虹の軌跡   作:テッチー

45 / 59
ちびっこトラップ(後編)

「おお、久方ぶりの太陽よ。存分に僕を照らすがいい」

 正門から少し離れた木の下。ヴィンセント・フロラルドは自分を捕らえていた檻からの脱出に成功していた。顔、制服はもちろん、靴に至るまで墨で真っ黒である。

 ヴィンセントはすぐ横で檻に捕らえられたままの妹に視線を移した。

「あら、お兄様は抜け出せましたのね。こちらも助けて頂けますか?」

 檻の中から見返してくるフェリスは、やはり真っ黒だった。

「この兄に任せておくがいい。女神に愛された麗しき彫像のごとき肉体をもって、その忌まわしき鉄の鳥かごを完膚なきまでに――」

「早くして下さいませ」

 長口上が一言で制される

「そう急くでない、フェリスよ」

 やれやれとヴィンセントが彼女の檻に手をかけようとした時、遠くで光が(またた)いた。

「ん? 今なにか――」

 それが彼の最後の言葉となった。

 一直線に伸びてきた荒れ狂う閃光。その暴力的な光に兄が呑み下される光景を、鉄柵越しにフェリスは直視した。

 ジュッと肉が焦げる音と同時に、白く染まる視界の中で黒い人影が型崩れていく。

 悲鳴さえ聞こえなかった。

 

 

 

 アガートラムが放ったレーザーを横っ飛びにかわしたラウラは、着地と同時にアーツを駆動させた。決して得意ではない導力魔法だが、剣が無い以上はこれに頼らざるを得ない。

 青い光陣が浮き立ち、大気中の水分が氷結されていく。精製された氷刃が、円を描く軌道でアガートラムに追い迫った。

 しかしそれは銀腕の一振りで破砕された。普段使い馴れないアーツである。氷の密度も甘く、刃自体も脆いものだった。

「くっ、やはり私では。すまないが補助と回復に専念する!」

 手早く戦術オーブメントのクオーツを入れ替えるラウラの傍らでは、エリオットとエマがリンクをつないでいた。

「ここは僕たちに」

「任せて下さい!」

 エリオットが水流を放ち、そこに間髪入れずエマが電撃を走らせる。雷と一体化した水塊が勢いよく飛んだ。

「∃ΓШΔЖ」

 豪腕を振り回し、アガートラムが二人の放ったアーツを弾く。氷でさえ砕かれるのだ。水など一秒と形を保つことができず、あっけなく辺りに飛び散った。

 だが電気はそうはいかない。体表に付着した水を伝い、装甲越しで内部機構にダメージを与える。

「エリオットさん!」

「うん!」

 さらに追撃。弾かれて地面に落ちた水滴が一か所に集まるや、瞬時に氷結する。生成された氷の槍が、再びアガートラム目掛けて突き上がった。

 駆動時間のあるアーツとは思えないスピーディーな連携。一発目のアクアブリードで発生した水分を、二発目のフロストエッジに転用したのだ。気体を液体に凝固し、そこから氷結させるよりも遥かに派生が早い。

 その上、先に与えている電流のおかげで、アガートラムの関節部の動きが悪くなっている。全ては計算の上での攻撃だ。

 突然アガートラムの姿が消えた。空を切った氷槍が、背後の校舎壁に突き刺さる。

「透明になるだけなら当たると思ったのに……」

「どうやら異相空間に転移しているようですね」

 普段から透明の状態でミリアムに追随しているわけではないらしい。仕組みは分からないが意志に応じる呼び出し――召喚に近いことをやっているようだ。

 エマは確かに、と納得する。そうでなければミリアムが教室の扉をくぐる度に、アガートラムのサイズに合わない戸口は破壊されてしまう。

 これが幻のトラップ。こちらの攻撃が極端に当たりにくく、そしてどこから相手の攻撃が来るかわからない。

 マキアスの背後で景色が揺らめいた。

「後ろです、マキアスさん!」

 エマの警告と同時にアガートラムが現れる。「んなぁっ!?」と飛び退こうとするマキアスの服に、釣り針が引っかけられた。繋がった釣り糸にぐんとひっぱられ、たたらを踏んだ彼に豪腕が炸裂した。

