青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~   作:カボチャ自動販売機

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第16話 (から)

お金の無くなったぼくらがやるべき行動とは、つまり後回しにしていたこの国に来た目的。

 

USNAから逃げ回る生活から脱し確固たる地位を手に入れる、そのための後ろ楯探し。これに限るだろう。

 

この2ヶ月、ぼくらは何もオタク行動ばかりしていたわけではない。それでもこの後ろ楯探しが難航しているのはそれだけ難しいからだ。

 

 

「後ろ楯、パトロン、スポンサー、私たちに必要なのはそういう存在だ。今まで頓挫していたが、急ぐべきだろうな。いつまでもUSNAの追っ手がない、とも限らないのだから」

 

 

全くもってその通りなのだが、今まで上手くいってなかったものが、急に上手くいったりはしない。

 

それ相応にリスクを負って、行動する時が来たのだろう。

 

 

「それにしても、体を売るという言い方は止めてくれませんか!」

 

 「リーナの資本が体しかないのだから仕方ないだろ。それとも私のように何か実績が?もしや、研究室でリーダーでも?」

 

 

アビーのどや顔が極めてうざいが、確かにぼくには何の実績もなく、精々、元スターライトという肩書き程度。資本と言えるようなものは、魔法技能と九島家の血、そしてこの超美貌(自画自賛)くらいだ。確かに体しか売るものがなかった。つんつんしてくるアビーに何もいい返せない。

 

アビーの言う、体を売る、というのは極めて酷い言い方なのだが今後の行動をざっくりまとめると、そう言えないこともないのである。

 

 

「さて、リーナをからかうのもここまでにして、もう何度か話していることだが、一度確認しようか」

 

 

アビーは天才博士として、いくつかの功績があるし、彼女の才能の凄さは一角の魔法師ならばすぐに分かることだし、確固たる実績もある。チップとしては申し分ないのだが、彼女には日本に対する一切の共通項がない。

 

その点は曲がりなりにも、日本の名家の血が流れているぼくが強い。

 

アビーの実績とぼくの血筋、この二つがぼくらの大きな武器だ。

 

 

「リーナの候補では血縁関係のある九島が最有力である、ということだったが、交渉のチップとして『血筋』だけでは少し薄いな。それに、リーナの亡命先として真っ先に考えられるのがその家系だ。USNAによって何らかの監視がされていても不思議ではない。交渉が上手くいく前に横槍が入ってしまうリスクは高いだろう」

 

 

ぼく一人では考え付かなかったリスクが、アビーの口からはポンポン出てくる。如何に、魔法少女アニメにハマろうとも、ソシャゲに重課金しようとも、アニメTシャツを着ようとも、彼女は天才。その頭脳は健在だ。

 

 

「となると現状繋がりのある有力候補はない、というわけだ。よって、今後やっていくべき行動は、縁。繋がりを作ることだ」

 

 

何をするにもまずは知り合うこと、これが必要だ。とはいえ、日本の有力者とどうやって知り合うか、というのが問題になってくるわけだが。

 

 

「最も簡単に繋がりを作れるのはリンに紹介してもらうことだろう。日本への亡命ルートを独自に持っているくらいの組織ならば、日本の有力者と何らかの繋がりはあるはずだ」

 

 

ぼくらの亡命はこの亡命ルートを使ったし、偽造の身分証明書なども用意してもらった。これだけ整った環境を持っている、ということは日本にも強いコネクションがあるのだろう。

 

 

「が、この場合、私たちはもうリンと対等の立場ではなくなる。リンの一声で私たちの処遇が決まってしまうこともあるからな。それに、リンは組織外の協力者を望んでいる。その点からすると、私たちの行動は拒否される可能性が高い」

 

 

リンにはリンの目的があってぼくたちに協力してくれた。その目的に反するような行為をすれば、今の立場ですら怪しくなってしまう。状況の悪化を招くかもしれないこの行動は、リスクが高すぎた。故に、今までもしてこなかったのだ。

 

 

「まとめると、現状、選択肢が限られている上にリスクが大きく成功率も低い、ということだ」

 

 

ぼくらの亡命計画は、計画とすら言えないほど杜撰で行き当たりばったりのものであった。その皺寄せがこれだ。

 

 

「で、あるならば自らでその選択肢を増やす必要がある。それが繋がりを作る、ということだ」

 

 

アビーが胸を張って言う。Tシャツに描かれた魔法少女が強調されているが、頼もしい限りだ。きっと良い案があるのだろう。

 

ぼくは、少し興奮気味に訊ねる。

 

 

「どうやってですか?」

 

 

「それはまだ考えていない。これから考える」

 

 

「ちょっと、その辺のフィギュア売ってきますね」

 

 

「あー!私の可愛い魔法少女たちがっ!」

 

 

ぼくは立ち上がり、並べられていたフィギュアを段ボール箱に詰め始めた。止めようとしてくるアビーであるが、身体能力は圧倒的にぼくが勝っている。さっさと詰め終えたぼくは、それを持って家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部売っぱらってしまう気だったが、アビーに泣きつかれて、部屋に何体か残してきてしまったけど、仕方ないと思う。決して、ぼくがアビーに甘いわけではないのだ。

 

 

 

 

 

 

『困ってるんだろう?助けてあげようか?』

 

 

