おそらく男子チームが敗退するとすれば、武器、オーブメントを始めとした持てる全ての力を使わなかったこと。マルガリータに対話による説得を試みたこと。そして戦力を分散したことだ。
よって女子達が取る行動はその真逆。
武器、オーブメントは用意できる最高かつ最適なものを装備。マルガリータに説得は行わず、わずかでも隙を作らない。戦力は一極集中、総力を以て目標を撃破する。
それがプラン4。
男子チームのプラン3まで失敗した場合を想定して、女子チームが内密に仕立てた作戦内容である。
「やっぱりこうなったわね」
今頃、残らず地に伏しているであろう男子達の姿を想像して、アリサは嘆息をついた。
「だが少々信じられんな。男子達が素手だったとしても、マルガリータも素手ではないか。そこまで圧倒できるものなのか」
「それは私も思った」
屋上のマルガリータを見上げながら、ラウラとフィーは率直な疑問を口にするが、そんな二人に「できるわ」とアリサが平然と告げた。
「絶対に侮らないで。最初から全力よ。ただ屋上からここに来るまでにはまだ時間がかかるはずだし、最後にもう一度作戦の確認を――」
アリサの言葉の途中で、マルガリータは屋上から飛び降りた。その動作に何のためらいもなかったように見えた。
「え、ちょっ!?」
マルガリータは落下しながら校舎の所々にせり出した窓枠に手をかけ、壁面を足で削って勢いを減衰させつつ、地面まで到達した。
ずずうん、と落下点から離れたグラウンドにもその衝撃が伝わってくる。
「え、え、え!?」
エマは開口しながら固まっていた。今から戦う相手は本当に自分達と同世代の女子なのか。そう言わんばかりだ。
「マルガリータってすごいんだなー」
ただ一人ミリアムだけは生来の呑気さからか、間の抜けた声を出しているが。
マルガリータがずしずしとグラウンドに歩いてくる。一歩近づくごとに、その威圧感は肌で感じられる程に大きくなっていった。
「あなた達がヴィンセント様を監禁しているのねえ……!」
ずんっと肩に圧し掛かる空気が重くなる。
呼吸さえも苦しい感覚の中、アリサはマルガリータに言った。
「マルガリータさん……悪いけど、私達はクッキーを渡してもらおうなんて考えていないわ」
「グフフ、渡すわけがないじゃない。これはヴィンセント様が召し上がるものよお」
二人は異口同音に『……だから――』と続け、お互いを見据える。
交錯する視線の中心に、ばちりと散った火花を幻視した女子メンバーは、ぐっと顎を引いて身構えた。
「あなたを倒して、クッキーを手に入れてみせるわ!」
「あなた達を潰して、クッキーを届けてみせるわあ!」
大地を揺るがす咆哮が、開戦を告げた。
「戦闘指揮は私が! 初撃は作戦通りに。エマは所定の位置に移動して!」
アリサが鋭く指示を飛ばすと、全員が戦術オーブメントを構えた。
『《ARCUS》駆動!』
皆が声をそろえ、五つの光陣が輝きを放つ。
「あらあん?」
訝しげな声を発し、マルガリータは首を傾げる。アーツ駆動をその場の全員が一度に行うなど、セオリー外れもいいところだ。前衛がいなければ、駆動準備の無防備な間を守れないからである。
先制を狙うマルガリータが拳に力を入れた時、彼女の右上方の空間がぐにゃりと歪んだ。
そこだけではない。続けて左上方、右下方、左下方。両手両足側、計四方向の空間が大きく歪曲する。
五人中四人がアーツを発動した。駆動時間短縮のクオーツを全員が付けている。
アリサは不敵な笑みを浮かべた。
「耐えられるかしら?」
大渦のような歪みの中心に引力が生じた。本来この付加効果は敵を吸引し、一固めにしたり、敵陣を乱す為に用いられる。だが今は違った。
「むっふぁあああ!?」
それぞれに発生した引力が、その中央にいるマルガリータを四方に引き合っているのだ。
四肢に強固な枷を繋げられたかのように引っ張られ、その肉の面積をさらに押し拡げたマルガリータは、身じろぎさえも許されない状態だ。
「エマ!」
「いきますっ!」
エマが魔導杖を振り上げる。磔刑に処されたかの如く、体を大の字に開いたマルガリータの目に緑光が瞬いた。
空気を焼きながら突き進む、竜の爪を束ねたような裁きの稲妻。
直撃。雷光がマルガリータを鮮烈に染め上げた。
「グッフォオォ……」
うめき声に続いて、口から黒煙が吐き出される。焦げ付いた臭いが辺りに漂っていた。陰惨な焼肉パーティーだ。
「ど、どうですか?」
「これで……――くっ!」
しかしマルガリータは倒れない。体中にパリパリと電気を走らせながらも「グフフッ」と口の端を吊り上げて一歩踏み出でる。
「気持ちのいいマッサージだったわあ」