「どわああ!」

 防御はしたものの、重い衝撃が腕を抜けて腹まで響く。ど派手に吹き飛んで、茂みの中に顔から突入する羽目になった。

「眼鏡が無くてよかったな」

「先に僕の身を案じろ!」

 嘆息を吐くユーシスに、マキアスは枝葉を頭にくっつけながら言い返した。

 無感情にリールの糸を巻き戻すケネスに、リィンは叫んだ。

「もうやめろ! こんなことをして何になるんだ」

 ケネスの手は震えていた。

「だって、そうしないとひどい事をされてしまうじゃないか」

「大丈夫だ。先に俺たちがフィーとミリアムを捕まえる。そんなことはさせないから、協力してくれ」

「ひどい目に……合わない?」

「ああ、そうだ。絶対に大丈夫だ」

「そんなのダメだ!」

「ケネス……!?」

 考えるよりも早く口に出たらしい言葉に、ケネス自身も困惑しているようだった。

「な、なにがダメなんだ? あの二人が捕まるなら、ケネスにとってもいいはずだろう?」

「わかってる……わかってるよ。そうなればもうひどいことされずに、静かに大好きな釣りができるんだよね。だけどさあっ!」

 ケネスは身をよじると、頭を激しくかきむしった。

「いじめられなくて安心なはずなのにっ、僕おかしいよ!」

「落ち着け! どうした!?」

「聞こえるんだ、悪魔の予言……! 頭の中で何度も繰り返してくるんだ。〝君は近い内に目覚めの時を迎える”って……!」

 彼は見えない何かに縛られていた。ちびっこ二人でも、アガートラムでもない、もっと泥沼のような何かに。

「違う違う! 僕はそんなの望んでないっ! うっ、うわああああ!」

 絶叫と共に振り回される釣竿。ろくに目標も見ないで飛ばした釣り針は、アリサのスカートの裾に引っかかった。

「ぬうおあああ!」

 呪いを振り払うかのように、ケネスは半狂乱でリールを巻き始める。連動して持ち上がっていくアリサのスカート。

「え、ちょ……やだ! 早くこれ外してリィン! でもこっち見ないで!」

「ど、ど、どうすればいいんだ!?」

 おろおろするリィン。わたわたするアリサ。その後ろにアガートラムが現れる。

「リィン、アリサ! 避けろ!」

 いち早くガイウスが気付くが遅かった。

 二人が後ろを振り向いた時には、視界いっぱいに銀の拳が迫っていた。

 

 

 アガートラムの一撃からアリサを庇ったものの、とても踏ん張って留まれるような態勢ではなかった。リィンとアリサはマキアス同様に吹き飛ばされ、地面を何度も転がっていく。

「っ……」

 立ち上がろうとしたリィンだったが、足が思うように動かず、アリサの上に倒れ込んでしまった。

「きゃ! 何なのよ」

「いや、すまない。足に違和感が……?」

 視線を足元に移すと、見えたのは釣り糸だった。いや足だけではなく、体中が糸まみれである。転がる内に全身に絡まったのだろう。かなり動きが制限されている。なんとか抜け出そうともがくが、余計にややこしく絡まる結果に終わった。

 それでもアガートラムの追撃が来る前にと、四苦八苦しながら脱出を試みるが、

「どこ触ってるのよ!」

「不可抗力なんだ!」

 お決まりのそれが発動し、予定調和のくんずほぐれつへと発展する。

「ええい、そなたら! 何をやっておるのだ」

 二人に走り寄ってきたラウラは糸を解きにかかるが、かなり複雑になっていてすぐには取れそうになかった。

「ちょっとリィン! う、動かないで!」

「そうは言っても、ここの腕を動かさないと糸が抜けなくて」

「や、やめて、もう……」

 眼前で展開されていく不健全な光景。ラウラのこめかみに薄い青筋が浮き立った。

「やはり剣を持って来る。この釣り糸と、そなたらの手を固めている接着剤を切り離そう」

 その目は本気だった。

「お、落ち着いて、ラウラ。すぐ抜け出すから」

「安心するがいい。リィンの方を多めに切るつもりだ」

「あ、それなら」

「ダメだからな!」

 やりかねないラウラと応じかけたアリサに一抹の恐怖を感じながら、リィンはケネスに目をやった。こっちに絡まった釣り糸はすでに切っていて、新しいものに手早く交換している最中だ。

 まだやる気というか、退く気はやはり無いらしい。そのそばでアガートラムは待機している。

 出たり消えたり殴ったりで、厄介この上ないアガートラム。あいつをどうにかしなければ、この先へは進めない。一体どうすれば。

 リィンはふと銀のカードの一文を思い出した。

 

“――霞のごとくかき消え、朧のごとく薄れるは白銀の揺らめき。守人を穿ちて汝らの資格を示せ――”

 

 白銀云々で文前半がアガートラムを示しているは確かだろう。では後半は何だ。守人とは何を指す言葉だ。それもアガートラムと受け取ることはできるが、どこか引っ掛かりがあった。

 戦闘開始直前、ケネスはこう言っていた。“僕が幻のトラップなんだから”と。

 守人とはアガートラムでも、このタッグでもなく、ケネス個人を指し示す言葉ではないのか?

