異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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第三章:レッツ開拓! 海はすぐそこだ!
061:新しい始まり(副題:三組に別れての行動・調査・暗躍)


 暗い夜の帳の中、月明かりと遠くの焚き木の微かな灯りだけが海辺を照らしていた。

 離れた所には、この場で戦った男と女達が寝ている。

 

 そう、この海辺、――この浜辺は戦場だった。

 そこには敗者の残骸が転がっている。

 翼を持っていた白い球体。

 今では翼は斬り落とされ、無数の唇が生えた白い球体も剣士に斬り裂かれ、ガンナーに撃ち抜かれ、無様な姿を晒している。

 

 かつては歌で人を取り込んでいた個体が、しばし波の音を受けながら横たわっていると、小さい変化が起こった。

 ヒビだ。

 白い球体――刃や弾丸を受けながら、それでも美しいままだった『肌』にシワが……いや、罅が入る。

 どこか瑞々しさを残したまま脆くなった皮膚は、やがてドロリと溶けだす。

 ゆっくりと、徐々に、確実に。

 液体となって砂の中へと消えていき、その姿が消えていく。

 

 そうして朝日が昇り始める頃。

 最後に残った部品――何もかもが白く染まった携帯電話だけがその場に残り、そして突然粉々になって消えていく。

 

 後には、もう何も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あのデカブツどこ行った……」

 

 ある程度の復興作業を終えて、そろそろ本格的にあのデカブツの調査に入ろうとした矢先に奴が消えていた件について。

 

「まさか、まだ生きていたのかな?」

「いや、それはないだろう」

 

 男物の服を着ていながら、一目――具体的には胸部――で女だと分かるクラウが、浜辺を探索しながら断言する。

 

「もし、あれが生きていたというのならば多少なりとも動いていたはずだ。だが、ここ数日は完全に活動を停止していた。……アオイ君やテッサ君、ヴィレッタ君もそこらは念入りに確認していたハズだ」

 

 万が一に備えて、通じるかどうかは分からないがゲイリーが作った弓を手にしたクラウが辺りを警戒しながら、それでもそう断言する。

 

「確かに、アレは中々に未知の生物……といっていいかどうかは分からないが、再び動くような気配は無かったと思う」

「じゃあ、どこに?」

「単純に、活動を止めた事であの身体を維持できなくなって完全に崩壊した。……とかじゃないかな」

 

 なんとなく、あの唇だらけの巨体がグズグズと腐り落ちて砂浜に溶けていく光景を連想して、思わず足元を再確認する。

 今立っているなんの変哲もない普通の白い砂浜が、あの『天使』の身体が粉になったもので出来ている。

 そんな想像が頭に浮かぶ。

 

「……突然復活して第二ラウンドとかにならないだろうな?」

「仮に出てきたとしても大丈夫だろう。一番の戦力であるアオイ君は同じ敵が出てきた時に備えて耳栓を作っているし、なにより君とヴィレッタ君には効かなかったのだろう?」

 

 浜辺には、昨日テッサが何らかの目的で波打ち際に突き刺していた棒が数本立っている。

 それ以外にはなんにもない。

 

「歌を聞いたら、着いて行かなきゃと思った……だったか」

「あぁ。最初に気付いたのはゲイリー君でね。歌が聞こえた気がするとフラフラと離れ出した所を、アオイ君が追い掛けた所二人とも帰って来ず……まぁ、そのまま私達も『歌』を耳にしてしまったというわけさ」

「歌……ねぇ」

 

 確かにあの夜、アイツは俺たちの頭上をクルクル舞いながら歌っていた。

 そうか、アレは俺たちに聞かせていたのか。

 それであの突風というか衝撃波で攻撃してきたのは、俺とヴィレッタに『歌』が効かなかったらか?

