セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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いろはすめっちゃ書きにくい。どうやるといろはすになるんだ……?


その2

 翌日。放課後の特別棟にある奉仕部の部室にて、三人の女子が悪魔の契約にサインをしていた。比喩表現である。

 

「よく来てくれたわ。奉仕部はあなた達の悩みを歓迎します」

「……ユイ、言っちゃなんだけどこの人大丈夫なの?」

「あたしの時はちゃんと解決してくれたよ」

 

 例えるならばニチャァと擬音でもしていそうな笑顔で歓迎する雪ノ下雪乃を見ながら、姫菜は結衣にそう問い掛けていた。多分普段笑顔を作り慣れていないのだろう、と好意的に解釈した結衣は、彼女の問い掛けに自分の経験を添えて返す。

 いや絶対あれわざとやってる。そう確信を持ったが、姫菜は口に出さない。自分も腐っていると自覚していたが、目の前のこいつは色々別ベクトルで酷い。これならばまだ同ベクトルの八幡の方が共感出来た。

 

「……で、あーしの悩みをどう解決してくれるわけ?」

「そうね。まず初めに言っておかなければならないのだけれど。奉仕部で出来るのはあくまであなたが進む手伝いをすることよ。魚の取り方を教えはする、取れるかどうか見守ることもする。けど、こちらで取った魚を施すことはしないわ」

「別に回りくどい言い方しなくてもいいし。成功するかしないかはあーし次第ってことっしょ?」

「ええ、その通り。あなたは聡明ね」

 

 優美子の言葉にそう述べ、雪乃は微笑む。先程の悪意しか感じない笑みとは違い、極々自然なものに思えた。つまりは先程のは営業スマイルということなのだろう。営業先が確実に間違っている。

 ではまず細かい相談内容を聞きましょう。そう言うと、雪乃は机にノートを広げた。聞き取った内容をそこに記すつもりらしい。この間はそんなのあったかな、と首を傾げた結衣を余所に、分かったと頷いた優美子は少々恥ずかしそうにしながら隼人へ芽生えた恋心と、そのためにどうすればいいのか悩んでいることを伝える。

 ふむふむ、と聞いていた雪乃であったが、依頼人の恋する相手が葉山隼人であるという部分を聞いた時一瞬動きが止まったのを姫菜は見逃さなかった。おやおや、とほんの少しだけ怪訝な表情を浮かべ、次いで口角を上げると二人の会話に割り込んでいく。

 

「ねえ、雪ノ下さん」

「何かしら?」

「雪ノ下さんって、隼人くんと仲良い?」

「そうね。一応分類するならば幼馴染かしら」

 

 おお、と予想以上の関係が飛び出し姫菜が沸く。が、それとは対照的に優美子はあからさまに顔を歪めた。相談相手が好きな人の幼馴染、これはかなりまずいやつではないだろうか。そんなことを思ったのだ。

 

「安心してちょうだい三浦さん。私は彼に恋愛感情を抱いていないわ。そして、向こうも私を恋愛対象とは見ていない」

「何で分かるし」

「付き合い長いもの」

 

 そうはっきりと即答されてしまえば、優美子といえども黙らざるを得ない。まあそういうことにしておく、と少しだけ不貞腐れたように述べると、机の上に頬杖をついた。

 そんな彼女を見ながら、雪乃は先程のメモに目を通す。くるくるとペンを回しながら、ふと思い出したように視線をノートから結衣に向けた。

 

「由比ヶ浜さん」

「ふぇ!? な、何ゆきのん?」

「ゆきのん?」

「ユイ、あんた思い付いたあだ名を唐突に使い始める癖直した方がいいと思う」

「……ぜ、善処します」

 

 しゅん、と項垂れた結衣にまあ別に構わないけれどと雪乃は返し、それよりも聞きたいことがあると言葉を続けた。それに顔を上げて表情を輝かせた結衣は、何でも聞いてと勢いに任せて口にし優美子の隣にずずいと割り込む。

 

「何でも聞いていいのね?」

「あ、やっぱり答えられる範囲でお願いします」

「そこは自分の発言に責任持たなきゃユイー」

「海老名は黙ってろ」

 

 いつの間にか雪乃側で結衣をからかう方向にシフトしていた姫菜を物理的に黙らせた優美子は、話進まないと溜息を吐く。そんな彼女を見て、雪乃はごめんなさいと苦笑した。

 

