セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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コメディパワーはリアルさを凌駕するのだ(適当)


その3

 説明書と動画を見終え、参加不参加の紙を渡された隼人は溜息を吐いた。間違いなくこれは体育祭ではない。そんなことを思ったが、学校側が許可を出した以上何かを言う権利もなく、そして何より。

 

「……真面目な戦いでなければ、俺だって雪乃ちゃんに一矢報いることが」

 

 ぐしゃり、とプリントが歪んだ。我に返った隼人は、用紙の参加に丸を付け提出箱へと持っていく。どうやら自分がクラスで最初らしい。そんなことを思ったそばから、堰を切ったように皆が動き出す。

 その中でも動くのを渋っていたのが八幡であった。既に参加に印は付けてあるものの、出したら逃げられないと躊躇しているらしい。が、最後の最後になると目立つという彼なりの考えを持って、覚悟を決めたように立ち上がろうと。

 

「あ、ヒッキーのも一緒に出しとくね」

「待て」

「え?」

「何でわざわざこっち来た」

 

 八幡の質問に、結衣はなんのこっちゃと首を傾げる。出しに行くついでだから、別段理由など無いと言わんばかりであった。というよりも、言った。現に彼女の持っている用紙は自身と八幡のものを含めても四枚。優美子と姫菜の分をもっていくついでなのだろう。

 その流れで彼を経由するということが何を意味するのか、そんなことは微塵も考えていない顔である。誤解のないように言っておくが、クラスの中ではいつものことなので正直な話何も意味してはいない。ただただ、八幡が自分で考え過ぎてドツボにはまっているだけなのだ。

 ともあれ、こうして全校生徒に是非を尋ねるという前代未聞の競技の下準備も終わり、後は本番がどうなるか、それに焦点が当たる。

 葉山隼人による、雪ノ下雪乃への下剋上が幕を開けるのだ。

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉりゃぁぁ!」

 

 顔を真っ白にして全力疾走するのは三浦優美子。普段の彼女からすれば考えられないその姿は、敵も味方もドン引きであった。種目は障害物競走、まあ適当に、とチョイスしたそれで彼女がなりふり構わず動いている理由は。

 

「ふ。惜しかったわね、三浦さん」

 

 隣で一位の旗を持ちながら同じく顔を真っ白にしている少女のせいである。その名は雪ノ下雪乃。同じく目玉競技以外で力を使うと体が耐えられないという割としょうもない理由で障害物競走を選びそこそこの成績を出そうと考えていた人物だ。幸か不幸かこの二人、同じ順番であった。

 おかげで優美子は何時になく本気で障害物を突破することになり、雪乃は温存するはずの体力を使って勝ちに行ってしまった。

 

「くっそ……負けた」

「ふ、惜しかったわね、三浦さん」

「いけると思ったんだけどなー。やっぱ雪ノ下さん強いわ」

「惜しかったわね、三浦さん」

「……さっきからそれしか言ってなくない?」

「ふ……惜しかったわね、三浦さん」

「壊れてる!? ユイ、ユイ! 雪ノ下さん回復してやって!」

 

 最後に使う体力を残すため、会話を考える力をこの競技に回したらしい。不敵に笑いながら肩で息をしている雪乃を、結衣が慌てて回収していく。

 救護班がスポーツドリンクとアイスノンを雪乃へと叩き込んでいるのを横目で見ながら、隼人は小さくガッツポーズをした。戻ってきた優美子に笑顔でお疲れ様と返すおまけ付きである。

 

「三浦先輩、ずるい」

「だったらお前も頑張りゃいいじゃん」

「分かってますよ。この一色いろは、日頃サッカー部のマネージャーで鍛えた力をとくと」

 

 ちなみにいろはの競技の結果は至って普通である。彼女曰く、流石に三浦先輩ほど自分を捨て去るのはちょっと、とのこと。

 そんなことを繰り返しながら、体育祭は進んでいく。普通の競技では一進一退を繰り返し、大差がつくようなこともなく。

 

「葉山、焦るな」

「俺が何時焦っていると?」

 

 八幡が隼人にそんな声を掛けると、少し硬い声色で返された。そういうところだ、と八幡が述べ、彼は思わず口ごもる。深呼吸をし、すまないと謝罪をした。

 

