異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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039:対立

「わざわざ来てくれたんですかぁ? 別に動物が引っかかってても私一人で殺せるんですけどぉ」

「複数かかってる可能性もあるし、獲物を運ぶのも疲れるだろう? それに、解体には刀よりもナイフの方が楽だし」

「あぁ……それは確かにそうですねぇ。……かかっていればそうでしたねぇ」

「それを言うなよ。泣けるぜ」

 

 アオイに追いついたのは、結局罠場に辿りついてからだった。

 今回は収穫なし。夜は魚の燻製と野草で決まりか。

 

「あと、ついでに確認したい物もあったからさ」

「確認したいもの?」

「死体」

「……あぁ」

 

 どんな状況だったのかもそうだけど、俺としてはソイツの持ち物とかが気になる。

 多分アオイから見て使える物は無かったからそのまま放置されたんだろうけど、ひょっとしたら使える物があるかもしれない。

 

「それはいいんですけどぉ。着物は血で汚れてますし腐臭が移ってますし、多分役に立つ事なんにもないですよぉ?」

「服以外に何も持っていなかったのか?」

「前に言ったかもしれませんが、基本私達って持ち歩ける物がかなり制限されているのでぇ……。偉い人なら家とか仕事場にもある程度揃えられるんですけど、その……外に出る際にはちょっとぉ」

「どんだけ制限まみれだったんだよ。煙草とかは? 話聞く限りじゃ煙草は一般的だったんだろう」

「煙草自体は持ち運びできるんですが、火を付ける道具の類は持ち出し禁止に入るんですぅ」

「……まぁ、なんかあるかもしれんし」

「あぁ、確かに私の視点とトールさんの視点は違いますしねぇ。分かりました、こちらですぅ」

 

 そう言って案内されたのは、あの時同様川を渡った先だった。

 そうだよな、あの短い時間で埋めたって事は拠点側から見て向こう側になるよな。

 

 ちくしょう、死体の確認終えてもう一度戻ったら一回火を焚こう。

 

 そうして森の中を歩く事二十分ほど。目的の場所にようやくたどり着いたらしい。

 

「あー、確かにほんのり匂うな」

 

 ある意味で腐臭が目印と言えるかもしれない。

 なんとなく、埋めてある場所が分かった。

 微妙に周りと色違うし。

 

「え~と、適当な棒は……」

「おう、さっき拾っておいたぞ」

「あ、どうもですぅ。それじゃあ……えいっと!」

 

 そうしてアオイが、やや平たい感じに割れてた太い倒木の一部を地面に突き立てる。

 俺も習って適当な物で土を掻きだしていくと、すぐに木片の先が何かに当たる感触がした。腐臭も強くなる。

 

「う~わ、元々臭い人でしたけどもっと臭くなってますねぇ」

 

 現れたのは、アオイの着ている着物ではなく……あー、これなんて言うんだろう? アジア系ってか中華系の民族衣装っぽい? 感じの赤い服をきた肥満体の男の死体だ。ちょっとだけ衣類が豪華な気がする。

 赤かった服は、流れ出た血が渇いてどす黒くなっていて、身体には虫がたかっている。

 

「……アオイ」

「はい?」

「お前と同じ国にしては服が大分違うようだが」

「あ、はい。広い国ですから、生まれた場所が違えば服も違います。それに、違う地域の服を着ると出生地詐称の罪で逮捕されちゃいますから」

「ホントにクソだなお前の所」

 

 着る物も自由に出来ないとか。

 まぁいい。

 

「じゃあ、コイツの出身地の埋葬方法とかも分からないか?」

 

 とりあえず何か持っていないかとパリパリする服を剥がして色々探るが、本当に何も持っていないようだ。さすがに衣類は布としてももう使えないし……この帯なら……いや、やっぱ止めておくか。

 

「ん~~。私と同じ極東系の衣装と顔立ちだと思いますので、多分火葬でいいと思いますぅ」

「そっか……」

 

 ここらはちょっと木々の密度が高いせいか湿気を感じる。

 例の樹脂を多く含んだ奴で火を起こすか。

 

「埋葬するんですかぁ?」

 

 火を起こそうとある程度開けた場所を探していたら、アオイが俺の顔を覗き込んでくる。

 

「あ~、思う所があるって言うんなら止めとくぞ?」

 

 コイツからすれば、このデブは自分を犯そうとした奴だし、このままここで朽ち果てろって思うのも分からなくはない。

 死体を乏しめるのはあんまり気分がよくないが、仲間の感情の方を出来れば優先したい。

 

「別にいいですよぉ? 死んじゃったらただの肉ですし」

「ん、そっか。じゃあちょっとコイツ向こう側の開けたところまで引っ張っていくから、枝適当に持ってきてくれ」

「了解しました!」

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、軽く腐敗していたのもあって意外と早く火が燃え移った。

 火葬場の火とかはかなりの高温だっていう話を聞いていたので、通常の焚火くらいの大きさになった火の横に遺体を枝で引っ張って、覆う様に落ち葉をばら撒いたり、更に木の枝放り込んでそれなりに大きい火でしっかりと焼いた。

