異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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幕間~はじまりはじまり~

「む~~~~。獣用の罠には今回獲物はありませんねぇ。黒いリスさんのスープ美味しかったのでまた口にしたかったんですが……」

 

 湖からやや上流にさかのぼった所。

 かつてゲイリーやアシュリーが、トールとアオイによって寝かされていた仮の寝床があった所の近く。

 その周辺は、今ではトール達にとって重要な罠場になりつつあった。

 

「というか、どうしたんですかアシュリーさん? 今日はなんだか集中できていないみたいですが?」

 

 そう言ってアオイは、自分の後ろから付いて来ているアシュリーの様子を伺う。

 

「何か気にかかる事でもあるんですかぁ?」

「いえ、大丈夫よ。ただ、ここ数日歩きっぱなしだったから……かしらね。どうにも足に乳酸がたまっちゃったみたい」

「あらー。それじゃあ、ある意味動物がかかってなくて良かったですねぇ。小さいのならともかく、野豚さんの時みたいに格闘となると大変なことになっちゃうので」

「えぇ、そうね」

 

 一方で、アシュリーは今それどころではなかった。

 こうしてどうにか(うわ)(つら)を装う事で精いっぱいで頭の中では全く違う事を考え――いや、話していた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あー、隊長。聞いてるッスか?」

『聞いているけどちょっと待ってちょうだい。今、あの剣を持った女と一緒に行動しているのよ。罠の確認が終わったら薪集めで一人になるから、それまで待機で!』

「うッス、了解ッス」

 

 頭の中での通信が切れたのを確認した二人の女は、互いに顔を見合わせる。

 

「どういうことッスかねぇ」

「……尋常ならざる事態というのは理解していたが」

 

 二人の目には、今自分が見ている光景とは別に、とあるデータが小さく表示される。

 それはアシュリーがこの二人の存在を把握できた物。それぞれのこめかみのあたりに埋め込まれている、サブブレインという電脳の一種が放つ特殊な電磁波を計測したものである。

 ある程度の範囲ならば。サブブレインを埋め込んだ人間がどこにいるのか把握できる、主に野戦での連携のために組まれたそのプログラムは、周囲にいる同胞を正確に把握していた。

 

 今ここにいるヴィレッタとテッサ、そして離れた地点でアオイと行動を共にしているアシュリー。

 

 そして……もう一人。

 

「ヴィレッタさん。あの人、少なくともこの間までは絶対に絶対に反応なかったッスよね?」

「あぁ、無かったぞ」

「……なんでトール君からサブブレイン反応出てるんスか?」

「それが分かれば苦労はしない」

 

 その現象が起こった時、ヴィレッタとテッサは二人とも、アシュリーの視界とリンクしてトール達の会議の様子を観察していた。

 

 二人ともそれぞれの目で、トールやアオイというイレギュラーに加えてゲイリーという明確な敵を観察する目的もあったが、同時にトールが持っていたスマートフォンという異世界の小型のデバイスに興味があった。例えこの世界に来てから変異しているとしてもだ。

 

 そして、例のスキルに関しての話し合いの隙に、できるだけトールという少年がスキルを習得するその瞬間を記録しておくために集中していた時に、それが起こった。

 

 彼がスマートフォンに触り、スキルというものを習得したその瞬間――突如として、自分達の同胞の反応が現れたのだ。

 二人の目の前――つまり、リンクしているアシュリーの視界の中に。

 

「……間違いないんスよね?」

「あるいはと思って、多少強引だがサブブレインのハックを試みた所切断された。感覚で操作したようだし、間違いなく脳との接続も完了していると見ていい」

「……なんでッスか!?」

「知らんと言っているだろうが!」

 

 二人はトールと直接喋った訳ではないが、間接的には目の前でよく見ている。

 アシュリーの目を通してだが――

 

「つまり、アレっすか。あのスマートフォンとかいうデバイスを二,三回触っただけで、あの人麻酔も手術(オペ)も無しにサブブレイン移植して脳に繋いだって事ッスか? それも瞬時に?」

「……隊長が言っていたサーチとかいうスキルも……あるいは身体になんらかの変異を起こしているのかもしれん」

 

 ヴィレッタは、癖なのか爪を軽く噛みながら考えている。

 いや、恐れているのかもしれない。

 

「なんにせよ、隊長もこれで決断するだろう。事情はどうあれ、トールという少年は我々と同じ技術を有する人間になった」

「それを理由に取り込む? そりゃあ無理ッスよ。早すぎますし、多分本人理解してないッスよ? そもそも、仮に理解した所でトール君、どっちかを選べるようなタイプじゃないッスよ。間違いなく」