「みんな、集まってくれ」

 どうにか糸を抜け出したリィンは、自分の見解を全員に告げた。

「確かにそうかもしれません」

 エマが納得したようにうなずく。

「始めに気付くべきでした。そもそも私たちが本当にアガートラムを撃破した場合、ミリアムちゃんが困りますからね。あくまでも“本命”からの目くらましと、『幻』の特性に合わせたトラップとして都合がよかったからでしょう。ちょうど銀色ですし」

 そうだとするなら、無理にアガートラムを倒す必要はない。

 エマの視線が、“本命”ことケネス一人に向けられる。

「な、なんだい」

「今日の流れからすると、ケネスさんは今手にしている銀色のカードの他に、もう一枚別のカードを隠し持ってるんじゃないですか? 次の場所を示した空か時、つまり金色か黒色、どちらかのカードを。そうですね……例えばそのハンチング帽の中とかに」

 丸眼鏡が光った。

 ぎくりと肩を強張らして、たじろぐケネス。

「だ、だったら何だって言うんだ。どの道この大きな戦術殻を倒さないと僕には届かないんだから」

「いいえ」

 エマの《ARCUS》が光を放ち、アガートラム直下の地面に濃紺の染みが拡がっていく。揺らめく影が立ち上ると、アガートラムの動作が極端に鈍くなっていった。

「アガートラムの時間の感覚を遅くしています。人間とは効果が違うので、正確に言えば導力伝達速度でしょうか。反応も鈍くなっている今なら、即時であなたのサポートには入れません」

 この状態でアガートラムに攻撃することもできるが――各々はケネスを見据えた。

「は、はは。落ち着こうよ。そうだ、一緒に釣りでもやらないかな。手ほどきするよ?」

 問答など、すでに意味をなさない。

 堰を切ったように、ケネス目掛けて全員が走り出す。動きの遅くなったアガートラムの脇を抜け、必死の形相で逃げるケネスを、雪崩のような勢いで追いかけた。情け容赦なしのバースト攻撃である。

 走りながらケネスはポケットから取り出した大量のビー玉を散乱させた。逃走補助用にフィーたちから渡されたもののようだ。

 ジャラジャラと小うるさい音を立てて転がるビー玉。Ⅶ組勢はそれを踏みつけて、ことごとく横転していく。

「はは、やった。これで――」

 再び逃走の足を出しかけた時、大気を焦がすような猛烈な殺気が身を穿ち、ケネスはその動きを止めた。

「……リィン、もう構わんな?」

 ゆらりと体を起こすユーシスに、「ああ、仕方ない」とリィンが静かに告げる。

 その他の面々も無言で、緩慢に立ち上がっていく。

『《ARCUS》駆動』

 その場の八人、全員の声がそろった。

 眩い輝きを散らし、光の陣が拡がっていく。膨大な導力の伝搬が波動となって、空気をビリビリと震わせた。

「や、やめようよ。話せばわかるよ。そうだろう?」

 聞く耳はすでに持たず、発動。

 炎やら氷やら竜巻やら雷やらが一斉にケネスを埋め尽くし、周囲はあっという間に灰塵と帰す。多種多様の暴威が吹き荒び、もう誰が何のアーツを放ったのかもわからない。

 その災禍の中心であらゆる力の奔流にさらされ、すでに意識のないケネスは、されるがままに死のステップを踏む。その様はまるで、糸の切れた操り人形がワルツを踊っているかのようだった。

 

 

 

 顛末を見届けたアガートラムはその姿を消し、ケネスの屍は焼け焦げた地面の上に転がっている。

 リィンが煤けたハンチング帽を拾い上げると、中から金色のクリアカードが落ちてきた。

「よし、あとはさっきの銀色のカードを合わせれば」

 手元には計六枚。あと一枚だ。

「もう少しね。それで金色のカードにはなんて書いてあるの?」

 アリサがリィンの手元をのぞき込む。

 

“――黄金の咆哮は蒼天を満たし、獅子のまどろみを払うもの。

 眠る供物は女神の御許へ誘われん――”

 

「相変わらず意味が分からないな。委員長とマキアスはどうだ?」

 リィンが問うも、二人は首をひねらす。

「そうですね……」

「うーむ」

 その時、一限開始の予鈴が鳴る。

 この状態では、どの教室も授業どころではない。ここまでの事態になった以上、教職員の何人かも罠にかかっているはずだ。仮にも士官学院。カリキュラムに支障を来たす程のことをやらかして、反省文だけで済むとは思えない。二人には厳罰が待ち構えているだろう。ユーシス始め他数名は、厳罰では生ぬるい、極刑に処すべきだなどと物騒なことを口走っているが。二人の処遇はともかくとして。

『あ』

 予鈴のベルの音が止まると同時、学年首位コンビが顔を見合わせた。

 

 

 

 青い空の中に、白い雲が流れゆく。

 一同は屋上に立ち、晴天に向かって真っ直ぐにそびえ立つ鐘楼塔を見上げた。

 全員が肩で息をしながら、うなだれる。

 階段や手すりにやたらと滑る液体が塗られていたり、それでも屋上に続く階段を登ろうとしたら、大玉ころがしに使うような巨大な玉が転がってきたりと、ここに来るだけでも一苦労だった。