常人にとって四肢をちぎられる程の苦痛も、彼女にとってはただの“ほぐし”。その後の電撃も所詮は電気マッサージの域。
初撃で全員が理解した。次元が違う。
「さあて、次はお返しをしなくちゃあねえ」
これがマルガリータ。これがグランローゼ。
その名を胸中で反芻し、アリサは息を呑んだ。
臆している暇はない。戦いは始まったばかりだ。
「全員止まらないで! フィーとラウラはリンクして前衛に、エマは私とリンクしてアーツを、ミリアムは後衛で補助をお願い!」
一息に指示を飛ばし、陣形を組みかえる。
各々の意志に応じ、《ARCUS》がリンクの光を走らせた。
「私が起点の攻撃を仕掛ける。ラウラが仕留めて」
「承知した」
身を屈めたフィーが素早くマルガリータに接近する。
「生意気ねえ」
ごうと風を切ってマルガリータの剛腕がフィーに伸びる。俊敏にかわして懐に入り込んだフィーは「あげるよ」と後ろ手で取り出した閃光手榴弾をマルガリータの顔目掛けて放り投げた。
炸裂。視界が白く塗り込められる。鮮烈な光と弾けた爆音が、視力と聴力を一時的に奪った。
「お願い」
「任せるがいい!」
切り結ぶ気など毛頭なかった。
跳躍したラウラは一気に間合いを詰め、頭上に掲げた大剣を振り下した。一撃で仕留めるつもりだ。
空気を裂いた刃がマルガリータを捉える寸前、彼女は身を翻してその斬撃をよける。
「なに!?」
音も聞こえず、目も見えないはずなのに。一瞬の動揺がわずかに体の動きを止めた時、マルガリータのひねった上半身から拳が繰り出された。
「ぐうっ!」
咄嗟に刀身で受け止めたが、鉄の塊をぶつけられたような衝撃に耐えることはできず、ラウラは後ろに吹き飛ばされた。
「ラウラ!」
フィーの目がラウラにそれる。それを察したかのように、再びマルガリータの腕がフィーに向かった。
その手に捕まれば、逃げられないどころか握り潰される。悪寒が背を駆け抜け「しまったかも」と毒づきながら、フィーは双銃剣を引き抜いた。
しかし遅かった。ゴキンと指関節を鳴らした分厚い掌が、すでに眼前を黒く覆っている。
マルガリータが急に手を引き、突然その場から跳ね退いた。
「フィーちゃん!」
エマの叫ぶ声が響き、光の剣がフィーとマルガリータの間の地面に突き刺さった。
続け様に四本の光剣が、マルガリータを遠ざけるような軌道で来襲する。
全て紙一重で避ける巨体。
最後の剣を横っ飛びに避けて着地した瞬間、そのタイミングを狙って放たれた燃える矢じりが、マルガリータに向かって飛来した。
「これでっ!」
「甘いわあ」
大剣の隙間を縫うように舞い飛んできた矢を、人差し指と中指の間で挟み取ると、マルガリータはそのまま力任せにへし折ってみせた。
「ハエを掴まえるよりも簡単よお」
「ハエなんて普通掴まえないでしょ!?」
フィーの閃光弾で目も耳も使えないはずなのに、どうしてこんな動きができる。
いや、そうだ――自分はすでに知っていた。彼女の五感でもっとも優れているのは――
「嗅覚……!」
思い出してぞっとした。尋常ではない。
全く怯みもしないマルガリータを攻めあぐねているラウラとフィー。
後衛からミリアムが声を上げた。
「前衛の二人は下がってね! いっくよー!」
アーツが発動する。
マルガリータの足元に黒い染みが滲みだした。それを見た二人は一足飛びに間合いを開ける。
瘴気にも似た紫煙を立ち上らせながら、染みは瞬く間に拡がっていった。
ドス黒く染まった闇の沼の中心に、何かが浮かび上がってくる。
それは骸骨。顕現した巨大な
「マルガリータの能力を下げるよ! これで少しは戦いやすくなるから」
しかし逃げる素振りも見せず、彼女は迷いなく髑髏の頭頂部をがしりとわし掴む。
たくまし過ぎる上腕が唸りを上げた。
「ムッフォオ!」
雄叫びを上げ、力任せに髑髏を黒ずむ染みの中へ、ずぶずぶと押し返していく。
おそらく実体ではないはずだが、そんな理屈はグランローゼに通じない。
髑髏にも呼び出された矜持があったのか、なんとか這い出ようと頑張っていたみたいだが、全てはささやかな抵抗だった。
ウソオオォォン……と、どこか驚愕の一声にも聞こえる慟哭を最後に、髑髏は闇に沈められた。
「そ、そんなのあり~!?」
「反撃にそなえて防御アーツの準備!」
一瞬でも気を抜けば詰められる。そして一発でもまともに攻撃を受けたら、まず助からない。
アリサがミリアムに叫ぶ傍ら、ラウラは剣を構えなおした。
「相当なものだ。――しかし!」
「ん、やるよ」
まだ視力も聴力も戻りきっていないはず。嗅覚だけで避け続けるのはさすがに限界もあるだろう。やはり攻めるなら今しかない。
