異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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057:イレギュラー

 一生懸命頑張っていると思うんですよ、俺。

 斬られたり腹下したり擦ったり切ったり刺されたり喰われたりしながら、皆仲良くやっていけるように全力を尽くしていると思うんですよ。

 

「ちょっと試練が多すぎやしませんかねぇ」

 

 途中で白石が尽きたため、道づくりの作業はまた今度として海に到着したら、俺を待っていたのはホラーチックな血文字でしたとさ。

 

 …………。

 

 いい加減にしろよこの世界! 俺が一体なにをしたって言うんだ!!!

 

「どうッスか? トール君のサーチなら何か分かると思うんスけど」

「あぁ、俺も何か分かんだろってサーチかけたんだけどさぁ……」

 

 とっくに自分の視界は、いつものアレになっている。

 対象はシェルター。以前建てた奴周辺の人の痕跡だ。

 むろん、表示されるものはいくつもある。

 指紋、足跡、動かした僅かな形跡などなど。

 だが――

 

「肝心の文字を書いた奴の痕跡が全く出てこねぇ」

 

 足跡も指紋も僅かにシェルターがズレた痕跡もアシュリーとテッサによるものだった。

 そして、肝心の血文字に関しては全て『unkown』としか表示されない。

 せめて足跡くらいと思ったのだがそれもない。

 

 どうなってんだくそったれ。

 

アンノウン(unknown)……分からないって? こんなん初めて出たぞ、どうなってんだ」

「トール君、今まで一度もなかったの?」

「ない。断言できる」

 

 というか、アルファベットが出る事なんざほとんどなかったしなぁ。

 そして痕跡が完全に消えてる?

 アルファベット――いや、英語で書いてるってことは俺の世界か、あるいはその出身者と接触した人間のハズだ。

 そう、人間であることは間違いない。

 多分、手の平を使って書いたんだろう血文字には指紋とか……あの、なんていうんだっけ? 指紋の手の平バージョン。そういうのもしっかり残ってる。

 そのうえでアンノウン。一切の情報が提示されないと来た。

 

「……トール。お前以外のスキル持ちがこれを書いたとは考えられないか?」

 

 それまでじっと血文字を睨みつけていたヴィレッタさんが、口を開く。

 

「無きにしも(あら)ず……といったところか。確証はないけど……うん、十分にあり得ると思う」

 

 例えば、隠密行動とかそんな感じのスキルがあるとするなら――俺が今習得できる物なら、気配遮断とか暗殺がそれにはいるか? まぁ、そんな感じの物が発動したのならば、こうなってもおかしくはない。

 

「スキル持ちがこれ書いたとしても、まずその前に話せる状況なのかね」

 

 スキルが使えようが使えまいが、手の平を血で染めてこんなん書いてる時点でかなりキテそうである。

 いきなり襲う……ような事は……ないといいなぁ。

 

「アシュリー、テッサ。とりあえず材料は揃ってるんだよね?」

「うッス。まぁ、まだ完全とは言わないからドンドン持ってくる必要があるッスけど」

 

 となると、材料収集班とシェルター班……あと、トラップ設置班に分かれる必要があるな。

 罠の設置も大事大事。飯の種だし。

 一応、以前来た時や今回ここに来るまでに、果実の生る樹とか食える物がどこに生えてるかはある程度してこそいる。

 把握しているが……草だけで生きていけるのは芋虫だけだ。

 

 たんぱく源はしっかり確保しなくちゃ。

 塩分という調味料が身近になったとはいえ、野草だけのあの辛い生活はもう勘弁だ。

 

「クラウとアシュリーの二人は材料の確保に回ってくれ。俺とヴィレッタさんで川沿いとか近くの森に罠仕掛けてくる」

 

 俺一人でもトラッパースキルがあるからどうにかなると思うけど、やっぱり現状一人っきりで行動するのは不味い。

 ただ単に殺そうとしてくる相手なら自己再生で多少は耐えきれるだろうけど、拉致られたりしたら洒落にならん。

 あんま考えたくないが、今の俺の体は女だし。……うん、女だし……。

 