「委員長、マキアス。ここで間違いないんだな?」

 リィンが確認すると、二人はうなずいた。

「黄金の咆哮というのは、あの鐘楼のことだと思う。色も金色だしな。蒼天に満ちるというのも、空に響き渡るという言い回しを変えたものだろう」

「獅子のまどろみは、授業中寝ている生徒――フィーちゃんとミリアムちゃんのことでしょうか」

 一つの疑念が確信へと近づく。このカードを用意したのが、やはりフィーたち以外の誰かということだ。

 文章形態があの二人らしからぬことを除いても、それでもフィーたちがこれを書いたとしたら、自分たちの居眠りを指して“獅子のまどろみ”などとは表現しないだろう。二人を知る誰かで、なおかつ、やや皮肉めいたユーモアを混ぜることのできる人物だ。

 だが今やるべきことは、その人物を特定することではなかった。気にはなるが、それはフィーたちを捕縛して口を割らせれば済む話なのだから。

「女神の御許という一語もありますし、学院内で一番空に近い場所と言えばここですね」

 改めてエマは鐘楼塔を見た。

 何かがあるとは思うが、問題はそこに誰が登るかだった。

 ユーシスがマキアスの背を叩く。

「よし、出番だ。行ってこい」

「な、なんで僕なんだ!」

「女子には行かせられんし、かと言ってリィンに頼むとアリサも連れて行くことになるからな。残った男子で選別するなら副委員長殿のお前が適任だろう」

「待て、君はどうなんだ?」

「俺は今、頭が痛いのだ」

「僕だって鼻が痛いんだ」

 しばし言い合うも、結局はマキアスが先陣を切る形で落ち着いた。

 不平を漏らしながらも、彼は垂直の壁に設置されている埋め込み式のはしごを慎重に登っていく。

 かなり高い。景色を見る余裕はなく、また眼鏡がないから見ることもできない。無用に恐怖心が煽られないので、考えようによっては良かったかもしれないと、密かにマキアスは思った。

 はしごを登り切り、鐘楼台の中へとたどり着く。近くで見るのは初めてだが、かなり大きな鐘だった。

 マキアスは生唾を飲み下して、辺りを警戒する。あのカードがこの場所を示しているのなら、あるはずなのだ。“空”の罠が。

「……なにも起こらないな」

 警戒は解かないまま、まずは鐘を調べてみた。外側。何もない。次に内側。――あった。

 釣鐘の中にぶら下がる、舌と呼ばれる金属。これが鐘の内側にぶつかることで音を発するのだが、その舌に黒いクリアカードが張り付けられていた。

 ゆっくりとカードを外してみる。多分また文章が書かれているのだろう。

 それを確認しようとした矢先、マキアスは隅に布切れを被った何かが置いてあることに気付いた。

「これが……罠か?」

 それにしてはおかしい。わざとらしく置いてあるが、このままこっちが気付かなければ、このトラップは無効になるところだったのだ。大詰めの局面で、そんな危うい仕掛けを施すだろうか。

 少し考えたが、マキアスは中身を見てみることにした。風で飛ばないように押さえている重しをどかし、意を決して布をめくる。

「これは……!」

 すぐに鐘楼塔から顔を出して、マキアスは眼下の仲間たちに叫んだ。

「誰か手を貸してくれ。取られたものを見つけたぞ!」

 

 

 一同の輪の中心には、鐘楼塔から降ろされたばかりの白い麻袋があった。複数の物品が入っているらしく、外側から触った感じでは、本や冊子のような物もあるとわかった。アリサの日記やエマの(ガイラーの)小説などがこれに該当する。

 この袋の中に各々の私物が入っているのだ。

 しかし、手放しで中身を開けることは出来ない。それは麻袋に付随している正体不明の機械が原因だった。

 脇に抱えられる程度の大きさ。長方形型をしていて、上部にはモニターらしき物が取り付けられている。しかもそれは紐やテープ、接着剤で頑強に麻袋と接続されていて、とても引き剥がせるような代物ではなかった。

