異世界サバイバルに、神様なんていらない!   作:rikka

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PC死亡からの買い替えと慣れもあって随分時間かかってしまって申し訳ありません。
断じてsteam整理してFallout4やThey are billionsにハマっていたわけではないのです。


068:『はじまり、はじまり』

「あ~。あ~あ~あ~、そうか見覚えあると思ったら……」

 

 ヴィレッタを介して向こう側と明日の食糧の分配についての話し合いが終わった所で、ちょうどアシュリー達が戻ってきた。

 その時に白い髪の人がアシュリーと会話しているように見えたから、これは色々聞けるかもしれないと思ったが……。

 

(本当に俺の世界の人間だったかぁ)

 

「そういえば、君は彼女に見覚えがあるようなないようなと言っていたが、わかったのか?」

「何年か前に、日本で初めてのツアーを開催する予定だった外国の人気バンドが突然マネージャー含めて全員謎の失踪したとかってニュースで……金髪だったし髪型違うし気が付かなかったな」

 

 いつくらいだっけか。自分が中学……一年の時だっけ?

 

「あなた……日本人?」

「そうです。色々と事情があって、今はトールと呼ばれてますけど」

 

 ……おい、小さく笑ったな?

 いや、分かるよ。

 うん、凄く分かるよ。

 

「グレースさんは――」

「グレース。……グレースでいい」

「……わかった。グレースはいつからここに?」

 

 ずっとアシュリーのどこかを掴んでいるグレースは、空いた手で木匙を使って、フライパンから白湯を掬って口にする。

 

「もう時間の感覚はないけど……多分、三年くらい。……三回冬を経験してるから」

 

 やっぱ冬があるのか。

 内心、シェルターの増強――いや、家の建築や暖の取り方の重要度を上げて、差蘭位聞いてみる。

 

「これまでどうやって? 服がかなり綺麗だけど」

 

 白を基調としたセレモニースーツは滅茶苦茶綺麗だった。

 泥どころか土埃の汚れすらない。

 

「分からない……。この服も、二回目の冬の時に燃やしたから」

「ふむ」

 

 燃やしたってことは、燃料にしたのか。

 

「二回目の時に燃やしたって事は、一年目の冬は生き延びられたんスねぇ」

「……コロニーがあったから」

「? コロニー?」

 

 小さく頷くだけのグレース。

 口を小さく開いては閉じる彼女を見て、アシュリーが苦笑しながら話す。

 

「アタシ達は完全に森の中に放り出されたけど、彼女達は最初っから建物の中にいたらしいの」

「建物?」

「えぇ」

 

 なぜか小さく震えだしたグレースを抱き寄せ、頭を撫でながらアシュリーは続ける。

 

「とてつもなく大きい透明なドームの中にいくつもの建物があって、一応生きていくだけの設備は整ってたらしいわ」

「設備?」

「水の浄化設備、食糧プラント、空気の循環設備。……最低限とはいえ、かなりの物だと思うわ」

「……何人くらい住んでたの?」

「たくさん。でも話を聞く限り、多分200人前後だったんじゃないかって推測してるわ」

「200人、か」

 

 自分のクラスが36人。単純計算で5,6クラス分。ちょうど一学年くらいはいた計算になる。

 

(そんな設備があれば、遠くからでも分かるはずだ)

 

 自分達が来た方向の反対側にあったのか、あるいは――

 

「ドームの中に、更に建物があったんだよな?」

「らしいわよ?」

「じゃあ、ドームの外は?」

 

 これに関しては聞いていない事だったのか、アシュリーがグレースに改めて尋ねる。

 

「え……と……、よく分からない設備がある方向の外には砂漠が広がっていて、反対側は森に覆われていました」

「外には出なかったのかい?」

 

 縄を編んでいるゲイリーが尋ねると、彼女は首を横に振る。

 

「……出入り口が見つからなくて」

「出入り口がない?」

 

 なんじゃそれ。

 

