異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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049:錬金術師『クラウ』=クラス

 大地が謎の奇病により汚染され、命ある者は徐々に魔物へとなってしまう世界。

 それがクラウのいる世界だそうだ。

 

 クラウが生きている時代よりもさらに昔、徐々に生活圏を奇病によって失っていく世界で唯一影響を受けない場所。

 それが、とある大樹――本当に馬鹿でかい、天に届く程の高さと小国ならまるごと入りそうな広さを持つ樹の周辺だけは平和だったらしい。

 だが、あくまでも本当に周辺。大勢の人間が住めるような土地などない。

 そして、魔物になることはなくなっても魔物自体は襲ってくる。

 

 そこで当時の人は、生活圏を広げるためにその大樹の中をくりぬき始めたらしい。

 

 小さい横穴を掘り、そして中を削っていき、そして床天井を作りながら上へ上へと場を進め……。

 木の中や、天にも届かん大樹の枝の上などにも住める土地を作りだした。

 

 ……火事一つで致命的な事になる気がするんですが。

 

「まぁ、そういう所で育ったわけだからこの光景には呆気にとられたよ。ため池ではあり得ない広大な水場、土や砂だらけの床。そして何より神樹――あぁ、先ほど話した私達の住処だが……その気配がどこにもない。いや、本当に驚いたよ」

 

 クラウは、気だるそうだが落ちついたペースで、自分の住んでいた所の事を語っていく。

 変な話だが、結構この声好きかもしんない。

 

「あぁ、だからこっちの話に早く納得してくれたのか」

 

 俺の世界の話や、この奇妙な世界の現状についての説明は済ませていた。 

 クラウは俺の話をじっと聞くと、『なるほど、把握したよ』という一言で全てを飲みこみ、そうして自分の世界の話をしてくれたのだ。

 

「となると、私は非常に運が良かった。文明の補助なしで生きていけるような技能は持ち合わせていないのでね」

「なら、協力してくれるか?」

「もちろんだとも。トール君、だったか。君は信頼できる人間のようだ」

 

 えぇぇぇぇ。

 判断するにちょっと早くありませんかね?

 

「先ほど話したが、私は錬金術師。金属や鉱石があれば、ある程度の加工が出来る。それなりに役には立てるだろう」

「……ある程度?」

「そこは勘弁してくれ。薬品や設備がなければ、錬金術師という職業は成り立たない」

 

 表情のタイプとしてはヴィレッタさん寄りのクラウだが、表情は結構変わる方だ。

 小さく微笑んでこちらに近づき、俺の顔を触ろうと手を伸ばす。

 

 え? なんで?

 

 触る文化なの?

 そしてテッサ、君はなんで間に立ってクラウにナイフ突きつけてるんですかね?

 

「おい、離れろッス。トール君にその臭いが移ったらどうするんスか」

「? 臭い?」

 

 確かに匂うけど……これ、香水だよね? なんか、こう、シトラスとかそういう系の。

 キツいっちゃあキツいかもだけど、そんなに気なる程か?

 

「ふふ……」

 

 一方、テッサの言葉に小さく笑うだけのクラウ。

 

 ……テッサがなにかに気付いたと考えるべきか。

 いや、だけど……。あぁ、ちくしょう。

 

「テッサ」

「駄目ッス」

 

 はえーよオイ。

 俺まだなんにも伝えてねーよ。

 

「頼む」

 

 何かに気付いたのかもしれんけどさ。

 そして多分、テッサがここまで警戒するならヤベーんだろうけどさ。

 

「仮になにかあるんだとしても、それは俺が自分で見て、感じて、知って、その上で判断下すべきなんだよ。その結果なにかあったとしても、ソイツは全部俺の責任だ」

 

 だから、今は頼むから教えないでくれよ。

 下手に先入観入るとすーぐ流れに乗っちゃうのが俺なんだから。

 出来る事なら多数派でいたい、意志の弱いふつーの男子高校生なんだから。

 正直、今のもギリギリだぞコノヤロー。

 

「……わかったッス」

 

 そうしてようやく、テッサはナイフを完全に腰の鞘に戻してくれた。

 こう、なんというか。

 多分、今のは本気で俺の心配をしてくれた……気がする。

 

 いかんな。ゲイリーといいテッサといい、フォロー入れなきゃいけない面子が多すぎる。

 

(本当にヤバイってなった時は、頼むよ)

(……うッス。任せるッスよ)

 

 小さくそうつぶやくと、テッサもある程度納得してくれたのか大人しく俺の後ろに下がってくれ――ねぇちょっと近くない? なんで腕にしがみつくの? 胸当たってるよ?