フィーは双銃剣の銃口を、マルガリータの足元に向けてトリガーを引く。
連続で吐き出された銃弾は少しずつ狙いの範囲を狭めていき、その動きを封じていった。
「うっとおしいわねえ……!」
意識が銃弾に逸れた。
ラウラは間合いの外から、大剣で地面を思い切り斬りつける。
「砕け散るがいい!」
インパクトの瞬間、柄を締め込む。生み出された力が地中を伝った。
衝撃が噴出し、土くれを巻き上げながら斬撃が走る。剣閃の通る道に存在するものは、残らず破砕するだけの威力がその技にはあった。しかし、
「ふうんっ」
足を踏み鳴らす。波動が地中を縦貫し、衝突した二つの力がグラウンドを爆ぜさせた。
「くっ、だが!」
相殺されたが、相手もほんのわずかによろめいた。
間合いに入って切り込むか。間合いの外からもう一撃見舞うか。一秒にも満たない逡巡の中、「かがんで下さい!」と後方から叫ぶエマの声が聞こえた。
反射的にラウラは身を沈める。
直後、頭上を猛々しい水流が過ぎゆく。まるで獲物を捕らえる蛇のようにアーチを描いて、体勢を崩したマルガリータへと迫った。
「ちょうど喉が渇いていたの。でも少し飲みにくそうねえ」
手をぶんと振る。ただそれだけで弾かれ、引き裂かれた水の塊は霧散し、その姿を幾万の滴へと変えた。
降り注いだ小雨が荒れたグラウンドに染み渡っていく。
「なんという規格外だ……!」
驚嘆の一語に尽きる。何をどうすれば、ここまでの力を捻出できるのか。よく今まで各所から危険視されなかったものだ。
「ほんと危険だわ」
「うむ、危険だ」
「ん、危険だね」
「危険すぎるよー!」
「まさにデンジャラス肉玉ですね」
頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしたのだろうが、エマの放った一言がストレートに容赦なしである。おそらく言った本人にその自覚はないが。
「ムフフ、物も見えるようになってきたし、音も聞こえるようになってきたわあ」
目をこすり、耳を一撫でしたマルガリータはにたりと嗤う。
「それじゃあ……お返しよお」
半身が隠れる程に腕を引く。その瞳が怪しく光ると、地鳴りと共に大気が鳴動し始めた。
直感、経験、本能。それら全てが激しく警鐘を打ち鳴らす。
アリサは全員に叫んだ。
「全員こっちに固まって! ミリアム準備は!?」
「いつでもいけるよ! ラウラ、フィー、早く来てー!」
アリサの指示を受け、前衛の二人が急ぎ戻ってくる。それを待たず、マルガリータが剛腕を突き出した。
拳が空を切った。違う。拳が空を殴りつけた。
拳圧に押し出された巨大な空気のかたまりが、凶暴な壁と化して牙を剥く。常軌を逸した、通常の何万倍という質量を伴った“空気圧”。
まるでガレリア要塞がそのまま押し迫ってくるかのような圧迫感。蹂躙の範囲も桁違いに広い。
逃げる時間も、隙も、またその術もない。
暴威の空圧が彼女達を直撃した。
マルガリータが攻撃する。ラウラとフィーがその場に到達する。ミリアムのアーツが駆動する。
それらの全てはほとんど同時だった。
インパクトの寸前、身構えた全員の前に輝く盾が浮き立つ。盾は即座に黄金色のベールを展開し、堅牢な防護壁をそれぞれに纏わせた。
不可視の爆撃に、周囲の一切は灰塵と成り果てる。陸に去来した砂の大津波が、グラウンドの表面を削り取り、吹き荒ぶ暴風が大量の砂塵を舞い上がらせた。
「むっふううぅー」
マルガリータは息の一吐きで、自身の回りの砂埃を吹き散らす。
その時彼女は見た。未だ晴れる気配すらない、細かな粒砂が混じった土煙の中に、一瞬だけ銀色が煌めいたのを。
「……何かしらあ?」
突如、空に向かって土煙を突っ切り、何かが勢いよく飛び出した。噴射煙の尾を引き、陽光をその身に浴びて輝く白銀のボディ。
中空を疾駆したそれは、マルガリータの頭上高くに飛来すると、太陽を背に二つの影に分かたれた。
小さな影と大きな影。
大きな影がその形状を変化させ、小さな影と再び重なる。
空に生じた黒点が視界の中で徐々に大きくなり、自分に向かって落下しているのだと理解したマルガリータは、さらに目を凝らす。
マルガリータの指が強くゴキリと唸った。
銀の大槌を肩に担いだミリアムが、凄まじい速度で落ちてくる。
「マルガリータッ!」
上体を弓なりに逸らして背中まで振りかぶった、少女が扱うには余りにも大き過ぎるハンマーが、全力で振り下ろされた。
落下の速度も加えた比類なき剛の一撃。
「ミィリィアアムウウッ!」
怒りをむき出しにしたマルガリータは両の腕を交差させ、その身を押し潰さんとする力を一手に受け止める。
