セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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間が空いた割には蛇の足。


※今度のネタに使わなくなったので葉山の録音の一人称修正しました


その4

「雪乃ちゃん」

「……何かしら、葉山くん」

「この状況は何だ?」

「……協力者が増えたわ」

 

 そうか、と隼人は頷く。表情は笑顔である。が、どう見ても笑っているようには見えなかった。雪乃もそれを分かっているのか、ポーカーフェイスではあるものの彼と視線を合わせようとしない。

 

「姉と同じになる気か、君は」

「はぁ? ちょっと隼人くん、アレと一緒にされるのは心外なのだけど」

「やってることはまるきり陽乃さんじゃないのか?」

「……不可抗力よ」

 

 言葉に勢いがない。隼人の言葉に自身の心が同意してしまったからだ。そう、この状況を、雪ノ下陽乃ならば喜んで作り出すだろうと。

 はぁ、と彼が溜息を吐く。溜息を吐きたいのかこっちだと文句を零した雪乃をジロリと見て、加害者が何を抜かすと吐き捨てた。

 

「……ここぞとばかりに攻勢に出るわね」

「スポーツマンなものでね。攻撃のチャンスは逃さないのさ」

「そう。……なら、これは遠慮なく彼女に聞かせてしまいましょう」

 

 そう言いながらスマホを取り出すと、音量を下げ眼の前の隼人に聞こえる程度にした音声ファイルを再生した。喧騒のノイズと共に、何やら一人の少年の魂の叫びが携帯端末から流れ出す。

 

『ああ、何度でも言ってやるさ。俺は雪乃ちゃんみたいな可愛げのない胸の小さな女とは絶対に付き合わない!』

「――っ!?」

 

 間違いなく自分の声である。そう判断した隼人は即座にスマホを奪い取ろうと手を伸ばしたが、その頃には既に雪乃が懐に入れていた。目を見開き、目の前の少女を視線だけで殺せるような勢いで睨み付けながら、何のつもりだと問い掛ける。

 

「私の友人が、証拠を欲しがっていたから」

「何の話だ?」

「あなたが私を恋愛対象外だという証拠」

「人の人生と自分の友人のどっちが……っ! 友人、だよなぁ……」

 

 激高しかけた隼人は、しかし途中で何かを納得したように項垂れた。色々と諦めたように頭を振ると、明日からの自分の立ち位置をどうするか真剣に悩み出す。

 それを見た雪乃は若干引いた。何でそこで諦めてしまうのか。というか自分が実行する前提なのか。

 

「いや、やらないわけないだろう?」

「……あなたは私を何だと思ってるの? 姉さんじゃないのよ? これでも一応葉山くんを気に掛けるくらいの優しさは持ち合わせているわ」

「俺をわざわざ葉山くんと呼んでいる時点で信用出来ない」

 

 葉山隼人は自分の苗字があまり好きではない。家の、弁護士の家族に縛られている気がする、という子供っぽい理由であるが、だからこそ親しい相手には出来るだけ名前で呼んでもらいたいと思っていた。八幡のような相手やいろはのような後輩には難しいのであくまで出来るだけ、であるが。

 その筆頭が幼馴染である雪ノ下姉妹である。この一点に関してだけは隼人は雪乃よりも陽乃を評価していた。

 

「変な噂立つと嫌でしょう?」

「本音は?」

「呼ぶたびに微妙に嫌そうな顔をするあなたを見るのが好き」

「……この野郎」

 

 思わず舌打ちした隼人を満足そうに眺めた雪乃は、しかし表情を戻すと目の前の彼に謝罪を行った。あまりにもありえない光景、と脳が認識したのか思わず固まってしまう隼人を気にすることなく、当然でしょうと彼女は言い放つ。

 

「結果として依頼人を陥れるような形になってしまったわ。これは奉仕部として恥ずべき行為よ」

「あ、そっちか」

「何安心した顔をしているの?」

「いや、雪乃ちゃんが俺に素直に謝ったから、これはきっと明日死ぬ合図だろうと思ったんだ」

「死にたければご自由に」

 

