セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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ラブが終わったのでコメパート

……コメディ?


その3

 ふう、と一仕事終えた顔でかおりは手に持っていたカメラを下ろした。最近のは写真も動画も両方撮れるから便利だよね、と隣の小町に笑いかけると、そうですねという返答が来る。

 

「んで、これどうする?」

「とりあえず小町のスマホに送ってください」

「はいはーい」

 

 手慣れた動きでカメラを操作し、小町のスマホへとそれを送る。自身の持っている携帯端末から流れるそれを見て、彼女は満足そうに微笑んだ。

 ちなみに、八幡と結衣の諸々である。とりあえず纏めて撮影し、要所要所のポイントを切り分けたものが小町の手にしているそれである。

 

「お兄ちゃんがラブコメしてるとか、これ永久保存版ですよね」

「正直笑い堪えるの大変だった。あー、よし」

 

 こほん、と咳払いをしたかおりは、そこで盛大に笑い出した。やっばい比企谷超ウケる! そんなことを言いながら、呼吸困難になるほど笑い、そして蹲る。

 ひとしきりそれを終えたかおりは、さてそれじゃあどうすると小町に尋ねた。あの調子ではまだラブコメる可能性はありそうだが、とりあえず満足したので次の機会でいいやという結論に達したのだ。とはいえ、それはあくまでかおりの見解である。小町は別の意見があってしかるべきで、だから彼女は問い掛けた。

 が、小町は小町で同じように満足したらしく、そろそろ普通に回りましょうかとかおりに告げた。了解、と笑みを見せたかおりは、んじゃどこに行こうかと屋台を見渡す。

 

「お兄ちゃんと結衣さんが食べ歩いてたの、気になってたんですよねぇ」

「あ、それある。行こっか」

 

 まずは焼きそばかな、と二人は鼻歌を奏でながら歩き出す。勿論先程の撮影ターゲットには気付かれないように、距離を離してだ。見付かると文句を言われるというのは勿論あるが、それ以外にももう一つ。

 なら四人で行こう。もしそうなったら、あの二人の空間が終わってしまうからだ。だからせめてもう少しは、二人で。

 

「ねね。比企谷あれどこまで行けるかな?」

「いやー、無理でしょ。ヘタレですし、そのまま変わらず終わりですよ」

「あー、やっぱそっかなー。それはそれでウケる」

「ですねぇ」

 

 はっはっは、と揃って笑うと、目当ての屋台で焼きそばを購入。そのまま食べ歩きながら、暫し八幡をボロクソに言うことで盛り上がる。この調子で屋台を次々にはしごすると行きたいところだが、そこまで財布に全力の負担を強いるとまずいなという気持ちも同時に考えた。

 

「じゃあ、お姉さんが奢ってあげよう」

 

 それは天からの声。ではなく、横合いから掛けられた聞いたことのある声。振り返ると、以前も同じような出歯亀シチュエーションで合同していた二人の姿が見えた。浴衣姿の陽乃と雪乃は、口角を上げながらかおりと小町へと近寄っていく。

 

「あ、雪ノ下さんと雪ノ下お姉さん」

「雑な分け方は、流石比企谷くんの悪友ってところかな」

 

 かおりの言葉に陽乃が笑う。そうしながら、先程の提案をもう一度二人に述べた。そのかわり、と笑みを浮かべながら。

 

「こっちにも比企谷くんのラブコメ動画欲しいな」

「いいですよー」

「即答なのね」

 

 雪乃が少しだけ呆れた様子で溜息を吐く。まあかおりさんですから、という小町の言葉に、成程流石は比企谷八幡がクソ野郎と呼んで親しくしているだけはあるのだなと納得した。

 勿論雪乃もそれを貰い、スマホに届いた青春の一幕を楽しそうに眺めた後、彼女は姉に告げた。じゃあもう一つに私は行くから、と。

 

「え? みんなで行こうよ」

「姉さんはともかく、この二人は関わりないでしょう?」

「そう? 少なくとも、一色いろはちゃんは面識あるでしょ」

「え?」

 

 クスリと微笑んだ陽乃の言葉に、雪乃は弾かれたように小町とかおりを見た。聞き覚えのある名前が出た、という反応をしたのを見て、思わず目を瞬かせる。

 しまった、リサーチ不足だった。己の失態を心中で歯噛みしながら、しかしそれをおくびにも出さずに雪乃はコホンと咳払いをする。瞬時に立て直すと、それでも、と彼女は陽乃を見た。