ズドンと激しい衝突音が響き、滞留する砂埃を残らず吹き飛ばした。
「あんたあ! いつもいつも私の愛の手料理をつまみ食いしてええ!」
「味見だよー!」
「このガキャアアア!」
ビキビキと悲鳴を上げながら地面が裂けていく。二人を中心にグラウンドがズズンと円形状に陥没し、小さなクレーターを作り上げた。
「ムッフウーン!」
「わわ!?」
マルガリータが腹に力を込めると、ハンマーは少しずつ押し返されていく。
落下の勢いもすでに失われている。これ以上の力比べはミリアムには不利だ。
――そう
ミリアムの手から離れた大槌は瞬時に形態を変えた。人型――とは呼べないまでも、圧倒的な存在感を持つ二対の腕を引き下げた、宙に浮かぶ異形の傀儡。
「ガーちゃん、あとお願いね!」
アガートラムはミリアムの声に応じ機械音で返答すると、彼女をぶんと放って退避させた。
状況は整った。
アリサが右手を高く掲げると、それを合図に全員がリンクを切り替える。
アリサはフィーと、エマはラウラと。アーツによる合計攻撃値がペアごとに概ね揃い、四人はタイミングを図って《ARCUS》を駆動させた。
「ここで仕留めるわ! フィー!」
「了解」
その場から遠ざけられたミリアムが地面に着地した時、マルガリータとアガートラムの周りに風が起きた。
始めはそよ風にも満たなかった小さな揺らぎが、周囲の大気を巻き込みながら、瞬く間に旋風と化していく。至る所に雷撃の筋をまとった巨大な竜巻がグラウンドから立ち昇った。
それで終わりではなかった。
「合わせましょう! ラウラさん!」
「ああ!」
さらに重ねてアーツが発動する。
竜巻の根底に熱が生まれた。仄かな火種は、酸素を取り込みながら肥大化し、爆発的な炎を生み出した。
竜巻と融合した業火は、長大な熱風の渦となり、その中心に閉じ込められたマルガリータとアガートラムを炙り焼く。
「みんな、導力が続く限りアーツを持続させて!」
一方、炎嵐の檻の中で、マルガリータとアガートラムは睨み合っていた。
マルガリータが剛腕を構えると、アガートラムも豪腕を持ち上げる。
相対する二つの巨躯が、じりじりと間合いを詰める。そして――
「グフォオッ!」
「§・∃ΓΛЁж」
猛獣の雄叫びと電子音が響き、互いの拳が激突した。
マルガリータとアガートラムが戦闘を開始して五分が経った。
高熱のフィールドの中で、打ち合いは未だ続いている。外ではオーブメントに導力補給のカプセルを絶え間なく装填しながら、必死にアーツを持続させていた。
こんな無茶な使用法はおそらく想定されていない。いつ《ARCUS》が損壊してもおかしくはなかった。さらには事前にありったけ用意しておいたEPチャージも底を尽きかけている。
「頼んだわよ……アガートラム」
祈るような口調で言い、アリサは炎の中に踊る二つの巨影を見据えた。
アガートラムは困惑していた。困惑という言葉が不適当なら、開示された情報を処理できないと置き換えるべきか。
先ほどから視界モニターに映る丸い物体に対し、スキャンによる解析を何度も試みている。しかし得られる情報は変わらなかった。
『人間』『女』。身体データはそれだけだ。しかも断定はせず、解析データに『may be』が付け加えられる。
その上、戦闘データに至っては『unknown』のオンパレードだ。
どうなっている。こんなことは一度もなかった。自律思考を有するアガートラムは、今までにインプットした経験から、もしくは統計的な観点から、様々な局面で自ら判断を下して主たるミリアムを守ってきた。
それが己の使命であると認識している。
「Γ∃ΘЁ……」
不可解なことはまだある。常人なら目を開けることも、呼吸をすることもできないこの状況。
なぜこの敵は目を見開き、大きく息を吸って、なお活動状態を維持できているのだ。眼球の水分は消失しないのか。気道から肺にかけて焼きつかないのか。
「ΣΠΛδШ……」
わからない。
自分のボディに目立つ外傷はないが、この熱で演算処理を司る内部機構が不調をきたしたのか、あるいは眼前の敵が自分の処理能力すら上回るスペックを備えているのか。
判断はやはりできない。ただ、その二択なら前者でなくてはならない。
時にアガートラムとは、その特徴が示す通り『銀の腕』を意味する神の名である。
あらゆる難敵を打ち倒し、降りかかる苦難を薙ぎ払ってきた銀腕は、地に付くことがあってはならないのだ。
「ゴッファアアア!」
計測値メーターを振り切って、敵が両こぶしを脇に構えた。
アガートラムは内部を伝達する余剰導力を一点に集中させた。