 ふん、と鼻を鳴らした雪乃を見て苦笑する。そうしながら、彼は視線を目の前の彼女から向こう側に動かした。

 視線の先には奉仕部の新たなる仮入部員と会話をしている戸部翔の姿が見える。普段の彼からは想像もつかないほどぎこちないその動きは、事情を知っている隼人からすれば同情を禁じ得ない。

 

「いや、なんつーか? ちょっと色々と」

「色々? つまりは……その相手は男子生徒!」

「いやそれはちげーから。ちゃんと女子だから」

「ええー? ほんとにござるかぁ?」

「何キャラ!?」

 

 あれは助けた方がいいだろうか、と視線で雪乃に問い掛ける。ここで雪ノ下姉ならば否と答えるところなのだが、隼人の目の前にいるのは妹だ。

 任せた、という視線が返ってきた。ある意味姉より酷かった。

 

「海老名。戸部がいい加減死にそうだからその辺にしてやんな」

「はいはい」

 

 ふう、と息を吐きそこに向かおうとしたその刹那、彼の行動を先回りしたように優美子が件の仮入部員、海老名姫菜をストップさせる。じゃあふざけるのはこの辺にして、と咳払いを一つした姫菜は、少し考え込むように視線を彷徨わせた。

 

「よくよく考えたら私に気の利いたプレゼントのアイデア出せるような力なかった」

「お前ほんっとに……」

 

 あはは、と笑う姫菜を優美子は呆れたような目で見やる。が、その視線とは裏腹に、彼女の表情はどこか穏やかであった。まあそれでいいなら、と言っているようにも見えた。

 

「んじゃ海老名。あんたなら何貰ったら嬉しい?」

「――あ、そういうのでも全然オッケー。いやむしろ推奨っていうか、そんな感じで」

 

 勿論そこで流す優美子ではない。むしろ突っ込んでいくタイプである。彼女の発言の意図を察し、逃げ道に立ち塞がるがごとく、そんな質問を投げかけた。それを聞いた翔も、ガバリと顔を上げ微妙に食い気味な反応を見せる。

 

「……戸部ぇ……」

「彼、内緒にする気あるのかしらね」

 

 隼人が溜息のような言葉を零し、雪乃がやれやれと肩を竦める。いい加減混ざるかと三人に近付きながら、彼女達の様子を観察し続けた。

 姫菜はちらりと優美子を見る。自分の言葉の意味を分かっていて尚ああ言ったということは、向こうも状況の理解は同等だと思っていい。つまりはそういうことなのだ。分かっていて言わせようというのだ。

 

「ねえ優美子」

「ん?」

「仕返しの仕方がみみっちい」

 

 無言で一発引っ叩いた。

 

 

 

 

 

 

「とべっち大丈夫かな……」

「さあな」

「無責任!?」

「そう思うなら残ればよかっただろ」

 

 そう言いながら自転車を押す八幡の隣には、どこか浮かない顔の結衣がいる。八幡とは異なり事情を後から聞いたクチなので、その辺りは悩みどころらしい。

 ちなみに八幡は人数が増えたという話を聞いた時点で協力は終わったと結論付けた。よく考えなくても俺いらないな。そんな判断を自分で下したのだ。

 

「まあ、そうなんだけど……」

 

 そう言いながら、結衣はちらりと隣の八幡を見る。相も変わらずの死んだ魚の眼でこちらを見てくる彼の姿を視界に入れ、彼女はクスリと微笑んだ。

 

「え? 何俺今笑われるところあった?」

「そういうんじゃないし。ちょっと寄り道しようかなって」

「唐突だな。まあそういうことならこの辺でお別れか」

「何でだし。ヒッキー一緒に行こうよ」

「それこそ何でだよ」

 

 お前と一緒に寄り道をする理由などどこにもない。そんな視線を込めつつ、しかし口にはせずに八幡は溜息を吐くことで返答とした。それを見た結衣は、きちんとその意味を理解し、それでも折れずにぐいぐいと彼の袖を引っ張った。いいじゃん行こうよ、そう言いながら彼の腕を引き寄せた。