 

「私達がからかうのはあくまで隼人くんよ。一色さん達には出来るだけ」

「分かってる。当たり前でしょ。人の恋路を邪魔する趣味はないって」

 

 葉山隼人は人ではないらしい。雪乃もそれならばいいと頷いているあたり、雪ノ下姉妹にとっての共通認識なのだろう。

 小町とかおりにとっての八幡と同じである。さもありなん。

 

「それで、その隼人さん? は今どんな状況なんですか?」

「お、小町ちゃん鋭いね。ではお姉さんが話してしんぜよう」

 

 楽しそうに笑いながら手招きをすると、ほれあれを見ろと指差した。視線を向けると、一人のイケメンが二人の美少女に囲まれながら歩いている姿が見える。美少女の片方は小町が少々、かおりはそれなりに見たことがある相手だ。その名は一色いろは。

 

「……あ、葉山隼人! そういや海浜でも噂になったことある」

 

 そしてイケメンの方は面識がなくともそこそこ有名であるらしい。かおりの言葉に、陽乃はへぇ、と口角を上げる。ああまた碌でもない事考えているなと雪乃はそんな姉をジト目で見た。

 

「人聞き悪いなぁ」

「今までの人生を振り返ってもう一度言ってみたらどう?」

「人聞き悪いなぁ」

「……そうね。姉さんに己を振り返るなんて殊勝なこと出来るわけなかったわね」

「雪乃ちゃんがそれを言う?」

 

 そう言って陽乃は笑う。ジト目から睨む目付きに変わった雪乃は、それで今度はどんな悪巧みなのかと姉に問うた。

 別に大したことではない、と彼女は笑みを浮かべたまま述べる。ちょっと合コンのセッティングでもしようかと、と続けた。

 

「精々ダブルデート程度でないと、隼人くんは了承しないわ」

「そうなんだよねぇ。あいつその辺警戒心強くて嫌になっちゃう」

「そうね。誰の所為かしら」

「雪乃ちゃん」

「記憶の捏造はやめておいた方がいいわよバカ姉」

 

 はいはい、と陽乃は流す。これ以上無駄話をすると見失ってしまうからなどと言いながら、彼女は三人に手招きをした。

 

「あ、勿論途中で奢るから、欲しいものあったら言ってね」

「ごちになりまーす」

「かおりさんの動じなさはたまに小町もついていけない」

 

 

 

 

 

 

 ゾクリ、と悪寒がした。こんな真夏にここまで寒気を感じるということは、明らかに何かがある。そう判断した隼人は、周囲を警戒するように見渡した。

 

「どしたん隼人?」

「あ、いや。何でもないよ」

 

 優美子の言葉にそう返し、彼は溜息を吐く。覚えのある悪寒だ。これを感じるということは、つまりは近い。長年染み付いた、周りに知られている『葉山隼人』から最も遠いともいえる感覚。

 

「お化けでもいました?」

「……そうだな。そうだったら、まだマシだったかもな」

 

 反対側にいるいろはの言葉への返しは、喧騒に掻き消されるほどの声量で。え、と聞き返した彼女に先程と同じように何でもないと返答した隼人は、それよりもと話題を変えるように笑みを浮かべた。

 花火を見る丁度いい場所を探さなくてはいけない。雑談をしながらその話を切り出した彼に、優美子もいろはも暫し考えるように視線を彷徨わせる。確かに場所の確保は重要だ。せっかく花火を見に来たのに、肝心要のそれが見られなかったとなると一体何をしに来たのか分からなくなってしまう。

 

「あー。でも前に一回あったなぁ」

「へ?」

「中二の頃だったかな。あーしら花火見に来たのにいい場所なくて愚痴りながら帰ったっけ」

「三浦先輩なら無理矢理場所を手に入れそうなんですけど」

「お前はあーしを何だと思ってるし。女テニの県選抜が不祥事とか洒落にならんっつの」

 

 やれやれ、と呆れたような目でいろはを眺め、まあそういうわけだからそこまで気にしなくてもいいと隼人に笑いかけた。過去にもあったことだ、二度目ならショックも少ない。

 

「わたしはそういうのはちょっと嫌かな~って思うんですよね。だから場所確保は気合い入れますよ」

「別に確保しないとは言ってないっつの」

 

