昼食後はレンに早くこの街に慣れてもらう為にドンドルマの案内をしたエリーゼ。何はともあれ、一度引き受けたからには決して手抜きをせずに全力を注ぐのは実に生真面目な彼女らしい。
ドンドルマという街は大都市だけあって、半日ではとても回れない。とりあえず重要な所を一通り回っただけで夜が更けてしまった。
再び酒場へ戻ると、今度はそこで夕食。さすがに三度目の卵かけご飯を注文しようとしたレンを引っぱたくと、エリーゼは「栄養のバランスも考えなさい」と言ってサラダセットを頼み、野菜嫌いでサラダを嫌がるレンの口に無理やりサラダをブッ込み、自身も軽い食事で夕食終了。
サラダを腹いっぱい食べたせいで若干気分が悪くなったレンを連れて、エリーゼは酒場の上にある宿へ向かう。
灯火がゆらゆらと照らす石造りの廊下を歩く事しばらく、二人は番号の書かれた扉の前に到達。ここがエリーゼが確保している部屋であり、これからレンも一緒に暮らす事になる部屋だ。
中へ入ると、そこはとてもシンプルな部屋だった。床には動物の皮でできた安っぽい絨毯が引かれ、ベッドとテーブルはそれぞれ一つずつ。後はクローゼットと大きな道具箱が置かれただけ。ポーンクラスの部屋は必要最低限なものしか置かれていない。
「うわぁ、ベッドですぅ」
ドンドルマまでの長い旅の間ずっと藁や地面に直接寝たりしていたレンにとって、安物とはいえベッドで寝れるというのは幸せ以外の何ものでもなかった。早速寝転がってみようと思った矢先、エリーゼが先制する。
「ちょっと待ちなさいよ。そこはあたしのベッドよ」
「え、えぇ?」
飛び込む寸前でベッドをお預けされたレン。ベッドとエリーゼの顔を何度も見比べては、ベッドを愛おしげに見詰める。そんなレンに呆れつつ、エリーゼはベッドの横の一角をビシッと指差した。
「あんたはここで寝るのよ」
エリーゼが示した場所を見て、レンはがっくりと肩を落とした。
ベッドの横には申し訳程度に藁が敷かれており、どうやらそこが自分の寝床になるらしい。一瞬前までベッドで寝れると喜んでいただけあって、その差に激しく落胆してしまう。
「こ、ここで寝るんですか?」
「文句言わないでよ。こっちはこの部屋一つ分の宿泊費を払ってる上に、あんたの食事代まで出してるのよ? あんた、居候という身分を忘れてるんじゃないでしょうね?」
「は、はい。ごめんなさいですぅ……」
そう、すっかり忘れていたが自分は居候という身。部屋の一角を貸してもらえるだけでも感謝しなきゃいけないのに、食事までおごってもらっているのだ。わがままを言ってはいけない。
ベッドは名残惜しいが、ちゃんと屋根があってモンスターの夜襲に怯える事だないだけここは十分天国だ。そうポジティブに考えながら、レンはずっと背負っていたリュックを藁の横に下ろすと、藁の上に腰掛けてようやく一息つく。そして、リュックの中身の整理を始めた。一人暮らしをするつもりだったので日用品の類が結構入っている。まずはそれを部屋に置かせてもらう。
部屋をちょこちょこと動き回って私物を置いていくレンを一瞥しつつ、エリーゼはエリーゼで何かの支度を始める。防具を脱いでインナー姿になると、その上にコートを羽織る。着替えとタオルを用意して準備完了だ。
「どこかへ行くんですか?」
ちょうど洗面所に歯ブラシを置き終えたレンが部屋を出て行こうとするエリーゼを見て声を掛けた。
「どこって、お風呂だけど」
「お風呂ですか? そういえば、この部屋はお風呂がありませんね」
「当たり前でしょ。ポーンクラスの部屋に風呂なんてないわよ。個人風呂が設置されるのはビショップクラスからよ」
「じゃ、じゃあお風呂って……」
「大衆浴場よ」