 泣ける。

 

「残った面子でシェルターの建築。一応血文字の奴はその部分残しておいて……うん、建てなおそうか」

 

 前回建てた差し掛け小屋は二つ。一つは血文字というホラー要素が加わっているが、もう一つはそのまま使えるだろう。

 

「最優先はシェルターの建設。火起こしはそれが終わってからでいいだろう。テッサかヴィレッタさんのサバイバルパックの中身使えばすぐに火は付くだろうし……あぁ、ただ薪は適当に拾っておいてくれ」

 

 さすがに燃える物がないとどうしようもない。

 俺の提案に、全員異論はないのかそれぞれが了承を返してくれる。

 

 さて急ごう。

 まだ時間に余裕はあるとはいえ、できるだけ罠を仕掛けておきたい。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お前は、スキルというものをどう捉えている?」

 

 ヴィレッタさんと二人きりで行動するのは珍しい。……いや、ひょっとしたら初めてか?

 川の方で魚用の罠はある程度設置したので、今度は森の中でちょっとでも痕跡があったところに獣用の罠を仕掛けていっている。

 以前と同じく、紐で作ったすぐ締まる輪の部分が首や足に引っかかる様にする捕獲罠だ。

 

「スキルねぇ」

「先日、お前が入手したスキルの一部はおそらく我々の技術を受け継いでいる。もし習得すれば、サブブレインのように再びお前の体を作り変えるだろう」

「ぞっとする話だよな」

「あぁ、瞬時に性別が完全に変化する事すら可能だったとは」

「……うん」

「ちなみに、その身体で生殖は可能なのか? 性行為は?」

「生々しい話はやめませんか!?」

 

 ただですらトイレの時とか水浴びの時とか妙な気分になるんだけど!

 一応ゲイリーが見張りに付いてくれているけど、ゲイリーも一応男だしさ! いや男が元男襲う事はないと思うけど――誰が元男だ!!

 

「まぁ、やっぱり経験と願望が反映されて、近い能力や技術を写し取るモノなんじゃないか?」

「そうか、お前は女になりたかったのか」

「ぶっ飛ばすぞ貴様!」

 

 俺より強い軍人がなんぼのもんじゃい! 女の身体がなんぼのもんじゃい!

 それを言ったら戦争だろうが!

 

「む。やはりスキルの使い方次第では我々に勝てる道筋があるのか?」

「勝てないと分かっていても拳を叩きこむ必要があるんだよ!」

 

 というかなんだその返しは。実は天然か!?

 

「ふむ、なるほど牽制としての攻撃か。それなら分からなくもない。……で、他にないか?」

「………………実はテッサ以上にマイペースなんだな、ヴィレッタ」

 

 距離は縮まった気はするけど、なんだろうこの……微妙な感じは。

 

「そうだなぁ。最初は生き残らせるための初心者ボーナスみたいなものかなって思っていたんだけど」

「ボーナス?」

「呼んだ奴からのな」

 

 そういう意志があるのは多分、間違いないんだ。多分。

 

「こう、なんというか……願いを叶える存在を作り出すモノ……じゃないかな」

「願いを?」

「まぁ、想像だけど」

 

 きっかけはクラウだ。

 性転換はもちろん、あの食人耐性というのも俺の経験にも欲求にもない。

 あれは間違いなく、クラウの経験から現れたんだ。

 

(あるいは、両方とも欲求……願望なのかもしれないな)

 

 人を食っても平気でいたいという願望、そして真っ当に性別を変更……いや、正したいという願望。

 あの二つのスキルは、そういうものの現れなのかもしれない。

 

「経験したものが出てくるのも、こう、なんていうか……成長って誰しも持つ願いだろう?」

「ふむ」

「そういうのを蓄積して、まとめ上げていった先に……俺はどうなるのかねぇ」

「……自分が変異する可能性を受け入れるのか?」

「しょうがないだろ」

 

 ここから脱出するヒントはそれしかない。

 そりゃあ、自分がヤバい存在になるって恐怖は付いて回るけど……。

 

