変人と合コンと傷アリ、偶に人形   作:シアンコイン

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トラウマと義手とただいま

 

 

 

 

「それじゃあ、この書類を明日までには纏めておいてくれるか?」

 

「はい、分かりました」

 

「うん。まぁ今日、明日と主任が働かないだろうから10分くらい休憩してからで良いよ。よろしくね」

 

『16Lab』には勿論ぺルシカリア以外にも社員が居る、その中で今声を掛けられていたのは入りたての将来有望な女性社員だ。

新人としてまずは小さな雑用をしながら仕事を学び、やがてはぺルシカのサポートをする立ち位置。

 

よってまだぺルシカリアという人間を掴みかねている事、ラボ内が冷蔵庫を思わせる位に寒い事。偶にラボに顔を出す頬傷の男の事もまだよく分かっていなかった。

今日も今日とて、天才と呼ばれるラボの主任ぺルシカリアは朝に適当に仕事を終わらせ、戦術人形の巨大な腕らしきものを造り上げると『ちょっと考え事』と一言副主任に告げてラボの使われていない部屋に閉じこもった。

 

その始まりはつい三日ほど前だったと彼女は記憶している、ラボの中で自分にも声をかけて和ませてくれるM1895戦術人形がその光景を見て

 

『メンドクサイ奴らじゃ……ホントに……』

 

なんて呟いていたのも記憶に新しい。いつもニコニコしている彼女を知っている手前、こんな呆れたような顔を見るのは意外で印象に残ったのだろう。

ぺルシカリア、戦術人形の核であるコアを開発し、烙印システムを開発した戦術人形の根本を作り上げた誰もが認める天才。

 

天才は何処か頭の螺子が飛んでいる、そう誰かが言っていた。

普段のだらしない姿を見ていれば何となくソレが理解できるような気がしたが、人をそう簡単に理解など出来るものではない。

 

手にした紙コップの中から白い湯気が上がり、温かい飲み物を口にした彼女は時計を一瞥しそろそろ仕事に戻ろうかと思った矢先の事だった。

 

「―――………いないな…」

 

徐にラボの扉が開き、何度か顔を見た頬に傷を持つ男が顔を見せた。普段は黒い長袖のジャケットだが、今日は上下迷彩柄の服装で左腕が肩から丸々存在していなかった。

空の袖が空調で揺らされ無い事が強調されている。どうやら突然の登場に彼女の先輩達も驚いたのか話し声が途絶え、遠くで何事かと口にしているM1895の声が聞こえる。

 

そしてふと、その男の視線が彼女と重なり数秒立って男は口を開く。

 

「あぁ、どうも。仕事中にすみません、ぺルシカは何処にいます?」

 

開口一番にぺルシカの名が出て、気兼ねなく名前を呼んでいる辺りに若気の至りか、その関係が気になる。

先輩たちの話によればぺルシカとは旧知の中で、その腕を買われお抱えの警備員として雇われているとか………。

 

過去にぺルシカ関係で軍隊が動く事もあったというからにはおかしな事は何もないが、見た目からして強そうには見えない詳細不明の男がお抱えの警備員と言うのが引っかかったのだ。

実は見た目に反して凄腕の傭兵だとか、ぺルシカに改造された改造人間、はたまた旧知の中だから雇われた唯の友人、もしかすると恋び―――――

 

「―――あの、顔が赤いですけど……」

 

「ヒャッ!? あ、ああ、す、すみません。主任ならあそこの部屋に……」

 

トリップしていた思考が男の言葉で引き戻され、盛大にドモりながらも彼女はぺルシカが消えた部屋のドアを指さす。

居場所が分かった男は一言礼を言うと何か呟いてその部屋の中に消えて行った。

 

深呼吸を何度か繰り返して落ち着いた彼女は、冷静になった頭で考える。先ほどの服装は恐らくコスプレではない、明らかに何かがあった汚れ方をした服で平然としていた男。

やはり凄腕の傭兵なのだろうか、だから今回は雇い主であるぺルシカの命令でこの場を離れ、ぺルシカはその安否で引き籠りになったのではないかと。そして今帰還してその報告なのか……。

 

いや、ぺルシカに至ってはほぼこのラボから出ないという話だから引き籠りには違いないのだが……。

もう一つ気になる事は、左腕が無くなっても平然としていること、やはり改造人間なのか……。まさかぺルシカはその内人形と人間のハイブリッドを生み出すのではないかとオーバーロードし始めた思考は。

 

―――――ガッゴン

 

―――――バタタタタ

 

―――――ドン

 

 

「―――ちょっ!? 何!? ファッ!!?!??!!?!?!」

 

 

それなりに熱い壁を突き抜けて聞こえてくる、先ほどの男の悲鳴と騒音に彼女は現実に再び引き戻され。

 

「なんじゃ……スクラッチの奴、帰ってきておったのか…。」

 

何時の間にか隣に立っていたM1895ナガンが曖昧な笑顔で小さくため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お約束どおり、ウェルウッド、スコーピオン、ガーランドは連れ帰りました。途中鉄血のハイエンド機、処刑人と遭遇、交戦の末に退けましたがあの拠点はもう足が付いたでしょう」

 

クルーガーのおっさんを前に、左袖を揺らしながら淡々と今回の顛末を説明し小さくため息を吐く。

帰還からだいぶ時間が経ち、あの夜から二日目。気が付いたら夜が明けていた。それなりに久しぶりの実戦だったし仕方ないかとも思える。昔はこれが普通とかブラックすぎません?

