セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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こいつらでは絶対に解決出来ない千葉村編、スタート


お一人様ボッシュート
その1


 高校生の夏休みには色々なエピソードがあってしかるべきである。そう断言出来る人間は一部であろうし、ただダラダラとしているだけで終わってしまう者も多々いるだろう。

 比企谷八幡も例に漏れず後者の人間であった。過去形である。妹の小町、腐れ縁のかおりが強制的に遊ばせるため、ダラダラする時間は相対的にすり減った。

 そうして迎えた八月。月が変わった以上は今度こそ、と意気込んだ八幡を嘲笑うかのように、新たなイベントで彼のスケジュールは初っ端から埋まることとなる。

 

「……怒ってる?」

 

 おずおずと隣にいる結衣が尋ねる。そんな彼女をちらりと見た八幡は、別に怒っちゃいないと短く返した。怒ってはいない。ただ面倒くさいと思っているだけだ。口にはしないがそう続けた。

 

「あはは……。無理して誘ってごめんね、ヒッキー」

「だから別に怒ってないっつってんだろ。……どうせ家にいても小町か折本に玩具にされるだけだからな」

 

 そう言いながらガリガリと頭を掻く八幡を、結衣は苦笑しながら眺めた。そうした後、ありがとうと言葉を紡ぐ。

 ふん、と鼻を鳴らすことで返答とした彼は、それで結局これなんなんだと彼女に問うた。奉仕部の合宿でキャンプをする。そう聞いてはいたが、具体的なことは何も知らない。

 

「んーっと。あたしも詳しくは聞いてないんだけど。何か小学生のキャンプの手伝い、だったかな?」

「用事思い出した」

「ちょ!? 待ってよヒッキー」

「んなこと言われても。俺に小学生の面倒なんか見れるわけないだろ」

「そうかな? 結構面倒見いいじゃん。優しいし」

「どこの世界線の八幡だよ」

 

 自分に欠片も掠っていない評価をされるというのはむず痒いを通り越して薄ら寒い。そんなことを思いながら溜息を吐いた八幡は、しかし結衣の目が本気であったことを確認し肩を落とした。おいこいつマジかよ、そんな思いを込めた視線を彼女に向ける。

 

「まあ確かに、優しいという表現を彼に使うのは失礼かもしれないわね」

「その発言が俺に失礼だろ」

「あら。それはつまり、あなたは優しいということを認めるのね」

 

 ふうん、と微笑むのは二人の会話に割り込んできた雪ノ下雪乃である。うわ出やがった、という目で彼女を眺めた八幡は、しかしここで何か言っても思う壺だと判断、言葉を飲み込みスルーを決め込んだ。織り込み済みなのか、雪乃はそれについて別段何の反応をすることもなく視線を彼から結衣に向ける。

 

「どのみちそれほど大層な仕事を押し付けられるわけでもないでしょうから、そこまで気張ることはないわ」

「そうなの?」

「怪我をしないように見ている程度で十分なはずよ」

 

 そうですよね、と移動の準備をしている平塚教諭に目を向ける。んあ、と間の抜けた声を上げた静は、コホンと咳払いを一つしてまあそんなところだと告げた。

 

「多少の雑用はしてもらうがね。後は、こちらはこちらでキャンプを楽しめばいいさ」

 

 ポケットからタバコを取り出し、火を点ける。これ見よがしに燻らせ、学校とはそこまで関係のない状態だというアピールを兼ねたその姿を見せた後、視線をちらりと三人の背後に移動させた。

 メンバーも揃ったな。そんな彼女の言葉に八幡は後ろを振り返る。

 

「げ」

「げってなんですか先輩。今明らかにわたしを見て言いましたよね?」

 

 ぷんぷん、と擬音でも発しているかのような一色いろはが彼に詰め寄る。普通はそんな彼女を見れば慌てて弁明の一つや二つでもするのだろうが、相手は生憎と八幡だ。そういうところだと悪びれる様子もなく言い放った。ピタリといろはが動きを止め、一瞬目を閉じ。

 

「葉山せんぱ~い、先輩がいじめるんですよ~」

 

 即座に反転、やってきていた残りの面々の一人へと駆けていった。だからそういうところなんだよ、と八幡は一人心の中で呟いた。

 そうしながら、彼はその揃ったというメンバーを見やる。先程の一色いろはと駆け寄られた葉山隼人以外の面々も、八幡にとってはある意味見慣れた連中だ。

 隼人に寄り添ういろはを視線だけで殺せそうなほど睨んでいるのは三浦優美子、それを面白がって見ているのが海老名姫菜。そんな彼女を見てヘラヘラとしているのが戸部翔。

 

「俺いらないな」

「そんなことないし。ヒッキーいないとあたし寂しいよ」

「……は? 何だって?」

「だから、ヒッキーいてくれないとあたしが寂しいなーって」

「わざと聞こえないふりしたんだよ。察しろ」

「何でだし!」

 