「雪乃ちゃんがアクシデントで潰れたから、今のうちに、と思ったんだが……」

「あっちはあっちで本気だな」

 

 めぐりの横で指示を出しながら飴玉を舐めている雪乃を見やる。元々想定済みだったのか、死にかけていた顔色も元に戻っている。どうやら本当に別の部分に回していた力を体力に変換していたらしい。

 

「なあ、葉山。雪ノ下は本当に人間か?」

「陽乃さんからの入れ知恵だろう。多分今回限りの」

「質問の答になってねぇよ。……いや、なってるのか」

 

 まあどっちでもいいや、と彼は肩を落とした。この様子では、最後の目玉競技三連発までに調子を取り戻しこちらを潰しにかかってくるのは間違いない。その光景を想像し、八幡は思わず体を震わせた。

 しかし、と校舎に掛けられている得点ボードを見る。先程も言ったように一進一退、わずかに白組が優勢ではあるが、少しでも油断するとあっという間にひっくり返される程度の差しかない。それが八幡にはどうにも奇妙に映った。

 

「葉山」

「ん?」

「お前結構活躍してるよな」

「……まあ、それなりにな」

 

 彼の言いたいことを察したのか、隼人も同じように得点ボードへ視線を向けた。ヒーローが活躍すれば、その分士気が上がる。気持ちは案外ばかにならないもので、それによって実力以上のものが出ることだって珍しくない。隼人の動きはまさにヒーローのそれであった。白組は彼の活躍により盛り上がり、女子はいいところを見せようと手を抜かなくなる。男子も隼人という後ろ盾のおかげで、臆することなく競技に望んでいる。

 だというのに、差は僅かだ。赤組にはヒーローらしい存在はいないにも拘らず、である。

 

「雪乃ちゃんの力だろう」

「雪ノ下の?」

「ああ。彼女の姉、陽乃さんは自分が先頭で士気向上をするヒーロータイプだ。だから目立ちやすい」

「あの人と雪ノ下は、違うだろ」

 

 八幡の言葉に、隼人は頷く。ああそうだ、と。違うのだと、ボードから彼に視線を戻し、そして雪乃へ動かしながら言葉を続けた。

 

「雪乃ちゃんは、軍師タイプだ。自分は前に出ず、後ろからの支援で集団を押し上げる。が、その一方で、相手に勝つためになら自分を囮にすらする」

「姉が曹操なら、妹は司馬懿ってところか。……やっぱり色々とぶっ飛んでやがるな、あいつ」

「君が言うのか? 割と同じタイプだろう? 比企谷」

「買い被り過ぎだ。俺は我が身が一番大事だぞ」

「……そうか」

 

 その辺りの突っ込んだ話をする予定はない。隼人はそこで話を戻すように白組を見た。おそらく、団結力という部分では向こうが圧倒的に上だ。そう呟きながら、彼は表情を苦いものに変える。

 

「生徒会長と雪乃ちゃんのコンビが厄介だな……。結衣もいい感じに緩衝材になっている」

「後は、あれだ。お前もいい感じに利用されてるだろ」

「俺が?」

「葉山隼人が活躍している。つまり、強大な敵を設定して団結させてる」

「…………陽乃さんが前に言ってたな。集団をまとめるために必要なのは、明確な敵の存在だ、と」

 

 織り込み済みかよ、と隼人は頭を抱える。が、すぐさま持ち直すとプログラムを見た。残る僅かの通常競技に彼の出番はなく、最後の目玉競技の時間も迫っている。今更立ち止まることなど出来はしない。罠と分かっていても、こちらの手足に糸がついていても。

 それでも、隼人は雪乃を倒すために進むしか無い。

 

「行くぞ比企谷。俺たち二人で、雪乃ちゃんを倒すんだ」

「一人で盛り上がってんじゃねぇよ。……まあ、雪ノ下の吠え面を見たいのは同意だが」

 

 

 

 

 

 

「なんと見事なハヤハチ、デュフ、ふふふふふふふふふう……」

「海老名、ステイ」

「大丈夫大丈夫。私は正気に戻った」

「本当かよ……」

 

