Cannon†Girls   作:黒鉄大和

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初めましてからこんばんわまで。どうも、黒鉄大和です。
今回は僕が日頃書いている大作(ただ長いだけですが)、《モンスターハンター ~恋姫狩人物語~》の外伝作品として、この新モンハン小説《Cannon†Girls》を新連載する事になりました。
恋狩外伝とはいえ、恋狩の世界観と同一というだけで向こうのキャラはほとんど登場しませんし、これだけ読んでも大丈夫なように気遣いながら書きましたのでご安心を。
初めての方はこのCannon†Girlsで僕の作風を知って楽しんでください。すでに知っている方も恋狩とは違った新たな物語を楽しんでください。
それでは早速、新モンハン小説Cannon†Girls、スタートです!


第1話 運のないドジな田舎娘

 大都市ドンドルマ。ここは大陸のほぼ中央に位置した三方を山に囲まれ、一方を巨大な要塞で防御を固めた大陸一の城塞都市。過去に何度か古龍と呼ばれる天災クラスのモンスターから防衛に成功した数少ない都市でもあり、大陸の最高技術や都会の習慣が根付いた、辺境の人間にとってはまさに夢の楽園のような場所。

 ドンドルマは人間と共存、時には敵対するように存在するモンスターと戦うハンター達の街。常駐するハンターも大陸一、訪れるハンターも大陸一。ここを拠点に住み込んでいる者や訪れるハンターの数は一説には1000人を超えると言われている。

 市民も周辺の村や街とは比べ物にならない程住んでおり、様々な技術や文明が栄える大陸一の最新が揃う。その為、訪れる辺境出身の者はその迫力や規模の巨大さに驚くばかり。街中をキョロキョロして何でもないものにも関心を寄せる者がいたらそれは辺境出身者――俗に言う田舎者だ。

 田舎者はバカにされると言うが、ドンドルマはバカにする余力もない程田舎から訪れる者が数多い。そういう意味ではちょっとした大都市よりも市民の受け入れ感情は柔らかい。特に、ハンターに対しては市民は皆とても親切だ。

「あ、あのぉ……」

「へいッ!」

「ひぃッ!?」

 朝市で活気に満ち溢れるドンドルマ中央部に位置する総合市場。今日も元気に畑で採れたばかりの野菜や果物を売っていた八百屋の主人は突然掛けられた自身なさげな声に笑顔が一番、お客様第一、主婦は最大のお客様にして最高のライバルという志を胸に元気良く答えた。

 今日もまた値引き交渉すさまじい主婦との戦い。元気が有り余る主人の声に声を掛けた主は驚いたような、怯えたような声を上げた。そして、驚いた勢い余って尻餅を着いてしまった。

 尻餅を着いたのは紺色の瞳に同色のセミロングをした少女であった。年の頃は十四、五歳くらいだろうか。顔立ちはとても可愛らしいが、金属製のヘルメットを深く被ってそれを隠そうとしている。何とももったいない。素材はいいのだからこれでもう少しオシャレをしたらきっとすごい美少女に化けるだろう。それが主人が少女に抱いた印象であった。

「大丈夫かい嬢ちゃん?」

「は、はいです」

 声を掛けると、少女はスッと立ち上がって服についた埃を払った。そこで改めて気づいた。彼女が身に纏っているのは一般市民は決して纏う事のない戦闘防具。つまり、彼女はハンターという事だ。だが珍しくはない、この街は別名ハンターの街とも呼ばれる程ハンターは数多く、今も市場に素材を求めてハンターがうろついている。

「お嬢ちゃんは、ハンターなんかい?」

 一般市民である主人には彼女が纏っている武具がどの程度のものなのかはわからない。だが纏う雰囲気と身に付けた防具のシンプルさから、彼女が初心者である事はすぐに見抜けた。

「は、はいです。ココル村という……すっごい辺境の小さな集落みたいな村から来ましたです」

 少女はえへへと小さく笑いながら謙遜したような事を言う。だがそれは決して謙遜ではない。ココル村なんて聞いた事もない。相当な辺境の、それも小さな小さな村なのだろう。

 この街に訪れるハンターの多くは名声と金を求めてやって来るものばかり。純粋に人助けがしたい者はわざわざこんなハンター満載の街には来ず、小さな村に常駐する事が多い。という事は、彼女は前者の者。見た限り、名声とは程遠い印象だ。何というか、すごく頼りない。