「一応相談に関係することを聞きたかったのだけれど」

「あ、それなら大丈夫。なになに?」

「葉山くんの周りの女性を、知っている範囲で答えて欲しいの」

「へ?」

 

 告白、とまではいかずとも、ある程度好意を持っている女子はかなりいるであろう。が、クラスの違う雪乃の知っている範囲と普段から近くで騒いでいる結衣達の知っている範囲、両方を照らし合わせなければ算段が立てられない。

 成程、と頷いた結衣は、とりあえず思い付く限りそれっぽい人物の名前を列挙していった。優美子も姫菜もつらつらと出てくる女子の名前を聞き思わず目をパチクリとさせる。

 

「ユイ、あんたそれどうやって知ったし」

「ん? 知ったっていうか、隼人くんの近くにいると目に入るって感じ?」

「ユイ、恐ろしい子……」

「流石は由比ヶ浜さんね」

 

 ノートの別ページに結衣の述べた名前を書き連ねる。その横に自分の知っている範囲の該当者を書き加え、被っている名前を消していった。

 そうして残った名前の人物について三人に質問をし、優美子のライバルとなるか否かを選定していく。大抵が「葉山くんってカッコいい」レベルで落ち着き、良くても「葉山くんが彼氏なら最高なのになぁ」で止まっていた。

 

「と、なると。由比ヶ浜さんの知る範囲では三浦さんの敵となりそうな女子は無し、というわけね」

「こう言ったらあれだけど、優美子より美人な子そうそういないし、積極性とかそういう部分でも敵う相手はまずいないんじゃないかなぁ」

「そうだねー。あたしも姫菜と同じ意見。優美子ってカッコいいのに可愛いもん。何かずるいよー」

 

 うんうん、と頷く結衣を一瞥し、確かにそうねと雪乃も述べる。思わぬ高評価にほんの少し照れながら、優美子はそれでどうするのかと彼女を見た。そこで表情を戻した雪乃は、くるりとペンを一回転させると、ならば問題はこれだとノートにそれを落とす。

 打ち消し線の引かれた名前の列挙の中、唯一つ無傷のものがあった。雪乃の書き加えた部分の一番上、恐らくもっとも優美子の敵となるであろう人物。

 

「えっと……一色、いろは?」

「聞いたことないなぁ。っていっても私の交友範囲とかたかが知れてんだけど」

「知らなくてもしょうがないわ。彼女は一年生だもの」

 

 そう言いながらノートの別ページに雪乃はその一色いろはなる人物についての情報を書き加えていく。まるで探偵のようなその情報に、三人は思わず目を丸くさせた。

 

「奉仕部って何者……?」

「ゆきのん凄い!」

「何か、今更ながらあーしこいつに相談してよかったのか不安になってきた……」

 

 プライバシーに関わる部分は当然ながら持っていないわ、と言ってのける雪乃を見て、絶対ウソだ、と三人は確信を持った。真相は闇の中である。

 

 

 

 

 

 

 一色いろははサッカー部のマネージャーである。今回の依頼で重要な部分の一つはこれだ。優美子の想い人葉山隼人はサッカー部のエース。同じ部のマネージャーとなれば、同じクラスというアドバンテージと同等のポジションに近いものを持っていてもおかしくない。

 

「つっても一年でしょ? 流石に優美子に勝てなくない?」

「ええ、一年よ。一年で、入学したばかりなのに、()()()()()()()()()()()()だと認識させるほどの、ね」

「……今五月だから、一ヶ月くらい? え? 一ヶ月で隼人くんと距離詰めたの?」

 

 マジカヨ、という顔で驚く結衣を尻目に、優美子は件の人物がいないかどうか視線を巡らせていた。サッカー部へと向かう途中に何かしらの用事で動いていた場合、これ幸いと捕獲する腹積もりだ。捕獲した後はどうするかは彼女の気分次第である。

 幸か不幸かいろはと遭遇することはなく、四人はサッカー部の練習している場所へと辿り着いた。ではどこにいるのか、とキョロキョロする一行だが、生憎きちんと顔を見ているのが雪乃しかいないため効率が悪い。

 そしてその雪乃は、暫し視線を動かした後首を傾げた。あら、と呟いた。

 