 

「……大体、行くってどこにだ?」

「へ?」

「よしお疲れ」

「待った待った! ……あ、そだヒッキー。また勉強見てよ」

「寄り道はどうした」

 

 脊髄反射で喋り過ぎだろ。そんなことを言いながら彼は腕をゆっくりと彼女に挟まれていた場所から抜き去った。決して残念になど思ってはいないが、極力感想を表情に出さないように細心の注意を払っていた。誰に言い訳をしているのか、それは彼にしか分からない。

 

「いやー、こないだの中間試験が結構いい感じだったから、このまま行けば期末も、とか思ったり」

「……え? 何ガハマ、お前大丈夫か?」

「どういう意味だっ!?」

「いやだってまだテスト週間じゃないぞ? だから奉仕部も普通に活動してるしな。……よくよく考えると何で俺は部外者なのに毎回奉仕部に巻き込まれてるんだろう」

「え? ヒッキー、大丈夫? 頭とか」

「だから俺は奉仕部とか何の関係もねぇよ!」

 

 全力ツッコミをした後、いや待てよと動きを止めた。錆びついたロボットのような動きで結衣の顔を覗き込むと、お前まさかと目を見開く。死んだ魚のような目は三白眼なので辛うじて人であると認識出来るものであったが、丸いそれになってしまえば最早魚眼そのもの。流石に言い過ぎではあるが、そんな目になった八幡は浮かんだ質問を恐る恐る眼の前の少女へ述べた。それをされていたら縁を切ることも視野に入れようと彼女に尋ねた。

 

「……俺の入部届も一緒に出してないだろうな」

「……やるわけないじゃん。ヒッキーあたしを何だと思ってるし」

 

 割と本気で呆れられた。遊びのないその視線を受けた八幡は、バツの悪そうに視線を逸らすとわざとらしい咳払いをする。まあそれはそれとして、と物凄く下手くそな話題転換まで行った。

 

「お前は知ってたのか? 今回の依頼」

「あ、これ意地でも話逸らす気だ。ううん、ターゲットにバレちゃマズいからって内緒にされてた」

 

 というか、と結衣は再度呆れたような視線を八幡に向ける。そうじゃなければ優美子が奉仕部に突撃するようなことになるはずがない。雪乃と隼人が何かしら相談をしていても、八幡といろはが何か話していても。事情を知っていれば、疑問に思うことなく流して終わりになっていたはずだ。

 

「いや、でもガハマだしなぁ」

「酷くない!?」

 

 人のことなんだと思ってるんだ。そんな意味合いを込めた彼女の抗議は、馬鹿、という八幡の一言によって片付けられた。

 勿論チョップが飛ぶ。

 

「……ていうか、あたしとべっちが姫菜のこと好きなの何となく知ってたし」

「マジでか」

 

 思わず彼女の顔を覗き込み、そして素の疑問を投げ掛けた。が、そういえばこいつ周りの人のことを案外よく見てるんだったと思い直し、彼は少しだけ表情を戻す。そんな動きを知ってか知らずか、結衣はあははと苦笑しながら頬を掻いた。

 

「まあ、ほんとに何となくだけど。ちょっと前から、妙に姫菜を気にかけてたっていうか」

「そんなに分かりやすかったのか……」

「そうでもないよ。多分隼人くんや大岡くんとか大和くんは知らなかったんじゃない?」

「まあ、そうだな」

 

 あの時、翔の言葉に隼人も驚いていたことを思い出す。ならやはり結衣が鋭いだけなのだろう。そう結論付けた八幡の言葉を否定するように、彼女はでも、と考え込むような仕草を取った。

 

「優美子は確実に知ってたと思う」

「女子凄えな」

「それと……多分だけど、姫菜も」

 

 その言葉はぽつりと、小さく呟かれた一言であったが、しかし場を固めるには十分であった。現にそれを聞いた八幡は己の耳を疑い、結衣の頭を疑い。どちらも正常、あるいは最初から壊れていることを確認した後に目を閉じゆっくりと項垂れる。

 