そう言うと、エリーゼは部屋を出て行こうとする。するとレンは慌てて「わ、私も行きますッ!」と言って急いで支度を始める。だが、天性のドジさが災いしてなかなか目的の物を発見できず、さらには転ぶ始末。エリーゼは呆れて部屋を出て行ったが、部屋から「ま、待ってくださいエリーゼさぁんッ。ひゃあッ!?」という情けない悲鳴が聞こえると、疲れたようにため息を吐きつつ律儀にレンが出て来るのを待つのであった。
酒場の下、つまりは地下にあるのが大衆浴場。ポーン及びルーククラス、中には個人風呂があるはずのビショップクラス以上の者も含めたハンターが使うハンター専用の浴場だ。
男湯と女湯に別れているが、規模の大きさは女湯は男湯の三分の一ほどの大きさしかない。ハンターの男女比率が大きく影響している結果である。ただし、それでも全体数が少ない為十分な大きさではあるが。
扉を開けて入ると、そこは湯気に覆われた広い空間。中央に大きな湯船があり、その周りを簡単な仕切りで分けられた体を洗う場所があるシンプルなもの。ちなみにお湯は温泉ではなく中央工城から排出される熱を利用して水を沸騰させたただのお湯である。
今は風呂に入る人も多いのだろうが、それでも浴場には二〇人程の女性ハンターしかいない。今頃隙間なくピッチリと積み立てられた壁の向こうにある男湯はそれこそすごい事になっているだろう。ちなみに、数年前に覗き事件が発生して以来、壁は恐ろしく分厚くなっている。それこそ野郎の野太い声すらも通さない程だ。
という訳で、絶対安全な聖域に来た二人はそれぞれもちろん裸である。ただしレンは恥ずかしいのか、タオルを体に巻いているが。慣れているエリーゼは体の正面に手ぬぐいを握っているだけだ。
「ほら、さっさと入るわよ」
そう言うとエリーゼは湯船から桶でお湯をすくい上げるとまずはそのお湯で湯船に入る前に一度体を清めてから湯船の中に入る。レンもそれに習って一度お湯で体を清めてから湯船に浸かった。その瞬間、気持ち良さそうにうーんと体を伸ばしてみる。その様子を見たレンは恐る恐るという具合に湯船に入った。少し熱いが、ゆっくりと入れば次第に体が慣れ始める。そして、湯船に浸かってみると体中の疲れが取れていくかのように癒される。
「ふぃ~……」
あまりの気持ち良さに、レンの顔は幸せそうにふやけてしまう。ぶっちゃけ、お風呂に入るなんてずいぶんと久しぶりの事だった。旅の途中はそんな贅沢なものは懐が許さない為、いつもは水で済ませればいい方。ひどい時には濡らした手ぬぐいで済ませるしかなかった程だ。ハンターというサバイバルな職業柄そういう事には慣れていたとしても、これだけ長い期間風呂に入らない事などないだろう。
村を出て以来初めてのお風呂。レンはそれをじっくりと堪能するのであった。
幸せそうに湯船に浸かっているレンの横顔を一瞥し、エリーゼは彼女に気づかれないような小さなため息を漏らした。
今日も今日で普通の一日が始まるはずであった。市場に行って素材を仕入れて、部屋に戻って調合して道具を揃え、数日後くらいに適当な依頼を受注して狩りに行く。その準備の為の一日が始まるはずだったのだ――朝、この子と出会うまでは。
弱いものいじめが嫌いであり、何より怯えている女の子を大の大人がいじめている姿を見てムッとしたのは事実だ。だからこそ結果的には助けた形ではあったが、間に割って入ったのだ。
助けたらそれで終わり。そう思っていた。ああいう子はこういう大都市に慣れるまでに時間が掛かるだろう。だが、自分には全く関係のない事だと思っていた。
――だが、ライザに言い負かされる形でこの子の面倒を押し付けられてしまった。
正直、気が重い。
自分はこの街にあるハンターを育成するハンター養成訓練学校に入学してハンターになった。入学当初から勉学に勤しみ、同学年の中では群を抜いた成績を誇っていた。当時学校を支配していたのは才色兼備な完全無欠の最強の生徒会長にして氷の女神とも称されていたクリスティナ・エセックス。自分は彼女に憧れて生徒会に入り、彼女の腹心として生徒会副会長兼総務部部長を務めるなどし、その後彼女が卒業してからはその跡を継いで新生徒会長となった。