 

「ご苦労だった貴重な戦力を連れ戻してくれて感謝する」

 

「貴重なら捨て駒にしないで下さいよ……、当事者でもないのにあの娘達を見たら俺が罪悪感で変になりそうでした」

 

帰還ヘリの中で数分前まで死線に晒されていたというのに、笑顔で談笑する戦術人形を見ていると彼女らの境遇に何も思わずに居られるわけもない

これでもそれなりに感受性があると自負している手前、よりその笑顔に痛む心もあるのだ。

 

「変らんな、お前は」

 

そんな俺を達観した様子で見つめるおっさんに肩を竦める、そんな顔されるぐらいなら甘い、と一言で切り捨ててくれた方が気が楽だというのにイヤな人だと思う。

 

「こんな世の中です、倫理が、人権だどうの言うつもりはありませんが自分位はマトモで居たい」

 

「真面か。だからこそお前は軍を辞めたのだったな」

 

「もう過去ですよ、過去。それに俺は別に戦いが好きだった訳ではなかったので」

 

「そうだな、引き金が引きたいだけの大馬鹿者だ」

 

「それに目を着けて来たのは隊長じゃないですか、ヤダー」

 

「お前のせいで何度弾切れになった事か、この傷の事は一生忘れん」

 

「一杯あり過ぎてワカラナイナー」

 

「お前とお揃いで頬傷だ戯け」

 

「クルーガーのおっさんとペアルックとか御免蒙ります」

 

「しまいには叩きのめすぞクソガキ」

 

「片腕無い人間に本気の軍人とか、大人気無いと思いません?」

 

良く回る舌だと思いながら何年ぶりかの懐かしいやり取り。

口調は荒いが平然と何時もの様子で言葉を返してくるクルーガ―のおっさん、従軍時代によくやったやり取りだ。一頻り言い合った後、もう終わりだと思い踵を返す。

 

「―――――また頼む」

 

「……、ぺルシカが良ければ俺は何時でも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフィンで連れ帰った人形達と別れを済ませ、早々にラボに帰った所何時もならデスク周りにいるアイツが何処にも居なかった。ラボを出るなんてあり合えないので偶然目があった研究員に居場所を聞いて俺の部屋に入る。

部屋の中で見えたのはパソコンモニターの光だけで淡く照らされたソファに、丸まるように寝転んでいるぺルシカだった。

 

「………(珍しい)」

 

心の中でそんな感想を呟いた俺は、ジャケットを脱ぐとデスク近くの椅子に腰かけて小さく息を漏らした。

首元や頬、髪の毛には飛び散った泥が小さく固まっている、早々に洗い流したい所だがどうしたモノか。

 

考えでは早々にぺルシカに帰った事を伝えてシャワーを浴びるという算段だった、しかし当の本人が寝ているとは計算外だった。

時計を一瞥すればまだ午後になって数時間、社員がまだ残っているような時間だが俺の部屋で昼寝をしている、加えて大好きな研究をほっぽってまで。

 

研究が行き詰ったのだろうか、それにしては荒れた様子は何処にもない。むしろ目に見えてムキになって今も研究していた事だろう。

本人が寝ても尚、本物の動物の耳の様にピコピコ動く耳をボンヤリ見つめながら起きそうにない事を確認して立ち上がる。

 

先に風呂に入るとしよう。意外と神経質なコイツにとやかく言われたくないからな。

 

「…んぅ……」

 

そう思いながら静かに歩き出せば彼女が寝返りをうって毛布がずれる。薄着に白衣しか着ない故に冷えそうで見ていられない。

起こさない様に毛布を掴んでもう一度掛ける。

 

「―――――んん……?」

 

僅かな動きを敏感に感じ取ったのか、小さく唸り瞼が動いてその赤い瞳と視線が合う。

何度か瞬いて徐々に開いた両目、何も言わずに数秒固まるペルシカ。何でか固まる俺。なんだこの構図、ゲーム序盤の初対面の主人公とヒロインか?