「ならば、選ばせるだけだろう」

 

 ヴィレッタは、鋭い目を僅かに輝かせて策を練る。

 

「幸か不幸か少年は我々と同じ技術を身に宿し、かつ不慣れだ。どういうわけか軍用のそれより高性能なサブブレインを脳に直結しているようだが、我々三人が本気でハッキングすれば自我を誘導することだって――」

 

 そこまで言ったヴィレッタは、唐突に前へと跳躍した。

 ほぼ同じタイミングで、ヴィレッタの首があった場所あたりで、テッサのナイフが空を斬る。

 

 反射的にヴィレッタがナイフを抜いて構えた先には、同じ様にナイフを構えたテッサの姿があった。

 

 

 

「あ゛ぁ? 何するつもりだテメェ、殺すぞ?」

 

 

 

 いつもと違い瞳から光を失くしたテッサが、本気の殺意を纏ってそこに立っていた。

 これまでチームを組んでいて一度も見たことない様子に、ヴィレッタは思わず一歩下がりながらも表情を崩さず、

 

「……非常時下だ。何を優先すべきか分からないのか」

「やっちゃいけねぇ事があるってのがワカンネぇのかビチグソ……アァ?」

 

 いつものお気楽な口調は消え失せ、血走った目でヴィレッタを睨みつけていた。

 

「……なぜ、あの少年に肩入れする」

「アンタには十年かかっても分からないッスよ。ああいう狂人の価値は」

「狂人? 何を言っている……トール=タケウチは民間人じゃないのか?」

「ハッ」

 

 何を的外れな事を。

 そう言うように、テッサはヴィレッタを鼻で笑う。

 

「まぁいいッスよ。それで? 敵どころかボク達サイドに存在が近づいた男の子の頭勝手にイジってどうするんスか」

 

 馬鹿な事を言い出したら首を掻き切る。

 そう言うようにナイフを構え直すテッサに対して、ヴィレッタはさらに間合いを取る。

 

「我々に関係ない、未知数の男というのは変わっていない」

「関係ないって分かっているなら――」

「スキルという強力な技能こそ持っているが、そのスキルでも武装は一切していない。制圧できる内に制圧するべきだ」

「だーかーらーぁっ!!」

 

 淡々と述べるヴィレッタに、テッサは苛立ったようにナイフの切っ先を向ける。

 

「それでも! それでもやっちゃあいけない事があるって言ってるんスよ、ボクは!」

「任務を第一に置くのが軍人だ!」

 

 少なくとも、今のテッサは殺意も戦意も多少下がった。

 そう判断したヴィレッタはナイフを鞘に戻し、声を抑えて、

 

「さすがにそれが最後の手段だというのは分かっている。だが。万が一の場合の事を考えておけ。使える物を使わなければ、帰還できんのだぞ」

 

 話は終わりだと言わんばかりに背を向け、拠点へと戻るヴィレッタ。

 その遠ざかって行く背中に思わずナイフを投げつけかけたテッサは、小さく舌打ちをして大きくため息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいつもコイツも……暴力に慣れるとこうなるんスかね。まぁ、ボクもッスけど」

 

 手の中のナイフをクルクルと回して、そして刀身を鏡のようにして自分の顔を写す。

 いつもと違い、表情が抜け落ちてる自分の顔を見て「おっと……駄目ッス駄目ッス」と小さくつぶやいて、もう片方の手で口元を吊上げて、一番口元が可愛く見える位置を調整して笑顔を張りつける。

 

「さて、どうしたもんスかね。帰還できたのなら帰還できたで隊長殺して、ボクはまた別の部隊に紛れるつもりだったんスけど……」

 

 ナイフを鞘に戻し、胸を持ちあげるように腕を組んで「う~~~ん」と悩み始める。

 

「仕方ないッスよねぇ」

 

 そうして、何度もウンウンと頷き、彼女は――テッサという少女は答えを出す。

 

「目的のためには帰る必要があるッスけど、それで無関係の……それも理想的なタイプ見殺しにして帰ったら『革命』もへったくれもないッスもんねぇ」

 

 そして、少女は腰からある物を抜き出す。

 ゲイリー達魔法側の住人が使うそれよりも、はるかに高性能なソレは、本来アシュリーやヴィレッタ、テッサといった敵の内部深くに潜り込む工作員は携帯を許可されていない……ハズだった。

 

「ゲイリー卿の正体とか生い立ちは向こう側の『同志』から情報入ってますし、警戒にも値せず。アオイという人はちょっと違いますけど、見た感じボクと似た匂いがしますし下手な行動しなければOK」

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、邪魔なのはこちら側の二名だけ」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ……仕方ないッスよね」

 

 

 

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