「じゃあ、例えばドームの一部を壊して外に出ようとした人とかは……」

 

 またもグレースは、首を横にふる。

 

「いたかもしれないけど……知らない」

 

(んー、なるほど。まとまったグループって感じじゃないっぽいなぁ)

 

 そもそも200人もいりゃあ、仮に一人のリーダーがまとめていたとしてもその中で色んなグループが出来てただろうし当然か。

 

「最初の一年は上手くいってたんです……。突然知らない所に連れて来られてパニックを起こす人は少なくなかったけど……食糧プラントには機械が育てて収穫や解体している野菜やお肉がたくさんあって、日光がピリピリするほど熱い夏でも、外で雪が降るような冬でも……中の温度は快適で……」

 

 最初の一年は。

 つまり、次の年は……。

 

「最初の秋の時に、食糧プラントの機械が少しずつ調子悪くなって行って……」

 

 グレースが、お茶――恐らく彼女にとって未知のモノだったのだろう――の入った不格好な木のカップに恐る恐る口を付ける。

 

「最初は決まった時間に水を撒くスプリンクラーが止まってしまって……その時は水やりを当番制にするだけで良かったんだけど……。今度は収穫してた機械が、その次には家畜の自動解体装置が……他にもドンドン動かなくなって行って……」

「……食べる手段がドンドンなくなっていったって事か」

 

 俺たちは、そもそも手持ちの物以外何もないスタートだったからある意味協力しやすかったけど、最初から生活が安定してたら、多分すぐにバラバラになっていたと思う。

 特に、アシュリーとゲイリーの対立は避けられなかっただろう。

 

「まぁ、大体はわかったッスよ。大方、設備が信じられなくなっていって人力での管理に移行。だけどそれで派閥争いが激化して食料の独占や奪い合いが始まったってとこッスかね」

 

 テッサがそう言うと、グレースは小さく肩を震わせる。

 細部はともかく、当たらずとも遠からずといった所だろう。

 

「トール君、とりあえず今日の質問はここまででいいんじゃないかしら? 本人もまだ良くわかっていない所も多いし」

「? わかってない所?」

 

 グレースを抱き寄せ、アシュリーは優しく肩を叩きながら、

 

「ある程度は分かったんだけど、目が覚める前……つまり、自分がどうしてここにいるのかがよく分かっていないようなのよ」

 

 アシュリーの腕の中で小さく頷くグレース。

 なんというか、スゲー懐いている。

 口が悪いかもしれないが、犬か猫のようだ。

 

『トール君』

 

 唐突に、頭の中にアシュリーの声がする。

 

『それで、まだ例の化け物の話はしていないのよ。最後に覚えていることの話から話題を誘導しようとしたらそんな感じで……』

 

 申し訳なさそうなアシュリーの声に、だが返し方が分からずに小さく頷いて答える。

 練習相手だったテッサや、多分スキルとかが影響してるんだろうヴィレッタ相手なら苦労しないんだけどなぁ。

 

「とりあえず、事情は分かった」

 

 やっぱり、探索にも力を入れるべきだろう。

 そもそも周辺の状況もわかっていない現状だ。

 島なのか? それとも陸続きの場所なのか? それすらわかっていない。

 それに、グレースのいうコロニーどころか建築物の影すら……

 

(あぁ、いや……例の地下施設っぽいモノがあったか)

 

 調べなきゃいけないものがたくさんある。

 だが同時に、やっておくべきものもそれなりにあるわけで……。

 

「食料はともかくとして、さすがにそろそろ寝床もキチンとした物にしないと限界だよなぁ」

「そうねぇ。人数増えたし、こういってはなんだけどほとんど女の子だから……もうちょっとプライバシーは欲しいわ」

「ですよねー」

 

 特に今は、急遽作り直した簡単な差し掛け小屋。ぶっちゃけ普通に丸見えである。

 まぁ、風を避けるためにほぼ全員向きは同じなのだが、用を足しに起きた時などにチラッと寝顔を拝めてしまうことがある。

 