「なあ、ガハマ」

「何?」

「お前なんでそこまで知っててこっち来たの?」

「そんなこと言われても、どうにも出来ないし」

 

 フォローとか、そういう状況でもない。そう言われてしまえば確かにその通りで、言葉の端々から必要な時は躊躇なく動くだろうというのも感じ取った八幡は、暫し考え込んだ後頭をガリガリと掻き一連の情報を無かったことにした。

 そうして、偶然にも彼女と同じ結論を出してしまった。家に帰る、という選択をするよりも、少しどこかに寄り道をする方を選んでしまった。

 溜息を一つ。ちらりと結衣を見て、これが計算だったら立派な悪女になれるだろうなと至極どうでもいいことを考えた。

 

「ガハマ」

「ん?」

「んで、どこ行くんだ?」

「そだね、んー」

 

 まあ動きながら考えよう。投げっぱなしのその言葉に、八幡は珍しくそうだなと返した。

 

 

 

 

 

 

「優美子」

「ん?」

 

 部活終了後。翔のプレゼント作戦を終えた二人は奉仕部拠点を後にし、揃って昇降口へと帰るところである。そんなタイミングで、姫菜は隣の優美子に声を掛けた。男性陣と雪乃はそれぞれ別行動中、聞くタイミングとしては丁度いい。そう判断し。彼女は口を開いた。

 

「知ってたよね?」

「まー、うん。あいつ分かりやす過ぎ」

「だねぇ」

 

 ははは、と姫菜は笑う。知ってはいたが、奉仕部の依頼の話がそれだとは知らなかった。そういう前提であったため、今回ほんの少しだけ騒動が起きた。結局はその程度の話である。だから優美子も姫菜も、そのことはもう気にしていない。仮入部、として奉仕部に関わったが、きっと本入部はしないだろうという二人の意見は一致している。

 

「……海老名。あんたさ」

「変わらないよ、そうそう」

「そっか。……まあ、分かってたけど」

「とべっちにはちょっと気の毒かもだけど。まあ、しょうがないよね。……私、腐ってるから」

 

 ははは、と姫菜は笑うが、その表情はどこか他人事のようにも思えた。まあそうだろうな、と優美子はそんな彼女を見て息を吐き、その後頭部を軽く小突く。

 

「別に、その程度で変わるようなもんじゃねーし」

「そう思ってるのは優美子だけかもよ」

「それでいいじゃん。あーしが変わんなきゃ、他も変わんないし」

「わー、女王様ー」

 

 茶化すな、と目を細めつつ、優美子の表情は笑顔である。特に空気が変わることもなく、まあそういうわけだからと彼女はペースを崩さずに言葉を続けた。

 

「せっかく相談したんだから、受け取ってやりなよ、プレゼント」

「あ、そこは大丈夫。私は空気の読める女だからね」

「抜かしてろ」

 

 そこで会話が一度止まる。暫し無言で廊下を歩いていた二人は、しかし姫菜が窓の外を見ながらぽつりと零した言葉で静寂を壊した。

 

「私、自分が嫌い」

「知ってるし」

「きっと誰も理解出来ないし、理解したくないと思ってる」

「それも知ってる」

 

 でも、と姫菜は呟く。案外みんなといるのは、好きだから。そこまで言うと、窓の外から隣の優美子へと向き直った。

 

「こんな奴、どう?」

「好きだよ。あーしはあんたのこと、結構好き。だから無理矢理理解してやるし、無駄なお節介も焼いてやる」

 

 そこで言葉を止め、彼女は姫菜へと微笑み掛けた。覚悟しとけ、そんな意味合いを込めたような、そんな笑みを浮かべた。

 

「つーわけで、ユイとあーし、この二人から逃げられると思うな」

「おお、怖い怖い」

 

 姫菜は笑う。やっぱり私はこいつら好きだ。そんなことを思いながら笑う。決して表には出してやらない、取り繕う表面や変人の仮面とは違う素直な気持ちは、ぶつけてやるものかと笑う。

 たとえ親友にはバレバレであっても、自分から見せにはいってやらない、と子供のような意地を張って、笑う。

 

 


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