「…………あぁ……ふわぁぁ……」
グリフィンでの任務からもう一週間近く経っただろうか、相も変わらずラボの片隅にある自室で暇を潰す毎日。思わず欠伸掻いて天井を見上げる。
あの一件から俺の左腕は新しく作り直す事になり、昨日まではあの義手を着けていたのだが何分、肩にかかる負担がとっても大きかったので今は取り外し中だ。
片腕が無い生活には慣れているから別段と不便ではない、今日も今日でネットサーフィンだ。
「スクラッチ―、暇じゃ」
心の底で、あれ、コレ、俺はヒモかな? なんて真理に気が付き始めた瞬間にドアを開けてナガン婆ちゃんが入ってくる。
閉まるドアの向こう側がそんなに慌ただしくなかったので婆ちゃんの仕事も無いんだろう。
「ん、映画でも見る?」
「映画が好きじゃのう、何があるんじゃ?」
ソファの背もたれに預けていた身体を起こして、パソコンのキーを叩く。
何時もの仕草で帽子を脱いだ婆ちゃんは俺の隣に座ると画面を覗いている。
「えっと、俺がお気に入りに入れてるのは……」
「何で半分以上の語尾に『オブ・ザ・デッド』が着いてるんじゃ……。お主ホントにゾンビが好きよのう」
「ヒーローモノも好きだよ? あとシュワちゃん」
「戦術人形に戦争モノとか面白味がないじゃろ、もっとほのぼのとしたのは無いのか?」
「……あっ、それならコレは?」
「なんじゃこれ……、アンドロイドにロボット見せるのか? というよりコレの何処がほのぼのしてるんじゃ」
「いいからいいから」
――――2時間後
「あの生意気じゃった小僧は何処じゃ……」
「最後の最後で嫌な奴が大人になる、映画あるあるだよね」
雰囲気を出す為に部屋を暗くしてたった今エンドロールが見終わる、序盤での主人公とカイジュウのシーンで思ったよりも迫力を感じたのか俺の上に乗っかって映画を見ていた婆ちゃんがそんな事を口にした。
まぁ、主要部分が殆どCGの映画だし、金が無くて他のロボットたちが噛ませになって即退場するのは仕方ないね。
「最初から三機で頑張っておればバケツみたいな奴、勝てたじゃろ」
「チェルノは俺ももっと活躍見たかった、設定と見た目、あとあの夫婦ホント好き」
「ワシは冒頭に一瞬映った白いのが好きじゃの」
「タシットか、婆ちゃんの服と同じ白いロボットだもんな」
眼下の綺麗な髪をワシワシと撫で繰り回して他に面白そうな映画が無いか思い出す。変なモノでこの世界での映画は転生前の世界と遜色なく。世界の大半がヤバい事になっていてもネット配信で過去の名作まで揃い踏みなのだ。
不朽の名作から、ヤバい作品まで、具体的に言えばパッケージ詐欺してきたゾンビの後に二千何年とか書いてあった作品。
流石にゾンビ好きでもアレは許容できない、パッケージに金と労力ガン振りしてるだろアレ……。
さて、そろそろ婆ちゃんがやめろと文句を言い出したので他の作品でも見るとしよう。ほのぼのなら季節も近いし、キーワード、クリスマス、大人対子供。これで決まりだろ。
「片手で良く打てるもんじゃ、慣れておるのか?」
「まぁね。片腕無くして半年はこの状態で過ごしてたからそれなりには」
「それでペルシカが見かねて義手を創ったと、なるほどのう」
「あぁ、聞いたんだ」
「ラボの中が寒いとは言え、ずっと長袖に片手手袋は目立つ。ワシも興味があったから聞いてみたのじゃ」
