青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~ 作:カボチャ自動販売機
軍が委託しているボストンの魔法研究に対する工作。
それは未登録魔法師の犯行と推測され、地元の警察では対処できそうにないことから、ぼくが任務として赴くことになった訳だけど。
軍の機密が絡んでおり、警察にも詳細は明らかにしたくないとか、軍の研究に携わる研究所を相手に破壊工作を仕掛けるような魔法師を相手は地方警察では難しいとか、この任務がぼくに回ってきた理由を色々付け足してはいるが、正直、カノープスがぼくを入隊させるために、ほとんどこじつけの様な形でぼくのところに持ってきたのではないか、と思う。
確かに、軍事機密は警察であっても漏らすべきではないだろうし、地方警察は非魔法師が殆どで戦力的に不安ではあるが、この程度の事件は日常茶飯事だ。
スターズの隊員にとっては、熟練の主婦がゴキブリを潰すような、不快な音で眠りを阻害するハエを叩き落とすような、その程度の任務。
実績とするには弱いような気がするのだけど、ベンジャミン・カノープスが欲しいのは、ぼくが実戦において成果を出したという事実なのだろう。
彼の立場なら、それだけの手札があれば、反対意見を押しきれるはずだ。
つまりこの任務は、ぼくがスターズへ入隊するための入隊試験であり、ベンジャミン・カノープスの仕組んだ茶番なのである。
ちょっと紐なしバンジーしてくれないかな。
「アシスタントとして、アンジェラ・ミザール少尉を付ける。上官ではあるが、准尉に命令する立場ではなく、アシストだ。試験官、とでも思ってくれ」
施設外での任務ならば、ワンチャン亡命の準備が出来るのではないか、と思っていたけど、どうやらアシスタントという名の監視が付くらしい。
「紹介しよう、彼女がアンジェラ・ミザール少尉だ」
ぼくへの用件が済むと、さっさと退室したベンジャミン・カノープスを見送り、ぼくは、直属の上官、ユーマ・ポラリス少尉に連れられ、今回の任務のアシスタントであるアンジェラ・ミザール少尉と引き合わされた。
ぼくよりも10㎝程高い165㎝程の身長、白人にしては濃い肌の色と、ややくすんだ黒髪の巻き毛。
アンジェラ・ミザール少尉は、人目を惹く華やかさこそないが、穏やかな美貌の持ち主だった。
ちなみに、22歳、独身。結婚しよ。
「ユーマ、後は彼女と二人で打ち合わせをするわ」
「そうか、アンジー、後の説明は君に任せる」
アンジェラ・ミザール少尉が、温和な、しかし砕けた口調で言うと、ユーマ・ポラリス少尉もまた、親しそうな口調で返し、部屋を出た。
二人は同じ恒星級で少尉同士、気安い付き合いをしていることは想像に難しくない。
もし、気安い以上の関係だったら明日からぼくの上官は行方不明により、変わることになる。
「そういえば、シールズ准尉もアンジーなのかしら?」
ユーマ・ポラリス少尉が「アンジー」と呼んだからなのだろう。アンジェラ・ミザール少尉は、ぼくに座るよう促すと、開口一番、そう尋ねてきた。
「そう呼ばれることもありますが、私のことは「リーナ」とお呼びください」
「わかったわ、リーナ。なら、私のことは「アンジー」と呼んでね」
上官をアンジー、なんて気安く呼ぶとか難易度高いぜ、と思ったが、タブレット型の端末を見せられながら、アンジェラ・ミザール少尉から任務の詳細を説明されると、その理由が分かった。
「国内の任務だけど、軍事機密が絡んでくる関係上、私たちは軍人の身分を隠して行動するわ。だから、この基地を出た瞬間から、私たちは上官と部下ではなく同じ研究所で被験体になる年の離れた友人同士。気安く呼び合うようにしましょう」
任務中、ぼくとアンジェラ・ミザール少尉、アンジーは一時的に研究所所属となる、ということで仮の人物設定が存在してるらしい。
ぼくが、リーナ・シールズ。
アンジーが、アンジー・サイモン。
