青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~ 作:カボチャ自動販売機
軍が計画した以上にぼくの「魔法少女」姿が広まったので、日がある内の活動は今後控えることになった。というかぼくはもう亡命するまでまともに外を歩ける気がしない。素顔を知られても他人に覚られず行動できる魔法を持ってはいるのだけど、とても外出できる気分ではない。できれば埋まっていたいくらいだ。
が、ぼくは、バカンスでボストンに来たのではない。任務である。
夜は予定どおり陽動任務に携わるとしても、日中は研究所の実験――つまりはドSオタクのアビー大先生――に協力しなければならない。
本当は正式な任務は陽動だけであるし、夜に備えて休んでいても良いのだが、アビーのお願い攻撃に負け、了承してしまったのだ。
何だかんだ言っても、美少女であるアビーに可愛くお願いされたら断れなかったよ……。小首傾げてお願いって反則だと思うんだ。
ここ数日で、研究室の人たちがアビーに甘すぎるとは思っていたけど、絶対アビーの美少女力に屈したんだと思う。
まあ協力することは良しとしよう。
ぼくにとって、この研究は悪いことではない――どころが、恐らく必須なのだ。
何せ、アビゲイル・ステューアットという若き天才博士の
原作において、アンジェリーナ・クドウ・シールズの、正確にはスターズの総隊長、戦略級魔法師で十三使徒の一人、
◆
「リーナ、『ムスペルスヘイム』という魔法を知っているだろうか?」
アビーの研究室に赴いてすぐに、こんな質問を投げけられた。
「はい、一応発動もできます」
スターライトの中でぼくがスターズ候補一番手に挙げられているのは『ムスペルスヘイム』という高等魔法を使えるからというのもあるだろう。出力と範囲は実戦に堪え得ると評価されており、スターライトではぼくの代名詞となりつつある。ムスペルヘイムのアンジェリーナ、みたいなね。当時は嫌だったけど、今となっては素晴らし過ぎる。魔法少女プラズマリーナに比べれば格段にマシだ。
「それはすごい」
アビーには、ぼくの情報はほとんど伝わっていないだろうから、そこまでは知らなかったようで、お世辞ではなさそうか賛辞を口にした。照れる。
「恐縮です」
「固いなぁ。もう少し可愛らしい態度の方が好みなんだけど。ほら、ちょっと上目遣いしてみてくれ」
「アビー、パワハラでセクハラです」
「リーナ、君にはサービス精神が足りないな」
アビーは古典的なアメリカ人の様に、両手を広げて首を傾げて言う。やれやれとでも言いたげだが、それはまるっきりこちらの台詞である。しかし、口に出すわけにはいかないため、ジトッとした目を向けておく。
「まあ良い、それは後でやってもらうとして本題に戻ろう。君がムスペルヘイムを使えるのであれば、その説明は省いて話そうか」
後でもやることはないのだが、このままではいつまでも話が進まないのでスルーする。
「私が現在取り組んでいる新魔法は、ムスペルスヘイムを開放型の軍事魔法にすることだ」
「開放型?」
この文脈で使われるには聞き慣れない言葉に、思わず、オウム返しに問い返えすとアビーは嬉しそうに話始めた。
「ムスペルスヘイムをはじめとする領域魔法は、魔法の効果を、一定の空間にのみ及ぼすものであり、魔法の効果を限定空間に閉じ込めるものと言い替えることができる」
抑えているのか控えめにではあるが、アビーの声は弾んでいた。どうやらアビーは人に教えるのが好きなタイプらしかった。
嬉しそうに大人ぶって話すアビーが堪らなく可愛いです。
「開放型というのは魔法により新たに生み出された事象を、限られた領域に閉じ込めず拡散させるタイプのことだ。魔法により改変された事象は、魔法の作用が無ければ消えてしまうものと、魔法とは独立の物理現象として残るものがある。後者の、例えば高エネルギープラズマを、魔法力を使って狭い範囲にわざわざ閉じ込めておくのは無駄だろう?」
やばい、アビーが可愛くて話に集中出来てなかった。つまり、狭い範囲に閉じ込めてしまっているのを拡散させたい、ということなのだろうか。
ここはとりあえず頷いておこう。
「そうですね」
「とはいうものの、ただ拡散させるだけでは威力がすぐに減衰してしまう。それでは兵器として使えない」
兵器。
そう、今、開発されようとしている魔法は兵器だ。
やがて、「一度の発動で人口五万人クラス以上都市、または、一艦隊を壊滅させることができる魔法」である戦略級魔法となるのだから。