 

「おやおや、君はどうやら人心掌握に長けているようだね?」

「どっちかっていうと苦手なほうなんだけどなぁ」

 

 今も完全にまとまっているかと言われると微妙な訳で。

 まぁ、嫌われてはいないと思う。

 アシュリーも踏みとどまってくれたし。

 

「ほう? とてもそうは見えないが。トール君――と呼ぶのもアレだな。敬意を払って、リーダー君と呼ばせてもらおう」

「それホントに敬意ッスか?」

 

 テッサステイ。

 

「あぁ、それでいいよ。それでクラウ、錬金術ってどういう事が出来る?」

「む、そうだな。設備はもちろん道具もないから……ちょっとした金属製品の補修や手入れ、あるいは加工。あとは……あぁ、調査こそ必要だが、ここらの植物でちょうどいい物があれば油を集める事ができるな」

「マジでか」

「あぁ。少々雑な物になるが、燃料目的でも香油でも、一応は出来るだろう」

 

 助かる。めっちゃ助かる。

 大きい動物とかが罠にかかった時に油を取っておくようにしているけど、そんなに保存が出来るわけじゃないし当然ながら毎回毎回手に入るわけでもないしで、ほとんど活用出来なかった。

 

 なによりあれ臭い酷いし虫沸くしで、あんまり活用できていなかったりする。

 

「錬金術というのは、特に金属や鉱石をイジる時には炎が必須だからな。火に扱いに関係するもの……例えば燃料等に関しては多少の知識があるし、火の扱い自体も当然慣れている」

「……その場の道具で火を起こせる?」

「もちろんだとも」

 

 おぉ……。

 今更ではあるが、どうしてもっと早く来てくれなかったのかね。

 

「ん? ちなみに設備が整えば何が出来る?」

「それこそしっかりこの近辺を調べなければならないが……錬金術の本領――金属への特殊効果の付与が可能になる」

「……付与?」

「例えば、強く叩き付けたらその部分が爆発するようにしたりとか、あるいは金属そのものに強い冷却効果を付けたり、その逆に温熱効果を付けたり……あとはそうだな、少々変わっているが斬った物が必ずくっつく刃物等もある」

「なにそれ超欲しい」

 

 真っ先に思いつくのは、ゲームによくある特殊武器的な奴――の前に。

 

(こいつ冷蔵庫作れるんじゃない?)

 

 もっと言えば冷凍庫も。

 そうすれば食糧の保存に関しての問題はクリアされる。

 冬場を迎えても、暖房器具のような物は今でも作ろうと思えば作れるし、クラウの言う温熱効果の付いた金属とやらがあればかなり変わる。

 

 

「それ、設備さえあれば作れる?」

「設備と道具、あと環境だな。これに関しては周辺を調べてみるしかない。まぁ、可能性は十分ありそうだが」

「ある? 根拠は?」

「リーダー君。君の眼だ」

 

 ん?

 

「君の眼、おそらくはスキルとやらによるものだろうが、錬金術の手が入っている。たまに妙な物が映るんじゃないか?」

「……………………」

 

 サーチスキルーーーーーーー!!!!

 貴様、そういうことかーーーーーっ!!!

 

「その眼がすでにあると言う事は、その際に使う金属やその鉱石類もこっちにあるのだろうと推測したのだが……違うのか?」

 

 金属ぅ? 知らんそんなの!

 

「自分の知りたい情報が手に入るのは……」

「あぁ、脳の方にも手が入っているのか。随分と恐ろしい話だ。本来なら半年程かけてゆっくり変質させていくものなんだが」

 

 ちょ、おまっ。

 いや、まぁこれでネタも割れたしいいんだけどさ。

 これまで助けられてきたし。

 でもさ。でもさ!

 

「……具体的にはどうしてるの? その、本来の手順なら」

「なに、本体が死なない様に処置をしながら脳を取り出し、保存したそれに特殊な針を刺して色々と付加を付けていくのさ。まぁ、本来ならば八割は死んでしまう実験的な物なんだが……いいなぁ、実に羨ましい」

 

 どこがだ!

 

「待て、クラウとやら。半年時間をかければ、見たことない物や異なる世界の物も分かる様になるのか? お前達の技術は」

 

 あ、そうか。そういやそうだ。

 そこは前々から不思議な点だった。

 

「いや、不可能だ。どう足掻いても、植え付けられる知識は知っている物だけ。恐らくだが、君の目と脳に処置をした者――まぁ、いるならという過程だが。その何者かの知識量は尋常じゃないのだろう」

「……何者か」

 

 なんとなく、自分が持っているスマホを取り出す。

 

(いるのかな、やっぱり誰かが。このスマホの向こう側に)

 

「あー、もうちょい色々聞きたいことはあるッスけど……とりあえず、この四人で夜を過ごすならそろそろシェルターの建設に入らないと間に合わないッスよ。ここ、ちょいと風が強いッスから丈夫に作る必要あるッス」

 

 ……そしてテッサさんや、どうしてそこまでこの人警戒してんのさ。

 君がこんなに長時間笑顔を作らないなんて、短い付き合いとはいえ初めてで俺ちょっと驚いてるよ。

 

「ふむ。嫌われてしまったようだが、私としては君達とも仲良くしたいと思っているのだがね」

 

 そうしてクラウは、テッサとヴィレッタさんの二人に向けて手を差し伸べる。

 ヴィレッタさんは、まぁいつも通りなのだが……テッサの嫌悪感が凄まじい。

 

「えぇ、そちらがそれ以上香水使わなくてもいいなら、仲良くしてやってもいいッスよ」

「それなら安心してくれたまえ。これ以上増えることはないよ。もう十分だ」

 

 恐る恐るというか、いやいやといった様子で握手をするテッサとクラウ。

 それどういう意味の会話――やっぱいいです。

 

 

 …………ねぇ、なんで火種ばっかが増えていくの?

 

 泣ける。

 

 

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