「これ、何だと思う?」

 エリオットが問うも、誰も答えは返せない。ただ嫌な予感のする物。それだけが共通の認識だ。

「なんとかして袋を開けられないんですか?」

 困った顔でエマは麻袋と謎の機械を交互に見やる。おもむろに袋を触っていたラウラは、首を横に振った。

「難しいな。袋に針金が編み込まれている。刃物があったとしても骨が折れる作業だ。かと言って正攻法で取り出すわけにもいくまい」

 ここまで厳重にされているのだ。麻袋の上部口を縛る紐を迂闊に解けば、何が起こるかわかったものではない。

 やはり鍵はこの機械だ。

「カードには本当に何も書かれていないのか?」

 ラウラに言われて、マキアスはカードを太陽にかざしてみる。

「黒いカードだから見えにくいだけかとも思ったが、無地みたいだ」

「となると、誰かがやらねばならんか」

 全員の視線が機械に集中する。

 簡素な見た目の本体には、七つのスロットがあった。ご丁寧に、赤、青、茶、緑、銀、金、黒の色付きで。

 挿入口もカードの幅と一致する。今までに得たカードをここにセットしろということだろう。

 手をこまねいていても事態は膠着するだけ。ラウラが言ったように、やるしかなかった。

 カードをまとめて預かっていたのはエマだ。彼女は息を呑んで、一枚ずつカードをスロットに差し込んでいく。

「あと一枚……皆さんいいですか?」

 異論は出なかった。カチリと最後の一枚がはまる。

 グォンと機械が唸り声をあげて駆動した。モニターにノイズが走り、文章が一文字ずつ現れていく。

 

 “――漆黒は無か全を示す。その手に全てを取り戻すか、失うか。

   選ぶべき未来は葛藤の下にあり――”

 

 モニターの文章が消え、代わりに『300』という数字が表示された。

 自動で本体上部の一部がスライドして開き、中にあった三本のコードがせり上がってくる。

 続いて側面部も同様に開いて、そこから一つのニッパーが転がり出てきた。

「これは……まさか」

 たらりと汗を流すエマは、ニッパーを拾い上げ、モニターの数字を見た。

 ピッ、ピッ、と音を立てて、数字が一秒ずつ減っていく。

 こんなトラップは物語の中だけだと思っていたが、実際に存在した――というか作ってしまうとは。

「時限爆弾……!」

 これが時のトラップ。三本のコードのいずれかを切り、このカウントダウンを止めなくてはいけないのだ。切るコードが正しければ、爆発は起きず全が戻って来るが、誤れば爆発して私物は無となる。

 そして、度々出てきた“供物”という一語。捧げる相手がいなければ供物という表現はおかしい。捧げる相手――普通に考えるなら《空の女神》だ。学院内においてエイドスにもっとも近いこの場所で、自分達の私物を爆破し供物とする。それがこの一連のトラップ騒動の終局だ。

 リィンが訊いた。

「委員長、この爆弾は本物だと思うか? あくまでも脅かしの可能性は?」

「……おそらく本物かと。ここまで大掛かりに仕掛けていますし、ここで妥協することはないと思います」

「となれば、そのコードを切るしかないんだな。……三択か」

「問題はどれが正解のコードかと、誰がコードを切るかですね」

 残る秒数は200秒余り。危険な役回りを誰が務めるか。

「よし。俺が切ろう」

「ま、待って下さい」

 リィンが危険な役を買って出て、間髪入れずにエマが止める。

 エマはリィンの顔をじっと見つめた。

 この人は多分外れを引く。もう宿命にさえ感じる。爆炎に巻かれて空に打ち上がる彼の姿が容易に想像できるのだ。今回に限ってはアリサも道連れに。

「どうした委員長。俺の顔に何かついているか」

「今リィンさんを対象に占いをやったら、確実に死神を引く自信があります……」

 エマは思案する。自分を含めた上で客観的に判断して、誰が適任なのかを。

 マキアスは……ダメだ。彼も外れを引き当てそうだ。ユーシスも……ダメだ。リィンたち不幸組に隠れているが、実は彼もそこまで運のいい方ではない。アリサは行けそうだが、今は不遇の体現者と繋がっている。自分はどうだ。……ガイラーと遭遇している時点で運など木っ端微塵に爆散している。

 考え抜いた末に、彼女は結論を出した。

 運を呼べそうで、かつ万が一失敗したとしても、全員が納得しそうな人物。

「……お願いできますか」

 エマはニッパーをガイウスに手渡した。

 

 

 刻々とカウントは減っていく。あと120秒。その二分の間に俺は答えを出さなければならない。

 ニッパーを持つ手がじとりと汗で湿り、ガイウスは頭をフル稼働させた。

「むう……」

 しかしわからない。ヒントはないのか。コードの色は三色、赤、白、緑。これは先のトラップにもあったと聞く学院服の色だ。ならば自分たちに関連するのは赤色か? いや、その赤を切るというのは不吉な気がする。では白か? 貴族組との体育勝負が迫ってきているから、発破をかける意味で? それも違う気がする。だったら緑は――ダメだ。堂々巡りで答えが見えない。

「落ち着くんだ、ガイウス。その中に正解はある」

「リィン……だが俺は」

「大丈夫だ。俺達はガイウスを信じている」

 リィンだけではない。皆が自分を信じ、背中を押してくれる。

 そこに混じって、少し変な応援が聞こえてきた。

「今こそ、風の導きを使う時だぞ」

「ああ、存分に風を感じるがいい」 

 マキアスとユーシスだった。そこにラウラが続く。

「それで風は何色が正解だと言っているのだ?」

 なんだか風の導きを勘違いされている。

 あと60秒。

 ガイウスはニッパーを構え、白のコードに押し当てる。「そ、それでいいの?」とアリサが声をあげ、後ろで身構えたのがわかった。 

「くっ」

 やはり離し、今度は赤のコードへ。するとエリオットが「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、「し、信じてるからね」と続く声を震わせる。

