青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~   作:カボチャ自動販売機

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……サブタイトルが思い付かない。


第13話 六対一

「強引な勧誘、ですか」

 

「はい、以前、私の大学でとあるセミナーに参加したことがあるのですが、それ以来、大学内外問わず勧誘されています」

 

「私の大学時代も、確かに優秀な生徒を確保しようとする教授もいたが、そこまで強引なものはなかったな。一体どんなセミナーだったんだ?」

 

アビーは17歳でありながら既に大学を卒業しているらしい。そりゃ、研究所で博士をやっているのだから当然なのだが、最近彼女の天才振りを忘れかけていたため、思い至らなかった。リンがアビーに敬語を使っているのは、アビーが大学を卒業したというような話をしたために、年上だと勘違いしているからだろう。ちなみにアビーがため口なのはデフォルトだ。年上ばかりの職場で博士をしていたために、明確に立場が上の人間にしか敬語を使わない。彼女が若くして博士にまでなったために、年功序列という考えがないのだろう。

 

 

「『魔法師と非魔法師の政治的待遇差と魔法能力の有無による社会差別について』というセミナーです」

 

「随分尖ったセミナーだな。明らかな反魔法師思想促進活動だ」

 

セミナーのタイトル、『魔法師と非魔法師の政治的待遇差と魔法能力の有無による社会差別について』とはつまり、魔法師と非魔法師の格差(・・)を強調したものだ。明確に魔法師と非魔法師を区別し、それを良く思っていないことが強く伝わってくる。

アビーの明らかな反魔法師思想促進活動というのは、飛躍しすぎかもしれないが、反魔法師思想の者が多く集まることは確かであるし、講師もそういう思想の持ち主だろう。

 

「以前から噂は耳にしていましたし、私もそう思い、参加する気はなかったのですが、友人にどうしてもと頼まれ、参加を断れず一度だけ参加したのです」

 

「すると、強引な勧誘を受けるようになった、と」

 

「ええ」

 

 

ただ事ではない様子で友人はリンに頼んできたという。どうやら、セミナーへの勧誘にノルマがあるらしく、その人数合わせに必死らしいのだ。

ノルマ、とはリンの友人が自分の属している研究室の先輩から強要されているものであり、そうしたことが大学内の至るところで起きていて、セミナーの参加者を徐々に増やしている様だ。

 

 

「そのセミナーにケビン・ネルソンとマーク・ネルソンの兄弟はいませんか?」

 

「強引な勧誘を主導しているメンバーです。学内でも何度か問題行動を起こしていますから有名な二人です」

 

 

兄弟はブランシュの国外活動に志願する程の反魔法主義者。そんなセミナーがあれば当然参加しているだろうと思ったが、どうやら開催している側らしい。

 

レイモンドの調査では二人はブランシュであることを隠している。彼らはブランシュの中でも実働部隊ではなく、主に勧誘を任されており、ブランシュにもインターネットでしかやりとりをしていない徹底振りだ。

それが今回、国外での活動というバリバリの実働部隊に名乗りを上げたのは、勧誘だけでは満足できなくなったからだろう。

人間主義の熱狂的信者である彼らは、自分達でそれを広めていくことに、一種の興奮と優越感を抱いている。勧誘という間接的な形ではなく、自身の手で、より明確に、より大胆に、より派手に、活動したいと考えるようになるのは必然だ。

 

この強引な勧誘も、そうした心情故だろう。彼らは勧誘することで、自身が幸福を分け与えたかのような感覚、神にでもなったかのような万能感に溺れているのだ。

 

 

「何故、貴女達がその二人を?」

 

「私たちが軍人だからです」

 

 

ぼくの言葉にリンが目を見開く。

今のぼくは仮装行列(パレード)を使っていないため、年相応に低い背丈は軍人というにはそぐわないだろう。リンが驚くのも無理はない。

 

 

「兄弟は反魔法国際政治団体ブランシュとして活動しており、国外逃亡の恐れがありますので、我々が調査中というわけです」

 

嘘は言っていない。

確かに兄弟は反魔法国際政治団体ブランシュとして活動しているし、国外に行こうとしているし、ぼくたちは調査中だ。

正し、それは彼らを捕らえ入れ替わるため、という私的なものだが。軍人と言えば任務だと勘違いしてくれるだろう。守秘義務とか箝口令とか適当に言って誤魔化しやすいと思ったのだ。

 

 

「随分可愛い軍人さんなのね」

 

「確かにリーナは可愛いな」

 

「あの、二人で髪を撫でるの止めてくれませんか」

 

 

もみくちゃにされながら髪を撫でられるぼく。美少女二人からそうされること自体は嬉しいのだが、周囲の視線を集めているから止めて欲しい。

 

 

「まあ、リーナが照れているからこの辺で止めておくとして」

 

「照れていませんが?」

 

「照れてるわね、お耳が真っ赤よ」

 

 

この二人、組ませちゃいけない二人だった!いつの間にかぼくが遊ばれている!