だが、正直自分は誰かと仲良くするのは苦手であった。生徒の大多数はチームを組んでより有利な条件で狩りの訓練を行うのだが、自分は馴れ合うのが苦手でソロで訓練をし続けた。
仕事とか任務となれば問題なく団体で行動できるが、いざ仲間とか仕事抜きの関係となるとうまくいかない。正直、自分が素直じゃない性格と言うのは十分わかっているつもりだ。仲間の為に間違った事を指摘したとしても、つい余計な一言を加えてしまう。その為、何度かチームを組んだ事もあったが全て中途解散してしまった。
結局、自分はソロが一番性に合うのだとわかった。ガンナーならソロは厳しいかもしれないが、自分は攻守に優れたガンランス使いだ。ソロでも十分やっていけていた。ハンターの登竜門である怪鳥イャンクックもソロ討伐できた。
このままずっと一人でハンターを続ける。そう思っていたし、そのつもりだった。
だが、ライザに陥れられた結果、隣でとろけているこんな田舎から出て来たばかりで右も左もわからないような子の面倒を見るという厄介事を押し付けられてしまった。
もちろん、生活面だけではなくライザが言っているのは一時とはいえ彼女と狩場も共に行動するのも含まれている。つまり、狩場でもこれまでのソロ狩りとは違うコンビ狩りをしないといけない。それも、彼女レベルに合った簡単なもの限定で。
自分のペースで今まで狩りをして生活をしていたエリーゼにとって、それは大きな下方修正であった。
明日にでも適当な依頼を受けて彼女を狩場に行く事になるだろう。そう思うと、足手纏いを連れて行動しなければならないという面倒事にため息も漏れる。
まさか、こんな形でこんな子と一時とはいえ一緒に生活しないといけないなんて、まさに青天の霹靂(へきれき)だ。
これからの事を思うだけでも、頭が痛くなる。一度交わした約束は、例え不本意なものでも全力を尽くす。それがエリーゼ・フォートレスという子であった。
「あ、あのエリーゼさん?」
湯船に浸かりながらこれからの事を考えていたエリーゼを現実に戻したのは、隣にいるレンの小さな声であった。振り向くと、レンは頬を赤らめながらこちらを見ていた。その赤らみは湯に浸かっているからのものなのか、それとも違うものなのかは、わからない。
「な、何よ」
「あの、今日は本当にありがとうございました」
「え? な、何よ突然」
突然意味不明なお礼を言われ、エリーゼは目を瞬かせた。そんな彼女に向かって、レンはふにゃっと無邪気で屈託のない笑みを浮かべる。
「私みたいなどこの馬の骨かもわからない子を助けてくれて、本当に感謝しています」
「う、馬の骨?」
「東方言葉で素性のわからない人という意味です」
「あ、あぁ。べ、別にあんたの為じゃないわよ。あ、あれはライザさんに陥れられただけで、私は仕方なく引き受けているに過ぎないわ」
「例えそうだとしても、私は本当に感謝しています。村は、こんなに大きな場所でもなければこんなにたくさんの人は住んでいません。何もかもが桁違いで、こんな所で一人で生きていかないといけないと思うと、正直すっごく不安でした。でも、ライザさんと出会って、エリーゼさんと出会ったおかげでそんな不安はすっごく和らぎました。中でも、こんな私を面倒見てくれているエリーゼさんは、本当に何とお礼を言ったらいいか」
「い、いいわよお礼なんて。くすぐったいだけだし」
レンの真っ直ぐ過ぎる純粋な感謝の気持ちを目の前にして、エリーゼは顔をカァッと真っ赤にしてそっぽを向く。今まで、こんなにも純粋で真っ直ぐな感謝をされた事があっただろうか。感謝とは、表面上だけのもので社交辞令とか事務的なものにしか過ぎない。そう思っていた。