 

「死体をサーチしても何も分からなかったしなぁ」

 

 そう、なんにも出なかった。

 死体――と呼んでいいかはともかく、アオイ達を捉えていたあの『天使』をサーチで調べたところ、意味不明な言語というか、バグったような文字列が並ぶだけだったがとにかく反応はあったのだ。

 だが、今ではなんにもない。

 砂を詳しく調べても、『●●貝の欠片』や『●●珊瑚の欠片』といった感じに、おそらく白砂の元になっているのだろう物を説明する文章が文字通り視界と脳処理を埋め尽くして、さっきは一回倒れてしまった。

 クラウには迷惑かけたなぁ。

 

「アオイ君の話だと、歌を聞いてから意識が無くなるまでの間にタイムラグがあったそうだ。その間に耳を詰めれば恐らく大丈夫だと言っていたよ」

「アナログすぎるにも程がある……」

「他に思いつく対抗策がないだろう? 強いて挙げるならば、歌が聞こえた瞬間、それが通用しないヴィレッタ君をぶつけることだ。彼女、リーダー君のペットなんだろう?」

「言葉を選べっ!!!!!!」

 

 その言い方だと、俺が薄い本の悪役主人公みたいだろうが!

 

「……スキルが競合したかなんかで、戦闘関係のスキルの使用には俺の許可がいるってだけだ。他にはないよ」

 

 という苦しい説明でなんとか皆には納得してもらう事にした。

 いやだって、そもそもスキルがなんなのか分かってないし、こういう事になったのも意味が分からないし。

 なにより――

 

(いやホント、多分ヴィレッタとやりあったのがきっかけだったんだろうけどさ)

 

 スマホを取り出し、起動させる。

 今までと同じ、ディスプレイとは違う文字が浮かび上がる。

 今までと違うのは、表示されている内容だ。

 これまでなら自分自身が習得したスキルか、覚える事ができるスキルが出てきた。

 それが、今ではこうなっている。

 

・トール ・アオイ ・ゲイリー ・アシュリー ・テッサ ・ヴィレッタ ・クラウ ・(未登録個体)

 

 そう。自分も含めた、今この場にいる仲間たちだ。

 未登録個体というのは、恐らく天使の中から出てきた白い髪の女性だろう。

 そこまではいい。問題は続く言葉だ。

 

 

――スキルを習得させる個体を選択、及び習得させる内容を入力してください。

 

 

 止めてください。どう考えても火種です。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ゲイリーさん、この作業って何か意味あるんですかぁ?」

「あぁ。役に立つというよりは確認のための物だが……。テッサの勘も馬鹿に出来ないな。アシュリー、杭を頼む」

「はいはい、波が来ない辺りに打てばいいのね?」

 

 これまで肉食の獣にすら遭遇した事がないサバイバル生活だったが、予想外の脅威が現れたおかげで探索の重要度は跳ね上がっていた。

 それも、少人数では万が一に対応できない。

 拠点を離れる時は、出来れば三人以上。少なくとも単独行動は厳禁。

 これが先日の会議で決まった出来事だった。

 

 もっとも、今三人がいる所はさほど拠点から離れている訳ではない。

 それなりに歩きはするが、遠いとも言えない程の浜辺をずっと歩いていた。

 時折、浜辺に杭を深く打ち立てながら。

 

「あの天使の事も気がかりと言えば気がかりだけど、地形の把握は大事よね」

「地形の把握というか、この場所の不自然さの再確認というべきだがな」

「そんなにこの海っておかしいんですかぁ?」

 

 ゲイリーは塩を取る関係で海には詳しく、アシュリーは基礎教育で海という物を知っていた。

 唯一、山育ちでかつ内陸の都市部で生活していたアオイだけが、海という物を知らなかった。

 

「そういえば、アナタは海を知らなかったのよね。これだけ広大な物を見て、なにか感慨とか沸かないの?」

「そうですねぇ、塩が取れるって言うのはトールさんから聞いてましたので、重要性は理解してますよぉ?」

「…………いや、そうじゃなくて」

 

 呆れた目をするアシュリーだが、アオイはその意図が分からないのかピョコンと飛びでたひと房の髪をヒョコヒョコ動かしながら『ん~~~?』と考え、

 

「あぁ、すみません。そういうことですか!」

「そう、そうなのよ! 極普通に思った事を――」

「美味しいお魚が取れる可能性が高いって聞いて楽しみにしてます! 美味しい物を手に入れる手段が増えるのって貴重ですよね!」

 

