青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~   作:カボチャ自動販売機

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第10話 ブランシュ

レイモンドと会談した翌日。

ぼくは、一人で街の公園にいた。平日の昼間だからか、人気のない公園に申し訳程度に置かれたベンチ。そこに座って、携帯端末によりレイモンドと通信していた。これはレイモンドから受け取った特別製の端末で盗聴の心配はないらしい。

図書館ではレイモンドのフリズスキャルブの力を使えなかった。だから、話し合いについてはほとんど、ぼくからの依頼の詳細を伝えて終わりになったのだ。

そして、今日この時間、この端末で、レイモンドから具体的な案が提示される予定になっていた。

しかし、レイモンドが最初に口にしたのは、工作員の動向についてであった。

 

『君たちが追っていた工作員が、今夜、サウスボストンから出港する小型客船で逃亡を図っている』

 

この話で思い出したのだが、そもそもボストンでの任務は、未登録魔法師の反抗と推測されていた、ボストンの魔法研究に対する工作を、地元の警察では対処できそうにないことから、ぼくが任務として赴くことになったのだ。

 

『プラズマリーナ、二度の出動で工作員どもは、もう網に掛かったみたいだね。流石だね、プラズマリーナ』

 

「プラズマリーナを繰り返さないで下さい、ぶっ飛ばしますよ!」

 

仮面の魔法少女なんて意味不明な者の登場が、彼らの警戒心を刺激したのは間違いないのだろうが、あんなコスプレ任務が結果を出したなんて認めたくない。

しかし、考えれば考えるほど、この任務の有用性を理解させられる。

 

あれだけ目立つ格好で魔法を使って暴れていたら、工作員に向けてこちらは魔法の行使を躊躇わないというデモンストレーションとして抜群だっただろう。

さらに、あの扮装は、違法捜査をカモフラージュする為のものだと、工作員が勝手に深読みしてくれた可能性すらある。

プラズマリーナ、中々良くできた作戦なのだ。最悪なことに。

 

『ごめんごめん、冗談だよ』

 

「全く、さっさと話を進めてください、レイ」

 

 

若干鬱になりつつも、レイに話を進めさせる。ちなみに、レイというのは、レイモンドのコードネームだ。昨日の話し合いで決めたのだが、そんなことより、もっと決めておくべきことがあった気がする。

 

『りょーかい。それで、その工作員なんだけど、軍は既に人員を手配済みだ。工作員を捕らえて、船は爆破、乗客もクルーも行方不明というのが軍のシナリオさ。

ボストン港内や、マサチューセッツ湾で船を爆破すればボストンの海運に少なくない被害が出ることが予想される。でも軍は機密の保持を優先し、爆破作戦に踏み切ったというわけ。それだけ工作員の逃亡を警戒しているし、力を入れている。つまり――』

 

「今夜は逃亡する絶好のチャンス、というわけですね」

 

 

今夜は、この作戦のために人員が多く割かれている。

それに、船に乗り込む捕縛作戦も、秘密強襲作戦に慣れたメンバーだけで行われる様で、ぼくの参加はまずない。

レイモンドによると、アンジーも任務に参加する様なので、ぼくは間違いなく研究所での待機。

 

作戦を隠れ蓑に出来る上、アンジーの目を盗んで行動できるという、正に絶好のチャンス。

 

 

『亡命の手筈は整えておいた。とはいえ、昨日の今日だったからね、大分遠回りにはなる』

 

「仕方ありませんね。ですが、このチャンスを逃すわけにはいきません」

 

今日、工作員が拘束されてしまえば、ぼくの任務は近い内に終了、正式にスターズへと配属させる可能性が高い。最早、猶予はないのだ。

 

『逃亡後、最終的な目的地は、北米の一大物流拠点であるロサンゼルス港だ』

 

「遠いですね」

 

『急だったのもあるし、日本への亡命を考えたら仕方ないと思うけど、遠いのは確かだね。ボストンからの距離は約30000マイル、車をぶっ続けで走らせても2日はかかる』

 

「ですが、その方が軍の目を欺けるのは確かですね。まさか、ボストンからロサンゼルスを目指すとは考えないでしょう」

 

 

そもそもぼくが逃亡したところで、それが亡命目的である、とはすぐには特定できないだろう。

元々、日本へ亡命しようというなら、ロサンゼルスからの海路は、考えていた一つ。

ぼくにはロサンゼルスとの接点も特にないし、逃亡先として無しではない。

 

『最終的な目的地が分かったところで、具体的な逃走手段とルートについてだけど……』

 

最終的な目的地がレイモンドの口から語られたことからも分かる通り、亡命に対する手段は全てレイモンドに任せていた。ぼくが自由に行動できない立場であることからも仕方のないことだったのだが、若干不安ではある。

 

 

『ブランシュって知っているかい?』

 

「反魔法国際政治団体の一つ、ですよね?社会的差別の撤回を掲げて様々な反魔法活動を行っている」

 

『そ。そのブランシュ。市民活動とか言って好き勝手やってるけど、実態は大亜細亜連合に使嗾されたテロリスト集団。ちなみに、日本にも(・・・・)支部がある』

 

「まさかですが」

 

『亡命ブローカーに動きがあってね、どうやら人員を密入国させるらしい』

 

「つまり、その一員として日本へ密入国しろ、と?」

 

『That's right』

 

 