「どうしたのゆきのん?」

「いないわ」

 

 色々と動いているマネージャーの顔ぶれの中に件の一色いろはがいない。そのことを伝えると、三人もどういうことだと首を傾げた。隼人がいないからサボっている、というある意味徹底した行動というわけでもない。何せ眼の前のサッカー部の練習風景の中に彼はいるのだから。

 

「少し、聞いてみた方がいいかしら」

 

 どうする、と視線で三人に意見をもらう。別段否定する理由もなかったので、OKを込めて頷いた。

 では、と一行はもう少しサッカー部へと近付く。ちょうど一息ついたサッカー部員は突如やって来た女子生徒四人を何だ何だと騒いでいたが、それもすぐに収まった。

 

「お、隼人くん、どしたん?」

「いや……何でもない」

 

 また碌でもないお節介してるな、とその女子生徒の中の一人雪乃を見ながら溜息を吐いた隼人は、余計なことを考えないようにして練習に戻った。勿論完全に頭から取り去ってはいないため、ちらちらと視界の隅に映る雪乃が気になりプレーに精彩が欠けた。

 そんな隼人のことはそっちのけ。雪乃達はいろはが今日は来ていないということを聞くと、マネージャー達にお礼を述べその場を去る。ここにいないとなると何処にいるのだろうかと一行は首を捻った。

 

「ゆきのん、心当たりないかな?」

「流石に私も向こうの行動を完全に把握は出来ていないから。ごめんなさい」

「あ、いや、謝ることじゃないよ! ていうかこっちこそ無茶言ってごめん」

 

 なにやってんだか、と優美子はそんな結衣を優しげな目で見る。姫菜はそんな二人を見て、どこか楽しそうに微笑んだ。

 まあ見付からないならばしょうがない。誰かが述べたその言葉に同意したのか、今日はここで解散しようということになった。また後日、一色いろはを確認し対処しなければならない。そう締めくくった。

 

「対処って何か物騒だし……」

「甘いわ由比ヶ浜さん。恋は戦争なのよ」

「殺るかヤラれるか、ってやつだね」

「てかお前らあーしのこと何だと思ってるし」

 

 三人の言葉のイントネーションは完全にいろはを見付けたら始末するノリであった。勿論するのは優美子である。姫菜にいたっては一色いろはの首が折れる音を聞く羽目になるのだろうと思っているフシさえある。

 いろはの前にまずこいつらの首へし折ってやろうか。そんなことを思いつつ指をコキコキ鳴らし始めた優美子であったが、しかしその途中で雪乃が何かに気付いたように足を止めたのでその動きを中断した。結衣も姫菜もそれに合わせるように動きを止め、そして彼女の視線を追う。

 地毛だろうか、亜麻色のセミロングの少女が、どこかあざといともいえる笑顔で一人の男子生徒と歩いていた。雪乃の表情や事前に貰っていた情報を総合すれば彼女が一色いろはであることは間違いない。現に雪乃は彼女を見て目を見開いている。

 否、違う。彼女が見ているのはいろはではない。その隣だ。見てはいけないものを見てしまったような、タイミングを間違えたオーケストラのシンバルのような、そんな気まずさを抱いているような表情で。雪乃は残りの面々にそちらを見ないよう誘導させようとした。勿論、手遅れである。

 

「あれ、って」

「あいつが一色いろはって奴? ……で、その隣にいるのは」

「……ヒッキー」

 

 三人は見てしまったのだ。彼女と並んで歩いているその男子生徒を。

 一色いろはと並んで歩く比企谷八幡を。

 

 

 

 

 

 

「うお、何だ!?」

 

 発見してからの彼女達の行動は早かった。即座に駆け出し、八幡の目の前に仁王立ちする。突如現れた三人組にびくりとした八幡は、しかし一応は見知った顔であることを認識すると少しだけ警戒心を解いた。少しだけである。優美子がいる時点で彼の警戒心がゼロになることはあり得ない。

 

「先輩の知り合いですか?」

「あ、ああ。クラスメイト、だな」

「何で今詰まったし」

 

 ずずい、と結衣が一歩前に出る。いやだって説明めんどいだろ、という彼の言葉を聞き、彼女は呆れたように溜息を吐いた。まあいいや、と一歩下がり表情を戻す。

 じゃあ次、とばかりに優美子が前に出た。八幡はその動きに合わせ思わず後ずさる。

 