なのにレンは、たったこんな事だけでこんなにも真っ直ぐに感謝してくる。その純粋さに困惑しつつも、その心もこもった本当のお礼は、くすぐったくもどこか心地いい気がした。
「エリーゼさんに迷惑を掛けないよう、少しでも早く一人前になる努力はします。でも、ご迷惑かとは思いますが、それまでの間はどうかよろしくお願いします」
「……とりあえず、そういう重要な事は湯船の中で言うものじゃないわよ」
エリーゼの至極正論な言葉に、レンは「そ、そうですねぇ」と恥ずかしそうに頬を赤らめる。そんなレンの姿を見てエリーゼは小さく苦笑すると、「まったく、ほんとに迷惑してるんだから、さっさと一人前になりなさいよね」と素直じゃないながらも彼女らしい激励を飛ばす。それに対し、レンは「は、はいッ。努力します」と無邪気に笑った。
その後、しばし湯に浸かっていたエリーゼだったが、十分体が温まると湯船から出た。
「エリーゼさん? どうされたんですか?」
「体を洗うのよ」
至極シンプルに返し、エリーゼは洗い場へと向かう。するとそんな彼女を追ってレンも慌てて湯船から飛び出した。
「あ、あのッ! お背中お流ししますッ!」
「はぁ? いいわよ別に」
「い、いえッ。ぜひともさせてくだ――ひゃあッ!?」
お風呂場では走ってはいけません。レンは風呂場に貼られている張り紙を無視した行動をとり見事にすっ転んだ。それを見てエリーゼは小さくため息を吐く。
「ほんと、マジでいいから大人しくしてなさい」
結局、レンはエリーゼの背中を流すという少しでもの恩返しをする事は叶わず、大人しくエリーゼと一緒に体を洗う事になった。だが、
「うぇ~、目に泡が入ったぁ~」
「子供かッ!」
実はレン、この年になっても自分で頭が洗えないのだ。いつもは姉に洗ってもらっていた為、自分でする必要がなくそんなスキルもなかったのだ。でも、そんな恥ずかしい事言える訳もなく、無理をした結果泡が目に入って悶絶する事になってしまった。
「どうりでこんなものを持って来てた訳ね……」
レンがこっそり持ち込んでいたのは、シャンプーハットであった。エリーゼも年が一桁の半分くらいまでは使っていたが、まさか二桁になっても使わないといけない子がいるとは思ってもみなかった。
恥ずかしくて使わなかったシャンプーハットだったが、結局使う事にしたレン。しかし、それをしても自分で髪を洗った経験がないレンは四苦八苦の悪戦苦闘。それを見て、エリーゼはイライラを募らせる。
「あぁもうッ、じれったいわねッ! 貸しなさいッ!」
見ていられなくなったのか、エリーゼはブチギレるとレンからシャンプーをぶんどった。きょとんとするレンの頭にシャンプーを適量垂らすと、「じ、自分でできますよ……ッ」と拒否するレンを無視して洗い始める。
「まったく、あんた本気でハンター目指す気あんの?」
「あ、ありますよぉ」
一応返答はしてみるが、自分でも情けないと自覚はしているのだろう。レンの返事はどこか力ない。エリーゼは呆れつつも丁寧にレンの頭を洗う。その手つきはずいぶんと慣れたものだ。
心地いい絶妙な指使い。まるで姉にやってもらっているかのような心地良さが、レンの顔に笑顔を浮かべる。
「エリーゼさん、人の頭洗うお上手ですね」
「まあね」
その時、レンはエリーゼのそっけない返事に何か違和感を感じた。いつもだったらきっと全力で否定するであろう誉め言葉に対し、エリーゼは否定もせずにスルーした。それが、レンには違和感として感じられたのだ。
「エリーゼさん、昔誰かの――」
「ほら、お湯かけるわよ。目瞑ってなさい」
レンの問いはエリーゼの声と水の音で掻き消された。それはまるでこれ以上の追求を拒否するかのよう。レンは気になりつつもそれ以上の追及はしなかった。エリーゼも何も言わず、無言で湯船に戻る。