マルガリータが大地を蹴る。アガートラムが限界値まで出力を上げたスラスターを炊く。相対する距離は瞬く間に詰まり、互いが双腕を突き出した。
人を越えし巨躯と人ならざる巨躯が組み合い、グラウンドを激震させた。
「グムウウフォオオォオ!」
「ΠЁΘΠ!§Ё∃!」
マルガリータの足裏が地面にめり込んだ。そのまま押し潰さんと限界出力を超えたアガートラムの腕から、ビキリと圧壊の音が響く。外部装甲にいくつもの亀裂が走る。バラバラと甲殻が剥離していく。各駆動系がオーバーヒートを起こし、赤熱した間接部が火花を散らし始めた。
競り負ける。全ての状況が冷徹な結果をモニターに表示する。
そうか。わかった。ならばこうしよう。合理的に勝利への道筋を算出し、アガートラムは先ほど集中させておいた導力を解放した。
胴体部。顔にも見えるそのパーツの双眸に膨大なエネルギーが収束する。
「――Θ∃жκЖ」
――焼き払う。
一際強い光が瞬いた。
ビームが発射される寸前、組み合う両手を即座に離し、マルガリータはアガートラムの懐に肉薄した。
ミサイルの勢いで、彼女は自分の顔面をビーム発射口に叩きつける。巨大な鐘を打ち鳴らしたような残響がこだました。
アガートラムが大きくのけぞる。
マルガリータの顔が離れると、肉厚のキスマークが装甲をベゴリとへこましていた。まさに呪いの刻印。発射口は見事にひしゃげて潰れている。
直後、破裂音と共にアガートラムのボディーが跳ね上がった。行き場を無くした導力の塊が内部で爆発したのだ。体内を駆け巡る熱という熱が、動力系統や反応装置を焼き切り、外殻を融解させていく。
「∃Λ、Εδ……Σ―――」
全ての力を失ったアガートラムはモニターにブロックノイズを走らせたあと、ガクンとうなだれるように沈黙した。
業火の壁を突き抜けて、銀色の巨躯が宙を舞う。
破損したパーツをまき散らしながら不規則に回転するアガートラムは、重たい音を立てて地面に落下した。
「ガ、ガーちゃん!」
微動だにしないアガートラムにミリアムが駆け寄る。
「これ以上アーツを持続できないぞ!」
「私も同じく……」
「アリサさん!」
「くっ……」
アーツの威力が弱まってくる。マルガリータは咆哮を轟かせた。
放射状に拡がった音の爆弾が、内側から熱波を吹き散らす。
地面は焼け、熱せられた大気が揺らめいていた。波打つ視界の中に、やはり彼女は立っている。
「まさかアガートラムがやられるなんて……」
「アリサ!」
地に伏すアガートラムに目をやった時、ラウラの尖った声が耳をついた。
はっとしてアリサは正面に視線を戻す。
視界に映ったのは絶望の光景。
憤怒の表情を浮かべるマルガリータが雄叫びを上げ、粉塵を巻き上げながら一直線に突進してくる。
フィー、ラウラ、エマがアーツを駆動した。オーブメント内にほとんど導力は残っていなかったが、かろうじて下級アーツが発動する。
大気中の水分が凝結し、マルガリータを追随するようにいくつもの氷の刃が生成される。彼女を切り刻まんと、円を描きながら一斉に氷刃が襲い掛かった。
それらを一瞥したマルガリータは止まろうとも避けようとせずに、灼熱する蒸気を口と鼻、そして耳の五穴から噴出させた。
熱気が周囲に充満する。氷刃はその姿をコンマ一秒と保てず、瞬時に蒸発して水蒸気と化した。
「しまった……!」
視界が真っ白に覆われる。誰が狙われるかわからない。
しかし、走っていた方向を考えると――
「アリサさん! 逃げて!」
エマが答えを弾き出した時、すでに丸太のような太腕が白煙の被膜を突き破っていた。
アリサの腕が掴まれる。万力のような握力は逃げ出すという思考さえも起こさせない。
かすむ視界の切れ間に、アリサは見てしまった。マルガリータが拳を振り上げる瞬間を。一発食らえばそれで全てが終わってしまう。
打つ手はないのか。相手とて疲弊はしているはずだ。今までの攻防は決して無駄ではない。
あと一撃、たった一撃でいい。渾身の一撃を入れる方法はないのか。
思い至ったアリサの額に一筋の汗が流れた。
用意したカードは全て使い切っている。あとは身一つ。やるのか。やれるのか。それさえ悩む時間さえない。
覚悟を決めたアリサの《ARCUS》から光のラインが勢いよく伸びる。
最後のリンク相手の位置を感覚で探し当て、ただ一つ手元に残ったそれを白煙の中に投げ入れた。
同時、マルガリータの拳がアリサに炸裂した。
一秒が引き伸ばされた感覚の中、アリサの思考は飛ぶ。
目まぐるしく脳裏に展開されていく映像が、浮かんでは消え、過ぎ去ってはまたやってくる。
一番遠くに見えるのは母だった。
