異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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幕間~サムライガール&カニバル・アルケミスト~

 湖の拠点とは、ある意味トール達のグループにとって最初の家と言える場所かもしれない。

 最初の上流拠点は、本当に夜を越すだけの場所だった。

 

 しっかりと留まり、新しく何かを作って、暗くなる前に火の用意をして、焚火に当たりながら食事の用意をして、雑談をしながら縄を編んだり木を削ったり……。

 

 本当の意味で生活が始まったのは、やはりこの場所なのだ。

 

「またここに拠点を作るって最初は二度手間だなぁと思いましたけど、意外に悪くないですねぇ……」

 

 一度壊してまた建て直したシェルターは、数こそ減っているが、かつての場所とほぼ一致している。

 

「あぁ、アオイ君。回収した獲物の処理は一段落したよ」

 

 出来るだけ真っ直ぐで、それなりに長さのある枝や倒木の先端をナイフで鋭く削っていたアオイに、クラウが声をかける。

 

「あぁ、お疲れ様ですぅ。ヴィレッタさんは?」

「一通り吊るして乾燥の用意まで終えた所で、念のために周辺の罠の再確認に行くと言っていた。ほら、えぇと……『ナリコ』だったか?」

「あぁ……」

 

 事前にトールにトラップスキルで調べてもらった、警戒用の罠。鳴り子。

 紐に引っ掛かれば、それと繋がった木の板と、そこに当たる様に仕掛けられた複数の枝がカランカランと音を立てる――まぁ、それだけの罠である。

 

「設置したのはこの周辺だけなので、そんなに時間はかからないでしょうねぇ」

「あぁ。こっちも作業は進んでいるようだね」

「まぁ、進んだとはいえ、さすがにまだまだ数が足りませんがね」

「手伝おう。縄も正直、足りていないしね」

 

 アオイがやっているのは、この拠点をしっかりと囲む柵の材料作りである。

 大きな野生動物が簡単に入り込まない様にというのもあるし、ここに確かなグループのテリトリーがあるというアピールになる。

 

(……あえて、シェルターの数を増やすのも手ですね)

 

 大人数の拠点だという事をアピールすれば、相手も警戒して時間を稼げるかもしれない。

 あるいは、表向きは友好な接触を促せるかもしれない。

 

(まぁ、まだ相手が集団だと決まったわけじゃあないですしねぇ)

 

 アオイは、ここの安定と死守こそ重要だと考えていた。

 他に誰もいないのならばともかく、他の人間がいるかもしれないとなれば、ここを渡すわけにはいかないと。

 

(まぁ、今のトールさんならどうとでもなる問題かもしれませんけど……)

 

 先日の密会。今いる二人とトールの計三人でのやりとりを思い出して、アオイは苦笑する。

 

「まぁ、とりあえずお願いします。二つに枝の山を分けてますけど、とりあえず私から見て縦にまっすぐ積んであるのが、地面に突き刺す用の物ですのでぇ……」

「あぁ、どちらかの先端を尖らせればいいんだね?」

「あと、反対側は面取りお願いしますねぇ? そのままだと、打ちつけた時に割れちゃうかもしれませんのでぇ♪」

「分かった。道具は?」

「先日の鹿さんの肩甲骨で作ったノコギリがありますのでそれで……。断面を出来るだけ綺麗にして角を削れば大丈夫でしょう♪」

 

 後に地面に突き刺し、石でたたいて打ち込むための枝だが、この時に叩く所の断面が綺麗でなければ、石で打ちつけた時に割れてしまう可能性がある。

 そのために叩く所を可能な限り平らにして、円周部の角を取り除く。

 地味だが大事な作業だった。

 

「そうだ、食糧の分配はどうする?」

「そうですねぇ。まぁ、今日一日で燻して明日渡しましょう。後でヴィレッタさん経由で向こうとの報告会がありますので、その時に改めて相談ですかね」

「……おおよそ、三分の一くらい渡せばいいかな」

「ですねぇ♪」

 

 本日の成果は中サイズの魚三匹に兎一羽。

 今は全てさばいた上で、適当に作った肉などを吊るす干し竿に吊られて、今は天日干しされている。

 水気がなくなれば、今度は煙で燻してとりあえずは完成だ。

 