17歳という若さにして、既に開花している類い希な才能。原作において、あの司波達也でさえ手放しで絶賛する天才博士アビゲイル・ステューアットという少女が如何にして魔法の兵器利用の研究などしているのか。
ぼくの、そんな考えが顔に出ていたのか、アビーが言う。
「私が何故、魔法を兵器にする研究をするのか疑問かい?」
アンジーに開かれれば、叱責は免れない、軍人として不適当な質問だろうが、ぼくはそれを口にした。
「アビー、貴女程の人なら、兵器ではなく、魔法の平和利用の途にも貢献できるのでは?」
「魔法を兵器として利用することが、良いことだとは思わないし、魔法の平和利用というのも興味深くはある」
興味深い、というのは嘘ではないだろう。
数日の付き合いで分かったが、彼女の言葉には嘘がない。それは天才故の傲慢さなのか、それとも純粋さなのか。それは本人だけが知ることだが、彼女は口にしたことに責任を持つ。
だから、彼女の言葉には嘘はない。
「だが現実に、その需要があるのは兵器としての魔法だ。実際、スターズを筆頭に魔法は兵器として使われている。ならば魔法を抑止力にすることも考えなければならない。
私は、平和利用よりも、そちらの方を重要視した、ということだよ」
抑止力。
なんとなく、アビーの言いたいことが分かった。
魔法は魔法でしか防げないが、単に威力だけなら魔法より核兵器や化学兵器の方が上だろう。それこそその程度の軍事兵器は一世紀前にも存在していた程だ。
でも、軍事的有用性は、戦闘目的に開発された魔法が勝る。大規模な輸送手段を用意しなくても、魔法師がいれば魔法は使えるのだから。
つまり魔法は、最強の抑止力になる。
そして、魔法による抑止力と言えば。
「アビーは、戦略級魔法を開発しようとしているのですね」
「最終的には、それを目標にしているが、戦略級魔法の定義に拘る必要は無い、とも考えている」
戦略級魔法でない抑止力。
その考えは、極めて先進的なものだ。彼女の若さと才能故の発想だろう。
軍、という集団は脅威度を損害の数字で判断する。その観点から見れば、抑止力とするならば、戦略級魔法クラスの被害を与えられる魔法でなくてはならないはずだからだ。
今の発言はその常識を覆す、ということ。
「戦略級魔法の定義は、『一回の発動で人口五万人クラス以上の都市を破壊する、または1艦隊を壊滅に追い込む魔法』であるが、局地戦では、そういう大規模な攻撃手段が使えないケースもある。狭い範囲、限られた対象に高い威力を集中させることができる魔法の方が敵の戦意を奪うのに有効なケースは決してレアではない。
例えば、先年のアークティック・ヒドゥン・ウォー、ベーリング海峡を挟んだ新ソ連との紛争だ」
「……『リヴァイアサン』の出番が無かったのは、あの大規模魔法を投入する機会が掴めなかったからだと?」
「その通り。戦略級魔法『リヴァイアサン』は基本的に対艦隊用魔法だ。沿海部の都市であれば陸上攻撃に使えないわけではないが、その場合も破壊は大規模な――言い替えれば大雑把なものになる。
USNAも新ソ連も、紛争当事国の両方が戦闘を限定的なものに留めたかった『ヒドゥン・ウオー』のようなシチュエーションでは、『リヴァイアサン』は確かに、使えない魔法だった。つまり、その場面において『リヴァイアサン』は抑止力としての意味を成していないのだ」
「だから効果範囲が狭く、威力が高い戦闘用魔法を開発する、ということですか」
戦闘を限定的なものに留めたい、という場面は、意外な程に多い。そもそも、『リヴァイアサン』の様な戦略級魔法というジョーカーを持っている相手に、それを使えてしまう状況を、敵は作らせようとはしないだろう。
「それだけが理由ではない。私は戦略級魔法とは別のアプローチで魔法を抑止力としようと考えている。
戦略級魔法は定義にもある通り、『都市、艦隊の破壊』の規模で分類されている。が、ヒドゥン・ウォーのように少人数の魔法師が密かにぶつかり合う戦いであれば、その様な魔法は使えず、逆に敵魔法師の防御障壁を派手に撃ち抜く魔法が抑止力になる。
敵は貴重な魔法師戦力を失うことを恐れ、戦闘続行を断念することになるからだ」
今までの常識を根底から覆す思想。
正に天才、正しく天才。
「話が長くなってしまったが、つまり、私はこういうアプローチでの抑止力を目指しているから、戦略級魔法に拘る必要はない、ということだよ」
ウィンクをしながら、アビーがそう締めくくった時。
それこそが、この出会いが、アンジー・シリウスを生み出すのだと、確信した瞬間だった。
アビーというキャラの掘り下げのため説明回です。
しばらくシリアス壊したい衝動に耐えます(震)
さて、明日も0時に投稿します。