青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~   作:カボチャ自動販売機

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本日二話目です。


第2話 スターズへの道

部隊と称されていながら、軍令上は陸・海・空軍と同格であり、陸軍、海軍、空軍、海兵隊に続くUSNA軍第5の軍系統。

原作初登場時、ぼく、アンジェリーナ=クドウ=シールズが、総隊長『シリウス』として所属していたUSNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊『スターズ』はUSNA最強の魔法師部隊だ。

 

スターズはさらに12の部隊に分かれており、各部隊の隊長に『カノープス』、『アークトゥルス』、『リギル・ケント』、『ベガ』、『リゲル』、『プロキオン』、『ペテルギウス』、『カペラ』、『アルタイル』、『アクルックス』、『アルデバラン』、『アンタレス』のコードネームがそれぞれ与えられる。

 

そして、それを統括する総隊長に与えられるコードネームこそが『シリウス』なのだ。

総隊長と言っても『シリウス』は指揮官というより監督者の側面が強く、造反した隊員を処分する処刑人という側面を持つ。

そのため、年齢・性別・経験に関らず魔法隊の中で最強の魔法師が選ばれる。

 

だから、アンジェリーナ=クドウ=シールズは高校生にも満たない年齢でスターズの総隊長『シリウス』のコードを与えられたのだ。

 

 

とはいえ、今のぼくはと言えば。

 

スターズ候補生部隊『スターライト』。

『スターズ』の隊員候補で構成されている部隊に所属しており、つまりは、スターズどころが、未だ正規軍人でもない。

北アメリカ大陸合衆国アリゾナ州フェニックスの郊外に造られたUSNA参謀本部直属魔法師部隊の育成施設にて、住み込みで訓練をしている段階、訓練生だ。

このフェニックスの訓練施設はスターズ隊員を選別する最終試験場でもあるらしく、ぼくは今、スターズ一歩手前の位置にいるのである。

 

ぼくの年齢は12歳。

訓練生の中では最年少とはいえ、訓練の成績はかなり良い方なんじゃないかと思う。魔法のスペックは原作通りぶっ壊れだし、身体能力も高く、頭も悪くないから魔法以外でも高水準を維持しているのだから。

 

フェニックスでの具体的な訓練期間や、スターズへの採用人数は教えられていないけど、この調子ならば、原作通り12歳の内にスターズの隊員になれるだろう。いや、なってしまう(・・・・・・)

 

前述の通り、スターズにはシリウスが、造反した隊員を処分するという規則がある。

スターズとはつまり選び抜かれたエリートであり、そのエリートの造反は国にとって大きな損害になりかねない。USNAは処刑人を用意するくらいに、造反による戦力、情報の流出を恐れ、その対策をしているということなのだ。

 

そんな環境で亡命など、不可能。

 

スターズになったが最後、亡命の難易度は一気に上がってしまう。

 

亡命までのタイムリミットはもうそれほど残されていないのだ。

 

亡命に必要な要素は大きく三つ。

 

まずは『逃亡』。

軍から日本まで逃げるための逃走ルートや、手段、軍の追手から逃れる力がなくてはならない。

次に、『保護』。

仮に日本へ逃げられたとしても、それではただの違法入国。逃げ込んだ先で、ぼくを保護してくれる相手がいなくては亡命は成功とは言えないのだから。

そして、その相手としては戸籍を用意できるほどの権力を持ち、USNAからの追求から逃れることのできる、高い地位の者でなくてはならない。

最後に『時期』。

いくら逃亡の手段や保護してくれる相手が見つかっても、逃亡する時期は考えなくてはならない。

現在スターズは、二年前の戦争によって総隊長ウィリアム・シリウスも含めた多くの戦力を失い、大きく欠員が出ている。スターライトの隊員が一人、逃走したところで、それほど戦力を割いている余裕はないはず。

 

タイムリミットこそ近づいているが、今は逃亡のまたとないチャンスだった。

 

 

「……でも逃亡ルートと保護先、この二つが問題だ」

 

 

現在ぼくは、このフェニックスの訓練施設から自由に出入りも出来ず、ほぼ毎日訓練でスケジュールはいっぱい、という納期直前の社畜のような日々を送っている。訓練をしながら、上官や訓練生の生活サイクル、施設の監視・警備体制など、逃亡に必要なデータを揃えてはいるものの、逃亡の目処は立っていない。