 難聴系キャラの真似をすることでその場をしのごうとした八幡であったが、結衣にはどうやら通用しなかったらしい。結果として大事なことなので二回言いました状態となり、自身のダメージが二倍となった。

 そして勿論周囲にはそれを思い切り目撃している者がいるわけで。

 

「雪ノ下」

「どうしました? 平塚先生」

「何でこういう場にバカップル連れてきた?」

「見ていて楽しいからですが」

「私は楽しくないぞ」

「大丈夫です。ああ見えてあの二人付き合っていないので」

「くっつくかどうかヤキモキするのを見たいのか……。姉とは違う意味で趣味が悪いな」

 

 はぁ、と溜息を吐く静に、雪乃は失礼なと眉を顰める。姉と一緒にするな、と抗議の声を上げ、ついでに陽乃をボロクソに貶した。他の人間がやればただの妬みであるが、雪乃がそれをすることで妙な説得力が醸し出される。思わず静も頷いてしまうほどに。

 

「大体、私があの二人を呼んだ理由はもう一つあります。というよりも、こちらがメインです」

「何だ、言ってみろ」

「それは勿論――」

 

 自分の友人だからだ。そう言って雪乃は笑った。目を見開いた静を見て、楽しそうに笑った。

 姉が自分をからかう時にそっくりだ、と静に言われるまで、彼女は笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

 運転手の静を含めて総勢九名。用意されたワンボックスに乗り込み、目的地まで車を走らせる。この空間で一番被害が少ない場所はどこか、を瞬時に計算したその内二名は、乗り込む際食い気味に助手席を指名した。勿論八幡と隼人である。尚残る一人である翔はいかにして姫菜の隣に座るかを考えていたので不参加であった。

 

「じゃあ、私が助手席に座るから、二人は後部座席へ」

「待て雪乃ちゃん。君は方向音痴だろう? 助手席はふさわしくない」

「そういやそうだったな。あんな商業施設で迷う奴がナビとか無理だろ、代われ」

 

 食い下がる男性陣二人。対照的にそんな二人を冷ややかな目で眺めた雪乃は、やれやれと頭を振るとワンボックスカーの車内を指差した。

 当たり前のようにナビが備わっていた。

 

「さあ、行きましょうか平塚先生」

「なんというか、君達は人生楽しんでいるな」

 

 バタン、と閉まる助手席のドアを暫し眺めていた八幡と隼人は、やがて諦めたように後部座席へと足を踏み出した。BGMはドナドナである。

 

「比企谷。君は別に悲観する必要ないだろう」

「こっちのセリフだ。慣れてるお前はともかく、俺は出来るだけ離れないと被害が増すんだよ」

「慣れたからといって問題ないわけないだろう。むしろ分かるからこそ余計に面倒なことになる」

 

 具体的な単語は述べてはいないが、被害を与える存在で、面倒なやつとは勿論雪ノ下雪乃である。ともあれ、そこまで考えお互いに罵倒しあっていた二人は、ふと気付いた。今この状態を確認し、一つの結論を出した。

 あいつが助手席なら、問題ないのでは?

 

「よし行くか葉山」

「そうだな比企谷」

「おぉ? 何かいつの間にかヒキタニくんと隼人くん仲良くなってね?」

 

 何事もなかったかのように車に乗り込む二人を見て、見ていなかった翔は首を傾げた。

 そんなこんなで席順も決まり、一行は目的地まで車で移動を開始したわけである。高速を使いどんどんと街の喧騒から離れていくのを見ながら、それぞれ思い思いの会話をしていた。いろはと優美子は隼人を挟んで、翔はそんな二人を見て楽しんでいる姫菜の隣で。

 そして八幡は身を乗り出し景色を見ようとする結衣が隣のおかげで柔らかく大きなものがグイグイと押し付けられた。

 

「何でお前窓側いかなかったんだよ……」

「うぅ、いや、何かこう、気付いたらこっち側だったし……」

「だったらもう席代われ席」

 

 ぐい、と結衣を押しのけ、位置を入れ替える。ようやくメロンプレスから解放された八幡は、広々とした気分を味わい溜息を吐いた。決して残念になど思ってはいないのだ。本当である。

 

「ところで葉山くん」

 

 そんな騒ぎも一段落ついた頃。助手席の雪乃が後部座席の隼人へと声を掛けていた。てっきり車内では起こらないと思っていた事態の予感に、彼は思わず顔が引きつる。八幡は他人事なので我関せずを貫いた。

 

「確か、当初の連絡では友人を連れてくるという話だったわね」

「あ、ああ。だから戸部を――」

「三人ではなかったの?」

 

 う、と隼人が言葉に詰まる。聞き流していた八幡も、その言葉にちらりと背後に振り向いた。隼人と翔、そして優美子と姫菜。いろはを違うと仮定すれば人数的には合う。逆に言えば、いろはがいる時点で雪乃が言う三人は別人であるということだ。

 

