セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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ここに原作のリアルっぽさとシリアスがあるじゃろ
( ^ω^)
⊃  ⊂

これを
( ^ω^)
⊃)  (⊂

( ^ω^)
≡⊃⊂≡

こうじゃ…!

( ^ω^)
⊃ .. ⊂  
‘∵  
‘:’;




激突!断トツ!リベンジャー
その1


 八幡は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の雪乃を除かねばならぬと決意した。

 だが無意味だ。

 

「……」

 

 周囲の視線がとてつもなく生暖かい。比企谷八幡の周囲に漂う空気は、彼にとって非常に居心地の悪いものであった。彼は人の悪意にはある程度寛容、あるいは諦めや受け流しをする質であるが、そうでないものには弱い。これが何かの仕掛けや持ち上げて落とすための前振りだというのならば問題なかったが、そんな裏が存在していないのも拍車をかけた。

 ただただ、彼が例の人物なのだということを確認し、どことなくほっこりした表情を浮かべてすれ違う。それだけなのだ。害はない。が、逆にそれが八幡の許容範囲を軽くぶっちぎった。

 

「雪ノ下ぁ!」

 

 こうして限界を迎えた彼は勢いに任せ二年のJ組へと突入し、そして国際教養科の面々に『愛の人』呼ばわりされすごすごと逃げ帰った。哀れなり。

 そんなやりとりも一週間ほど経てば収まる。元々が文化祭でのクライマックスで生じた爆弾であったため、その空気が薄れれば自然とそれも消えていくのだ。だからもう八幡を見て何かを言うような見ず知らずはいない。

 

「それで先輩、どうやって愛を囁いたんですか?」

「はぁ? なにいってんのおまえ?」

 

 つまりは見ず知らずでなければ言うのである。いろはがいきなり話を蒸し返したことで、八幡は思わずそんな言葉を返していた。だってあの時の空気じゃ聞けませんしでしたし、と悪びれることなくのたまう彼女を死んだ目で睨みながら、彼はそもそも何も言っていないと返す。

 

「えー、でも雪ノ下先輩が」

「あいつの言うことを真に受けるな。お前もあの時見てただろ。俺は、ガハマがぶっ倒れたから保健室まで運んでっただけだ」

「いや、それでもう十分じゃないですか」

「何でだよ」

「そのまま結衣先輩に付き添ってたんですよね? 実質愛を囁いたも同然ですよ」

「お前の頭どうなってんの?」

 

 はぁ、と溜息を吐いて八幡は手に持っていたMAXコーヒーを飲む。空になったそれを手で弄びながら、そもそも何でお前ついてくるのと彼女に問うた。

 

「わたしも呼ばれてますし」

「そうかい。じゃあお前一人で行ってくれ」

「そうしたら先輩逃げますよね?」

「当たり前だろう」

「素直に言っちゃうんですね……」

 

 やれやれ、と目を細めたいろはは、そのまま八幡の手を握る。いきなりのそれに、彼の動きが一瞬止まり、ついで手から伝わる柔らかな女子の柔肌の感触を実感し奇声を上げた。

 生娘のような彼のそれを聞いたいろはの表情が途端に何かゴミを見るようなものに変わり、しかし手は掴んだまま無言で目的地まで引っ張っていく。いやそんな表情するなら離せよ。そうは思ったが声には出せない。何故かは察しろということで。

 そうして辿り着いた場所の扉を開けたいろはは、八幡の背後に回るとその背中を勢いよく押した。女子とはいえ、マカロンのように軽いとはいえ。体重を掛けたその一撃を食らってしまえば流石に吹き飛ぶ。目的地の部屋の床へと倒れ込んだ彼は、文句を言おうと振り向いた。が、目が笑っていなかったので飲み込んだ。

 

「いらっしゃい、比企谷くん」

「いらっしゃりたくなかったんだがな、心の底から」

 

 わざわざ説明するまでもないであろうが、この部屋は奉仕部部室である。紅茶を飲みながら猫の写真集を読んでいた雪乃は、心底嫌そうな表情の八幡を見て満足そうに笑みを浮かべた。

 