別に隠している事ではないから問題は無いのだが、ペルシカが話をしたという事に少しだけ驚いた。実際問題、俺より片腕の事で責任を感じているからな。
聞かれて話せるぐらいには整理がついたんだろうな。それならそれでいい。視線を上げて時計を一瞥する、もう夕方か……。何か摘まめる物、あったかな。
大人撃退コメディのローディングが始まったので首だけ動かして部屋を見渡すも、見つかったのは飴玉袋、この際口に入れば何でもいいか、婆ちゃんこの飴好きだし。
手が届く範囲にあった袋を引き寄せて適当に二つ中から取り出して婆ちゃんに先に差し出した、袋の色は紫と黄色、グレープとレモン味だ。
「ん? 飴玉か?」
「そう、好きな方あげる」
「おぉ、ありがとう。…………スクラッチはどうやって食べるんじゃ?」
「…………あー……」
義手生活で忘れていた、ご丁寧に包装された飴玉の袋は片手で開けるのは至難の業だ。考えなしだった故に言葉が出ない、仕方ない後で食べるとしよう。
「まったく、ほれ、あーん」
「……婆ちゃん?」
小さくため息を吐いて婆ちゃんは袋から飴玉を取り出すと一言、あーん、と俺に向けて飴玉を口元に寄せてきた。予想外の行動に固まりながらどうしたもんかと困る。
いや、転生しててもこんな事小さい頃に家族にやられる位で女の子にやられる機会なかったし、そもそもこの絵面色々とヤバくないですかね。
「はよう、溶けるじゃろ」
「あ、あー……」
さっさとしろと急かされるも、困惑気味な自分に鞭打って口を開ける。まぁ、別に誰も見ていないし大丈夫だろ――――
「――――スクラッチ、新しい腕…………何やってんの?」
何か最近、ついてない気がする。
「はい、あーん」
「…………ペルシカ?」
「あーん」
「いや、これくらいなら」
「あーん」
「……ペル「あーん」」
もう何年の付き合いになるか、一定期間離れていたとは言えもう数十年来の仲だったペルシカがこんな風に構ってくるとは思いもしなかった。
膝に乗せてナガン婆ちゃんに『あーん』されている現場を見られて30分、地雷を踏み抜いたと言わんばかりの表情で、俺の隣で我関せずと映画を見ながら笑っている婆ちゃんを余所にどっから持ってきたのかポップコーンを口に寄せてくるペルシカ。
何時もよりも圧がかなり強い、ジトッとしていながらも探究心に心躍らせて光っていた瞳も暗い、アレ、マジでヤバいんじゃないか。
ゴリ押しされたポップコーンを口を開けて受け入れる、二粒ほど放り込まれ先ほど既に婆ちゃんにもらった飴玉と共に咀嚼、何ともミスマッチだった。
構う側だった俺からすると何ともむず痒い、いつも以上に猫の様な感じで寄り添ってくるペルシカ。観念した俺に満足したのかニンマリと笑みを浮かべて映画を見始めた彼女の様子にホッとした手前、自惚れだが珍しくペルシカが嫉妬してくれたのかと勘ぐる。
まぁそうだったら良いな位の希望的観測だが。
「ねぇ、次の腕はどんなのが良い?」
徐に映画を見ながらそんな事を口にした彼女に俺はどう答えるか迷う。正直な所ペルシカに要望を伝えれば作れない物はそうそうないだろう。だがあまり高望みして負担を掛けるわけにもいかないし。
うーん、あぁでも片手間で作れるのなら作ってほしい義手はあったりするな。