「わざわざそんな遠くからご苦労だね。ドンドルマに来たって事は、金儲けか?」

 主人の直球な問いに、少女は小さく苦笑を浮かべる。

「大雑把に言えば、そうです。田舎の家族に仕送りをする為に、お金が必要なんです。お父ちゃんが腰を痛めて、働き手がいなくて……」

 少女は恥ずかしそうに言うと、えへへと笑って誤魔化す。何というか、都会の荒波にもまれていないだけあってとても純粋(ピュア)だ。自分にも娘がいるが、こんな心優しい子ではない。

「そうかい、若いのに大変だな。しかし、こんな親思いな子を持つなんて、あんたの両親が羨ましいぜ」

「そ、そんなぁ……」

 主人の言葉に少女はえへへと照れ笑う。頬を赤らめ、ニヤニヤとニヤけてしまう。初対面の自分にこんなにも真っ直ぐな反応をするなんて、田舎者のいい所は人を疑わない点にあるだろう。

「それで、俺に何の用だい? 何か買い物かい?」

「あ、そうでした」

 忘れていたのか、ポンと手を叩く少女。何というか、ちょっとドジっぽいようだ。

 少女はゴソゴソと背中に背負ったリュックから四つ折りにされた紙を取り出した。それはこのドンドルマの地図だ。街道名と主要な建物の位置が書かれたドンドルマ初心者には必需品のアイテム。門付近で役人が配っているものだ。

 少女は地図を広げると、上目遣いに主人を見詰める。そのキラキラとした純粋な視線は、主人の心を見事に射抜いた。そして、少女は恥ずかしそうにこう言った。

「あ、あの。ここはどこなんでしょうか? そして、大衆酒場はどちらに行けばいいんですか?」

 ――ドンドルマ名物、田舎者の迷子見事に炸裂。

 ドンドルマは規模が大きく、しかも街の構造が増築に増築を重ねている為にかなり複雑。住み慣れた住人は問題ないが、彼女のような他所出身の者にはまるで迷路のような街なのだ。市議会では看板を設置したり道にわざわざ道名や道路番号を振ったりして対策をしているが、迷子は後を絶たないのが現状だ。

 主人は恥ずかしそうに言う少女に笑顔を向ける。別に彼にとって迷子に道を教えるのはこれが初めてではない。一週間に一回や二回くらいはある日常だ。

「ここは総合市場通り、地図で言う17番通りで、この道だ。大衆酒場はここを北上して6番通りを右に折れて、さらにこの8番通りで左に折れたらすぐだぜ」

 何とも慣れた感じで道を教える主人。ドンドルマの住人は迷子案内が必需スキルと言っても過言ではないのだ。

 主人の説明を少女はしっかりと聞くと、パァッと笑顔を華やかせた。本当に純粋無垢な子だ。

「あ、ありがとうございますですッ」

 少女は笑顔満開で深々とお辞儀――すると、地図を出したままのリュックはロックされておらず、バラバラと中身がブチまけられた。少女は「はわわッ! はわわッ!」と慌てて散らばった荷物を拾う。周りを歩く人達はそんな少女の行動を笑う。と言っても決してバカにしたものではなく、子供のミスを見る優しい目だ。中には散らばった物を拾って少女に手渡す者もいる。他所者に優しいのがドンドルマ住民のいい所だ。少女は拾ってくれる人一人ひとりに精一杯感謝の言葉を述べる。本当に、かわいらしい子だ。

 ようやく荷物をリュックに入れ終えた少女は改めて主人に深々とお辞儀。今度はしっかりとロックされていて荷物はぶちまけられる事はなかった。

 小走りで走り出す少女。主人はハッとなると「ちょっと待ちな嬢ちゃん」と声を掛けた。少女が足を止めて振り返ると、主人は「これは餞別(せんべつ)だ。がんばれよ!」と言って店頭に並んでいたリンゴを一つ掴むと少女に向かって放り投げた。

「はわわわッ! ブゥッ!?」

 ゆっくりと放たれたリンゴを少女は着弾地点を見誤ったのか、リンゴは構えた手ではなく少女の顔面に直撃した。しかしすぐに地面に落ちる前に慌てて手でキャッチ。

「だ、大丈夫か嬢ちゃん?」

「は、はい。ちょっと鼻が痛いですけど……」

 そう言って鼻をさすりながら、少女は手に持ったリンゴを一瞥して主人の方を見る。

「あ、あのぉ……」

「餞別だって言ったろ? それでも食ってがんばって来い」

 主人の言葉に、少女は最初は戸惑っていたようだが、少し遅れてようやく理解したのか、パァッと笑顔を華やかせると「ありがとうございますですッ!」とお礼を言って再び深々と頭を下げた。そして、振り返って走り出し――何もない所で転んだ。

