セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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……戸部の霊圧が……消えた……?


その3

 放課後である。結衣と共に優美子を宥め、午後の授業を受け。そしてこの時間を使って昼の状況の説明をしてもらおうと思っていた姫菜は、そこでキョロキョロと視線を動かした。

 いない。普段であれば教室で暫しダラダラしているはずの友人が、どこにもいないのだ。

 

「ユイ、優美子は?」

「え? あれ? いないね。……どこ行ったんだろ」

 

 どうやら親友にも何も言わずにどこかへ消えたらしい。今日の出来事を鑑みて、そして彼女の性格を踏まえ。この状況でどういった行動を取ったのか、予想出来る最悪の事態は。

 

「あの……馬鹿っ!」

 

 ばん、と机を叩くように立ち上がった姫菜は、カバンを引っ掴むと教室を飛び出していく。普段の彼女の姿を知っていれば到底やらないであろうその行動を、残された結衣はポカンとした表情で眺め。そして我に返ると視線をすぐさま動かした。目的の人物を視界に入れると、教室を出ようとしていた彼へと突撃していく。

 

「ヒッキー!」

「うお! 何だガハマ、俺はもう帰るぞ」

「ねえ優美子がどこ行ったか知らない?」

「人の話聞いてたか?」

 

 ぐい、と彼の袖を掴んで離さない。そんな彼女を呆れたような表情で見ていた八幡であったが、溜息を吐くと教室を出ようとしていた足を止め結衣に向き直った。

 あ、やっぱり聞くんだ、と教室に残っていたクラスメイトはそんな彼の行動を生暖かく見守った。

 

「で、三浦がどうしたって?」

「分かんない」

「……じゃ、そういうことで」

「待って待って! でもほんとに分かんないの」

 

 ふざけているわけではない。それは八幡も理解している。が、それでじゃあ問題ないかといえば話は別。状況も内容も分からないのに相談されたところで答えなどだせるはずもない。

 とりあえず分からないなりに分かっていることを話せ。そんな謎掛けのような彼の言葉に、結衣はコクリと頷き今日の出来事を順繰りに思い返しながら口を開いた。

 

「えっと、確か最初は姫菜が隼人くんととべっちが最近二人でどこかに行ってるって言い出して」

「……お、おう」

 

 事情を知らなければ、その理由を知っていなければただの姫菜が腐った話を切り出したというだけである。が、その理由を知っている八幡は、そして対象が姫菜だと知っている彼は、そこで思わず言葉に詰まった。

 幸い結衣は気にすることなく、そこで八幡も同じように教室を出たので追い掛けたと話を続けている。助かったと胸を撫で下ろしたが、しかし言っていることは言っていることで全然助かっていなかった。

 

「は? 追い掛けた?」

「そだよ。そしたらヒッキー、いろはちゃんと仲良く喋ってて」

 

 何か突然浮気追求されてるみたいになってるな。クラスメイトはそんなことを思った。実際優美子と姫菜も結衣の反応を見るまでそういう考えを持っていた。

 

「で、その後ゆきのんと隼人くんが仲良さそうに話してるのを見て優美子が誤解しちゃったみたいで」

「俺の下り必要だった?」

「優美子が自分はああいう風に好きな人が別の女子と仲良くしてるの嫌だっていう流れだったし」

「……お、おう」

 

 彼には繋がりがよく分からないが、とにかくそういうわけらしい。その後二人で優美子を宥め、そして放課後の現在優美子がどこかに消えた。それを知って何か察したらしい姫菜も教室を飛び出した。つい先程の光景に繋がる経緯を話し終えた結衣は、そういうわけなんだけどと八幡を見た。

 

「どうかな?」

「何がだよ。……いや、まあ、その流れなら三浦がどこ行ったのか何となく想像はつくが」

「ほんとに!?」

「というか、お前も分かったんじゃねえの?」

 

 経緯を話している途中で、結衣が何かを思い付いたように動きを止めたのを八幡は見逃さなかった。突然のことで一瞬混乱したが、説明という行動を取ることで整理をし答えを自身で弾き出せたのだろう。

 

「……やっぱ、ゆきのんのところかな?」

「俺はお前ほど三浦を知らん。だからお前の出した答えにダメ出しは出来んぞ」

「じゃあヒッキーも同じ考えってことだね」

 

 よし、と結衣は自身の席に戻りカバンを持ってくる。じゃあ行ってくる、と軽く手を上げて彼女はそのまま教室を出ようと足を動かし。

 待て、とその手を掴まれた。

 

「どしたの?」

「あ、いや、そのだな。……俺も、奉仕部に今日は用事があってだな」

「……一緒に行ってくれるの?」

「たまたま行く場所が同じなだけだ」

 

 ガリガリと頭を掻く八幡を見て、結衣は満面の笑みを浮かべる。じゃあ行こう、そう言って彼の手を掴み返し引っ張るような形で教室を飛び出していった。

 そうして二人が消えていった教室の入口を暫し眺めていたその場にいたクラスメイトは、お前帰るって言ってたじゃねぇかというツッコミを入れることもなく、若干の呆れと生暖かさを伴いながら同時に思った。皆一様に同じ考えを持った。