どうせ今日も仕事が忙しいのだろう。たまに会っても食事の一つさえ一緒に取れやしない。忙しいのは知っているが、ちゃんと栄養は取れているのかが気がかりだ。
少し画面が近づく。
今度は祖父だ。乗馬も弓術も彼に教えてもらった。プレゼントした帽子は大切にしてくれているだろうか。あの帽子はリィンと二人で選んだ、自分にとっても思い入れのあるものだ。
画面は流れるようにして近づいてくる。
今までたくさんの人と出会ってきた。複雑な家庭環境だったが、それでも人の出会いには恵まれていた方だと思う。
自分を羨む人も、妬む人も。自分に優しい人も、厳しい人も。
その中で自分が大切だと思える人たちが出来た。逆に自分を信じてくれる人も出来た。
友人が、仲間ができた。
心の映像は徐々に薄れていき、代わりに現実の視界を映し出す。
――そうだ、
自分の背を押し、力を貸してくれる人達の為にも
――絶対に、
「負けないんだからあっ!」
《ARCUS》の核を成すマスタークオーツが強い輝きを放った。
「な、なんなのおっ!?」
確かに直撃したはずの拳がまばゆい光に弾かれ、マルガリータはたたらを踏む。掴んでいた腕が緩み、アリサは捕縛から解放された。
今のは間違いなく致命傷の一撃。しかしそれこそが重要だったのだ。
翼の紋様を掲げたマスタークオーツ《エンゼル》が所有者の危険を感知し、守護の燐光を走らせていた。
「ムフォオッ!」
「これで!」
再びマルガリータが腕を振り上げる。アリサは瞬きさえすることなく動力弓を構えた。
狙いは防御ではない。マスタークオーツの発動と同時にもたらされる付随効果。
導力弓を中心に赤い光陣が浮き立ち、アリサは矢を添えて弦を引いた。
それは物質の矢ではない。矢の形に凝集された、炎熱のエネルギーそのもの。
幾重にも放たれた紅の矢が、流星の如き軌跡を描く。
「そんなあっー! グムオオオ!」
ゼロ距離から射られたにも関わらず、マルガリータは両手を突き出して、荒れ狂う炎弾を正面から受け止める。地面を削り滑って後退しながらも何とか踏み止まってみせた。
――今だ。
口には出さなくてもいい。思うだけで意志は伝わり、すでに駆動準備に入っていた最後のリンク相手――エマが魔導杖を思い切り振り上げた。先ほどアリサが投げ渡したEPチャージを装填して、導力は十分だ。
その全てを使い切るほどに強大なアーツが発動する。
マルガリータの遥か頭上後方。中空に陣が浮かび上がる。空間に亀裂が発生した。そこから現れたのは、見るもの全てを震撼させるほど巨大な手。
蠢いた巨人の五指が開くと、手の平の中央に瞳のような球体が顕わになる。
収縮される光。
膨れ上がったそれは直下のマルガリータへと照射された。光軸となった極大の力は、漂う塵芥を蹴散らしながら降り落ちる。
「っがああああ!」
マルガリータは体を開き、右腕でアリサの一撃を止めながら、さらに左腕でエマの一撃さえも受け止めた。擦過する衝撃がグラウンド側に面した校舎の窓を、一つ残らず砕け散らせる。
「これでも!」
「まだっ!!」
ありったけの力を注ぐエマとアリサ。受け止め続けるマルガリータ。
その足元に予期せぬ方向からビーム光が走った。
満身創痍のまま再起動を果たしたアガートラムが、潰れた発射口を溶解させながらも熱線を放ったのだ。地面が抉れ、マルガリータの足がぐらりと傾く。
ずれる両腕の位置。届いた二極の閃熱。
融合した莫大なエネルギーの奔流が、ついにマルガリータを呑み下した。
「ヴィンゼンドザマアア――ン!!」
グランローゼの断末魔が、轟音の中に掻き消えていく。
炎の残滓が舞い、マルガリータがくずおれる。
全ての力を使い果たし、アリサの両膝も地についた。
「はあ、はあっ……」
他のメンバーも同様に、不毛の荒野と化したグラウンドにへたり込んでいた。
「終わった……?」
いや、まだだ。マルガリータを下すことが最終目的ではない。クッキーの回収、もしくは破壊が最終目標だ。
アリサは気付いた。自分とマルガリータとの間に何かが落ちている。
バラのイラストが施された赤い包み紙。彼女が倒れた拍子に服のどこかから落ちたようだ。
この相次ぐ激闘の中にあっても傷一つ付いた様子がないが、あの包み紙は一体何で出来ているのか。
「くっ」
アリサは這うようにして近づき、何とか回収しようとする。だが、
「ム……フォ……」
マルガリータはまだ動く。巨体を腕だけで引きずってクッキーに向かった。
二人の手がそれに伸びる。
「そこまでと致しましょう」
その手を制するように、静かな声が通り抜けた。
上品な足音が近づいてくる。その場にあらわれたのはサリファだった。
彼女は洗練された動作で一礼すると言葉を続けた。