「……ペルシカは漫画とかゲームは興味なかったよな」
「手に取ってみろって言うなら良いけど…………?」
まぁ予想通り興味ないのだろう、言葉尻が徐々に小さくなったし先ほどまでご機嫌に動いていた耳が垂れ始めた。
ペルシカに人形以外の事をどうこう言うのは良くない、何より拗ねられたら嫌なので案だけ提示して出来るか聞いてみるか。
「いや、大丈夫。例えば肘から先を巨大なチェーンソーにするとか出来る?」
「……??? 出来ない事は無いけど、
「いや、聞いてみただけ。何処まで創れるのかなって」
「一回使ったらその瞬間にぶっ壊れるけど相手は死ぬ、って頭悪い武器とか創れる」
「それ何とは言わないけど、創れるんだ……」
そういや『敗北者じゃけぇ』とかネタ振ってくる時点でコイツ何だかんだそういう類を知っているのか……。
興味ないって口にするだけで意外と……。
「…………面白そうなアイデア、ありそうね。聞かせて」
ニンマリと薄い笑みを浮かべたペルシカ、どうせお前の頭の中にあるんだろう? なんて言えるはずもなくて一度見た事があるロボットアームや前世で見ていたアニメの中の義手。
そして自分の中で溜め好んでいた中二病の塊のようなアイデアを並べて行った。
「ダイアモンド加工の爪が付いた義手」
「熊かしら? でもそれ日常生活大変ね」
「ロケットパンチとか」
「うーん、飛ばす事は出来てもオートで戻って来るのは難しい……。作っても良いけど一回切りの消耗品になるわよ?」
「蛇腹みたいに伸びる腕」
「出来ない事は無いけれどその分重量がね……、簡単に壊れてもいいなら軽く出来るわ」
「鉤爪とか面白そうじゃの~」
「フ○ク船長はイヤだな婆ちゃん」
「砂のワニかもね……、でも君は海賊ってタイプじゃないから合わないね」
「それじゃ電気を流せるスタンガン的な」
「自分も感電するんじゃないかの?」
「…………対人にも使えるし、鉄血にも効果は期待できる……、良いわね。でもそれなりに手間がかかるから今はスペアで我慢してね」
「……別に無理に創らなくても良いぞ」
「良いの、息抜きぐらい好きにさせて」
「……、ありがとうぺルシカリア」
「どういたしまして、スクラッチ」
「「……」」
「熱ッついのぉ!! この部屋は!!」
今更だが俺の評価は周囲の過大評価と言っても過言ではない。オッサンの下に居た時の実力なんか隊の中で下から数えた方が早い位だ。
そんな俺がペルシカの護衛をやっているのも縁なだけで片腕を無くしてすぐに退役し、数か月人知れずのんびり過ごしていた所を何処から聞きつけたか彼女に連絡を貰いこの立場になった。
前の生活も気に入ってたが今も嫌いでない、自堕落な生活を続けている事に変わりないけれど人と関われるという点は独り身には凄くしみるモノだ。
コミュニケーションを取るのと取らないとでは大きな差がある。この世界に生を受けてもう数十年となるが肉親も居なければ友人は大体が戦死か行方不明。関わりを持てるだけで幸せだ。
ならグリフィンに所属すれば良いのでは、なんて考えも浮かぶが目に見えてブラック企業なのは間違いない。あの優秀なヘリアンでさえ碌に休日を取れずに生き遅れになっているのだから。
俺が就職すれば間違いなくあそこから抜け出せずに人生終わる、断言してやる。
あれ、これ、かなり自虐になっているのでは?
