ようこそ無聊を砕く教室へ   作:虚夢象限

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クラス会議

 放課後。俺が目を覚ますと、クラスのリーダーっぽい男が教壇に立ち、黒板を使って会議の準備らしきことをしていた。驚くべきことに、クラスのほぼ全員が集まっている。

 どうやら俺はあの後熟睡してしまったらしい。皆が事実と直面してしまった以上、あまり不用意な行動をとると針の筵になってしまう。これからは気をつけなければ......

「おはよう、倉崎くん」

 櫛田が、グループを抜け出して声をかけて来た。

「ああ、おはよう櫛田。ところで、あれはクラスの方針を決める会議か何かか?」

「うんっ。倉崎くんにも参加して欲しいんだけど、時間あるかな?」

「俺が入っていったらリンチに遭いそうなんだけどな」

「自業自得じゃないかな?」

「おい......」

 笑顔で正論を宣う櫛田に、返す言葉もない。今みたいな言動は絶対にしないと思っていたんだが、どうやら違ったらしい。

 八方美人を装っているが、本当は攻撃的な性格なのかもしれない。上辺には全く魅力を感じないが、素の彼女に罵られたら新たな扉を開いてしまいそうだ。

「あはは、ごめんごめん。ちゃんとフォローするから安心してっ」

「それならありがたく参加させてもらおう。流石にクラスメイトの名前くらいは覚えておきたいしな」

 フォローすると言った櫛田に甘えて、参加することを決意する。実際、この機会を逃したら完全にクラスで孤立してしまう。将来の面倒を最小化するためにも、ここで免罪符を得たいところだ。

 とは言え面倒なことに変わりはないな......

『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 心の中で愚痴をこぼしていると、それを遮るかのように校内放送が鳴り響く。

「あいつ何かしたのか?」

「うーん、どうなんだろう......」

「あの先生、生徒指導とかするようなタイプには見えないけどな」

 俺たちクラスメイトの注目を集めた綾小路は、逃げるように教室を後にする。

「実は先生もAクラスに上がりたいと思ってたり?」

「どうしてそう思ったんだ?」

「なんとなく、かな。これでも私、人を見る目はあると思うんだ」

「確かにあり得る話ではある。生徒が実力で評価されるのなら、先生もまたそうであるはずだ」

「だよねっ。だけど茶柱先生はどうして私たちに冷たいのかな?」

「さあな。何か意図があるはずだが......」

 生徒を奮起させるためにしては、今日の朝の言動はやり過ぎな気がする。だがあの綾小路を呼び出したとなれば、何か企んでいるのは間違い無いだろう。

 ともあれ、現時点では情報不足と言わざるを得ないか。

 

「みんな、そろそろ対策会議を始めたいと思う」

 リーダー君が堂々と会議の開始を宣言する。

「まず初めに、このまま0ポイントのままでいいのか、みんなの意思を統一しておきたい」

「ポイントないとか、そんなの絶対嫌!」

 ギャルっぽい女の喚き声に同調して、主に女子生徒が姦しく騒ぎ立てる。

「そうだね、これについて反対意見のある人はいるかな?」

 リーダー君がゆっくりと全員を見回す。誰も反対する素振りは見せなかった。

「無いみたいだね。Aクラスを目指すのかどうかは意見が分かれるところだと思う。だけど今最も重要なことは、この状況を脱することにあると思うんだ。ポイントを貰えないままじゃ、上のクラスに上がることも真剣には考えられないんじゃないかな」

「あたしもさんせー」

「さっすが平田くん、やっぱり頼りになるね」

 リーダー君の名前は平田というらしい。女子からはほとんど盲目的な信頼を受けているようで、彼を囃す声が多い。

 イケメンでリーダーシップもあり、会話の組み立て方からもそれなりに優秀であることが伺える。これで惚れない方が難しいのかもしれない。

「来月ポイントを獲得するためには、クラス全体で協力しなきゃならない。まず思いつくのは、遅刻や授業中の私語はやめるよう互いに注意すること。それからもちろん、携帯を触るのも禁止だね」

「ポイントのためだもんね、あたしたちも我慢しなきゃだよね」

 なんとも無難な対策だが、これが必須なのは確かだ。その上でどのようにプラスを増やしていくのかを議論するのがこの場で必要なことだが......

「遅刻といえば、須藤くんってほんと最悪だよね。一番遅刻多いのあいつじゃん。須藤くんがいなかったら少しくらいポイント残ってたんじゃない?」

「だよね......もう最悪。なんであんなのと同じクラスに......」

 やはりこうなるか。

 俺を差し置いて袋叩きにされる須藤という男には同情を禁じ得ない。こいつら責任転嫁だけは一人前のようだ。

「そういえばアンタって今まで学校来てた? 初めて見たんだけど」

「あっ、そういえばそうだね」

「一回だけ見たことある気がするけど」

 スケープゴートを哀れんでいたら、いつの間にか俺が標的になっていた。

「初めまして、倉崎智紀だ。今まで体調不良が酷くてな。今日が3回目の登校日だ」

 こういう時は堂々とするに限る。少しでもオドオドした素振りを見せたら、明日からいじめられっ子にクラスチェンジだからな。

 それに櫛田も援護射撃してくれるはずだ。

「もしかしてアンタが一番の戦犯なんじゃないの?」

「体調不良って絶対仮病だよね」

「マジありえないんだけど」

 思った以上の集中砲火だな。自重する気が失せてきたがどうするか......

「いや、こんなことになるなんて思いもしなかったんだ」

 まあ、ここで本当のことを言うのはリスクが高すぎるからな。

「全然反省してるように見えないんだけど?」

「どう反省すればいいのかさっぱりわからないな。体調不良だし」

「アンタねぇ!」

 櫛田を待つ間、適当に遇らう俺。女子って怖い。

「ていうか一ヶ月も休んでたとかズルくない?」

「でも一ヶ月も独りで何してたんだろ? ちょっとウケる」

 あれ? ちゃんと救いの手差し伸べてくれるよな? おーい?

 俺は少し不安になり櫛田を凝視する。

「みんな聞いて。これはクラス全体の問題だと思うの。全員に少なからず落ち度はあったんじゃないかな? 倉崎くんだけを責めるのは良くないよ」

「櫛田さんの言う通りだと思う。誰が悪かった訳でもない、これはクラス全員の問題だよ。だからこそ、全員で改善していかなければならない。もちろん倉崎くんも協力してくれるよね?」

「ああ。ポイントがあって困ることはないからな」

 救いはここにあった。しかし結構追い詰められてたぞ俺。

 もしあのまま責められ続けていたら、鬱陶しさのあまり会議を滅茶苦茶にするところだった。ギリギリまで静観する櫛田ちゃんホント悪魔。それに引き換え平田のなんと天使たるや......

「ありがとう倉崎くん。それで、他に何か意見のある人はいるかな?」

 平田が上手くまとめてくれたことで、この場は平静を取り戻した。だが、誰からもポイントをプラスにする案は出てこない。

 どうやらDクラスは、騒ぐ囃す嬲るしか能のない烏合の衆だったようだ。って、意見を出さなかった俺が言えたことじゃないか。

 俺をサンドバッグにしようとしなければ、案の一つや二つは出しても良かったんだがな......

「それじゃあ今日はもうお開きにしようか。一旦頭を冷やす時間も必要だろうしね。明日から頑張っていこう!」

 




ひよりと有栖が登場するまで結構かかりそうです。
話し相手が櫛なんとかさんしかいないせいで彼女出番多すぎますね。
まあ原作での扱いがアレだから多少はね......

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