ぼくが真剣に話してるのに、酷くないかな!特にアビーはぼくの目的を知ってるんだから協力してくれるべきなんだよ!なんで積極的に場を荒らすの!?

 

 

「拗ねるな拗ねるな。リン、本題なのだが、その兄弟のところまで案内してもらえないか」

 

「出来ればそうしたいけど、最近二人はセミナーに顔を出していない様なの。正確にはセミナーには参加しているけど、裏方に徹している、と言うべきかしら」

 

「勧誘の指示に徹し始めたということか。海外逃亡の準備と見るべきだろうな」

 

先程のやりとりで二人は何か通じるものを感じたらしく、リンがため口になっている。

そのリンから情報を聞き出し、どうだ仕事をしたぞ、という顔でぼくを見てくるアビー。そのドヤ顔の頬を伸ばしてやりたい気持ちに駆られるがそれをやるとまた話が脱線するので、ぐっと堪える。

 

 

「急いだ方が良さそうですね」

 

「いや、リーナ。どうやらその必要はないようだぞ」

 

 

アビーが指差す先に大学生くらいの5,6人の男達がいた。こちらに向かってきているのだが、その表情から読み取るに明らかに招かれざる客だろう。

 

 

「あー、連中が強引な勧誘をしてきた奴らよ」

 

「お迎えに来てくれたようですね、案内をお願いしましょう」

 

 

既にお会計は終わっていた様なので、そのまま席を立ち移動する。向かう先は先程までレイモンドと電話していた公園。既に調査済みなのだが、あの公園は随分と昔に作られ、利用者も少ないからか、カメラが設置されておらず、お話(・・)するには丁度良かった。

 

 

「リン゠リチャードソン、今日のセミナーには参加してもらうぞ」

 

 

公園にまで来たところで、男の一人が声をかけてきた。少し訛りのある英語は威圧感があり、リンが平然としていられることには驚かされる。男に囲まれて、こんな威圧的な態度で出られたら、普通の女子なら頷くしかないだろう。正に強硬な勧誘だ。

恐怖の欠片もない様子で、煩わしそうにしているリンが異常なのだろう。どんな修羅場を潜り抜けてきたのか、肝が据わっている。結婚したら尻に敷くタイプなのは間違いないだろう。

 

 

「嫌だと言ったら?」

 

「強制はしない。しかし、そうせざるを得ないことになると言っておこう」

 

「そう、分かったわ」

 

 

リンの言葉に男が満足気な表情を浮かべたことで空気が弛緩したのを感じる。リンが男たちの脅しに屈したと勘違い(・・・)をしたのだろう。

 

 

「断るわ」

 

 

リンの返答に、一瞬唖然とした後、怒気が場に溢れる。

 

 

「聞こえなかったのかしら、断る、と言ったのよ」

 

 

リンさんちょっと挑発し過ぎじゃないですか!?相手の男、血管切れるんじゃないかってくらいに顔を真っ赤にしてぶちギレてますけど!?

何それを見て愉悦感丸出しの顔してるんですか!?

 

 

「てめぇ、こりゃもう穏便には済まねーぞ」

 

「結構よ、さっさと――」

 

「ああ、もうリンさんはちょっと後ろで大人しくしていましょうね、お兄さん方が激おこですから」

 

リンさんがまた余計なことを言う前に前に出る。今のぼくはハッチング帽を被り、眼鏡をかけただけの簡単な変装だ。まさかこんなことに巻き込まれるとは思っていなかったし、簡易のものにしていた。

自分で言うのもなんだけど、目立つ容姿のため、顔を見られたくはない。出来れば穏便に案内してもらいたかったけど、やっぱりお話(・・)になってしまった。

主にリンさんのせいで。

 

念のためにお話(・・)のしやすい場所に移動しておいて良かった。

 

 

「さて、お兄さん方、どうかされましたか?」

 

「ガキは怪我する前に帰れ、俺たちは本気だぞ」

 

 

突然出てきたぼくに、訝しげな顔をした後、そう脅しをかけてきた。完全にぼくを子供と侮っている様だ。

 

 

「ねえアビー、六対一だけどリーナ大丈夫なの?」

 

「ああ、リンは知らないからね。リーナは小さくて可愛い私の天使だが――」

 

 

男が拳を振りかぶる。

男はぼくの二倍はありそうな巨体で、その腕は丸太のように太い。

でも――

 

 

「――近接格闘術のスペシャリストだ」

 

 

――圧倒的に遅い。

 

 

男たち全員が地に伏したのは、それから1分後のことだった。

 




リーナ、暴れる。

さて、明日も0時に投稿します。

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