 頭を抱えるアシュリー、気の毒な物を見る目を向けるゲイリー。

 そして再び首をかしげるアオイ。

 

「まぁ、とりあえずその事は置いといて……この海の何がおかしいの? って話だったわね」

「あ、はい。私、知っての通り海に関しての知識がないのでぇ」

「あぁ、それはよく分かったよ」

 

 ゲイリーが、少々汚れた手を海水で洗い、その指先を軽く舐める。

 やはり塩気が強いようで、顔をしかめるが、同時にこれが海水である事を再確認していた。

 

「やはり海である事は間違いない、か。ひょっとしたら、ただ馬鹿でかいだけの湖という可能性もあったのだが」

「まぁ、潮の香りもするしねぇ。となると、テッサが最初に思った通りなんだけど」

 

 アシュリーがこれまで歩いて来た道を振りかえり、それに続くように二人も振り変える。

 そこには、これまで突き立ててきた杭が刺さっている。

 今差している物、昨日差したもの、一昨日差したもの。

 それぞれ立てた時間は違う物の、それらはほぼ綺麗な直線で結ばれる。

 

「これだけの波があるのに潮の満ち引きがないのよ、この海」

「……あの、満ち引きってなんですかぁ?」

「…………………………あぁ、そこから説明する必要があるのか」

「?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 これまでトール達と共に暮らした拠点と、今の拠点には大きな違いがいくつかある。

 その筆頭が日光だ。

 これまでは森の中だったために、普通に活動する中でも日をさえぎる場所はいくらでもあった。

 だが、今いるのはかなり樹木量の減った林の中。

 それも少し歩けば遮るものが完全に無くなる野原が広がっている。

 つまり、直射日光対策はある程度必要だった。

 

「この帽子もトール君の世界の奴なんスよね? この模様……森林での隠密活動用のものッスかねぇ」

「迷彩柄と言っていたからそうなのだろう」

 

 頭にすっぽりと収まる迷彩帽を被ったテッサは頭の型に合うようにちょいちょい帽子を調整し、ようやくおさまりが良くなったのか満足そうにニコニコしている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さてさて、ボクの勘が合ってれば海の方もおかしいハズなんスけど……そうだったらどうするッスかヴィレッタさん」

「知るか」

「おっと、ツレないッスねぇ……」

 

 表情を消したまま、以前の拠点での作業場や食事場と同じものを組み立てるヴィレッタ。

 今は、調達してきた草を編んで屋根に当たる部分を作っているところだ。

 森の中でもそうだったが、寝床以外の日差し避けの場というのはあって損は無い。

 

「にしても、この女の人も起きないッスねぇ。さっさと起きて色々話してほしいんスけど」

「構成要素は不明だが、抜け落ちた髪を調べる限り、どうやらあのアンノウンと同じ物で出来ている」

「……最初っからそうだったのか、後からそうなったのかでかなり変わるッスけどね」

「今の内に確実に殺害しておいた方がいいのではないか?」

「隊長と一緒にそう提案して、トール君に却下されたじゃないッスか」

「アレは甘すぎる」

「そうッスかね? まぁ、その甘さに助けられている時点でヴィレッタさんはもうダメダメッスけど」

「…………」

 

 特に日差しの対策など必要ないヴィレッタだが、少なくとも仕事で手を抜いている様子は見られない。

 普通の人間では出せないだろう速度でテキパキ草を編み込んでいく。

 

「まぁ、おかげで今は一番便利な存在になってくれたわけッスけど」

「黙れ」

「はいはい、まぁ、ボクが同じ事言ったら本当に黙るのはヴィレッタさんの方なんスけどね」

「……くそっ」

 

 人に似せて作られた機械であるヴィレッタは、純粋な個体としては人よりもはるかに頑強で強い。

 アオイという例外こそいるが、その気になれば一人でここにいる人間は敵わないだろう。

 だが、そのヴィレッタが今ではその誰にも害を成すことはない。成す事が出来ない。

 

「テッサ」

「なんスか?」

「お前は、トールという人間に何を求めているんだ?」

 

 ヴィレッタが作業する横で、汚れてしまった衣類や布の洗濯――正確には渇き切った衣類を畳んでバックパックに詰めていたテッサはちょうど最後のシャツを詰め込み、

 