 目玉競技一発目、騎馬戦である。女子全員参加のそれは、通常のポイントの他に大将首を取った方が有利という変則戦だ。考案者材木座義輝曰く、チバセン。

 赤組の大将役はめぐり、結衣、そして雪乃の三人。対する白組は。

 

「一色、お前本当に大丈夫なん?」

「疑り深いですね。大丈夫ですよ三浦先輩、海老名先輩の屍を超えて、わたしは立派に大将を務めてみせます」

 

 優美子、いろは、そして戦力的にこれしかないと半ば無理矢理引き込まれた沙希の三人だ。前者二人と後者一人の温度差が非常に激しい。とはいえ、沙希も別に負けたいわけではない。やるならしっかりと勝ちに行くつもりである。

 赤白の女子が整列する。騎馬を作り、大将を用意し、そして許可が出たということで開き直った静が法螺貝を吹き鳴らしたタイミングで勝負開始だ。

 三人はちらりとアイコンタクトをする。他の騎馬達がわらわらと展開する中、いろはと優美子は集団を回り込むように散開した。そして中央に残った沙希は周囲の騎馬を引き連れながら突貫する。

 

「わわ、沙希!?」

「悪いね結衣。取らせてもらう!」

「そ、そうは、行かないし!」

 

 中央で結衣と沙希がぶつかり合う。単純な運動能力では明らかに結衣が不利。そう判断したのか、彼女は二度目の激突で距離を取った。周りの騎馬に紛れながら、後方へと下がっていく。

 それを見た沙希は追撃とばかりに前進した。敵の有象無象の騎馬では止まらない、そんな自信の現れである。

 

「ばっ! 川崎! 下がれし!」

「何を言っ――」

 

 それに気付いたのは優美子であった。思わず動きを止め、叫ぶ。離れた場所ではあったが、その叫びは確かに彼女へと届いた。前進していたその足が、僅かに鈍った。

 だから、助かった。空を切る音と、逃れきれなかった前髪がはらりと落ちる。

 

「あら……外したわね」

 

 即座に反転し、襲いかかってきた影の正体を見る。騎馬の上で牙を顕にしていたのは、誰なのかと疑問に思うまでもない相手。

 雪ノ下雪乃が、いつの間にか眼の前にいた。

 

「――っ!?」

「逃さないわよ」

 

 どこをどうすると騎馬でそんな動きが出来るのか。そう思えるほど滑らかに、滑るような動きで間合いを詰めた雪乃は、大将首を頂かんとばかりにその手を構え。

 させんとばかりに周囲の騎馬がその手を塞いだ。ちらりと集まってきた有象無象を見た雪乃は、小さく息を吐くと片手で一騎ずつ始末していく。

 

「逃さない、と言ったはずよ」

 

 後退した沙希に視線を向けた。壁となっていた騎馬隊を壊滅させた雪乃は、本命である彼女へと向かって足を踏み出す。

 その瞬間、ピクリと反応し騎馬へ回避の命令を出した。同時に自身も人の上に乗っているとは思えない動きで伸ばされた腕を躱す。

 

「何で今の避けれるんですか~!」

「甘いわね、一色さん。もう少し気配を消す練習をした方がいいのではないかしら」

「わたしに気配を消す練習って、それもう死ねって言ってるのと同義ですよ!」

 

 いろはの叫びに土台をやっている女生徒が笑う。こんにゃろ、とその女生徒にチョップをかましたいろはは、しかし即座に離脱した。先程の光景を見ていた彼女は、ここに留まるのが何を意味するのかを理解していた。

 

「……逃げられたわ」

「ゆきのんドンマイ」

 

 ふう、と息を吐く雪乃の横に、結衣が並ぶ。そうしながら、どうしようかと周囲を見渡した。大将首を取れなかったことで赤組の士気が若干落ちている。対する白組も、雪ノ下雪乃の奇襲を凌いだとはいえ被害は甚大。現状五分五分といったところであろう。

 そんな結衣の言葉に、雪乃は決まっていると笑みを浮かべた。右手を大きく上げ、その拳を握り込む。

 それを合図にしたように、赤組の騎馬が一斉に突撃を始めた。大将を残し全てが前に突き進んできたことで、白組陣営は混乱に陥る。

 

「行くわよ由比ヶ浜さん。――相手を、潰しに」

「お、お手柔らかにね」

 