「お、おいおい……」

 少女は立ち上がると、振り返って主人に照れ笑いを浮かべた後、今度は転ばないように歩いて行った。少女の姿が活気溢れる朝市の人並みに消えるはのすぐであった。それを見送った後、主人は仕事モードに切り替わる。

「らっしゃいらっしゃいッ! 今日も新鮮な野菜や果物を破格の値段でご提供! 見て行って損はないぜ!」

 少女の健気さに心癒された主人は、今日も元気良く一日の商(あきな)いをスタートさせるのであった。

 

 少女――レン・リフレインは歩きながら主人から貰ったリンゴに齧りついた。見た目通り新鮮なリンゴは中はとても瑞々しい。甘い果汁が口の中一杯に広がり、幸せな気分に満たされる。

 遠い辺境の故郷から長旅を経てやって来た大陸一の大都市ドンドルマ。右を見ても左を見ても人だらけ。村祭りの賑やかさの何倍もの賑わいには驚きを通り越して怖いくらいだ。市場に並ぶのは見た事もないものばかりですぐに目移りしてしまう。ここはレンにとっては未知の世界なのだ。

 好奇心がうずく。だが今はこんな事をしている場合ではない。まずは大衆酒場に向かわなければいけないのだから。

 レンは後ろ髪を引かれながらも市場を通り抜けた。先程の八百屋の主人に言われた道順で歩き続け、途中で二回程転倒しながら到達したのは大きな建物であった。石造り技術の粋を結集させたかのような荘厳な作りで規模は最大級。これがハンターズギルド本部。登録している大陸中のハンターを統括するハンター組織の中枢だ。

 頂上付近にはギルドの中枢が置かれ、中央部にはドンドルマに住み込むハンターや一時駐留のハンターの為の宿となっている。そして、自分が目指すのはその一階にある大衆酒場だ。

 大衆酒場は名前の通り大きな酒場だ。ハンターが主に占拠(一般人も入る事は自由だが、あまりいない)しており、ここで戦前の腹ごしらえから戦勝を祝っての宴会、ただの食事や飲んだくれも自由。その為、常にここにはハンターがひしめき合っている。しかもこの酒場で依頼の受注ができるのだから、食事など関係ないハンターも必ずここへは訪れる。まさに、ここはドンドルマハンターの中核を担う場所なのだ。

 何もかもが巨大な建物に恐る恐る入り、これまた酒場にも恐る恐る入るレン。すると、そこには信じられないような光景が広がっていた。

 一〇〇人くらい平気で収容できるような巨大な空間がそこには広がっていた。木製のテーブルや椅子が各場所に点在しており、そこにはそれぞれハンターが陣取って朝食を取っている所だった。これから狩場に向かう者や狩場から帰って来た者ばかりだ。

 村にも酒場はあるが、それは人のいいおばさんが経営する酒場というよりは喫茶店という感じの小さなもの。依頼の受注は村長を経由するというのがココル村の日常であった。その為、ドンドルマの日常は彼女にとっては非日常だ。

 酒が入っている者もいるのだろう、酒場には笑い声に加えて怒号も響き渡っている。ハンターにとって酒場にいる間は朝昼晩関係ないのだ。

 ココル村は夜になると村の中とはいえ出歩く者はほとんどいないのに、さすがは眠らない街ドンドルマ。

 見ると、酒場の客の大半は男であった。これはハンターという職業柄男性の方が圧倒的に多いからに他ならない。正確なハンターの数は不明なのでわからないが、比率としては女性ハンターは男性ハンターに対して二割程にしか満たないそうだ。

 そもそも、ココル村にはハンターは彼女一人しかいなかった。正確には自分の父親がハンターだったのだが、一角竜モノブロスとの戦闘で腰を痛めてしまい、それが原因で現役を引退してしまった。まだランポス程度なら討伐も容易だが、さすがに飛竜討伐は無理だろう。

 働き手である父親が職を失ってしまった為、修行中だった自分がいきなり正式なハンターになる事になった。現在、村には自分と入れ替わりで近くの街から新しくハンターを迎えたそうだ。

 村の安全はこれで一応何とかなったが、家の安全は危機に瀕していた。その為師匠兼父親に自身を鍛えつつ田舎への仕送りをする為にドンドルマへ行って来いと背中を押されてここへ来た。