保護先に関しては全くの手付かずで、血筋故に最も可能性のありそうな九島家が最有力ではあるが、連絡手段がなく、こちらもどうにかなりそうな気配はない。

 

 

完全な手詰まり、そんな状況で、事態は大きく加速することとなる。

 

 

 

 

 

「アンジェリーナ・クドウ・シールズ准尉、訓練終了後、作戦指令室へ」

 

 

直属の上官であるユーマ・ポラリス少尉からの呼び出し。

いつものように訓練を開始したぼくに、なんでもないことのように告げられたそれは、長い間の訓練の中で一度もないことだった。

 

亡命計画は、自身の頭の中でのみ進めており、一切のデータを出力していない。つまり、それがバレたという可能性は極めて少なく、そうなると今、一番可能性が高いのはスターズへの昇格。

 

 

「シールズ准尉です」

 

 

スターズへの昇格が決定してしまった場合、どう行動するべきか、それを考えつつも、訓練終了後、すぐに作戦指令室へとやって来た。自分の早とちりの可能性もあるし、そうでなかったとしても、情報は早いに越したことはない。

 

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

簡素な木の扉を開けて中に入ってすぐに、敬礼。そこにはいつも通りのポラリス少尉と、もう一人。

 

ベンジャミン・カノープス。

スターズの第一隊長にして、シリウスが空席の現状、総隊長代理を務める、スターズの実質的なトップ。

登場こそそこまで多くはないものの、れっきとした原作キャラ。初めて生で目にした原作キャラにちょっと感動だが、今はそんな場合ではない。

 

この場に彼がいる。

教育機関の形式上の最高責任者である大佐ではなく、だ。彼は通常、ロズウェルの本部基地にいるはずで、そんな彼が、態々訓練施設までやってきた、ということは、この場がそれだけ重要な場だと言うことだ。

 

 

「さて、早速ではあるが、准尉。現在、スターズは総隊長職をはじめとして大きく欠員が出ている状態だ。欠員の可及的速やかな補充を望んでいる私としては准尉をすぐにでも恒星級の隊員として迎え入れたい」

 

タイムリミット。

そんな言葉が頭を過ったが、どうやらそれは早とちりだったらしい。

 

「准尉の訓練評定を見せてもらったが、素晴らしい成績だ。魔法力だけで評価するなら一等星級の能力がある。とはいえ、准尉はまだ若すぎる」

 

 

魔法師の軍人は、ぼくのように若い者も多いが、それでも12歳というのは幼い。スターライトの中でも最年少だったのだから、当然スターズの中でも最年少ということになる。もしもぼくだったら、いくら優秀でも、そんな中学生になったばかりの年齢の子供と、命を預け合わなくてはならないような仕事はしたくない。

 

「魔法師の年齢と能力は結び付かないが、軍人としての任務遂行能力には、やはり年齢に伴う思慮と自制心が必要だという意見が多い。当然、准尉を恒星級の隊員として迎え入れるにも反対意見は出るだろう」

 

 

これまでの話を整理すると、スターズは総隊長職をはじめとして大きく欠員が出ている状態であり、欠員の可及的速やかな補充が望ましい。ベンジャミン・カノープスとしては、ぼくをすぐにでも恒星級の隊員として迎え入れたいが、ぼくがまだ12歳と若すぎるため、スターズの隊員とすることに、反対意見が出てしまう、ということだろう。

このままだと話は、じゃあ反対意見出ちゃうからお前隊員にするの無理だわ、ということで終わりなのだが、態々ベンジャミン・カノープスが、この話をしに来たということは、これで終わりではないのだろう。

 

 

「そこで、だ。准尉にはボストンに赴き、犯罪魔法師の捜索・拘束に当たってもらう。准尉の力を証明して欲しい」

 

 

実戦任務。

これはつまり、実績をあげて反対意見を実力で黙らせろ、ということなのだろう。

ベンジャミン・カノープスは、どうしてもぼくをスターズに入隊させたい様である。

ちょっと、重り抱いて海に飛び込んでもらえませんかね。

 

 

「了解しました、サー」

 

 

頭の中では文句を言いつつも、ぼくは素直に、返事をして、任務を了承した。




カノープスさん、これでもう出番の予定がないという。

さて、明日も0時に投稿します。

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