「んー。ボク達のまとめ役として頑張ってほしい……って事を聞いているんじゃないッスよね?」

「当然だ。私は、その更に先の事を聞いている」

 

 とりあえずの屋根にする部分は完成したのか、今度は木材を支柱として地面に突き立てて様子を見ている。

 この作業もえらく早い。

 

「帰還手段を見つける。我々三人の目的はバラバラだが、そこだけは共通のはずだ。なら、その先は?」

「んっふふー。分からないッスかぁ? まぁ、感情とか思想って物に疎いヴィレッタさんならしょうがないと思うッスけど」

 

 テッサは、隠し持っていた拳銃を手の平の上でクルクルと回す。

 これまでは隠す必要があったが、もう必要ない。

 その気になれば銃火器を作り出せる女がいるのだ。

 それに、この場に誰もいないことは確認済み。

 

「ボクはッスね、ヴィレッタさん。ボク達の世界には象徴が必要だって思うんスよ」

「象徴? 何についてのだ?」

 

 本来ならば何度か支柱を差し直したり、予想とズレて設置位置を考えなおしたりするものだがそのようなタイムロスは一切ない。

 電子頭脳、そしてそれと直結している機械の身体を持っているが故の計算の速さと正確さである。

 

「わかんないッスか?」

「わからんから聞いている。これが会話という物だろう」

「まぁ、そうッスけど」

 

 テッサはバックパックを一度背負い、耐久性に問題ないか確認するように二,三回ぴょこぴょこと飛び跳ねている。

 ヴィレッタはなんとなく、トールがここにいれば目の前の少女から目を離さなかっただろうなと考えていた。

 主に、揺れている一部を見ながら。

 

「ま、今は内緒ッス」

「今は?」

「秘密のままって訳にもいかないッスからね。トール君を襲った件は、ボクにとってはもう終わったこと。ヴィレッタさんとも仲良くしていきたいッスから」

 

 ニコニコと、それこそトールやゲイリーあたりならば騙せそうな人懐っこい笑みを向けられたヴィレッタは、顔にこそ出さないが声は明らかに不快そのものだった。

 

「テッサ」

「ういうい、なんスか?」

 

 バックパックを背中から下ろし、被っていた帽子を脱いでわきに挟み、もう片方の手で自分の髪に手櫛を入れたり汗を拭ったりしている。

 絵になる。

 ヴィレッタはそう思いながら口を開く。

 

「お前、まさか――」

 

 テッサはトールという男を連れ帰りたいと言い、アオイはトールという男と共にここにいたいと言っている。

 つまり、相いれないのだ。テッサとアオイという二人の女は。

 少なくとも、今の所。

 

「私を武器とするつもりか?」

 

 アオイという女と戦うための。

 そうヴィレッタが問いかけた瞬間、テッサはニッコリと笑って

 

『跪け』

 

 たった一言、そう命じる。

 途端に、支柱や支えを組み合わせていたヴィレッタが、まるで地面に膝蹴りを喰らわそうとしたような勢いで両膝立ちになる。

 本人は反射的に立ち上がろうと脚や腰、しまいには両手を付いて四つん這いの様な態勢になってまで力を入れているのだが、膝から下はビクともしない。

 

「きさ――ングッ!」

 

 テッサに対して何を言おうとした瞬間、ヴィレッタは地面とキスをする羽目になった。

 テッサが思い切り頭を踏みつけ、そのままヴィレッタを土下座させるような形に押さえつける。

 

「それ以上はダメッスよヴィレッタさん。トール君曰く、口にした事は本当になるコトダマっていうのがあるらしいッスから」

 

 ジャリッジャリッ、とテッサがヴィレッタを踏みにじる。

 ヴィレッタが抵抗しようとしているのは分かるのだが、力んだ手足が震えるだけで身動き一つ取れない。

 テッサが「そのままでいてくださいッスね?」というと震えすら無くなり、完全に無力化されたただの人形が地べたに転がる事になる。

 テッサはその場にしゃがんで、ヴィレッタの髪を掴んで持ち上げる。

 端整な――いや、端正に作られた顔が土で汚れている。

 