 爆発しろ。

 

 

 

 

 

 

 奉仕部の拠点の教室の扉がノックされ、そして開かれる。来客を別段驚くことなく迎え入れた雪乃は、しかしその人物が己の前に真っ直ぐ立つのを見て目を瞬かせた。

 

「どうかしたのかしら? 三浦さん」

「……ちょっと話あるんだけど」

「そう。なら、そこに座って頂戴」

 

 対面の椅子を勧める雪乃に従い腰を下ろした優美子は、そのまま真っすぐに彼女を睨んだ。勿論雪乃には身に覚えがない。一応あるにはあるが、それは翔が依頼人なので諦めてもらうしかないと結論付けていた。

 

「……あんた、あーしに嘘ついてたの?」

「は?」

 

 だから、優美子の話の切り出しには思わずそんな声を上げてしまった。流石にそこで余計なことをベラベラと喋って墓穴を掘るような比企谷という名字の八幡という名前の人物とは違うので、雪乃はじっと彼女の目を見て話の続きを待つ。

 

「今日、昼休みに。あんたと隼人が話してるのを、見た」

「……そう」

「あんたは笑ってて、隼人は……楽しそうだった。あーし達といる時には見せない顔をしてた」

 

 話しながら、優美子は段々と俯いていく。雪乃の顔を見られなくなっていく。それは怒りのためか、それとも別の感情か。対面の彼女にはそれを推し量ることは出来ない。出来ても、答えを出さない。

 

「雪ノ下さん。あんた、前に言ったよね。自分と隼人はそういう関係じゃない、そういうのにはならないって」

「ええ。確かに言ったわ。勿論変わってもいない」

「だったら!」

 

 ばん、と二人を隔てている机を叩きながら立ち上がる。真っ直ぐに雪乃を見詰め、決して逸らさぬと言わんばかりに睨み付け。

 そうして、三浦優美子は言葉を紡ぐ。

 

「何で……何で隼人はあんな」

 

 そこまでしても尚、彼女はその先の言葉を出せなかった。途中で小さくなったその言の葉は、決して広いとは言えないこの空間で溶けて消える。

 そんな彼女を見ていた雪乃は、小さく溜息を吐いた。それは呆れているようにも、どこか困っているようにも見えた。

 

「私が嘘をつくメリットがないわ」

「……何その言い方」

「だってそうでしょう? あなたは私に依頼をしてきた。私はそれを受けた。この状態であなたを裏切るような真似をしたら、奉仕部の沽券に関わるわ」

「……」

 

 優美子はその言葉に何かを返さない。ただじっと彼女を見詰めるのみだ。そのまま激情を抑えるように息を吐くと、再度椅子に腰を下ろした。表情は変わらない。雪乃を見る目も変わらない。

 

「……あんたがそう思ってるだけかもしんないじゃん。隼人がどう思ってるかなんて分かんないし」

「それはないわ」

「何でそんなはっきり言えるし」

 

 キッと優美子が雪乃を睨む。その眼光を受け、それでも彼女は笑った。大丈夫、とまるで幼子をあやすように微笑んだ。

 

「だってあの人、胸の大きい子が好みだもの」

「……は?」

「いえ、違うわね。正確には、胸の小さな子は対象外よ」

 

 そ、っと自身の胸部に手を添える。どこか自虐的に、ね、と教師が子供に教えるように頷いた。

 その光景を理解するのに暫しの間を必要とした優美子であったが、しかしそれが染み込んだ瞬間大声で笑いだした。いきなり何言ってんだこいつ、と眼の前の雪乃を指差し笑い転げた。

 

「三浦さん、人の身体的特徴を笑うのはあまりいい趣味とは言えないわ」

「いや違うし。あーしが笑ってんのはそこじゃねぇし!」

 

 ガタガタと椅子を揺らしながら暫く笑い続けていた優美子は、そこでようやく落ち着いたのか肩で息をしながら机に突っ伏した。息を整え、ゆっくりと顔を上げる。先程までの会話を笑われた雪乃の憮然とした表情が視界に映り、彼女は再度吹き出した。

 

「……ごめん。ちょっとツボに入った」

「何を言っているか分からないわね」

「まあ、あーしもよく分かんないし。……でもまあ、雪ノ下さんが嘘ついてないってのはよく分かった」

「だから最初からそう言ってるじゃない」

「ごめんってば」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながらそっぽを向く雪乃を見て、優美子は笑顔で謝罪をした。ここに来るまでの決意とか、疑いとか、ドロドロとした暗い気持ちとか、グツグツとした憤怒の感情とか。その他諸々を全て含め、彼女は雪乃に頭を下げた。

 

「……その様子だと、由比ヶ浜さんや海老名さんに何も言わずにここに来たのではないかしら?」

「あー……うん。やば、そうだ。ユイも海老名も怒ってるかな……」

「由比ヶ浜さんはしょうがないって言ってくれるでしょうけど。海老名さんは」

「怒るなぁ、あいつ……」

 