 

 アオイに持ってきてもらった枝を適度に放り込んで、大きくなり過ぎない様に注意をしながら、アオイと並んで炎を見守っている。

 

「知り合いだったのか?」

「あー、まぁ、一応上司でした。碌に会った事ありませんでしたけど」

「会った事がない?」

「基本偉い人は自室と家を行き来するだけです。現場に出る事はまずありませんねぇ」

 

 現場……奴隷管理官ってなにするか分からね―けど、直接奴隷と会って指示したりはするだろうし……。

 

「なんというか、お前さんの仕事がよく分からないな。経理だったんだろう?」

「はい! あとたまに暗殺とかしてました!」

「あぁ……たくさん殺したってそういうことか。仕事?」

「はい。……あぁ、でも、たまに普通に襲われそうになったんで返り討ちにする事もありましたねぇ」

「やっぱり物騒だな、お前の所」

 

 経理ですら暗殺の仕事任せられるとか、疑心暗鬼で内部がボロボロになってそうだ。

 

「コイツは暗殺とかやってた……わけないか」

 

 あの肥満体で暗殺ってイメージがちょっと湧かない。毒とかなら分からんでもないが。

 

「あぁ、この人はコネだけで配給優先が高い閑職で偉ぶっていただけの人ですのでぇ……まぁ、その、特に面白い話がある訳でもないですぅ」

「いやまぁ、見知らぬオッサンの愉快な話聞かされてもな」

 

 それも本人の死体の前で。

 灰や燃え続けている木のおかげで直接見なくて済んでるけど。

 

「まぁ、今日はコイツの骨をキチンと埋めてやってから帰ればいいだろう。成果がなかったのはしょうがないし、とりあえず食う物はあるんだ」

 

 少しずつ貯蓄しておいて正解だった。

 野生動物から食料をどう守るかって言うのは課題だけど、やっぱり色々と研究しておいて損は無い。

 

「ですねぇ。ところでトールさん、スキルの方はどうですかぁ?」

「ん? 今の所多分変化はないと思うんだけど、どうしたんだ?」

「あぁ、いえ……先日何も新しい物が増えなかったというのが気になってまして」

 

 確かに。そこは俺も気になっていた事だ。

 

「新しくスキルを習得するための経験が足りなかった……とか?」

「でも、トールさんは活動量日に日に増えていますよね?」

「でもまぁ、やっている事は基本的にスキルで得た知識をなぞっているだけだしなぁ」

「……じゃあ、活動とかは関係ないんですかねぇ」

 

 それな。

 正直、スキルが生えてくる理由というか条件がイマイチ良く分からない。

 

「仮に俺が(おこな)った行動の結果生えてくるってなると、俺毒を飲んでた事になるだろ? 毒耐性なんてスキルが取得できる訳――」

「本当に飲んじゃったのでは?」

「いや、そんな……事は……」

 

 あっ。

 もし、元の世界の間の食中毒とかが経験の内に入るんなら……。

 そういや中学の頃に、なんか重い食中毒で緊急入院した事もそういやあったし――サルモネラ菌。

 初めて本気でヤバイ熱と嘔吐を体験して死を覚悟したものだ。

 最初の二日は何も口に出来ずに点滴だけで過ごしたのは、今でも苦い思い出だ。

 

「…………」

「? 心当たりが?」

「や、食当たりがカウントされるかどうかちょっと、な」

「あぁ~」

 

 見知らぬ男の遺体を焼く。

 そんな、この非日常の集合体の様な世界で行う更に非日常的な行為を行いながら、俺とアオイは取りとめのない会話をしている。

 多分、これはとてもおかしい事なんだろう。おかしい事なんだろうけど……。

 

 何かが悲しいわけでもなく、不快感を覚える訳でもなく。

 こんな非日常ですら、なんだか楽しんでる……うん、楽しんでいるのだろう。

 

(俺、向こうに帰った時に大丈夫なのかねぇ? 変な事になってない?)

 

 今のままだと、なんというか社会に適応できる自信が全くないんだが……

 なんというか、うん。泣ける。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「思ったよりも時間かかっちゃいましたねぇ」

「だな、ゲイリーにアシュリー怒ってねぇといいけど」

 

 雑談をしながら埋める場所を掘って、一応の墓標代わりにデカイ石を運んだのだが、こちらが思っていた以上に焼けるのに時間がかかってしまった。

 ある程度は妥協して埋めてきたのだが……。

 そんで再び川を渡って、一応持ってきていた火種から起こした火で軽く暖を取って、気が付いたら結構遅くなっていた。

 

「お二人ともそんな事で怒る方ではありませんよぅ」

「まぁ……いや、それでも遅れてしまったしな」

「あー、ご飯待たせてしまっていたら確かに申し訳ありませんねぇ」

 

 オレンジ色に染まりつつある河原を肩を並べて歩いている。

 もう何度も通り慣れた道だ。

 もうすぐ湖が目に入り、下流のほうの拠点が焚いた火の灯りがちらつく頃……

 

