青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~   作:カボチャ自動販売機

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本日二話目ですので、お気をつけを。


第4話 魔法少女

「こちらがアビゲイル・ステューアット博士、このCPBM研究室のリーダーよ。リーナには表向きここでアビーの研究に協力する、ということになるわ」

 

「よろしく、リーナ。私のことはアビーと呼んでね」

 

 

アビゲイル・ステューアット博士、アビーは赤毛のショートヘアーであるためか、ユニセックスな印象を受けるが美形で、偉ぶった感じはなく、近所のお姉さんのような距離感で話してくれた。惚れた。

 

 

こうして始まった任務は昼間と夕方で全く違うことをする、二足の草鞋のスパイの様な生活となった。

 

昼間は午後二時過ぎまで研究所で実験台。

スターライトの訓練ほどではないものの任務のついで、偽装のための仕事にしてはきつい。が、訓練とは違って、アビーが「頑張って」、と励ましてくれるからいくらでも頑張れる。

 

そして、それが終われば、スターライトとしての任務だ。どこに潜んでいるのか分からない敵に姿を見せることと、土地勘をつける、という二つの目的で、日が暮れるまでボストンの街を徒歩で歩き回り、自転車で走り回る。完全に遊んでいるだけの子供ですね。

 

自転車とか今世では初めて乗ったから、最初全然乗れなくてアンジーに暖かい眼差しで見守られた。どうも寝坊した時から完全に子供扱いをされている気がする。死にたい。

 

言い訳させてもらうと、別にぼくはただ歩いたり自転車を漕いでいるわけではない。

周囲の地形は頭に入れているし、しっかり「敵」に姿を見てもらえるように工作をしている。

 

 

街中で勝手に魔法を使うことは勿論、法律で禁止されている。

魔法師の存在する世界では銃刀法違反の様なものなのだから当然だろう。何せ核よりヤバイ魔法を使える男子高校生までいるのだからこの法律がなければ街が世紀末になる。

だから日本もUSNAも街中の許可なき魔法の使用を禁止しているわけなのだが、USNAの場合州によって規制される程度が異なっている。

魔法を無許可で実際に行使することを禁止する、という点は各州同じだが、ボストンがあるマサチューセッツ州では公的、私的空間を問わず、第三者の有無を問わず、事前の許可なく魔法を行使することを禁じている。

 

しかし抜け道があって、マサチューセッツの場合、実際に発動させなければ魔法式を構築しても犯罪にはならない。想子(サイオン)を放射する無系統魔法は「魔法かどうか」の区別が付きにくいこともあって事実上黙認されているのだ。無系統魔法を厳しく取り締まると、その性質上、教会のミサまで規制の対象になってしまうという点が過去、問題になったからだ。

 

そのルールを逆手にとって、ぼくは弱い無系統魔法で想子(サイオン)をまき散らしながら街を走り回っているのだ。

こうすれば分かり易く「敵」の目に付き、姿をみせる、という目的を達成しやすくなる。

 

まあ、見た目上はやっぱりただ遊んでいる子供にしか見えないかもしれないが。

 

 

「リーナ、三ブロック先でひったくりが発生しました。犯人は魔法師ではありませんが、近くに有名な魔工師ショップがあります」

 

「了解」

 

日が暮れてきた頃、ワゴン車の運転手を務める【ドライバー】の声にぼくは出動の準備を整えた。

【ドライバー】というのは今回の作戦の支援要員のコードネームだ。他にも「ブラッシー」「スプーン」「バッフィー」「クリーク」「ロング」「ミドル」「ショート」「ウェッジ」などのコードネームで呼ばれる支援メンバーがいる。

当然、彼ら(もしくは彼女ら)がいるため、亡命作戦は何一つ進んでいない。事前の調査と、自分の足で覚えた土地勘によってボストンからの逃亡ルートはある程度考えることが出来たのだが、実行は出来そうにないため無意味だった。

 

ぼくはため息を一つ吐いて、目の周りを覆う申し訳程度の仮面を着けた。

 

言うまでも無く、ひったくりの取り締まりはスターズの仕事ではないし軍の仕事ですらない。

 

しかし、現場付近は魔法関係の店舗や小規模工場が集まっている地域だ。USNAの魔法工学技術はドイツと並んで最先端と評価されており、個人の製品であっても輸出規制の対象になっている関係で、有名な魔工師のチューンナップ製品はスパイにとって十分成果になり得るらしい。

つまり、ここでぼくが無意味な活躍を見せることで、闇に潜んでいる工作員の間で噂をしてくれる可能性があるということだ。

昨夜まではこんなしょぼい事件ではなく、ちゃんと魔法師による犯罪を追いかけていたのだけど、魔法師の稀少さを考えれば当然のこととはいえ、中々その現場に遭遇できなかったのだ。

そのため、今夜から方針を変えたのである。

 

 

さて、ぼくの名誉のために最初に言っておくと、ぼくは今、激しく死にたい衝動に駆られるくらい猛烈に恥ずかしく、街を徒歩、自転車で走り回るのは今世紀最大の恥辱だったと言っておこう。

 

 

ぼくは、火の明かりに、古風な街並みが影絵の中から浮かび上がっているボストンの街へと飛び出す。

 