ブランシュ。

原作1、2巻における黒幕であり、読者に司波兄妹の力を印象付けるための噛ませ犬として、日本支部が壊滅させられた組織だ。

原作知識があるから、ザコそうに感じたが、実際は大組織な上、七賢人の一人、ジード・ヘイグがバックに付いている。

密入国くらいお手のものなのかもしれない。

 

 

『密入国する人員同士にまだ面識はないし、インターネット上のやり取りしかしてない。その一人と入れ替わるんだ』

 

「手筈は整えてあるのではなかったのですか!?てっきり人員の一人として組み込んでもらえたものだと」

 

『一日でそんなことできるわけないでしょ。でも、全員の身元は分かってるし、現地でブローカーと会われる前に入れ替わるのなんて、楽勝だろ』

 

穴だらけの作戦だが、確かに一日でやってくれたにしては上出来だ。ぼくだけじゃ、ここまで出来なかっただろう。レイモンドの情報力にものを言わせた作戦なのだから。

 

「簡単に言ってくれますね……ですが、やらなければならないのは確かです」

 

『納得してくれた様で良かった。さて、ここらで状況を整理しようか。密入国の船が出航するのは二十日後。それまでに君は、密入国の一人と入れ替わり、ロサンゼルス港まで辿り着かなくてはならない。ワクワクするね、映画みたいだ』

 

 

目の前にいたら殴ってただろうな、と素直に思った。レイモンド、次にあったら問答無用で一発な。

 

楽しそうに話すレイモンドに、ぼくはそう決意した。

 

 

 

 

 

 

「思ったより早く網に掛かったわ。私たちが追っていた工作員が、今夜、サウスボストンから出港する小型客船で逃亡を図っているの。どうやら彼らは新ソ連と通じていたみたいね」

 

 

夕方、レイモンドの言った通りの情報がアンジーより告げられた。

 

 

「それで、どうするんだい?今晩出て行く工作員が全員というわけじゃないだろう?

下手に手を出すと、草を抜いて根を残す結果になりかねないと思うけど」

 

「確かにその可能性もあるけど、黙って逃がしてあげるわけにもいかないわね」

 

 

軍は機密の保持を優先している。草を抜いて根を残す結果になろうとも、些細な情報も持ち帰らせない方針なのだろう。

 

 

「では、踏み込むと?」

 

「手を出すのは海上に出てからよ」

 

「船に乗り込んで捕らえるか」

 

「人員は既に手配済み。具体的にどうするかは内緒」

 

「作戦上の秘密か」

 

 

アンジーは「当然でしょ」という顔でアビーを見返した。先日の二人の腹の探り合いからも分かるように、あくまで協力者でしかないアビーには、必要最低限の情報しか与えられていない。今夜の任務についても、今ここで語られたことしか知らないだろう。

 

 

「アンジー いえ、少尉殿、小官はどうすれば?」

 

ぼくは二人の言葉が途切れた瞬間に割り込んで口を挟んだ。ここで、任務への参加を言い渡されれば、作戦は白紙、もしくは任務中の強行、ということになる。

 

「リーナ、捕縛作戦に参加したい貴女の気持ちは分かるけど、船に乗り込むのは秘密強襲作戦に慣れたメンバーばかりなの。残念だけど、ここで待機よ」

 

「――了解しました」

 

 

――第一関門突破。

ぼくのアンジーへの問いかけを捕縛作戦参加への打診だと思ってくれた様だし、ぼくの逃亡は一切疑われていない。今までそんな素振りは見せていないのだ。当然といえば当然なのだし、レイモンドによる調査でもぼくの亡命は疑われてすらいなかった。が、油断は出来ない。

 

 

「ところでアビー、リーナ」

 

 

話が一段落したところで、アンジーが心底奇妙そうにぼくらの名前を呼んだ。

 

 

「貴女たち、それ(・・)は何なのかしら?」

 

 

ぼくは今、アビーの膝の上に座っていた。後ろからアビーにぎゅっとされ、ふわふわな女の子の柔らかさに包まれている。髪を撫でられたりすると至福だ。

実はぼくたちは、このスタイルでずっとアンジーとの真面目な会話を展開していたのである。

 

 

「何ってコミュニケーションさ」

 

「昨日までそんなことなかったわよね?どうしちゃったのよ?」

 

「実験のためだよ。今度リーナには誰も発動することが出来なかった魔法、『メタル・バースト』の実験をしてもらうことになっているからね。お互いの信頼関係を築くためさ」

 

アビーと友人になった日から、アビーのスキンシップが激しい。特にぼくを膝に乗せるのがお気に入りなのか、何かとこれだ。今朝も朝食はこのスタイルで食べることになって、あーんとかされて、至福だった。

つまり、実験とか何も関係ない。

 

 

「貴女との信頼関係で実験に変化が生じるとは思えないけど……まあいいわ、貴女が突飛なのは今に始まったことではないし。

それじゃあ、私は任務があるからここで失礼するわ」

 

「ああ、成功を祈っているよ」

 

 

アンジーも、実験とは何も関係ないことだろうと考えたのか、ジトッとした目を向けながらも、部屋を出ていった。今はアビーの戯れに付き合っている場合ではない、ということだろう。

 

そうして、アンジーが出ていったことで、この部屋にはぼくとアビーだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、リーナ。君は何をしようとしているのかな?」

 

 

そんなアビーの確信めいた言葉が、やけに大きく部屋に響いた。

 




イチャイチャからシリアスに転換していくスタイル。

さて、明日も0時に投稿します。
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