「うっ」

 最後に緑色のコードへとニッパーを動かす。「き、君がそれでいいなら、僕はもちろん構わない」とマキアスがごくりと喉を鳴らした。

 それぞれで怪しんでいるコードが違うらしく、その後もニッパーを移動させる度に各々の緊張の増減が伝わってくる。

 あと15秒。

 己の決断一つで、全員の大事な物が消えてしまうのだ。皆はどんな結果になっても恨まないと言ってくれるが、俺はそういうわけにはいかない。悔やむに決まっている。三分の一の偶然に賭けてしまっていいのか。爆発したら全員が巻き込まれるのに。

「………」

 あと10秒。ガイウスは立ち上がると、麻袋を脇に抱えた。すでにニッパーはその手から離れ、地面に転がっている。

「すまない。やはり俺には選べない。だが、そのせいで皆を危険に巻き込むこともできない。どうか許して欲しい」

「なにを言って――」

 歩み寄ろうとして、リィンはその足を止めた。

 ガイウスの周りに、風が集まってきている。瞬く間にそよ風は旋風と化した。

「皆に風と女神の加護があらんことを」

「まさか。やめるんだ……やめろおっ!!」

 リィンの差し出した手は、届かなかった。

「カラミティホアァァーック!!」

 その腕に爆弾付き麻袋を携えて、仲間の叫びを置き去りにして、ガイウスは直上に舞い飛んだ。

 自分の名を呼ぶ仲間の声が、あっという間に遠ざかっていく。

 一息で鐘楼塔の三角屋根まで到達すると、傾斜の縁に足をかけて、そこからさらに全ての力を結集させたカラミティホークを放つ。

 風をまとった大鷹が、空に向かって一直線の軌跡を描いた。

 地上は遥か下。高度は十分。明滅するカウントダウンは、あと3秒。

 急いで抱えたからか、麻袋が上下逆さまになっていた。機械の裏側に小さなスイッチがあることに気付く。そこにはこう表示されていた。

 

 『ON/OFF』

 

「な、なに……?」

 “――選ぶべき未来は葛藤の下にあり”

 そのあまりにも安直な意味を理解したのと、カウントが0になったのは同時だった。

 花火式の火薬が炸裂し、晴天に爆発の轟音が何度も何度も響き渡る。

 牡丹、菊、大柳。色鮮やかな閃光が咲き乱れる中、ガイウスは仲間の私物と共に虚空に散った。

 

 ●

 

 エマは一つの仮説を打ち立てた。

 マキアスが特に仕掛けられていなかったという“空”の罠。果たしてそれは本当になかったのか。

 空が司るのは、文字通りの空ではなくて“空間”という意味である。

 たとえば。

 この惨状を目の当たりにして疑心暗鬼に陥り、そこに仕掛けがなかったとしても焦燥にかられて、トラップとは無関係な被害をこうむった人もいたかもしれない。いや、少なからず二次被害はあっただろう。

 混乱が混乱を呼び、惨禍が他ならぬ自分たちの手で拡がっていく。

 通常ではありえない混沌の“空間”。それらを生み出し、半自動的に拡大していくこの仕組み。

 そう、つまり。

 足を踏み入れた者を否応なく巻き込む、このトールズ士官学院という特異な空間そのものが、一つの巨大な空のトラップと言えるのではないか。

 ここまでの関連付けを、あの二人だけで考えたとは到底思えない。

 計画、立案、実行はフィーたちだろう。しかしそこに協力し、運用のクオリティを引き上げた黒幕が必ずいる。

 もう各々の私物は戻らない。が、やるべきことは残っている。

 あの二人を捕まえ、フィクサーを暴き、いまだ猛威を振るい続ける空のトラップ――この学院をあるべき形に戻すことだ。

 息を吹き返したクロウも合流し、髪がチリチリのアフロになったガイウスも回収し、Ⅶ組は学院を進軍した。

 美術室。開けるなり絵の具入りバケツ水を頭からかけられた。

 調理室。開けるなり四方八方からトマトが飛んできて、ドロドロの果汁まみれになった。

 音楽室。開けるなりドアが勝手に閉まってきて、思いきり顔面を直撃した。

 半ば特攻隊となりながら、ついに彼らはそこにたどり着く。

 フィーたちの潜伏先、その最有力候補。学院内でもっとも罠を仕掛けづらく、また彼女たちも必要とする場所。さらにこの場所に近づくにつれ、接着剤を多用した足止め用トラップがやたらと目についた。まるで学院生がここに逃げ込みたくても、容易にはたどり着けなくしてあるかのように。

