着くことにした。
「なあ、ひまりは好きな人っているのか?」
「いきなりどうしたの?」
駄目だ。やはりひまりと一緒にいると自分を制御出来ない。
「いや、何となく気になっただけだ」
我ながら苦しい言い訳だと思う。
「そっか、好きな人…うーん、今はお兄ちゃんさえいればそれでいいかな」
その答えを聞いてひまりの枷となっている事を改めて認識させられた。しかし、それ以上の興奮が俺を包んでいた。
「そ、そうか、兄冥利に尽きるよ」
「大袈裟だよーもう」
その後もいろいろ話していたが。その興奮を抑えることに気を回していて何を喋っていたかはほとんど覚えていなかった。
卒論忙しくなるので更新頻度はこれくらいになると思います。
完結はさせるつもりなので気長にお付き合いいただけると嬉しいです。