「皆様。目的は違えど、ヴィンセント様の為に死力を尽くすお姿に、サリファは強く感銘を受けました」
――なぜ。
「ですが、これ以上のご迷惑を皆様方にかけるとなっては、フロラルド家の名折れ」
これ以上ないご迷惑はすでにかかった後なのだが、それは置いておくとして。
――なぜだ。
「あとはこのサリファにお任せを」
――なぜここに彼女がいる。
絶対に見つからないはずの
「ーっ!」
この感覚は覚えがある。
シャロンが笑んで仕掛けてくるような、完璧にデザインされた悪戯。どこに転んでも必ず何かを踏むという、時折気まぐれの様に垣間見せる、たちの悪い使用人トラップ。
その種類は多岐にこそ渡れ、全てに一貫しているのは、その後に上手く自分が立ち回れる道を用意していることと、こちらが気付いた時すでに状況は詰んでいるということだ。
注視しなければわからない程かすかだが、今まさにサリファは笑んでいた。
「マルガリータ様」
「な、なによお? あ!」
しなやかな細腕が、ひょいと包み袋を持ち上げた。
「あなた様はこのようなものに頼らなくとも、十分魅力的でございます」
踵を返したサリファは、荒廃したグラウンドの一角にたたずむ倉庫へと向き直った。
「フロラルド家の次期当主たる者、受容の心と寛大な器が必要になるかと存じます。ゆえに――」
すたすたと倉庫に進むサリファ。よろめきながらもむくりと立ち上がるマルガリータ。アリサ達はもう立てない。
「此度の事は、よき経験となりましょう」
いつの間にか空には雨雲がかかっていた。上空で雷雲がゴロゴロとがなり立ち、落ちてきた雨粒が頬を伝った。
がちゃりと鍵が開く。
錆びついた倉庫の扉が軋みの音を立てた。
光源のない真っ暗な倉庫の中、ヴィンセントは息を潜めていた。
いかにあのマルガリータとはいえ、女子同士の戦いではあるし、最初はある程度説得で済むのではないかと考えてもいた。
しかし冗談かと思う程の爆裂音や衝撃が絶え間なく倉庫を揺さぶると、彼は愕然とし、ただ女神に祈ることしかできなくなった。
それが今、ずっと鳴り響いていた戦いの音が止んでいるではないか。
終わったのだろうか?
Ⅶ組が全滅するにせよ、マルガリータを殲滅するにせよ、この扉が開くときは自分の安全が確保された時だと聞いている。倉庫の鍵もサリファが手にし、他に渡ることはない。
しばらくの静寂の後、外側からがちゃりと鍵が回された。
「おお……」
助かった。自分は助かった。これぞ女神の天啓。
扉がゆっくりと開いていく。光が差し込み、祝福の調べを奏でるかと思ったが、あいにく外は曇っているらしい。ばたばたと倉庫の屋根を叩く雨音も大きくなってきていた。
「サリファ待ちかねたぞ」
ヴィンセントは顔を上げて入口を見た。
誰かが立っている。それは暗い闇の中にあって、さらに濃密な影を浮き立たせていた。
「……サリファ?」
戦慄が頭のてっぺんから足先までを穿つ。
陰影の境界が映し出すシルエットが、明らかにサリファのものではなかったからだ。
「……な、なぜだ……!?」
絶望の淵に立たされたヴィンセントは一つの言葉を頭に浮かべる。それは歌劇のような台詞回しを好む彼にしては、まったくひねりがなく、飾り気の欠片もない一言だった。
サリファはあんなに丸くない。
「ひっ、ひいいいい!」
雷光が瞬き、一瞬だけその人物が見える。
見たくはなかった。信じたくはなかった。妖艶な笑みを顔に貼り付け、熱い眼差しを一直線に注ぎ込んでくる、その物体を。
マルガリータが跳躍する。ヴィンセントが絶叫する。何物かが扉を閉める
深い闇が全てを包み込んだ。
時を同じくして、第一学生寮のとある一室。
豪奢なベッドの枕元に置かれた一つの花瓶。そこにある赤いバラと白いバラ。
突如として赤いバラ――グランローズが花開く。同時に傍らの白いバラは、養分を奪い尽くされたかのように、その花弁を全て散らしていた。
~FIN~
☆その後の委員長☆
カッチカッチと時計の音が響く。外では先ほどから降り出していた雨が豪雨の様相を見せていた。
「さあ、飲みたまえ」
「………」
用務員室、目の前に置かれた湯呑にエマは目を落とす。
「これは東方から取り寄せたものでね。趣味と思ってもらっていい」
「………」
無言のエマをガイラーは笑った。
「おや、お嬢さんには煎茶ではなく紅茶をお出しするべきだったかな」
「……いただきます」
湯呑を手にし、少しだけ口に含んでみる。渋く、苦い味だった。
顔をしかめかけて、何とか留まる。今自分はⅦ組の委員長として、彼に頭を下げに来ているのだ。
ガイラーも茶をすすり、満足そうに白い息を吐き出した。
「さて――」