 

「……………、スクラッ…チ?」

 

やっとの事で口を開いたペルシカは信じられない物を見たような視線を俺に向け続ける。もしかして頭の中で俺の事勝手に殺したのかお前。

 

「あぁ、ただいま」

 

別にやましい事は何もないので俺は素直に言葉を返す、まぁ左腕の事は悪いけれど死ぬよりだいぶマシだろう。また作ってくれるとも言っていたしな(安直)

 

「――ッ」

 

そう考えていると唐突にペルシカは起き上がり、何も言わずに跳びかかりそうな勢いで迫ってくる。

無理な体重移動をした事で、背もたれを挟んで向かい合う形になったペルシカはソファを勢いよく倒しながらもバランスを崩さず迫ってくる。

 

鬼気迫る表情という奴だろうか、詰んであった暇つぶしの漫画や資料、古本を薙ぎ倒し真っ直ぐに迫ってきた彼女に何故か本能で逃げてしまう。

 

「ちょっ!? 何!? ファッ!!?!??!!?!?!」

 

しかしあくまで一人部屋として割り当てられた部屋の中ではそうそう逃げられるはずもなく、まさかの逆壁ドンである。

そして何を思ったのか、両手を伸ばして俺の顔を最初にペタペタと触り始め首、徐々に下がる形で身体を触り始めるペルシカ。新手の身体チェックかな。

 

呑気にそんな事を考えて天井を見上げているとその手がピタリと止まる。どうかしたかと思えばその手は左肩で止まっていた。

そして小さく震えている。

 

「……向こうで鉄血の異名付きと交戦したんだ、ごめんな。持ってかれたよ」

 

落ち込んだ様子で視線を下に向けている彼女に声を掛ける。しかしあの義手が無ければ今頃俺は良くて拷問部屋、悪くてあの場でなます切りだっただろう。

むしろ命を救ってくれたとも言えるのだ。ちょっと許してほしいと思う。悪いとは思うがケモ耳までションボリと言わんばかりに垂れているのは言葉に困るのだが。

 

「………いい…」

 

「ん?」

 

「もう、いいから…。腕なら作れる、から…」

 

「……………」

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

何時もよりも覇気が無く、平然としてもいない。

腕が無くなった事でまたトラウマが刺激され、責任を感じているのか。それは俺には分からないが彼女は進んで俺に左腕を与えてくれた。

 

それでもう終わった話なんだ、いつまでもお前が責任を感じる事柄じゃない。

眉を八の字にしながら無理に作った笑顔で声を掛けられても俺は嬉しくないし、苦しくなるからやめてほしい。

 

「俺を危険地域に送り込んだのが後になって不安になったんだろ?」

 

「ッ……」

 

俺の今の顔はどうなっているだろうか、呆れたような顔をしているのか、それとも苦笑だろうか。

 

「帰って来たんだ、夢でも幽霊でもない」

 

「………」

 

「触っただろう? ペタペタペタペタ、間違いなく俺、スクラッチだ。だからもう終わり、むしろありがとうな」

 

「え?」

 

感謝の言葉を口にしてそっと目の前で疑問の声を上げる幼馴染を抱き寄せる、両手とは行かない故に納まり片腕には収まらないがそれでもいい。

 

「ペルシカの義手に助けて貰った、何度もな。だから終わりだ、何時ものだらしない顔でニヤニヤ笑っててくれよ」

 

子供をあやす様にペルシカの頭をポンポン触りながら何時もの調子で笑って見せる。そろそろ本調子戻ってくれないと俺の心臓が過負荷で死にそう…。早く戻って(切実)

こちらを見上げていた彼女の目じりにうっすら涙が溜まっていた事に気が付くも、俺の胸に顔を埋めて数分すると、そっと一歩離れたペルシカは何時もの笑みとは違うスッキリした顔で笑みを作った。

 

「――――汗臭い」

 

「ヒデェ!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――次の日

 

 

「のう、スクラッチ」

 

「何、婆ちゃん」

 

「お主の左腕はそんなにゴツかったかのう?」

 

「あぁ、これね………。ペルシカが新しくくれた仮の腕」

 

「ほう……? 随分大きい腕じゃが、握力が強いのか?」

 

「ううん、ここのボタン押すとさ……」

 

―――ガッシャン!!

 

「……………………、アイア○マン……?」

 

「俺のパソコンで最初のを見たんだって……」

 

「何で赤くないのじゃ……」

 

「マークワンが一番頑丈に見えたんじゃない……?」

 

「心配しての行動がおかしい方向に向かっているんじゃ……」

 

「てか、さりげなくトニーよりコンパクトに仕上げてるの怖い」

 

「のじゃ……」

 

「~♪」

 





書くのめちゃくちゃ大変だったぞ…(真顔)
全体的に重くないように割り切りが早く書いたけど、こんな風にいつも書いてるし大丈夫だよね。

コラボイベントのエンフェルトきつくないっスか
S評価が安定しない、つらい……

そして評価ありがとうございます………。
感想ありがとうございます、励みになります……。

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