「……失礼します」

 散々な有様のまま、リィンたちは保健室のドアを開いた。

 

 保健室内にベアトリクスはいなかった。なぜか机の上にはライフルが置かれている。

 その異様はスルーして、一同はつかつかとベッドスペースに向かった。

 一角を覆うカーテンをスライドさせると、一つのベッドで仲良さげに毛布にくるまる二匹の子猫――フィーとミリアムがスースーと寝息を立てている姿があった。

 夜中通して罠を仕掛け回ったのだろう。二人の普段の睡眠時間を考えると、相当疲れたに違いない。

 幸せそうに眠りにつく子猫たち。心安らぐ光景である。

 リィンたちは互いに顔を見合わせると、微笑み、こくりとうなずいた。

 無言でアリサとラウラが歩み寄り、優しげな手つきで毛布の端に手をかけると、一転してそれを一息で引き剥がす。

「……ん」

「ふぁあ、なにー……?」

 寝ぼけ眼のフィーとミリアムに、お兄さんとお姉さんたちは笑顔を浮かべてこう言った。

『おはよう』そして『会いたかった』と。

 

 

 

「ね、寝坊した!」

 床に無造作に敷かれたブルーシートから、ジョルジュ・ノームは跳ね起きた。

 三日間ほぼ徹夜を繰り返し、依頼されたものを作り上げた彼は、それをフィーたちに引き渡したあと、力尽きてこの技術棟で深い眠りについてしまったのだ。

 一限がまもなく終わる時間だった。

 クロウのように崖っぷちではないから、今回の遅刻が卒業にまで響くことはないが、だからといって安穏としているわけにもいかない。

 焦って身支度を整え、技術棟から飛び出す。

「急がないと……ん?」

 駆け足で本校舎に向かおうとした時、Ⅶ組の面々が目の前を通りがかった。

 理解に苦しむ汚れっぷりだったが、何よりも最初に視線が留まったのはフィーとミリアムだ。

 マキアスはフィーを、ユーシスはミリアムを。それぞれ猫の襟首を掴むようにして引き下げ、手荒く二人を連行している。

「あ、ジョルジュ先輩。技術棟は無事でしたか?」

 なぜかアリサと手を繋ぐリィンが、心配そうに歩み寄ってくる。

「無事も何も、一体どうしたんだい? ひどい格好だよ」

「それは話すと長くなりますが――」

『この人が黒幕』

 会話を遮るように、フィーとミリアムは同時にジョルジュを指差した。告げられた真実に、ジョルジュを含めたその場の全員が固まる。

「そうか、罠の製作者か」や「確かに納得だ」とか「許せない。許せないな」などと口ぐちに仄暗い声が聞こえてくる。

「おいおい、お前のせいで俺は電気ショックをくらったわけかよ」

 クロウが鼻を鳴らす横から、リィンが言葉を差し挟んだ。

「とりあえず後日話を聞きに来ます、全員で。……気付きませんでしたよ。あなたが黒幕だったなんて」

 妙に凄みのある口調。流し目をくれながら一同は再び歩き出す。

 一人状況が飲み込めないジョルジュは、遅まきながら何かに巻き込まれていたことを知った。

 

 ●

 

 その夜。

 関係各所に謝罪を済まし、全ての罠の撤去を行い、荒れに荒れた学院内の原状回復を終わらせて、ヘトヘトになった体と一緒にフィーたちは帰宅した。

 サラを始めとする教職員からも散々怒られたが、都合よく年齢の低さを前面に押し出しすミリアムの泣きまねと、それをかばうというフィーの茶番劇によって、それ以上のお咎めを回避してきたのだった。

 もっとも寮に帰ったら帰ったで、今度は仲間達からのお説教が待ち構えていたが。

「爆破はやり過ぎだ。ガイウスのアフロ、まだ戻らないんだぞ」

「そうよ、反省なさい。女子のリンスシャンプーを総動員してるんだから」

 リィンとアリサがフィーたちに苦言を呈する。かくいう二人もシャロンの調合した特性のはがし液によって、ようやく接着剤から解放されたところだった。

 結局取られたものは返って来なかった。すぐに代えが用意できないものもあれば、代えが利かない類のものもある。

 それぞれの文句を受ける中でフィーは天井を指さし、しれっと告げた。

「大丈夫。ちゃんと返すから」

 