 アオイがいるなら大丈夫だろう。

 

 もし自分が害になる存在になれば、間違いなく俺を斬ってくれるだろう。

 

「お前らは、帰る必要があるんだろう?」

「あぁ」

「なら、そのまとめ役の俺が帰還手段の捜索で手を抜く訳にはいかんだろう」

 

 ここで俺がそれを放棄しちまったら、それはアシュリーやゲイリー達への裏切りになる。

 

 

 もう、誰も裏切らないと決めたんだ。決めたんだから、貫くしかないんだよなぁ。

 

 

「なるほど。お前はそういう人間なんだな」

「どういう人間なのさ」

「通常の存在から外れたイレギュラーだということだ」

「失敬な」

 

 ちょいと吹っ飛んだ行動は取らざるを得ない事が増えているけど、根は普通の男子高校生だぞ。

 今女だけど。

 

「ん……ちょいと支えの長さ足りなかったか。ヴィレッタ、そこらにちょうどいい小枝ない?」

 

 これじゃあ輪の部分が低すぎて小型の動物じゃないと首には引っかからない。もうちょい高くしないと……ヴィレッタ?

 

「おい、人の首を猫みたいに掴むのは止めてもらお――」

 

 プシュッという、小さい穴から空気が抜けるような音が聞こえたと同時に、地面に突っ伏していた。

 お……あれ……?

 

「そうだ、イレギュラーだ。多様性を武器とする人類種。その枠からも逸脱した存在」

 

 顔は見えない。倒れた俺に見えるのは地面と樹と置いていた紐だけ。

 そして、俺の体になにかしたコイツは――少なくとも声は何にも変わっていなかった。

 

「お前の解析は難しいだろうが、手に入れておけば役立つ事も大きいだろう。私の代わりの、スキルの実験体として」

 

 …………。

 

 

 

 ま。

 

 

 

 またかーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

 

 おい神様! いるんだったらおめぇいい加減にしろよ!? マジで俺が何をやったって言うんだコルァ!!!!!?

 

 

「あぁ、叫んでも構わん。叫べるはずはないが、念のためにこの辺りに消音スキルを発動させている。便利な物だな、スキルは」

 

 おっま――

 なんでスキルを!?

 

「さて、出来ればお前のままのお前ともう少し会話をしてみたいが……そうだな、サブブレインにフォルダ分けして人格データを遺しておくか」

 

 痺れているのか、急に何も感じなくなった体をどうにかしてひねり、上を――ヴィレッタを見上げる。

 実際に触れられても人間のそれにしか感じなかったヴィレッタの手が二つに裂け、その間から一本のコードがうにょうにょしながら伸びている。

 

「安心しろ、お前からは引き出したい物が山ほどあるのでな。人格データの保存には細心の注意を払おう」

 

 ヴィレッタが、もう片方の腕で小柄になった俺の体を抱き支え――コードが俺のこめかみに突き刺さる。

 

「あ゛ぁ……っ!」

 

 痛みはなかった。

 だけど、自分の皮膚を貫いた先の何か――あのサブブレインとやらに接続されたのが分かる。

 

「あっ……あっ……あっ……」

 

 声が出ないはずなのに、反射的に意味のない声が出る。

 急に視界が切り替わったと思ったら、自分が背筋をのけぞらせていた。

 な……ん……っ!!?

 

「他のスキルホルダーの存在が確定した今、駒は多い方がいい。接触までどれだけ時間があるかも不明」

「あっあっ……あっ……あっあっあっあっ……!」

 

 視界がぼやける。

 触覚も消えていく。

 

 ただひたすら――気持ちいい。

 

「私が欲しいのはお前というスキルを利用できる身体だ」

「あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ」

 

 全身に麻痺が回っていく。

 口から涎が垂れる。目から涙があふれる。

 痛いわけじゃない。

 痛みなんてない。

 

 ただ、快楽だけが――

 

「私の人形になれ。イレギュラー」

「あああああああああああああああああああああああああああ」

 

 塗り……つ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

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