「んぁ?」

「……おかしいですね」

 

 いつもならばすでにちらついている炎の灯りが見えない。

 この距離ならば、火の傍に座っているゲイリーやアシュリーの姿が見えてもおかしくないハズだ。

 

 お互い首をかしげながら拠点へと足を向ける。

 徐々にはっきりとしていく拠点の姿に俺たちはますます首をかしげる。

 人の気配がしない。

 近づけば近づくほどに、誰もいないと言う事が確信に近づく。

 

 そうしてついにいつもの、俺たち四人の拠点に辿りつく。

 

「……焚火は燃え尽きてますね。まだ少々灰が熱いですけど」

 

 アオイがその場に膝を突いて、石に囲まれた焚火跡を調べる。

 俺も同じように膝を突いて、ある物を拾い上げる。

 

「作ったばかりの弓だ。……矢も散らばっている」

「トールさん、そこの土の形をあまり変えない様にしてください」

 

 いつもの語尾を伸ばすような緩い喋り方ではなく、真面目な――いや、ひょっとしたらもっと違う気質の物を声に込めたアオイ。

 反発する理由はない。ゆっくりと、出来るだけ一度自分が足を置いたであろう辺りに足を運びながら後ずさる。

 

 火の辺りを調べたアオイは、今度は俺の方へとやってきて観察を始める。

 

「……引っ掻いた跡がありますね。跡から見て恐らく左手でしょう」

「右は?」

「そっちはありません。多分ですが、背後から一気に拘束されたんだと思います。効き腕を封じるのは定石ですし」

「それは……つまり、獣に襲われたとかじゃあない?」

「もしそうなら、血痕があるはずですし……」

 

 あぁ、そりゃそうか。

 となるとやったのは人間で……。

 

「アシュリー?」

 

 やっぱり感情を抑え切れなかった?

 ……いや、違う。

 アイツは訓練を受けているだけあって頭が切れる。無意味に行動を起こすハズがない。

 となると、切っ掛けがあったはずだ。

 

 

 

――ただ、見られているって感覚は凄くするんですよねぇ

 

 

 

 反射的に、俺はサーチを発動させる。

 わずか射程四メートルとはいえ、逆に言えば近距離で何かが隠れていたら俺には分かる。

 

「――っ!!? アオイ! 後ろだ!」

 

 そしてなんとなく、アオイの方を真っ先に向いた俺は正しかった。

 俺の叫び――いや、口を開いた時点で察したのか、アオイが普段のおっとり具合からは想像も出来ない程素早く刀を抜き放ち、振り向きながら素早い一太刀を浴びせる。

 

 何もない。そう、眼には映らない。

 だが、俺のこの訳のわからん『眼』は確かに捕らえていた。

 アオイの一太刀を、ナイフで受け流す人影が。

 

「あ~~。なるほど」

 

 アシュリーが行動を起こした理由が理解できた。

 

「悪い、俺には丸見えだから……それ、解除してくんない?」

 

 俺が、俺の視界でハイライトされている『透明な女』に向けてそう言うと、長い髪を束ねた女の枠をかたどったナニカは、静かにキチンとした女の姿になっていく。

 アシュリーと似たような服を着た、藍色の長い髪の女。

 かなりキツい目をしているその女は、真っ直ぐにこちらを睨んでくる。

 

「タケウチ=トール」

 

 おう、フルネームでトール呼ばわりされたのは初めてだぞオイ。

 

「やはり、貴様は危険だ!」

 

 知るかよ。ナイフ構えんな。

 尖った物を人に向けちゃいけませんって習わなかったのかてめぇコノヤロー。

 

「アシュリーはどこだ?」

 

 そもそも、話すべきは名前も知らないコイツじゃない。

 ずっと一緒に行動していた、仲間。

 あぁ、仲間だ。

 アイツと話さない事には何も解決しない。

 

 

 

「ここよ」

 

 

 

 後ろから声がして振り返ると、そこには見なれた顔が二つ並んでいた。

 

「トール……っ……すまない……っ!」

 

 首元に刃物を突き付けられた、相変わらず綺麗な顔のゲイリー。

 そして、

 

「そうね。確かに、まず言うべきは謝罪の言葉ね」

 

 そして、そのゲイリーを拘束しながら首元にナイフを突きつけている女。

 

「……アシュリー」

 

 アシュリーなら、サーチスキルの射程を知っている。

 恐らく、離れた所で隠れていたのだろう。

 

「だーから言ったッスよボクは。絶対バレるから余計な事はするなって」

 

 その影から、小柄な金髪の少女がひょっこり顔をだして肩をすくめている。

 

「トール君」

 

 その少女のぼやきなど耳に入っていないかのようにアシュリーは、ずっと一緒にやってきた俺たちの仲間は、ゲイリーを拘束したまま真っ直ぐ俺を見る。

 

 

 

「ごめんなさい。状況が変わったわ」

 

 

 

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