 しばらくして鐘楼塔に隠されていたのと同じ白い麻袋が、寮の屋上から運ばれてきた。もちろん爆弾はついていない。空で爆発したあれはダミーだった。

「この中に皆から借りたものが入ってるよ」

 借りたというか強奪だが。

 袋を開けると、中にはフィーの言う通り、全員分の私物がそろっていた。

「あ、日記!」

「ふん、無事だったか」

 素早く日記、そしてクッキーを懐に隠すアリサとユーシス。

「うーし、レポート回収……ってか破けてるじゃねえか!? どのみち書き直しかよ、おいぃ!」

「ガイラーさんの小説……爆破されててもよかったような……」

 肩を落とすエマとクロウ。

「これでバイオリンが弾けるよ」

「俺もやっと絵が描けそうだ」

 バイオリンの弓とノルドグリーンの絵の具チューブを握りしめ、嘆息をつくエリオットとガイウス。

「エリゼの手紙……よかった」

 白い便箋を手に、胸を撫で下ろすリィン。

「はは、よかった。僕の眼鏡……あれ、僕の眼鏡が入っていないぞ?」

 マキアスがわたわたと焦る。フィーとミリアムは不思議そうに首をひねった。

「それはないと思うけど。ちゃんとまとめてあるし。確か眼鏡だけはミリアムが入れたんだっけ」

「うん、あれはボクが回収したからね。フィーに言われた通り、ちゃんと右の袋に入れたよ」

 麻袋を逆さまにしても、なにも落ちてこない。

「現に空っぽなんだが……どこかに落としたとか言うオチじゃないだろうな」

「ん~?……あ」

 なにやら思い返していたフィーが声をあげた。

「ミリアム、あの時は二つの袋を挟んで私と対面してたよね」

「うん、それがどうしたの?」

「私から見て右って意味だったんだけど」

「え、ボクから見て右じゃなかったの?」

 つかの間の沈黙のあと、二人はマキアスに向き直った。

「ごめん。マキアスの眼鏡だけ」

「あはは、爆破しちゃったー」

 突如として告げられた訃報に、マキアスは慟哭をあげて床にくずおれる。

 むせび泣く彼の横をそそくさと抜けて、フィーたちはソファーに沈み込んだ。

 保健室で十分に眠ったわけでもない上、捕縛されてからはあっちこっち動き回らされたので、すでに眠気はピークに達している。

「んー」

「むー」

 目をこすり、互いの顔を見る。

 宝探しに、かくれんぼ。十分に楽しんだ。後片付けは大変だったが。

「ねえ。いつかまた、何かして遊ぼうよ」

「うん、いいかもね」

 満足気に微笑を重ねると、反省も程々に二人は瞳を閉じた。 

 

 

 ――END――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――後日談――

 

 帝都ヘイムダル。大通りの一角にある小綺麗な喫茶店で、クレアはウエイターが運んできたコーヒーを受け取った。砂糖とミルクを少量ずつ入れ、マドラーでかき混ぜながら、その視線を正面に座るミリアムへと移す。

「結局どうなったんですか?」

 涼やかな声音でクレアが問うと、ミリアムは頬を膨らませた。

「どうもこうもないよー。あの後はみんなに怒られて、色んな人に謝りに行って、残った罠を全部回収して、おまけに汚れたり壊れたりした学院の掃除と補修もやったんだから!」

「それはまあ、大変でしたね」

「なんで他人事みたいなのさー。クレアだってキョウハンシャなのに」

「私はいらなくなったスクラップを渡してあげただけですよ」

「トラップ仕掛けのアドバイスもしてくれたのに?」

「ここのコーヒーも中々ですね。少し苦いですが」

 知らぬ存ぜぬで、クレアはコーヒーを口にする。「うう、ずるいよー」と不平を漏らしながら、ミリアムもコーヒーカップを手に取った。

「あら、ミリアムちゃん。いつの間にコーヒーが飲めるように?」

「いつまでも子供じゃないよーだ」

 そんなことを言いながら、砂糖とミルクをどぼどぼと大量投入している。美味しそうにそれを飲むミリアムを見て、クレアはくすりと笑った。

「砂糖とミルクには子供成分が入ってるんですよ」

「え、そうなの!?」

「さあ、どうでしょうね」

 あくまで自然に視線を店内に走らせてから、クレアはその話題を振った。 

「それで……肝心の《C》の足はつかめたんですか?」

「え、《C》?」

「もしかしてあの時の言葉はやっぱり……」

「わわっ、嘘じゃないよ! 忘れてないよ!」

 吹き出しかけたコーヒーをどうにか口の中にとどめる。

「足をつかむ系のトラップも仕掛けてたし、もしかしたらかかってたかもね」

「そういう意味ではないのですけど……収穫は無しということですね」

「あはは、ごめん」

「まあ、元々無理のある話ではありましたから」

「だよねー」

 カラカラとミリアムは笑う。肩をすくめながらも、クレアはどこか優しげに目許を緩めた。

「でも面白かったよ。また何かする時があったら力を貸してくれる?」

「いえ、それは……そうですね」

 やや苦めのコーヒーに子供成分を追加して、クレアは言った。

「気が向いたら、ということにしておきましょう」 

 

 

 ~FIN~

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。