「量はそんなにないですからねぇ。まぁ、向こうには鹿さんのお肉がありますし……それくらいでいいでしょう」

「そうだね。こちらは人数が少ないとはいえ蓄えがほぼゼロだから……」

「トールさんも当然それは分かっていますし……。まぁ、その分こちらは態勢を整えたら狩猟に力を入れる必要がありますねぇ」

 

 もっとも、アオイは食糧に関してはそこまで心配していない。

 まだ泥抜き用の器がないし、すぐに食べられるわけではないがあの小さい貝がいる。

 加えて、味は酷いらしいが一応食べられる小さい小魚も湖で大量に繁殖しているのを確認している。

 

「……あ、そうだ」

「ん?」

「クラウさんって一応武器とか扱えるという話でしたが、実際どうなんです? 獲物のトドメ刺しとかいけます?」

「あぁ、そういえば説明していなかったな」

 

 クラウは腰にぶら下げているナイフを右手で抜き、ポケットに突っ込んでいた左手から針金の束を取り出す。

 

「私は、私自身で特殊な加工を施した金属を自在に操る事が出来る」

 

 針金を親指の付け根で挟んだまま、人差し指と中指でナイフの切っ先を挟む。

 そしてそのまま柔らかい粘土を引き延ばすような気軽さで、ナイフを引きのばす。

 より細く、より長く。

 

「このように形状を変えたり、強度をある程度操作したり動かしたりする事が出来るんだ」

 

 ナイフを元の形に戻すと、今度は針金がウニュウニョと、まるで蛇のようにくねり出し、鎌首をもたげる。

 

「軽ければ軽い程自在に操れる。まぁ、工房どころか材料もないし新しく作ることは出来ないが――」

 

 手元のそれらから、アオイの方へと目を向けるクラウ。

 すると、眼の前にいたはずのアオイが消えていた。

 

「――っ!!」

 

 咄嗟にクラウは、『私』から『自分』へと切り替わる。

 

「ちぇすとー」

「ふぁあぁぁぁぁあぁぁうっっ!!!!!!!」

 

 首筋に薄ら寒い物を感じた『自分』――クロウは、直感に任せて針金を操り、いつの間にか背後に回っていたアオイが自分の首を目掛けて振った刃を何重にも絡め取り、渾身の力で食いとめる。

 

「うぉぉぉぉいアオイさん!? 一応自分はアンタと和解したはずじゃ――」

 

 ギリギリと針金に強度を込めながら反論を試みるクロウの目に入るのは、先ほどまで枝を削っていたナイフの切っ先。

 

「ちぇすとー」

「のぉぉぉぉぉぉぉうっ!!!!!!」

 

 やはりクロウの首元を狙った鋭い突き。

 クロウは咄嗟に鞘に収めかけていたナイフを軽く振るい、長さと強度を調節しながら向かってくる切っ先を受け流す。

 

「おぉ~~。なるほどぉ」

「なるほどぉ、じゃねーんだよなんなんだ一体!!!」

 

 刀に込められた力がわずかに緩んだ瞬間、素早く針金を引き戻して後方に飛び、距離を取るクロウ。

 対してアオイはのほほ~んとした態度で、

 

「いえいえ~、いざという事態が起こった時のために力量を計っておこうと思いましてぇ」

「すんっっっげぇ殺気を感じたが!!!?」

「ご安心くださぁい♪ ちゃんと薄皮一枚は残すつもりでしたよぉ?」

「それにしてはえらく殺気がヤバ……え、残す? 皮を?」

「はぁい♪」

 

 絶句するクロウ。

 ニコニコするアオイ。

 

「まぁ、実力の方は分かりましたぁ。クラウさんの方はともかく、クロウさんは十分戦力として数えられますねぇ。何気にアシュリーさんやテッサさんよりも強いんじゃないですかぁ?」

「い、いや、アイツら力も速さも自分以上だし……」

 

 一歩前に出るアオイ。

 一歩後退するクロウ。

 

「まぁまぁクロウさん。クラウさんも含めて仲良くやっていきましょうよぉ♪」

「お、おう」

「というわけで、お仕事お願いしますねぇ? 明日明後日までには、とりあえず柵と門くらいは完成させたいのでぇ♪」

「あぁ、分かった。分かったよ全力尽くす。だからその剣から手ぇ離せ」

「剣じゃなくて刀ですぅ~」

「知らっっねぇよ!!」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇすとー」

「同じ手を何度も喰らうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「おい、鳴り子の動作確認を終えて……なにを遊んでいるんだ貴様ら」

 

 

 

 

 

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