まぁ勢いで書いた作品だから気楽にみてくだせぇ…。
取り外した腕を目の前に、手首のジョイント部分を一瞥し破損が無いか、何処に異常があるのか確認してみるも素人目には分からないのか首を傾げたスクラッチは手を止める。
汚れを落として中の弾倉を確認、昨日使った分を補充して特殊弾の替えを入れ、シールドとなる装甲部を取り外し剥き身になった義手を見つめる。
壁に掛けられた時計を一瞥すると立ち上がり、自室を出た彼はこの時代では高級品なコーヒーを淹れ始める。毎日毎日カフェイン中毒とも思える程に飲み続ける友人を思っての事だった。
「…………ふぁ…」
背後で小さな欠伸を聞くと彼女愛用のマグカップを軽く水洗いし、コーヒーを注ぐ。流石に二人分は持ち運べない、それなりの時間を寝ただろうに隈は消えず獣耳をピコピコさせ瞼を擦るぺルシカリア。
どんな原理でその髪なのだか耳なのか分からない物体を動かすのか、それはスクラッチの永遠の疑問であった。
「ほれ、ぺルシカリア」
穏やかな口調でマグカップを差し出したスクラッチ、彼の言葉にゆっくりと反応した彼女は首をそちらに向けマグカップを両手で受け取ろうとして固まる。
「…あ、あれ、腕、は?」
「不調だから外した、悪いけど時間が空いたらメンテナンス頼む。………何もないよ、そんな顔すんな」
途切れ途切れの言葉と、目に見えて動揺した様子にスクラッチは理由が分かったのか薄く笑みを浮かべて困ったようにそう告げる。
「寝ぼけてるなぁ、ほらコーヒー飲んで」
「……うん」
「ナガン婆ちゃんも朝だぞー、起きろー」
「うぅ……、眠いんじゃー…年寄りを労われ……」
「年寄りは朝早いんだぞ婆ちゃん」
矛盾してるんじゃ、と恨めしそうに呟いて帽子を被った金髪幼女を横目に周囲を見渡し、時計をもう一度確認するとぺルシカに対し口を開いた。
「今日は他の人が来ないな、何かあったのかな?」
疑問を口にしながらも自分の携帯を胸元から取り出し、ウェブニュースを流し見してみるもそれらしき情報は流れてこなかった。
ならばと未だ機能しているSNSへと進めようとした指はぺルシカの言葉で止められた。
「今日は休みにしたから…」
「はっ!?」
唐突な友人からの休み宣言にスクラッチは思わず声を上げ、洗面台向かって歩き出したナガンはつんのめり、当のぺルシカは不満そうな瞳で彼を睨みつける。
彼の驚きは至極真っ当な疑問からだった、彼女個人に雇われている自分は一概に彼女の一言で休日など簡単に手に入るが、彼女はあくまでもI.O.P.社『16lab』の主任研究員でそこまでの権限があるのかという疑問だ。
彼女の表情と周りの状況を加味するに権限があるらしい、しかしそれにしても研究と人形が恋人、とでも公言しているような彼女が休日を作ったというのが驚きでもあったのだ。
「………もういい、腕持ってきて、直すから」
私怒っています、そんな言葉が聞こえそうな仏頂面でぺルシカは手を差し出した
ぺルシカが使っているデスクは散らかっている、それはもうキーボードの周りには長い髪の毛が落ちていたり、乱雑に置かれた書類の束、ふとした時に口にしたビスケットの欠片を見るに明らかだった。
恐らく一週間以上は掃除をしていないだろう。とりあえず義手のメンテナンスを頼み、視界の端の作業机で真剣に俺の腕を弄繰り回しているぺルシカを見るとやはり天才なんだなと思う。
普段はずぼらでへなちょこ研究員の影は何処にもない。
「そういえば、この前ぺルシカがくれた特殊弾ありがとうな」
昨日の一件を義手を見て思い出したので、思った事をそのまま口にした。さっさと伝えておかないと忘れてしまうかもしれないからな。
するとどうしたか、よれよれ白衣の背中がピクリと動いて彼女の手が止まる。
「……なんで急に?」
「昨日なぁ、実はヘリアンに呼ばれて合コンに参加してたんだけど」
「え、なにそれ面白そう。結果は聞くまでも無いけど」
ピコッと後姿でも分かるくらいに大きく動いたケモ耳に苦笑し、彼女の容赦の無い言葉に息が漏れた。
「まぁ、結果はご存知の通りの結末でさ。悪酔いしたヘリアンさんを担いで帰路についてた時に変なのに絡まれた」
「だから腕の調子が悪かったのね、納得したわ。」