「先輩、かっこ悪い」

「やかましい。俺は自分の命が惜しいんだよ」

「だからって後輩盾にしますか普通」

 

 ぷんぷん、と擬音でも出るかのような怒り方をしたいろはは、しかしすぐにその雰囲気を霧散させると優美子に問い掛けた。何か御用ですか、と。

 対する優美子はそれを挑発と受け取った。こいつやっぱり始末するかと一瞬頭によぎり、いかんいかんと首を振る。さっきのノリが自分に思いの外浸透していたことに気付きほんの少し凹んだ。

 

「一色いろは、でいいよね?」

「え? あ、はい。どこかで会ったことありました?」

 

 名前を呼ばれたことでいろはは不思議そうな顔をして首を傾げる。それがどうにも男受けを意識してそうな動きであったため、優美子の眉がピクリと上がった。

 

「一色、三浦がキレそうだからそれやめとけ」

「なんですか先輩まるでお前のことは全部分かってるよみたいなその物言い」

「自意識過剰だ。俺はお前にそこまで興味はねぇよ」

「少しは持ちましょうよ」

「どっちなんだお前」

 

 はぁ、と八幡は溜息を吐く。突如始まったそのやり取りで再度毒気が抜けたようになった一行は、そろそろ当初の目的を忘れかけるほどであった。

 そのタイミングで雪乃が合流する。三人と違い歩いてここに向かってきたため遅れたのだ。彼女はまずいろはを眺め、そしてそのまま八幡に視線を向ける。ふむ、と何かを考え込むような仕草を取り、そうした後口角を上げた。

 

「比企谷くん、デートかしら」

「何処をどう見たらそう見えるんだ」

「余程穿った目で見ない限り真っ先に出てくる単語だと思うわよ」

 

 ほら、と雪乃は二人を指し示す。八幡もいろはも、お互いが触れ合うような位置に立っている。別段狭い空間でもない場所でその状態ということは、確かにそう邪推しても仕方ないように感じられた。

 が、当然それは違う。そう言わんばかりに八幡は顔を顰め、そしていろはもいやいやいやと首を全力で横に降った。

 

「違いますよありえませんよというか先輩はもう少し目を蘇らせてからそういう場所に立ったほうがいいと思います」

「立つ予定もねぇよ」

 

 そう言いながら、八幡はだから違うと口にした。眼の前の雪乃ではなく、全員に言うようにでもなく。

 そこでどこか不満そうに頬を膨らませている結衣に向かって、そう述べた。

 

「あれ……? あ、やば」

 

 彼のその行動に何か感付いたらしく、いろはが思わず声を上げた。八幡の視線を確認すると、そこにいた結衣に向かってそうなんです違うんですと手をぶんぶんとさせる。

 

「わたしは先輩の彼女なんかじゃないですよ。友達です、ただの友達なんですよ~」

「あー。まあ、そうだな。そんな感じだ、お前らが思っているような関係はない」

 

 へら、と警戒心を薄れさせるために浮かべた笑みと共にそんなことをのたまう。そういう関係などではないと言い放つ。あくまで友達だと断言する。

 そしてそれを聞いた八幡もそれに追従した。これが他の男子生徒ならば浮気を誤魔化す方弁だのなんだのと考えたかもしれないが、生憎と彼は八幡である。こういう時に誤魔化すならばもっと相手を丸め込む弁舌をするし、違う方法で煙に巻く。逆説的に、今の言葉が真実であると証明しているのだ。

 

「え? とも、だち……?」

 

 だから、一色いろはは比企谷八幡の友人であるということを、彼が至極あっさりと認めたということに他ならないのだ。結衣にとって、時間を掛けてようやく手に入れたその名前を、いろはが当たり前のように持っているのだと言われてしまったのだ。

 

「あっちゃぁ……」

「ヒキオ……」

 

 姫菜は額を押さえ、優美子は殺意が増した。何でそうなる、と八幡は更に後ずさり、いろははそんな彼を見て呆れる。

 そして雪乃は。

 

「……さて、どう収拾つけようかしら」

 

 涙目の結衣を見ながら、軟着陸出来る場所を探すため思考を巡らせていた。

 

 


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