 やっちまったー、と頭を抱える優美子を見ながら、雪乃はクスクスと口元に手を当て微笑んだ。よく分かっているのね、と彼女に述べた。

 

「そりゃ、友達だし。何となくだけどお互い分かり合ってる、みたいな」

「……そうね。友人なら、そんなものかしら」

 

 ふう、と雪乃が息を吐く。その仕草にほんの少しの違和感を覚えた優美子は、その原因を自分なりに思考した。

 そうして出した答えを反芻し、視線を机に落とした後、雪乃の顔を二度見した。え、ひょっとしてそういうこと? と目を見開いた。

 

「……あんさ、雪ノ下さん」

「どうしたの三浦さん、いきなりかしこまって」

「雪ノ下さんって……あーしのこと、友達だと思ってくれてた……?」

 

 ぴくり、と雪乃の肩が震える。あ、これビンゴだ。そう即座に理解した優美子は、そのことを踏まえこれまでの言い合いを思い返す。

 ああつまりそういうことなのか。そう結論付けた彼女は、もう一度大爆笑した。

 

「……突然どうしたのかしら?」

「いや、ちょっと……雪ノ下さんがあーしに疑われたからって拗ねたとか、ちょ、ダメだ……! あ、これダメだ、ヤバイ、マジヤバイ……耐えきれない……!」

 

 椅子から転げ落ちた。教室の床で蹲りヒーヒー言っている優美子をジト目で見下ろしていた雪乃は、ふんと鼻を鳴らすと立ち上がり教室の入口へ足を進めた。何をするのか、と優美子は疑問に思わない。というよりも思えない。

 ピタリと足を止める。まだ教室の扉を開けるには遠過ぎるそこで、雪乃は一旦笑いを収め立ち上がった優美子へと振り向いた。ところで、と声を掛けた。

 

「……あなたは、どう思っているの?」

「ユイが懐いてる時点で、あーしはあんたのこと友達だと思ってたし」

「……そう。なら、いいわ」

 

 踵を返す。改めて教室の扉へと進んだ雪乃は、ならここで自分の出番は終わりだとそこを開けた。

 ガラリと音を立てて開かれたそこには、メガネを掛けた少女が一人。ひょいと扉から廊下を覗くと、やば、と慌てて隠れる少女と他人のふりをしている死んだ魚の眼をした少年も見える。

 

「後は……付き合いの深い友人に任せるから」

 

 す、と少女とすれ違う。終わったら連絡して頂戴、とその相手に、姫菜に告げると、雪乃は振り返ることなく奉仕部の拠点から出ていった。

 それを目で追っていた姫菜であったが、しかし視線を部室の中へと向けるとバツの悪そうな顔をしている優美子に視線を固定し歩みを進める。そうしながら、隠れているが隠れられていない結衣に向かって声を掛けた。

 

「ちょっと優美子と二人で話がしたいから、いいかな?」

「……あー、うん。おっけー」

 

 表情は見えない。が、あれは絶対怒ってるなと判断した結衣は迷うことなく頷いた。いいのか、という隣の少年の言葉に頷くことで返答とする。

 

「さて優美子。ちょっとO・HA・NA・SHIしようか」

「あ、海老名? いや今回はあーしが悪かった。うん、勝手に突っ走ったから反省してる。だからちょっと待って。待て、こっち来んなし!」

 

 ゆっくりと奉仕部の扉が閉められる。同時にガチャリと鍵の掛かる音が鳴り、結衣達と姫菜達の空間は断絶された。これで向こうで何が起ころうと、こちらは不干渉だ。

 

「……ヒッキー」

「ん?」

「帰ろっか」

「いいのか? その、あの二人あのままで」

「うん。優美子が怒られて終わりでしょ」

 

 しょうがないしょうがない、と伸びをした結衣は、扉を暫く眺めた後踵を返した。その顔には心配の色は見られない。彼女の友人二人共を信頼しているからこそなのだろう。

 その辺りは別段どうでもいいと考えるのが八幡である。まあ問題ないならそれでいい、とどこか投げやりに結論付け、じゃあ俺も帰りますかと肩を回した。

 

「お疲れ様、二人共」

「ゆきのんもお疲れ。ごめんねあたしの友達が迷惑掛けて」

「大丈夫よ。そういうものでしょう、友人なんて」

 

 そう言って微笑んだ雪乃の言葉に込められた意味を汲み取った人物は、生憎とこの場にはいない。結衣は額面通りに受け止め、八幡は聞いていなかったからだ。当の本人もそれを承知だ。

 じゃあまた、と帰る二人に手を振りながら、雪乃は一人小さく笑った。姉に自慢するように、笑った。

 どうだバカ姉、ざまあみろ。

 

 




葉山は巨乳好き(ちっぱい対象外)、ってこれある意味捏造アンチじゃなかろうかと心配になります

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