書類を纏める音とカチャリカチャリと部品が組み合わさる音が部屋の中で小さく響く。普段ならキーボードと話声、無数の排気ファンで充満する部屋が今は程よく静かで何となく居心地がよかった。
「それと、ヘリアンの合コン失敗14回目を惜しまないと。パチパチパチパチ」
「本人にソレ聞かれたら大変な事になるぞ……」
「どうせ直接会う事もないもの、平気よ」
意地の悪い笑みを浮かべて振り返ったぺルシカの手には俺の義手が握られており、機嫌が直ったのかそのまま俺の前まで来て徐にワイシャツを脱がし始める。
「きゅ、急に脱がすなよ!? 自分でやるから!!」
「もう裸を見てるんだから恥ずかしがること無いでしょ? 初心ね」
平然と発した言葉と余裕な表情のぺルシカ、何だか負けた気分にもなるのだがこの状況では勝ち目がない。というより今日はもうぺルシカの機嫌を損ねたくない。
顔が熱いが従うとしよう。
「………ホレ」
「はいはい、シールドの方の装甲は今ちょっとないからそのままでお願い」
「ありがとう、ぺルシカリア。助かるよ、本当に」
左肩の断面に接合された機械の窪みに義手の球関節にあたる部分を差し込んでくれる、接続が完了すると思った通りに手が動く事を確認し感謝の意を伝える。
前腕部分のシールドにあたる外骨格が無いのは心許無いが、それでもこうして休日に時間を使ってくれたことを感謝せずにはいられないだろう。
「う、うん………急に……それは、卑怯…」
「ん? 何か言った?」
「……いいえ、何も。どう、変な所ある?」
「大丈夫、流石は天才科学者ぺルシカだよ」
「褒めてもコーヒーしか出ないわよ」
「知ってる、ついでにそのまま風呂入ってきな」
「…………え?」
穏やかな言葉のやり取りをしていると、ラボのドアが開きナガン婆ちゃんがラフな格好で姿を見せたので目の前で疑問の声を上げた天才にニッコリと笑いかけてやる。
「もう何日も風呂に入ってないだろ? そろそろ入ってくると良い」
「……なんで分かるの?」
「髪の毛ゴワゴワしてるし、服もよれよれ。ずっと見てたんだ触らなくても見たら分かるよ。 人形が好きでも最低限生活はしないとな、婆ちゃん、お願い」
「全く、人使いがあらいのう。スクラッチ」
「婆ちゃんしか頼れないんだ、よろしく」
やれやれ仕方ない、なんて機嫌が良さそうな顔で唖然としているぺルシカの白衣を引っ張ってラボを後にした婆ちゃんに感謝しつつ。
自室から持ってきていたノートパソコンを開き、届いていたメールに返事を返す。ヘリアンさんからも来ているな、後にしよう………。
さて、二人が戻ってきたら何をしようか。古い映画なんか良いかもしれない。
『ぺルシカ、何をニヤニヤしているんじゃ?』
『別に、何でも無いよ~』
『どう考えてもあったとしか思えないんじゃが……、スクラッチは何を言ったんじゃ?』
『んー………ヒミツ』
『秘密だらけな奴らでわしは頭がパンクしそうじゃ~……』
『ずっと見てる、か…………ふふふ』
『流すぞー』
「この映画、ゾンビ映画なのにだいぶコメディね」
「マイナーな映画だけど面白いから俺は好きだよ」
「ほう、ゾンビの真似をしたら襲われんのか……。E.L.I.Dにも通用するのかの?」
「「無理」」
「残念じゃ……」
「音楽に合わせてゾンビ叩くとか、案外余裕あるんじゃない?」
「慌ててる時って変な行動取る事あるし、俺は好きだよ、このシーン」
「あの太っちょは何をしたいのか分からんのじゃ」
「そういうキャラ、必ず居るわよね」
「そうしないとゾンビ物は慎重なだけの主人公で話が進まないから仕方ないね」
「最後の最後で軍が出てくるのね……」
「まぁ、ゾンビ物は最後は脱出か全滅か、が大体だから俺はこの終わり方好きだよ」
「頑張れば全員生き残れそうだったのう」
「それで最後は元の生活にって、ある意味凄いわね」
「ダブル主人公だと思ったらこの終わり方とは……、何とも奇妙な話じゃ」
「頭空っぽにして見れて面白いから好きだよ、俺は」
「それじゃ次は――――」
「「ゾンビ以外(じゃ)」」
「アッハイ」
短いのは気分転換と勢いを乗せたせいだからです。
のんびり緩々と書いていきますのでお気に召しましたらどうぞよろしくです。