 騎馬の波の後方から、プレッシャーを掛けるようにゆっくりと雪乃が迫る。その重圧に耐えきれなくなった白組の騎馬達は前の赤組を避けようと、蜘蛛の子を散らすように分かれていった。

 

「はいはい、ごめんね」

 

 そうして群れからはぐれた小魚を、捕食者という名の赤組大将騎が食らっていく。めぐりと結衣が左右から、次々と仕留めていった。

 

「ぐ……」

「み、三浦先輩! ピンチですよ!」

「わーってるし! ちっ、一色!」

「な、何でしょう」

「後、頼んだ」

 

 言葉の意味をいろはが理解するよりも早く、優美子は前に突っ込んだ。雑魚が邪魔するな、とこちらを押し込んでいた騎馬達を投げ捨てていく。それによって出来た穴を広げんと、沙希がそれに追従した。

 

「川崎、お前はこっちより一色を」

「あんたがやられたら、そっちの方がまずい。……とりあえず、雪ノ下さんとこまでの道のりは、作ったげる」

「あんがと。んじゃ、任せた!」

「うん」

 

 大将が壁を突き崩す。その光景を見たことで、白組の混乱が収まった。いろはが彼女らしからぬ声を張り上げ、陣形を建て直させたことも大きい。程なくして壁は貫かれ、優美子は最後方で戦局を眺めていた大将へと辿り着いた。

 

「来たわね、三浦さん」

「障害物競走の借り、返しに来たし!」

 

 雷鳴のような突進を、雪乃は最小限の動きで躱す。無茶をしたことで体勢が崩れた優美子とは違い、彼女の芯は全くぶれていない。どういう練習してんだ、と舌打ちした優美子は、しかし諦めずに再度突撃する。

 

「あんたを倒せば、こっちの勝ちだし!」

「ええ。そうかもしれないわね」

 

 突き出された手を首の動きだけで避ける。その腕を掴もうと伸ばした手は空を切った。即座に腕を引き戻していた優美子は、もう一発とばかりに円を描くような動きで相手の頭の鉢巻きを狙う。

 

「はぁ!?」

 

 それをダッキング、どころか体全体を沈み込ませることで躱した雪乃は、明らかに動けるバランスでない状態のまま優美子へ接敵した。下からすくい上げるような動きで首を取りに来た彼女を、優美子はバランスを崩しながらもスウェーで避ける。

 男性陣の歓声が上がった。

 

「くっ――」

「その状態で、これが避けられるかしら」

 

 雪乃が更に手を動かす。空気投げの変形とでもいうのだろうか、バランスを盛大に崩された優美子は、騎馬から投げ出され宙を舞った。べしゃり、と騎馬の横に落ちた彼女と、同じく崩れた騎馬役の女生徒がへたり込む。

 

「惜しかったわね、三浦さん」

「……ムッカつくぅぅぅ!」

 

 覚えてろコノヤロー、と叫ぶ優美子に笑みを返すと、雪乃は白組の残党を狩るべく騎馬に指示を出した。一部始終を見ていた白組は、突っ込んできた彼女に為す術がない。尚も闘志が残っていた沙希も、めぐり、結衣に挟まれ雪乃に狩られた。

 

「さ、後はあなただけよ、一色さん」

「こ、こうさ――んだけは、出来ませんよね、うん」

 

 既に白組はボロボロである。ここから逆転するには、目の前の大将騎をいろは一人で倒し切るしか無い。土台無理なそれを自覚しても、彼女は折れることをしなかった。隼人の前で情けない姿を見せられないというのが勿論理由の一つではあるが、しかし。

 

「ここで逃げたら、かっこ悪いじゃないですか……!」

「お、いろは言うねぇ。よーし、じゃあおじさん頑張っちゃおうかな、なんてねっ」

「そうだねー。やりますかーっ」

「やりましょ~」

「ありがと、みんな。よし、いくよ!」

 

 おー、と騎馬役の三人が盛り上がり、これが最後の戦いだと言わんばかりに雪乃へと戦いを挑む。そんないろは達を雪乃は楽しそうに迎え撃ち。

 法螺貝が鳴り響く。清々しいほどに全滅した白組の騎馬隊を眺めながら、雪乃は勝利の拳を振り上げた。

 

 


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