「紅茶でも出しましょう。一色さんも座ってちょうだい。もうすぐ由比ヶ浜さんがクライアントを連れてくるから」

「は~い」

「その前に説明しろ説明。俺何も知らずに呼び出されて逃げようとしたら一色に捕まってここに至ってるんで事情がさっぱりなんだが」

 

 ギシリ、と椅子に腰を下ろしながら彼はぼやく。逃げるのは諦めたが、事情を知らない状態で流されるわけにもいかない。そんなことを考えて出た発言に、雪乃は不思議そうな顔を浮かべた。説明してなかったかしら、と首を傾げた。

 ポケットからスマホを取り出す。会話アプリを起動させると、八幡とのトーク画面を呼び出した。

 

「あら、本当ね。今日放課後に奉仕部へ、としか書いてないわ」

「素かよ……」

 

 何か含みをもたせているいつものパターンだと思っていた八幡は、雪乃のその言葉に思わず肩を落とす。何も書いてないからこそ彼はここに来るのを拒否していたので、もし目的が書いてあったのならば違う結論を出していたかもしれない。勿論嘘である。どうあっても八幡は拒否する気満々であったので、内容がどうあれ何の問題もない。実際雪乃も書いてあってもなくても同じでしょうとのたまった。大正解である。

 

「でも、そうね。説明を――」

「あん?」

 

 言葉を止め、視線を扉へと動かした。来たわね、という呟きと共に扉が開かれ、やっはろーという八幡にとってはお馴染みの挨拶が耳に飛び込んでくる。

 

「ゆきのん、依頼人連れてきたよ」

「ありがとう、由比ヶ浜さん」

 

 彼女の背後にも誰かがいる。ひょこりと顔を出したその人物は、そこにいる面々を見て笑顔を見せた。文化祭ではありがとう、と言葉を紡いだ。

 

「あ、じゃあ今回も皆が手伝ってくれるの?」

「そういうことになりますね」

「どういうことになりますのかね!?」

「先輩、言葉遣い変になってます」

 

 

 

 

 

 

 依頼人、城廻めぐりの言うところによると。文化祭に続いて行われる行事、体育祭の手伝いを頼みたいとのことらしい。差し当たって毎年用意する特別枠のアイデアが欲しいと彼女は続けた。

 

「特別枠?」

「そう。男子と女子の目玉競技をどうしようかなって」

 

 へぇ、といろはが感心したような声を上げる。彼女は一年生なので、去年の体育祭についての知識がない。そんな変わったことやるんですねと純粋に驚いた反応を見せていた。

 一方の二年生三人は、そんな言うほどのものだったのだろうかと首を傾げた。特に八幡は何が目玉競技だったのかという記憶すらおぼろげである。

 

「去年はコスプレースっていう、コスプレしてレースをするやつをやったんだけど……」

 

 めぐりの言葉をもとに記憶を探る。別段体育祭に大した思い出もない八幡は、去年も適当な競技に出た後は義輝とくっちゃべっていた記憶しかない。クラスの応援もなおざりで、それらしきものといえば。

 

「あ、そういや何かやたら気合入ったメルトリリスが他の連中ぶっちぎってたのがあったな」

 

 義輝が「むぅ!? あれこそまさに弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)!」と隣ではしゃいでいたのを思い出す。ちなみに問題の部分は流石にスパッツであった。

 

「……そういえば、そんなことも、あったわね」

「そのめるとなんとかってのはよく分かんないけど、確かに何かあったね。足に凄いパーツ付けた人が猛スピードで走るやつ」

「あ、よかった。覚えててくれたんだ」

 

 三人の反応を聞いて、めぐりはほんの少しだけホッとしたように胸を撫で下ろす。そうしながら、まあそんな感じであんまりインパクトがないんだよといろはに述べた。

 

「今の会話を聞く限りその人のインパクト抜群だったんじゃないですか?」

「件の存在だけはな。競技自体はそのついでに思い出すレベルだ」

 

 事実、八幡はそれ以外何も思い出せない。結衣も他にどんな格好をしていたのか出てこない様子で、ううむと首を傾げていた。

 ともあれ、理想はそれくらいのインパクトを競技全体でやることらしい。むん、と気合を入れ直しためぐりは、そういうわけかだからと拳を握りしめた。

 