湯につけていた手をそっと水面に出す。
何の変哲もないただの手。ただ、右手の薬指には銀色に輝く指輪が輝いていた。小さな小さなマカライト鉱石が一つ埋め込まれただけのシンプルで、尚且つ子供でもがんばれば買えてしまうような安物。
そっと湯船に戻ったレンはエリーゼの隣に座ると、そんなエリーゼが見詰める指輪に気づいた。
「エリーゼさん、彼氏がいるんですか?」
「はぁ? いる訳ないでしょ興味ない」
「で、でもその指輪……」
訊いていいのか、それとも訊かないべきか。結論が出ないままそこまで言葉を搾り出してみると、エリーゼは「あぁ、これは違うわよ」と意外にもあっさりと返答してくれた。その事実にレンはちょっと驚く。
「まぁ、あたしの宝物よ」
「へぇ……」
レンにとってそれはとてもきれいな、でもただの指輪に見えただろう。だが、それをじっと見詰めるエリーゼの瞳はどこか悲しげで、苦しげなものだった事に、湯煙が蔓延した風呂場ではレンは気づかなかった。
風呂から上がった二人は寝巻に着替えてから部屋へ戻った。
久しぶりの風呂をたっぷり堪能できたレンはご機嫌だ。それに、さっきエリーゼが買ってくれたミルクもまたおいしかった。エリーゼは一気に飲み干したが、レンは何回かに分けて飲み干してエリーゼに呆れられた。だが、風呂上りの一杯はすっごくおいしい事を発見する事ができた。
再び荷物の整理を始めるレンに、ベッドの上で本を読んでいたエリーゼが声を声を掛ける。
「明日、あんたの実力を見極める為に簡単な狩りに出るわよ」
「え? あ、明日ですか?」
「そうよ。朝早くに受注して狩場へ向かうのよ。見極めるにしても早い方がいいに決まってるからね」
「……わ、わかりました」
長い長い旅を終えて目的地であるドンドルマに到着。やっと一息つけたと思ったら明日は朝早くから狩場へ向けて出発。正直かなり嫌ではあったが、エリーゼの言っている事は正論であり、何より自分は居候させてもらっている身だ。彼女の言う事はしっかりと聞かないといけない。
「そうと決まったら、もう寝るわよ」
そう言ってエリーゼが灯火を消すと、窓から注ぐ月明かりだけが薄っすらと部屋を照らす。エリーゼは薄いカーテンを締めるとベッドに横になった。それに習い、レンも藁のベッドに横たわる。チクチクと痛むこの感触も、長い旅生活ですっかり慣れてしまった事がちょっぴり悲しい。
そして、しっかりと整備されたティーガーをそっとベッドに入れ、ギュッと抱き締める。さすがに銃弾は入っていないので暴発する事はないが、それでも普通では考えられない行動だ。だが、レンにとってこの武器はただの武器ではなく、ずっと一緒に苦難を乗り越えてきた親友。いつも一緒じゃないと落ち着かないのだ。
すっかり安心したのか、程なくしてレンは眠り始めた。
武器を抱き締めながらスヤスヤと眠るレンを見て呆れつつも、その幸せそうな寝顔を見てそっと笑みを浮かべるエリーゼ。それは決して普段は見せる事のない、彼女の本当の笑顔であった。
そっと手を伸ばし、幸せそうに眠るレンの髪を優しく撫でる。
ライザは言った。「妹ができたみたいできっと楽しいわよ」、と。
その言葉が何を意味するのか、そしてなぜライザはレンを自分に預けたのか。この街には長くおり、ライザともハンター訓練生の頃にひょんな事で出会ってから親交があるので比較的長いのだが、いまだに彼女が何を考えているのかは理解できない。
彼女が何を考え、どのような意味をもってあのような言葉を発し、そしてこの子を預けたのか。それは今は良くわからない。
強いてわかっている事を挙げるとすれば、
「……ほんと、世話の焼ける子よね」
――これからしばらく、レンと同じ屋根の下で暮らすという事だ。