「く……そ……っ」

 

 悔しそうに睨みつけてくるヴィレッタの顔を更に引き寄せる。

 罵倒の後に何かを続けようとしたヴィレッタの口は、軽くあえぐだけで声らしい声が出ていない。

 

「どうしたんスか? 喋る事は出来るはず……あぁ、さっきのボクの言葉がダメだったんスかねぇ? なるほどなるほど」

 

 ふぅん? とテッサは顔を近づけたと思ったらヴィレッタの首元、肌が露出している部分に軽く唇を落とす。

 そしてすぐさま――全力で歯を立てた。

 

「ぅあ……ぁぁっ……あっ!」

 

 テッサは、ヴィレッタの反応を楽しむように噛むのに強弱を付けて遊ぶ。

 そして一通りの反応を楽しんだテッサは口を開け、しっかりと付いた自分の歯型を舌でなぞる。

 

「いやはや、元生身っていうならともかく生まれから完全に機械だって言うのに……疑似五感ってのも困ったもんスよねぇ?」

 

 本来は自分の物である凸凹を確認するようにゆっくりと舌を進めるテッサ。

 ヴィレッタは苦悶なのか快楽なのか分からないうめき声を漏らすが、手足は全く動かない。

 

「ヴィレッタさん、これ以上色々と奪われたくないなら、あんまり口は開かない方が利口ッスよ?」

 

 テッサは髪を掴みあげていたヴィレッタを横へと放り捨てる。

 落とした衝撃で土まみれの顔が軽くバウンドするが、その後身動きも取れずヴィレッタは微かに息を荒げたまま身体を力なく横にする。

 

 身体を起こそうとした瞬間にまた踏みつけようとしていたテッサだが、ヴィレッタがピクリとしか動かない。いや動けないのに気付くと、軽く鼻で笑う。

 そして、軽く蹴り飛ばしてあおむけにさせると、勢いよくお腹の部分にお尻を下ろす。

 がはっ! とむせるヴィレッタに構わず、テッサは短めの髪をいじってから迷彩柄の帽子を被り直す。

 

「でも、そッスねぇ。正直、ヴィレッタさんにそうするように命令しても勝てるとは思いませんし、トール君が介入したらそっちの方が優先されるようッスから……ん~~~~」

 

 わざとヴィレッタを苦しめるように重心を左右に振り、その度にあがる苦悶の声をBGMにテッサは思考に入る。

 

(でもそッスよねぇ。仮にこのままアオイさんと敵対してトール君をかっさらっても意味ないッス。トール君に悪い影響が出てしまう可能性が跳ね上がる)

 

 むせる音が薄くなったのが気に入らないのか、テッサはヴィレッタの喉に手を乗せ、徐々に体重を掛けていく。

 それで苦しみを感じることはあっても、死ぬ事がない事を理解しているためだ。

 

(となると、やっぱりあからさまな敵対は悪手ッスね。今のアオイさんなら、こっちが意見を言った程度で殺しに来るとは思わないッスけど、トール君にかなり依存しているのには変わりないッスもんねぇ)

 

 機械だから呼吸の必要はないはずなのだが、ヴィレッタは苦しそうにもがいている。

 恐らく首に体重をかけている腕をどかそうとしているのだろうが、僅かに腕や足が震えるだけ。

 そう。ヴィレッタという個体は、今完全に非力なただの人形なのだ。

 

「そうッスよねぇ」

 

 腰の位置をゆっくりずらして、仰向けのヴィレッタにまたがるテッサ。

 首を絞めていた手をゆっくりと撫でるようにずらして、少しずつ服の中へと手を入れて鎖骨へ、胸へと服を広げながら手を伸ばしていく。

 

「やっぱり最初は話し合いから始めないと、痛い目を見るッスよ」

 

 ろくに抵抗できないヴィレッタの微かな抵抗を楽しむように身体を撫でまわすテッサは、その様子を見て再び軽く鼻で笑う。

 

「ねぇ、ヴィレッタさん?」

 

 完全に見下した態度のテッサに、だがヴィレッタは何も言えず、何もできず、ただテッサが手を止めるのを待つしかなかった。

 

 


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