「あ、ついでに、体育祭の運営委員長も誰かいるといいんだけど」

「そっちの方が重要なんじゃ!?」

 

 結衣のツッコミが部室に響く。委員長と彼女は言ったのだ。つまり運営の頂点が未だに決まっていないということである。それは目玉競技をどうこうする以前の問題であろう。雪乃もいろはも、勿論八幡も。それは同意見なのか若干げんなりした顔で彼女を見ていた。

 めぐりはその空気を感じ取ったが、しかし雰囲気がゆるふわに近い彼女は慣れた様子で受け流した。そういうわけだから、とそこにいる皆を、正確にはその中の二人を見た。

 

「雪ノ下さん、どうかなぁ?」

「そうですね。……姉は、やらなかったんですか?」

「体育祭の運営はやってないんだよ、はるさん。目玉競技のネタ出しはやってたみたいだけれど」

「成程」

 

 何かを考え込む仕草を取る。そうした後、何かを確認するように視線を動かした。ちらりと見られた方は、その視線の意図に気付き嫌そうな表情を浮かべると全力で首を横に振る。もう二度と委員長なんかやらん、と体全体が述べていた。

 

「分かりました。その代り、協力者としてこちらの三人も参加させてもらいます」

「うん、大歓迎。よろしくね、雪ノ下さんと、えーっと……」

 

 ちらりとこちらを見て、何かを思い出すように目を細める。どうやら人の名前を覚えるのが苦手らしく、それに気付いた結衣といろはが自己紹介をした。そしてこの人が、と二人揃って八幡を見る。

 

「あ、大丈夫。流石に実行委員長は覚えてるよ、愛の人だし」

「その覚え方は大いに間違っているのですぐさま記憶から抹消していただきたい」

 

 そうかな、と首を傾げるめぐりにそうですと強調した八幡は、疲れたように項垂れる。先輩いつもここにいると疲れてますね、といういろはの言葉にも返事をする気力が残っていなかった。

 ともあれ、とりあえずアイデア出しは運営委員会で行うらしく、明日の放課後に実行委員でも使っていた会議室へと向かって欲しいと彼女は告げた。それに了承を返した四人に手を振ると、めぐりは踵を返し部屋から出ていく。

 その途中、ぴたりと足を止めると何かを思い出したように振り向いた。

 

「そうだ。ちなみに、みんなは何組? 私は赤組なんだけど」

 

 めぐりは笑顔で尋ねてくる。別段それに答えを濁す必要もなかったので、四人はそれぞれ自身の体育祭の組分けを彼女へと告げた。

 雪乃と結衣はめぐりと同じ赤。そして。

 

「あれ? ヒッキー白なんだ」

「先輩が味方かぁ……」

「何だその不満そうな顔。いや理由は分かるけど」

 

 どうやら半々に分かれていたらしく、それを聞いためぐりは同じチームでなくて残念だと八幡といろはを見て眉尻を下げた。が、それはそれとして負けはしない。そんな宣言を残しつつ、今度こそ本当に彼女は部屋を後にする。

 そんなめぐりの背中を、八幡はやる気満々だなぁと他人事のように眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 それが他人事で無くなったのは翌日である。運営委員会やることになったと結衣が優美子達に話をしているのを横目にいつものMAXコーヒーでも買おうかと自販機に向かった八幡は、一人の男子生徒がこちらにやってくるのを見てあからさまに顔を歪めた。何でこっちに来るんだ、と呟いた。

 

「比企谷、ちょっといいか?」

「よくねぇよ」

 

 教室ではなくここを選んだのは確実に何か理由がある。それが分かるからこそ、八幡はやってきた男子生徒――葉山隼人との会話を拒否する。お前と話すことなど何もないとばかりに、手にした缶でお手玉をする。

 

「体育祭の組分け、どっちだったんだ?」

「よくねぇっつっただろうが」

 

 そんなことは知らんとばかりに会話を続ける隼人を見て、八幡はジロリと彼を睨む。その程度でひるむような相手ではないのは分かりきっているので、勿論気休めにしかなっておらず、隼人は薄く笑いながらまあ聞けとばかりに小さく手を上げた。

 