 今は父親のこれまでの成果による貯金で何とか家族は生活しているが、早く一人前になってたくさんお金を送らなくちゃいけない。レンはその一心で単身ドンドルマにやって来た。

 ――だが、正直もう心は折れそうだった。

 何せドンドルマは何もかもが規格外に大きい。人も多ければ物も多い。当然ハンターも朝早いという事もあるがそれでもこの人数。新人の自分がここでやって行ける自信なんて、全くなかった。

 でも、どうせ今更村には戻れない。笑顔で送り出してくれたみんなに、合わせる顔がないのだ。

 レンは意を決して中へ踏む込む。

 テーブルの間を踊るように見事に行き来し、セクハラしようとするハンターに鉄拳制裁をしている女性達。あれが父曰くギルドが誇るハンターよりも恐ろしいと言われるギルド嬢だ。なるほど、確かに恐ろしい――お父ちゃん、セクハラしてないよね?

 周りは自分よりも何倍も体格が大きな男達。レンは怯えながら肩を小さくして隅っこの方を隠れるようにして移動する。すると、突然肩を掴まれた。

「えぇ?」

 振り向くと、そこには顔を真っ赤にして酒臭い息を荒く吐く男がいた。纏っている防具は自分に比べたらすごいが、それでも下位レベルのものだ。だが、体格は自分の何倍だ。

「な、何ですか?」

 怯えながら問うと、男は「お嬢ちゃんかわいいねぇ。どこから来たんだい?」と優しく声を掛けてきた――だが、その目や口調は確実にいやらしい。レンはビクッと怯える。

「おぉ、お嬢ちゃんもハンターか。どうだい? 俺がドンドルマでの生活を教えてやろうか?」

 顔を近づけられ、酒臭い息が鼻に掛かる。レンはそれだけで酔ってしまいそうでクラクラする。肩を掴んでいた手はいつの間にか背中を回されて腰に当たっている。もぞもぞと尻を撫でる大きな手に、レンの顔は真っ赤に染まる。

「や、やめてください……ッ」

 拒絶しても、力の差は歴然。それに、怖くて大声も出せない。男は調子に乗ってさらに尻を撫でたり太股を撫でたりしてくる。ゾゾゾゾッと悪寒が走り、目には涙が浮かぶ。

「い、いやぁ……ッ」

「――あんた、その子に何やってる訳?」

 振り向くと、そこには自分より年上の少女が憮然と立っていた。桃色のツインテールに碧眼をした少女。身に纏うのは全体的にイーオスと呼ばれるモンスターの赤い鱗と鉄鉱石を組み合わせて作ったイーオスシリーズ。背に背負ったのは巨大な武器。二つ折りされているが、連結すれば優に彼女の身長を上回るであろう武器は内部に砲撃機能を備えたガンランス。名を討伐隊正式銃槍と言う。どちらも下位の駆け出しより少し先くらいの武具だ。

「あぁ? 何だテメェ?」

 男は無粋な邪魔が入った事に明らかに不機嫌そうに現れた少女の方を見る。ツインテールの一方を掻き上げ、少女は男を見下したような目で見詰める。

「無抵抗の女の子に無理やり迫るなんて、男ってやっぱりゴミみたいな生き物ね」

「何だとガキッ!」

 酒が入っているせいもあるだろうが、男は少女の挑発に簡単に乗った。そんな男の単純過ぎる反応に呆れたようにため息を吐くと、レンの手を取って引き寄せた。怯えるレンは抵抗する余力もないし、そもそも男から離れられるのならば何だって良かった。

 少女はレンを背後に置くと、自身よりもずっと大きな体格をした男を睨み付ける。その鋭い瞳は決して男の迫力には負けていない。いや、むしろ勝っている。

「酒を飲む事は別に違法じゃないし構わないわ。でも、酒を飲めば何をやっても許される訳じゃないのよ。一度の間違いで人生の全部を棒に振る気なのあんた?」

「うるせぇッ! ガキの癖に生意気だぞゴラッ!」

 頭に血が上ったのか、男は背負っていた大剣を引き抜こうと構える。それに対し、少女もまた背負ったガンランスの柄を握っていつでも構えられる体勢に入った。そんな彼女の背後で、レンは「はわわわッ!」と慌てまくるばかり。自分のせいでこんな事になってしまったという罪悪感はあるが、だからと言ってどうすればいいかなんて全然わからず、慌てるしかない。