こうして研究所があることからも分かる通り魔法研究者から人気を集めているこの地の人気の理由は、この一見古い街並みが魔法のオカルティックなイメージにマッチしているから、という単純かつ胡散臭いものなのだが、この街を一目見れば、そんな気持ちは無くなってしまうに違いない。

石造り、レンガ造りの外観を持つ建物の陰から、この世のものならざる者たちがふと顔をのぞかせそうな雰囲気。

正しく魔法使いに相応しい。

 

そう、相応しいのだが――。

 

 

小さな女の子が着るような、フリルでいっぱいに飾られたミニスカート。しかも、アンダースコートを着けているとはいえ丈は膝上十センチ。

 

脚にはこれまた小さな女の子か穿くような、膝上まであるボーダー柄のソックス、ローヒールのパンプスはストラップ付きの可愛いデサイン。

 

オフショルダーのぴちっとしたカットソーは丈が短くへそが見えている。

両手にはリボンが付いた手袋、頭にも大きなリボンをつけている。

 

完全に魔法少女ルックであった。ゴリゴリの、完膚無きまでに完璧な、魔法少女ルックであった。地獄である。

 

この格好で街を走り回らされたぼくの気持ちが誰に分かるだろうか。

小さな子供からでさえ後ろ指を指されるぼくの気持ちが!

大体ぼくはスカートだって穿きたくなかったのだ。それをいきなりこんなレベルの高いコスプレで街に放り出すなんて鬼畜なんて言葉じゃ生易しいくらいだ。

 

最初、任務の衣装だとこの服を渡されたとき、即座に亡命計画を遂行するか本気で悩んだ。

現実的に実行不可能だったからぐっと堪えたけどね!その結果、これである。

その場でアンジーに試着させられて、参考写真とか言ってパシャパシャ撮られて、泣きそうになったけど、街を歩き回らされることになるとは思ってもみなかった。

とりあえず、ぼくが亡命する時、アンジーには同じ目に合わせる!魔法少女の衣装着せて、街に放り出す!

 

そんなことを考えていたからだろう。

 

 

「止まりなさい!」

 

 

停止を促すと同時に強盗の腰から上の高さに対物障壁を展開する。

魔法による防御を纏っていない生身の人間が魔法障壁を突破できるはずもなくひったくり犯は、もんどりを打って背中から落ちた。

ひっくり返ったモーターボードの車輪が小さな軋しみを上げながら空回りする。

 

コメディ映画のような光景に、夜道を歩いていた人々が呆気に取られた目を向けている。

 

髪に隠れたイヤーフック型の通信機から、アンジーの呆れ声が耳に届いた。

 

 

『リーナ……すぐ目の前に壁を作ったのでは、止まる暇なんて無いでしように』

 

 

全くもってその通りである。ぼくのアホさが諸に出てしまった。ま、まあ、どうせ止まらなかっただろうし、結果オーライだよね。

 

が、ぼくのアホさは留まることを知らなかったらしい。

 

 

「アンジー!今のは、状況判断でですね、即座に停止させた方が良いとですね……」

 

 

これ以上アホの娘だとは思われたくない、と釈明の為に思わず大きな声になってしまったのがいけなかった。通信機越しのアンジーに話し掛けたのが、周囲の通行人にも聞こえてしまったらしい。

 

 

「アンジーって?」「あの子の名前じゃない? ほら、コミックヒーローって、こういう場面で名乗りを上げるでしょ?」「あの子、アンジーって言うんだ」

 

「ち、違います!」

 

 

反射的に、 野次馬に向かって言い返す、が次の言葉は出てこなかった。ぼくの愛称がアンジーであることに間違いはなく、しかし、ぼくが呼んだのはぼく自身のことではなく、通信機の向こうのアンジーであって……、とテンパっている内に通行人の会話が思わぬ方向に進んでしまっているからである。

 

 

「えつ、アンジーじゃないの?」「じゃあ、アンジーって誰だ?」

 

 

怒られる、これは怒られる。

アンジーという名前はミザールが隠密行動を取る予定になっている名前だ。人々の記憶にこの名前が残ってしまうと潜入がやりづらくなってしまう。

 

この時のぼくは、次々と起こる問題にキャパオーバーを起こしていたのだと思う。

 

翌々考えてみれば、アンジーなんてありふれた愛称、人々の記憶に残ったところで問題ないし、そもそも、ぼくとミザールとでは身長やら体型やら年齢やら、いくらぼくがこんな無惨なコスプレで変装していようと、別人だと分かるくらいには違いがあるのだから、潜入に支障なんて出るわけもなかったのだ。

 

なのにぼくは、この状況をなんとかしなくては、という使命感に駆られ、とち狂った行動に出てしまう。

 

「魔法少女リーナ参上!」

 

 

名乗りを上げながら、くるっと回って、目の近くで横ピースをしてウィンク。

ポーズを決めたところでぼくは思った。

えっ、何してんのぼく?と。

 

 

『リーナ、貴女何を言っているの?』

 

 

アンジーの少しも笑っていない、えっ何こいつ?どうした?的な純粋な心配を含んでいるのであろう困惑の声がぼくの胸を抉った。

 

 

 

激しく死にたい。




主人公の黒歴史を量産していくスタイル。

さて、明日も0時に投稿します。
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