「でも、家ってどうやって作ればいいんだろ?」

「…………」

 

 おうこっちみろや。

 

「トール君、例の素焼きでレンガみたいなもの作れないんスか?」

「んあ? 出来ないことは思う……いや、できるみたいだけど」

 

 テッサに尋ねられてとっさにスキルで確認する。

 うん、できることにはできるんだけど……。

 

「これ積み重ねて家ってできるのか?」

 

 よくわからんけど、隙間とか空きそうだし安定する気がしない。

 家の作り方って(スキルのための)脳内検索をかけてみるが引っかからない。

 あれかな。建築とかそっち方面じゃないとダメなのだろうか。

 

「んー。粘土を混ぜた泥とか挟めば安定するんじゃないっスかね。サバイバル講習でそんな小話を聞いたような気がするっス」

「あぁ、だったわね。寝床づくりなんて急繕いさえ覚えておけば問題ないし、アタシ達は」

 

 ですよね。

 軍だったっていうなら速さの方が重要だろうし、そもそもしっかりした設備とか作るんだったら補給品で立派なテントとか来そうだし。

 アシュリー達の世界なら、やたら高性能なのがありそうだ。

 

「乾けばいい……のかな。屋根はじゃあ藁とかで?」

「こっちも焼き物じゃダメかしら? 素焼きで使った板をつないでいくか……それか、U字型の瓦を作ってして……こう……交互に合わせ重ねる感じ」

 

 子供が手で再現する恐竜を噛み合わせるような感じのことをするアシュリーに、まぁなんとなく言いたい事は分かる。

 

(となると、それなりに長い瓦を焼くか、あるいはつなぎ合わせるか。さてどうしたものか)

 

 少々工夫はいるだろうが、どうにかなりそうなレベルではある。

 問題はそれだけ大量の物を用意するために、どれだけ時間がかかるかということか。

 

(地下の方も、出入り口見つからないならいっそ穴掘ってヴィレッタが作れる一番強力な銃で壁に穴開けて強硬突破って方法もあるんだが……)

 

 今度向こうに行った時に、あの障壁の材質も詳しく調べてみるか。

 前見たとき新しい発見に興奮しまくって冷静さを失ってたからなぁ。

 こういうのは絶対どっかに入り口があるはずだというゲーム脳も真っ青な思考の元に周囲を探索したらこれだもんなぁ。

 

「衛生関係にも関係あることだし、明日は建築に関してもいろいろ試行錯誤――いやそうだな、きちんと風や水に耐えられるかどうか、試しにレンガみたいなものを作ってみるか」

 

 うまくいけば、量産した上で積み重ねて簡単な小屋みたいなものを作ってみよう。

 問題い当たらなければそれを拡張する形で。

 

 とりあえず水に耐性があるかどうか、浄水器作って試してみるか。例の円錐を重ねた奴はぶっちゃけ上手くいかなかった。もっと大きくしてぎっちり中身詰めた上でしっかり上から押さえないと、ただただ水が上から下へと流れるだけだ。

 

(やること、多いなぁ。考えることも)

 

 例の人の気配も今のところよくわからないし。

 

(状況が動くまではとにかく基礎固め、か)

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 それは、人と変わらぬ大きさである。

 それは、石や砂で構成されている。

 それは、呼吸を必要としない。

 それは、命あるものではない。

 

 だが、見ている。

 焚火に照らされた男女の姿を。

 監視の対象となっているものを。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

――対象『███ - Sstp-E-J-██████』を対象とした監視可能エリアへの到着完了。現在の状況を送信…………完了。

 

 

――指令の再確認。実験対象『███ - Sstp-E-J-██████』のデータ習得、およびメンタルマップの作成、および送信。

 

――了解。

 

 

 

 

――『第██次████実験』を開始します。

 

 

 

 

 


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