安直過ぎる偽名ではあるが、元の名前が有名なわけでもないのだ、変に捻る必要はない。
その後、二人で自身の演じる人物像についてより入念に打ち合わせをし、解散した。
どうやら、脱走をするための時間はもうあまり残されていないらしい。
◆
急な作戦にもかかわらず、出発は明朝。相変わらず強引かつこちらの都合を何も考えない軍の対応に涙が出てくる。
というわけで、出発が明朝なため、すぐに明日の準備をしなくてはならない。
必要な荷物をキャリーケースに詰め(と、言っても私物は極端に少ないのだが)、巧妙に隠しておいた情報端末を取り出す。
あまり軍への忠誠心のなさそうな、外来の業者に死ぬほど嫌だったが色仕掛けして、融通して貰ったものである。訓練生には情報端末はおろか携帯端末すら所持が認められていないため、脱走のためには入手が必須だったのだ。これがあると情報収集能力が極端に向上し、外部の保護先へと連絡することもできるのだから。
とはいえ、軍もこの施設内において許可のないネットワークへのアクセスがあれば、すぐに分かるようにしており、いくらこの情報端末が軍の傍受にも引っ掛からない特別仕様である、と太鼓判を押された代物だとは言っても、そう安易に使うことはできなかった。
しかし、何日も部屋を空けることになる長期任務に出るとなるとこの情報端末は処分せざるを得ない。
巧妙に隠しているとはいえ、何日も部屋に放置しておくのはリスクが高すぎるし、任務に持ち出すなんて出来るわけがないので、どう考えても処分しか道がないのだ。
「……なら、賭けてみるべき、だよね」
任務に出てしまったら、監視が付く。新たに情報端末を入手するのは不可能に近い。それに、スターズの正規隊員になってしまえば脱走自体がより困難になってしまう。
脱走のタイミングとしては、もうこの任務中しかないのだ。
ならば、リスクを犯すなら今。
覚悟を決めたぼくは情報端末の電源を入れ、情報収集をすることにした。
この情報端末を融通してくれた男は情報ネットワークにやたら詳しく、どうやら軍のサイバーテロ対策やら、国家安全保障局やらと、凄い功績があるようなのだけど、本人の自己申告であって、確かな情報ではなかったため、中々信頼できずにいたのだ。
そもそも、12歳の女の子に、上目使いで小首かしげてお願い(色仕掛け)、とされただけで、情報端末をほいほい渡してしまうロリコンが元軍人とは思いたくない。
「あ、本当に問題なく使える」
思いたくはなかったのだが、制限に引っ掛かることなく、ネットワークに接続できた。
どうやら本当に彼はそういう職に就いていたらしい。やっぱりこの国から早く出た方が良い。
ぼくは思わぬことで決意も新たにしつつ、情報収集を開始する。
まず調べるのは、これから赴く任務地について。
ボストン、ウエストエンド地区にあるショーマット魔法研究所。
とはいえ、軍の施設、大した情報は調べられないだろう、と思ったのだが、この情報端末、有能なことに、軍の機密まで閲覧できた。セキュリティレベルが極端に厳しい情報は閲覧できない様なのだが、十分調べることができる。
アビゲイル・ステューアット。
ショーマット魔法研究所の研究室の一つを任されている若き天才。
何故、彼女のことが目に留まったかといえば、彼女が任されている荷電粒子線魔法兵器研究室、その論文が、明らかに、ヘビィ・メタル・バーストとブリオネイクの前身であろう、というものについてだからだ。
恐らく、この任務がアンジェリーナ・クドウ・シールズという少女にとって分岐点となるのだろう。
彼女が戦略級魔法師となる、その分岐点。
「……時間がないな」
調べものというのは、案外時間がかかるもので、既に時刻は朝、と言っても良い時間になっており、この情報端末の処分を考えると、出発まであまり時間はない。
ぼくは、前から考えていた
翌朝、普通に寝坊した。
12歳の少女に徹夜は無理でした、テヘペロ。
本日も二話投稿していますので、よろしくお願いします。