立ち上がり、つかつかとエマの周りを歩き回る。
「ざっと挙げてみようか。……人型に窪んだ中庭の植え込み、二階廊下に散乱したおびただしい数の机の山、なぜか屋上のフェンスに突き刺さっているスチール扉、そして砕け散った窓ガラス。中々のものだが、それはまあいいとしよう。問題はあれだね」
彼は窓際からグラウンドを眺めた。
至る所が焦げ付き、抉れ、岩盤がめくれ上がり、あげくクレーターまでできている。
「隕石でも落ちたのかね?」
あくまでも穏やかに問うガイラーに、エマは「……申し訳ありません」とか細い声を絞り出した。
「構わんさ。以前にも言っただろう。私はこの学院の用務員なんだからね」
時計の音が妙に大きく聞こえる。違った。これは自分の心臓の鼓動だ。
「だが、これだけの大仕事。私も君に何かお願いしなければ釣り合いが取れないかな?」
エマはうつむき、無言で両手を差し出した。
「君は聡明だ。実にいい」
その手に大き目の封筒が乗せられる。封筒の表には達筆な墨文字で『素直になれないボーイ・ミーツ・ボーイ』と表記されていた。
エマの腕が細かく震え、手汗がじっとりと封筒に染みを作る。
「さて、さっそく行くとしよう。君はゆっくりしていってくれたまえ」
扉を開き、廊下へ出る寸前。ガイラーは足を止め、エマにゆったりと振り返った。
「それでは講評と感想、楽しみにしているよ」
一際大きな雷鳴が轟き、続く雷光がガイラーの顔に深い影を刻み付けた。
一人用務員室に残されたエマ。
彼女は眼前の煎茶を一息に飲み下すと、あまりの苦渋の味に視界を滲ませたのだった。
☆後日談☆
「しっかり走らんか!」
ガイラーによって見事に修復されたグラウンドに、ナイトハルトの怒声が飛ぶ。
「聞けばお前達、たった一人の女子に全員で戦いを挑んで、まとめて気絶させられたそうだな!?」
やや語弊はあるが、悲しいことに概ねその通りだった。
男子チームの面々は、さんざんナイトハルトの説教を受けたあと、グラウンド二十週の刑に処されている。
――第一班。
「はあっはあ」
「がんばれエリオット、もう少しだ」
「僕最近気絶ばっかりしてる気がする……」
「気に病むことはない。今回は俺も気絶した」
――第二班。
「なぜこんなことに!」
「お前が考えもなくマルマリータに突っ込むからだ」
「君だって瞬殺されたって聞いたぞ。あとやっぱり名前が違う気が……」
「ふん、言っていろ」
――第三班。
「やっぱり素手はまずかったか」
「いやー武器があってもありゃ無理だろ。それよかリィン、芸術的な吹っ飛ばされ方だったぜ」
「クロウだって三回転半捻りしてたぞ」
「おいおい、そりゃお前さんだ。俺はせいぜい二回転よ」
ナイトハルトが鋭い声を張り上げた。
「無駄口を叩くな! それとシュバルツァー、お前はあと十週追加だ」
「な、なんで俺だけなんですか!?」
「お前は戦術の要である《ARCUS》を奪われたそうだな。壊されなかったからいいものの、これでも軽すぎるペナルティだ」
ぐうの音もでない正論だ。並走するクロウがにやにや笑いかけてきた。
「ご愁傷様。取られたのが俺のじゃなくてよかったぜ」
「教官! クロウが自分の《ARCUS》が奪われる可能性もあったと言っています!」
ナイトハルトの目が険しく光る。
「その通りだな。よってお前も十週追加だ!」
「リィン! てめえ!」
各所で小競り合いをしながら、男子達はひた走る。
「もうあの人に近づきたくないよ」
「同感だ」
「もっと作戦段階から練り上げた方がよかったんだろうな」
「ふん、終わってからなら何とでも言えるだろう」
「八葉の無手が通じないなんて……」
「あんの肉玉、覚えてやがれ」
しかし、マルガリータにリベンジしてやるなどといった言葉は、男子チームの誰一人として、最後まで口に出すことがなかったという。
~END~
後編もお付き合い頂きありがとうございます。奮闘というか死闘になりました。
ちなみに本編に合わせる形を取り、アーツ名を叫んだりはしませんでしたが、何のアーツを使用していたか伝われば嬉しい限りです。(ファントムフォビアちゃんに合掌!)
そういえば話の中でエマがデンジャラス肉玉と言っていましたが、あの料理にはずいぶん助けられました。特に空SC。
立ちはだかる執行者の皆さんも、ラストの敵も、みんな一直線に焼き払ってくれました。とどめの一撃も肉玉だったと記憶しています(塩の杭はおまけです。教会の人にはそれがわからんのです)
唯一仕留めきれなかったのは、どっかの手配魔獣で、地震連発してくるミミズみたいなやつ。初見殺しか。
次もお楽しみにして頂ければ幸いです。