 周りも二人の様子に気づいたのか、視線が集中している。だが誰も止めようとしない、皆ケンカなんて楽しい事を止めようなんて思っていないのだ。ギルド嬢達は判断に困っている様子であわあわとしている。

 そして、男がついに大剣を引き抜――

「はいはい、そこまでよ~」

 そんな間延びした声と共に二人の間に現れたのは一人のギルド嬢。長い茶髪を華麗に流す赤眼の美女だ。周りから見守っていたギルド嬢達が一斉に安堵の息をもらす。どうやら彼女がここの現場責任者らしい。

 ギルド嬢は大剣を引き抜こうとする男の手に軽く手を添えているだけだ。なのに、男の手は全く動かない。顔には素敵な笑みが浮かんでいるが、有無を言わせない迫力がギルド嬢から放たれているのだ。その気に、少女もレンもすっかり呑まれてしまい動けない。

「人に対して武器を構えるのはハンターの基礎中の基礎よ。そんなの師からしっかり習っているはずでしょ? それ以前に、女の子相手に大人気ないとお姉さん思うなぁ~」

 ギルド嬢の言葉に、男は舌打ちすると居心地が悪くなった酒場から出て行った。周りのハンター達はケンカが不発に終わって残念そうに元の喧騒に戻る。それを見て、レンはほっと胸を撫で下ろした。

「あんた、怪我はないわよね?」

 安心し切っていた所へいきなり声を掛けられ、レンはビクッと驚いた。顔を上げると、自分を助けてくれた少女がじっと自分を見詰めていた。まるで南国の海のように透き通ったきれいな蒼色をした瞳だ。

「は、はい……ありがとう、ございますです」

 自分なんかを助けてくれたとってもいい人に向かって、レンは屈託ない満面の笑みを浮かべた。その純粋無垢の笑顔に近くにいた野郎ども数人が撃ち殺されたのは隠れた被害(?)だろう。

 少女もまたレンの笑顔に頬を赤らめてムッとすると「ったく、迷惑掛けんじゃないわよ」と唇を尖らせてそっぽを向く。そんな彼女の態度にレンは「ご、ごめんなさいです……」としょんぼり落ち込んでしまう。

「ちょ、ちょっと何落ち込んでんのよッ?」

 落ち込むレンを見て少女は慌てたようにうろたえる。自分よりも何倍も大きな男に負けていなかった気を纏っていたさっきまでの勢いはどこへやら。そんな二人を見て、仲裁に入ったギルド嬢が笑みを浮かべながら近づいてきた。

「まったく、女の子が無理しちゃダメじゃない」

 ギルド嬢の言葉に少女は恥ずかしそうにプイッとそっぽを向いてしまう。そんな少女の反応に苦笑しながら、ギルド嬢は今回の一番の被害者であるレンに優しく声を掛けた。

「ところで、あなた見ない顔ね。新人さんかしら?」

「は、はいです。出稼ぎで今日ここに来たばかりです」

「そっかぁ。じゃあ本当の本当に新人さんなのね。うふふ、初々しくていいわね。それじゃ、ここでのハンター登録もまだなんでしょ? これも何かの縁、私が手伝ってあげるわね」

「ほ、本当ですか?」

 ギルド嬢の言葉にレンはパァッと満面の笑顔を華やかせた。その世間の汚いものに一切触れずに育ったかのような純粋無垢で真っ直ぐな笑顔に、ギルド嬢の瞳がキラキラと輝く。そして、

「あ~ん、もうこの子すっごくかわいい~ッ。お持ち帰りしちゃいたいよぉ~」

「は、はわわッ!」

 突然ギルド嬢はレンをギューッと抱き締めると、レンのマシュマロのような柔らかい頬に頬ずりし始めた。レンは意味がわからず、とにかく恥ずかしくて顔を真っ赤にしながらジタバタともがくが、その仕草もまたかわいらしくてギルド嬢の抱擁は激しくなるばかり。

 美女と美少女の抱き合うという光景に、数人の野郎どもが楽園へと旅立ってしまったのは(以下略)。

 ギルド嬢がレンを抱き締めていると、他のギルド嬢も集まって次々にレンを抱き締め始める。かわいくて純粋な小動物みたいなレンは、あっという間にギルド嬢達の間でマスコットになったのであった。

 ――その間に、一応レンを助けたツインテールの少女が背を向けて立ち去っていた。レンがそれに気づいたのは、それから少し後の事であった。


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