いくつかのオタクグッズを手放し、何とか二週間程度は生活していけそうな金銭を手にいれたぼくは、その足でショッピングモールへと来ていた。

買い物もあったし、雑多に人の行き交うここは、秘密の電話をするのに丁度いい。

 

電話の相手はレイだ。

彼との協力関係はUSNAからの逃亡に成功した時点で終わっていたのだが、彼の方から電話をしてきたのである。

 

 

「助けてくれるならば助けてほしいのですが、何が目的ですか?」

 

彼は結局、協力の報酬を受け取らなかった。

報酬とはぼくの秘密であり、それはぼくが転生者であるということであり、この世界の未来を知っているということだ。

どうやら彼は、その秘密を自分で解き明かしたい、と思った様で、ぼくもその方が好都合であったため、報酬の受け渡しはなかった。

 

『君の秘密を暴くのに、そろそろ行動しようと思ってたんだ。それに、君をサポートするのは、それはそれで楽しいのさ』

 

 

前から思っていたが、レイはぼくの亡命を楽しんでいる。ゲームのアバターを操作するように、ぼくを見ているのだろう。

レイにとってぼくがアバターやおもちゃだと言うのならそれでも良い。別に楽しんでくれて構わない。ぼくが期待するのはフリズスキャルブの情報収集能力。情報さえ正確に伝えてくれるのならば、それくらいは気にならない。

 

『あ、そうそう。九島に接触するのは止めた方が良いね。USNAがすぐにでも情報を察知してやってくるよ』

 

「想定通りです。ですが、そのせいで困っている、とも言えます」

 

『USNAは君たちが日本へと逃亡したことに確信は持てていない。けど、可能性は高い、と予想してる。下手に動けば察知されるかもね』

 

「確信に変わる前に決着させたいですね……ですが、そう簡単な話ではなくてですね」

 

 

ぼくは、レイにアビーとの話し合いの内容を話した。彼が力を貸してくれるのは、今のぼくたちにとって、とても大きい。フリズスキャルブの情報収集能力があれば、誰と繋がりを持つべきか、その判断が随分と楽になる。

 

 

『考えは間違っていないけど、それって、君一人なら即座に解決することなんじゃない?』

 

 

一瞬、周囲の雑音が消えたかのようにすら感じた。

 

 

『たぶん君だけならUSNAもショーグンのいる九島を敵に回してまで処分しようとはしないでしょ。九島に泣きついて国に保護してもらえば、それで終わり』

 

楽しそうに、レイが言う。

九島に接触すればUSNAに察知されるが、ぼくだけならば、そこで諦める、ということだろう。

 

『でも、君と一緒にいるアビゲイル・ステューアット博士は違う。彼女はUSNAの数々の魔法研究に携わっている。USNAだって本気さ。実際、逃亡したのが君だけだったら、とっくにまともな捜査は打ち切られてるよ』

 

 

アビーが以前言っていた言葉が甦る。

 

『私が思うに後ろ楯を見つけ、日本へ正式に亡命をする。この目的の達成だけならば(・・・・・)難しくはないだろう。が、自慢ではないが私はUSNAで魔法研究に携わり過ぎた。正式に亡命が成功したとして、果たしてUSNAが手を引いてくれるかどうか』

 

 

アビーは天才だ。17歳で研究室のリーダーを務めるくらいには。

いくら実力主義のUSNAとはいえ、ぼくがすんなりとスターズになれなかったように、年齢のハンデは存在する。それはステレオタイプな古い考えの大人がまだ一定数いるからで、年齢という色眼鏡は評価を正当なものとして判断させないからで、そんな中でそれほどの地位にいたアビーはUSNAにおいても貴重な研究者。

その重要度は高いし、他国に知られたくないような研究にもいくつも携わっている。

 

『正式に亡命が成立する、ということは私たちの痕跡がこの国の情報機関に残る、ということだ。そこから一切USNAに情報が流れない、とは私は思っていない。つまり、後ろ楯の選定はチャンス一回限りで、USNAも手出しできないほど強力でなくてはならない』

 

USNAも無能ではない。正式ということは、情報を残すということ。それを察知できない程、大国の情報収集能力が低いわけがなかった。

 

 

『この条件を満たせないのであれば、むしろ今の状態の方が安全といえる』

 

 

これが、現状維持を続けてきた2ヶ月の真相とも言える。

 

 

『難航している理由ってさ、君がアビゲイル・ステューアット博士と一緒にいるからなんじゃ――』

 

「それは覚悟の上で、私は彼女を連れてきました」

 

 

声を荒らげなかったのは、ここがショッピングモールであることをまだ認識できていたから。せめてもの理性だった。

 

ぼくは彼女のために生じる全ての障害を背負う覚悟で日本へ連れてきた。彼女を切り捨てることはありえない。

 

 

 

『君の覚悟は分かったけどさ……それ、彼女はどう思っているのかな?』

 

「……どういう意味です?」

 

『彼女は、天才だよ?自分がいることで君の亡命の大きな足枷になっていることを理解していたし、何より……そんなこと最初から(・・・・)分かっていたんじゃない?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に帰ると、そこにアビーはいなかった。

 

乱雑に散らかったグッズと丁寧に並べられた魔法少女フィギュアだけが、アビーの痕跡を僅かに残すばかりだった。




アビー、消失。


さて、明日も0時に投稿します。
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