「俺は白組だ」

「だからなんだよ」

「雪乃ちゃんは赤組だ」

「だから――何で知ってんだお前?」

「本人から確認の連絡が来た」

 

 疲れたような溜息と共に彼は零す。また碌でもない事を考えているのだろうかと邪推した八幡であったが、流石に今の状況では情報が少な過ぎて何も分からない。が、目の前の男はこれだけである程度予想が立っているようでもあった。

 

「で、それがなんなんだよ」

「赤組が勝つから、白組は地面を這いつくばる準備をしておけ、と言われた」

「何であいつそんなノリノリなんだよ……」

「彼女、勝負事好きだから……」

 

 この調子では場合によっては目玉競技が阿鼻叫喚になりかねない。ちらりと隼人を見た八幡は、丁度いいと口角を上げた。

 

「それで、だ。比企――」

「待て葉山。その前に俺の提案を聞け」

 

 彼の言葉を遮って、八幡は言葉を紡ぐ。運営委員会の手伝いで目玉競技のアイデアを考えていること、次の委員会でそれを発表すること。手伝いはある程度外部から呼んでも構わないということを、である。

 

「とりあえず暇そうな材木座をこっちは確保したんだが、葉山」

「俺は部活があるからそれに協力は出来ないぞ」

「お前には期待してない。お前の繋がりだ」

 

 葉山隼人の周囲の面々のアイデアを貰いたい。そんな彼の言葉を聞いた隼人は、不思議そうに彼を見た。隼人の周囲、として八幡が想定しているのは、当たり前のように結衣の周囲だからだ。別段こちらに頼まずとも、彼女に頼めば事足りる。そもそも、経由せずとも直接交渉にだっていけるのだ。優美子、姫菜、翔にとって八幡は少なくとも友人カテゴリに入っているのは間違いないのだから。

 

「いや、戸部はともかく。あの二人は、ほら、あれだし」

「……ああ、愛の人か」

「それじゃねぇよ。いや、まあそれっちゃそれだが」

 

 あーはいはい、と隼人の目が細められる。そんな遠慮とかする暇があったらとっととくっつけばいいのに。そんなことを思いながら、すぐに表情を戻して分かったと頷いた。別に引き受ける意味も必要もないことではあるが、彼の話そうとしていた提案に有利になる可能性があるならば渡りに船だ。

 

「その代り、というほどではないが。さっきの話の続きをさせてもらうぞ」

「……ああ、しょうがない」

「その前に改めて、お前はどっちなんだ?」

 

 主語が抜けているが、そこで聞き直すほどでもない。白だ、と若干嫌そうに告げたのを聞いた隼人は、良しと思わず拳を握った。

 

「比企谷。一つ、協力をしないか?」

「は?」

「俺と君は白組。対する雪乃ちゃんは赤組だ」

 

 そして赤組の雪乃はこちらを徹底的に叩き潰す腹積もりである。つまりはそういうことだと真っ直ぐに八幡を見た隼人は、もう一度彼に向かってその提案をした。

 すなわち、協力して雪ノ下雪乃を倒そう、と。

 

「お前、正気か? 相手はあの雪ノ下だぞ」

「ああ。だからこそだ。このタイミングしか無い。これを逃せば、次にいつチャンスが来るか分からない」

 

 隼人の表情は真剣そのものである。遊びでもふざけているわけでもなく。本気で雪乃を倒そうと思っているのだ。本気でそのために八幡と協力関係を築きたいと思っているのだ。

 

「今まで散々苦汁を舐めさせられてきた。だが、今回は、今回こそは」

「お、おう……すげぇ気合入ってるな」

 

 だが、隼人の考えに共感出来る部分もあった。今回の体育祭、白組が勝てば極めて真っ当に雪ノ下雪乃に土を付けられる。そのことを想像すると、八幡ですら気分が高揚した。

 あの雪乃が、負けを認め、こちらを見上げるのだ。見たくないわけがない。

 

「いいだろう。今回だけお前に付き合ってやる」

「ああ、よろしく頼む」

 

 そう言って隼人は右手を差し出す。ふん、と鼻を鳴らした八幡は、弾くような勢いでその手を掴んだ。

 

 


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