 ぎゃいぎゃいと言いながら二人は隼人を連れて祭を歩く。道行く人々の中にはそんな三人を見て、美少女を侍らしていると若干の嫉妬の視線を向けるものもいた、イケメンを連れていると妬む視線をぶつけるものもいた。

 とはいえ、所詮は視線である。それ自体には何の威力も持ち合わせていないし、それによって三人が怪我をすることもない。

 

「……」

「葉山先輩?」

「隼人?」

 

 だから隼人が警戒するのは、そんな不特定多数の視線ではない。こちらを狙う狡猾な肉食獣が張っている罠の、その入口だ。そこに足を踏み入れないよう、細心の注意を払うことだ。

 

「あまり奥へ行くと、有料エリアになってしまうな」

「流石に払えんし」

「というかそういう場所って予約制じゃないですか?」

 

 人がまばらになってきた代わりに、警備員と立て看板が目立つようになってきた。優美子の言うように高校生が払うには少々骨の折れる金額であるし、いろはが述べたように今ここでそれをぽんと払って確保するような場所とも少し違う。わざわざ値段の書かれた看板がある以上当日席も勿論存在しているのだろうが、少なくとも三人にとってはだから何だ、であろう。

 だからこれ以上進むのは無意味だ。有料エリアに用事はない。優美子も、いろはも。こちらに進む理由などありはしない。

 ただ一人、隼人だけは。この先へ向かう理由を一つ、持ち合わせている。もしかしたらそこにいるかもしれない。そんな期待が、悪寒が。彼にはある。

 

「……馬鹿馬鹿しい」

 

 ガリガリと頭を掻くと、戻ろうと二人に述べた。断る理由もないので彼女達は素直に頷き、踵を返す。再び祭の喧騒が広がる場所へと、足を進める。

 まあ最悪ここからでも見られるから問題はない。花火を見る、という行為がついでになってしまうのはネックだが、三人で楽しむ分にはそれでも。

 

「むー。出来ればしっかりと。葉山先輩の隣で見たかったんですけどね」

「ははは」

 

 ぐい、といろはが隼人の腕に自分の腕を絡ませる。夏場の薄着では伝わる感触が冬場とは段違いで、それもそれをしているのが美少女ともあれば世の男性は舞い上がること請け合い。あの八幡ですら、暑いという文句の前に別の感情が押し寄せてくるほどだ。

 が、隼人はそれを涼しい顔で受け流した。む、と不満げな表情のいろはに対し、優美子はふふんと余裕の笑み。自分はその辺りを知っているから、もう少し効果的なアピールが出来る。そう言わんばかりで。

 当然といえば当然だが、優美子のアプローチも失敗に終わった。

 

「三浦先輩だってダメダメじゃないですか」

「うっさい。同じく失敗してるお前に言われたくない」

「まあそうなんですけどね。んー、思った以上に葉山先輩ガード硬いですね」

「硬いっつーか、やられ慣れてる感じするんだけど」

 

 飲み物でも買ってくる、と少し二人から離れたそのタイミングで、いろはと優美子はううむと唸る。意見交換をしながら、出てきたその疑問を解き明かすために暫し考え。

 

「やっぱり雪ノ下さんかなぁ」

「雪ノ下先輩が葉山先輩を誘惑するっていう絵面が想像出来ないんですけど」

「あー、うん。それはあーしも思う」

 

 よしんばただからかうだけなら。そう仮定してみても、やはり雪乃が隼人へそういうことをする姿が思い浮かばない。となると別の理由だろうか。そうは思っても、しっくりくる答えが思い浮かばないという堂々巡り。

 とりあえずこの状況では二人のどちらかが選ばれるようなことはありえないだろう。揃って出した結論はそれであった。

 

「まあ、別に今日って決めてたわけでもないし」

 

 ふう、と息を吐くと優美子は臨戦態勢を解いた。相手がそうなってしまうと、いろはも無駄に力を入れているのが疲れてきてしまう。今日のところは引き分けにしておきましょう。そんな提案をし、隼人が飲み物を持ってくるまで普段通りの雑談を。

 

「あら、もういいの?」

「っ!?」

 

 弾かれたように振り向いた。そこにいたのは、すっかり自分の中でも友人枠に収まった雪乃と、見知らぬ少女が二人。優美子の反応はそれであったが、いろはは少々違った。雪乃にも、そして残りの二人にも反応したのだ。

 

「ん? 一色知り合い?」

「まあ、ちょっと。先輩絡みですけど」

「ヒキオの?」

「そうですよ。そっちの人は先輩の妹さんですし」

「は!?」

 