「大岡と大和は忙しいらしくて、予定が合わなかったんだ」

「何か俺だけ暇人みたいな言い方!?」

「暇人だろう?」

「隼人くん容赦ねー!」

 

 まあ実際そうなんだけど、と翔が笑う。無駄に元気だな、とそんな彼を見た感想を抱きつつ、至極どうでもいい会話だったと八幡は視線を元に戻した。

 勿論雪乃はそこで会話を終わらせない。クスリと後部座席からは見えないように笑みを浮かべると、彼女は会話の対象を切り替えた。

 

「なら、比企谷くん。あなたはどう?」

「……は?」

「小町さんや折本さんは誘っていないの?」

「いやなんで俺が誘う必要あるんだよ」

「大事な妹さんと、親友でしょう?」

「小町は大切な妹だが、あれはただの腐れ縁のクソ野郎だ」

「あら、そう。――じゃあ、あなたがもし友人を誘うとしたら?」

 

 誰を誘うのか。その質問を受けた八幡はぴしりと動きを止めた。現状その問いかけに彼が出せる答えは一つである。隣に座っている少女、由比ヶ浜結衣一択。それを見越してその質問をしているのだと結論付けた八幡は、しかしすぐさま思考を切り替えふんと鼻を鳴らした。

 

「その時は戸塚だろうな」

「あら、そう。あなたが友人として真っ先に出てくるのは、彼なのね?」

「は? ……あ」

 

 ちらりと横を見る。窓の外を見ながらこちらを見ようとしない結衣の姿が目に入った。拗ねている、というほどでもないが、機嫌がいいとはいえない状態なのは明らかである。それに合わせるように彼の背後からゴルゴンの殺気も漏れ出てくる。ついでにいろはがデリカシーないですねと直球で罵倒してきた。

 

「いや別にガハマはここにいるからカウントしてないだけで」

「つまり、そうでなければ由比ヶ浜さんを選んだ、と」

 

 運転席で静が爆笑するのが視界に映った。生徒のピンチを笑うとかとんでもない教師だな、と心の中でだけ貶しつつ、八幡はこの場をどうにか切り抜けるためのアイデアを模索し。

 結局思い浮かばないと頭を掻いた。半ばやけくそになり、ああそうだと思いきり宣言した。

 それはよかったと笑う雪乃の背中を見ながら、覚えてろこの野郎と八幡は一人復讐を誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 辿り着いたのは千葉村、と呼ばれる場所である。荷物を本館へと置いた後、当初の予定通り小学生の林間学校のサポートスタッフへと早変わりするわけなのだが。

 

「うわ、無駄に多いな」

「無駄にって……。うん、まあ、でも、多いね」

 

 見るだけでげんなりする八幡の横では、若干引き気味の結衣が同意するように苦笑している。百人近い小学生が、思い思いに騒いでいるおかげで進行がストップしているようであった。

 まあそんなものか、と視線を小学生の群れから横に動かすと、残りの面々も概ね同じような反応であった。どうやらこれを見て好印象を抱くほど皆大人ではないらしい。

 そうこうしているうちに小学生も静かになり、林間学校の説明が始まる。その途中でお手伝いをしてくれるお兄さんお姉さん、という触れ込みで八幡達も紹介された。

 

「んで、まずはオリエンテーリングの手伝い、だっけか」

「何するんだろう」

 

 とりあえず思い思いに動いている小学生を追いかけるか。そんなことを言いながら足を動かしかけた一行の背後から、静が頼んだぞと声を掛けた。どうやらそれで問題ないらしい。

 

「その後は生徒達の昼食の準備だ。弁当を配る手伝いをしてもらうから、なるべく早くゴールに向かってくれ」

 

 そう言うと彼女は踵を返す。どうやら車で移動するらしい。だったらこちらも乗せていってくれれば、と言葉を発する頃には、既に静は車を発進させていた。

 

「あの教師にして、あの姉あり、か」

「ああ、そういえば陽乃さんと仲良いんだったっけ、平塚先生」

「おいそれ初耳だぞ」

 

 雪乃と隼人の言葉を聞いた八幡の表情が急速に曇る。彼の中で平塚静の危険度が猛烈な勢いで上昇していった。あの雪ノ下陽乃と仲が良い。その一言だけでもう十分だ。

 

「隼人ー、そろそろ行かない?」

「あ、ああ。そうだね」

「ゆきのん、ヒッキー。あたしたちも行こ」

「そうね」

「……」

 

 中々立ち直れない八幡とは違い、既に知っている隼人と雪乃は即座に持ち直す。そうしてしまうと、結果として彼は面々から遅れていくわけで。

 

「せんぱーい、早くしないと置いていかれますよ~」

「……ああ、そうだな」

 

 ふらふらと、これからのことに絶望しか予想出来ない八幡は、ゾンビのごとくのろのろと歩みを進める。目が死んでいるので非常に似合っていたが、それを指摘する相手が見ていなかったのは不幸中の幸いであろう。

 

 


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