いやまぁ、周囲の俺に対する評価が高すぎる云々の話だったし間違ってはいないか。うん……そうだな……
しかしてなぜ急にそんな話になったかと言えば、俺の目の前でやんややんやと何かよく分からない理由で騒ぐ四人組の部隊のせいだった
「おじさ~ん、久しぶり~!!」
「久しぶりだなスクラッチ、元気にしていたか?」
「……その様子だと先ほどまで寝てましたね、貴方」
「お、お久しぶりです……」
AR小隊きっての色んな意味でヤバい娘、M4 SOPⅡ
とりあえず酒と妹を一緒にしておけば大丈夫な姉御肌 M16
何か幸薄そうな雰囲気が漏れてる委員長タイプ AR15
M16の妹、部隊のリーダーで、スイッチが切り替わると凄い娘 M4A1
朝起きて、欠伸を掻きながらコーヒー飲みたさに部屋を出た先で偶然にもラボに訪れていた彼女達に鉢合わせたのが現在である。
肝心のペルシカは何時ものデスクの上でマイペースに何やら作業を進めており、彼女たちは待ちぼうけの様だった。
16Lab特別仕様の彼女達は他の戦術人形とは違い、指揮官の指示を受けずに単独で任務を遂行可能な高性能モデルといった存在だが。
他の人形達はメンタルモデル、人間で言う人格や記憶の類をデータに置き換えバックアップが保存されている為、身体が破壊されてもバックアップがある限り別の身体で復活できる。
しかし彼女達はとある理由からバックアップを取る事が出来ない、それ故に戦力と特異性から貴重な存在として扱われており定期的にペルシカが呼び戻してメンテナンス等を施している。
因みにペルシカのお気に入りという事もあってまぁまぁの頻度で顔を出す。そうなると自然と俺との接点も増えるわけで、自然と軽口を叩けるぐらいには仲が良かった。
さっさとこの場を離れれば良かったものの、久方ぶりの再開に心躍らせたのが間違いだった。
何の事も無しに世間話をして早々に俺の周りをグルグル回っていたSOPちゃんが左腕に触って一言、口にする。
「あれ? おじさんの腕どうしたの? 何時ものと違う~」
「よく分かったな。ついこの間壊れてさ、今ペルシカに新しいの創ってもらってるんだよ」
「ほう、古くなったでも動かなくなったでも無く、壊れた、な。珍しいじゃないか。何があったんだよ」
何気ない一言から何を嗅ぎ付けたのか意地の悪い笑みを浮かべるM16に俺は苦笑いが浮かぶ、いやまぁ抜け目ない性格だし勘が良いから仕方ないがどう言い訳するか。
「あー、少し前にそっちの仕事を個別で請け負ってたんだよ。その時の任務で壊された、ブランクってデカいよな」
「仕事……? 貴方が一人で、ですか?」
「そうだよ、何分ともう一緒にする相手は行方不明か隠居してるからね」
「…………もしかして」
AR15が訝し気な視線を向けて来るので嘘ついてないよと、苦笑いを返してやる。内心困ったな、何て思いながらその隣で何やら呟いたM4の方に顔を向ける。
するとあからさまに目つきが変わった。何かに勘付いたように弱気な瞳がこちらに向いて、心当たりがあるのか俺の事を観察するように眺めている。
オイヤメロ、戦術人形だろうが関係ない。可愛い女の子に見つめられるのは俺に効く、いろんな方面で。
「何だM4、何か勘付いたか?」
「はい、……スクラッチさん」
「ど、どうかした?」
「この前、私達の部隊が交戦した鉄血の中に一人、異質なハイエンド機が居ま――「ごめん腹イタイ」スクラッチさん!?」
「オイ待てスク……SOP、ゴー」
「おじさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」
…………
………………
……………………
「ありゃアイツがちょっかい出した奴だったんだな」
「なるほどね、だから『クソ野郎、傷アリ』云々喚いてたのね。納得したわ」
「アレの相手大変だったんだからぁ……」
「そう言うなM4、結果的には比較的弱った奴を私達が貰ったんだ。感謝せずとも流してやろう」
「実際、元軍人が単身でハイエンド機を相手に大破ないし中破位の傷を残したのだから。人間ならボーナス貰ってもいいくらいよ」
「……うん、質問攻めで我慢する」
「それでも攻めるのな」
数分の後に、スクラッチは両腕をSOPの肩に担がれる形で引き摺られて来たという。
気が付いたら年が明けて、年号が変わって、GWが終わっていたんだ……!!
はい、お久しぶりですシアンコインです。
まだ性懲りもなくボチボチ書いているので気が付いたらよろしくお願いします…