 マジか、と優美子は小町を見る。はじめましてと挨拶をする彼女を見て、同じく挨拶を返しながら目をパチクリとさせた。何でアレの妹がこんな出来た娘なんだ、と。

 

「アレって……。ぷ、くふふふふ、まあそうなんだけど! ヤバイ、比企谷高校でもやっぱそうなんじゃん、超ウケる!」

 

 耐えきれない、と大爆笑し始めるかおりを見て別の意味で目を瞬かせた優美子は、いろはに視線を動かし尋ねた。こっちは一体何だ、と。

 

「あれ? 聞いたことありません? 先輩が言ってた、例の『クソ野郎』です」

「そそ。折本かおり、よろしく」

「あ、うん。三浦優美子、よろしく」

 

 いえい、とハイタッチをした後、優美子は暫し考え込む仕草を取った。てっきり八幡と似たようなタイプだと思っていた。が、会ってみると想像とはまるで逆。むしろ何がどうなると仲良くなるのかまるで想像がつかない。

 

「その辺はわたしも謎ですね」

 

 いろはがうんうんと頷いているのを見て、優美子は考えるのをやめた。まあいいや、と流すことにした。

 それよりも重要なのは、雪乃だ。もういいのか、と尋ねたということは。

 

「あーしら監視してたのか……」

「心外ね。私が見て面白がっていたのは葉山くんだけよ」

「そこ別に重要じゃねぇし」

 

 三人で行動しているところを見られたのは変わりがない。ゴルゴンの目で雪乃を睨み付けた優美子は、素直に頭を下げる彼女を見て即座にそれを霧散させた。やはり事前に伝えておくべきだった。そう続けたことで再度集約させた。

 

「こいつは、ほんとに……」

「ま、雪ノ下先輩ですし」

「ん? 一色、あんたはいいの?」

「キャンプの一件から、まあそういうものだと流すことにしました」

「あ、そ」

 

 こいつのこういうところはどことなく八幡に似ている。そうは思ったがあまりに失礼であり口にしたら絶対に文句を言うだろうから優美子はそれを飲み込んだ。

 そんな二人の様子を眺め、では納得してくれたようだから、と雪乃は微笑む。誤解のないように言っておくが、優美子もいろはも納得は一欠片すらしていない。

 

「お詫びも兼ねて、というわけではないけれど」

「ん?」

「皆で花火を見るのに丁度いい場所があるの」

 

 どうかしら、と雪乃は問い掛ける。後ろの二人は既に聞いているのだろう、それに驚くことなく優美子達の返答を待っていた。首を縦に振れば、今すぐでもそこに案内しよう、と言わんばかり。確かに願ってもないことではある。

 だが、それを決定するためには足りない。三人で来たのだ、もう一人が来なければ、決められない。

 

「……やっぱりこうなるのか」

 

 背後から溜息が聞こえた。振り向くと疲れたような顔で、しかしどこか安堵したような表情の隼人が見える。奇遇ね、という雪乃の言葉に、抜かしてろと彼は返した。

 

「まあいいや。いいのかい雪乃ちゃん、俺達は部外者だけれど」

「友人を招待するのに遠慮はいらないでしょう?」

「……なら、いいんだ」

 

 どうする、と隼人は二人に問う。彼がいいのならば、断る理由などない。二つ返事で頷いた彼女達を見て、じゃあよろしくと隼人は肩を竦めた。

 

「決まりね。じゃあ行きましょう」

「ああ。……まあ、陽乃さんもいないし、これはこれで――」

「姉さんも比企谷くんを誘って待っているでしょうから」

「――は?」

 

 今なんつった。思わず動きを止めた隼人に向かって、雪乃はとてもいい笑顔を向けた。特定の人物を除けば、万人が魅了される笑みを浮かべた。

 

「姉さんも、ちゃんといるわ。だから行きましょう、隼人くん」

「やめろ、腕を掴むな、俺は帰るぞ。絶対今日の状況見てたんだろ陽乃さん、絶対に嫌だ! 会いたくない! 離せ! 俺は、俺は!」

 

 爽やかイケメンが美少女に引きずられ貴賓席へと消えてく。そんな姿を不幸にも目撃した祭の客は、夏場だから見えてはいけないものが見えてしまったのだと自分を納得させることにしたのだとかなんとか。

 尚、翌年から花火大会の怪談が生まれるのだが、彼らの物語に特に関係はないので略。

 

 


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